説明

芋の栽培における施肥方法

【課題】単位面積当りの芋(例えば、ナガイモ、サツマイモ等)の収量を増加させる、芋の栽培における施肥方法を提供すること。
【解決手段】芋の栽培における施肥方法であって、植付けから成熟期までに施用される総窒素肥料成分の50%以上を被覆窒素肥料の形態(好ましくは被覆尿素の形態)で元肥施用する工程、及び硫酸カリウム、塩化カリウム、腐植酸カリウム等の速効性加里肥料を追肥施用する工程を有することを特徴とする施肥方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芋の栽培における施肥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲栽培は機械化が進み、一般的には生産規模の拡大による収益性向上を目指している。対して、野菜生産においては、水稲栽培ほどの機械化が進んでおらず、収益性向上は主として単位面積当たりの収量の向上に向けられている。
単位面積当たりの収量を向上させることを目的として、作物毎に適切な栽培方法(土壌、温度、肥料、栽培器具等)が種々検討されている。例えば、特許文献1には特別な栽培器具を用いた山の芋を栽培方法が記載され、特許文献2にはジベレリン生合成阻害型植物生長調節剤を用いたサツマイモの増収方法が記載されている。
近年の作物生産において行われた肥料技術の改良の成果として、肥料成分を含有する粒状物を樹脂等で被覆した、所謂被覆粒状肥料が挙げられる。被覆粒状肥料はこれまで知られていた緩効性肥料よりも、肥効期間の調節がより自由に行えるようになり、施肥回数を軽減できる長所を有するものであった。
【0003】
【特許文献1】特開平10−248375号公報
【特許文献2】特開平9−70号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、単位面積当りの芋の収量を増加させる、芋の栽培における施肥方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況下において、本発明者は芋の栽培における施肥方法について、鋭意検討を重ねた結果、肥料成分のうちの窒素肥料成分及び加里肥料成分を特定の方法で施用することにより、単位面積当りの芋の収量が増加し、更には収穫される芋の形状が良好となるという副次的な効果を有することを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の発明を含む。
[発明1]
芋の栽培における施肥方法であって、植付けから成熟期までに施用される総窒素肥料成分の50%以上を被覆窒素肥料の形態で元肥施用する工程、及び速効性加里肥料を追肥施用する工程を有することを特徴とする施肥方法。
[発明2]
芋がナガイモであることを特徴とする発明1に記載された施肥方法。
[発明3]
被覆窒素肥料が被覆尿素であることを特徴とする発明1又は発明2に記載された施肥方法。
[発明4]
速効性加里肥料が硫酸カリウム、塩化カリウム又は腐植酸カリウムであることを特徴とする発明1〜3のいずれかに記載された施肥方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の施肥方法により、単位面積当りの芋の収量が増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を詳しく説明する。
本発明における芋とは、デンプン質を蓄えて肥大化した食用となる地下茎または根を有する作物であり、例えばナガイモ、イチョウイモ、ヤマトイモ、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ等が挙げられる。肥大化した地下茎または根の部分が芋である。
ナガイモ、サツマイモ等のように全体の形状が細長い芋において芋の形状が良好であるとは、芋の長さに対して十分な太さを有するもの、或いは曲がりの少ない形状であることを意味する。全体の形状が細長い芋において、形状が良好であることを数値的に表わす方法としては、例えば芋の単位長さに対する重量(以下、形状指数と記す。)を用いることができる。また、ジャガイモ、サトイモ等のように全体の形状が丸い芋において芋の形状が良好であるとは、表面の凹凸が少ないか、1個当たりの重さが重いことを意味する。同様に形状指数により、形状が良好であることを数値的に表わすことが可能である。
【0009】
野菜等の作物においては、大きさ(重量)、形状などによる出荷規格があるが、例えばナガイモでは、大きさ(重量)の区分は一般に階級と言われ、200g刻みで小さい物から、S、M、L、2L等の階級に分類されている。S以下の階級の小さな芋は廃棄されるか、極めて安い価格で取引されるし、長さに対して十分な太さの無い芋は出荷用の箱に納まりきらずに、出荷が困難になる場合がある。出荷規格内の大きさ(重量)や形状の芋を生産することも、収量とともに重要である。
【0010】
本発明で用いられる被覆窒素肥料(以下、本被覆窒素肥料と記す。)における窒素肥料成分を含有する窒素源化合物としては、例えば尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石灰窒素、ホルムアルデヒド加工尿素(UF)、アセトアルデヒド加工尿素(CDU)、イソブチルアルデヒド加工尿素(IBDU)、グアニール尿素(GU)等が挙げられる。また、本被覆窒素肥料は、その他の肥料成分を含有していてもよく、その他の肥料成分としては、リン酸、カリウム、珪素、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄等が挙げられる。
また、本被覆窒素肥料は殺虫剤、殺菌剤等の農薬成分を含有することもできる。
【0011】
本被覆窒素肥料は通常、粒状窒素肥料を硫黄や樹脂等で被覆することにより製造することができる。被覆方法としては特に限定されず、公知の方法により被覆することができるが、例えば特開平9−208355号公報に記載されているように、攪拌装置自身の回転により、粒状窒素肥料を転動させながら、未硬化の熱硬化性樹脂を添加し、粒状窒素肥料の表面にて樹脂を硬化させて被膜を形成する方法や、特開平10−158084号公報に記載されているように、噴流塔内にて粒状窒素肥料を噴流状態とし、熱可塑性樹脂の溶液を噴霧し、熱風にて溶媒を除去することにより被膜を形成する方法等を用いることができる。
