説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】 無機充填剤配合ポリカーボネート樹脂組成物が有する寸法安定性、機械的強度、耐熱性などの特長を損なうことなく、薄肉成形品の成形に適した流動性を有し、且つ、外観、及び塗膜の密着性にも優れた樹脂成形体となる、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)70〜92重量%、芳香族ビニル単量体単位と特定(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む共重合体(B)2〜20重量%、及び平均重合度2〜15の芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)2〜10重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、無機充填剤(D)10〜100重量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性改良剤、表面改良剤、及び無機充填剤、を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、流動性、外観、塗膜の密着性の全てに優れた、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形してなる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性、透明性等に優れた樹脂として、多くの分野で幅広く用いられている。中でもガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、マイカ、タルク等の無機充填剤で強化したポリカーボネート樹脂組成物は、寸法安定性、機械的強度、耐熱性といった種々優れた性能を示すことから、カメラ、OA機器、電気電子部品などの産業分野で幅広く使用されている。
【0003】
無機充填剤で強化されたポリカーボネート樹脂組成物は、このような優れた寸法安定性や機械的強度を有する一方で、流動性が低下し、薄肉成形品の成形が困難となる。又、無機充填剤が成形品表面に浮き出して成形品の外観を損なうだけでなく、塗装を施した場合には、塗膜が剥離し易いという問題があり、軽薄短小化の要求が厳しく、且つ外観や塗装性の重視されるデジタルカメラ、携帯端末の鏡筒、筐体等の電子製品部品への使用には大きな制限があった。
【0004】
この様なポリカーボネート樹脂組成の欠点である外観不良や塗膜密着性の改良方法として、ポリカーボネート樹脂にガラス系充填剤とポリカーボネートオリゴマーを配合した樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
またガラス繊維を含むポリカーボネート樹脂組成物に、熱可塑性ポリウレタンや、トリフェニルフォスフェート、または特定構造のポリカプロラクトン樹脂等の流動性改良剤を配合することで、流動性や成形品の外観を改良する方法が提案されている(例えば特許文献2〜4参照)。
【0006】
更には、ポリカーボネート樹脂等のエンジニアリングプラスチックスに、芳香族ビニル単量体単位とエステル基がフェニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とからなる共重合体を配合することで、透明性を損なわずに流動性や耐薬品性を改良する方法が提案されている(例えば特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】特開昭60−4550号公報
【特許文献2】特開平6−41415号公報
【特許文献3】特開平7−3140号公報
【特許文献4】特開昭63−6051号公報
【特許文献5】WO2005/030819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1に記載の方法では、薄肉成形に適した流動性を得るために多量のポリカーボネートオリゴマーを配合する為に、機械的強度や荷重撓み温度が不十分であるという問題があった。
【0009】
また特許文献2〜4に記載の方法では、樹脂組成物の流動性や、樹脂成形体の外観は改良されるものの、機械的強度が低下し、更には用いる流動性改良剤の熱安定性が低い為に、成形時に流動性改良剤が分解し、金型への付着(モールドデポジット)が発生するという問題があった。
【0010】
とりわけこのモールドデボジットは、実際の化学産業での樹脂成形の様に、長時間、連続して成形を続けると発生頻度が増加することに加えて、近年、特に部品の薄肉化から成形温度が高くなってきていることから、ますます大きな問題となっている。
【0011】
更に、特許文献5に記載の方法では、得られる樹脂成形体表面への塗膜の密着性(塗装性)に付いて検討がなされておらず、未だ不十分なままであった。そして本発明者らの実験によれば、特許文献5に記載の、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニル単量体単位とエステル基がフェニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とからなる共重合体、及び無機フィラーのみからなる樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体では、その表面に塗装を施しても、塗膜が剥離し易いという、新たな課題を見出した。
【0012】
