説明

芝生のサマーデクライン防止方法及び芝生用サマーデクライン防止剤

【課題】 薬剤の使用量を低減して環境負荷を抑え芝生のサマーデクラインを防止し、長期間にわたり芝生を良好に保つことである。
【解決手段】 芝生にサマーデクラインが発生する時期になる前に芝生に保湿剤を投与する。保湿剤としてはグリセリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の1種又は2種以上の組合せを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝生に発生するサマーデクラインを防止するための方法、及び芝生用サマーデクライン防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場などの芝生の管理においては、芝生の病気の治癒や防止のために殺菌剤などを使用しているが、近隣の土壌や河川への流出など自然環境への影響が問題となる。また、芝生用の農薬使用においては、環境問題などいくつかの問題点が多い上、農薬使用はゴルフ場においてもコストがかかるという点でも問題である。
【0003】
芝生の病気は夏期に発生することが多く、夏期の高温によって芝草が枯れる病害があり、特にゴルフ場のグリーン用の芝生に発生すると、プレーに影響を与え外観上も好ましくないため、芝生の管理において重要な問題である。このような発生してしまった病害を治癒するため、又は病害の発生を防止するためには、夏期に重点的に芝生に殺菌剤や界面活性剤などが散布されている。また、夏期に界面活性剤を散布すると土壌に付着した薬剤等の効用を洗い流してしまい、かえってマイナスである。
【0004】
夏期の病害の一種であるドライスポットを防止ないし除去する方法として、特許文献1では、非イオン界面活性剤及び/又は両性界面活性剤、カチオン系殺菌剤並びに金属キレート剤を含有する土壌処理剤組成物によって、ドライスポットの発生防止や、更には発生したドライスポットの消滅(芝生の育成回復)を促す。また、特許文献2では、アセチレンアルコール誘導体を芝生面に散布することにより、ゴルフ場の芝生面のドライスポットの発生を防止及び改良する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−20849号公報
【特許文献2】特許第2847494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
芝生のドライスポットなど夏期の病害を防止する従来の方法では、夏期の間に複数回にわたり薬剤を散布するため、薬剤の散布回数を低減することができず、薬剤の総量が増え環境負荷につながり、また、散布の手間もかかる。
【0006】
一方で、夏期の芝生の管理では、サマーデクラインといわれる夏期の芝草が衰退してしまう症状があり効果的な防止対策が望まれる。サマーデクラインは、芝草が枯死しない程度の高温下(気温約30℃以上、地温約24℃以上)に長時間さらされることを起因として、初期の症状では根が枯死して短化し、症状が進むと藻類が繁殖し、病原菌が活性化する。従来、サマーデクラインの効果的な防止方法は無かった。
【0007】
そこで、本発明の目的としては、薬剤の使用量を低減して環境負荷を抑え芝生のサマーデクラインを防止し、長期間にわたり芝生を良好に保つことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、芝生にサマーデクラインが発生する時期になる前に芝生に保湿剤を投与することで、その後にサマーデクラインが発生する時期になってもサマーデクラインが発生しないことを見出しなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 芝生にサマーデクラインが発生する時期になる前に芝生に保湿剤を投与することを特徴とする芝生のサマーデクライン防止方法。
(2) 前記保湿剤がグリセリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の1種又は2種以上の組合せを含むことを特徴とする(1)に記載された芝生のサマーデクライン防止方法。
(3) グリセリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の1種又は2種以上の組合せを有効成分として含有することを特徴とする芝生用サマーデクライン防止剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薬剤の使用量を低減して環境負荷を抑え芝生のサマーデクラインを防止し、長期間にわたり芝生を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本実施の形態における例示が本発明を限定することはない。
【0012】
本発明の芝生のサマーデクライン防止方法は、芝生にサマーデクラインが発生する時期になる前に芝生に保湿剤を投与することを特徴とする。
【0013】
サマーデクラインは、芝生が長期間にわたり高温にさらされることよって芝草が枯れる症状であり、特に夏期(おおよそ6月から8月(季節及び暦は日本を基準とする、以下同じ))に発生しやすく、サマーデクラインが発生すると芝生の育成が阻害され外観が劣り好ましくない。特にゴルフ場の芝生に発生するとプレーのコンディションに悪影響を与える。また、芝生にサマーデクラインが一旦発生すると、後から水分を補給しても芝生に十分に水分量を保たせることが難しい。そのため、サマーデクラインは発生する前に防止することが望まれる。しかし、サマーデクラインを防止するために夏期になってから薬剤を散布する場合では、薬剤を複数回に分けて散布するため、総合的な薬剤量が増加してしまう傾向にあり、また散布作業の手間もかかる。
