説明

色素含有ハニカム構造フィルム

【課題】体内で使用した際に、容易にその存在位置や「よれ」の有無を認識できるハニカム構造フィルムを提供する。
【解決手段】ハニカム構造を有するフィルムであって、フィルムを構成するポリマー100重量部に対して色素を0.01から20重量部含有するハニカム構造フィルム。体内での優れた識別性を有するので、接着フィルム、インプラント用フィルム、癒着防止材などの医療用材料して用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造フィルム、例えば医療用の接着フィルム、インプラント用フィルム、癒着防止材として用いられるハニカム構造フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、材料の表面にマイクロあるいはナノオーダーでの規則構造やパターニングを形成することにより、細胞の接着性や細胞の増殖能などを制御する技術が開発され、細胞培養のための基材や細胞チップなどの応用へと技術開発が進められている。これらの中で、ハニカム構造フィルムは、疎水性有機溶媒表面上に水滴を形成させることにより形成される微細構造を利用し、細胞培養基材への応用(特許文献1)、電子デバイスへの応用(特許文献2)、血液濾過膜への応用(特許文献3)、癒着防止材への応用(特許文献4)などの研究がなされている。なお、かかるハニカム構造フィルムは、微細構造を有するため、光の反射により表面が白濁して観察される。
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【特許文献2】特開2003−128832号公報
【特許文献3】特開2003−149096号公報
【特許文献4】国際公開WO2004/089434号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、ハニカム構造フィルムは癒着防止材として各種の手術、例えば緑内障の手術に用いられる。しかし、実際にハニカム構造フィルムの埋め込み手術を行ってみると、意外な問題点があることが判明した。体内に挿入すると、湿ることにより透明化し、存在位置がわかりにくくなるのである。また、フィルムの「よれ」が生じると癒着防止材としての機能を十全に果たすことができないが、そうした「よれ」が生じていないことを確認するのも肉眼では容易でないことがわかってきた。さらに、緑内障の手術に用いた際には、手術後も存在位置を確認できることが望ましく、特に生分解性のポリマーを用いた場合には、その消失速度をモニターできることが望ましいこともわかってきた。
【0004】
本発明はこのような従来当業者に把握されていなかった要求特性の認識を端緒としてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、体内で使用した際に、容易に存在位置を認識できるハニカム構造フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ハニカム構造を有するフィルムであって、フィルムを構成するポリマー100重量部に対して色素を0.01から20重量部含有するハニカム構造フィルムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のハニカム構造フィルムは、色素を含有することにより体内での優れた識別性を有する。それより医療用の材料として、とりわけ接着フィルム、インプラント用フィルム、癒着防止材として好ましく利用しうる。すなわち、手術中に貼付部位を見失うことがなく、術後の観察にも好適である。
他の使用方法としては、例えば、手術を行った後に、欠損したり、収縮して縫合できない部分の代用として使用することができる。また、手術時の手術用具固定材として使用することもできるし、縫合部のシーリング材として使用することもできる。
本発明のハニカム構造フィルムには接着性を有しているものもあり、縫合せずに体内に留置することができ、医師の手間、手術時間の短縮、患者のQOLの向上に役立てることが可能である。
本発明のハニカム構造フィルムは、これら各種の手術中もしくは手術後におけるその存在位置や、「よれ」の有無の確認を容易にするほか、生分解性ポリマーを用いた場合における体内での消失速度のモニタリングを容易にする利点をもつ。
さらに、驚くべきことに、色素を含有させることで、ハニカム構造フィルムの表裏の識別が容易になることを見出した。これにより、表裏を間違えることも予防できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、ハニカム構造を有するフィルムであって、フィルムを構成するポリマー100重量部に対して色素を0.01から20重量部含有するハニカム構造フィルムである。
