説明

色素、該色素含有インク組成物、インクジェットインク組成物、及びインクジェット記録方法

【課題】発色性、定着性、堅牢性、及び黒色調に優れた色補正色素を提供する。
【解決手段】下記の条件のいずれか一方または両方を満たす一般式(I)で表される色素。 条件1:RおよびR’が、H、イオン性親水性基およびOH基を持たない置換基である。 条件2:λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値が50nm以下である。


式中、Ar及びAr'は、各々1価の芳香族炭素環を表し、Ar、Ar'、Ar及びAr'は、各々2価の芳香族炭素環連結基を表す。ここで、ArからArのうち少なくとも一つ、及びAr'からAr'のうち少なくとも一つはナフタレン環を表す。Aは、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基等で、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上に整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の構造と特性を有するアゾ色素を含む黒インク組成物(好ましくは画像形成用黒インク組成物(好ましくはインクジェットインク組成物))、及び該黒インク組成物を用いるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、材料費が安価であること、高速記録が可能なこと、記録時の騒音が少ないこと、更にカラー記録が容易であることから、急速に普及し、更に発展しつつある。
インクジェット記録方法には、連続的に液滴を飛翔させるコンティニュアス方式と画像情報信号に応じて液滴を飛翔させるオンデマンド方式が有り、その吐出方式にはピエゾ素子により圧力を加えて液滴を吐出させる方式、熱によりインク中に気泡を発生させて液滴を吐出させる方式、超音波を用いた方式、あるいは静電力により液滴を吸引吐出させる方式がある。
また、インクジェット記録用インクとしては、水性インク、油性インク、あるいは固体(溶融型)インクが用いられる。
【0003】
このようなインクジェット記録用インクに用いられる着色剤に対しては、溶剤に対する溶解性あるいは分散性が良好なこと、発色性に優れ高濃度記録が可能であること、色相が良好であること、光、熱、環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)に対して堅牢であること、水や薬品に対する堅牢性に優れていること、受像材料に対して定着性が良く滲みにくいこと、インクとしての保存性に優れていること、毒性がないこと、純度が高いこと、更には、安価に入手できることが要求されている。しかしながら、これらの要求を高いレベルで満たす着色剤を捜し求めることは、極めて難しい。特に、良好な黒色調を有し、且つ高濃度印字が可能であり、光、湿度、熱に対して堅牢である黒インク用の着色剤が強く望まれている。
【0004】
従来より、黒用色素はジスアゾ染料またはトリスアゾ染料が使用されてきているが、これらの染料だけでは青色乃至緑色光に対する吸収が不足して良好な黒色調が得られない事が多い為、これらの青色乃至緑色光を吸収する色補正用の染料が併用されるのが一般的である。このような補正用染料としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているような染料が提案され、黒色調調整能、発色性、堅牢性、インク保存安定性、耐水性、ノズルの目詰まり等の改良が図られてきた。
しかしながら、従来提案されてきた色補正用染料では、吸収が短波長過ぎる為に多量添加する必要があったり、更に別の色補正用の染料が必要になるなどの黒色調調整能に欠ける問題を抱えていた。
【0005】
また、青色乃至緑色光を吸収できる染料も一般に知られてはいるが、堅牢性が劣るために光,熱,環境中の活性ガスへの暴露で色相が大きく変化したり、定着性が不十分であった為に高湿下条件で輪郭部が黄色く滲み出すなどの現象が起きるものが殆どで、更なる改良が必要である。
【0006】
これらの欠点を鑑み、特許文献3には、色補正染料として水溶媒における可視域吸収スペクトルの吸収極大が435nmのトリアジン染料を、ブラック染料に配合することからなるブラックインク組成物が記載されている。
さらに特許文献4および5には、水溶性を上げるために色素母核およびトリアジン環にイオン性親水性基等の置換基を導入することが提案されている。
ところが、一般的な黒染料は570〜620nmの極大吸収を有しており、該色補正
染料を用いたとしても、黒色調の調整に重要な補色関係を考慮すると好適な黒色調が得られないことは明らかである(非特許文献1)。
このことを踏まえ、特許文献6には、色補正色素として水溶媒における可視域吸収スペクトルの吸収最大が440〜540nmである色素を含有することによって、好適な黒色調が得られることが提案されている。
しかしながら、該特許文献に記載されている化合物例は、インクとしての保存安定性に欠け、あるいはインクジェット専用紙に印字した後、高湿度高温度下において著しく色変わり(短波長化)するなどの問題を抱えており、まだ充分な性能を有しているとは言い難い。
【特許文献1】特開平9−255906号公報
【特許文献2】特許第3178200号明細書
【特許文献3】特開2002−332426号公報
【特許文献4】特開2005−298636号公報
【特許文献5】国際公開第2006‐001274号パンフレット
【特許文献6】特開2005−344071号公報
【非特許文献1】「色彩科学ハンドブック(第2版)」,東京大学出版会,1998,p560−562
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、多量添加または他の色補正色素を必要とせずに、優れた黒色調と高濃度の印刷が可能となり、且つ、発色性、定着性、堅牢性に優れた色補正色素を提供することにある。また、本発明は、かかる色補正色素を用いた印刷用インク組成物や、筆記用の水性インク組成物を提供する。
さらに、本発明の目的は、充分な溶液安定性を確保すると共に、黒用として良好な色調を有し、高濃度印字が可能で、光およびオゾンに対して堅牢性の高い画像を形成することができ、高湿度高温度下に保存されても滲みや色変わりを生じない十分な耐湿熱性を有するインクジェット記録用インク組成物及びかかるインクジェット記録用インク組成物を用いるインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、充分な溶液安定性および良好な黒色調調整能を有し、発色性が良好で、光およびオゾンに対する堅牢性が高く、且つ耐湿熱性にも優れた色補正色素を目指して各種染料化合物を詳細に検討したところ、以下に挙げる特定の構造と吸収特性を有する染料によって上記課題が解決可能であることを見出した。
【0009】
(1) 下記一般式(I)で表される色素において、該色素が下記の条件のいずれか一方または両方を満たすことを特徴とする色素。
条件1:RおよびR’が、水素原子、またはイオン性親水性基およびヒドロキシ基を持たない置換基である。
条件2:λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値が50nm以下である。
λmax(DMF)とλmax(水)は次のように定義する。即ち、DMF:水=98:2で25℃、0.002%に調製された溶液を厚さ10mmのセルに入れ、分光光度計で測定した吸収スペクトルの可視領域における、最大吸収波長をλmax(DMF)とし、同様に水溶媒中、で測定した吸収スペクトルの最大吸収波長をλmax(水)とする。
【0010】
【化1】

