説明

芳香族ポリカーボネート組成物

本発明は、以下の成分:
a)芳香族ポリカーボネートを30〜97質量%、
b)電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物を0.5〜20質量%、および
c)少なくとも1種のゴム状重合体を2.5〜50質量%
(ここで、a)〜c)の合計は100%である)を含む、重合体組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、重合体、特に、芳香族ポリカーボネートと、電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物とを含む重合体組成物に関する。本発明はまた、この種の組成物の製造方法、この組成物を含む成形部品、この種の部品を含む回路キャリア、およびこの種の回路キャリアの製造方法にも関する。
【0002】
重合体と、電磁放射によって活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物とを含む重合体組成物は、例えば、米国特許第7083848B2号明細書および米国特許第7060421B2号明細書に記載されている。この種の重合体組成物は、有利には、その上に導電トラックが形成される非導電性部品(上記部品に電磁放射を照射してその範囲の金属化合物を分解することにより金属核を放出させた後、照射された範囲をメタライズすることによりこの範囲に金属が堆積される)の製造に使用することができる。
【0003】
本出願人らは、この種の金属化合物が芳香族ポリカーボネート組成物中に存在すると、ポリカーボネートが分解され、それによって組成物の溶融安定性が低下し、したがって、加工がより不安定になることを現時点において見出している。
【0004】
本発明の目的は、電磁放射によって活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物を含む、上記欠点を示さないかまたはその程度が低減されているポリカーボネート組成物を提供することにある。
【0005】
この目的は、重合体組成物が、以下の成分:
a)芳香族ポリカーボネートを30〜97質量%、
b)電磁放射によって活性化され、それによって単体金属を形成することが可能な金属化合物を0.5〜20質量%、および
c)少なくとも1種のゴム状重合体を2.5〜50質量%
(ここで、a)〜c)の合計は100%である)を含むことにより達成される。
【0006】
意外なことに、本発明による重合体組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解は、例えば、溶融流動安定性および/または靭性の向上に現れるように、低減されているかまたは阻止さえされることが見出された。本明細書において用いられるポリカーボネートの分解とは、分子量の低下を指す。
【0007】
したがって本発明は、電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物b)をさらに含有する芳香族ポリカーボネート組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解を低減する方法であって、上記組成物を少なくとも1種のゴム状重合体と混合することにより、以下の成分a)芳香族ポリカーボネートを30〜97質量%、b)電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物を0.5〜20質量%、およびc)少なくとも1種のゴム状重合体を2.5〜50質量%含み、a)〜c)の合計が100%である重合体組成物を得ることによる、方法にも関する。好ましい実施形態においては、重合体組成物は、a)芳香族ポリカーボネートを30〜95質量%、b)電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物を0.5〜20質量%、およびc)少なくとも1種のゴム状重合体を4.5〜50質量%含み、a)〜c)の合計は100%である。
【0008】
本発明によるポリカーボネート組成物は、特に、芳香族ポリカーボネートを30質量%から97質量%まで、好ましくは30質量%から96質量%まで、好ましくは30質量%から95質量%まで、より好ましくは芳香族ポリカーボネートを15質量%から90質量%まで、よりさらに好ましくは芳香族ポリカーボネートを50質量%から85質量%まで含む。好適な芳香族ポリカーボネートは、少なくとも2価のフェノールおよびカーボネート前駆体から、例えば、一般に周知の界面重合法または溶融重合法によって作製されるポリカーボネートである。適用してもよい好適な2価のフェノールは、1個以上の芳香族環を有し、この芳香族環の一部を形成する炭素原子にそれぞれ直接結合している2個のヒドロキシ基を含む化合物である。この種の化合物としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,4−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−(3,5,3’,5’−テトラクロロ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2−(3,5,3’,5’−テトラブロモ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル)プロパン、(3,3’−ジクロロ−4,4’−ジヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス−4−ヒドロキシフェニルスルホン、ビス−4−ヒドロキシフェニルスルフィドが挙げられる。
