説明

芋の栽培における施肥方法

【課題】単位面積当りの芋の収量が増加する、芋の栽培における施肥方法を提供すること。
【解決手段】芋の栽培における施肥方法において、元肥施用される化学肥料における総窒素肥料成分の40〜60%の窒素肥料成分及び総加里肥料成分の30〜80%の加里肥料成分を被覆粒状肥料として、好ましくは25℃水中において窒素肥料成分の80%溶出に要する期間が60〜140日である被覆粒状肥料として、元肥施用する工程を有することを特徴とする栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芋の栽培における施肥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜生産においては、水稲栽培ほどの機械化が進んでおらず、収益性向上は主として単位面積当たりの収量の向上に向けられている。
単位面積当たりの収量を向上させることを目的として、作物毎に適切な栽培方法(土壌、温度、肥料、栽培器具等)が種々検討されている。例えば、特許文献1にはジベレリン生合成阻害型植物生長調節剤を用いたサツマイモの増収方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−70号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、単位面積当りの芋の収量を増加させる、芋の栽培における施肥方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は芋の栽培における施肥方法について、鋭意検討を重ねた結果、元肥施用される化学肥料において、窒素肥料成分及び加里肥料成分の特定割合を被覆粒状肥料として元肥施用することにより、単位面積当りの芋の収量が増加し、更には収穫される芋の形状が良好となるという副次的な効果を有することを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の発明を含む。
[発明1]
芋の栽培における施肥方法であって、元肥施用される化学肥料における総窒素肥料成分の40〜60%の窒素肥料成分及び総加里肥料成分の30〜80%の加里肥料成分を被覆粒状肥料として元肥施用する工程を有することを特徴とする栽培方法。
[発明2]
被覆粒状肥料が尿素及び硫酸加里を含有することを特徴とする発明1に記載された栽培方法。
[発明3]
被覆粒状肥料として、25℃水中において窒素肥料成分の80%溶出に要する期間が60〜140日の範囲である被覆粒状肥料を用いることを特徴とする発明1又は2に記載された栽培方法。
[発明4]
被覆粒状肥料として、25℃水中において加里肥料成分の80%溶出に要する期間が80〜140日の範囲である被覆粒状肥料を用いることを特徴とする発明1又は2に記載された栽培方法。
[発明5]
芋がナガイモであることを特徴とする発明1〜4に記載された栽培方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の施肥方法により、単位面積当りの芋の収量が増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を詳しく説明する。
本発明における芋とは、デンプン質を蓄えて肥大化した食用となる地下茎または根を有する作物であり、例えばナガイモ、イチョウイモ、ヤマトイモ、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ等が挙げられる。肥大化した地下茎または根の部分が芋である。
ナガイモ、サツマイモ等のように全体の形状が細長い芋において芋の形状が良好であるとは、芋の長さに対して十分な太さを有するもの、或いは曲がりの少ない形状であることを意味する。全体の形状が細長い芋において、形状が良好であることを数値的に表わす方法としては、例えば芋の単位長さに対する重量(以下、形状指数と記す。)を用いることができる。また、ジャガイモ、サトイモ等のように全体の形状が丸い芋において芋の形状が良好であるとは、表面の凹凸が少ないか、1個当たりの重さが重いことを意味する。同様に形状指数により、形状が良好であることを数値的に表わすことが可能である。
【0009】
野菜等の作物においては、大きさ(重量)、形状などによる出荷規格があるが、例えばナガイモでは、大きさ(重量)の区分は一般に階級と言われ、200g刻みで小さい物から、S、M、L、2L等の階級に分類されている。S以下の階級の小さな芋は廃棄されるか、極めて安い価格で取引されるし、長さに対して十分な太さの無い芋は出荷用の箱に納まりきらずに、出荷が困難になる場合がある。出荷規格内の大きさ(重量)や形状の芋を生産することも、収量とともに重要である。
【0010】
本発明において元肥施用される化学肥料とは、窒素、加里、リン、珪素、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素等の植物の成長に必要な種々の元素を含む無機化合物又は尿素(及び尿素誘導体)を含有する肥料である。
窒素肥料成分を含有する化学肥料としては、例えば尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸加里、石灰窒素、ホルムアルデヒド加工尿素(UF)、アセトアルデヒド加工尿素(CDU)、イソブチルアルデヒド加工尿素(IBDU)、グアニール尿素(GU)等の窒素肥料源化合物を含有する化学肥料が挙げられる。
加里肥料成分を含有する化学肥料としては、例えば塩化加里、硫酸加里、硝酸加里、硫酸加里ソーダ、硫酸加里苦土、重炭酸加里、リン酸加里等の加里肥料源化合物を含有する化学肥料が挙げられる。
本発明において、窒素肥料成分の量はN(窒素原子)換算の重量、加里肥料成分の量はP25(リン酸)換算の重量により求めるものである。
【0011】
本発明の施肥方法において、元肥施用される化学肥料は被覆粒状肥料を含んでいる。被覆粒状肥料とは、粒状肥料の表面を硫黄や樹脂等の被膜にて表面を被覆することによって、粒状肥料中に含有される肥料成分の溶出を抑制した肥料である。
本発明の施肥方法は、元肥施用される化学肥料における総窒素肥料成分の40〜60%の窒素肥料成分及び総加里肥料成分の30〜90%の加里肥料成分を、より好ましくは総窒素肥料成分の40〜60%の加里肥料成分及び総加里肥料成分の40〜70%の加里肥料成分を、被覆粒状肥料(以下、本被覆粒状肥料と記す。)として元肥施用する工程を有することを特徴とする。本被覆粒状肥料は、窒素肥料成分と加里肥料成分との両方を含有している被覆粒状肥料(以下、本被覆複合肥料と記す。)であっても、窒素肥料成分のみを含有する被覆粒状肥料(以下、本被覆窒素肥料と記す。)と加里肥料成分のみを含有する被覆粒状肥料(以下、本被覆加里肥料と記す。)との混合物であってもよい。本発明の好ましい態様においては、本被覆粒状肥料は本被覆窒素肥料と本被覆加里肥料との混合物である。また、本被覆粒状肥料が、本被覆窒素肥料と本被覆加里肥料との混合物である場合、本被覆窒素肥料と本被覆加里肥料との被膜材料や被覆厚みが異なっていてもよい。また、本被覆窒素肥料が異なる種類の被覆窒素肥料の混合物であってもよく、本被覆加里肥料が異なる種類の被覆加里肥料の混合物であってもよい。
