説明

芳香族ポリアミドコンポジットファイバー及びその製造方法

【課題】熱寸法安定性が向上した全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドとからなるコンポジットファイバーを提供する。
【解決手段】下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部とナノダイヤモンド0.01〜30重量部とから構成される芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドとからなるコンポジットファイバー及びその製造方法であり、さらに詳しくはナノダイヤモンドが高度に分散した熱寸法安定性に優れたコンポジットファイバーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミドは、剛直な芳香族環を連結させた構造をとり、耐熱性、機械特性、耐薬品性等に優れた素材として、繊維あるいはフィルムの形態で電気絶縁材料、各種補強剤、防弾繊維等、幅広く利用されており工業的に極めて価値の高い素材の一つであるが、使用される用途に応じて樹脂に対してより高度な特性が要求されるようになってきた。
【0003】
電子積層基板に使用されるベース素材には、耐熱性や熱寸法安定性、耐湿寸法安定性、電器絶縁性、軽量性等の諸特性が要求される。最近では、耐熱性、電気絶縁性、熱寸法安定性、軽量性に優れている耐熱性繊維紙が電子積層基板用のベース素材に活用されつつある。例えば、コポリ(パラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド)繊維[帝人(株)製「テクノーラ」(登録商標)]と有機系樹脂バインダーからなる耐熱性繊維紙(特開平1-92233号、特開平2-47392号)や、バインダー成分としてメタ型芳香族ポリアミドのフィブリッドを用い、パラ型芳香族ポリアミド短繊維[デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標)]とフィブリル化されたパラ型芳香族ポリアミドの微少繊維(「ケブラー」パルプ )とを、フィブリッドの絡合作用により機械的に結合せしめた紙(特開昭61-160500号、特公平5-65640号)等が提案されている。
【0004】
これらの用途において近年、更なる熱寸法安定性の向上が切望されており、耐熱性繊維として全芳香族ポリアミドの熱寸法安定性の向上も望まれている。
【0005】
一方で、ポリマーを改質する技術の一つとして、熱可塑性樹脂にナノダイヤモンドを高度に分散させることにより耐熱性及び弾性率に優れた高分子複合材料が報告されている。(特許文献1)。
【0006】
しかし、芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドからなる高分子複合材料についての具体的な記載はなく、さらには一軸配向成型体であるコンポジット繊維については知られていない。
【特許文献1】特開2004−51937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は熱寸法安定性が向上した全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドとからなるコンポジットファイバー、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ナノダイヤモンドが高度に分散した全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドからなるコンポジットファイバーが得られ、熱寸法安定性が向上することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部とナノダイヤモンド0.01〜30重量部とから構成されることを特徴とする芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【0010】
2. 50〜200℃の線膨張係数が−8〜50ppm/℃下である上記記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【0011】
3. 式(A)において、Ar
【化1】

及び/または
【化2】

であり、式(B)において、Ar
【化3】

である上記に記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【0012】
4.全芳香族ポリアミドが、式(A)において、Ar
【化4】

及び
【化5】

であり、式(B)において、Ar
【化6】

である共重合体であって、上記式(A)と(B)の割合がが1:0.8〜1:1.2である上記記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【0013】
5.式(A)において、Ar
【化7】