本発明の目的は、無機充填剤を含むポリカーボネート樹脂組成物が有する寸法安定性、機械的強度、耐熱性などの特長を損なうことなく、薄肉成形品の成形に適した流動性を有するものとし、且つ外観や塗膜の密着性にも優れた樹脂成形体となる、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決すべく、本発明らが鋭意件とした結果、芳香族ポリカーボネート樹脂に、特定の共重合体、芳香族ポリカーボネートオリゴマー、及び無機充填剤を含有させることによって、とりわけ、複数種の無機充填剤を併用することによって、特に薄肉成形品の成形に適した流動性を有するものとなることを見出した。そして更に、この樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体は、外観と塗膜の密着性の双方に優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち本発明の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)70〜92重量%、芳香族ビニル単量体単位(b1)とエステル基が芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b2)とからなる共重合体(B)2〜20重量%、及び下記一般式〔I〕で表される構成単位の平均重合度2〜15の芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)2〜10重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、無機充填剤(D)10〜100重量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形体に関する。
【0015】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖または環状のアルキリデン基、アリール置換アルキリデン基、アリーレンジアルキリデン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、またはスルホニル基を示し、R 〜R は各々同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはアルケニル基を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、寸法安定性、機械的強度、耐熱性等の諸物性が良好であるという特性を維持しつつ、流動性にも優れ、更に得られる樹脂成形体は外観が良好で且つ、塗膜の密着性に優れていると言う効果を同時に奏する特徴を有する。本発明の樹脂組成物はこの様な特性を生かして、とりわけ薄肉且つ高強度が要求される樹脂部材、具体的には例えば、カメラやデジタルカメラ等の本体筐体やレンズ鏡筒用筐体、携帯電話、ノートブック型パソコン、ビデオカメラ、コピー機、ファクシミリ等の部品やハウジングとして好適に使用することができる。特に、軽薄短小化の要求の厳しいデジタルカメラ、携帯端末の筐体や、鏡筒等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を更に詳細に説明する。また、本明細書において、各種化合物が有する「基」は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、置換基を有していてもよい。
【0018】
[1]芳香族ポリカーボネート樹脂(A)
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)(以下、A成分ということがある。)は特に制限はなく、従来公知の任意の芳香族ポリカーボネート樹脂を使用できる。具体的には例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを、またはこれらに併せて少量のポリヒドロキシ化合物等を反応させてなる、直鎖または分岐の熱可塑性の芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。
【0019】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は制限はなく、従来公知の任意の方法を使用できる。具体的には例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等が挙げられる。
【0020】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料として使用される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0021】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等で例示されるカルド構造含有ビスフェノール類;
【0022】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0023】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性の点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。これらカーボネート前駆体もまた1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
また本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)としては、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した、分岐芳香族ポリカーボネート樹脂でもよい。三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、具体的には例えばフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等で例示されるポリヒドロキシ化合物類;3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。
【0027】
中でも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。多官能性芳香族化合物は、前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができ、その使用量は適宜選択して決定すればよいが、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して0.01〜10モル%であることが好ましく、特に0.1〜2モル%であることが好ましい。
【0028】