【0011】
一般式(I)中,ArおよびAr'は、それぞれ1価の芳香族炭素環を表し、Ar、Ar'、ArおよびAr'は、それぞれ2価の芳香族炭素環連結基を表す。ここで、Ar、ArおよびArのうち少なくとも一つはナフタレン環を表し、Ar'、Ar'およびAr'のうち少なくとも一つはナフタレン環を表す。Aは下記一般式(II)〜(IV)で表される置換基または一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、R、R’、RおよびRは、水素原子または置換基を表し、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上に整数を表す。
【0012】
【化2】

【0013】
(2) 条件2において、λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値が30nm以下であることを特徴とする(1)に記載の色素。
(3) 一般式(I)が、下記一般式(VII)で表される(1)または(2)に記載の色素。
【0014】
【化3】

【0015】
式(VII)中、R、R’、R、R’、RおよびR’は、夫々独立して、水素原子または置換基を表す。L、L’、LおよびL’は、夫々独立してイオン性親水性基を示し、m、m’、nおよびn’は1〜2の整数を表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)で表される置換基、または一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【0016】
【化4】

【0017】
一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上に整数を表す。
(4) 下記一般式(VII)が、下記一般式(VIII)で表されることを特徴とする(3)に記載の色素。
【0018】
【化5】

【0019】
一般式(VIII)中、Mは、水素原子、金属カチオン、または有機カチオンを表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)で表される置換基、もしくは一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【0020】
【化6】

【0021】
一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上に整数を表す。
(5) 下記一般式(VII)で表されることを特徴とする色素。
【0022】
【化7】

【0023】
式(VII)中、R、R’、R、R’、RおよびR’は、夫々独立して、水素原子または置換基を表す。L、L’、LおよびL’は、夫々独立して、イオン性親水性基を示し、m、m’、nおよびn’は1〜2の整数を表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)および(VI)で表される置換基、または一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【0024】
【化8】

【0025】
一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上に整数を表す。一般式(VI)中、Xはハロゲン原子を表す。
ただし、RおよびR’は同時に2-ヒドロキシエチル基になることはなく、またRが水素原子のときにR’が2-ヒドロキシエチル基、2-スルホエチル基およびスルホニルアリール基になることはない。前記ハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子、沃素原子等が挙げられる。
(6) 一般式(VII)が、下記一般式(VIII)で表されることを特徴とする(5)に記載の色素。
【0026】
【化9】

【0027】
式(VIII)中、Mは、水素原子、金属カチオン、または有機カチオンを表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)および(VI)で表される置換基、もしくは一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【0028】
【化10】

【0029】
一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上に整数を表す。一般式(VI)中、Xはハロゲン原子を表す。
ただし、RおよびR’は同時に2-ヒドロキシエチル基になることはなく、またRが水素原子のときにR’が2-ヒドロキシエチル基、2-スルホエチル基およびスルホニルアリール基になることはない。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の色素を少なくとも1種含有することを特徴とするインク組成物。
(8) インクジェット用であることを特徴とする(7)に記載のインク組成物。
(9) (1)〜(6)のいずれかに記載の色素を少なくとも1種含有し、且つ該色素より長波長側に吸収極大を有する色素を含むことを特徴とする、インク組成物。
(10) 長波長側に吸収を有する色素が、下記一般式(IX)、(X)、(XI)および(XII)で表される色素のうち少なくとも1つの色素であることを特徴とする(9)に記載のインク組成物。
【0030】
【化11】

