説明

芯出し冶具

【目的】 芯出しのための計測からマーキングまでを一括して迅速かつ正確に行うことが可能であり、且つ施工、組立時に必要な基準線を正確にマーキングすることが可能な芯出し治具の提供。
【解決手段】 管状又は角状部材の外面に対し、少なくとも2点以上で接触する当接部を備えた固定用脚部2を有し、固定用脚部2はケーシング3に取り付けられ、ケーシング3全体を固定用脚部2によって管状又は角状部材に設置するように構成され、ケーシング3には管状又は角状部材に対する水平状態を示す水準器4が内蔵されているとともに、管状又は角状部材の長手方向に亘る中心線を示す中心線指示手段を内蔵し、且つ、前後又は上下動可能なケガキ部7がケーシング3に設けられ、ケガキ部7が管状又は角状部材の外周面に接触することにより、中心位置をマーキングすることを特徴とする芯出し治具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管の敷設時、或いはパイプ材を溶接等によって所定の機器に設置する場合に、位置調整(芯出し)を行うために使用される芯出し治具に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管や下水管などの配管を敷設する際、或いは管状、角状などのパイプ材をタンクなどに溶接する場合に正確な位置決めを行うために、いわゆる墨だし作業を行う。
従来、このような墨だしを行う装置として、特開平7−227773号公報(特許文献1)記載の「芯出し装置」、又は、特開2001−50701号公報(特許文献2)記載の円形管用側尺付求心器、実開平7−14281号号公報(特許文献3)記載の「配管の芯出し工具」などが公知である。
【0003】
特許文献1記載の「芯出し装置」は、ノギスを操作するようなイメージのもので、管を両側から挟み込むことによって配管の中央部の位置を示すようになっている。
また、特許文献2記載の「円形管用側尺付求心器」は、やはり配管を両側から挟み込むことによって中央部を測定し、測定結果に基づき位置決めを行うようになっている。
【0004】
さらに、特許文献3記載の「配管の芯出し工具」は、門型フレームの上部に水準器を取り付けるとともにフレーム水平面と直交する標線をフレームの側面に設け、当該標線の指示に従って芯出しを行うもので、地中に埋設する配管の分野などで利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−227773号公報
【特許文献2】特開2001−50701号公報
【特許文献3】実開平7−14281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した各文献記載の計測器は、芯出しの対象となる配管等の中心位置を計測したのち、マーカー等で別途マーキングを行わなければならなかった。
このため、芯出し作業が長時間に亘るとともに、作業者にとっても労力の負担が大きいという課題があり、配管の敷設作業やパイプ材の溶接作業全般の効率悪化を招き、簡便な方法で且つ正確に芯出し作業を行うことが可能な治具の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、芯出しのための計測からマーキングまでを一括して行うことが可能な芯出し治具を提供することを目的としている。
つまり、本発明の目的は、計測からマーキングまでの一連の芯出し作業を迅速かつ正確に行うことが可能であり、且つ施工、組立時に必要な基準線を正確にマーキングすることが可能な芯出し治具を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、管状又は角状部材の外面に対し、少なくとも2点以上で接触する当接部を備えた固定用脚部を有し、該固定用脚部はケーシングに取り付けられ、該ケーシング全体を該固定用脚部によって管状又は角状部材に設置するように構成され、該ケーシングには管状又は角状部材に対する水平状態を示す水準器が内蔵されているとともに、管状又は角状部材の長手方向に亘る中心線を示す中心線指示手段を内蔵し、且つ、前後又は上下動可能なケガキ針が該ケーシングに設けられ、該ケガキ針が管状又は角状部材の外面に接触することにより、中心位置をマーキングすることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、上記1項において、前記中心線表示手段は、レーザ墨だし器、墨汁及びつぼ糸を使用した墨つぼであることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、上記1項又は2項において、前記固定用脚部は、長手方向から視た場合に、ウイング状に形成され、その下端部が、管状又は角状部材の外面に接触する前記当接部であり、前記ケーシングの下面に、前後一対設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
従来技術を用いた計測器では、中心位置の計測とマーキングが別々の作業となり、中心位置の計測とは別個に基準線を対象物にマーキングする必要があったが、本発明によれば、それらの作業を一度に包括的に実施することができる。そのため、作業時間や労力等の軽減が実現できると同時に、冶具や工具等の削減にもつながり、事業者の在庫管理負担を軽減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る芯出し冶具の一実施形態に係る芯出し冶具の概略斜視図である。
