説明

芳香族ポリイソシアネートの製造方法

【課題】塩酸塩法を採用しつつ製造工程の時間短縮が可能な、芳香族ポリイソシアネートの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の芳香族ポリイソシアネートの製造方法は、芳香族ポリアミンを、第1反応槽10において不活性有機溶剤の存在下に塩化水素と反応させ、次いでホスゲンと反応させ、この反応液を所定温度で保持する第1反応工程と、この第1反応工程で得られた反応液を第1反応槽10から第2反応槽11に移し、この第2反応槽11において、反応液を所定温度で保持する第2反応工程と、第2反応工程で得られた反応液から、芳香族ポリイソシアネートを分離する分離工程を含み、第2反応工程の進行中に、次の第1反応工程を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリイソシアネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂の原料として用いられるイソシアネート類は、一般的に、原料ポリアミンをホスゲンと反応させること(ホスゲン化反応)によって製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ホスゲン化反応としては、原料ポリアミンとホスゲンとを直接反応させる方法(直接法)と、原料ポリアミンを一旦塩化水素と反応させてアミン塩酸塩とした後に、これをホスゲンと反応させる方法(塩酸塩法)とが知られている。
【0004】
特許文献2には、トリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ポリイソシアネートを、直接法で製造する技術が開示されている。また、特許文献3には、芳香族ポリイソシアネートではないが、脂肪族イソシアネートを塩酸塩法で製造する技術が開示されている。
【0005】
ところで、従来から、塩酸塩法は、直接法と比べて、副生物の生成が抑制されるという利点を有することが知られている(特許文献3参照)。しかし、ホスゲンとの反応前に原料ポリアミンを塩化水素と反応させておく必要があることから、操作手順が複雑で製造工程に時間を要し、また、反応槽で一定時間反応液を保持するためにバッチ法を採用せざるを得ないことから、生産性が低いという欠点がある。
【0006】
ここで、TDIやMDIといった芳香族ポリイソシアネートについては、脂肪族ポリイソシアネートとは違って、一般的に大量生産されることから生産性を重視し、工業的には、製造時間が長くなる塩酸塩法ではなく、直接法で製造されるのが一般的である。また、特許文献3では、芳香族ポリイソシアネートにおいては、副生したウレアが生成されても、このウレアが更にホスゲンと反応してイソシアネートを生成するため、ウレアの副生があまり問題とならないという点が、芳香族ポリイソシアネートの製造に直接法を採用する理由として挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−510692号公報(段落0004)
【特許文献2】特開昭57−165358号公報
【特許文献3】再公表特許WO2007/010996公報(特に、段落0006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来から、芳香族ポリイソシアネートの製造においては連続法が採用されてきたわけであるが、イソシアネート基(NCO)含有量を高めて製品品質を向上させる、あるいは、収率を向上させるといった観点からは、塩酸塩法を採用してホスゲン反応時の副生物の生成をできる限り抑制することが好ましい。そこで、芳香族ポリイソシアネートの製造においても塩酸塩法を採用した上で、さらに、製造工程全体の時間短縮を図ることが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、塩酸塩法を採用しつつ製造工程の時間短縮が可能な、芳香族ポリイソシアネートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の芳香族ポリイソシアネートの製造方法は、芳香族ポリアミンを不活性有機溶剤の存在下にホスゲンと反応させることにより、芳香族ポリイソシアネートを製造する方法において、
芳香族ポリアミンを、第1反応槽において不活性有機溶剤の存在下に塩化水素と反応させ、次いでホスゲンと反応させ、この反応液を所定温度で保持する第1反応工程と、前記第1反応工程で得られた反応液を前記第1反応槽から第2反応槽に移し、この第2反応槽において、前記反応液を所定温度で保持する第2反応工程と、前記第2反応工程で得られた反応液から、芳香族ポリイソシアネートを分離する分離工程を含み、