【0031】
(一般式(IX)中、Arは、置換もしくは無置換の1価の芳香族基または置換もしくは無置換の1価の複素環基を表す。Rは、置換もしくは無置換の芳香族基(ただし無置換フェニル基を除く)または置換もしくは無置換の複素環基(ただし無置換チオフェン環基を除く)を表す。Yは、−CR=または窒素原子を表し、Yが−CR=である場合のRは、水素原子または置換基を表す。BおよびBは、それぞれ=CR10−および−CR11=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子,他方が=CR10−または−CR11=を表す。G、R、R’、R10およびR11は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0032】
【化12】

【0033】
(一般式(X)中、Ar、ArおよびArは、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。Zはヒドロキシ基もしくはアミノ基のどちらかを表す。)
【0034】
【化13】

【0035】
(一般式(XI)中、ArおよびArは、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。aおよびbは、それぞれ単結合を表し、結合aの結合位置は2位または3位であり、結合bの結合位置は6位または7位である。m1およびm3は、それぞれ独立に0または1を表し、m2は1および2を表す。)
【0036】
【化14】

【0037】
(一般式(XII)中、Ar10は、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。R12、R13およびR14は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。cおよびdは、それぞれ単結合を表し、結合cの結合位置は10位または11位であり、結合dの結合位置は14位または15位である。n1およびn2は、それぞれ独立に0または1を表し、n3は1および2を表す。)
なお、上記一般式(IX)〜(XII)で表される色素は、それぞれ塩の状態であってもよく、また任意の金属と錯体を形成していてもよい。
(11) (9)および(10)に記載のインク組成物を用いたことを特徴とするインクジェット用インク組成物。
(12) (7)〜(11)に記載のインク組成物を少なくとも一種含むことを特徴とするインクセット。
(13) (8)または(11)に記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
(14) 支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受容層を有する受像材料上に、前記(8)または(11)に記載のインク組成物を用いて画像形成することを特徴とする(13)に記載のインクジェット記録方法。
(15) (13)および(14)に記載の方法で画像形成したことを特徴とする着色体。
(16) (8)または(11)に記載のインク組成物を含むことを特徴とするインクジェットプリンターカートリッジ。
(17) (16)に記載のインクジェットプリンターカートリッジを装填したことを特徴とするインクジェットプリンター。
【発明の効果】
【0038】
本発明の上記黒インク組成物は充分な溶液安定性を有し、また、該黒インク組成物を用いたインクジェット記録用インク及びインクジェット記録方法により、良好な黒色調を有し、印字濃度が高く、しかも光及び環境中の活性ガスに対して堅牢性の高い画像を形成することができ、高湿度高温度下における保存時の画像滲みや色変わりも大幅に改良される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0040】
[染料]
本発明の単一化合物を含有する水溶性色素は、DMF:水=98:2で調製された溶媒における可視域吸収スペクトルにおいて、吸収極大を440〜540nm、且つ半値幅を90nm〜200nmに有し、ブロードな吸収を達成する色素である。
本願明細書中、用語「単一化合物」とは、異なる物性を有する複数の化合物ではない化合物を意味する。即ち、可視域吸収スペクトルを測定する場合、複数の化合物を組み合わせることにより所望の吸収極大および半値幅といった物性を示すものではなく、1つの化合物によりかかる物性を示すことを意味する。
【0041】
該色素は、かかる吸収特性を有している為、ジスアゾ色素またはトリスアゾ色素の吸収スペクトルで不足となりがちな、青色から緑色にかけて広い範囲の光を吸収することができ、色補正色素として好ましい吸収特性を有する。
該色素の吸収極大としては、450〜520nmの間であることが好ましく、460〜
500nmにあることが特に好ましい。
該色素の半値幅としては、100nm〜180nmの間にあることが好ましく、110nm〜160nmの間にあることが特に好ましい。
【0042】
上記の吸収特性を有する市販の色素としては、C.I.Direct Red84、同Brown106、Brown202が有用であり、中でも多くの黒色素の色調調整に使用でき発色性,堅牢性,定着性にも優れるC.I.Direct Red84が特に有用である。しかしながら、C.I.Direct Red84は、非常に凝集力の強い化合物であり、インクを調製する際に、インク保存安定性確保のために、有機溶剤を添加する必要があり、また尿素結合が加水分解作用を受けやすく、安全性にも懸念があることから充分な性能を有しているとは言い難い。
また、トリアジンを介して連結された色素も特許文献6に記載されてはいるが、加水分解作用に対する耐性は向上しているものの、インク保存安定性に関しては課題が残されている。さらに、これらの色素は、インクジェット専用紙に印字した後、高湿度高温度下において著しく色変わり(短波長化)するという問題を有しており、充分な性能を有しているとは言い難い。
本発明者らは、この高湿度高温度下における著しい色変わり(短波長化)について、鋭意検討した結果、以下の条件を有する色素を用いることによって、この問題を解決できることを見出した。すなわち
【0043】
下記一般式(I)で表される色素において、該色素が下記の条件のいずれかまたは両方を満たすことを特徴とする色素。
条件1:R、R’、RおよびRが、水素原子、もしくはイオン性親水性基およびヒドロキシ基を持たない置換基である。
条件2:λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値が50nm以下である。
〔DMF:水=98:2で調製された溶媒で測定した吸収スペクトルの可視領域における、最大吸収波長をλmax(DMF)、水溶媒で測定した吸収スペクトルの最大吸収波長をλmax(水)とする。〕。
【0044】
【化15】