【0009】
カーボネート前駆体は、ハロゲン化カルボニル、ハロゲン化ギ酸または炭酸エステルであってもよい。ハロゲン化カルボニルは、例えば、塩化カルボニルおよび臭化カルボニルである。好適なハロゲン化ギ酸エステルは、例えば、ヒドロキノン等の2価のフェノールまたはエチレングリコール等のグリコールのビスハロゲン化ギ酸エステルである。好適な炭酸エステルは、例えば、ジフェニルカーボネート、ジ(クロロフェニル)カーボネート、ジ(ブロモフェニル)カーボネート、ジ(アルキルフェニル)カーボネート、フェニルトリルカーボネート等、およびこれらの混合物である。他のカーボネート前駆体も使用してもよいが、ハロゲン化カルボニルおよび特にホスゲンとしても周知の塩化カルボニルを使用することが好ましい。
【0010】
本発明による組成物中の芳香族ポリカーボネートは、触媒、酸受容体、および分子量を調整する化合物を用いて調製してもよい。
【0011】
触媒の例としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の第三級アミン、テトラエチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム化合物、およびメチルトリフェニルホスホニウムブロミド等の第四級ホスホニウム化合物が挙げられる。
【0012】
有機酸受容体の例としては、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン等が挙げられる。無機酸受容体の例としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、およびリン酸塩が挙げられる。
【0013】
分子量を調整するための化合物の例としては、フェノール、p−アルキルフェノール、パラ−ブロモフェノール等の1価フェノールおよび第二級アミンが挙げられる。
【0014】
この種のポリカーボネート、その調製、および特性は、例えば、高分子科学工学事典(Encycl.Polym.Sci.Eng.)、第11巻、pp.648〜718(ワイリー(Wiley)、ニューヨーク(New York)、1988年)およびプラスチック・ハンドブック(クンストストッフ・ハントブーフ;Kunststoff Handbuch、3/1、pp.117〜297(ハンザー・フェルラーク(Hanser Verlag)、ミュンヘン(Muenchen)、1992年)に詳述されている。
【0015】
本発明による組成物は、好ましくは、ビスフェノールAと、ホスゲンと、場合により、1個、2個、または2個を超える反応基を有するコモノマーとしての(例えば、溶融粘度を調整するための)少量の他の化合物とから誘導されたポリカーボネートを含む。
【0016】
放射により活性化させることが可能な成分b)は、電磁放射を吸収した結果として化学反応において金属を単体形態で遊離させる金属含有(無機または有機)化合物である。電磁放射を金属含有化合物に直接吸収させずに、吸収したエネルギーをその後金属含有化合物に伝達することによって単体金属を遊離させる他の物質に吸収させることも可能である。電磁放射は、UV光(波長100〜400nm)、可視光(波長400〜800nm)、または赤外光(波長800〜25000nm)であってもよい。他の好ましい放射の形態は、X線、ガンマ線、および粒子線(電子線、アルファ−粒子線、およびベータ−粒子線)である。
【0017】
金属化合物b)は、電磁放射により活性化され、それによって単体金属核をポリカーボネート組成物内で形成することが可能なものである。放射により活性化させることが可能な成分b)は、好ましくは水性の酸性またはアルカリ性メタライズ浴(metalizing bath)に不溶かつ安定な、非導電性の高耐熱性有機または無機金属化合物を含む。特に好適な化合物は、入射光の波長の光の大部分を吸収するものである。この種の化合物は欧州特許出願公開第1274288A号明細書に記載されている。本明細書においては、元素周期表のdおよびfブロック金属と非金属との化合物が好ましい。金属含有化合物は、特に好ましくは、金属酸化物、特に元素周期表のd金属の酸化物である。少なくとも2種の異なる陽イオンを含み、スピネル構造またはスピネル類似構造を有し、本発明の組成物を含む成形部品の未照射範囲においては変化しないままであるより酸化数の高い金属酸化物が特に好適である。本発明の特に好ましい一実施形態においては、より酸化数の高い酸化物はスピネル、特に、CuCr等の銅含有スピネルである。好適な銅含有スピネルは市販されており、例えば、Ferro(DE)からのPK3095またはJohnson Matthey(DE)からの34E23もしくは34E30がある。式CuOまたはCuOの酸化銅も特に好適であり、本明細書においては、好ましくは、米国イリノイ州(Illinois,USA)のNanophase Technologies CorporationからのNANOARC(登録商標)酸化銅等のナノ粒子が使用される。本発明の特に好ましい他の実施形態においては、より酸化数の高いスピネル酸化物は、マンガン含有スピネルである。スピネル構造を有する金属化合物の混合物も使用できることは当業者に理解されるであろう。
【0018】