【0014】
本発明では、例えば、芝生にサマーデクラインが発生しやすい夏期になる前に、冬期(おおよそ12月から2月)に芝生に保湿剤を投与することで、冬から夏へと長期間にわたり、芝生のサマーデクラインの発生を防止することができる。これは、冬期に保湿剤を投与し芝生を保湿することで、保湿状態が夏期まで続き、夏期の高温の環境でも芝生の水分が調整されるため、芝生のサマーデクラインが防止されると考えられる。また、冬期中に保湿剤を投与することで、土壌中の水分量を長期的に一定に保つことができ、これによって免疫力が高められ、年間を通して芝生を健全な状態へ導くことが可能になる。
【0015】
本発明の芝生のサマーデクライン防止方法によれば、サマーデクラインを防止するために、薬剤の投与回数を少なくして、薬剤の使用量を抑え環境負荷を低減し、薬剤の投与の手間を少なくすることができる。
【0016】
保湿剤を投与する時期としては、芝生にサマーデクラインが発生する時期の前であり、好ましくは、おおよそ8月をピークにして6月から7月の夏期になる前であり、おおよそ3月から6月の春期ないしおおよそ12月から2月の冬期であり、好ましくは、芝生の成長が減退している冬期であり、芝生の根が動き出す前に散布する。もしくは、最高気温が10℃未満でかつ最低湿度が30%を下回る時が1週間ぐらい続いた時期を目安とすればよい。
【0017】
保湿剤の投与回数としては、サマーデクラインが発生する時期の前に2回〜数回程度であり、1回としてもその後のサマーデクラインの防止効果を得ることができる。投与間隔は約1ヶ月が好ましい。例えば、12月中旬に1回目を投与し、1月中旬から2月上旬の間に2回目を投与する。なお、サマーデクラインが発生する時期には保湿剤の投与を行わなくてもサマーデクラインの防止の効果を得ることができる。保湿剤の投与回数を少なくすることで、薬剤の投与量を削減し環境に対する負荷を低減することができ、また、作業回数が減るため投与にかかる労力を少なくすることができる。
【0018】
本発明の保湿剤としては、グリセリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム(PCA−Na)及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の1種又は2種以上の組み合わせを含むことが好ましいが、これに限定されない。
【0019】
グリセリン、PCA−Na及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤は、それぞれ単独としても芝生用の保湿剤として好適に用いることができ、長期に渡り土壌の保水量を維持しサマーデクラインの発生を防止することができる。さらに、グリセリンは、環境負荷が比較的少ないため、近隣の自然環境への影響を抑えることができる。また、PCA−Naでは、芝草の葉面が緑化するなどの肥料としてのさらなる効果が得られる。また、ポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤は、冬期など気温が低い時期に散布する際に、散布後すぐに霜が防除されるというさらなる効果を発揮する。
【0020】
好適な保湿剤の一例としては、グリセリンとPCA−Naをともに含有するものであり、環境負荷を低減するとともに芝生の肥料効果を得ることができる。好適にはグリセリンとPCA−Naの混合比を2:1から1:2の範囲とすることで、相乗的な効果を有利に発揮させることができる。
【0021】
また、他の例の好適な保湿剤としては、グリセリンとポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤をともに含有するものであり、環境負荷を低減するとともに冬期の霜害に対して即効性を得ることができる。好適にはグリセリンとポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の混合比を2:1から1:2の範囲とすることで、相乗的な効果を有利に発揮させることができる。
【0022】
さらに、他の例の好適な保湿剤としては、グリセリンとPCA−Naとポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤をともに含有し、これらの混合比を変更することで環境負荷、肥料効果、霜害対策を適宜調整したものである。好適には、グリセリンとPCA−Naとポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の混合比を2.5:1:2.5とするとよい。
【0023】
また、芝生への保湿剤の投与方法としては、保湿剤を芝生1mに対し0.5〜20cc/m散布することが好ましい。このとき保湿剤を水で25〜2000倍に希釈するとよい。保湿剤の投与量がこれより少なくなるとサマーデクラインの防止効果が得にくく、多くなると芝生に薬害が発生する可能性がある。
【0024】