前記第2反応工程の進行中に、次の前記第1反応工程を開始することを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、塩酸塩法を採用して芳香族ポリイソシアネートを製造する。即ち、第1反応工程において、まず、芳香族ポリアミンを塩化水素と反応させてアミン塩酸塩とした後に、これをホスゲンと反応させる。これにより、芳香族ポリアミンをホスゲンと直接反応させる直接法と比べて副生物の生成が抑制され、NCO含有量の向上、あるいは、収率向上を図ることができる。
【0012】
また、芳香族ポリアミンを塩化水素と反応させ、次いで、ホスゲンと反応させた反応液を、1つの反応槽で保持し続けるのではなく、直列的に配置された2つの反応槽(第1反応槽及び第2反応槽)を用い、まず第1反応槽で反応液を一定時間保持した後に第2反応槽に移し、第2反応槽での第2反応工程の進行中に、第1反応槽で次の第1反応工程を開始する。つまり、第2反応槽における先の反応液の反応工程と、第1反応槽における次の反応液の反応工程とが、同時に進行することになり、製造工程の時間が短縮される。
【0013】
また、本発明の芳香族ポリイソシアネートの製造方法においては、前記第1反応工程において、独立した複数の前記第1反応槽を使用し、ある第1反応槽での前記第1反応工程の進行中に、別の第1反応槽で前記第1反応工程を開始し、前記複数の第1反応槽から交互に前記第2反応槽に反応液を供給することが好ましい。
【0014】
また、本発明の別の芳香族ポリイソシアネートの製造方法は、芳香族ポリアミンを不活性有機溶剤の存在下にホスゲンと反応させることにより、芳香族ポリイソシアネートを製造する方法において、
芳香族ポリアミンを、第1反応槽において不活性有機溶剤の存在下に塩化水素と反応させ、次いでホスゲンと反応させ、この反応液を所定温度で保持する第1反応工程と、前記第1反応工程で得られた反応液から、芳香族ポリイソシアネートを分離する分離工程を含み、
前記第1反応工程において、独立した複数の前記第1反応槽を使用し、ある第1反応槽での前記第1反応工程の進行中に、別の第1反応槽で前記第1反応工程を開始し、前記分離工程を行う分離器に対して、前記複数の第1反応槽から交互に反応液を供給することを特徴とするものである。
【0015】
本発明においては、第1反応工程において、独立した複数の第1反応槽を使用し、ある第1反応槽で第1反応工程が進行している途中で、別の第1反応槽で第1反応工程を開始する。そして、第1反応工程が終了した第1反応槽から分離器(好ましくは蒸留器)へ反応液を供給するようにし、複数の第1反応槽から分離器へ反応液を交互に供給する。このように、複数の第1反応槽10で反応が同時に進行するため、製造工程の時間が短縮される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、芳香族ポリイソシアネートの製造に塩酸塩法を採用することで、ホスゲン反応時の副生物の生成が抑制される。また、第1反応槽で反応液を一定時間保持した後に第2反応槽に移し、第2反応槽での第2反応工程の進行中に、第1反応槽で次の第1反応工程を開始するため、第2反応槽における先の反応液の反応工程と、第1反応槽における次の反応液の反応工程とが、同時に進行することになり、製造工程の時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る芳香族ポリイソシアネートの製造工程を概略的に示す図である。
【図2】実施例及び比較例におけるMDIの製造工程を概略的に示す図である。
【図3】実施例及び比較例のタイムチャートである。
【図4】実施例1の全工程を詳細に示す図表である。
【図5】実施例2の全工程を詳細に示す図表である。
【図6】比較例1の全工程を詳細に示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態においては、まず、原料の芳香族ポリアミンを塩化水素と反応させてアミン塩酸塩を生成し(造塩反応)、次いで、このアミン塩酸塩を含む反応液とホスゲンを反応させ(ホスゲン化反応)、所定温度に保持して芳香族ポリイソシアネートを生成する。その後、反応液から芳香族ポリイソシアネートを分離する(分離工程)。
【0019】
本発明における芳香族ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等が挙げられる。尚、ジフェニルメタンジイソシアネート及びポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートはMDI、トリレンジイソシアネートはTDIと、それぞれ一般的に称されており、以下の説明では、これらの一般的呼称を適宜使用する。