次に芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。まず界面重合法に付いて説明する。この製造方法おいては、反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、反応を行う。まず芳香族ジヒドロキシ化合物、ならびに必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)および芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させる。
【0029】
次いで第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによって芳香族ポリカーボネートを得る。分子量調節剤の添加はホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。なお反応温度は例えば0〜40℃、反応時間は例えば数分(例えば10分)〜数時間(例えば6時間)である。
【0030】
ここで、反応に不活性な有機溶媒としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。またアルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
【0031】
分子量調節剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。一価のフェノール性水酸基を有する化合物としては、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノールおよびp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して、好ましくは50〜0.5モル、より好ましくは30〜1モルである。
【0032】
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類:トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0033】
次に溶融エステル交換法について説明する。この製造方法は、例えば炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応によるものである。炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネートおよびジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が挙げられる。炭酸ジエステルとしては、中でもジフェニルカーボネートまたは置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0034】
一般的に溶融エステル交換法においては、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率の調整や、反応時の減圧度の調整により、所望の分子量および末端ヒドロキシル基量を有する芳香族ポリカーボネートを得ることができる。より積極的な方法として、反応時に別途、末端停止剤を添加する調整方法も周知である。
【0035】
末端停止剤としては、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられる。末端ヒドロキシル基量は、製品芳香族ポリカーボネートの熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼすので、用途により適宜選択して決定すればよい。実用的な物性を持たせるためには、通常1000ppm以下であり、中でも700ppm以下であることが好ましい。
【0036】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂をエステル交換法で製造する場合には、その末端ヒドロキシル基量が100ppm以上であることが好ましい。末端ヒドロキシル基量を100ppm以上とすることで分子量の低下を抑制でき、色調もより良好なものとすることができる。この様な芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いて製造すればよく、中でも1.01〜1.3モル用いることが好ましい。
【0037】
溶融エステル交換法においては、通常、エステル交換触媒を用いる。このエステル交換触媒としては従来公知の任意のものを使用でき、特に制限はないが、中でもアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が好ましい。また補助的に塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物等の塩基性化合物を併用してもよい。
【0038】
溶融エステル交換反応の諸条件としては、反応温度は通常、100〜320℃、圧力は最終的に2mmHg以下の減圧下であり、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら重縮合反応を行う方法が挙げられる。この反応はバッチ式でも、または連続的に行ってもよい。中でも本発明の樹脂組成物の安定性等を考慮すると、連続式で行うことが好ましい。
【0039】
また溶融エステル交換法に用いる触媒失活剤は、該触媒を中和する化合物であれば特に制限はないが、具体的には例えば、イオウ含有酸性化合物や、その誘導体を使用することが好ましい。触媒失活剤の使用量は、通常、エステル交換触媒が含有するアルカリ金属に対して0.5〜10当量、中でも1〜5当量であることが好ましい。更にこの触媒失活剤は、最終的に得られる芳香族ポリカーボネート樹脂中に於いて、その濃度が1〜100ppmとなることが好ましく、中でも1〜20ppmであることが好ましい。
【0040】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で、10000〜25000であることが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量を10000以上とすることで機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を、25000以下とすることで流動性が向上し、成形加工が容易になる。
【0041】
