説明

芯鞘複合繊維

【課題】繊維表面にシーブな凹凸をランダムに配置することによって、さらさらっとした独特の風合いを合成繊維に付与する。
【解決手段】 合成繊維を、芯成分ポリマーと鞘成分ポリマーによって軸芯層14と鞘層(15・16)との芯鞘構造に紡糸する。その鞘成分ポモノマーに粒体12を練り込み、その粒体12によって鞘層の外面11が押し出されて隆起した突起13を形成する。鞘層は外鞘層16と内鞘層15との二重構造にし、その内鞘層15の鞘成分に粒体12を練り込むとよい。芯成分の構成する軸芯層14の断面積Aと、内鞘層15の断面積Bと、外鞘層16の断面積Cとの面積比は、50〜90(A):10〜40(B):10以下(C)にするとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸を形成してさらさらっとした触感を有する繊維、およぴ、その繊維から成る線状体や不織布、織編物等の布帛、その他の繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステル系繊維はその優れた特性により衣料用に限らず産業用、インテリア用等々、様々な分野に用いられてきた。しかし、ポリエステル系繊維は、絹や麻等の天然繊維と比較してドライ感やさらさらとした肌触りに乏しいものであった。ポリエステル系繊維に対してドライ感を付与する手段としては、ポリマーの改質、例えば、特許文献1、2参照)、繊維横断面の異形化(例えば、特許文献3、4、5参照)、繊維軸方向への太細の付与等(例えば、特許文献6、7参照)の様々な方法でドライ感のある繊維構造物が検討されている。しかしながら、ポリマーの改質方法では、繊維表面に微細な凹形状を配置するにとどまっており、繊維横断面の異形化方法では、繊維軸方向にシャープな凹凸を形成することが困難であり、繊維軸方向への太細の付与方法では、繊維横断面においてシヤープな凹凸を形成することが困難である。このように、従来技術によってはシャープな突起をランダムに配置して独特なさらさら感を付与することば出来ない。合成繊維に所要の機能を付与するために、その繊維原料ポリマーに、例えば、繊維表面光沢を調整するために酸化チタンやタルクを(例えば、特許文献8参照)、繊維を着色するためにカーボンブラックや顔料を(例えば、特許文献9参照)、繊維の耐光性を改善したり、抗菌性を付与するために銅粉末を(例えば、特許文献10参照)、繊維に消臭性や抗菌性を付与するために酸化亜鉛、リン酸ジルコニウム、ゼオライト等を(例えば、特許文献11・12参照)、繊維に導電性を付与するために導電性物質を(例えば、特許文献13参照)等々、その目的に応じた機能性粒体を練り込んで紡糸することは公知である。
【特許文献1】特開2000−178831号公報
【特許文献2】特開平06−173160号公報
【特許文献3】特開平08−35114号公報
【特許文献4】特開2000−220029号公報
【特許文献5】特開2001−115334号公報
【特許文献6】特公昭51−7207号公報
【特許文献7】特開平11−229228号公報
【特許文献8】特公昭60−7069号公報
【特許文献9】特公平06−53978号公報
【特許文献10】特公平03−60921号公報
【特許文献11】特公平03−1423号公報
【特許文献12】特許第3071594号公報
【特許文献13】特許第2604464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、繊維原料ポリマーに粒体を練り込んで紡糸することは公知であっても、その公知技術は、繊維にさらさらっとしたドライタッチ性を付与することを目的とするものではなく、公知技術によっては絹繊維や麻繊維のようにドライタッチの合成繊維は得られていない。
【0004】
そこで、本発明は、繊維表面にシャープな凹凸をランダムに配置することによって、さらさらっとした独特の風合いを与える素材を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る合成繊維は、芯成分ポリマーと鞘成分ポリマーによって軸芯層14と鞘層との芯鞘構造に紡糸され、鞘成分ポリマーが粒体12を保有し、その粒体12によっで鞘層の外面11が押し出されて隆起した突起13をしていることを第1の特徴とする。
【0006】
本発明に係る合成繊維の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、鞘層が外鞘層16と内鞘層15との二重構造を成し、その内鞘層15の鞘成分は粒体12が練り込まれている点にある。
【0007】
本発明に係る合成繊維の第3の特徴は、上記第2の特徴に加えて、芯成分の構成する軸芯層14の断面積Aと、内鞘層15の断面積Bと、外鞘層16の断面積Cとの面積比が50〜90(A):10〜40(B):10以下(C)である点にある。
【0008】
本発明に係る合成繊維の第4の特徴は、上記第1、第2、第3の何れかの特徴に加えて、芯鞘複合繊維全体に占める粒体12の容積比率が10容積%以下である点にある。
【0009】
本発明に係る合成繊維の第5の特徴は、上記第1、第2、第3、第4の何れかの特徴に加えて、粒体12の平均粒径を芯鞘複合繊維の平均直径の5 〜30%とした点にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明において、繊維に粒体を付与する目的は、粒体の成分に応じた機能性を繊維に付与することではなく、繊維表面に手触りとして感じられる突起を形成することにあり、そのためには繊維表面に突起を緻密に形成する必要はない。何故なら、突起を緻密に形成するときは、粒体をフィラー(充填剤)として繊維原料ポリマーに練り込んだときのように、繊維表面が平坦になり、粒体によって形成される突起が突起としては感じられなくなるからである。従って、繊椎表面に形成される突起は疎らでよく、又、突起を疎らにすることによって、それが突起として感じられ、合成繊維がドライタッチになる。従って、繊維原料ポリマーへの粒体の練込量は1容積%以下と微量でもよく、そのように微量練り込むときは、紡糸する繊維の強度物性が然程左右されない。特に、本発明では合成繊維を芯鞘構造にし、その断面積の50%以下を占める鞘層に粒体を練り込むこととしたので、糸切れを起こさずに紡糸することが出来、外面(周面)が梨地調で麻繊維に酷似し、ドライタッチの合成繊維が得られる.