【図2】同じく、本実施形態の芯出し冶具の分解斜視図である。
【図3】同じく、本実施形態の芯出し冶具の側面断面図である。
【図4】同じく、本実施形態の芯出し冶具の断面図であり、配管の長手方向に視た図である。
【図5】本実施形態の芯出し冶具の使用方法を示す説明図であり、芯出し対象となる管状の配管に対し芯出し作業を行う場合を想定した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る芯出し治具の好適な実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施形態に係る芯出し冶具の概略斜視図、図2は本実施形態の芯出し冶具の分解斜視図、図3及び図4は本実施形態の芯出し冶具の断面図である。
これらの図に示されるように、本実施形態の芯出し治具100は、固定用脚部2、ケーシング3、水準器4、中心線指示手段としての墨つぼ5、ケガキ部としてケガキ針7等から構成されている。
【0015】
固定用脚部2は、管状の配管1の外周面に当接した状態で載置させることが可能なようにケーシング3の底面に設置され、山形の形状に形成されている。この固定用脚部2は、本実施形態では鋼板をアングル状に成形することによって形成され、長手方向から視てウイング状をなしているが、これに限らず、ケーシング3を配管1の外周面上に、がたつきなく、載置することができれば、その形状は問わない。
【0016】
固定用脚部2の傾斜部2Aには一対の脚部固定ガイド13が傾斜面に沿って接合され、ケーシング3との間に介在させることによって補強を施し、芯出し時の精度を確保するようになっている。図4(B)に示されるように、芯出し冶具100は固定用脚部2の当接部2Aによって、配管1の外周面の二か所に点で接触した状態で載置され、これによって芯出し時の精度が確保されるようになっている。
なお、本実施形態では芯出しを行う被対象物として、管状の配管1を例に説明しているが、これに限らず角パイプ、木製の柱などについても適用可能である。
【0017】
図2に示されるように、ケーシング3には、水準器4を収納する水準器収納口15、墨つぼ5を収納する墨つぼ収納部6A、ケガキ針7を収容可能な長穴状に穿設されたケガキ通し穴9、つぼ糸通過ガイド12等が設けられている。
水準器4は、配管1に対するケーシング3の傾斜度合を示すとともに、墨つぼ5は、配管1の長手方向に亘って中心線のマーキングを行う作業、いわゆる墨だし作業ができるようになっている。
【0018】
ケガキ針7は、十字形状に形成され、横方向にケガキ支持軸14A、縦方向にケガキ支持軸14Bを具備している。ケガキ支持軸14Aは、ケーシング3の一端側の両側面に穿設されたケガキ通し穴8A、8Aによって軸支され、その両端はセットボルト8によってケーシング3に回動可能に固定されている。
【0019】
ケーシング3の上面と下面には、ケガキ支持軸14Bの上部軸及び下部軸の前後方向の動きを許容するケガキ通し穴9が設けられ、これによってケガキ針7はケガキ支持軸14Bを回転軸としてケガキ通し穴9の大きさの範囲内で前後に移動することができる。ケガキ針7の最下部には鋭利な尖端部14Cが形成され、この尖端部14Cによって被対象物の表面に対しマーキングを施すようになっている。
【0020】
図3及び図4にも示されるように、芯出し治具100の水平状態を確認する水準器4は、ケーシング3に施された水準器収納口15に収められている。
中心線表示手段である墨つぼ5は、ケーシング3の中央部に形成された墨つぼ収納部6Aに収納されているとともに、墨つぼ収納部6Aの長辺部には開閉可能な墨つぼフタ6が接合されている。墨つぼ5には、その内部にマーキングするための墨が充填された墨タンクとリール状に巻かれたつぼ糸10が入っており、つぼ糸10には墨タンクの墨が付着するようになっている。
【0021】
また、ケーシング3の下部側には、つぼ糸通過ガイド12が下方に向けて取り付けられており、その凹部12Aにつぼ糸10を接触させながら、引き出すことによってケーシング3の中央位置から導くことができるようになっている。
加えて、ケガキ部として、前述したケガキ針7とは別に、補助的な機能を有する補助ケガキ針20が、つぼ糸通過ガイド12の直後に設置されている。
【0022】
さらに、図3に示されるように、芯出し治具100のケガキ針7側には、平準確認用オモリ16が支持糸17によって鉛直方向に垂下するように設けられており、水準器4と合わせて水平状態を確認するとともに、この平準確認用オモリ16によって配管1の最上部及び最下部の位置、つまり直径となる位置を示すことができるようになっている。
【0023】
図5は芯出し対象となる管状の配管1に対し、芯出し作業を行う場合を想定した図である。芯出し作業を行う際は以下のように行う。
先ず、図1に示されるように、芯出し冶具100を配管1の一端に水準器4で水平状態を確認しながら、固定用脚部2の各々のウイング下端部が配管1に接するように設置する。その状態を維持しながらケガキ針7を長手方向に動かし、配管1の表面に尖端部14Cによりキズをつけ、配管1の中心位置をマーキングする。
【0024】
次いで、芯出し冶具100を反転させ、配管1の他端に水準器4で水平状態を確認しながら、固定用脚部2の各々のウイング下端部が対象配管に接するように設置する。