本発明の芝生用サマーデクライン防止剤は、グリセリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム及びグリセリンのうち1種又は2種以上の組み合わせを含有することを特徴とする。この芝生用サマーデクライン防止剤は、芝生にサマーデクラインが発生する時期になる前に芝生に投与することで、芝生のサマーデクラインをより効果的に防止することができる。好ましくは、本発明の芝生用サマーデクライン防止剤は夏期のサマーデクライン発生に備え冬期に使用するためのものである。この芝生用サマーデクライン防止剤は、上述したように、各成分の組み合わせや混合比などを適宜調整することができ、また各種添加剤と組み合せることもできる。
【0025】
本発明の芝生用サマーデクライン防止剤によれば、効果的にサマーデクラインを防止することができ、特に、サマーデクラインが発生する時期になる前に防止剤を芝生に投与することで、その後サマーデクラインが発生する時期になってもサマーデクラインの発生を防止することができる。これによって、本発明の芝生用サマーデクライン防止剤によれば、投与回数を少なくすることができ、防止剤の使用量を少なくし環境負荷を低減し、薬剤の投与の手間を少なくすることができる。
【0026】
本発明を適用することができる芝生としては特に限定されないが、ベントグラス、高麗芝など一般的な品種を挙げることができる。
【0027】
また、本発明は、サマーデクラインが発生する恐れがある芝生に対して好適に適用することができ、例えば、ゴルフ場のグリーンやフェアウェイなどの芝生を挙げることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の一例として実施例について説明する。
【0029】
(試験例1)
1mの芝生に対してグリセリン及びPCA−Na(味の素株式会社製AJIDEWNL−50(登録商標))を表1に示す容量で用意し、1000ccの水で希釈して試料を得た。各試料の芝生への散布は、平成17年1月28日(気温7℃)の冬期に実施した。試験対象として、ベントグリーンが植えられたナーセリ試験場(千葉県)を用い、このナーセリ試験場を5区画(1区画1m)に分け、各試料を1区画ごとに散布した。なお、散布の時点でナーセリ試験場にはサマーデクライン及び薬害の発生はなかった。比較例として試料を散布しない区画を用意した。平成17年7月に、サマーデクライン及び薬害の発生を目視により観察した。また、芝生の色を観察し、芝生の色が緑である場合を肥料効果が大きいものとして評価した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すように、冬期にグリセリン+PCA−Na、PCA−Naの各試料を散布した区画には、サマーデクラインが発生しなかった。また肥料効果が大きく薬害も発生しなかった。一方、処理をしなかった比較例ではサマーデクラインの発生が認められた。
【0032】
(試験例2)
1mの芝生に対してグリセリン及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤(ライオン株式会社製レオコンPG2510)を表1に示す容量で用意し、500cc又は1000ccの水で希釈して試料を得た。各試料の芝生への散布は、平成16年12月21日(気温10℃)の冬期に実施した。また、霜の防除の程度を観察した。その他は試験例1と同様にして試験を行い、得られた結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示すように、冬期にグリセリン、グリセリン+レオコン、レオコンの各試料を散布した区画は、試験例1と同様にサマーデクラインが発生しなかった。また、霜の防除についての効果を発揮し、薬害も無かった。一方、処理をしなかった比較例ではサマーデクラインの発生が認められた。
【0035】
上述した試験例1及び2において継続して芝生の観察を行ったところ、平成17年8月に入り、気温30度が続き、比較例ではサマーデクラインから派生したと思われるたんそ病、ピシウム病、ドライスポットなどの病害が発生し、全体に広がっていったが、実施例の各試料を散布した区画では病害が侵入することなく健全なグリーンを保った。さらに、平成17年9月に入り、比較例では病害によって目数の落ちた芝生から藻類が発生し、苔や藻が目立ち始めたが、実施例の各試料を散布した区画では藻類の発生は著しく少ない状態であった。
【0036】
このように、冬期に保湿剤を芝生に投与することで、夏期のサマーデクラインを防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芝生にサマーデクラインが発生する時期になる前に芝生に保湿剤を投与することを特徴とする芝生のサマーデクライン防止方法。
【請求項2】
前記保湿剤がグリセリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の1種又は2種以上の組合せを含むことを特徴とする請求項1に記載された芝生のサマーデクライン防止方法。
【請求項3】
グリセリン、DL−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、及びポリオキシアルキレングリコール系ノニオン界面活性剤の1種又は2種以上の組合せを有効成分として含有することを特徴とする芝生用サマーデクライン防止剤。

【公開番号】特開2007−230885(P2007−230885A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51852(P2006−51852)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(506173455)
【Fターム(参考)】