【0045】

一般式(I)中,ArおよびAr'は、それぞれ1価の芳香族炭素環を表し、Ar、Ar'、ArおよびAr'は、それぞれ2価の芳香族炭素環連結基を表す。ここで、Ar、ArおよびArのうち少なくとも一つはナフタレン環を表し、Ar'、Ar'およびAr'のうち少なくとも一つはナフタレン環を表す。Aは下記一般式(II)〜(IV)で表される置換基、または一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、R、R’、RおよびRは、水素原子または置換基を表し、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上の整数を表す。Qとしては2価または3価が好ましく、2価が特に好ましい。qは2又は3が好ましく、2が特に好ましい。)
【0046】
【化16】

【0047】
Ar、Ar’、Ar、Ar’、ArおよびAr’基を構成する芳香族炭化水素環は、ベンゼン環、ナフタレン環が挙げられ、これらの環は更に炭化水素環、ヘテロ環等で縮環していてもよい。
【0048】
一般式(VII)におけるL、L’、LおよびL’で表されるイオン性親水性基について説明する。イオン性親水性基には、スルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基および4級アンモニウム基等が含まれる。前記イオン性親水性基としては、カルボキシル基、およびスルホ基が一般的、特にカルボキシル基、またはスルホ基が好ましい。カルボキシル基、ホスホノ基およびスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)および有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジウムイオン、テトラメチルホスホニウム)等が挙げられる。イオン性親水性基の数としては、本発明の染料1分子中少なくとも2個有するものが好ましく、スルホ基および/またはカルボキシル基を少なくとも2個(より好ましくは4個以上)有するものが特に好ましい。
【0049】
高湿度高温度下における色変わりは、紙中での色素同士の会合と、深さ方向への滲みによる反射濃度の低下によって引き起こされると考えられる。
本発明者らはこの問題を解決すべく、鋭意検討した結果、置換基Aの性質によって色変わりの度合が大きく変化することを見出した。例えば、置換基Aに2−スルホエチル基、2−ヒドロキシエチル基を置換した化合物においては、反射濃度低下が起こることが認められた。一方、置換基Aに2−スルホエチル基又は2−ヒドロキシルエチル基を持たない化合物においては反射濃度の低下が抑制できることがわかった。
、R’の置換の例としてはそれぞれ、水素原子またはアルキル基が好ましく、RとR’とは互いに結合して環(好ましくは5〜8員環)を形成してもよい。R、R’の一方が水素原子で、もう一方がアルキル基の場合、両方ともアルキル基の場合、またはRとR’とは互いに結合して5員環もしくは6員環(好ましくは6員環)を形成する場合がより好ましく、両方ともアルキル基の場合が更に好ましい。前記のアルキル基及び5員環または6員環は、更にヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、カルバモイル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、シアノ基およびニトロ基を有していてもよい。
およびRの置換の例としてはアルキル基またはアリール基が好ましい。前記のアルキル基及びアリール基は更にハロゲン、スルホ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、カルバモイル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、シアノ基およびニトロ基を有していてもよい。
【0050】
最も好ましい置換基Aの例としては、ジアルキルアミノ基などが挙げられ、特に合計炭素数が1〜12のジアルキルアミノ基が好ましい。このことは色素の水溶性を上げることが、高湿度高温度下における色素の滲み出しを引き起こし、反射濃度の低下の原因になっていることを示唆している。特に、該色素を黒色素の色調調整に使用した場合、この反射濃度低下は色調バランスの著しい低下を招き、印字画像の品質を低下させることは明らかである。
【0051】
また、色素の会合性が強くなると、高湿度高温度下において大きく色変わり(短波長化)することが認められた。これは高湿度高温度下において、色素が会合することに起因していると考えられる。色素の会合性の強さは、λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値でおおよそ近似されると考えられ、λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値が50nm以下の色素が好ましく、30nm以下の色素がより好ましい。
【0052】
以下に好ましい化合物例を挙げるが、本発明の好ましい形態としては下記の例に限定されるものではない。また、下記一般式では色素を遊離の酸の構造で示すが、実際の使用にあたっては塩の形で用いても良いことは言うまでもない。好ましいカウンターカチオンとしては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム)、アンモニウム、及び有機のカチオン(例えばピリジニウム、テトラメチルアンモニウム、グアニジニウム)を挙げることができる。
【0053】
【化17】

