説明

芯鞘型バインダー繊維

【課題】よりソフトな風合いを有する繊維構造体を得るために好適な、バイオマス由来ポリマーを芯部に配した芯鞘型バインダー繊維であって、バイオマス由来ポリマーのみからなるバインダー繊維と異なり、耐摩耗性に優れた芯鞘型バインダー繊維を提供する。
【解決手段】芯鞘型複合繊維からなるバインダー繊維であって、前記複合繊維の芯部がポリ乳酸、鞘部が前記ポリ乳酸よりも低融点の共重合ポリエステルで構成されている芯鞘型バインダー繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトな風合いを有する芯鞘型バインダー繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド等から構成される合成繊維の中で、低融点成分を鞘部、高融点成分を芯部に配して、鞘部の成分を熱接着成分として機能させるバインダー繊維は、熱処理によって容易に不織布等の繊維構造物を作成できる素材として、様々な用途において使用されている。
【0003】
しかし、これらの合成繊維は、使用後、自然界に放置されると、分解されにくい為にいろいろな問題が生じるものであった。例えば、これら合成繊維からなる生活資材、農業資材、土木資材等は、分解されにくい為、使用後は土中に埋める、焼却する等の処理が必要となり、土中に埋める場合には廃棄場所に制限があり、また、焼却の際には大きな熱量を要するものであった。
【0004】
また、従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある貴重な化石資源を原料としているが、近年、該化石資源はその資源不足も懸念されるだけでなく、二酸化炭素発生量についても社会に大きな影響を与えている。このような社会背景にあって、二酸化炭素固定化は地球温暖化防止に効果があることが期待され、特に二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書に対し、二酸化炭素固定化物質は非常に注目度が高く、バイオマス由来物質は積極的な使用が望まれている。該バイオマス由来の合成繊維や合成樹脂を燃焼させた際に出る二酸化炭素はもともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、重要視する傾向となっている。
【0005】
上記の問題より、自然界で分解性を有する、いわゆる生分解性樹脂の開発が盛んに行われている。その中でも、耐熱性、製糸性に優れるポリ乳酸が注目されており、ポリ乳酸を原料としたバインダー繊維についても検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、融点が低いポリ乳酸を鞘部、融点が高いポリ乳酸を芯部に配したバインダー繊維が提案されている。しかし、このバインダー繊維を熱処理により不織布とした場合、ポリ乳酸の性質上、再溶融した鞘部の熱接着部分の剛性が非常に強いため、得られる不織布はソフト性に欠けるものであった。
【特許文献1】特許第3355026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、よりソフトな風合いを有する繊維構造体を得るために好適な、バイオマス由来ポリマーを芯部に配した芯鞘型バインダー繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とする。
(a)芯鞘型複合繊維からなるバインダー繊維であって、前記複合繊維の芯部がポリ乳酸、鞘部が前記ポリ乳酸よりも低融点の共重合ポリエステルで構成されていることを特徴とする芯鞘型バインダー繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芯鞘型バインダー繊維は、バイオマス由来のポリマーを芯部に配しているため、従来の石油系由来のポリマーだけからなるバインダー繊維とは異なり、廃棄に際してもカーボンニュートラルに反した新規な二酸化炭素の発生が低減されるため、環境負荷の少ないものとなる。また、鞘部に低融点の共重合ポリエステルを配しているため、バイオマス由来ポリマーのみからなるバインダー繊維と異なり、耐摩耗性に優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の芯鞘型バインダー繊維(以下、本発明のバインダー繊維と称することがある。)は、芯鞘型の複合形態を有するものであり、芯がポリ乳酸で構成される。
【0011】
該芯部を構成するポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ポリエステルとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体とすることが好ましい。
【0012】
そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸とD−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましく、さらに好ましくは融点150℃以上である。ポリ乳酸のホモポリマーであるL−乳酸やD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。したがって、このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られ難くなるという問題が生じる。また、鞘成分との融点差が小さくなる為、熱接着に際し、芯部が熱の影響を受けにくい温度まで処理温度を下げた場合、熱接着成分が十分に溶融せず、熱接着性が低下してしまうことがある。
【0013】
また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高く、摩擦熱などの影響受けにくく、特に好ましい。ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体である場合は、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。中でもヒドロキシカプロン酸またはグリコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの共重合体の場合では、これを構成する脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族グリコールとして、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。このようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい。
【0014】
また、本発明におけるポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。すなわち、該メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性が向上することとなる。
また、本発明のバインダー繊維におけるポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。さらに、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じて、ポリ乳酸中に熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0015】