であり、式(B)において、Ar
【化8】

である上記に記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【0014】
6.ナノダイヤモンドと分散溶媒とを混合して混合液を得る工程、ついで該混合液中に少量の全芳香族ポリアミドを添加してナノダイヤモンド分散液を調製する工程、ついで該分散液中に全芳香族ポリアミドを添加して全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドからなる紡糸用溶液を得る工程、その溶液から紡糸する工程を含むことを特徴とする上記記載のコンポジットファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明で得られる全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドとからなるコンポジットファイバーは、ナノダイヤモンドが微細にコンポジットファイバー中に分散している事により、耐熱性、弾性、および熱寸法安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。
(ナノダイヤモンドについて)
本発明において、ナノダイヤモンドとは、ナノサイズの粒径を有する人工ダイヤモンドである。平均粒径はおよそ1〜1000nmであり、1〜500nmが好ましく、2〜200nmがより好ましい。平均粒径が1000nmよりも大きいとコンポジット繊維中におけるナノダイヤモンドの分散性が十分でない場合がある。通常ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンド間に働くファンデルワールス力のために凝集力が著しく強く、ポリクラスターとして存在している。
【0017】
上記のナノダイヤモンドの製法として、特に制限されないが、例えば、爆薬を爆発させる等によって衝撃波を加え、原料である炭素源をダイヤモンドに直接変換し、顆粒状のダイヤモンドを得る衝撃法等が挙げられる。
【0018】
(全芳香族ポリアミドについて)
本発明のコンポジットファイバーにおける全芳香族ポリアミドは、実質的に下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の2つの構成単位が交互に繰り返された構造からなる全芳香族ポリアミドである。
【0019】
上記Ar,Arは、各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基であるが、その具体例としては、メタフェニレン基、パラフェニレン基、オルトフェニレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、4,4’−ジフェニレンスルフィド基、4,4’−ジフェニレンスルホン基、4,4’−ジフェニレンケトン基、4,4’−ジフェニレンエーテル基、3,4’−ジフェニレンエーテル基、メタキシリレン基、パラキシリレン基、オルトキシリレン基等が挙げられる。
【0020】
これらの芳香族基における水素原子のうち1つまたは複数がそれぞれ独立にフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。なお、上記式(A)及び/又(B)の構成単位が、2種以上の芳香族基からなる共重合体であっても差し支えない。
【0021】
これらのうち、Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、3,4’−ジフェニレンエーテル基が好ましく、パラフェニレン基、またはパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用したものがさらに好ましく、パラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用した場合にはそのモル比が1:0.8〜1:1.2の範囲にあることがさらに好ましい。
Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、が好ましく、パラフェニレン基がさらに好ましい。
【0022】
すなわち本発明において好適に用いられるものとして具体的には、Arがパラフェニレン基及び3,4’−ジフェニレンエーテル基であり、Arがパラフェニレン基である共重合体であって、その共重合比(Arのパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基のモル比)が1:0.8〜1:1.2の範囲にある全芳香族ポリアミド、およびArとArがともにパラフェニレン基である全芳香族ポリアミドを挙げることが出来る。
【0023】
これらの全芳香族ポリアミドは溶液重合法、界面重合法、溶融重合法など従来公知の方法にて製造する事が出来る。重合度は芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分の比率によりコントロールすることが出来、得られるポリマーの分子量としては98重量%濃硫酸に0.5g/100mLの濃度で溶かした溶液を30℃にて測定した特有粘度(inherent viscosity)ηinhが0.05〜20dL/gであることが好ましく、1.0〜10dL/gの間に有るものがより好ましい。
【0024】
(組成)
本発明のコンポジットファイバーの組成としては全芳香族ポリアミド100重量部に対して、ナノダイヤモンドが0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜25重量部、さらに好ましくは0.1〜20重量部である。ナノダイヤモンドが0.01重量部未満では熱寸法安定性の向上の効果が観察されにくく、30重量部を超えるとナノダイヤモンドの分散性が低下する。
【0025】
(コンポジットファイバー)
本発明のコンポジットファイバーの単繊維径は0.01〜1000dtexである。単繊維径は好ましくは、0.1から500dtexである。
本発明のコンポジットファイバーは熱寸法安定性に優れることを特徴とし、50〜200℃の線膨張係数の絶対値は−8〜50ppm/℃であることが好ましく、より好ましくは−7.5〜45ppm/℃である。
【0026】
本発明において、ナノダイヤモンドを均一に全芳香族ポリアミドファイバー中に分散させることにより、ナノダイヤモンドを含有していない全芳香族ポリアミドファイバーよりも熱寸法安定性を向上させることが可能となる。好ましくはナノダイヤモンドを均一に全芳香族ポリアミドファイバー中に分散させることにより、ナノダイヤモンドを含有していない全芳香族ポリアミドファイバーよりも熱寸法安定性を10%以上向上させることができる。なお本発明において、熱寸法安定性の向上とは、線膨張係数の絶対値が小さくなることをいう。