【0054】
【化18】

【0055】
【化19】

【0056】
【化20】

【0057】
【化21】

【0058】
【化22】

【0059】
【化23】

【0060】
また、一般式(I)における置換基Aは、一般式(V)で表されるような2価以上の連結基であってもよい。特に、連結基によって色素分子にねじれが生じる場合、分子同士の会合抑制効果が働くため、高湿度高温度下における色変わり(短波長化)を抑制することが認められた。以下に好ましい色素の例を遊離の酸の構造で示すが、任意の塩として用いても良いことは言うまでもない。式中の*はトリアジン環との結合部位を示す。
好ましいカウンターカチオンとしては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム)、アンモニウム、及び有機のカチオン(例えばピリジニウム、テトラメチルアンモニウム、グアニジニウム)を挙げることができる。
【0061】
【化24】

【0062】
長波長側に吸収を持つ色素としては、下記一般式(IX)、(X)、(XI)および(XII)で表される色素が好ましい。
【0063】
【化25】

【0064】
一般式(IX)中、Arは、置換もしくは無置換の1価の芳香族基または置換もしくは無置換の1価の複素環基を表す。Rは、置換もしくは無置換の芳香族基(ただし無置換フェニル基を除く)または置換もしくは無置換の複素環基(ただし無置換チオフェン環基を除く)を表す。Yは、−CR=または窒素原子を表し、Yが−CR=である場合のRは、水素原子または置換基を表す。BおよびBは、それぞれ=CR10−および−CR11=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子,他方が=CR10−または−CR11=を表す。G、R、R’、R10およびR11は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【0065】
【化26】

【0066】
一般式(X)中、Ar、ArおよびArは、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。Zはヒドロキシ基もしくはアミノ基のどちらかを表す。
【0067】
【化27】

【0068】
一般式(XI)中、ArおよびArは、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。aおよびbは、それぞれ単結合を表し、結合aの結合位置は2位または3位であり、結合bの結合位置は6位または7位である。m1およびm3は、それぞれ独立に0または1を表し、m2は1および2を表す。
【0069】
【化28】

【0070】
一般式(XII)中、Ar10は、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。R12、R13およびR14は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。cおよびdは、それぞれ単結合を表し、結合cの結合位置は10位または11位であり、結合dの結合位置は14位または15位である。n1およびn2は、それぞれ独立に0または1を表し、n3は1および2を表す。
なお、上記一般式(IX)〜(XII)で表される色素は、それぞれ塩の状態であってもよく、また任意の金属と錯体を形成していてもよい。
以下に好ましい長波長側に吸収を持つ色素の例を遊離の酸の構造で示すが、任意の塩として用いても良いことは言うまでもない。
好ましいカウンターカチオンとしては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム)、アンモニウム、及び有機のカチオン(例えばピリジニウム、テトラメチルアンモニウム、グアニジニウム)を挙げることができる。
【0071】
【化29】