本発明のバインダー繊維における鞘部を構成する共重合ポリエステルとしては、芯部を構成するポリ乳酸よりも融点が低ければよいが、芯部を構成する共重合ポリエステルとの融点の差は30℃以上が好ましく、さらに好ましくは50℃以上である。該融点差が30℃未満では、芯成分との融点が近く、熱処理した際に芯部に熱の影響を受けにくくする為には、熱処理温度を下げる必要があるため、この結果、熱接着成分が十分に溶融せず、接着性が低下してしまうこととなるため好ましくない。
【0016】
また、本発明のバインダー繊維における鞘部を構成する共重合ポリエステルの融点としては、90℃以上であることが好ましい。該融点が90℃未満であると、紡糸や延伸時にバインダー繊維同士の密着が起こりやすく、操業性に劣る傾向となるため好ましくない。
【0017】
本発明のバインダー繊維における鞘部を構成する共重合ポリエステルとしては、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みてテレフタル酸、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、および1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が共重合されてなる共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0018】
特に好ましい共重合ポリエステルとしては、テレフタル酸成分、1,6−ヘキサンジオール成分を含有する共重合ポリエステルであり、ポリエステルの全酸成分に対して、テレフタル酸が60モル%以上であり、全ジオール成分に対して、1,6−ヘキサンジオールが60〜95モル%、エチレングリコールが5〜40モル%といった構成の共重合ポリエステルなどが挙げられる。因みに、ジオール成分としての1,6−ヘキサンジオールの共重合割合が、60モル%未満になると融点が150℃を超える為、本発明の特徴である、低温域での接着性を有しておらず好ましくない。
【0019】
本発明のバインダー繊維は、上記のような成分構成を有する鞘部を配しているため、ソフトな風合いと共に、優れた耐摩耗性を奏することができる。
【0020】
また、本発明のバインダー繊維における鞘部の共重合ポリエステル、芯部のポリ乳酸には必要に応じて各種充填剤、増粘剤、結晶核剤として効果を示す公知の添加剤を添加することができる。具体的にはカーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカー、等があげられる。該物質は、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとして必要な処理を施した後、添加することもできる。価格や良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤の配合が好ましく、特に好ましくはタルクやシリカといった珪素酸化物を主成分とした無機系粒子の結晶核剤が、溶融紡糸時の単糸の融着防止に効果的である。
【0021】
また、必要に応じて、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を配合することができる。
【0022】
さらに、本発明のバインダー繊維における芯鞘部を構成する組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で可塑剤を併用することも可能である。可塑剤を使用することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能であり、場合によっては結晶化速度の向上も期待でき、更にフィルムやシートを成形品として得る場合には伸び性などを付与できる。
【0023】
使用できる可塑剤としては、特に限定は無いが、以下のものが例示できる。脂肪族ポリエステル系生分解性ポリエステルの可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点からエーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。また、エステル系可塑剤としては脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等を挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール、また、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコールを挙げることができる。また、上記ポリエーテルとポリエステルの2種以上の組み合わせからなる共重合体、ジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマーなど、またはこれらのホモポリマー、コポリマー等から選ばれる2種以上のブレンド物が挙げられる。更にエステル化されたヒドロキシカルボン酸等も挙げられる。上記可塑剤は、少なくとも1種用いることができる。
【0024】
本発明のバインダー繊維は、複数本の単糸からなるマルチフィラメントとしても、単糸1本からなるモノフィラメントとしてもよい。マルチフィラメントの場合は、単糸繊度1〜200dtexであることが好ましく、総繊度は36〜5000dtex、中でも36〜1500dtexとすることが好ましい。モノフィラメントの場合は、繊度を150〜5000dtexとすることが好ましい。
【0025】
また、本発明のバインダー繊維としては、長繊維、短繊維のいずれの形態で用いてもよい。さらに、本発明のバインダー繊維の形状としては、円形断面に限定されるものではなく、芯部のポリ乳酸を鞘部の共重合ポリエステルが覆っているものであればよく、扁平方、多角形、多葉型、ひょうたん型、アルファベット型、その他各種の非円形(異型)などであってもよい。
上記した複合繊維はその芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘型複合繊維であることが好ましい。このような構成とする事で鞘部に均一に汎用ポリマーを配する効果を奏することができる。偏心上に存在すると鞘部の共重合ポリエステル層に薄い箇所ができ、共重合ポリエステル層が薄い箇所において耐摩耗性が不良となるおそれがあり、好ましくない。
【0026】
次に、本発明のバインダー繊維(マルチフィラメント、長繊維)の製造方法について説明する。まず、紡糸にあたっては、芯部にポリ乳酸、鞘部に上記の共重合ポリエステルを配するように通常の複合紡糸装置を用いて溶融紡糸を行い、この後、糸条を冷却し、油剤を付与し、一旦未延伸糸として巻き取った後、又は一旦捲き取ることなく引き続いて延伸を施す。
【0027】
本発明のバインダー繊維の用途としては、寒冷紗等が挙げられる。本発明のバインダー繊維を寒冷紗に用いた場合、ポバール処理等の樹脂加工を行わずとも、熱処理のみによって十分な滑脱抵抗力を持つ寒冷紗を得ることができる。
【実施例】
【0028】
次に本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、これに限定されるものではない。なお、実施例中の各物性値の測定法及び評価法は次のとおりである。