【0020】
(造塩反応)
造塩反応は、反応槽内において、芳香族ポリアミンを、不活性有機溶剤の存在下に塩化水素と反応させることによって行う。芳香族ポリアミンと塩化水素とを反応させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、反応槽内の有機溶剤に、ポリアミンを溶解した溶剤を滴下するとともに塩化水素ガスを装入する方法、反応槽内の有機溶剤に塩化水素ガスを吸収させてから、アミン溶解液を滴下する方法、あるいは、反応槽内のアミン溶解液に、塩化水素ガスを装入する方法などを採用することができる。また、使用可能な不活性有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。
【0021】
(ホスゲン化反応)
ホスゲン化反応は、上記造塩反応後にさらにホスゲンを導入し、反応液を所定温度で一定時間保持することにより行う。このときの反応(保持)温度は、80〜130℃とすることが好ましい。また、反応圧力は0.1〜1MPaとすることが好ましい。反応圧力が高い方が、ホスゲン化反応が速やかに進行するが、1MPaより高い場合、装置の安全性が問題となる場合がある。
【0022】
(分離工程)
ホスゲン化反応後の反応液は、芳香族ポリイソシアネートと、残存ホスゲンや塩化水素、不活性有機溶剤等とが混合した混合物となっている。そこで、この反応液を分離器へ移して芳香族ポリイソシアネートを分離する。分離方法としては蒸留器を用いた蒸留分離が好ましい。尚、蒸留器による分離は、常圧蒸留でも減圧蒸留でもよいが、できるだけ低温で蒸留することが好ましいことから、減圧蒸留が好適である。
【0023】
このように、芳香族ポリイソシアネートの製造において、ホスゲンとの反応前にポリアミンと塩化水素を先に反応させる塩酸塩法を採用した場合には、芳香族ポリアミンをホスゲンと直接反応させる直接法と比べて副生物の生成が抑制される。これは、直接法では、ホスゲンとポリアミンとが反応して生成されたイソシアネートや中間体が、原料ポリアミンと反応して副生物(ウレア)が生成されやすい一方、塩酸塩法では、ホスゲンとの反応前に原料ポリアミンがアミン塩酸塩に変化しているために、上記の副生物が生成されにくいと考えられる。
【0024】
例えば、芳香族ポリイソシアネートがMDIの場合には、ホスゲン化反応での副生物の生成が多いと、MDI中の4核体以上の比率が高くなり、NCO含有量が低くなる。また、芳香族ポリイソシアネートがTDIの場合には、ホスゲン化反応での副生物の生成が多いと、TDI以外の不純物が多くなり、収率が低くなる。従って、塩酸塩法を採用してホスゲン化反応での副生物の生成を抑制することは、NCO含有量の向上、あるいは、収率向上につながる。また、本発明者らの検討では、先の特許文献3の記述とは異なり、ウレア基を有する芳香族ポリイソシアネートをさらにホスゲン化させても、NCO含有量や収率が増加しないことが分かった。つまり、NCO含有量や収率の向上には、ウレア基の生成を抑制することが不可欠である。
【0025】
ところで、上述した塩酸塩法において、造塩反応の開始からホスゲン化反応が完了するまでの間、1つの反応槽において継続して反応液を所定温度で保持し続けてもよいのであるが、本実施形態では、直列的に配置された2つの反応槽(第1反応槽及び第2反応槽)を用い、まず第1反応槽で造塩反応を開始し、次いで、ホスゲンを導入した後、このホスゲン化反応が終了する前に、この反応液を別の第2反応槽に移して、ホスゲン化反応を継続させる。
【0026】
より具体的には、図1(a)に示すように、第1反応槽10に芳香族ポリアミンと塩化水素(HCl)を導入して造塩反応を行い、次いで、ホスゲン(CC)を導入してホスゲン化反応を開始する。そして、第1反応槽10において反応液を所定温度で一定時間保持した後、反応液を第2反応槽11に移し、この第2反応槽11において、反応液を、80〜130℃で一定時間(ホスゲン化反応が完了するまで)保持する。80℃未満では反応の進行が遅くなる。また、130℃より高い場合には、副生成物が生成し、収率やNCO含有量が低下する問題が生じる場合がある。その後、蒸留器12において反応液から芳香族ポリイソシアネートを蒸留分離する。
【0027】
