色処理装置およびその方法
【課題】 試料の二分光放射輝度率を容易に取得する。
【解決手段】 試料情報入力部204は、測定装置109または記憶部210から、メディア上に形成された色票の分光反射率を取得する。メディア特性入力部202は、記憶部210から、メディアの二分光放射輝度率を入力する。演算部205は、試料情報入力部204が取得した色票の分光反射率と、メディア情報入力部202が入力したメディアの二分光放射輝度率から色票の二分光放射輝度率を演算する。
【解決手段】 試料情報入力部204は、測定装置109または記憶部210から、メディア上に形成された色票の分光反射率を取得する。メディア特性入力部202は、記憶部210から、メディアの二分光放射輝度率を入力する。演算部205は、試料情報入力部204が取得した色票の分光反射率と、メディア情報入力部202が入力したメディアの二分光放射輝度率から色票の二分光放射輝度率を演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メディアが含む蛍光物質を考慮した色処理に関する。
【背景技術】
【0002】
画像入力機器、画像表示機器、画像出力機器における再現色を一致させるカラーマッチング処理は、マッチング対象の機器の色再現特性を考慮して、各機器間の再現色の対応付けを行う。
【0003】
図1、図2により画像出力機器の色再現特性を取得する手順例を説明する。画像出力機器により所定のメディア11に色票12を印刷したプリント出力22を形成する。そして、測色器の光源(測色光源)13から色票12に光を照射し、色票12が反射した光を分光器14を通して受光器15に受光することで、反射光の分光放射輝度を測定する。反射光の分光放射輝度を測色光源13の分光放射輝度で除算すれば色票12の分光反射率R(λ)が算出される(S23)。次に、出力画像を観察する環境の光源(観察光源)24の分光放射輝度S(λ)を測定する(S25)。これら、分光反射率R(λ)、観察光源24の分光放射輝度S(λ)および等色関数x(λ)y(λ)z(λ)から下式により三刺激値XYZ27を算出する(S26)。
X = k∫R(λ)S(λ)x(λ)dλ
Y = k∫R(λ)S(λ)y(λ)dλ …(1)
Z = k∫R(λ)S(λ)z(λ)dλ
ここで、k = 100/∫S(λ)y(λ)dλ、
積分範囲は380〜780nm。
【0004】
つまり、画像出力機器によりメディア11に多数の色の色票12を印刷し、各色票の測色値(例えば三刺激値XYZ27)を取得すれば、色票12を印刷する際に画像出力機器に入力した信号値(例えばRGB値)21と測色値の関係が得られる。この対応関係は、画像出力機器の色再現特性を表す。
【0005】
しかし、画像形成に使用するメディア(例えば記録紙)などの材量に蛍光を発する材料(例えば蛍光増白剤のような蛍光物質)が使用されている場合、上記の方法で測定した分光反射率R(λ)は、観察光源の下における分光反射率R(λ)と異なる場合がある。なお、蛍光物質は、照射光に含まれる励起波長域とは異なる波長域(蛍光波長域)の光を発する。一般に、蛍光波長は励起波長より長波長になる。
【0006】
図3の模式図により蛍光物質を含む色票に単色光を照射した場合の色票からの放射光の測定値を示す。図3(a)は、当該色票に350nmの単色光を照射した場合の放射光の強度を示す。放射光1101は、照射した単色光に対する反射光であり、放射光1102は照射した単色光により励起された蛍光である。一方、図11(b)は、当該色票に440nmの単色光を照射した場合の放射光の強度を示す。放射光1103は、照射した単色光に対する反射光である。
【0007】
図3(a)に示すように、色票が蛍光物質を含む場合、励起波長の光が照射されると、照射した光の波長の反射光1101とは別に、照射した光の波長とは異なる波長の蛍光1102が観測される。一方、図3(b)に示すように、励起波長ではない光を照射すると、照射した光の波長の反射光1103が観測される。そのため、例えば350nm成分と440nm成分を含む光源下において、当該色票の放射光として観測される440nmの光は、蛍光1102と反射光1103の和である。勿論、一般的な光源は多くの波長成分を有するため、440nmの反射光と各波長に対する440nmの蛍光の総和が、その光源下において色票から観測される440nmの放射光になる。
【0008】
図4により励起波長が紫外域にある蛍光物質を含む試料の分光反射率R(λ)を説明する。図1に示すような測定系を用いて、蛍光物質を含む試料の放射光を測定すると、蛍光物質が照射光に含まれる紫外域(図4(a)の41)の光に反応し、蛍光波長域(図4(b)の42)の光が発光される。つまり、測色器は、測色光源13の紫外域(励起波長域)41の光エネルギに依存した蛍光が加わった放射光を試料から受光する。その結果、分光反射率R(λ)も測色光源13の紫外域41の光エネルギに依存することになる(図4(c))。測色光源13と観察光源24が同じ場合は、測定において、観察光源24の励起波長域の光エネルギに対応する蛍光が得られるため、正しい測色値が算出される。他方、測色光源13と観察光源24が異なれば、測定において、観察光源24の励起波長域の光エネルギに対応しない蛍光が得られるため、正しい三刺激値を算出することができない。
【0009】
蛍光物質を含むメディアに印刷された試料の三刺激値を取得する方法として、二分光放射輝度率を用いる方法がある。二分光放射輝度率は、波長μの入射光に対する試料の分光放射輝度率を表す二変数関数F(μ,λ)であり、照射光の波長域と異なる波長域で放射する蛍光量を表すことができる。二分光放射輝度率を用いれば、下式を用いて、蛍光を考慮したCIEXYZ値を算出することができる。
X = k∫λ{∫μF(μ,λ)S(μ)dμ・x(λ)}dλ
Y = k∫λ{∫μF(μ,λ)S(μ)dμ・y(λ)}dλ …(2)
Z = k∫λ{∫μF(μ,λ)S(μ)dμ・z(λ)}dλ
ここで、k = 100/∫S(λ)y(λ)dλ、
∫λの積分範囲は380〜780nm、
∫μの積分範囲は300〜780nm。
【0010】
しかし、二分光放射輝度率の測定は、照明側と受光側の両方に分光器を備えた二分光測定器を必要とする。その上、一つの試料について、例えば、300nmから780nmの範囲において10nmごとに、入射光に対する二分光放射輝度率を測定する必要があり、測定に膨大な時間を必要とする。言い換えれば、多数のメディアそれぞれに多数の色票が印刷された多数のカラーチャートを用意して、色票ごとに、二分光放射輝度率を測定することは実用的とは言えない。
【0011】
蛍光物質を含むメディアに印刷された試料の場合、色材がメディアの表面を覆う部分では、色材の分光透過率に応じた励起光だけがメディアに到達する。従って、メディアから放射される蛍光は、励起光量とメディアの蛍光特性だけではなく、色材の分光透過率や色材がメディアの表面を覆う割合(以下、面積率)にも依存する。特許文献1は、メディアの二分光放射輝度率、色材の分光透過率、および、色材の面積率に基づき、試料の二分光放射輝度率を推定する発明を記載する。