【0011】
そして、鞘層を外鞘層16と内鞘層15との二重構造とし、その内鞘層15の鞘成分ポリマーに粒体12を練り込むときは、粒体12が外鞘層16に被覆されて摩擦によって容易には脱落せず、目粗な織物や編物に使用して目ズレを起こさず、防滑性(表面での滑り難さ)が求められる椅子張地用布帛に適した防滑性合成繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
芯成分ポリマーと鞘成分ポリマー、或いは、外鞘成分ポリマーと内鞘成分ポリマーは、それぞれ同種のポリマーであっても異種のポリマーであってもよい。繊維原料ポリマーは、ナイロン66、ナイロン6、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等々、繊維として紡糸することの出来るものであれば格別種類は問われないが、合成繊維に耐光性や強度、ドライタッチ性等を付与しようとする本発明の目的からして、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系ポリマーを適用することが望ましい。繊維原料ポリマーには、その特徴を損なわない範囲において、第3成分を共重合したり混合することも出来、又、制電性、耐光性、耐熱性、防炎性等の機能性のある添加剤を練り込むことも出来る。
【0013】
粒体は、それが繊維原料ポリマーの紡糸時の溶融温度において融解、分解等の変質を来すものでなければ、その種類は格別限定されない。しかし、粒体の紡糸時の耐熱性を考慮すると、一般にフィラー(充填剤)として汎用されている無機質粒体、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、タルク、マイカ(白雲母)、ガラス、アルミナ、酸化錫、酸化チタン、酸化鉄、その他機能性の認められる赤リン、セピオライト、天然シリカ、シリチン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化銅、酸化マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、チッ化アルミニウム、チッ化硼素、硼酸亜鉛、硼酸アルミニウム等を使用するとよく、無機質粒体によって抗菌性、難(防)燃性、導電性、蓄光性、磁性、光反射・拡散・吸収性などの機能性を芯鞘複合繊維に付与することも出来る。中でも、紡糸性の点からして硬度と比重が低い炭酸カルシウム、タルク、ハイドロタルサイト、セピオライト、マイカ、赤リン、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリチン、チッ化硼素等を、好ましくはタルクまたはハイドロタルサイト、特にモース硬度が1のタルクを適用することが推奨される。
【0014】
粒体が繊維表面に突出していると、芯鞘複合繊維の取り扱い過程で使用される繊維機械のガイドを傷つけたり、粒体の脱落にもつながるため、鞘層は外鞘層と内鞘層の二層構造とし、外鞘層16によって粒体12を包み込み、又、繊維機械のガイドを傷つけないようにする上でもモース硬度が低いタルクを粒体として使用することが推奨される。内鞘成分ポリマーに粒体を練り込むためには、二軸押し出し機で混練することが望ましい。その練り込み時の条件は、二軸押し出し機の粒子フィード部温度を250〜270℃とし、中部から押し出し部のまでの温度を250〜300℃とし、加熱時間は0.5〜5分とする。紡糸には、基本的には中実断面用の口金を使用するが、数層積層(バイメタル)構造を成すものや、星型などの異形断面にすることに特に制約はなく、繊維としての物性が確保される範囲内で繊維の断面形状を種々変更し、その断面形状に応じた効果を得ることが出来る。芯鞘複合繊維には、仮撚りを掛けるなどして嵩高性を付与することも出来る。
【0015】
本発明によって得られる芯鞘複合繊維は、その繊維内部の分子配向が不均一になるが、染色すると不均一な状態で杢調に染まり、ナチュラルライクの繊椎製品に好適なものとなる。芯鞘複合繊維の単糸繊度は1dtex以上とし、軸芯層14の断面積Aと、内鞘層15の断面積Bと、外鞘層16の断面積Cとの面積比は、軸芯層A:60〜85 %、内鞘層B:12〜35%、外鞘層C:1〜10%に、より好ましくは、軸芯層A:65〜80%、内鞘層B:15〜30%、外鞘層C:5〜10%にする。
【0016】
芯鞘複合繊維全体11に占める粒体12の容積比率は、7容積%以下に、より好ましくは5容積%以下にする。粒体12の平均粒径は、概して1〜100μmに、好ましくは3〜80μm、より好ましくは4〜50μmとし、芯鞘複合繊維1 1 の平均直径の10〜20%、より好ましくは15〜20%とする。本発明では、粒体12を繊維表面光沢の調整や、繊維の着色、耐光性の改善、抗菌性や消臭性の付与、導電性の付与等々と機能性を付与するフィラーとして使用するのではないので、それを微細に調製し、鞘層に細かく均一に分散させる必要はない。粒体には、平均粒径1μm以下の微粒子(一次粒子)の凝集体即ち複数個の固体の集合体ではなく、複数個に明確には分離し得ない1個の固体を成す一次粒子として調製されたものを適用するとよい。ここに、「平均粒径」とは、粒体を直径が一定の完全球体と仮定して算定される直径を意味する。同様に、芯鞘複合繊維の「平均直径」も、芯鞘複合繊維を直径が一定の真円柱と仮定して算定される直径を意味する。