好ましくは、金属化合物は、化学式ABまたはB(AB)Oで表される。式のA成分は2価の金属陽イオンであり、カドミウム、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム、およびこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。式のB成分は3価の金属陽イオンであり、カドミウム、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、クロム、およびこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。
【0019】
本発明の重合体組成物中には金属化合物が分散しており、この金属化合物は、好ましくは、定義可能な結晶構成(definable crystal formation)の中に2種以上の金属酸化物クラスター配置を含む。全体の結晶構成は、理想的な(すなわち、不純物を含まない非誘導体)状態にある場合、以下の一般式:
AB(式中、
i.Aは、カドミウム、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム、およびこれらの組合せからなる群から選択され、典型的には四面体構造である第1金属酸化物クラスター(「金属酸化物クラスター1」)の主陽イオンを提供し、
ii.Bは、カドミウム、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、クロム、およびこれらの組合せからなる群から選択され、典型的には八面体構造である第2金属酸化物クラスター(「金属酸化物クラスター2」)の主陽イオンを提供し、
iii.ここで、上のAまたはB群の中で、2価となり得る任意の金属陽イオンを「A」として用いることができ、3価となり得る任意の金属陽イオンを「B」として用いることができ、
iv.ここで、「金属酸化物クラスター1」の幾何学的配置(典型的には四面体構造)は、「金属酸化物クラスター2」(典型的には八面体構造)の幾何学的配置とは異なっており、
v.ここで、AおよびBからの金属陽イオンは、「逆」スピネル型結晶構造の場合のように、「金属酸化物クラスター2」(典型的には八面体構造)の金属陽イオンとして用いることができ、
vi.ここで、Oは、矛盾しない場合は、主として酸素であり、かつ
vii.ここで、「金属酸化物クラスター1」および「金属酸化物クラスター2」は、一緒になって、電磁放射に対する感度が増大した単一の識別可能な結晶型構造を提供する)を有する。
【0020】
本発明の組成物中に存在するこの成分b)の濃度は、0.5質量%から20質量%まで、好ましくは1質量%から20質量%まで、好ましくは3質量%から10質量%まで、より好ましくは4質量%から10質量%まで、特に好ましくは5質量%から10質量%までである。
【0021】
意外なことに、電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物を含む芳香族ポリカーボネート組成物中にゴム状重合体が少なくとも2.5質量%の量で存在すると、例えば、溶融流動安定性および/または靭性に現れるように、組成物中のポリカーボネートの分解が低減されるかまたは阻止さえされることが見出された。本発明の組成物中の成分c)は、少なくとも1種のゴム状重合体である。ゴム状重合体は、好ましくは、Tが約10℃未満、より具体的には約−10℃未満、より具体的には約−20℃〜−80℃のエラストマー性(すなわちゴム状)重合体であるかまたはこれを含むものである。エラストマー性重合体の例としては、ポリイソプレン;ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体およびブロック共重合体、上記ブロック共重合体の水添物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体等のブタジエン系ゴム;エチレン−メタクリレートおよびエチレン−ブチルアクリレート、アクリル酸エステル−ブタジエン共重合体(例えば、ブチルアクリレートブタジエン共重合体等のアクリル系エラストマー性重合体)等のアクリレート系ゴム;ポリオルガノシロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ジメチル−ジフェニルシロキサン共重合体等)等のシロキサン系ゴム;ならびにエチレン−プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレンおよびα−オレフィンの共重合体、エチレンおよび脂肪族ビニルの共重合体(エチレン−酢酸ビニル等)、エチレン−プロピレン非共役ジエン三元共重合体(エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体等)、ブチレン−イソプレン共重合体、塩化ポリエチレン等の他のエラストマー性重合体が挙げられ、これらの物質は個々に用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましいエラストマー性重合体としては、例えば、共役ジエンゴム;共役ジエンと、共重合可能なモノマーを約50重量%未満との共重合体;オレフィンゴム(エチレンプロピレン共重合体(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンモノマーゴム(EPDM)等);エチレン−酢酸ビニルゴム;シロキサンゴム;エラストマー性C1〜8アルキル(メタ)アクリレート;C1〜8アルキル(メタ)アクリレートとブタジエンおよび/またはスチレンとのエラストマー性共重合体;または上述のエラストマーの少なくとも1種を含む組合せが挙げられる。より好ましいエラストマー性重合体は、ブタジエン系ゴム、アクリレート系ゴム、およびシロキサン系ゴムである。特に好ましいエラストマー性重合体は、シロキサンゴムおよびブタジエン系ゴムであり、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体およびブロック共重合体、上記ブロック共重合体の水添物が特に好ましい。好ましい一実施形態においては、本発明による組成物は、成分c)として少なくともブタジエン系ゴムを含む。他の好ましい実施形態においては、本発明による組成物は、成分c)として少なくともシロキサン系ゴムを含む。