【0012】
特許文献1の発明によれば、面積率を推定する基準として、色材単体および複数の色材の組み合わせを面積率100%で印刷した基準印刷面を用意して、基準印刷面の分光放射輝度率を測定する。次に、試料の分光放射輝度率を測定して、基準印刷面の分光放射輝度率に基づき、試料における色材の面積率を推定する。そして、推定した面積率、予め測定したメディアの二分光放射輝度率、各色材の分光透過率から、試料の二分光放射輝度率を推定する。
【0013】
特許文献1の発明は、試料の二分光放射輝度率を推定するために、予め、基準印刷面の分光放射輝度率、メディアの二分光放射輝度率、各色材の分光透過率を用意する。さらに、面積率を推定するために、測定光源の下で試料の全分光放射輝度率を測定する必要がある。従って、特許文献1の発明によれば、多数の色票の二分光放射輝度率を測定する場合に比べて測定を簡素化することができる。しかし、推定を行うために多様な情報を用意する必要があり、やはり実用的とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006-292510公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、試料の二分光放射輝度率を容易に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかる色処理は、メディア上に形成された色票の分光反射率を取得し、前記メディアの二分光放射輝度率を入力し、前記色票の分光反射率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試料の二分光放射輝度率を容易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】画像出力機器の色再現特性を取得する手順例を説明する図。
【図2】画像出力機器の色再現特性を取得する手順例を説明する図。
【図3】蛍光物質を含む色票に単色光を照射した場合の色票からの放射光の測定値を示す模式図。
【図4】励起波長が紫外域にある蛍光物質を含む試料の分光反射率を説明する図。
【図5】実施例の色処理装置の構成例を説明するブロック図。
【図6】色処理プログラムによって実現される色処理部の機能構成例を説明するブロック図。
【図7】色処理部の処理例を説明するフローチャート。
【図8】色処理部のUIの一例を説明する図。
【図9】分光放射輝度データのデータ構造例を説明する図。
【図10】二分光放射輝度率データのデータ構造例を説明する図。
【図11】二分光放射輝度率の測定の概要を説明する図。
【図12】分光反射率データのデータ構造例を説明する図。
【図13】試料の分光反射率の測定の概要を説明する図。
【図14】メディアの分光反射率と、試料の分光反射率を説明する概念図。
【図15】演算部の処理を説明するフローチャート。
【図16】試料の二分光放射輝度率の演算の概念を説明する図。
【図17】実施例2の測定装置の構成例を説明するブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる実施例の色処理を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
上述したように、メディアが蛍光物質を含む場合、任意の観察環境の下における試料の測色値を正確に得るには、試料の二分光放射輝度率を用いる必要がある。しかし、二分光放射輝度率の測定は、二分光測定器と膨大な測定時間を必要とする。そこで、本実施例においては、メディアの二分光放射輝度率から、当該メディアに色材が重畳された試料における、メディアと色材による二分光放射輝度率を演算する。なお、以下では、メディア上に色材が印刷されて形成された色票のことを試料と呼ぶ。
【0021】
[装置の構成]
図5のブロック図により実施例の色処理装置100の構成例を説明する。マイクロプロセッサ(CPU)101は、メインメモリ102のRAMなどをワークメモリとして、メインメモリ102のROMやハードディスクドライブ(HDD)103に格納されたオペレーティングシステム(OS)や各種プログラムを実行する。そして、システムバス105を介して後述する構成を制御する。汎用インタフェイス(I/F)104は、例えばUSBやIEEE1394などのシリアルバスインタフェイスである。汎用I/F104には、キーボードやマウスなどのユーザ指示を入力する操作部107、記憶装置108、分光反射率などを測定する測定装置109などが接続される。また、ビデオI/F110にはモニタ106が接続される。
【0022】
CPU101は、モニタ106に表示したユーザインタフェイスを介したユーザ指示に従い、実施例の色処理を実現する色処理プログラムおよびデータをHDD103や記憶装置108からRAMにロードし、色処理プログラムを実行する。そして、色処理の結果をHDD103や記憶装置108に格納する。
【0023】
●色処理部
図6のブロック図により色処理プログラムによって実現される色処理部201の機能構成例を説明する。なお、色処理部201は、CPU101が色処理プログラムによって実現する機能の主要部に相当する。
【0024】
メディア特性入力部202は、操作部107から入力されるユーザ指示に従い、HDD103や記憶装置108に対応する記憶部210からメディアの二分光放射輝度率を入力する。観察光源情報入力部203は、操作部107から入力されるユーザ指示に従い、記憶部210から観察光源の分光放射輝度を入力する。試料情報入力部204は、操作部107から入力されるユーザ指示に従い、測定装置109を制御して試料の分光反射率を入力するか、記憶部210から試料の分光反射率を入力する。演算部205は、メディアの二分光放射輝度率と試料の分光反射率から、試料の二分光放射輝度率を演算する。算出部206は、演算された試料の二分光放射輝度率と観察光源の分光放射輝度から、試料の測色値(例えばCIE三刺激値XYZ)を算出する。
【0025】
[色処理]
図7のフローチャートにより色処理部201の処理例を説明する。色処理部201は、処理に必要な情報をユーザから取得するためのユーザインタフェイス(UI)をモニタ106に表示する(S11)。
【0026】
図8により色処理部201のUIの一例を説明する。観察光源入力部1001は、ユーザが観察光源の名称や記号を選択または入力するための入力部である。メディア入力部1002は、ユーザがメディアの名称や記号を選択または入力するための入力部である。試料情報入力部1003は、ユーザが試料の名称や記号を選択または入力するための入力部である。なお、ユーザが参照ボタンを操作して「分光反射率測定」を選択した場合、分光反射率測定装置109によって試料の分光反射率が測定される。出力ファイル入力部1004は、ユーザが測色値などのデータを格納するデータファイル名を選択または入力するための入力部である。ユーザが各入力部において必要な情報を選択または入力した後、「OK」ボタン1005を押すと、以降の処理が実行される。