本発明で用いられる被膜材としては、例えば硫黄、ワックス、水溶性高分子、熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン等のポリオレフィン)、熱硬化性樹脂(例えば、ポリウレタン、ポリウレタン)等が挙げられる。また、特開昭63−147888号、特開平2−275792号、特開平4−202078号、特開平4−202079号、特開平5−201787号、特開平6−56567号、特開平6−87684号、特開平6−191980号、特開平6−191981号、特開平6−87684号等に開示された各種の被覆材を挙げることができる。
【0012】
本被覆窒素肥料は、被覆により窒素肥料成分の溶出が抑制されており、その程度は25℃水中における窒素肥料成分の全量の80%溶出に要する期間が60〜140日の範囲であり、より好ましくは80〜120日の間である。また、本被覆窒素肥料の窒素肥料成分全量のうち10〜50%、より好ましくは20〜40%については、25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出に要する期間が15〜25日である。また、窒素肥料成分の10%溶出に要する期間が5日以上である。25℃水中における窒素肥料成分の溶出率は、樹脂被覆肥料組成物を25℃恒温水中に5〜10g/100〜200mlの割合で投じ、経時的に水中に溶け出した窒素肥料成分を定量分析することにより、測定することができる。
本発明の好ましい態様においては、本被覆窒素肥料が被覆尿素である。
【0013】
本発明の方法においては、根付けから成熟期までに施用される総窒素肥料成分の50%以上を本被覆窒素肥料の形態で元肥施用する。元肥施用される本被覆窒素肥料としては、窒素肥料成分の溶出性能の異なる被覆窒素肥料、含有される窒素肥料成分の種類が異なる被覆窒素肥料等を組合わせて、本被覆窒素肥料として用いることもできる。
【0014】
本発明で用いられる速効性加里肥料(以下、本速効性加里肥料と記す。)における加里肥料成分を含有する加里源化合物としては、例えば塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。これらの加里源化合物を含む速効性加里肥料としては、例えば硫酸加里、塩化加里、硫酸加里苦土、重炭酸加里、腐植酸加里肥料、粗製加里塩、加工苦汁加里肥料、被覆加里肥料、液体けい酸加里肥料等が挙げられる。本速効性加里肥料は、どのような形状の肥料であってもよく、粒状肥料、ペースト状肥料、液状肥料等のいずれの形態の肥料であってもよい。また、本速効性加里肥料はさらに窒素、リン酸、苦土、ホウ素、マンガン等の肥料成分を含有していても良く、本速効性加里肥料を追肥施用する際に、これらの肥料成分を同時に施用しても良い。
【0015】
本発明の方法においては、植付けから成熟期までに施用される肥料における総窒素肥料成分の50%以上の窒素肥料成分を本被覆窒素肥料として元肥施用する。本発明における好ましい態様においては、植付けから成熟期までに施用される肥料の総窒素肥料成分の全量が元肥施用される。一般に被覆窒素肥料を用いた場合、通常の速効性肥料を用いる場合に比較して、作物に有効に利用される窒素肥料成分の割合は増えるので、速攻性の窒素肥料のみを用いて元肥施用及び(複数回の)追肥施用する慣行施肥における総窒素肥料成分の量に対して、本発明の方法において使用される総窒素肥料成分の量は、70〜100%の範囲となる。
本発明の方法において、本被覆窒素肥料と同時に元肥施用されてもよい肥料としては、例えば速効性の粒状化成肥料、ペースト状肥料、液体肥料等が挙げられる。これらの肥料には、例えば窒素、リン酸、カリウム、珪素、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄等の肥料成分を含有される。
【0016】
本速効性加里肥料は、芋の成長期から、地上の茎葉部が黄変し始める黄熟期までの間、好ましくは芋の生長肥大期に、1〜4回に分けて追肥施用される。植付けから成熟期までに施用される肥料における総加里肥料成分に対して、追肥施用される加里肥料成分の量は通常20〜80%の範囲であり、好ましくは50〜80%の範囲である。
【0017】
以下、本発明の方法を、青森県地区におけるナガイモの栽培を例として以下に詳しく説明する。
まず、ナガイモの植付け前の4月から5月にかけて圃場の耕起を行う。この際、通常は堆肥を全面施用し、土壌の状態に応じて土壌改良剤(例えば石灰、苦土炭酸カルシウム)を施用する。施用される堆肥の量は、通常10a当り1〜4t程度である。尚、圃場の耕起には、通常溝堀り機(トレンチャー)を使用して、幅約15cm、深さ約1m、即ち収穫されるナガイモに対して十分の深さまで耕起する。
【0018】
次に、5月から6月にかけて種芋の植付けを行う。種芋には、むかご、一年子、2年子、切り芋等が使用することができる。好ましくは、ウイルス病徴のない植物体から採取された種芋を用いる。
通常の畝幅は110〜120cm、株間は18〜24cmで、10a当り4000〜5000本程度の植付けを行う。
元肥施用にて施肥される本被覆窒素肥料は、種芋の植付けの前でも後でもよいが、通常は種芋の植付け後の約1ヶ月前後に行われる。ナガイモ元肥施用により施肥される本被覆窒素肥料は、窒素肥料成分として通常10a当り10〜20kgである。この他に速効性の窒素を成分として5〜10kg、燐酸肥料成分として20〜80kg、加里肥料成分として5〜20kgを通常施用する。
【0019】
ナガイモは6月から7月にかけての茎葉伸長期、7月から8月にかけての茎葉繁茂期を迎えるが、茎葉伸長期において新芋が形成され、茎葉繁茂期に芋は生長肥大する。ナガイモの育成においては、必要により圃場をマルチ被覆し、茎葉が伸長し始めた頃に、蔓を巻きつかせるようにネット等を設置する。また、この時期に必要により、殺虫剤、殺菌剤等を散布する。
慣行の施肥体系においては、7月から9月にかけて1〜4回の窒素肥料の追肥が行われる。本発明の方法においては、通常は茎葉伸長期から茎葉繁茂期において、1〜4回の本速効性加里肥料を追肥施用する。ナガイモの育成においては、本速効性加里肥料における加里肥料成分の量は、通常10a当り5〜30kgである。
茎葉繁茂期の後期、9月以降にかけて、芋は成熟期を迎える。この時期における芋の生長により、収穫時の芋の大きさや形状がほぼ決定される。その後、10月から11月にかけて茎葉黄変期を迎えた後、芋を収穫する。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
青森県東部において、下記の条件にてナガイモを栽培した。
植付け前の耕起の際に、10a当り堆肥3000kg、苦土炭カル120kg、及び苦土重焼リン120kgを全面施用した。追肥は7月に1回、8月に2回で行った。元肥施用及び追肥施用した10a当りの肥料成分の量を表1に記す。
【0021】
【表1】