【0022】
本発明の一実施形態においては、本発明による組成物は、ゴム状重合体の少なくとも1種としてエラストマー性重合体を含む。エラストマー性重合体および好ましいエラストマー性重合体の非限定的な例は上に列挙した通りである。好ましい実施形態においては、本組成物は、ゴム状重合体として、ブタジエン系ゴム、アクリレート系ゴム、またはシロキサン系ゴムを含む。ブタジエン系ゴム、アクリレート系ゴム、またはシロキサン系ゴムの非限定的な例は上述した通りである。特に好ましいゴム状重合体は、シロキサンゴムおよびブタジエン系ゴムであり、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体およびブロック共重合体、上記ブロック共重合体の水添物が特に好ましい。
【0023】
本発明の他の実施形態およびより好ましい実施形態においては、本発明による組成物は、ゴム状重合体の少なくとも1種として、上述したエラストマー性重合体を含む成分を含む。エラストマー性重合体を含むこの成分は、好ましくは、エラストマー性重合体を含むグラフト共重合体である。より好ましくは、エラストマー性重合体を含む成分は、エラストマー性重合体に剛性枝重合体をグラフトすることにより得られる。周知のように、エラストマーで変性されたグラフト共重合体は、最初にエラストマー性重合体を提供し、次いで、剛性相の構成要素となるモノマーをこのエラストマーの存在下に重合することによりグラフト共重合体を得ることによって調製してもよい。グラフト部分は、グラフト枝としてまたはエラストマーコアのシェルとして結合させてもよい。シェルはコアを単に物理的に内包しているだけでもよいし、シェルがコアに部分的または基本的に完全にグラフトしていてもよい。したがって、本発明の組成物中に存在するゴム状重合体は、場合によりグラフトされたエラストマー性重合体である。エラストマー性重合体がグラフトされた場合、グラフトされたエラストマー性重合体は、好ましくは、エラストマー性重合体に剛性枝重合体をグラフトすることにより得られるグラフト共重合体である。グラフト共重合体は、好ましくは、グラフト共重合体を基準として5〜90重量部の1種以上のモノマーを、グラフト共重合体を基準として95〜10重量部のエラストマー性重合体の粒子の存在下に重合させることによって調製されたグラフト共重合体である。
【0024】
好ましい成分c)は、c)を基準として5〜90重量部の1種以上のモノマーを、c)を基準として95〜10重量部のエラストマー性重合体の粒子の存在下に重合させることにより調製されたグラフト共重合体であり、その理由は、モノマーを使用することによりゴム状重合体とポリカーボネートマトリックスとの混和性が向上し、したがって、成分c)がポリカーボネートマトリックス中により均一に分散されることになるので、電磁放射により活性化されることによって単体核を形成することが可能な金属化合物b)をさらに含む芳香族ポリカーボネート組成物中の芳香族ポリカーボネートの分解がさらに低減されるためである。
【0025】
エラストマー性重合体がシロキサン系ゴムである場合、成分c)は、好ましくは、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体であり、好ましくは、例えば米国特許出願公開第2005/0143520号明細書に記載されているように、5〜60重量部のビニルモノマー(c−I)を40〜95重量部のポリオルガノシロキサン粒子(c−II)の存在下に((c−I)および(c−II)の合計は100重量部)重合させることにより調製される。ビニルモノマー(c−I)の例としては、例えば、芳香族ビニルモノマー(スチレン、アルファ−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−ブチルスチレン等);シアン化ビニルモノマー(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等);(メタ)アクリル酸エステルモノマー(メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等);およびカルボキシル基含有ビニルモノマー(イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等)が挙げられる。ビニルモノマー(c−I)は、必要に応じて、1分子当たり少なくとも2個の重合性不飽和結合を有する多官能性モノマーを含んでいてもよい。多官能性モノマーの例としては、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、およびジビニルベンゼンが挙げられる。ビニルモノマー(c−I)は、単独でまたは組み合わせて使用してもよい。ポリオルガノシロキサン粒子(c−II)は、好ましくは、構成成分を乳化重合させることによって調製される。グラフト共重合に通常のシード乳化重合を適用してもよく、ポリオルガノシロキサン粒子(c−II)のラテックス中でビニルモノマー(c−I)をラジカル重合させることにより達成してもよい。
【0026】
本発明の好ましい実施形態においては、成分c)は、
c.1.)