【0027】
次に、色処理部201は、観察光源情報入力部203により、ユーザが指定する観察光源の分光放射輝度を記憶部210から入力する(S12)。
【0028】
図9により分光放射輝度データのデータ構造例を説明する。分光放射輝度データには、図9に示すように、例えば、300nmから780nmまで、10nm間隔の波長に対する、ある光源の放射輝度が記述されている。一般に、可視波長域は380nmから780nmであるが、本実施例においては蛍光を考慮するため、蛍光の励起波長域を含む分光放射輝度を必要とする。励起波長域は、メディアに含まれる蛍光増白剤などの蛍光物質によって決まるが、以下では、励起波長域を例えば300nmから380nmとして説明する。
【0029】
次に、色処理部201は、メディア特性入力部202により、ユーザが指定するメディアの二分光放射輝度率を記憶部210から入力する(S13)。
【0030】
図10により二分光放射輝度率データのデータ構造例を説明する。二分光放射輝度率データは、図10に示すように、ある単一波長の光(以下、単色光)をあるメディアに入射した場合に、例えば、300nmから780nmまで、10nm間隔の波長における、メディアからの放射輝度率が記述された二次元のデータである。
【0031】
図11により二分光放射輝度率の測定の概要を説明する。分光器16によって、光源13の放射光から単色光を取り出し、単色光を試料12に照射し、試料12からの放射光を分光器14を通して受光器15に受光して、分光放射輝度を測定する。そして、測定した分光放射輝度を単色光の放射輝度で除算すれば、試料12に単色光を照射した場合の分光放射輝度率、言い換えれば、ある入射波長に対する分光放射輝度率が得られる。つまり、分光器16によって、例えば、300nmから780nmまで、10nm間隔の単色光を試料12に照射して、各単色光の波長に対する分光放射輝度率を取得すれば、試料12の、図10に示す二分光放射輝度率データが得られる。
【0032】
次に、色処理部201は、試料情報入力部204により、ユーザの指示に従い試料の分光反射率を入力する(S14)。
【0033】
図12により分光反射率データのデータ構造例を説明する。分光反射率データには、図12に示すように、可視域(例えば380nmから780nm)および励起波長域(例えば300nmから380nm)の10nm間隔の波長に対する、試料の反射率が記述されている。
【0034】
図13により試料の分光反射率の測定の概要を説明する。まず、光源13の放射光を紫外線カットするフィルタ17を通して試料12に照射し、試料12からの放射光を分光器14を通して受光器15に受光して、可視域の分光放射輝度を測定する。つまり、蛍光の発光を防ぐために励起波長域の光を除去する測定条件(UV除去)により測定を行う。そして、測定した分光放射輝度を、光源13から出力されフィルタ17を通過した光の分光放射輝度で除算すれば、試料12の可視域の分光反射率が得られる。なお、フィルタ17を通して試料に照射される光の380nm未満の強度は充分小さく、試料は、380nm未満を励起波長域とする蛍光を発しない。
【0035】
続いて、光源13の放射光をフィルタ17を通さずに試料12に照射し、試料12からの放射光を分光器14を通して受光器15に受光して、励起波長域の分光放射輝度を測定する。つまり、励起波長域の分光反射率を測定するためにUV除去は行わない。そして、測定した分光放射輝度を、光源13の分光放射輝度で除算すれば、試料12の励起波長域の分光反射率が得られる。
【0036】
上記は試料の分光反射率の一般的な測定手順であり、試料の分光反射率の測定手順は次のように要約される。(i)可視域の光を放射する光源、言い換えれば、可視域よりも波長が短い可視域外の光を放射しない、または、可視域外の放射光の強度が充分小さい光源を用いて、可視域において、試料12の分光反射率を測定する。(ii)可視域外の光を放射する光源(可視域の光については任意)を用いて、可視域外において、試料12の分光反射率を測定する。
【0037】
次に、色処理部201は、演算部205により、詳細は後述するが、メディアの二分光放射輝度率と試料の分光反射率から試料の二分光放射輝度率を演算する(S15)。そして、算出部206により、式(2)を用いて、試料の二分光放射輝度率と観察光源の分光放射輝度から測色値を算出する(S16)。さらに、算出した測色値をユーザが指示するファイル名のファイルに格納して記憶部210に保存する(S17)。なお、演算部205と算出部206は、例えば、試料(色票)の数分、演算と算出を繰り返して、ユーザが指定するメディアに印刷された色票をユーザが指定する観察光源の下で観察した場合の測色値を算出する。
【0038】
●演算部
図14の概念図によりメディア31の分光反射率と、試料の分光反射率を説明する。なお、試料とは、メディア31上に色材32が印刷されて形成された色票である。図14(a)はメディア31に励起波長域の光を含まない光が照射された場合の反射光を示し、波長λの光が照射されたメディア31は、その分光反射率Fw(λ)に応じた強度の波長λの光を放射する。
【0039】
一方、図14(b)はメディア31上に印刷された色材32に励起波長域の光を含まない光が照射された場合の反射光を示し、波長λの入射光は色材32によって減衰された後、メディア31に到達する。色材32によって減衰された波長λの光が照射されたメディア31は、その分光反射率Fw(λ)に応じた強度の波長λの光を放射する。そして、メディア31からの波長λの反射光は再び色材32によって減衰される。
【0040】
言い換えれば、試料の分光反射率R0(λ)は、メディア31の分光反射率Fw(λ)に、色材32による光の減衰率の二乗を乗算した結果と考えられる。つまり、試料の分光反射率R0(λ)と、メディア31の分光反射率Fw(λ)は次の関係を有する。
R0(λ) = T(λ)2Fw(λ)
T(λ) = √{R0(λ)/Fw(λ)} …(3)
ここで、T(λ)は色材の分光減衰率(分光透過率の逆数)。
【0041】
図15のフローチャートにより演算部205の処理(S15)を説明する。
【0042】
演算部205は、メディアの二分光放射輝度率Fw(μ,λ)を入力し(S51)、試料の分光反射率R0(λ)を入力する(S52)。図10に示す二分光放射輝度率データにおいて、入射波長と測定波長が等しいセルの放射輝度率Fw(λ,λ)は、波長λの入射光の強度に対する、メディアの波長λの反射光(蛍光を含まない)の強度の比率を表す。つまり、Fw(λ,λ)は、波長λにおけるメディアの反射率に相当する。そこで、演算部205は、メディアの二分光放射輝度率Fw(μ,λ)から入射波長と測定波長が等しい場合のメディアの放射輝度率Fw(λ,λ)を抽出して、分光減衰率T(λ)を下式を用いて算出する(S53)。
T(λ) = √{R0(λ)/Fw(λ,λ)} …(4)
【0043】
次に、演算部205は、試料の二分光放射輝度率Fe(μ,λ)を下式を用いて算出する(S54)。