そして、同様にケガキ針7を長手方向に動かし、配管1の表面にキズをつけ、配管1の中心位置をマーキングすることにより、配管1の両端における中心位置が示される。
【0025】
さらに、芯出し冶具100は、その位置を保持したまま、配管1の左端側よりつぼ糸つまみ11を手でつまみ、墨つぼ5から、つぼ糸通過ガイド12を通しながら、最初に配管1の左端にケガキ7によってマークした中心位置を通るように引っ張り出すと、マーキング用の墨が付着されたつぼ糸10が配管1を二分することとなり、つぼ糸10に付着している墨によって配管1に中心線がマーキングされる。
【0026】
この状態で芯出し冶具100が接していたケガキ針7の設置部分から、つぼ糸通過ガイド12の間はマーキングされていない部分であるので、芯出し冶具を再度長手方向に反転させ、ケガキ7の先端を既につぼ糸10でマーキングされた中心線に合わせたのち、つぼ糸つまみ11を一番最初にケガキ針7でマークした中心位置に合わせながら手で引っ張り、マーキングされていない部分に中心線をマーキングする。これにより、配管1に1本の中心線がマーキングされる。
【0027】
図5は芯出し対象となる配管1に、治具100を水平に設置する仕組みを表した図であり、配管1の長手方向から視た状態を示している。また、同図に示される水準器4は、治具を設置する際における水準器4内の気泡19の位置と水平状態の相関を模式的に示している。
【0028】
図5に示されるように、芯出し冶具100が配管1に水平に接触しているときは、水準器4の気泡19は中央に位置するため、つぼ糸通過ガイド12下部の半円状の隙間が、結果的に配管1の頂点に位置する。
一方、芯出し冶具100が配管1に水平に接触していないときは、水準器4の気泡19が中央から左右のいずれかに移動し、つぼ糸通過ガイド12下部の半円状の隙間が配管1の頂点からずれるため、正しい中心位置をマーキングすることができない。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によれば、芯出し治具100に内蔵されている水準器4によって治具100を配管1に対して水平に設置されているかをまず判断した後、内蔵されている墨つぼ5並びにケガキ針7を使用して、配管1に中心線を迅速にマーキングして墨出しを行うことが可能となる。
要するに、芯出しのための計測からマーキングまでの作業を一括して行うことができ、配管作業等における工数の大幅な削減、工具の数も低減することが可能となる。
【0030】
なお、本実施形態では、芯出しに際してマーキングを行う中心線指示手段として、墨つぼ5を利用しているが、これに限らず、レーザ式の芯出し装置なども使用することが可能である。これによれば、芯出し時における作業効率の向上を図ることができる。
また、固定用脚部2は、鋼板をアングル状に成形した部材を利用しているが、これに限らず、配管等に対して少なくとも2点以上で接触し、精度を確保することの可能であれば、例えば合計4つ等、複数の固定用脚部をケーシング3に設置してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 配管
2 固定用脚部
2A 当接部
3 ケーシング
4 水準器
5 墨つぼ
6A 墨つぼ収納部
6B 墨つぼフタ
7 ケガキ針
8 セットボルト
9 ケガキ通し穴
10 つぼ糸
11つぼ糸つまみ
12 つぼ糸通過ガイド
12A 凹部
13 脚部固定ガイド
14A ケガキ支持軸
14B ケガキ支持軸
14C 尖端部
15 水準器収納口
16 平準確認用オモリ
19 気泡
20 補助ケガキ針
100 芯出し治具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状又は角状部材の外面に対し、少なくとも2点以上で接触する当接部を備えた固定用脚部を有し、該固定用脚部はケーシングに取り付けられ、該ケーシング全体を該固定用脚部によって管状又は角状部材に設置するように構成され、該ケーシングには管状又は角状部材に対する水平状態を示す水準器が内蔵されているとともに、管状又は角状部材の長手方向に亘る中心線を示す中心線指示手段を内蔵し、且つ、前後又は上下動可能なケガキ部が該ケーシングに設けられ、該ケガキ部が管状又は角状部材の外面に接触することにより、中心位置をマーキングすることを特徴とする芯出し治具。
【請求項2】
前記中心線表示手段は、レーザ墨だし器、墨汁及びつぼ糸を使用した墨つぼであることを特徴とする請求項1に記載の芯出し治具。
【請求項3】
前記固定用脚部は、長手方向から視た場合に、ウイング状に形成され、その下端部が、管状又は角状部材の外面に接触する前記当接部であり、前記ケーシングの下面に、前後一対設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の芯出し治具。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−115956(P2012−115956A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268869(P2010−268869)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【特許番号】特許第4870225号(P4870225)
【特許公報発行日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(510317645)