【実施例】
【0017】
[実施例]
ポリエチレンテレフタレート原料ポリマーチップとシランカップリング処理剤(東レ・ダウコー二ング・シリコーン株式会社製品)で表面処理を施した平均粒子径5 μmのタルク(富士タルク工菜株式会社製品)を二軸押出機にて溶融混練してタルクを8 .9 容積%含む内鞘層成分ポリマーのマスターチップを作成し、ポリエチレンテレフタレート原料ポリマーチップを芯成分ポリマーと外鞘層成分ポリマーとし、エクストルーダ型紡糸機を使用し、290℃で2成分3層構造の芯鞘複合繊維を溶融紡糸し、冷却固化後1000m/分で巻取り、85℃の第1ローラーと130℃の第2ローラーの間で3.2倍に延伸して得た59dtex/6フィラメントの芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメント糸条(タルクを3.1容積%含有)を経糸と緯糸に用いて平織織物を織成した。芯鞘複合ポリエステルマルチフィラメント糸条の芯鞘複合繊維の芯成分の構成する軸芯層14の断面積Aと、内鞘層15の断面積Bと、外鞘層16の断面積Cとの面積比は、軸芯層A:60%、内鞘層B:30%、外鞘層C:10%であった。
【0018】
[比較例1]
酸化チタン(艶消し剤)0.3質量%を練り込んだポリエチレンテレフタレート原料ポリマーチップを実施例と同様に紡糸・延伸した59dtex/6フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸条を経糸と緯糸に用い、実施例と同じ仕様の平織織物を織成した。
[比較例2]
比較例1のポリエステルマルチフィラメント糸条をアルカリ処理して繊維表面に微細な凹凸を付け、それを経糸と緯糸に用い、実施例と同じ仕様の平織織物を織成した。
[比較例3]
エクストルーダ型紡糸機の口金を星型断面口金に換え、実施例と同様に紡糸・延伸した59dtex/6フィラメントの星型断面ポリエステルマルチフィラメント糸条を経糸と緯糸に用い、実施例と同じ仕様の平織織物を織成した。
[比較例4]
比較例2に用いたポリエチレンテレフタレート原料ポリマーチップを実施例と同様に紡糸し、エア交絡しつつ延伸して繊維軸方向に太細差を付けた59dtex/6フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸条を経糸と緯糸に用い、実施例と同じ仕様の平織織物を織成した。
【0019】
実施例の織物と比較例1〜4の織物の心地よさ・感触を比較し、実施例の織物が、比較例1〜4の織物とは全く比較にならない程度に感触と心地よさにおいて優れ、織物同士を擦り合わせてみると、実施例の織物には比較例1〜4の織物では認められない防滑性(すべり感)が認められた。
【0020】
本発明によると、芯鞘複合繊維をどの角度から観察してもシャープな突起13が認められ、その突起13を形成することによって、さらさらっとした独特の触感を合成繊維に付与することが出来、これまでポリエステル系合成繊維の欠点とされてきた触感を解消することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る芯鞘複合繊維の斜視図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【符号の説明】
【0022】
11:芯鞘複合繊維
12:粒体
13:突起
14:軸芯層
15:内鞘層
16:外鞘層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分ポリマーと鞘成分ポリマーによって軸芯層(14)と鞘層との芯鞘構造に紡糸され、鞘成分ポリマーが粒体(12)を保有し、その粒体(12)によっで鞘層の外面(11)が押し出されて隆起した突起(13)をしている芯鞘複合繊維。
【請求項2】
鞘層が外鞘層(16)と内鞘層(15)との二重構造を成し、その内鞘層(15)の鞘成分は粒体(12)が練り込まれている前掲請求項1に記載の芯鞘複合繊維。
【請求項3】
芯成分の構成する軸芯層(14)の断面積Aと、内鞘層(15)の断面積Bと、外鞘層(16)の断面積Cとの面積比が50〜90(A):10〜40(B):10以下(C)である前掲請求項2に記載の芯鞘複合繊維。
【請求項4】
芯鞘複合繊維全体に占める粒体(12)の容積比率が10容積%以下である前掲請求項1と2と3の何れかに記載の芯鞘複合繊維。
【請求項5】
粒体(12)の平均粒径が芯鞘複合繊維の平均直径の5 〜30%である前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の芯鞘複合繊維。

【図1】
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