【0027】
(コンポジットファイバーの製造法)
本発明のコンポジットファイバーの製造法としては、全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドの混合溶液を調製し、その混合溶液から紡糸する方法が好ましい。
【0028】
混合溶液を調製する方法としては、例えば、1)全芳香族ポリアミドの溶液に、固体のナノダイヤモンドを添加する。2)全芳香族ポリアミド溶液とナノダイヤモンドの溶媒分散液とを混合する。3)ナノダイヤモンドの溶媒分散液に固体の全芳香族ポリアミドを添加する。4)ナノダイヤモンドの溶媒分散液中で、全芳香族ポリアミドのIn-situ重合を行う等の方法が挙げられる。ここで、混合溶液内でナノダイヤモンドが均一に分散していることが、コンポジットファイバーの熱寸法安定性向上のためには重要である。その観点からは紡糸用混合溶液の調製方法として上記2)のナノダイヤモンドの溶媒分散液を作製し、全芳香族ポリアミド溶液と混合する方法が好ましい。
【0029】
中でも、ナノダイヤモンド分散液の分散性を向上させる方法として、ナノダイヤモンド溶媒分散液に少量の全芳香族ポリアミドを分散剤として添加し、分散させる方法が好ましい。
【0030】
すなわち、ナノダイヤモンドと分散溶媒とを混合して混合液を得る工程、ついで混合液中に少量の全芳香族ポリアミドを添加してナノダイヤモンド分散液を調製する工程、ついで分散液中に全芳香族ポリアミドを添加して全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドからなる紡糸用溶液を得る工程、その溶液から紡糸する工程により、本発明のコンポジットファイバーを好ましく製造することができる。
【0031】
以下本発明のコンポジットファイバーの製造方法について詳述する。
ナノダイヤモンドを分散させる溶媒としては、種類が特に限定されるものではなく、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等、100%硫酸、りん酸、ポリりん酸、メタンスルホン酸等の酸溶媒が挙げられる。これらの液体は単独で用いても、2種以上を混合して用いることもできる。これらの分散媒は、ナノダイヤモンドを分散させるのに好ましい液体である。また、分散性を阻害しない範囲において水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールといった1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールといった2価アルコール、グリセリンといった3価アルコール、アセトンといったケトン類、テトラヒドロフランといった環状エーテル、1,2−ジクロロベンゼンといったハロゲン化芳香族炭化水素、クロロホルムといったハロアルカン、1−メチルナフタレンといった置換複素環化合物を含んでいてもさしつかえない。
【0032】
ナノダイヤモンドを分散媒に混合する際には、特に限定されないが超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。中でも超音波処理装置が好ましい。
【0033】
ナノダイヤモンドの分散媒に対する濃度は特に限定されるものではないが、濃度が薄すぎると利用価値が低く、濃度が高すぎるとナノダイヤモンドの分散性が低下することもあるので、0.0001〜1重量%が好ましく、0.005〜0.5重量%がより好ましい。
【0034】
本発明において、少量の全芳香族ポリアミドを分散剤として添加することでナノダイヤモンドの分散性が向上するので好ましい。
本発明におけて分散剤として用いられる全芳香族ポリアミドは、上述の芳香族ポリアミドコンポジットファイバーを構成する全芳香族ポリアミドについて述べたものを好ましく用いることができる。
【0035】
また、本発明において、分散剤として用いられる全芳香族ポリアミドは、コンポジットファイバーの構成要素である全芳香族ポリアミドと同じであることが好ましい。
分散剤としての全芳香族ポリアミドの使用量としてはナノダイヤモンドに対して、0.1〜50重量%であることが好ましく、0.2〜20重量%であることがより好ましい。
【0036】
本発明において、ナノダイヤモンドの混合液に、全芳香族ポリアミドを添加する方法として、固体の状態で添加する方法、または分散剤を溶解する溶媒に溶解した溶液の状態で添加する方法が挙げられる。分散剤溶液で添加する場合においては、使用する溶媒として特に限定はされないが、ナノダイヤモンドを分散させるのに使用している分散媒と同種であることが好ましい。
【0037】
混合液中に全芳香族ポリアミドを添加してナノダイヤモンド分散液を調整する方法としては、特に限定はされないが超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。なかでも超音波処理を行うことが好ましい。
【0038】
このように本発明において全芳香族ポリアミドを分散剤として添加することで、分散性の向上、分散している状態が保持、安定化し、分散性に優れたナノダイヤモンド分散液を得ることができる。
得られたナノダイヤモンド分散液を濃縮することにより、分散性を保持したまま高濃度のナノダイヤモンド分散液を得ることも可能である。
【0039】
次いでナノダイヤモンド分散液と全芳香族ポリアミド溶液とを混合することにより、紡糸用混合溶液を作製することができる。
ナノダイヤモンド分散液と全芳香族ポリアミド溶液とを混合する方法としては、特に限定はされないが、超音波や各種攪拌方法を使用することができる。
【0040】
紡糸用混合溶液からの紡糸方法は、湿式、乾式、乾式湿式の併用いずれを用いても良い。前述したように紡糸工程において、流動配向、液晶配向、せん断配向、又は延伸配向させる事により全芳香族ポリアミドおよびナノダイヤモンドの配向を高め、熱寸法安定性を向上させる事が出来る。
【0041】
