説明

船首フィン付き船舶

【課題】 船体形状を変更することなく、また肥大船以外の船型においても波浪中抵抗増加の低減効果を発揮できる船首フィン付き船舶を提供する。
【解決手段】 船首バルブ2にフィン1を左右対称に設置したフィン付き船舶であって、前記フィン1は三角形あるいは矩形など適宜の断面形状を有するとともに、前記フィンの長さ方向の取付位置を船首端と1/4Bバトックラインとの間とし、高さ方向の取付位置をフィン後端部の高さがバラスト喫水線の上方で、かつ、満載喫水線の5%上方とし、フィン前端部がフィン後端部よりも上方となるように前記長さ方向の取付位置における流線に沿って傾斜して取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船首バルブにフィンを設置した大型船舶に関し、特に大型船舶が実海域をバラスト状態で航行する場合の波浪中抵抗を低減することができる船首フィン付き船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船首バルブにフィンを設置した船首フィン付き船舶については数多くの提案がなされている。
例えば、特許文献1では、船首および船尾の海水浸漬部に、翼型断面形状と三角形平面形状を有するフィンを、水平面に対し斜めに設置し、船首および船尾での船体近傍の斜め流れ中でフィンに生じる揚力の船体前進方向成分を船体に作用する推力として活用することにより、フィン無しの場合に対し、船体抵抗の低減を図っている。
【0003】
特許文献2では、船首バルブ先端より前部垂線より船長のほぼ10%後方までの間で、船体下面からの高さが満載喫水線のほぼ30%以下に設定され、フィン外端位置が船首バルブ最大幅を超えない形状を有し、航走中の船体表面の流れに沿って設置されたフィンの幅を制限することにより、フィンに作用する外力を低減するとともに、フィンによる船体抵抗増加を抑え、推進性能を低下させることなく船体の縦揺れの減少を図っている。
【0004】
特許文献3では、船首バルブの周囲に水平に設置され、船首バルブ前部で前方からの上向き流れを阻害し、水流を下方へ誘導するとともに、船首バルブ上面で生じた水泡が下方に流出することを阻害し、水泡が後方で船底部に流入し音響機器の水泡による性能低下を防止することとしている。
【0005】
特許文献4では、船首喫水線近傍に、流線型断面形状と三角形平面形状を有するフィンを、船首を取り囲み前方および左右両側に張り出すように取り付け、船体前進中にフィンが発生する翼端渦が、船首まわりで生じる砕波渦の回転方向と逆方向の回転を有することにより、砕波渦と相互に干渉して砕波渦を消去または低減することにより、船体に生じる砕波抵抗を低減している。
【0006】
特許文献5では、フィンを船首でかつ満載喫水線より上方に設け、船舶の水平線に対し迎角と船体の後方で船体から離れる方向へ延出される平面形状を有する弾性材料で構成し、船体の縦揺れを打ち消す方向の力を発生させるとともに、平水中では水面上にあるため船体抵抗を増加させないこととしている。
【0007】
特許文献6では、船首部の満載喫水線よりも上方の外板部に所要の迎角をもって取り付けられたフィンを備え、浅水域航行時の船体沈下に伴いフィンが没水して生じる揚力により、船体沈下を低減するとともに、波浪中でのフィン没水時にフィンに作用する揚力により船体のピッチングを低減している。
【0008】
特許文献7では、船首部の水面近傍に、船体外板より突設された翼型断面をもち、前方へやや後傾斜して設置されたフィンを備え、フィンにより船首波の発生を抑え造波抵抗を低減するとともに、波浪中でフィンに作用する揚力によりピッチングを低減する。
【0009】
特許文献8では、翼ピッチを翼幅方向で水流方向に沿うように捩り、深さ方向には船首バルブ最大幅位置近傍に設置したフィンを有し、バルブによる船首造波低減機能を増すとともに、波浪中でフィンに生じる揚力により動揺を軽減する。
【0010】
また、波浪中抵抗増加を低減させるために、フィンを取り付けるのではなく船首部の形状を変える考え方もある(例えば、特許文献9参照)。
【0011】
【特許文献1】特開平8−175478号公報
【特許文献2】実開平1−175995号公報
【特許文献3】実開昭62−135695号公報
【特許文献4】特開昭60−42187号公報
【特許文献5】実開昭64−25995号公報
【特許文献6】実開平2−87700号公報
【特許文献7】実開昭62−153197号公報
【特許文献8】実開平4−91597号公報
【特許文献9】特開2002−347688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1、4に記載の船体抵抗低減フィンを設けた船舶にあっては、平水中の抵抗低減のみに有効であり、波浪中抵抗の低減には効果を発揮することができない。
また、特許文献2、3、5、6、7、8に記載のフィン付き船舶にあっては、波浪中船体のピッチング低減のみに有効であり、波浪中抵抗の低減には効果を発揮することができない。