c.1.1)スチレン、α−メチルスチレン、核置換スチレン、メチルメタクリレート、またはこれらの混合物を50〜95重量%および
c.1.2)(メタ)アクリロニトリル、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、またはこれらの混合物を50〜5重量%
の混合物を、c)を基準として5〜90重量部、好ましくは20〜90重量部を、
c.2)ブタジエン系ゴム、エチレン、プロピレン、および非共役ジエンのゴム、ならびにアクリレート系ゴムから選択されるエラストマー性重合体を、c)を基準として95〜10重量部、好ましくは80〜10重量部
上にグラフトさせた1種以上のグラフト共重合体である。好ましくはc.2)は、ブタジエン系ゴムである。ブタジエン系ゴム、エチレン、プロピレン、および非共役ジエンのゴム、ならびにアクリレート系ゴムの好適な例は上述した通りである。有用なグラフト共重合体は、例えば、欧州特許出願公開第1007593A号明細書および米国特許第5061745A号明細書に記載されている。特に好ましいグラフト共重合体は、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリル系エラストマー−スチレン共重合体)、およびMBS(メチルメタクリレートブタジエンスチレン共重合体)である。特に好ましいグラフト共重合体は、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム(ABS)、メチルメタクリレートブタジエンスチレンゴム(MBS)、またはこれらの共重合体の混合物であり、その理由は、ポリカーボネートマトリックスとこの種の共重合体との混和性が高く、それによってこれらの共重合体をポリカーボネートマトリックス中に均一に分散させることが可能となるので、電磁放射により活性化されることによって単体核を形成することが可能な金属化合物b)をさらに含む芳香族ポリカーボネート組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解がさらに低減されるためである。経済的な観点からは、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)がよりさらに好ましい。任意の市販のABSを適用してもよい。特に好ましいアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)は、ゴム含有量が10〜50重量部、好ましくは10〜40重量部、よりさらに好ましくは10〜30重量部であるアクリロニトリルブタジエンスチレンである。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態においては、本組成物は、芳香族ポリカーボネート、金属化合物b)、ゴム状重合体としてのシロキサン系ゴムまたはシロキサン系ゴム含有グラフト共重合体を含み、シロキサン系ゴムまたはシロキサン系ゴム含有グラフト共重合体は、金属化合物b)をさらに含む芳香族ポリカーボネート組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解を低減するために添加される。この実施形態においては、好ましくは、ゴム状重合体は、好ましくは、例えば米国特許出願公開第2005/0143520号明細書に記載されているように、5〜60重量部のビニルモノマー(c−I)を40〜95重量部のポリオルガノシロキサン粒子(c−II)((c−I)および(c−II)の合計は100重量部)の存在下に重合させることによって調製された、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体である。ビニルモノマー(c−I)の例は上述した通りである。本発明の他の好ましい実施形態においては、本組成物は、芳香族ポリカーボネート、金属化合物b)、およびABSを含み、後者は、金属化合物b)をさらに含む芳香族ポリカーボネート組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解を低減するために添加される。
【0028】
本発明の組成物中に存在するこのような成分c)の濃度は、2.5質量%から50質量%まで、好ましくは3質量%から50質量%まで、より好ましくは3.5質量%から50質量%まで、よりさらに好ましくは4質量%から50質量%まで、よりさらに好ましくは4.5質量%から50質量%までである。成分b)を含むポリカーボネート組成物中においてポリカーボネートの分解を低減または阻止するために少なくとも存在すべき成分c)の量は、成分c)の種類に応じて当業者らによって容易に決定される。好ましくは非塩素および非臭素系のリン酸エステル系である1種以上の難燃化合物を添加することにより難燃化されたポリカーボネート組成物中に存在するこのような成分c)の濃度は、好ましくは2.5質量%から15質量%まで、より好ましくは4.5質量%〜15質量%である。難燃化合物を含まないポリカーボネート組成物中に存在するこのような成分c)の濃度は、好ましくは15質量%から50質量%まで、より好ましくは20質量%から50質量%まで、よりさらに好ましくは30質量%から50質量%までである。
【0029】
本発明によるポリカーボネート組成物は、d)1種以上の他の添加剤を0〜25質量%をさらに含んでいてもよく、a)〜d)の合計は100%である。このようなものとして、熱または熱酸化分解に対する安定剤、加水分解に対する安定剤、光、特にUV光による分解および/または光酸化分解に対する安定剤、耐衝撃性改良剤、離型剤や滑剤等の加工助剤、顔料や染料等の着色剤、ワラストナイトやケイ酸アルミニウム等の鉱物を含む充填剤、難燃剤等の慣用の添加剤が挙げられる。この種の添加剤およびこれらの慣用量の好適な例は、上述のプラスチック・ハンドブック、3/1に述べられている。
【0030】