Fe(μ,λ) = Fw(μ,λ)T(μ)T(λ) …(5)
ここで、μは入射光の波長、
λは反射光の波長、
T(μ)は波長μにおける減衰率、
T(λ)は波長λにおける減衰率。
【0044】
図16により試料の二分光放射輝度率Fe(μ,λ)の演算の概念を説明する。波長μの入射光は、色材32を通過する際に色材32の分光減衰率T(μ)に応じて減衰される。色材32を通過してメディア31に到達した波長μの光が励起波長にある場合、蛍光物質を含むメディア31は、二分光放射輝度率Fw(μ,λ)に応じた強度の波長λの蛍光を発する。波長λの蛍光は、色材32を通過する際に色材32の分光減衰率T(λ)に応じて減衰される。従って、試料に波長μの光を照射した場合に、試料から放射される波長λの光の強度は、入射光の強度に減衰率T(μ)T(λ)を乗算した値になる。言い換えれば、試料の二分光放射輝度率Fe(μ,λ)は、式(5)に示すように、メディア31の二分光放射輝度率Fw(μ,λ)に減衰率T(μ)T(λ)を乗算した値になる。
【0045】
このように、メディアの二分光放射輝度率の測定、および、当該メディア上に印刷した色票の分光反射率の測定を行うことで、色票の二分光放射輝度率を演算することができる。従って、色票の二分光放射輝度率を用いて、様々なメディア上に印刷された色票の、様々な観察光源の下における測色値を高精度に算出することができる。なお、様々なメディアとは、蛍光物質を含まないメディア、可視域外に励起波長をもち可視域の蛍光を発する蛍光物質を含むメディア、可視域内に励起波長をもち可視域の蛍光を発する蛍光物質を含むメディアなどである。また、様々な観察光源とは、メディアが含む蛍光物質の励起波長の光を発する光源、メディアが含む蛍光物質の励起波長の光を発しない光源などである。
【実施例2】
【0046】
以下、本発明にかかる実施例2の色処理を説明する。なお、実施例2において、実施例1と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0047】
図6に示す色処理部201の機能を測定装置に組み込むことが可能である。図17のブロック図により実施例2の測定装置401の構成例を説明する。
【0048】
測定部402は、光源の分光放射輝度および試料の分光反射率などを測定する。演算部403は、測定部402が測定した光源の分光放射輝度および試料の分光反射率を入力して、試料の二分光放射輝度率を算出し、観察光源の下における試料の測色値を演算する。記憶部404は、測定部402の測定値や、演算部403の演算に必要な各種データや演算結果などを記憶する。つまり、測定部は図6に示す測定装置109に、演算部403は図6に示す色処理部201、記憶部404は図6に示す記憶部210にそれぞれ相当する。
【0049】
なお、メディアの二分光放射輝度率は記憶部404に保存されている。また、記憶部404に格納されたデータは、図に示さないインタフェイス(例えばUSBインタフェイス)を介して、外部のコンピュータ機器や情報処理装置が取り出し可能である。
【0050】
[変形例]
実施例1、2においては、観察光源に対応した試料の測色値(XYZ値)を出力する例を説明したが、出力はこれに限定されない。例えば、試料の二分光放射輝度率を出力してもよいし、CIELab値などの均等色空間やCIECAM02などのカラーアピアランス空間の値(Jab値)などを出力してもよい。また、演算結果の測色値を用いてプロファイルを作成し、作成したプロファイルを出力することも可能である。プロファイルには、色管理システムが利用するためのデバイスの色再現特性が記述されている。例えば、RGBプリンタ用の一般的なプロファイルには、RGB値の範囲をそれぞれ9ステップに分割した、93=729色の色票のRGB値とXYZ値(またはLab値やJab値)の対応関係を示すLUTが格納されている。
【0051】
また、本発明を画像入力デバイス、画像表示デバイスまたは画像出力デバイスに組み込まれた測定器に適用することもできる。例えば、プリンタに組み込まれた測定器に本発明を適用すれば、当該プリンタの色再現特性のキャリブレーションや、当該プリンタのプロファイルの作成、更新に本発明を利用することができる。
【0052】
また、上記では、メディア特性入力部202は、記憶部210からメディアの二分光放射輝度率を入力する例を説明したが、測定装置109を制御して、メディアの二分光放射輝度率を測定し、測定結果の二分光放射輝度率を入力してもよい。同様に、観察光源情報入力部203は、記憶部210から観察光源の分光放射輝度を入力する例を説明したが、測定装置109を制御して、観察光源の分光放射輝度を測定し、測定結果の分光放射輝度を入力してもよい。
【0053】
[その他の実施例]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、メディアが含む蛍光物質を考慮した色処理に関する。
【背景技術】
【0002】
画像入力機器、画像表示機器、画像出力機器における再現色を一致させるカラーマッチング処理は、マッチング対象の機器の色再現特性を考慮して、各機器間の再現色の対応付けを行う。
【0003】
図1、図2により画像出力機器の色再現特性を取得する手順例を説明する。画像出力機器により所定のメディア11に色票12を印刷したプリント出力22を形成する。そして、測色器の光源(測色光源)13から色票12に光を照射し、色票12が反射した光を分光器14を通して受光器15に受光することで、反射光の分光放射輝度を測定する。反射光の分光放射輝度を測色光源13の分光放射輝度で除算すれば色票12の分光反射率R(λ)が算出される(S23)。次に、出力画像を観察する環境の光源(観察光源)24の分光放射輝度S(λ)を測定する(S25)。これら、分光反射率R(λ)、観察光源24の分光放射輝度S(λ)および等色関数x(λ)y(λ)z(λ)から下式により三刺激値XYZ27を算出する(S26)。
X = k∫R(λ)S(λ)x(λ)dλ
Y = k∫R(λ)S(λ)y(λ)dλ …(1)
Z = k∫R(λ)S(λ)z(λ)dλ
ここで、k = 100/∫S(λ)y(λ)dλ、
積分範囲は380〜780nm。
【0004】
つまり、画像出力機器によりメディア11に多数の色の色票12を印刷し、各色票の測色値(例えば三刺激値XYZ27)を取得すれば、色票12を印刷する際に画像出力機器に入力した信号値(例えばRGB値)21と測色値の関係が得られる。この対応関係は、画像出力機器の色再現特性を表す。
【0005】
しかし、画像形成に使用するメディア(例えば記録紙)などの材量に蛍光を発する材料(例えば蛍光増白剤のような蛍光物質)が使用されている場合、上記の方法で測定した分光反射率R(λ)は、観察光源の下における分光反射率R(λ)と異なる場合がある。なお、蛍光物質は、照射光に含まれる励起波長域とは異なる波長域(蛍光波長域)の光を発する。一般に、蛍光波長は励起波長より長波長になる。
【0006】