【0013】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、船体形状を変更することなく、また肥大船以外の船型においても波浪中抵抗増加の低減効果を発揮できる船首フィン付き船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る船首フィン付き船舶は、船首バルブにフィンを左右対称に設置したフィン付き船舶であって、前記フィンは三角形あるいは矩形など適宜の断面形状を有するとともに、前記フィンの長さ方向の取付位置を船首端と1/4Bバトックラインとの間とし、高さ方向の取付位置をフィン後端部の高さがバラスト喫水線の上方で、かつ、満載喫水の5%上方とし、フィン前端部がフィン後端部よりも上方となるように前記長さ方向の取付位置における流線に沿って傾斜して取り付けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の船首フィン付き船舶は、船首バルブに取り付けられるフィンの取付位置を上記のように設定することにより、後述の模型実験結果により明らかなようにバラスト航行状態において波浪中抵抗増加を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態を示す船首フィン付き船舶の概略側面図、図2は図1の前部垂線FPにおけるA−A矢視半断面図である。
図1において、フィン1は、例えば三角形断面形状に形成されており、船体10の船首バルブ2に左右対称に取り付けられている。
このフィン1の長さ方向の取付位置は船首バルブ2の船首端11と1/4Bバトックライン12との間とする。
また、フィン1の高さ方向の取付位置は、フィン後端部(船体表面上の取付中心線13に対しフィン1の後端における断面が垂直に交わる交点)14の船底からの高さHaがバラスト喫水線(航行可能な最小喫水線)15より上方で、かつ、満載喫水(最大喫水)の5%上方とする。なお、図1において、16は満載喫水線をあらわしている。
さらに、フィン前端部(船体表面上の取付中心線13に対しフィン1の前端における断面が垂直に交わる交点)17の船底からの高さHfがフィン後端部14より上方になるように上記長さ方向の取付位置における流線に沿って傾斜して取り付けられている。
また、フィン1の下面18は平面状とし、下面18が略水平になるように設置されている。但し、必ずしも下面18が水平である必要はない。そして、フィン1の前後端は流れがスムーズになるよう適宜傾斜した形状となっている。
【0018】
船舶は波浪中を航行する際、船首において受けた波が船首および船側を伝って上がり、反射する、あるいは破砕することにより抵抗増加が生ずる。上記のように構成されたフィン1を船首バルブ2に取り付けることにより、バラスト航行状態において波の上昇を抑え、反射方向を側方あるいは後方に変化させることにより抵抗増加を低減することができる。
【0019】
本発明によるフィン1の効果を確認するためにタンカー模型による模型実験を行った。タンカー模型の要目は、全長L=277.3m、全幅B=50m、最大喫水線d=14.4mである。また、タンカー模型実験では本発明によるフィン1を取り付けた状態と、取り外したもの状態の2状態について波浪中抵抗増加を比較した。
これら2状態について、向かい波中を船速16ktsで航行する際に受ける波浪中抵抗増加量を、1/56.6縮尺の相似模型船を用い、船舶流体力学分野で波浪中性能の推定に通常用いられる船型試験水槽において模型実験を行い計測したものが図3の比較図である。
図3の横軸には波長/船長比を、縦軸には波浪中抵抗増加量RAWを、ρg(ζA2(B2/LPP)で除して無次元化した値を示す。ここで、ρ:海水密度、g:重力加速度、ζA:入射波の片振幅、B:船体全幅、LPP:垂線間長である。
【0020】
図3の模型実験結果の比較をみれば、横軸の右側の波長の長いところではフィンの有無による差は小さいが、波長の短くなっている横軸の左側では、フィンの有無による差が生じている。フィンによる抵抗増加量の低減率は、波長が短くなるにつれて増大し、波長/船長比が0.4の場合にフィン無しの場合の抵抗増加量の2割程度と非常に大きなものとなっている。
【0021】
本実施の形態ではフィン1の形状を三角形断面形状を有するものについて説明したが、その他に矩形断面の平板形状のフィンや翼型断面形状のフィンでも同様の抵抗増加の低減効果を発揮する。また、フィンの取付中心線13が側面から見て曲線になっているものでも良い。
【0022】
また、本発明の船首フィン付き船舶は、肥大船であるタンカーのみならず、コンテナ船やガス運搬船、客船など喫水線下の肥大度の小さい船型に対しても適用することができるものであり、波浪中で波反射の生じる喫水線上の位置にフィン1を設置することにより波浪中抵抗増加を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態を示す船首フィン付き船舶の概略側面図。
【図2】図1の前部垂線FPにおけるA−A矢視半断面図。
【図3】模型実験結果を示す図。
【符号の説明】
【0024】
1 フィン
2 船首バルブ
10 船体
11 船首端
12 1/4Bバトックライン
13 フィンの取付中心線
14 フィン後端部
15 バラスト喫水線
16 満載喫水線
17 フィン前端部
18 フィンの下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船首バルブにフィンを左右対称に設置したフィン付き船舶であって、前記フィンは三角形あるいは矩形など適宜の断面形状を有するとともに、前記フィンの長さ方向の取付位置を船首端と1/4Bバトックラインとの間とし、高さ方向の取付位置をフィン後端部の高さがバラスト喫水線の上方で、かつ、満載喫水の5%上方とし、フィン前端部がフィン後端部よりも上方となるように前記長さ方向の取付位置における流線に沿って傾斜して取り付けられていることを特徴とする船首フィン付き船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−321306(P2006−321306A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144925(P2005−144925)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)