本発明によるポリカーボネート組成物は、添加剤d)として酸または酸塩をさらに含んでいてもよい。一実施形態においては、酸または酸塩は、無機酸または無機酸塩である。一実施形態においては、酸は、リン含有オキシ酸を含む酸である。一実施形態においては、リン含有オキシ酸は、一般式H(式中、mおよびnは、それぞれ2以上であり、tは、1以上である)を有するリン含有多価プロトン(multi−protic)オキシ酸である。この種の酸としては、これらに限定されるものではないが、例えば、以下の式:HPO、HPO、およびHPOで表される酸が挙げられる。幾つかの実施形態においては、酸は、以下のうちの1種を含むであろう:リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、次リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、チオリン酸、フルオロリン酸、ジフルオロリン酸、フルオロ亜リン酸(fluorophosphorous acid)、ジフルオロ亜リン酸(difluorophosphorous acid)、フルオロ次亜リン酸(fluorohypophosphorous acid)、またはフルオロ次リン酸(fluorophosphoric acid)。別法として、酸は酸塩(例えば、硫酸、亜硫酸塩、第一リン酸亜鉛(mono zinc phosphate)、第一リン酸カルシウム、リン酸一ナトリウム等)を使用してもよい。酸または酸塩が存在すると、金属化合物b)をさらに含む芳香族ポリカーボネート組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解がさらに低減される可能性があることが見出された。酸または酸塩を存在させることは、ポリカーボネート組成物中に成分c)が存在するにも拘わらずポリカーボネートの分解がたとえ低減されているとしても依然として実質的に起こる場合に特に有利であることが見出された。酸または酸塩が本発明の組成物中に存在する場合、酸または酸塩は、好ましくは、組成物中に0.01〜1質量%の量で存在する。当業者らは、成分c)の量および種類に応じて、ポリカーボネートの分解をさらに低減するために使用すべき酸または酸塩の最適量を見出すことができるであろう。本発明の一実施形態においては、本組成物は、芳香族ポリカーボネート、金属化合物b)、ゴム状重合体c)としてのMBS、および酸または酸塩を含み、MBSおよび酸または酸塩は、金属化合物b)をさらに含む芳香族ポリカーボネート組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解を低減するために添加される。
【0031】
ビスフェノール−Aポリカーボネート等のポリカーボネートは本来かなり優れた難燃挙動を示すが、ポリカーボネート組成物は、好ましくは、1種以上の難燃化合物を添加することによって難燃化される。難燃化合物の好適な例は、特定のアルカリまたはアルカリ土類金属スルホン酸塩、スルホンアミド塩、パーフルオロボレート、ハロゲン化化合物、特に臭素化芳香族化合物、およびリン含有有機化合物、特にリン酸トリフェニル等のリン酸エステルである。好適なリン含有化合物は、例えば独国特許出願公開第19828535A1号明細書(成分E)、欧州特許出願公開第0640655A2号明細書(成分D)、および欧州特許出願公開第0363608A1号明細書(成分C)に記載されている。好ましくは、難燃化合物として、レゾルシノールジフェニルホスフェート(RDP)、ビスフェノール−Aジフェニルホスフェート(BDP)、またはこれらの混合物等のリン酸エステルオリゴマーが少なくとも使用される。この種の組成物は、機械的性質、難燃性、および加工性が非常にうまく両立されている。さらに、この組成物は、火災試験におけるドリッピング性を改善するためにポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素重合体を含む場合が多い。
【0032】
好ましい実施形態においては、本発明の組成物は、充填剤等の粒子状添加剤をさらに含む。典型的な充填剤は、二酸化ケイ素(天然、沈降、またはヒュームド)等の無機および/または有機粒子、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、二酸化チタン(ルチルまたはアナターゼ)、カオリン(水和または焼成)、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、フッ化リチウム、使用されるジカルボン酸のカルシウム、バリウム、亜鉛、もしくはマンガン塩、または架橋重合体粒子(例えば、ポリスチレンまたはポリメチルメタクリレート粒子)である。本発明のより好ましい実施形態においては、粒子状添加剤は、芳香族ポリカーボネート中に使用するのに適した二酸化チタンである。レーザーを吸収するこの種の添加剤が存在することにより、このような組成物から得られる成形部品の照射範囲をメタライズすることにより得られる金属の堆積および/または接合が増大し得ることが見出された。
【0033】
本重合体組成物は、ガラス繊維等の強化剤をさらに含んでいてもよい。
【0034】
上述した成分b)、c)、および場合により他の添加剤に加えて他の任意の粒子状添加剤および強化剤も、単軸または二軸押出機等の好適な混合装置を用いることによって芳香族ポリカーボネート中に導入してもよく、好ましくは二軸押出機が使用される。好ましくは、芳香族ポリカーボネートペレットが少なくとも成分b)およびc)と一緒に押出機に導入されて押出成形され、次いで、水浴中で急冷された後、造粒される。したがって、本発明はさらに、成分a)、b)、c)、および場合により他の(粒子状)添加剤に加えて他の任意の粒子状添加剤および強化剤を溶融混練することによる、本発明による芳香族ポリカーボネート組成物の製造方法に関する。
【0035】