全芳香族ポリアミドが例えば、Arがパラフェニレン基及び3,4’−ジフェニレンエーテル基でありArがパラフェニレン基であって、その共重合比(Arのパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基のモル比)が1:0.8〜1:1.2の範囲にある共重合全芳香族ポリアミドの場合は、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒を混合溶媒として乾湿式紡糸を行った後、高温下、高倍率で延伸配向させることによりコンポジットファイバーを得ることが出来る。かかる際の好ましい延伸倍率としては2〜40倍、より好ましくは5〜30倍であるが、最大延伸倍率(MDR)になるべく近づけて延伸することが機械物性に優れた芳香族ポリアミドコンポジットファイバーを得る上で望ましい。好ましい延伸配向時の温度としては100℃〜800℃、より好ましくは200℃〜600℃である。また全芳香族ポリアミドが例えば、ArとArがともにパラフェニレン基であるポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の場合は、100%硫酸、りん酸、ポリりん酸、メタンスルホン酸等の酸溶媒を混合溶媒として、液晶紡糸によりコンポジットファイバーを得ることが出来る。液晶紡糸では通常、高いドラフト比でキャップから溶液を紡糸することにより配向させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(1)ナノダイヤモンドの平均粒径測定:大塚電子製ZDLS-7000を用いて動的光散乱測定を行った。光源としてAr+レーザーを用いて0.001%ナノダイヤモンドのN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)溶液を測定した。
(2)コンポジット繊維の熱膨張係数:TAインストルメント製TA-2940を使用して10℃/minの昇降温速度で50〜250℃の範囲で2回測定し、セカンドスキャンの50〜200℃間の熱膨張係数を算出した。
【0043】
[参考例1]全芳香族ポリアミド樹脂溶液の作成
十分に乾燥した攪拌装置付きの三口フラスコに、脱水精製したNMP2152g、p−フェニレンジアミン27.04g及び3、4’―ジアミノジフェニルエーテル50.06gを常温下で添加し窒素中で溶解した後、氷冷し攪拌しながらテレフタル酸ジクロリド101.51gを添加した。その後徐々に昇温して最終的に80℃、60分反応させたところで水酸化カルシウム37.04gを添加して中和反応を行い、NMPの全芳香族ポリアミド樹脂溶液を得た。得られたドープを水にて再沈殿することにより得た全芳香族ポリアミド樹脂の濃度0.5g/100mLの濃硫酸溶液を30℃で測定した特有粘度は3.5dL/gであった。
【0044】
[実施例1]
NMP30gにナノダイヤモンド(ビジョン開発株式会社製)0.5gを加え、発振周波数38kHzの超音波により8時間超音波処理を行った。ナノダイヤモンドの平均粒径は155nmであった。このナノダイヤモンドNMP混合液に、参考例1で作成したNMPの全芳香族ポリアミド樹脂溶液1.67gを分散剤として加えて温度0℃で4時間超音波処理することにより、全芳香族ポリアミド樹脂を少量含むナノダイヤモンド分散液を調製した。さらにナノダイヤモンド分散液に全芳香族ポリアミド樹脂溶液を少しずつ攪拌しながら添加して均一な全芳香族ポリアミド100重量部/ナノダイヤモンド1重量部からなるポリマー濃度5重量%の紡糸用混合溶液を調製した。かくして得られた紡糸用混合溶液を孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて13倍延伸させることでコンポジットファイバーを得た。ファイバーの50〜200℃間の熱膨張係数は-7.0ppm/℃であった。
【0045】
[実施例2]
添加するナノダイヤモンドの量を1.0gに変更した以外は実施例1と同様にしてコンポジットファイバーを得た。ファイバーの50〜200℃間の熱膨張係数は-6.2ppm/℃であった。
【0046】
[比較例1]
ナノダイヤモンドを含まない参考例1のポリマー濃度5重量%の紡糸用混合溶液を調製した。かくして得られたポリマードープを孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて13倍延伸させることでコンポジットファイバーを得た。ファイバーの熱膨張係数は-8.4ppm/℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部とナノダイヤモンド0.01〜30重量部とから構成される芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【請求項2】
50〜200℃の線膨張係数が−8〜50ppm/℃である請求項1記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【請求項3】
式(A)において、Ar
【化1】

及び/または
【化2】

であり、式(B)において、Ar
【化3】

である請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【請求項4】
全芳香族ポリアミドが、式(A)において、Ar
【化4】

及び
【化5】

であり、式(B)において、Ar
【化6】

である共重合体であって、上記式(A)と(B)の割合が1:0.8〜1:1.2である請求項3に記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【請求項5】
式(A)において、Ar
【化7】

であり、式(B)において、Ar
【化8】

である請求項3に記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバー。
【請求項6】
ナノダイヤモンドと分散溶媒とを混合して混合液を得る工程、ついで該混合液中に少量の全芳香族ポリアミドを添加してナノダイヤモンド分散液を調製する工程、ついで該分散液中に全芳香族ポリアミドを添加して全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドからなる紡糸用溶液を得る工程、その溶液から紡糸する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリアミドコンポジットファイバーの製造方法。

【公開番号】特開2006−274486(P2006−274486A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94532(P2005−94532)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】