中でも粘度平均分子量は、11000〜23000であることが好ましく、特に12000〜22000であることが好ましい。本発明においては、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を用いてもよく、この様な粘度平均分子量となる芳香族ポリカーボネート樹脂混合物であれば、もちろん、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合し、使用してもよい。
【0042】
ここで粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−40.83、から算出される値を意味する。極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0043】
【数1】

【0044】
更に本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂を使用してもよい。使用済みの製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス・自動車ヘッドランプレンズ・風防等の車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁・ガラス窓・波板等の建築部材等が好ましく挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂は、(A)の80重量%以下であることが好ましく、より好ましくは50重量%以下である。
【0045】
[2]共重合体(B)
本発明においては、流動性改良を目的として、芳香族ビニル単量体単位(b1)とエステル基が芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b2)とからなる共重合体(B)(以下、単に「共重合体(B)」、またはB成分ということがある。)を用いる。本発明に用いる共重合体(B)を構成する各単量単位の含有量は任意だが、通常、芳香族ビニル単量体単位(b1)が0.5〜99.5重量%、そしてエステル基が(置換)芳香環である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b2)が、0.5〜99.5重量%である。そして更に、必要に応じて、その他の単量体単位(b3)0〜40重量%を含んでいてもよい。
【0046】
芳香族ビニル単量体単位(b1)としては、具体的には例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2、4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、プロモスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンが好ましい。
【0047】
共重合体(B)中の芳香族ビニル単量体単位(b1)の含有率は0.5〜99.5重量%である。好ましくは10〜98重量%であり、中でも20〜96重量%、更には50〜93重量%、特に75〜90重量%であることが好ましい。芳香族ビニル単量体単位(b1)が99.5重量%を越えると、相溶性が不足し、層状剥離を引き起こし、外観や機械的強度を損なうことがあり、逆に0.5重量%未満では流動性や耐薬品性が低下する傾向にある。
【0048】
エステル基が芳香環または置換基を有する芳香環である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b2)(以下、単に「b2」と言うことがある。)としては、中でも芳香環がフェニル基であることが好ましく、具体的には例えば、フェニル(メタ)アクリレート、4−t−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、ブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、モノクロルフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。中でもフェニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0049】
本発明においては、共重合体(B)中の(b2)の含有率を、特定量含有することをも特長とする。共重合体(B)における(b2)の含有量は通常、0.5〜99.5重量%である。(b2)が少なすぎると芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性が不十分であり、例えば樹脂成形体としてその表面に塗膜を設けても層状剥離を引き起こす等、外観や機械的強度を損なう場合がある。逆に多すぎても、本発明における樹脂成分の流動性が低下する傾向にある。
【0050】
これは(b2)が多すぎる為に芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と共重合体(B)との相溶が過度に進み、分子レベルで相溶してしまう為に共重合体(B)に比べて流動性の低い芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の性質が発現し、流動性改良効果が低下する為と考えられる。
【0051】
よって(b2)の含有量は2〜90重量%であることが好ましく、中でも4〜80重量%、更には7〜50重量%、特に10〜25重量%であることが好ましい。
【0052】
本発明に用いる共重合体(B)は、その特徴を損なわない範囲で、芳香族ビニル単量体や、フェニル基または置換フェニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な、他の単量体単位(b3)を0〜40重量%含んでいてもよい。
【0053】
この、他の単量体単位(b3)としては例えば、α、β−不飽和単量体が挙げられる。具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の反応性官能基を有する(メタ)アクリレート、安息香酸ビニル、酢酸ビニル等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。共重合体(B)においてこの、他の単量体単位(b3)が多すぎると、流動性と耐薬品性が低下する傾向にあるので、その含有量は、共重合体(B)中において通常30重量%以下であることが好ましく、中でも20重量%以下、更には10重量%以下、特に5重量%以下であることが好ましい。