さらに本発明は、本発明によるポリカーボネート組成物を含む成形部品に関する。特に本発明は、本発明による組成物を射出成形することにより製造された成形部品に関する。意外なことに、本発明によるポリカーボネート組成物を含む成形部品は、成分b)を含まない類似の組成物と同じかまたはほぼ同程度の機械的性質、特に、強度および剛性ならびに靭性、特に、破断伸び、落下試験後の亀裂形成に対する耐性、および有機溶剤等の特定の化学物質により開始される亀裂形成に対する耐性(すなわち、耐環境応力亀裂またはESCR)を有することが見出された。このことは、携帯電話(GSM)や携帯情報端末(PDA)等の小型であるが複雑な機器の構造要素となる成形部品に関し特に有利である。靭性が高ければ、成形部品間のネジ式継手または「スナップ式」継手を多く搭載することが可能になる。
【0036】
したがって本発明は、本発明による組成物から製造された成形部品を含む物品、特に、回路キャリアにも関する。一実施形態においては、この種の回路キャリアはアンテナの製造に使用される。
【0037】
さらに本発明は、本発明によるポリカーボネート組成物を含む成形部品を提供するステップと、上記部品の導電トラックを形成すべき範囲に電磁放射を照射することにより金属化合物b)を分解するステップと、金属核を放出させるステップと、次いで、照射された範囲を(化学的還元によって)メタライズするステップとを含む、このような回路キャリアの製造方法に関する。好ましい実施形態においては、電磁放射は、金属核を放出させてその部分の除去を行う一方で接合を促進する表面を形成させることを同時に行うために用いられる。これにより、堆積した金属導電トラックの接合強度を極めて高いものにする簡便な手段が得られる。有利には、電磁放射を発生させて金属核を放出させるためにレーザーが使用される。したがって電磁放射は、好ましくはレーザー放射である。レーザーの波長は、有利には、248nm、308nm、355nm、532nm、1064nm、または10600nmでさえある。電磁放射により生成した金属核上へのさらなる金属の堆積は、好ましくは電気メッキ(溶液化学)法により行われる。上記メタライズは、好ましくは、成形部品を少なくとも1種の無電界メッキ浴に浸漬することにより成形部品の照射された範囲に導電経路を形成することによって実施してもよい。
【0038】
ここで以下の実施例および比較実験を参照しながら本発明を説明する。
【0039】
[比較実験A〜Hおよび実施例1〜8]
比較実験(CEx)A〜Hおよび実施例(Ex)1〜8の組成物を表1に示す成分から調製した。
【0040】
表2〜5に示す組成に従いすべての試料を、同方向回転二軸押出機を用いて280℃の温度で押出成形した。押出成形物を造粒した。回収した粒状体を用いて、PC−ABS組成物(表3)については260℃/荷重5kg(ISO 1133)および260℃/1500s−1(ISO 11443に準拠して、L/D比が30のキャピラリーを用いてキャピラリーレオグラフ(capillary rheograph)で測定)で、他の組成物(表4および5)については300℃/荷重1.2kgおよび300℃/1500s−1で、MFIおよびMV(溶融粘度)をそれぞれ測定した。MFIおよびMV測定の温度差による任意の副次的作用を例示するため、ABS1を用いたPC−ABS組成物(CExCおよびEx1)については両方の温度設定(260℃および300℃)で測定を実施した。次いで、この粒状体を、PC−ABS組成物(表3)については260℃の溶融温度を用い、他の組成物(表5および5)については290℃の溶融温度を用いて、アイゾッド試験片および平板(70×50×2mm)に射出成形した。アイゾッド衝撃強度(ノッチ付き)をISO 180/4Aに従い測定した。
【0041】
射出成形された平板についてレーザーによる活性化およびそれに続く無電界電気メッキ浴(electroless galvanic plating bath)におけるメッキ手順を実施した後にメッキ性を判定した。銅層の厚みおよび金属層の重合体基板に対する接合強度に従いメッキ性を判定した。
【0042】
亜クロム酸銅スピネルを含むかまたは含まない試料の流動性(MFIおよびMV)および靭性(アイゾッド衝撃(ノッチ付き))を比較することによりポリカーボネートの分解の程度を判定した。これが分子量の低下に伴うものであることを例示するために、試料CExA、CExB、およびEx1の分子量もゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりジクロロメタン溶媒中で測定した。較正には線状ポリスチレンを使用したので、報告値はポリスチレン基準によるポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)である。
【0043】
表2に、比較実験AおよびBの組成および結果を示す。CExAおよびCExBを比較すると、亜クロム酸銅スピネルをポリカーボネート組成物に添加すると、MFIが大幅に増大するとともにMVが大幅に低下し、GPCにより測定された重量平均分子量(Mw)から確認されるように、ポリカーボネートが大幅に分解されたことを示している。この分子量の低下により、靭性(アイゾッド衝撃(ノッチ付き))も大幅に低下する。
【0044】
表3および4に、比較実験C〜Hおよび実施例1〜6のPC−ABSブレンド物および他のPC−ゴムブレンド物の組成および結果をそれぞれ示す。意外なことに、亜クロム酸銅スピネルを含む実施例および亜クロム酸銅スピネルを含まない比較実験の結果を比較すると、ポリカーボネートおよびゴム状重合体のブレンド物中に亜クロム酸銅スピネル(CuCr粉末)が存在しても、比較実験Bと比べて(CExAと比較)、MFIはまったく増大しないかまたはその程度がはるかに小さくなり、MVはまったく低下しないかまたはその程度がはるかに小さくなり、靭性は同程度に維持されるかまたはその程度がはるかに小さくなることがわかる。このことは、亜クロム酸銅スピネルをポリカーボネートおよびゴム状重合体のブレンド物に添加すると、ポリカーボネートのみに添加(CExBのように)した場合よりもポリカーボネートの分解の程度がはるかに小さくなることを示唆している。このように分解が低減されることは、GPCにより測定される重量平均分子量(Mw)の結果においてEx1が参照CExAとほぼ同等の値を示すことからも確認される。