さらに、第1反応槽10から第2反応槽11に反応液を移し、第2反応槽11での第2反応工程が進行している途中に、空になった第1反応槽10で次の第1反応工程(造塩反応及びホスゲン化反応)を開始する。つまり、第2反応槽11における先の反応液の反応工程と、第1反応槽10における次の反応液の反応工程とが、同時に進行することになるため、製造工程の時間が短縮される。
【0028】
尚、3以上の複数の反応槽を直列的に接続し、上流側の反応槽から下流側の反応槽へ反応液を順次移送するようにしてもよい。直列接続される反応槽の数を増やすほど、1つの反応槽で保持する時間は短くなり、直列接続された複数の反応槽で同時に反応を進行させれば、より一層の時間短縮が可能となる。
【0029】
また、図1(b)に示すように、第1反応工程を行う第1反応槽10(10A,10B)を2つ使用してもよい。この場合、独立した2つの第1反応槽10を並列に配置し、一方の第1反応槽10で第1反応工程(造塩反応及びホスゲン化反応)が進行している途中で、別の第1反応槽10で第1反応工程を開始する。そして、第1反応工程が終了した(反応開始から一定時間経過した)第1反応槽10から第2反応槽11へ反応液を供給するようにし、2つの第1反応槽10から第2反応槽11へ反応液を交互に供給する。このように、2つの第1反応槽10で反応を同時に進行させることで、図1(a)と比べてさらなる時間短縮が可能となる。尚、第1反応槽10の数は2つに限られず、3つ以上の第1反応槽10を並列に配置して使用してもよい。
【0030】
また、図1(b)から第2反応槽11を用いた第2反応工程を省略し、図1(c)に示すように、2つの第1反応槽10から蒸留器12へ交互に反応液を供給するようにしてもよい。この場合においても、2つの第1反応槽10で反応が同時に進行することから、製造工程の時間短縮が可能となる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例によって何ら限定して解釈されるものではない。また、以下の説明においては、特段の記載がない限り、「%」は「質量%」を示す。
【0032】
実施例及び比較例で製造する芳香族ポリイソシアネートは、MDIとした。MDIは、ジフェニルメタンジアミン(DAM)とホスゲンとを反応させることによって得られる。
【0033】
<分析項目の詳細>
DAM及びその高級類似体(以下、粗DAMと称す)の核体分布(液体クロマトグラフィーによる測定)
=二核体:三核体:四核体以上(PA%比)
二核体、三核体、及び、四核体以上の合計を100PA%とする。尚、核体とはベンゼン環のことを示す。例えば、二核体とはベンゼン環を分子内に二つ有するDAMを示す。また、三核体及び四核体以上はDAMの高級類似体と称される。
DAM中の異性体の存在比(ガスクロマトグラフィーによる測定)
=(2,2’−DAM+2,4’−DAM/2,2’−DAM+2,4’−DAM+4,4’−DAM)(ピーク面積比)×100
不純物の存在比(ガスクロマトグラフィーによる測定)
=不純物/2,2’−DAM+2,4’−DAM+4,4’−DAM(ピーク面積比)×100
【0034】
<粗DAMの合成>
アニリンとホルムアルデヒドと塩酸とを用いて、以下の物性の粗DAMを合成した。
二核体:三核体:四核体以上(PA%比)=83.3:14.6:2.1
不純物の存在比=0.6
【0035】
<MDIの合成>
図2に実施例1,2及び比較例1,2の工程を概略的に示す。また、図3は、実施例1,2及び比較例1,2のタイムチャートである。
【0036】
(実施例1)
図2に示すように、実施例1では、2つの第1反応槽A,Bを使用してそれぞれ第1反応工程(造塩反応及びホスゲン化反応前半)を行わせた。そして、2つの第1反応槽から交互に第2反応槽に反応液を供給し、第2反応槽で第2反応工程(ホスゲン化反応後半)を行わせた。その後、第2反応槽の反応液を蒸留器に移送してMDIを分離する分離工程を行った。
そして、第1反応槽での処理(第1反応工程)、第2反応槽での処理(第2反応工程)、及び、蒸留器での処理(分離工程)を1バッチとして、計4バッチを続けて行った。図4に、実施例1の全工程の詳細を示す。
【0037】
[第1反応工程]
第1反応槽A,Bは、共に、温度計、塩化水素ガス吹き込み管、原料滴下器、冷却還流塔、攪拌器を備えた内容積500mlの装置である。
図4に示されるように、第1反応槽で行われる第1反応工程は、以下の1)〜5)の工程からなる。
1)第1反応槽に、予め110℃に加熱しておいたモノクロロベンゼン(MCB)150gを仕込んだ。
2)第1反応槽に、粗DAM組成物20.5gを含むMCB溶液55gを200rpmで撹拌しながら、塩化水素ガス0.5g/分と共に40分間で加えた。
3)混合液を110℃に保持しながら、ホスゲン(CC)105gを含むMCB溶液160gを10分間で加えた。