図3の模式図により蛍光物質を含む色票に単色光を照射した場合の色票からの放射光の測定値を示す。図3(a)は、当該色票に350nmの単色光を照射した場合の放射光の強度を示す。放射光1101は、照射した単色光に対する反射光であり、放射光1102は照射した単色光により励起された蛍光である。一方、図11(b)は、当該色票に440nmの単色光を照射した場合の放射光の強度を示す。放射光1103は、照射した単色光に対する反射光である。
【0007】
図3(a)に示すように、色票が蛍光物質を含む場合、励起波長の光が照射されると、照射した光の波長の反射光1101とは別に、照射した光の波長とは異なる波長の蛍光1102が観測される。一方、図3(b)に示すように、励起波長ではない光を照射すると、照射した光の波長の反射光1103が観測される。そのため、例えば350nm成分と440nm成分を含む光源下において、当該色票の放射光として観測される440nmの光は、蛍光1102と反射光1103の和である。勿論、一般的な光源は多くの波長成分を有するため、440nmの反射光と各波長に対する440nmの蛍光の総和が、その光源下において色票から観測される440nmの放射光になる。
【0008】
図4により励起波長が紫外域にある蛍光物質を含む試料の分光反射率R(λ)を説明する。図1に示すような測定系を用いて、蛍光物質を含む試料の放射光を測定すると、蛍光物質が照射光に含まれる紫外域(図4(a)の41)の光に反応し、蛍光波長域(図4(b)の42)の光が発光される。つまり、測色器は、測色光源13の紫外域(励起波長域)41の光エネルギに依存した蛍光が加わった放射光を試料から受光する。その結果、分光反射率R(λ)も測色光源13の紫外域41の光エネルギに依存することになる(図4(c))。測色光源13と観察光源24が同じ場合は、測定において、観察光源24の励起波長域の光エネルギに対応する蛍光が得られるため、正しい測色値が算出される。他方、測色光源13と観察光源24が異なれば、測定において、観察光源24の励起波長域の光エネルギに対応しない蛍光が得られるため、正しい三刺激値を算出することができない。
【0009】
蛍光物質を含むメディアに印刷された試料の三刺激値を取得する方法として、二分光放射輝度率を用いる方法がある。二分光放射輝度率は、波長μの入射光に対する試料の分光放射輝度率を表す二変数関数F(μ,λ)であり、照射光の波長域と異なる波長域で放射する蛍光量を表すことができる。二分光放射輝度率を用いれば、下式を用いて、蛍光を考慮したCIEXYZ値を算出することができる。
X = k∫λ{∫μF(μ,λ)S(μ)dμ・x(λ)}dλ
Y = k∫λ{∫μF(μ,λ)S(μ)dμ・y(λ)}dλ …(2)
Z = k∫λ{∫μF(μ,λ)S(μ)dμ・z(λ)}dλ
ここで、k = 100/∫S(λ)y(λ)dλ、
∫λの積分範囲は380〜780nm、
∫μの積分範囲は300〜780nm。
【0010】
しかし、二分光放射輝度率の測定は、照明側と受光側の両方に分光器を備えた二分光測定器を必要とする。その上、一つの試料について、例えば、300nmから780nmの範囲において10nmごとに、入射光に対する二分光放射輝度率を測定する必要があり、測定に膨大な時間を必要とする。言い換えれば、多数のメディアそれぞれに多数の色票が印刷された多数のカラーチャートを用意して、色票ごとに、二分光放射輝度率を測定することは実用的とは言えない。
【0011】
蛍光物質を含むメディアに印刷された試料の場合、色材がメディアの表面を覆う部分では、色材の分光透過率に応じた励起光だけがメディアに到達する。従って、メディアから放射される蛍光は、励起光量とメディアの蛍光特性だけではなく、色材の分光透過率や色材がメディアの表面を覆う割合(以下、面積率)にも依存する。特許文献1は、メディアの二分光放射輝度率、色材の分光透過率、および、色材の面積率に基づき、試料の二分光放射輝度率を推定する発明を記載する。
【0012】
特許文献1の発明によれば、面積率を推定する基準として、色材単体および複数の色材の組み合わせを面積率100%で印刷した基準印刷面を用意して、基準印刷面の分光放射輝度率を測定する。次に、試料の分光放射輝度率を測定して、基準印刷面の分光放射輝度率に基づき、試料における色材の面積率を推定する。そして、推定した面積率、予め測定したメディアの二分光放射輝度率、各色材の分光透過率から、試料の二分光放射輝度率を推定する。
【0013】
特許文献1の発明は、試料の二分光放射輝度率を推定するために、予め、基準印刷面の分光放射輝度率、メディアの二分光放射輝度率、各色材の分光透過率を用意する。さらに、面積率を推定するために、測定光源の下で試料の全分光放射輝度率を測定する必要がある。従って、特許文献1の発明によれば、多数の色票の二分光放射輝度率を測定する場合に比べて測定を簡素化することができる。しかし、推定を行うために多様な情報を用意する必要があり、やはり実用的とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006-292510公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、試料の二分光放射輝度率を容易に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかる色処理は、メディア上に形成された色票の分光反射率を取得し、前記メディアの二分光放射輝度率を入力し、前記色票の分光反射率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試料の二分光放射輝度率を容易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】画像出力機器の色再現特性を取得する手順例を説明する図。
【図2】画像出力機器の色再現特性を取得する手順例を説明する図。
【図3】蛍光物質を含む色票に単色光を照射した場合の色票からの放射光の測定値を示す模式図。
【図4】励起波長が紫外域にある蛍光物質を含む試料の分光反射率を説明する図。
【図5】実施例の色処理装置の構成例を説明するブロック図。
【図6】色処理プログラムによって実現される色処理部の機能構成例を説明するブロック図。
【図7】色処理部の処理例を説明するフローチャート。
【図8】色処理部のUIの一例を説明する図。
【図9】分光放射輝度データのデータ構造例を説明する図。
【図10】二分光放射輝度率データのデータ構造例を説明する図。
【図11】二分光放射輝度率の測定の概要を説明する図。
【図12】分光反射率データのデータ構造例を説明する図。
【図13】試料の分光反射率の測定の概要を説明する図。
【図14】メディアの分光反射率と、試料の分光反射率を説明する概念図。
【図15】演算部の処理を説明するフローチャート。
【図16】試料の二分光放射輝度率の演算の概念を説明する図。
【図17】実施例2の測定装置の構成例を説明するブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明にかかる実施例の色処理を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