本発明のハニカム構造フィルムに用いる色素としては、識別性向上という本発明の効果発現に寄与するものであって、ハニカム構造の形成性を阻害しないものであるかぎり種類は問わないが、生体内での使用を考えると法定色素が好ましく、例えば赤色215号、赤色225号、だいだい色203号、だいだい色204号、黄色204号、緑色202号、紫色201号が、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。あるいは、これら法定色素の複数のものを混合して用いてもよい。なかでも緑色202号、紫色201号が体内での識別性の観点から望ましい。法定色素以外では、植物性染料であるヘマチン、クロロフィルなどが挙げられる。
【0008】
本発明においては、用いる色素のポリマー100重量部に対する重量比率は、一般的には0.01から20重量部が好ましい。さらに好ましくは0.03から10重量部であり、特に好ましくは0.05から1重量部である。色素の含有量が少ないと、識別性を高めるという本発明の効果が発揮されないが、色素の含有量が多すぎてもハニカム構造の形成を阻害することがある。要するに、用いる色素の特性や、ハニカム構造フィルムの使用態様ごとの識別性要求程度に応じ、識別性要求を満足しつつハニカム構造の形成性を阻害しない範囲で色素を含有させればよい。色素のポリマーに対する重量比率の具体的な許容範囲は、上記した数値や後述する実施例を参考に、用いる色素やポリマーの種類等の条件に応じ、当業者に期待できる程度の簡単な試行により、容易に定めることができる。
本発明のハニカム構造フィルムに用いるポリマーとしては、医療用途で使用するため、生体適合性に優れたポリマーが好ましい。例えばポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの生分解性脂肪族ポリエステル、ポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート等から少なくとも一つ選択されてなるものが、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。なかでも、ポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体が入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。
【0009】
本発明のハニカム構造フィルムは、ポリマー100重量部に対し、リン脂質0.01〜100重量部を含有することが好ましい。さらに好ましくは0.2〜10重量部、特に好ましくは、0.5〜2重量部のリン脂質を含有する。リン脂質がポリマーに対して0.01重量部以下では均一なハニカム構造が得られないことがある。一方、100重量部以上ではフィルムとしての自己支持性を有しておらず、コストも高く、経済性に乏しい場合がある。本発明のフィルムを医療用フィルムとして用いる場合にはリン脂質を含有させることが特に好ましく、とりわけ接着フィルム、インプラント用フィルム、または癒着防止材として用いるためにはその必要性が高い。
かかるリン脂質としては、動物組織から抽出したものでも、人工的に合成して製造したものでも使用できる。リン脂質としては、例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、およびそれらの誘導体からなる群から選択されてなるものを利用することが望ましい。好ましくはホスファチジルエタノールアミンであり、さらに好ましくはL−α−ホスファチジルエタノールアミン ジオレオイルである。
【0010】
ハニカム構造フィルムの製造方法としては、色素、ポリマー、必要によりリン脂質、および有機溶媒を含むポリマー溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させ、同時に該キャスト液表面で結露させ、結露により生じた微小水滴を蒸発させる方法が好ましく挙げられる。
この方法において、ポリマー溶液上に微小な水滴粒子を形成させることが必須であることから、使用する有機溶剤としては非水溶性である必要がある。その具体例としては、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトンなどの非水溶性ケトン類、二硫化炭素などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、これらの溶媒を組み合わせた混合溶媒として使用してもよい。
これらに溶解するポリマーとリン脂質両者併せてのポリマー濃度は0.01から10重量%、より好ましくは0.05から5重量%である。ポリマー濃度が0.01重量%より低いと得られるフィルムの力学強度が不足するため望ましくない。一方、10重量%以上ではポリマー濃度が高くなりすぎ、十分なハニカム構造が得られない。