4)58分間反応させて、その後、反応液を第2反応槽に移液した。
5)第1反応槽をMCBで洗浄した。
尚、図4には、1)〜5)の各工程の所要時間と積算時間が示されており、1つのバッチで1)〜5)の工程を行うのに必要な時間は120分である。
【0038】
[第2反応工程]
第2反応槽は、第1反応槽と同形状の装置であり、その内容積も同じである。
この第2反応槽では、第1反応槽から供給された反応液を、110℃で保持しながら53分間反応させて、蒸留器に移送した。尚、この第2反応工程は、第1反応槽からの移液完了(上述した工程4)の終了後)すぐに開始する。つまり、図4に示されるように、1バッチ目であれば工程4)が終了した112分経過後から開始する。また、第2反応工程の所要時間は蒸留器への移液に要する時間を含めて58分である。従って、1バッチ目であれば、第2反応工程が終了した段階の、製造開始からの経過(積算)時間は112+58=170分となる。
【0039】
[分離工程]
蒸留器では、第2反応槽から供給された反応液を減圧下で70分間蒸留し、CCとMCBを除去してMDIを取り出す。この分離工程は第2反応槽からの移液直後から行われることから、例えば、1バッチ目であれば、図4に示されるように、分離工程が終了した段階の、製造開始からの経過(積算)時間は、170+70=240分となる。
【0040】
実施例1のタイムチャートを図3(a)に示す。尚、図3の(1)〜(4)は、どのバッチでの処理であるかを示している。この実施例1では第1反応槽と第2反応槽という2種類の反応槽を使用しており、第2反応槽での反応(第2反応工程)進行中に後のバッチの第1反応槽での反応(第1反応工程)を開始している。さらに、この実施例1では、2つの第1反応槽A,Bを使用しており、一方の第1反応槽での反応進行中に、他方の第1反応槽での反応を開始する。具体的には、図4に示されるように、一方の第1反応槽において工程4)に移行した、第1反応工程の途中段階で(各バッチ開始から60分経過後に)、他方の第1反応槽において工程1)を開始する。
【0041】
(実施例2)
図2に示すように、実施例2では、1つの第1反応槽で第1反応工程(造塩反応及びホスゲン化反応前半)を行わせた。そして、この第1反応槽から第2反応槽に反応液を供給し、第2反応槽で第2反応工程(ホスゲン化反応後半)を行わせた。その後、第2反応槽の反応液を蒸留器に移送してMDIを分離する分離工程を行った。
そして、第1反応槽での処理(第1反応工程)、第2反応槽での処理(第2反応工程)、及び、蒸留器での処理(分離工程)を1バッチとして、計4バッチを続けて行った。図5に、実施例2の全工程の詳細を示す。また、実施例2のタイムチャートを図3(b)に示す。
【0042】
図5の第1反応工程(工程1)〜工程5))、第2反応工程、及び、分離工程の個々の工程の内容は実施例1と同じである。この実施例2では、第1反応槽から第2反応槽への移液が終了し、第1反応槽の洗浄が終わった後直ぐに、次のバッチの第1反応槽での反応を開始しており、図3(b)から分かるように、先のバッチの第2反応槽での反応と、次のバッチの第1反応槽での反応とが同時進行している。
【0043】
(比較例1)
図2に示すように、比較例1では、1つの第1反応槽で造塩反応とホスゲン化反応を最後まで行わせ、その後、反応液を蒸留器に供給してMDIを分離する分離工程を行った。
そして、第1反応槽での処理と蒸留器での処理を1バッチとして、計4バッチを続けて行った。図6に、比較例1の全工程の詳細を示す。また、比較例1のタイムチャートを図3(c)に示す。
【0044】
図6の第1反応工程(工程1)〜工程5))は実施例1,2とほぼ同じであるが、第2反応槽を使用していない分、ホスゲン化反応を行わせる工程4)の時間が120分と長くなっている。
【0045】
(比較例2)
図2に示す比較例2は、粗DAMとホスゲンとを直接反応させる直接法を適用した例である。
1)温度計、原料滴下器、攪拌器を備えた内容積50mlの第1反応槽に、60℃に加熱した10%粗DAM/MCB溶液を2.2g/分で連続的に供給するとともに、−4℃の18.1%ホスゲン/MCB溶液を2.4g/分で連続的に供給し、混合した。
2)温度計、冷却還流塔、攪拌器を備えた内容積100mlの第2反応槽に、第1反応槽からオーバーフローした溶液を連続的に供給し、110℃で混合した。
3)この第2反応槽からオーバーフローした溶液を350分間収集した。
4)この溶液を蒸留器において減圧下で70分間蒸留し、CCとMCBを除去した。
この比較例2のタイムチャートを図3(d)に示す。
【0046】