*1:全て被覆尿素を使用した。
*2:3回に分けて施用した。加里肥料成分としては硫酸カリウムを用いた。
【0022】
比較例1
実施例1と、植付けから成熟期までに施用される肥料の施肥方法を表2のように変更した以外は同様にナガイモを栽培した。元肥施用及び追肥施用した10a当りの肥料成分の量を表2に記す。
【0023】
【表2】

*3:全て被覆尿素を使用した。
【0024】
比較例2
実施例1と、植付けから成熟期までに施用される肥料の施肥方法を表3のように変更した以外は同様にナガイモを栽培した。元肥施用及び追肥施用した10a当りの肥料成分の量を表3に記す。
【0025】
【表3】

*4:3回に分けて施用した。加里肥料成分としては硫酸カリウムを用いた。
【0026】
実施例1、比較例1及び比較例2にて収穫されたナガイモの芋の平均長さ、平均重量及び形状指数を表4に示す。
【0027】
【表4】

*4:単位長さ(cm)に対する重量(g)
【0028】
実施例1、比較例1及び比較例2において、単位面積当りの収穫された芋の本数はほぼ等しく、実施例1が最も単位面積当りの収量が多かった。また、実施例1の芋は形状指数が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の施肥方法によると、単位面積当りの芋の収量が増加する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芋の栽培における施肥方法であって、植付けから成熟期までに施用される総窒素肥料成分の50%以上を被覆窒素肥料の形態で元肥施用する工程、及び速効性加里肥料を追肥施用する工程を有することを特徴とする施肥方法。
【請求項2】
芋がナガイモであることを特徴とする請求項1に記載された施肥方法。
【請求項3】
被覆窒素肥料が被覆尿素であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された施肥方法。
【請求項4】
速効性加里肥料が硫酸カリウム、塩化カリウム又は腐植酸カリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された施肥方法。

【公開番号】特開2007−89488(P2007−89488A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283887(P2005−283887)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】