【0011】
ハニカム構造フィルムの製造方法としては、上記ポリマー有機溶媒溶液を基板上にキャストし、ハニカム構造フィルムを調製する方法が好ましく挙げられる。かかる基板としてはガラス、金属、シリコンウェハー等の無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン等の耐有機溶剤性に優れた高分子、水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等の液体が使用できる。なかでも、基材に水を使用した場合、該ハニカム構造体の特徴である自立性を生かすことで、該構造体を単独で容易に基板から取り出すことができて好適である。
本発明のハニカム構造フィルムにおいて、ハニカム構造が形成される機構は次のように考えられる。疎水性有機溶媒が蒸発するときに潜熱を奪うため、キャストフィルム表面の温度が下がり、微小な水の液滴がポリマー溶液表面に凝集、付着する。ポリマー溶液中の親水性部分の働きによって水と疎水性有機溶媒の間の表面張力が減少し、このため、水微粒子は凝集して1つの塊になろうとし、安定化する。溶媒が蒸発するに伴い、ヘキサゴナルの形をした液滴が最密充填した形で並び、最後に、水が飛び、ポリマーが規則正しくハニカム状に並んだ形として残る。したがって、本発明のハニカム構造フィルムを調製するためには、相対湿度が30から100%の範囲にある水蒸気を吹き付けることが望ましい。相対湿度は好ましくは50〜95%、より好ましくは50〜90%である。相対湿度が30%以下ではキャストフィルム上への結露が不十分になり、作製が難しい場合がある。このようにしてできるハニカム構造体中、個々のハニカムの空隙内径は0.1から100μmである。このようにして作製したハニカム構造フィルムは、表面がハニカム構造を有し、膜厚が充分厚い場合は、基盤に接していた裏面は孔が貫通していない平らな面となる。また、膜厚が水滴の大きさよりも薄い場合は孔が貫通したフィルムが得られる。
【0012】
本明細書においては、非貫通フィルムにおけるハニカム面を「表面」、平らな面を「裏面」とする。ハニカム面たる表面の方が組織との接着力が強い。このため、本発明のハニカム構造フィルムの表裏を見分ける必要性が存するのである。
また、本発明のハニカム構造フィルムの表面を使用直前まで保護するために、フィルムの両面を剥離シートで保護することも可能である。この場合、本発明のハニカム構造フィルムは表裏面の構造が違うことから、ハニカム構造面の保護用剥離シートが容易に剥離できるので、使用面を適用部位に貼付した後に、残る剥離シートを容易に剥離するよう構成することが可能である。
【0013】
本発明のハニカム構造フィルムの膜厚は、好ましくは1〜10μmであるが、これに基体フィルムを積層させて積層体を形成させることにより、任意の厚みを有する積層フィルムを得ることもできる。
積層フィルムを構成する場合、基体フィルムはいずれのポリマーでもよいが、好ましく医療用フィルムとして用いるためには、とりわけ接着フィルム、インプラント用フィルム、癒着防止材として用いるためには生分解性ポリマーを用いることが好ましい。
生分解性ポリマーとしては、例えばポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの生分解性脂肪族ポリエステル、ポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート等が、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。なかでも、ポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、乳酸−カプロラクトン共重合体が入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。
【0014】
基体フィルムの作成方法としては特に限定されないが、例えばキャスト法や溶融成型法などから選択することができる。キャストフィルムを作成する場合に使用する有機溶媒としては揮発性溶媒が好ましい。かかる揮発性溶媒としては、常圧での沸点が200℃以下であり、27℃で液体であり、脂肪族ポリエステルを溶解することができるものが特に好ましい。例えば塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、プロパノール、2−プロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどが挙げられる。これらのうち、脂肪族ポリエステルの溶解性等から、塩化メチレン、クロロホルム、アセトンが特に好ましい。これらの溶媒は単独で用いてもよく、複数の溶媒を組み合わせてもよい。