【0072】
【化30】

【0073】
上記式で表される色素以外に、特開平10−130557号、同9−255906号、同7−97541号,同6−234944号各公報、欧州特許出願公開第982371号明細書、特開2002−302619号、同2002−327131号、同2002−265809号各公報、国際公開第00/043450号、同00/043451号、同00/043452号、同00/043453号、同03/106572号、同03/104332号各パンフレットに記載の色素も、長波長側に吸収を持つ色素として好ましく用いることができる。
【0074】
本発明の黒インク組成物は、上記長波長側に吸収を持つ色素をインク中に好ましくは0.2〜30質量%、特に好ましくは0.5〜15質量%、最も好ましくは1〜10質量%含有することが好ましい。
【0075】
本発明の短波長側に吸収を持つ色素と長波長側に吸収を持つ色素との比率は、長波長側に吸収を持つ色素に対して、短波長側に吸収を持つ色素が1〜50質量%となることが好ましく、5〜40質量%となることが更に好ましく、10〜30質量%となることが最も好ましい。
【0076】
[インク]
本発明のインクは、少なくとも一種の本発明の水溶性色素を含有するインクを意味する。本発明のインクは、媒体を含有させることができるが、媒体として溶媒を用いた場合は特にインクジェット記録用インクとして好適である。
【0077】
本発明のインクは、媒体として、親油性媒体や水性媒体を用いて、それらの中に、本発明の色素を溶解及び/又は分散させることによって作製することができる。好ましくは、水性媒体を用いる場合である。水性媒体は、水を主成分とし、所望により、水混和性有機溶剤を添加した混合物を用いることができる。前記水混和性有機溶剤の例は特開2003−306623号公報に記載のものが使用できる。尚、前記水混和性有機溶剤は、二種類以上を併用してもよい。本発明のインクには、媒体を除いたインク用組成物も含まれる。
【0078】
本発明のインクは、必要に応じてその他の添加剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しうる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤(特開2003−306623号公報を参照)が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合にはインク液に直接添加する。
【0079】
上記のインクジェット記録用インクの調製方法については、先述の特許文献以外にも特開平5−295312号、同7−97541号、同7−82515号の各公報に詳細が記載されていて、本発明のインクジェット記録用インクの調製にも利用できる。
【0080】
本発明のインクジェット用インクには、本発明の色素とともに、他の色素を併用してもよい。2種類以上の色素を併用する場合は、色素の含有量の合計が、インクジェット記録用インク100質量部中に、0.1質量部以上30質量部以下含有するのが好ましく、0.2質量部以上20質量部以下含有するのがより好ましく、0.5〜15質量部含有するのがさらに好ましい。
【0081】
本発明のインクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、本発明のインクのほかにマゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、各色についてそれぞれ濃淡2色のインクを用いることもできる。更には、ブルーやオレンジといった中間色調のインクを用いることもできる。
【0082】
本発明におけるインクジェット記録用インク、及びフルカラーの画像形成に用いる各色のインクに用いることのできる色素としては、各々任意のものを使用する事が出来るが、例えば特開2003−306623号公報の段落番号0090〜0092に記載の各色素が利用できる。
【0083】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インクジェット記録用インクにエネルギーを供与して、公知の受像材料、即ち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載されているインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に画像を形成する。
受像材料としては支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受容層を有する受像材料が好ましい。なお、本発明のインクジェット記録方法として特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105の記載が適用できる。
【0084】
画像を形成する際に、光沢性や耐水性を与えたり耐候性を改善する目的からポリマーラテックス化合物を併用してもよい。ラテックス化合物を受像材料に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても、後であっても、また同時であってもよく、したがって添加する場所も受像紙中であっても、インク中であってもよく、あるいはポリマーラテックス単独の液状物として使用しても良い。具体的には、特開2002−166638号、特開2002−121440号、特開2002−154201号、特開2002−144696号、特開2002−080759号、特願2000−299465号、特願2000−297365号に記載された方法を好ましく用いることができる。
【0085】
インクジェット記録紙及び記録フィルムの構成層(バックコート層を含む)には、ポリマーラテックスを添加してもよい。ポリマーラテックスは、寸度安定化、カール防止、接着防止、膜のひび割れ防止のような膜物性改良の目的で使用される。ポリマーラテックスについては、特開昭62−245258号、同62−1316648号、同62−110066号の各公報に記載がある。ガラス転移温度が低い(40℃以下の)ポリマーラテックスを媒染剤を含む層に添加すると、層のひび割れやカールを防止することができる。また、ガラス転移温度が高いポリマーラテックスをバックコート層に添加しても、カールを防止することができる。
【0086】
本発明のインクは、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して、放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等に用いられる。インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0087】
[実施例]
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の合成例を以下に示すが、これ以外の色素についても同様の方法で合成できる。尚、本文中「部」とは質量基準である。
【実施例1】
【0088】
下記式に表されるようなビスアゾ化合物1、100部を水200部に溶解し、これを塩化シアヌル15.4部を水90部に懸濁し氷冷したものに対し、3乃至5℃の温度を保ちながら滴下する。滴下後、さらに炭酸ナトリウム9.5部を水50部に溶かした水溶液を3乃至5℃の温度を保ちながら滴下する。温度を保った状態で30分撹拌した後に、反応温度を35℃に上げ、さらに3時間撹拌する。反応液にイソプロパノール540mlを滴下し、析出した生成物を濾過し、イソプロパノールで洗浄後、乾燥する。乾燥後、97.6部の化合物2が得られた。化合物2の水溶媒中でのλmaxは414.9nmであった。
【0089】
【化31】

【実施例2】
【0090】
化合物2、50.0部を水250部およびジメチルアセトアミド250部の混合溶媒に溶解し、そこにジ−n−ブチルアミン5.3部および炭酸水素ナトリウム10.3部を加え、70℃に保った状態で5時間撹拌する。反応液にイソプロパノール500mlを滴下し、析出した生成物をろ過し、イソプロパノールで洗浄、乾燥する。得られた生成物を再度水に溶解し、リチウムカチオンで置換したイオン交換樹脂(オルガノ(株)製AMBERLITE(R))を用いて、リチウム塩とした。水を留去し乾燥した後、47.6部の色素5‐Liが得られた。色素5−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ483.2nm、471.3nmであった。
【0091】
【化32】

【実施例3】
【0092】
実施例2のジ−n−ブチルアミン5.3部をジメチルアミン50wt%水溶液3.7部とする以外は実施例2と同様の方法で、下記色素2‐Li45.0部を得た。色素2−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ482.0nm、419.1nmであった。
【0093】
【化33】

【実施例4】
【0094】
実施例2のジブチルアミン5.3部をメチルシクロヘキシルアミン4.6部とする以外は実施例2と同様の方法で、下記色素8‐Li42.6部を得た。色素8−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ483.0nm、434.3nmであった。
【0095】
【化34】