【0054】
本発明に用いる共重合体(b)の重量平均分子量(Mw)は任意だが、通常5000〜150000である。重量平均分子量が小さすぎると、モールドデボジットやフィッシュアイ、そしてシルバー等の外観不良が発生しやすくなり、逆に大きすぎても、流動性の改良効果が低下してしまう。よって重量平均分子量は、10000〜140000であることが好ましく、中でも15000〜130000、更には30000〜120000、特に40000〜100000であることが好ましい。
【0055】
共重合体(B)の製造方法は任意であり、従来公知の任意の重合方法を用いて製造すればよい。具体的には例えば、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などが挙げられる。尚、乳化重合法により製造する際には、残存塩が芳香族ポリカーボネート樹脂の熱分解を引き起こす恐れがあるため、残存塩を、カルボン酸塩乳化剤等を使用して塩析凝固等により回収するか、リン酸エステル等のノニオンアニオン系乳化剤等を使用し、酢酸カルシウム塩等で塩析凝固することが好ましい。本発明に用いる共重合体(B)としては、例えば国際出願公開WO2005/030819号公報に記載されているものを用いることが出来る。
【0056】
[3]芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)
本発明における、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)(以下、C成分ということがある。)は、以下に示す一般式〔I〕を構成単位(モノマー単位)とし、このモノマー単位の平均重合度が2〜15のオリゴマーである。
【0057】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖または環状のアルキリデン基、アリール置換アルキリデン基、アリーレンジアルキリデン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、またはスルホニル基を示し、R 〜R は各々同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはアルケニル基を示す。)
【0058】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)の製造方法は特に制限はないが、通常、先述の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に用いるのと同様の、二価フェノール類とカーボネート前駆体とを用い、分子量調節剤または末端停止剤を通常の芳香族ポリカーボネート樹脂製造時に使用されるよりも多く使用する以外は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法と同様にして製造することができる。
【0059】
分子量調節剤または末端停止剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物や芳香族カルボン酸基を有する化合物等が挙げられる。具体的には例えば、フェノール、p−t−ブチルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0060】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)の平均重合度は2〜15である。また本発明に用いる芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、一種でも、またはこの平均重合度範囲内であれば二種類以上を混合して使用してもよい。平均重合度が2未満では、本発明の樹脂組成物の成形時に、樹脂成形体からブリードアウトし易くなってしまい、逆に平均重合度が15を越えると樹脂成形体表層部にこの芳香族ポリカーボネートオリゴマー集まり難くなるので、無機充填剤(D)が成形品表面に露出し、満足する塗膜の密着性が得られない。よって芳香族ポリカーボネートオリゴマーの平均重合度は、中でも4〜12であることが好ましい。
【0061】
[4]無機充填剤(D)
本発明における無機充填剤(D)(以下、D成分ということがある。)は、固体の無機化合物である。固体の形態(外観)は特に制限はなく、例えば球状、板状、針状、繊維状、不定形などのいずれであってもよい。
【0062】
球状の形態のものは、真球状の形態を呈するものだけでなく、ある程度断面楕円状や略長円状のものも含み、好ましくはアスペクト比(球状体の最長の直径/球状体の最小の直径)が0.5〜2の範囲のものであり、1に近いものが好ましい。板状の形態のものは、アスペクト比(板状粉の板状面における最長辺の長さ/板状体の厚さ)が2〜100の範囲のものを示す。
【0063】
針状の形態を呈するものは、長さが500μm未満でアスペクト比(粒子長さ/粒子径)が2〜20の範囲のものを意味する。繊維状の形態のものは、長さが500μm以上のものを示す。無機充填剤の外観は、例えば電子顕微鏡写真などにより、容易に判別することができる。中でも本発明に用いる無機充填剤(D)としては、最終的に得られる樹脂組成物の寸法安定性や剛性を向上させるために、板状や繊維状の無機充填剤を用いることが好ましい。
【0064】
本発明に用いる無機充填剤(D)のうち、板状充填剤(d1)としては、具体的には例えばタルク等の珪酸マグネシウム、カオリナイト、クレー、マイカ、黒鉛、セリサイト、モンモリロナイト、板状炭酸カルシウム、板状アルミナ、板状ベーマイト、ガラスフレークなどが挙げられる。繊維状充填剤(d2)としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、鉱物繊維、セラミックスウイスカーなどが挙げられる。針状充填剤(d3)としては、ウォラストナイトなどの珪酸カルシウム、モスハイジ、ゾノトライト、チタン酸カルシウム、硼酸アルミニウム、針状炭酸カルシウム、針状酸化チタン、テトラポット型酸化亜鉛、針状ベーマイト等が挙げられる。
【0065】