上述したように、メディアが蛍光物質を含む場合、任意の観察環境の下における試料の測色値を正確に得るには、試料の二分光放射輝度率を用いる必要がある。しかし、二分光放射輝度率の測定は、二分光測定器と膨大な測定時間を必要とする。そこで、本実施例においては、メディアの二分光放射輝度率から、当該メディアに色材が重畳された試料における、メディアと色材による二分光放射輝度率を演算する。なお、以下では、メディア上に色材が印刷されて形成された色票のことを試料と呼ぶ。
【0021】
[装置の構成]
図5のブロック図により実施例の色処理装置100の構成例を説明する。マイクロプロセッサ(CPU)101は、メインメモリ102のRAMなどをワークメモリとして、メインメモリ102のROMやハードディスクドライブ(HDD)103に格納されたオペレーティングシステム(OS)や各種プログラムを実行する。そして、システムバス105を介して後述する構成を制御する。汎用インタフェイス(I/F)104は、例えばUSBやIEEE1394などのシリアルバスインタフェイスである。汎用I/F104には、キーボードやマウスなどのユーザ指示を入力する操作部107、記憶装置108、分光反射率などを測定する測定装置109などが接続される。また、ビデオI/F110にはモニタ106が接続される。
【0022】
CPU101は、モニタ106に表示したユーザインタフェイスを介したユーザ指示に従い、実施例の色処理を実現する色処理プログラムおよびデータをHDD103や記憶装置108からRAMにロードし、色処理プログラムを実行する。そして、色処理の結果をHDD103や記憶装置108に格納する。
【0023】
●色処理部
図6のブロック図により色処理プログラムによって実現される色処理部201の機能構成例を説明する。なお、色処理部201は、CPU101が色処理プログラムによって実現する機能の主要部に相当する。
【0024】
メディア特性入力部202は、操作部107から入力されるユーザ指示に従い、HDD103や記憶装置108に対応する記憶部210からメディアの二分光放射輝度率を入力する。観察光源情報入力部203は、操作部107から入力されるユーザ指示に従い、記憶部210から観察光源の分光放射輝度を入力する。試料情報入力部204は、操作部107から入力されるユーザ指示に従い、測定装置109を制御して試料の分光反射率を入力するか、記憶部210から試料の分光反射率を入力する。演算部205は、メディアの二分光放射輝度率と試料の分光反射率から、試料の二分光放射輝度率を演算する。算出部206は、演算された試料の二分光放射輝度率と観察光源の分光放射輝度から、試料の測色値(例えばCIE三刺激値XYZ)を算出する。
【0025】
[色処理]
図7のフローチャートにより色処理部201の処理例を説明する。色処理部201は、処理に必要な情報をユーザから取得するためのユーザインタフェイス(UI)をモニタ106に表示する(S11)。
【0026】
図8により色処理部201のUIの一例を説明する。観察光源入力部1001は、ユーザが観察光源の名称や記号を選択または入力するための入力部である。メディア入力部1002は、ユーザがメディアの名称や記号を選択または入力するための入力部である。試料情報入力部1003は、ユーザが試料の名称や記号を選択または入力するための入力部である。なお、ユーザが参照ボタンを操作して「分光反射率測定」を選択した場合、分光反射率測定装置109によって試料の分光反射率が測定される。出力ファイル入力部1004は、ユーザが測色値などのデータを格納するデータファイル名を選択または入力するための入力部である。ユーザが各入力部において必要な情報を選択または入力した後、「OK」ボタン1005を押すと、以降の処理が実行される。
【0027】
次に、色処理部201は、観察光源情報入力部203により、ユーザが指定する観察光源の分光放射輝度を記憶部210から入力する(S12)。
【0028】
図9により分光放射輝度データのデータ構造例を説明する。分光放射輝度データには、図9に示すように、例えば、300nmから780nmまで、10nm間隔の波長に対する、ある光源の放射輝度が記述されている。一般に、可視波長域は380nmから780nmであるが、本実施例においては蛍光を考慮するため、蛍光の励起波長域を含む分光放射輝度を必要とする。励起波長域は、メディアに含まれる蛍光増白剤などの蛍光物質によって決まるが、以下では、励起波長域を例えば300nmから380nmとして説明する。
【0029】
次に、色処理部201は、メディア特性入力部202により、ユーザが指定するメディアの二分光放射輝度率を記憶部210から入力する(S13)。
【0030】
図10により二分光放射輝度率データのデータ構造例を説明する。二分光放射輝度率データは、図10に示すように、ある単一波長の光(以下、単色光)をあるメディアに入射した場合に、例えば、300nmから780nmまで、10nm間隔の波長における、メディアからの放射輝度率が記述された二次元のデータである。
【0031】
図11により二分光放射輝度率の測定の概要を説明する。分光器16によって、光源13の放射光から単色光を取り出し、単色光を試料12に照射し、試料12からの放射光を分光器14を通して受光器15に受光して、分光放射輝度を測定する。そして、測定した分光放射輝度を単色光の放射輝度で除算すれば、試料12に単色光を照射した場合の分光放射輝度率、言い換えれば、ある入射波長に対する分光放射輝度率が得られる。つまり、分光器16によって、例えば、300nmから780nmまで、10nm間隔の単色光を試料12に照射して、各単色光の波長に対する分光放射輝度率を取得すれば、試料12の、図10に示す二分光放射輝度率データが得られる。
【0032】
次に、色処理部201は、試料情報入力部204により、ユーザの指示に従い試料の分光反射率を入力する(S14)。
【0033】
図12により分光反射率データのデータ構造例を説明する。分光反射率データには、図12に示すように、可視域(例えば380nmから780nm)および励起波長域(例えば300nmから380nm)の10nm間隔の波長に対する、試料の反射率が記述されている。
【0034】
図13により試料の分光反射率の測定の概要を説明する。まず、光源13の放射光を紫外線カットするフィルタ17を通して試料12に照射し、試料12からの放射光を分光器14を通して受光器15に受光して、可視域の分光放射輝度を測定する。つまり、蛍光の発光を防ぐために励起波長域の光を除去する測定条件(UV除去)により測定を行う。そして、測定した分光放射輝度を、光源13から出力されフィルタ17を通過した光の分光放射輝度で除算すれば、試料12の可視域の分光反射率が得られる。なお、フィルタ17を通して試料に照射される光の380nm未満の強度は充分小さく、試料は、380nm未満を励起波長域とする蛍光を発しない。
【0035】