【実施例5】
【0096】
実施例2のジブチルアミン5.3部をn−ブチルエチルアミン4.8部とする以外は実施例2と同様の方法で、下記色素12‐Li46.3部を得た。色素12−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ482.9nm、447.6nmであった。
【0097】
【化35】

【実施例6】
【0098】
実施例2のジブチルアミン5.3部をtrans−1,2−シクロヘキシルジアミン2.3部とする以外は実施例2と同様の方法で、下記色素58‐Li38.6部を得た。色素58−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ481.5nm、458.4nmであった。
【0099】
【化36】

【0100】
[比較例1]
本発明に対する比較例として、特許文献6に記載の短波染料10のリチウム塩である下記比較色素A‐Liを合成した。比較色素A−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ483.0nm、425.5nmであった。
【0101】
【化37】

【0102】
[比較例2]
また、その他の比較例として、特開平2005‐146244に記載の化合物例(表14中に記載)のリチウム塩である下記比較色素B‐Liを合成した。比較色素B−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ483.2nm、421.3nmであった。
【0103】
【化38】

【0104】
[比較例3]
さらに、その他の比較例として、特許文献6に記載の短波染料2のリチウム塩である下記比較色素C‐Liを合成した。比較色素C−Liのλmax(DMF)とλmax(水)はそれぞれ477.4nm、470.1nmであった。
【0105】
【化39】

【実施例7】
【0106】
(A‐1)単色インクの調製
下記各成分を混合した後、30〜40℃で加熱しながら1時間撹拌した。その後、平均孔径0.25μmのミクロフィルターで減圧濾過して各インク組成物を調製した。
【0107】
【表1】

【0108】
上記表中、単位量は質量である。
【0109】
(A−2)混色インクの調製
長波長側の色素として、色素60のリチウム塩(色素60‐Li)を別途合成し、本発明の色素と組み合わせることによって黒色インクを調製した。調製には下記各成分を用い、上記と同様の方法によって各インク組成物を調製した。
【0110】
【表2】

【0111】
上記表中、単位量は質量である。
【0112】
(B)インクジェットプリント
これらのインクをEPSON社製インクジェットプリンターPM-920のインクカートリッジに装填し、富士写真フイルム(株)製インクジェットペーパー「画彩」写真仕上げを用いてインクジェット画像を形成した。
【0113】
1)色相の評価は、単色インクに関しては、反射スペクトルにおける吸収極大が480nm以上510nm未満の範囲にあるものをA、440nm以上480nm未満および510nm以上540nm以下にあるものをB、それ以外をCとした。混色(黒色)インクに関しては、グレーの階段パターンで、各印字濃度におけるグレーの色調を目視で判断して、各濃度において好ましいグレー色調を示すものをA、グレーバランスが崩れる濃度が散見されるものをB、殆どの濃度でグレーバランスが崩れたものをCとした。
【0114】
2)インクの保存安定性に関しては、調製したそれぞれのインクを70℃で6日間放置し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および溶液吸収スペクトルの吸収強度の変化により推定した。70℃6日間において95%以上の残存率を示すものをA、90%〜95%のものをB、それ以下をCとした。
3)高湿度高温度下での画像保存性については、単色インクを用いたインクジェット画像に関して、湿度70%、80℃7日間の条件における反射スペクトルの変化を測定した。該条件前後における、反射スペクトルの吸収極大の変化をΔλmax値、反射濃度の比をROD値(=OD値(経時後)/OD値(経時前))と表し、下記の表に従ってA〜Eの評価を行った。
【0115】
【表3】

【0116】
また、混色(黒色)インクに関しては、グレーの階段パターンで、各印字濃度におけるグレーの色調を目視で判断して、各濃度において好ましいグレー色調を示すものをA、グレーバランスが崩れる濃度が散見されるものをB、殆どの濃度でグレーバランスが崩れたものをCとした。
結果を以下に示す。
【0117】
【表4】

【0118】
以上の結果より、本発明の色素を用いたインク液は優れた色相、インク安定性とともに高温度高湿度下における画像保存性優れた安定性を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される色素において、該色素が下記の条件のいずれか一方または両方を満たすことを特徴とする色素。
条件1:RおよびR’が、水素原子、またはイオン性親水性基およびヒドロキシ基を持たない置換基である。
条件2:λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値が50nm以下である。
【化1】

一般式(I)中,ArおよびAr'は、それぞれ1価の芳香族炭素環を表し、Ar、Ar'、ArおよびAr'は、それぞれ2価の芳香族炭素環連結基を表す。ここで、Ar、ArおよびArのうち少なくとも一つはナフタレン環を表し、Ar'、Ar'およびAr'のうち少なくとも一つはナフタレン環を表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)で表される置換基または一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、R、R’、RおよびRは、水素原子または置換基を表し、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上の整数を表す。
【化2】

【請求項2】
条件2において、λmax(DMF)とλmax(水)の差の絶対値が30nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の色素。
【請求項3】
一般式(I)が、下記一般式(VII)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の色素。
【化3】