【0012】
本被覆複合肥料、本被覆窒素肥料及び本被覆加里肥料は通常、窒素肥料成分及び/又は加里肥料成分を含有する粒状肥料の表面を硫黄や樹脂等で被覆することにより製造することができるが、その被覆方法としては特に限定されず、公知の方法により被覆することができるが、例えば特開平9−208355号公報に記載されているように、攪拌装置自身の回転により、粒状肥料を転動させながら、未硬化の熱硬化性樹脂を添加し、粒状肥料の表面にて樹脂を硬化させて被膜を形成する方法や、特開平10−158084号公報に記載されているように、噴流塔内にて粒状肥料を噴流状態とし、熱可塑性樹脂の溶液を噴霧し、熱風にて溶媒を除去することにより被膜を形成する方法等を用いることができる。
本発明で用いられる被膜材としては、例えば硫黄、ワックス、水溶性高分子、熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン等のポリオレフィン)、熱硬化性樹脂(例えば、ポリウレタン、ポリウレタン)等が挙げられる。また、特開昭63−147888号、特開平2−275792号、特開平4−202078号、特開平4−202079号、特開平5−201787号、特開平6−56567号、特開平6−87684号、特開平6−191980号、特開平6−191981号、特開平6−87684号等に開示された各種の被覆材を挙げることができる。
【0013】
本被覆粒状肥料は、被覆により窒素肥料成分及び/又は加里肥料成分の溶出が抑制されているが、その溶出抑制の程度は、窒素肥料成分の場合、25℃水中において、粒状肥料中の窒素肥料成分の80%溶出に要する期間が好ましくは60〜140日の範囲、より好ましくは80〜120日の範囲である。また、加里肥料成分の場合、25℃水中おいて、粒状肥料中の加里肥料成分の80%溶出に要する期間が好ましくは80〜140日の範囲、より好ましくは80〜120日の間である。
25℃水中における窒素肥料成分又は加里肥料成分の溶出率は、樹脂被覆肥料組成物を25℃恒温水中に、5〜10g/100〜200mlの割合で投じ、経時的に水中に溶け出した窒素肥料成分又は加里肥料成分を定量分析することにより、測定することができる。
【0014】
本被覆粒状肥料が本被覆窒素肥料と本被覆加里肥料との混合物であり、本被覆窒素肥料が異なる種類の被覆窒素肥料の混合物である場合、被覆窒素肥料の混合物は窒素肥料成分の80%溶出(25℃水中)に要する期間が15〜25日で、10%溶出(25℃水中)に要する期間が5日以上である被覆窒素肥料を、10〜50%(より好ましくは20〜40%)含有させることが好ましい。
【0015】
本被覆窒素肥料に含有される窒素肥料源化合物としては、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、石灰窒素が挙げられる。
本被覆加里肥料に含有される加里肥料源化合物としては、硫酸加里、塩化加里、硫酸加里ソーダ、硫酸加里苦土、重炭酸加里、リン酸加里が挙げられる。
本発明の好ましい態様においては、本被覆粒状肥料が尿素を含有しており、より好ましい態様においては、本被覆粒状肥料は尿素を含有する本被覆窒素肥料と硫酸加里を含有する本被覆加里肥料との混合物である。
また、本被覆複合肥料、本被覆窒素肥料及び本被覆加里肥料は、その他の肥料成分を含有していてもよく、その他の肥料成分としては、リン酸、珪素、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄が挙げられる。
【0016】
本発明の施肥方法において、元肥施用される、被覆粒状肥料以外の化学肥料としては、例えば速効性の粒状化成肥料、ペースト状肥料、液体肥料等が挙げられる。これらの肥料には、例えば窒素、加里、リン酸、珪素、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄等の肥料成分が含有される。
【0017】
本発明の施肥方法によれば、元肥施用及び1回又は複数回の追肥施用からなる従来の慣行施肥方法に比して、芋の栽培に必要とされる総窒素肥料成分の量を、70〜98%の範囲とすることが可能である。また、芋の栽培に必要とされる総加里肥料成分の量を、慣行施肥方法に比して、20〜80%とすることが可能である。
【0018】
以下、本発明の方法を、青森県地区におけるナガイモの栽培を例として以下に詳しく説明する。
まず、ナガイモの植付け前の4月から5月にかけて圃場の耕起を行う。この際、通常は堆肥を全面施用し、土壌の状態に応じて土壌改良剤(例えば石灰、苦土炭酸カルシウム)を施用する。施用される堆肥の量は、通常10a当り1〜4t程度である。尚、圃場の耕起には、通常溝堀り機(トレンチャー)を使用して、幅約15cm、深さ約1m、即ち収穫されるナガイモに対して十分の深さまで耕起する。
【0019】
次に、5月から6月にかけて種芋の植付けを行う。種芋には、むかご、一年子、2年子、切り芋等が使用することができる。好ましくは、ウイルス病徴のない植物体から採取された種芋を用いる。
通常の畝幅は110〜120cm、株間は18〜24cmで、10a当り4000〜5000本程度の植付けを行う。
元肥施用は種芋の植付けの前でも後でもよいが、通常は種芋の植付け後の約1ヶ月前後に行われる。ナガイモの元肥施用時に施肥される肥料は、通常10a当り窒素肥料成分として15〜30kg、加里肥料成分として10〜30kg、燐酸肥料成分として20〜80kgである。
【0020】
ナガイモは6月から7月にかけての茎葉伸長期、7月から8月にかけての茎葉繁茂期を迎えるが、茎葉伸長期において新芋が形成され、茎葉繁茂期に芋は生長肥大する。ナガイモの育成においては、必要により圃場をマルチ被覆し、茎葉が伸長し始めた頃に、蔓を巻きつかせるようにネット等を設置する。また、この時期に必要により、殺虫剤、殺菌剤等を散布する。慣行の施肥体系においては、7月から9月にかけて1〜4回の窒素肥料の追肥が行われる。
茎葉繁茂期の後期、9月以降にかけて、芋は成熟期を迎える。この時期における芋の生長により、収穫時の芋の大きさや形状がほぼ決定される。その後、10月から11月にかけて茎葉黄変期を迎えた後、芋を収穫する。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
青森県東部の2箇所の試験地(試験地A及び試験地B)において、下記の表1の条件にてナガイモを栽培した。
なお、該試験地においては、植付け前の耕起の際に10a当り堆肥3000kg、苦土炭カル120kg、及び苦土重焼リン120kgを全面施用した。
【0022】
【表1】