色素は、基体フィルムを作製する際に添加してもよい。例えば、赤色215号、赤色225号、だいだい色203号、だいだい色204号、黄色204号、緑色202号、紫色201号が、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。なかでも緑色202号、紫色201号が体内での識別性の観点から望ましい。
また、基体フィルム側とハニカム構造フィルム側とで異なる色素を加えることで、表裏の識別性を高めることもできる。あるいは、色素を基体フィルム側とハニカム構造フィルム側の一方だけに導入し、他方は色素無添加としたものを積層することで、識別性を高めてもよい。
【0015】
積層フィルムとする場合、ハニカム構造フィルムを、少なくとも1層の基体フィルム上に積層することにより得ることができる。図1にその模式図を記す。
積層フィルムの製造方法の一例として好ましく挙げられるのは、色素、ポリマー、リン脂質、および有機溶媒を含むポリマー溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させ、同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることで得られるハニカム構造フィルムを、少なくとも1層のポリマーからなる基体フィルム上に積層する方法である。
【0016】
本発明のハニカム構造フィルムおよび少なくとも一層の基体フィルムの積層方法としては、特に限定されないが、例えば基体フィルムを作製した上に別に作製しておいたハニカム構造フィルムを積層後、熱圧着により貼付させることができる。
熱圧着の温度は特に制限はないが、ハニカム構造フィルムの材質や、基体フィルムの材質のガラス転移点よりも高い温度であることが好ましい。熱圧着をより効率的に進めるために、必要に応じてシリコンゴムなどの弾性体を圧着時にはり合わせてプレスすることも可能である。
積層フィルム全体の膜厚は10μm以上であることが好ましく、より好ましくは15μm以上である。本発明のハニカム構造フィルムは上述のとおり、好ましくは1〜10μmであることから、基体フィルムの膜厚は適宜選択できる。基体フィルムの膜厚の上限は特に限定されず、用途に応じて調整することができる。キャスト法や溶融法により、必要となる積層フィルム全体フィルムの厚みからハニカム構造フィルムの厚みを除いた膜厚に設定して作成することができる。また、基体フィルムは、必要に応じ、ハニカム構造フィルムを積層させる前に、それ自身を積層させてもよい。
【0017】
また、ハニカム構造フィルムを基体フィルムの両面に存在させることもできる。例えば図2に示すように、基体フィルムの上下にハニカム構造フィルムを積層させることもでき、またハニカム構造フィルム同士を積層することもできる。ハニカム構造フィルム同士を積層する場合は、一方のハニカム構造接着フィルムが基体フィルムとなっている。
両面をハニカム層とする場合、2つの表面を構成する層は同一の材質および/またはハニカム孔径を有していても、それぞれ異なった材質および/またはハニカム孔径を有していてもよく、種々の目的に合わせて適当な構成とすることができる。また、同一の色素を含有していても、一方にのみ含有していても、異なる色素を含有していてもよく、種々の目的に合わせて適当な構成とすることができる。
基体フィルムはハニカム構造フィルムと同一の高分子でも、異種高分子でもよい。たとえば、基体フィルムの分解をより早くさせたい場合は基体フィルムのポリマーとしてポリ乳酸を使用するなど、使用目的により自由に選択することができる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0019】
実施例1
ポリ乳酸(Mw=202,000:(株)島津製作所)のクロロホルム溶液(5g/L)に、ホスファチジルエタノールアミン ジオレオイルをポリマーに対して0.5%の割合(重量)で混合し、さらに法定色素緑色202号をポリマーに対して0.03%の割合で混合し、ポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液をガラス基板上にキャストし、液状膜を得た。
次に、液状膜に室温、湿度70%の水蒸気を吹き付け、溶媒を徐々に蒸発させると共に水蒸気を液状膜表面に結露させて水滴を形成し、ついで水滴を蒸発させてフィルムを調製した。
得られたフィルムは、全表面に孔径約5.5μmの細孔が均一にハニカム状に配置された凹凸部を有し、裏面は平滑で、厚さ10μmの非貫通フィルムであった。得られたフィルムの表面および裏面の輝度を、分光光度計を用いて測定した。波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の2度入射光に対する正反射光の明度を、CIE1976L*a*b*色空間のL*値で測定した。測定結果を表1に示す。