板状充填剤(d1)の平均粒子径は、本発明の樹脂成形体に付与すべき物性に応じて、適宜選択して決定すればよいが、具体的には例えば0.1〜300μmである。平均粒子径が小さすぎると補強効果が不充分となり易く、逆に大きすぎると樹脂成形体外観や耐衝撃性が低下する場合がある。よって板状充填剤(d1)の平均粒子径は、中でも0.3〜100μm、特に0.5〜50μmであることが好ましい。ここで平均粒子径とは、X線透過による液相沈降方式で測定されたD50をいう。このような測定ができる装置としては、Sedigraph粒子径分析器(Micromeritics Instruments社製、型式:モデル5100)が挙げられる。
【0066】
繊維状充填剤(d2)の平均繊維長、平均繊維径は、本発明の樹脂成形体に付与すべき物性に応じて、適宜選択して決定すればよい。具体的には例えば平均繊維長は500μ〜6mm、平均繊維径は1〜20μmである。平均繊維長が長すぎると、樹脂成形体表面への塗装時に、繊維の飛び出しによる外観不良を生じる場合がある。逆に短すぎてもアスペクト比が小さくなるため充分な強度が得られない。また平均繊維径が細すぎると補強効果が不充分となり、逆に太すぎても樹脂成形体外観が低下するので、繊維径は2〜17μmであることが好ましく、特に3〜15μmであることが好ましい。尚、繊維状フィラーの繊維径は、電子顕微鏡写真により容易に測定することができる。
【0067】
針状充填剤(d3)としては、平均繊維長1μm以上500μm未満、中でも10〜300μm、特に20〜200μmであることが好ましい。またその平均繊維径は1〜10μmであることが好ましい。また針状充填剤をクロス状、板状などの各種形態に加工したものを用いてもよい。
【0068】
本発明に用いる無機充填剤(D)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)や共重合体(B)との界面密着性向上のために、収束剤又は表面処理剤により処理されていることが好ましい。この様な集束剤や表面処理剤としては、具体的には例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、予め無機充填剤(D)の表面処理又は収束処理を施して用いるか、又は材料調製、例えば混合、混練の際に同時に添加してもよい。表面処理剤の使用量は適宜選択して決定すればよいが、通常、無機充填剤(D)に対して0〜10重量%、中でも0.05〜5重量%であることが好ましい。
【0069】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上述した芳香族ポリカーボネート樹脂(A)70〜92重量%、芳香族ビニル単量体単位(b2)とエステル基がフェニル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b2)とからなる共重合体(B)2〜20重量%、そして芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)2〜10重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、無機充填剤(D)を10〜100重量部含有する、樹脂組成物である。
【0070】
A成分〜C成分からなる樹脂組成物100重量部において、A成分の含有率が70重量%未満では、樹脂組成物の機械的強度や荷重撓み温度が低下し、逆に92重量%を越えると流動性が低下する。B成分が2重量%未満では流動性が劣り、逆に20重量%を越えると耐衝撃性や荷重撓み温度が低下する。またC成分が2重量%未満では塗装性が低下し、逆に10重量%を越えると機械的強度や荷重撓み温度が低下する。
【0071】
本発明のポリカーボネート樹脂樹脂組成物においては、D成分を、上述したA成分〜C成分からなる樹脂組成物100重量部に対して、10〜100重量部含有する。D成分が10重量部未満では寸法安定性や剛性が不十分となり、逆に100重量部を越えると塗装性、外観、流動性が低下してしまう。
【0072】
中でもD成分としては、板状充填剤(d1)、繊維状充填剤(d2)、及び針状充填剤(d3)からなることが好ましく、特に板状充填剤(d1)と繊維状充填剤(d2)からなることが好ましい。この様に異なる形状の無機充填剤を用いた場合の各々の重量比は、1.5≦d1/(d2+d3)≦10であることが好ましく、中でも板状充填剤(d1)と繊維状充填剤(d2)の重量比(d1/d2)が、1.5≦d1/d2≦10であることが好ましい。d1/d2を1.5以上とすることで寸法安定性が向上する傾向となり、また10以下とすることでと機械的強度を向上することができる。
【0073】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、更に必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、上述したA成分〜D成分に加えて他の樹脂(E)や、各種の樹脂添加剤(F)を含有させても良い。
【0074】
他の樹脂(E)としては、具体的には例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0075】
また樹脂添加剤(F)としては、従来公知の任意の酸化防止剤、熱安定剤、耐衝撃性改良剤、耐候性改良剤、離型剤、帯電防止剤、染顔料、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などが挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0076】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法により製造することができる。具体的には、上述したA成分〜D成分、および必要に応じて含有させる添加成分等を、タンブラ−やヘンシェルミキサ−などの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリ−ミキサ−、ロ−ル、ブラベンダ−、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニ−ダ−などで溶融混練することによって樹脂組成物を製造することができる。
【0077】