*1:全窒素肥料成分に対して、約51%の窒素肥料成分を被覆尿素の形態にて施用した。
*2:全加里肥料成分に対して、約42%の加里肥料成分を被覆硫酸加里の形態にて施用した。
【0023】
比較例1
実施例1と、植付けから成熟期までに施用される肥料の施肥方法を表2のように変更した以外は同様にナガイモを栽培した。
【0024】
【表2】

*3:3回に別けて施用した。
【0025】
実施例1及び比較例1にて収穫されたナガイモの芋の平均重量及び単位長さ当りの重量を表3に示す。
【0026】
【表3】

*4:単位長さ(cm)に対する重量(g)
【0027】
実施例1及び比較例1において、単位面積当りの収穫された芋の本数はほぼ等しかった。試験地A及び試験地Bのいずれにおいても、本発明の施肥方法で栽培された場合、単位面積当りの収量が多く、芋の形状も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の施肥方法によると、単位面積当りの芋の収量が増加する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芋の栽培における施肥方法であって、元肥施用される化学肥料における総窒素肥料成分の40〜60%の窒素肥料成分及び総加里肥料成分の30〜80%の加里肥料成分を被覆粒状肥料として元肥施用する工程を有することを特徴とする栽培方法。
【請求項2】
被覆粒状肥料が尿素及び硫酸加里を含有することを特徴とする請求項1に記載された栽培方法。
【請求項3】
被覆粒状肥料として、25℃水中において窒素肥料成分の80%溶出に要する期間が60〜140日の範囲である被覆粒状肥料を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載された栽培方法。
【請求項4】
被覆粒状肥料として、25℃水中において加里肥料成分の80%溶出に要する期間が80〜140日の範囲である被覆粒状肥料を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載された栽培方法。
【請求項5】
芋がナガイモであることを特徴とする請求項1〜4に記載された栽培方法。

【公開番号】特開2007−289060(P2007−289060A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120174(P2006−120174)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】