【0020】
実施例2
ポリ乳酸(Mw=202,000:(株)島津製作所)のクロロホルム溶液(5g/L)に、ホスファチジルエタノールアミン ジオレオイルをポリマーに対して0.5%の割合(重量)で混合し、さらに法定色素緑色202号をポリマーに対して0.3%の割合で混合し、ポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液をガラス基板上にキャストし、液状膜を得た。
次に、液状膜に室温、湿度70%の水蒸気を吹き付け、溶媒を徐々に蒸発させると共に水蒸気を液状膜表面に結露させて水滴を形成し、ついで水滴を蒸発させてフィルムを調製した。得られたフィルムは、全表面に孔径約5μmの細孔が均一にハニカム状に配置された凹凸部を有し、裏面は平滑で、厚さ7μmの非貫通フィルムであった。その輝度測定(測定条件は実施例1と同じ)の結果を表1に示す。
【0021】
実施例3
ポリ乳酸(Mw=202,000:(株)島津製作所)のクロロホルム溶液(5g/L)に、ホスファチジルエタノールアミン ジオレオイルをポリマーに対して0.5%の割合(重量)で混合し、さらに法定色素緑色202号をポリマーに対して3%の割合で混合し、ポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液をガラス基板上にキャストし、液状膜を得た。
次に、液状膜に室温、湿度70%の水蒸気を吹き付け、溶媒を徐々に蒸発させると共に水蒸気を液状膜表面に結露させて水滴を形成し、ついで水滴を蒸発させてフィルムを調製した。得られたフィルムは、全表面に孔径約5μmの細孔が均一にハニカム状に配置された凹凸部を有し、裏面は平滑で、厚さ7μmの非貫通フィルムであった。その輝度測定(測定条件は実施例1と同じ)の結果を表1に示す。
【0022】
実施例4
ポリ(乳酸−カプロラクトン)共重合体(Mw=157,000:多木化学)のクロロホルム溶液(5g/L)に、ホスファチジルエタノールアミン ジオレオイルをポリマーに対して0.5%の割合(重量)で混合し、さらに法定色素緑色202号をポリマーに対して0.3%の割合で混合し、ポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液をガラス基板上にキャストし、液状膜を得た。
次に、液状膜に室温、湿度70%の水蒸気を吹き付け、溶媒を徐々に蒸発させると共に水蒸気を液状膜表面に結露させて水滴を形成し、ついで水滴を蒸発させてフィルムを調製した。得られたフィルムは、全表面に孔径約5μmの細孔が均一にハニカム状に配置された凹凸部を有し、裏面は平滑で、厚さ7μmの非貫通フィルムであった。その輝度測定(測定条件は実施例1と同じ)の結果を表1に示す。
【0023】
実施例5
ポリ乳酸(Mw=202,000:(株)島津製作所)のクロロホルム溶液(5g/L)に、ホスファチジルエタノールアミン ジオレオイルをポリマーに対して0.5%の割合(重量)で混合し、さらに法定色素赤色225号をポリマーに対して0.03%の割合で混合し、ポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液をガラス基板上にキャストし、液状膜を得た。
次に、液状膜に室温、湿度70%の水蒸気を吹き付け、溶媒を徐々に蒸発させると共に水蒸気を液状膜表面に結露させて水滴を形成し、ついで水滴を蒸発させてフィルムを調製した。得られたフィルムは、全表面に孔径約5.5μmの細孔が均一にハニカム状に配置された凹凸部を有し、裏面は平滑で、厚さ10μmの非貫通フィルムであった。その輝度測定(測定条件は実施例1と同じ)の結果を表1に示す。
【0024】
実施例6
緑内障は、何らかの原因で視神経が障害され視野(見える範囲)が狭くなる病気で、眼圧の上昇がその病因の一つといわれている。目の中には血液のかわりとなって栄養などを運ぶ、房水とよばれる液体が流れている。房水は毛様体でつくられシュレム管から排出される。目の形状は、この房水の圧力によって保たれていて、これを眼圧とよぶ。この房水の流れが悪くなることで、視神経が障害されることを防ぐために、擬似的にろ過胞を形成させる手術が行われている。緑内障濾過手術により眼圧下降が期待できるようになったが、濾過胞や強膜弁周囲の線維化による眼圧の再上昇が問題となっている。
【0025】
実施例2で作製したフィルムを用いて、図4に示すように緑内障手術時の癒着防止試験を実施した。輪部基底結膜を切開した後、強膜半層をさらに切開した。その後、角膜近くで前房穿孔し、繊維柱帯を切除し、強膜フラップも切除した(図4の(b))。6mm×6mmのハニカムフィルムをハニカム面が上になるように設置し、ナイロン糸で3箇所縫合した(図4の(c))。ハニカム面は、結膜側に接着するため、ろ過胞が崩壊することなく、房水が流れることができる。このとき、ハニカム面を下にしてしまうと、ハニカム面は、強膜側に接着し、ろ過胞を形成することができず、房水は流れずに眼圧が上昇してしまう。