続いて、光源13の放射光をフィルタ17を通さずに試料12に照射し、試料12からの放射光を分光器14を通して受光器15に受光して、励起波長域の分光放射輝度を測定する。つまり、励起波長域の分光反射率を測定するためにUV除去は行わない。そして、測定した分光放射輝度を、光源13の分光放射輝度で除算すれば、試料12の励起波長域の分光反射率が得られる。
【0036】
上記は試料の分光反射率の一般的な測定手順であり、試料の分光反射率の測定手順は次のように要約される。(i)可視域の光を放射する光源、言い換えれば、可視域よりも波長が短い可視域外の光を放射しない、または、可視域外の放射光の強度が充分小さい光源を用いて、可視域において、試料12の分光反射率を測定する。(ii)可視域外の光を放射する光源(可視域の光については任意)を用いて、可視域外において、試料12の分光反射率を測定する。
【0037】
次に、色処理部201は、演算部205により、詳細は後述するが、メディアの二分光放射輝度率と試料の分光反射率から試料の二分光放射輝度率を演算する(S15)。そして、算出部206により、式(2)を用いて、試料の二分光放射輝度率と観察光源の分光放射輝度から測色値を算出する(S16)。さらに、算出した測色値をユーザが指示するファイル名のファイルに格納して記憶部210に保存する(S17)。なお、演算部205と算出部206は、例えば、試料(色票)の数分、演算と算出を繰り返して、ユーザが指定するメディアに印刷された色票をユーザが指定する観察光源の下で観察した場合の測色値を算出する。
【0038】
●演算部
図14の概念図によりメディア31の分光反射率と、試料の分光反射率を説明する。なお、試料とは、メディア31上に色材32が印刷されて形成された色票である。図14(a)はメディア31に励起波長域の光を含まない光が照射された場合の反射光を示し、波長λの光が照射されたメディア31は、その分光反射率Fw(λ)に応じた強度の波長λの光を放射する。
【0039】
一方、図14(b)はメディア31上に印刷された色材32に励起波長域の光を含まない光が照射された場合の反射光を示し、波長λの入射光は色材32によって減衰された後、メディア31に到達する。色材32によって減衰された波長λの光が照射されたメディア31は、その分光反射率Fw(λ)に応じた強度の波長λの光を放射する。そして、メディア31からの波長λの反射光は再び色材32によって減衰される。
【0040】
言い換えれば、試料の分光反射率R0(λ)は、メディア31の分光反射率Fw(λ)に、色材32による光の減衰率の二乗を乗算した結果と考えられる。つまり、試料の分光反射率R0(λ)と、メディア31の分光反射率Fw(λ)は次の関係を有する。
R0(λ) = T(λ)2Fw(λ)
T(λ) = √{R0(λ)/Fw(λ)} …(3)
ここで、T(λ)は色材の分光減衰率(分光透過率の逆数)。
【0041】
図15のフローチャートにより演算部205の処理(S15)を説明する。
【0042】
演算部205は、メディアの二分光放射輝度率Fw(μ,λ)を入力し(S51)、試料の分光反射率R0(λ)を入力する(S52)。図10に示す二分光放射輝度率データにおいて、入射波長と測定波長が等しいセルの放射輝度率Fw(λ,λ)は、波長λの入射光の強度に対する、メディアの波長λの反射光(蛍光を含まない)の強度の比率を表す。つまり、Fw(λ,λ)は、波長λにおけるメディアの反射率に相当する。そこで、演算部205は、メディアの二分光放射輝度率Fw(μ,λ)から入射波長と測定波長が等しい場合のメディアの放射輝度率Fw(λ,λ)を抽出して、分光減衰率T(λ)を下式を用いて算出する(S53)。
T(λ) = √{R0(λ)/Fw(λ,λ)} …(4)
【0043】
次に、演算部205は、試料の二分光放射輝度率Fe(μ,λ)を下式を用いて算出する(S54)。
Fe(μ,λ) = Fw(μ,λ)T(μ)T(λ) …(5)
ここで、μは入射光の波長、
λは反射光の波長、
T(μ)は波長μにおける減衰率、
T(λ)は波長λにおける減衰率。
【0044】
図16により試料の二分光放射輝度率Fe(μ,λ)の演算の概念を説明する。波長μの入射光は、色材32を通過する際に色材32の分光減衰率T(μ)に応じて減衰される。色材32を通過してメディア31に到達した波長μの光が励起波長にある場合、蛍光物質を含むメディア31は、二分光放射輝度率Fw(μ,λ)に応じた強度の波長λの蛍光を発する。波長λの蛍光は、色材32を通過する際に色材32の分光減衰率T(λ)に応じて減衰される。従って、試料に波長μの光を照射した場合に、試料から放射される波長λの光の強度は、入射光の強度に減衰率T(μ)T(λ)を乗算した値になる。言い換えれば、試料の二分光放射輝度率Fe(μ,λ)は、式(5)に示すように、メディア31の二分光放射輝度率Fw(μ,λ)に減衰率T(μ)T(λ)を乗算した値になる。
【0045】
このように、メディアの二分光放射輝度率の測定、および、当該メディア上に印刷した色票の分光反射率の測定を行うことで、色票の二分光放射輝度率を演算することができる。従って、色票の二分光放射輝度率を用いて、様々なメディア上に印刷された色票の、様々な観察光源の下における測色値を高精度に算出することができる。なお、様々なメディアとは、蛍光物質を含まないメディア、可視域外に励起波長をもち可視域の蛍光を発する蛍光物質を含むメディア、可視域内に励起波長をもち可視域の蛍光を発する蛍光物質を含むメディアなどである。また、様々な観察光源とは、メディアが含む蛍光物質の励起波長の光を発する光源、メディアが含む蛍光物質の励起波長の光を発しない光源などである。
【実施例2】
【0046】
以下、本発明にかかる実施例2の色処理を説明する。なお、実施例2において、実施例1と略同様の構成については、同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0047】
図6に示す色処理部201の機能を測定装置に組み込むことが可能である。図17のブロック図により実施例2の測定装置401の構成例を説明する。
【0048】
測定部402は、光源の分光放射輝度および試料の分光反射率などを測定する。演算部403は、測定部402が測定した光源の分光放射輝度および試料の分光反射率を入力して、試料の二分光放射輝度率を算出し、観察光源の下における試料の測色値を演算する。記憶部404は、測定部402の測定値や、演算部403の演算に必要な各種データや演算結果などを記憶する。つまり、測定部は図6に示す測定装置109に、演算部403は図6に示す色処理部201、記憶部404は図6に示す記憶部210にそれぞれ相当する。
【0049】
なお、メディアの二分光放射輝度率は記憶部404に保存されている。また、記憶部404に格納されたデータは、図に示さないインタフェイス(例えばUSBインタフェイス)を介して、外部のコンピュータ機器や情報処理装置が取り出し可能である。
【0050】
[変形例]