また、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみ予め混合してフィダ−を用いて押出機に供給して溶融混練して樹脂組成物を製造することもできる。さらに、D成分が溶融混練により破壊しやすい無機充填剤であるときは、D成分以外を上流部分に一括投入し、中流以降でD成分を添加し樹脂成分と溶融混練する方法も、得られる樹脂組成物の機械的強度の点から好ましい。
【0078】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、各種製品(成形品)の製造(成形)用樹脂材料として使用される。成形方法は特に制限はなく、従来公知の任意の熱可塑性樹脂成形方法を用いることが出来る。具体的には例えば、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例および比較例において、配合量は重量部を表す。
【0080】
実施例、比較例において用いた各原料は、以下の通りである。
【0081】
<A成分>
A−1 三菱瓦斯化学社製 ポリカーボネート ユーピロンS−3000F Mv21000
【0082】
A−2 三菱瓦斯化学社製 ポリカーボネート ユーピロンH−4000F Mv16000
【0083】
A−3 三菱瓦斯化学社製 ポリカーボネート ユーピロンH−7000F Mv14000
【0084】
<B成分>
B−1 三菱レイヨン社製 TP−003 スチレン/フェニルメタクリレート(85/15wt%)共重合体 Mw50000
【0085】
B−2 ダイセル化学社製 ポリカプロラクトン プラクセルH1P 数平均分子量10000。
【0086】
<C成分>
C 三菱瓦斯化学社製 ポリカーボネートオリゴマー ユーピロンAL−071(7量体オリゴマー)
【0087】
<D成分>
D-1-a 日本板硝子社製 ガラスフレーク REFG301 平均長径150μm、厚さ5μm
【0088】
D-1-b 西村黒鉛社製 燐状黒鉛 PB90 平均粒径 14μm
【0089】
D-2 日本電気硝子社製 ガラス繊維 ECS03T571 平均直径 13μm、長さ2mm
【0090】
D-3 河合石灰工業社製 針状ベーマイト BMI 平均粒径4〜6μm、アスペクト比30〜50
【0091】
<E成分>
E 離型剤 コクニスジャパン社製 ペンタエリスリトールテトラステアレート VPG861
【0092】
(実施例1〜8、比較例1〜5)
[ペレット作成]
表1に示す成分、割合にて配合した樹脂組成物をタンブラーミキサーにて均一混合した後、2箇所のフィード口を有する二軸押出機(30mmφ)を用いて、シリンダー温度260℃で樹脂組成物と板状充填剤をメインホッパーから、また繊維状充填剤をサイドフィーダーから混練機内へフィードし、溶融、混練してペレットを製造した。
【0093】
[機械物性評価]
得られたペレットを、射出成形機(住友重機械工業社製、サイキャップM−2、型締め力75T)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度110℃の条件で、ISO多目的試験片を製造し、曲げ弾性率(ISO178曲げ試験法による3点曲げ試験により測定。)、及びシャルピー衝撃強度(ISO179により非ノッチにて測定。尚、試験機容量50Jで破壊しない場合をNBと表した。)の測定を行った。結果を表1、2に記した。
【0094】
[流動性評価]
得られたペレットを上述の機械物性評価試験片製造と同型の射出成形機を用い、シリンダー温度300℃、金型温度100℃の条件で、幅20mm、厚さ0.5mmのバーフロー金型を用いて流動長を測定した。結果を表1、2に記した。
【0095】
[成形収縮率、及びピーリング性の評価]
得られたペレットを上述の射出成形機を用い、シリンダー温度300℃、金型温度100℃の条件で80mm×40mm×3mmのプレートを成形した。このプレートを23℃、50%RHで48時間調湿した後の成形収縮率を測定した。測定はゲートから樹脂の流動方向(平行)と垂直方向について行った。またこの調湿後のプレート表面にセロハンテープを貼り、剥がした後の表面状態を観察し、樹脂成形体表面に剥離が観察されないものをOK、剥離が観察されたものをNGとし、結果を表1、2に記した。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)70〜92重量%、芳香族ビニル単量体単位(b1)とエステル基が芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b2)とからなる共重合体(B)2〜20重量%、及び下記一般式〔I〕で表される構成単位の平均重合度2〜15の芳香族ポリカーボネートオリゴマー(C)2〜10重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、無機充填剤(D)10〜100重量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖状または環状のアルキリデン基、アリール置換アルキリデン基、アリーレンジアルキリデン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、またはスルホニル基を示し、R〜Rは各々同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【請求項2】
無機充填剤(D)が、板状無機充填剤(d1)、繊維状無機充填剤(d2)、及び針状無機充填剤(d3)からなる群より選ばれる2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
板状無機充填剤(d1)、繊維状無機充填剤(d2)、及び針状無機充填剤(d3)の重量比が、1.5≦d1/(d2+d3)≦10であることを特徴とする請求項2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。

【公開番号】特開2008−31231(P2008−31231A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204103(P2006−204103)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】