色素が含有されていることで、表裏の識別が容易になった。また、1ヵ月後もハニカム構造フィルムは、癒着防止膜として機能しており、ろ過胞は潰れることなく存在していた。
【0026】
比較例1
色素を含有させない以外は、実施例1と同様の方法でハニカム構造フィルムを作製した。得られたフィルムは、全表面に孔径約5μmの細孔が均一にハニカム状に配置された凹凸部を有し、裏面は平滑で、厚さ7μmの非貫通フィルムであった。その輝度測定(測定条件は実施例1と同じ)の結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1によれば、本発明のハニカム構造フィルムは、色素を含んでいない比較例のハニカム構造フィルムに比べ、表裏の輝度の差が大きく、したがって表裏の判別が容易であることが理解できる。
そもそも、色素を加えて着色すれば、表裏とも同じ割合で輝度が低下し、したがって表裏の輝度の差は小さくなることが想定されるところ、この結果は全く意外なものであった。
もっとも、このような表裏の輝度の差を調べたのは、本発明のハニカム構造フィルムに表裏の判別が容易になるという予想外の効果が存することが判明したので、その理由として考えられることの一つを実施したにほかならない。表裏の輝度の差はこの効果に寄与する理由の一つにすぎず、他のメカニズムも併存しているのかもしれない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のハニカム構造フィルムは、例えば医療用の接着フィルム、インプラント用フィルム、癒着防止材として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】基体フィルムの片面に本発明のハニカム構造フィルムが積層されている本発明の癒着防止材の一例。
【図2】基体フィルムの両面に本発明のハニカム構造フィルムが積層されている本発明の癒着防止材の一例。
【図3】本発明のハニカム構造フィルムの一例の写真。
【図4】本発明の癒着防止材を緑内障治療手術に適用したときの手術方法を説明するための模式図。
【0031】
(a)手術前の眼組織の一部、(b)手術中の眼組織の一部、(c)手術後の眼組織の一部
【符号の説明】
【0032】
1 ハニカム構造フィルム
2 基体フィルム
3 結膜
4 強膜
5 角膜
6 シュレム管
7 水晶体
8 房水の流れ
9 ハニカム構造フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム構造を有するフィルムであって、フィルムを構成するポリマー100重量部に対して色素を0.01から20重量部含有するハニカム構造フィルム。
【請求項2】
色素が法定色素である請求項1に記載のハニカム構造フィルム。
【請求項3】
法定色素が、赤色215号、赤色225号、だいだい色203号、だいだい色204号、黄色204号、緑色202号、および紫色201号からなる群から選ばれる一つまたは複数の色素である請求項2に記載のハニカム構造フィルム。
【請求項4】
波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の2度入射光に対する正反射光の明度が、CIE1976L*a*b*色空間のL*値において、フィルム表面の値からフィルム裏面の値を引いた値が、色素不含有フィルム値より大である請求項1から請求項3のいずれかに記載のハニカム構造フィルム。
【請求項5】
さらにリン脂質を含む、請求項1から請求項4のいずれかに記載のハニカム構造フィルム。
【請求項6】
ポリマーが生分解性ポリマーである請求項1から請求項5のいずれかに記載のハニカム構造フィルム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のハニカム構造フィルムからなる癒着防止材。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のハニカム構造フィルムを基体フィルムに積層してなる癒着防止材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−104639(P2010−104639A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280902(P2008−280902)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】