【0045】
表5に、第一リン酸亜鉛(MZP)0.1%を添加したこと以外は実施例4および6と類似のブレンド物である実施例7および8の組成および結果を示す。MZPのような酸塩を添加することにより、比較実験(CExFおよびCExH)との差が最も大きかったその実施例(Ex4およびEx6)であるブレンド物をさらに安定化(MFIを低下ならびにMVおよび靭性を増大)させることができる。
【0046】
【表1】



【0047】
【表2】



【0048】
【表3】



【0049】
【表4】



【0050】
【表5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
a)芳香族ポリカーボネートを30〜97質量%、
b)電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物を0.5〜20質量%、および
c)少なくとも1種のゴム状重合体を2.5〜50質量%
(ここで、a)〜c)の合計は100%である)を含む、重合体組成物。
【請求項2】
成分b)が、スピネル構造を有する金属酸化物である、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
成分b)が、CuCrである、請求項1または2に記載の重合体組成物。
【請求項4】
前記組成物が、ゴム状重合体として、エラストマー性重合体を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項5】
前記組成物が、ゴム状重合体として、エラストマー性重合体含有グラフト共重合体を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項6】
前記エラストマー性重合体含有グラフト共重合体が、前記グラフト共重合体を基準として5〜90重量部の1種以上のモノマーを、前記グラフト共重合体を基準として95〜10重量部の前記エラストマー性重合体の粒子の存在下に重合させることにより調製されたグラフト共重合体である、請求項5に記載の重合体組成物。
【請求項7】
前記エラストマー性重合体が、ブタジエン系ゴム、アクリレート系ゴム、またはシロキサン系ゴムである、請求項4〜6のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項8】
成分c)が、ブタジエン系ゴム、アクリレート系ゴム、またはシロキサン系ゴムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項9】
成分c)が、c)を基準として5〜90重量部の1種以上のモノマーを、c)を基準として95〜10重量部のエラストマー性重合体の粒子の存在下に重合させることにより調製された少なくとも1種のグラフト共重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項10】
前記組成物が、成分c)として少なくともアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリカーボネート組成物を含む成形部品。
【請求項12】
請求項11に記載の成形部品を少なくとも含む回路キャリア。
【請求項13】
請求項12に記載の回路キャリアの製造方法であって、請求項11に記載の成形部品を提供するステップと、前記部品の導電トラックを形成すべき範囲に電磁放射を照射することにより前記金属化合物b)を分解するステップと、金属核を放出させるステップと、次いで、前記照射された範囲をメタライズするステップとを含む、方法。
【請求項14】
電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物b)をさらに含む芳香族ポリカーボネート組成物中における芳香族ポリカーボネートの分解を低減する方法であって、前記組成物を少なくとも1種のゴム状重合体と混合することによって溶融安定性が向上した芳香族ポリカーボネート組成物を得ることをさらに含むことを特徴とする、方法。
【請求項15】
前記溶融安定性を有する芳香族ポリカーボネート組成物が、
a)芳香族ポリカーボネートを30〜97質量%、
b)電磁放射により活性化され、それによって単体金属核を形成することが可能な金属化合物を0.5〜20質量%、および
c)少なくとも1種のゴム状重合体を2.5〜50質量%
(ここで、a)〜c)の合計は100%である)を含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
成分b)が、スピネル構造を有する金属酸化物である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
成分b)が、CuCrである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ゴム状重合体が、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)またはシロキサン系ゴムである、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−536947(P2010−536947A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520551(P2010−520551)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060523
【国際公開番号】WO2009/024496
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(510191986)ミツビシ ケミカル ヨーロッパ ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】