実施例1、2においては、観察光源に対応した試料の測色値(XYZ値)を出力する例を説明したが、出力はこれに限定されない。例えば、試料の二分光放射輝度率を出力してもよいし、CIELab値などの均等色空間やCIECAM02などのカラーアピアランス空間の値(Jab値)などを出力してもよい。また、演算結果の測色値を用いてプロファイルを作成し、作成したプロファイルを出力することも可能である。プロファイルには、色管理システムが利用するためのデバイスの色再現特性が記述されている。例えば、RGBプリンタ用の一般的なプロファイルには、RGB値の範囲をそれぞれ9ステップに分割した、93=729色の色票のRGB値とXYZ値(またはLab値やJab値)の対応関係を示すLUTが格納されている。
【0051】
また、本発明を画像入力デバイス、画像表示デバイスまたは画像出力デバイスに組み込まれた測定器に適用することもできる。例えば、プリンタに組み込まれた測定器に本発明を適用すれば、当該プリンタの色再現特性のキャリブレーションや、当該プリンタのプロファイルの作成、更新に本発明を利用することができる。
【0052】
また、上記では、メディア特性入力部202は、記憶部210からメディアの二分光放射輝度率を入力する例を説明したが、測定装置109を制御して、メディアの二分光放射輝度率を測定し、測定結果の二分光放射輝度率を入力してもよい。同様に、観察光源情報入力部203は、記憶部210から観察光源の分光放射輝度を入力する例を説明したが、測定装置109を制御して、観察光源の分光放射輝度を測定し、測定結果の分光放射輝度を入力してもよい。
【0053】
[その他の実施例]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メディア上に形成された色票の分光反射率を取得する取得手段と、
前記メディアの二分光放射輝度率を入力するメディア特性の入力手段と、
前記色票の分光反射率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算する演算手段とを有することを特徴とする色処理装置。
【請求項2】
さらに、前記色票の観察光源の分光放射輝度を入力する光源情報の入力手段と、
前記観察光源の分光放射輝度と前記色票の二分光放射輝度率から前記観察光源の下における前記色票の測色値を算出する算出手段とを有することを特徴とする請求項1に記載された色処理装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記メディアの二分光放射輝度率から入射波長と測定波長が等しい場合の前記メディアの放射輝度率を抽出し、前記メディアの放射輝度率および前記色票の分光反射率を用いて前記色票を形成する色材の分光減衰率を演算し、前記色材の分光減衰率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された色処理装置。
【請求項4】
前記取得手段は、可視域の光を放射する光源を用いて前記可視域において測定された前記色票の分光反射率、および、前記可視域よりも波長が短い可視域外の光を放射する光源を用いて前記可視域外において測定された前記色票の分光反射率を取得することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載された色処理装置。
【請求項5】
前記メディア特性の入力手段は、前記可視域外から前記可視域において測定された前記メディアの二分光放射輝度率を入力することを特徴とする請求項4に記載された色処理装置。
【請求項6】
取得手段、入力手段、演算手段を有する色処理装置の色処理方法であって、
前記取得手段が、メディア上に形成された色票の分光反射率を取得し、
前記入力手段が、前記メディアの二分光放射輝度率を入力し、
前記演算手段が、前記色票の分光反射率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算することを特徴とする色処理方法。
【請求項7】
コンピュータ装置を制御して、請求項1から請求項5の何れか一項に記載された色処理装置の各手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項1】
メディア上に形成された色票の分光反射率を取得する取得手段と、
前記メディアの二分光放射輝度率を入力するメディア特性の入力手段と、
前記色票の分光反射率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算する演算手段とを有することを特徴とする色処理装置。
【請求項2】
さらに、前記色票の観察光源の分光放射輝度を入力する光源情報の入力手段と、
前記観察光源の分光放射輝度と前記色票の二分光放射輝度率から前記観察光源の下における前記色票の測色値を算出する算出手段とを有することを特徴とする請求項1に記載された色処理装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記メディアの二分光放射輝度率から入射波長と測定波長が等しい場合の前記メディアの放射輝度率を抽出し、前記メディアの放射輝度率および前記色票の分光反射率を用いて前記色票を形成する色材の分光減衰率を演算し、前記色材の分光減衰率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された色処理装置。
【請求項4】
前記取得手段は、可視域の光を放射する光源を用いて前記可視域において測定された前記色票の分光反射率、および、前記可視域よりも波長が短い可視域外の光を放射する光源を用いて前記可視域外において測定された前記色票の分光反射率を取得することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載された色処理装置。
【請求項5】
前記メディア特性の入力手段は、前記可視域外から前記可視域において測定された前記メディアの二分光放射輝度率を入力することを特徴とする請求項4に記載された色処理装置。
【請求項6】
取得手段、入力手段、演算手段を有する色処理装置の色処理方法であって、
前記取得手段が、メディア上に形成された色票の分光反射率を取得し、
前記入力手段が、前記メディアの二分光放射輝度率を入力し、
前記演算手段が、前記色票の分光反射率と前記メディアの二分光放射輝度率から前記色票の二分光放射輝度率を演算することを特徴とする色処理方法。
【請求項7】
コンピュータ装置を制御して、請求項1から請求項5の何れか一項に記載された色処理装置の各手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−42433(P2012−42433A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186539(P2010−186539)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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