一般式(VII)中、R、R’、R、R’、RおよびR’は、夫々独立して、水素原子または置換基を表す。L、L’、LおよびL’は、夫々独立して、イオン性親水性基を示し、m、m’、nおよびn’は1〜2の整数を表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)で表される置換基、または一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【化4】

一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上の整数を表す。
【請求項4】
前記一般式(VII)が、下記一般式(VIII)で表されることを特徴とする、請求項3に記載の色素。
【化5】

一般式(VIII)中、Mは、水素原子、金属カチオン、または有機カチオンを表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)で表される置換基または一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【化6】

一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上の整数を表す。
【請求項5】
下記一般式(VII)で表されることを特徴する色素。
【化7】

一般式(VII)中、R、R’、R、R’、RおよびR’は、夫々独立して、水素原子または置換基を表す。L、L’、LおよびL’は、夫々独立して、イオン性親水性基を示し、m、m’、nおよびn’は1〜2の整数を表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)および(VI)で表される置換基、もしくは一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【化8】

一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上の整数を表す。一般式(VI)中、Xはハロゲン原子を表す。
ただし、RおよびR’は同時に2-ヒドロキシエチル基になることはなく、またRが水素原子のときにR’が2-ヒドロキシエチル基、2-スルホエチル基およびスルホニルアリール基になることはない。
【請求項6】
一般式(VII)が、下記一般式(VIII)で表されることを特徴とする請求項5に記載の色素。
【化9】

一般式(VIII)中、Mは、水素原子、金属カチオン、または有機カチオンを表す。Aは、下記一般式(II)〜(IV)および(VI)で表される置換基、もしくは一般式(V)で表される2価以上の連結基を表し、
【化10】

一般式(II)〜(IV)中、R、R’、RおよびRは、夫々独立して、水素原子または置換基を表し、一般式(V)中、Qは2価以上の連結基を表し、qは2以上の整数を表す。一般式(VI)中、Xはハロゲン原子を表す。
ただし、RおよびR’は同時に2-ヒドロキシエチル基になることはなく、またRが水素原子のときにR’が2-ヒドロキシエチル基、2-スルホエチル基およびスルホニルアリール基になることはない。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の色素を少なくとも1種以上含有することを特徴とするインク組成物。
【請求項8】
インクジェット用であることを特徴とする請求項7のインク組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の色素を少なくとも1種含有し、且つ該色素より長波長側に吸収極大を有する色素を含むことを特徴とする、インク組成物。
【請求項10】
長波長側に吸収極大を有する色素が、下記一般式(IX)、(X)、(XI)および(XII)で表される色素のうち少なくとも1つの色素であることを特徴とする請求項9に記載のインク組成物。
【化11】

一般式(IX)中、Arは、置換もしくは無置換の1価の芳香族基または置換もしくは無置換の1価の複素環基を表す。Rは、置換もしくは無置換の芳香族基(ただし無置換フェニル基を除く)または置換もしくは無置換の複素環基(ただし無置換チオフェン環基を除く)を表す。Yは、−CR=または窒素原子を表し、Yが−CR=である場合のRは、水素原子または置換基を表す。BおよびBは、それぞれ=CR10−および−CR11=を表すか、あるいはいずれか一方が窒素原子,他方が=CR10−または−CR11=を表す。G、R、R’、R10およびR11は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。
【化12】

一般式(X)中、Ar、ArおよびArは、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。Zはヒドロキシ基もしくはアミノ基のどちらかを表す。
【化13】

一般式(XI)中、ArおよびArは、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。aおよびbは、それぞれ単結合を表し、結合aの結合位置は2位または3位であり、結合bの結合位置は6位または7位である。m1およびm3は、それぞれ独立に0または1を表し、m2は1および2を表す。)
【化14】

一般式(XII)中、Ar10は、置換もしくは無置換の芳香族基または置換もしくは無置換の複素環基を表す。R12、R13およびR14は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。cおよびdは、それぞれ単結合を表し、結合cの結合位置は10位または11位であり、結合dの結合位置は14位または15位である。n1およびn2は、それぞれ独立に0または1を表し、n3は1および2を表す。)
なお、上記一般式(IX)〜(XII)で表される色素は、それぞれ塩の状態であってもよく、また任意の金属と錯体を形成していてもよい。
【請求項11】
請求項9および10に記載のインク組成物を用いたことを特徴とするインクジェット用インク組成物。
【請求項12】
請求項7〜11に記載のインク組成物を少なくとも一種含むことを特徴とするインクセット。
【請求項13】
請求項8または11に記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項14】
支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受容層を有する受像材料上に、前記請求項8または11に記載のインク組成物を用いて画像形成することを特徴とする請求項13に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
請求項13および14に記載の方法で画像形成したことを特徴とする着色体。
【請求項16】
請求項8または11に記載のインク組成物を含むことを特徴とする、インクジェットプリンターカートリッジ。
【請求項17】
請求項16に記載のインクジェットプリンターカートリッジを装填したことを特徴とするインクジェットプリンター。

【公開番号】特開2008−24910(P2008−24910A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305902(P2006−305902)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】