以上の実施例1,2及び比較例1,2のそれぞれについて、実施条件と結果をまとめたものを表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
尚、表1において、生産性指数とは、実施例1,2及び比較例1では、4バッチ合計の粗MDI収量(g)を4バッチ目の終了時間(分)で割った値、比較例2では、粗MDI収量(g)を全工程が終了する時間(分)で割った値を示す。尚、生産性指数が大きい方が高い生産性を示す。
【0049】
<検証>
実施例1,2と比較例1,2とで、粗MDIの収率は同じであるが、粗MDIのNCO含有量と生産性指数に差が生じた。
【0050】
実施例1,2と比較例1は塩酸塩法を採用していることで共通しており、その結果、粗MDIのNCO含有量は全て高い値(32.8%)を示している。しかし、生産性指数については、実施例1が最も大きく(0.216)、次いで実施例2(0.151)、そして、比較例1(0.117)が最も低くなっている。
【0051】
これは、図3から分かるように、第1反応槽と第2反応槽を使用し、且つ、第1反応槽を2つ使用している実施例1では、第1反応槽と第2反応槽での反応の同時進行、及び、2つの第1反応槽間での反応の同時進行が行われていることにより、全体の製造時間が短縮されているからである。これによって、バッチ式の塩酸塩法を採用しながらも、連続式の直接法を採用している比較例2と同等の高い生産性指数が実現されている。また、実施例2においては、第1反応槽と第2反応槽を使用することで、第1反応槽と第2反応槽での反応の同時進行が行われているため、生産性指数が比較的高くなっている。一方、比較例では、第1反応槽のみで反応が行われるため、この第1反応槽の反応液を蒸留器へ移してからでないと次のバッチを開始できないことから、全体の製造時間が長くなり、生産性指数が低いものとなっている。
【0052】
また、連続式の比較例2では、先にも述べたように、生産性指数では実施例1と同等であるが、粗MDIのNCO含有量がかなり低くなっている。これは、塩酸塩法と比べてホスゲン化反応での副生物生成が多い、直接法を採用しているためと考えられる。
【符号の説明】
【0053】
10 第1反応槽
11 第2反応槽
12 蒸留器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミンを不活性有機溶剤の存在下にホスゲンと反応させることにより、芳香族ポリイソシアネートを製造する方法において、
芳香族ポリアミンを、第1反応槽において不活性有機溶剤の存在下に塩化水素と反応させ、次いでホスゲンと反応させ、この反応液を所定温度で保持する第1反応工程と、
前記第1反応工程で得られた反応液を、第2反応槽において、前記反応液を所定温度で保持する第2反応工程と、
前記第2反応工程で得られた反応液から、芳香族ポリイソシアネートを分離する分離工程を含み、
前記第2反応工程の進行中に、次の前記第1反応工程を開始することを特徴とする芳香族ポリイソシアネートの製造方法。
【請求項2】
前記第1反応工程において、独立した複数の前記第1反応槽を使用し、
ある第1反応槽での前記第1反応工程の進行中に、別の第1反応槽で前記第1反応工程を開始し、
前記複数の第1反応槽から交互に前記第2反応槽に反応液を供給することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリイソシアネートの製造方法。
【請求項3】
芳香族ポリアミンを不活性有機溶剤の存在下にホスゲンと反応させることにより、芳香族ポリイソシアネートを製造する方法において、
芳香族ポリアミンを、第1反応槽において不活性有機溶剤の存在下に塩化水素と反応させ、次いでホスゲンと反応させ、この反応液を所定温度で保持する第1反応工程と、
前記第1反応工程で得られた反応液から、芳香族ポリイソシアネートを分離する分離工程を含み、
前記第1反応工程において、独立した複数の前記第1反応槽を使用し、
ある第1反応槽での前記第1反応工程の進行中に、別の第1反応槽で前記第1反応工程を開始し、
前記分離工程を行う分離器に対して、前記複数の第1反応槽から交互に反応液を供給することを特徴とする芳香族ポリイソシアネートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132159(P2011−132159A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292197(P2009−292197)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】