(1)ポリ乳酸の融点(℃)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を使用し、昇温速度20℃/分の条件で通常の手法により測定した。
(2)ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液の等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定した。カラムにはsumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
(3)繊維繊度(dtex)
JIS L−1013正量繊度に準じて測定した。
(4)耐屈曲摩耗性(回)
得られたマルチフィラメントに150gの荷重をかけ、SIANOR♯1600のサンドペーパーを巻きつけた直径20mmの丸断面金属棒に、90度の角度で接触させ、トラバース速度6.7mm/min、ストローク速度35回/minの速度条件で往復摩擦させ、マルチフィラメントが破断に至るまでの回数を測定した。(300回以上で合格とした。)
【0029】
(実施例1)
芯成分のポリ乳酸として、融点170℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.5/1.5のものを用い、鞘成分の芳香族ポリエステルとして、酸成分がテレフタル酸60モル%とイソフタル酸40モル%、グリコール成分がエチレングリコールである共重合ポリエステル(融点110℃)を用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配し、複合比(質量比)を50/50とし、紡糸口金(面径230mmφ、孔径0.35mmφ、孔数140ホール)より、紡糸温度240℃で溶融紡糸した後、糸条を冷却し、油剤を付与して一旦捲き取った。得られた未延伸糸を90℃に加熱した熱ローラ間で延伸倍率が5.8倍になるように熱延伸を施し、450m/minで捲き取り、総繊度1120dtex、140フィラメントであるマルチフィラメントを得た。
【0030】
(実施例2)
鞘成分の芳香族ポリエステルとして、酸成分がテレフタル酸、グリコール成分がエチレングリコール15モル%と1,6−ヘキサンジオール85モル%とからなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有する共重合ポリエステル(融点128℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2のマルチフィラメントを得た。
【0031】
(実施例3)
鞘成分の芳香族ポリエステルとして、酸成分がテレフタル酸、グリコール成分が1,4−ブタンジオール20モル%と1,6−ヘキサンジオール80モル%とからなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有する共重合ポリエステル(融点130℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3のマルチフィラメントを得た。
【0032】
(実施例4)
芯成分のポリ乳酸として、融点150℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが94.2/5.8のものを用い、鞘成分の芳香族ポリエステルとして、酸成分がテレフタル酸60モル%とイソフタル酸40モル%、グリコール成分がエチレングリコールである共重合ポリエステル(融点110℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例4のマルチフィラメントを得た。
【0033】
(比較例1)
芯成分のポリ乳酸として、融点170℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.5/1.5のものを用い、鞘成分に融点150℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが94.2/5.8のポリ乳酸を用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、低融点のポリ乳酸が鞘部、高融点のポリ乳酸が芯部となるように配し、複合比(質量比)を50/50とし、紡糸口金(面径230mmφ、孔径0.35mmφ、孔数140ホール)より、紡糸温度240℃で溶融紡糸した後、糸条を冷却し、油剤を付与して一旦捲き取る。得られた未延伸糸を90℃に加熱した熱ローラ間で延伸倍率が6.3倍になるように熱延伸を施し、450m/minで捲き取り、総繊度1100dtex、140フィラメントである比較例1のマルチフィラメントを得た。
【0034】
(比較例2)
鞘成分として、融点130℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが90.0/10.0のポリ乳酸を用いた以外は、比較例1と同様にして比較例2のマルチフィラメントを得た。
(比較例3)
鞘成分として、融点120℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが82.0/18.0のポリ乳酸を用いた以外は、比較例1と同様にして比較例3のマルチフィラメントを得た。
【0035】
(比較例4)
芯成分のポリ乳酸として、融点150℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが94.2/5.8のものを用い、鞘成分に融点130℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが90.0/10.0のポリ乳酸を用いた以外は、比較例1と同様にして比較例4のマルチフィラメントを得た。
(比較例5)
鞘成分として、融点120℃、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが82.0/18.0のポリ乳酸を用いた以外は、比較例4と同様にして比較例5のマルチフィラメントを得た。
【0036】
実施例1〜4で得られたマルチフィラメントの物性値を表1に、比較例1〜5で得られたマルチフィラメントの物性値を表2に示した。
【0037】

【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1から明らかなように、実施例1〜4のポリ乳酸複合バインダー繊維は、鞘部に共重合ポリエステルを配することにより、耐屈曲摩耗性に優れたものであった。一方、表2から明らかなように、比較例1から比較例5のポリ乳酸バインダー繊維は、芯部及び鞘部にバイオマス由来のポリマーであるポリ乳酸を配している為、実施例1〜4のポリ乳酸複合バインダー繊維に比べて、耐屈曲摩耗性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型複合繊維からなるバインダー繊維であって、前記複合繊維の芯部がポリ乳酸、鞘部が前記ポリ乳酸よりも低融点の共重合ポリエステルで構成されていることを特徴とする芯鞘型バインダー繊維。


【公開番号】特開2009−228165(P2009−228165A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75837(P2008−75837)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】