説明

苗植付装置

【課題】苗植付具の作動用の回転体の回転半径や苗植付具の寸法に拘わらず所望の苗植付具の作動軌跡が得られ、植付性能(植付姿勢)が従来より向上した苗植付装置を提供すること。
【解決手段】所定の先端軌跡を描いて移動し、苗載台の苗を一株づつ取り出して圃場まで搬送する苗植付具52aは姿勢制御用の遊星歯車機構(100,101,102)を備えたロータリーケース71と該ケース71の回転軸70に設けられた遊星歯車機構の太陽歯車100を苗植付具52aの作動に同期して揺動させる揺動部材(メタル150,カウンタギア154,クランクアーム158など)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機等の苗移植機に設けられる苗植付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の苗移植機には苗の植え付けを等速で行う機構と苗の植え付けを不等速で行う機構に切り替えて行うことができる苗植付装置を備えている。
【特許文献1】特開2004−71号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特開2004−71号公報に開示した苗植付装置は、ギア機構により等速伝動と不等速伝動を切替可能にして最適な苗植付具による苗の植え付け動作ができる構成であるが、図9(b)に示すように、偏心ギアを用いないギア機構により苗植付具を等速伝動させて苗植付具の動軌跡Aを得ることと偏心ギアを用いるギア機構により苗植付具を不等速伝動させて苗植付具の動軌跡Bを得ることができた。なお前記動軌跡Bは株間隔を比較的広くする疎植時に利用する。
【0004】
前記動軌跡Bは苗植付段階で鋭く変化しており、この動軌跡Bが鋭く変化するあたりでは苗植付具がぎこちない動きとなる。
また、前記苗植付装置のギア機構による等速伝動と不等速伝動機構には限界があり、苗の疎植え又は密植えの要請に対して十分満足のいく苗植付具の作動が得られていない。例えば疎植え時には圃場に形成される植付け穴が大きくなり過ぎることなどの不具合があった。
【0005】
そこで本発明の課題は、苗植付具の作動用の回転体の回転半径や苗植付具の寸法に拘わらず所望の苗植付具の作動軌跡が得られ、植付性能(植付姿勢)が従来より向上した苗植付装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、次の解決手段により解決される。
すなわち、所定の先端軌跡を描いて移動し、苗載台の苗を一株づつ取り出して圃場まで搬送する苗植付具(52a)と、該苗植付具(52a)の姿勢制御用の遊星歯車機構を備えた回転体(71)と、該回転体(71)の回転中心に設けられた遊星歯車機構の太陽歯車(100)を、前記苗植付具(52a)の作動に同期して揺動させる揺動部材(150,154など)とを備えた苗植付装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転体71の回転半径は苗植付具52aの寸法に拘わらず所望の苗植付具52aの作動軌跡が得られ、ぎこちない苗の植付けが回避でき、苗の疎植えででも植付穴が大きくなり過ぎることがないなど植付性能(植付姿勢)が従来の苗植付装置に比較して向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施例について説明する。
図1及び図2は本発明の一実施例の乗用型田植機の側面図と平面図である。この乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
なお、本明細書では田植機の前進方向を向いて左右方向をそれぞれ左、右と言い、前進方向を前、後退方向を後と言うことにする。
【0009】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10、10及び左右一対の後輪11、11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13、13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13、13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10、10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギヤケース18、18がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース18、18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11、11が取り付けられている。
【0010】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、第一ベルト伝動装置21及びHST23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13、13に伝達されて前輪10、10を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース18、18に伝達されて後輪11、11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構27によって施肥装置5へ伝動される。
【0011】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10、10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35の一部は格子状部分35aになっており(図2参照)、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
【0012】
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台38、38が機体よりも側方に張り出す位置と内側に収納した位置とに回動可能に設けられている。
【0013】
昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41、41を備えている。これらリンク40、41、41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム45の先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダを油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0014】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ各条の苗取出口51a、…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a、…に供給すると苗送りベルト51b、…により苗を下方に移送する苗載台51、苗取出口51a、…に供給された苗を苗植付具52aで圃場に植付ける苗植付装置52、…、次行程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ53、53等を備えている。苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56、56がそれぞれ設けられている。これらフロート55、56、56を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55、56、56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52、…により苗が植付けられる。各フロート55、56、56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が上下動検出機構57により検出され、その検出結果に応じ前記昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0015】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61、…によって一定量づつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62、…でフロート55、56、56の左右両側に取り付けた施肥ガイド63、…まで導き、施肥ガイド63、…の前側に設けた作溝体64、…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥構内に落とし込むようになっている。電動モータ66で駆動のブロア67で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ68を経由して施肥ホース62、…に吹き込まれ、施肥ホース62、…内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0016】
苗植付装置52については、図3の一部断面図と図4の側面図と図5のギア機構図に示す。苗植付装置52は、植付伝動ケース159の後端部にロータリケース軸70が回転自在に支承されており、この軸70の左右突出部にロータリケース71の中央部を一体回転するよう固定して取り付け、さらに該ロータリケース71の両端部に軸受72,72,73,73によって植付ケース軸74,74を回転自在に支承し、これら両植付ケース軸74,74のそれぞれに植付ケース75,75を固定して取り付けている。植付ケース75には、苗植付体としての苗分離爪76と、苗押出体としての苗押出爪77とが設けられている。
【0017】
ロータリケース71の固定方法について説明すると、ロータリケース軸70には角軸面が形成されていて、ロータリケース71のボス部71aにロータリケース軸70と直交させて挿通したテーパ状のコッタピン65を上記角軸面に当接させて、ロータリケース71をロータリケース軸70に固定している。コッタピン65は小径側からロータリケース71のコッタピン挿通孔86に挿入し、該コッタピン挿通孔86から突出した小径側の端部にナット87を螺着して装着する。ナット87のねじ込み量を調節して、ロータリケース軸70の角軸面にコッタピン65が緊密に当接するようにする。組み付け時にコッタピン65を誤って反対向きに挿入しないように、ロータリケース71の正しいコッタピン挿入側の面に誤組み防止用リブ88をコッタピン挿通孔86の近傍に設け、コッタピン65を反対向きに挿入した場合にはナット87を装着できないようにしてある。
【0018】
ところで、ロータリケース71はアルミニウム製、コッタピン65は鉄製である。このため、長時間の使用によりボス部71aのコッタピン接触箇所が変形してしまわないように、ロータリケース軸70と反対側でコッタピン65を受ける鉄製のバックアップピン69を設けている。
【0019】
ロータリケース71の内部には、ロータリケース軸70の外周部に嵌合し、植付伝動ケース159と一体で非回転な太陽ギヤ100と、該太陽ギヤ100に噛合する遊星ギヤ101,101と、該遊星ギヤ101に噛合する植付ギヤ102,102とからなるギヤ機構が収納されている。なお、ロータリケース軸70とロータリケース71とは互いに摺動自在である。太陽ギヤ100は、軸受103によってロータリケース71に支持されている。遊星ギヤ101は、遊星ギヤ軸104に取り付けられ、ロータリケース71に対して遊転するようになっている。また、図5に示すように植付ギヤ102は、キー105によって植付ケース軸74に一体回転するように取り付けられている。
【0020】
ロータリケース軸70が駆動回転すると、図5に示すようにロータリケース71が一定方向に回転し、太陽ギヤ100の回りを植付ギヤ102,102が公転するとともに、1回公転する間に公転方向とは逆向きに植付ギヤ102,102が1回自転する。これにより、植付ギヤ102,102と一体に設けられている植付ケース75,75が一定姿勢のまま所定の軌道上を移動する。このとき苗分離爪76の先端は軌跡P(図4)で回転する。各ギヤ100,101,102は偏心ギヤになっていて、植付ケース75の移動速度は図4に示す該ケース75の軌跡の苗取出位置A及び苗植付位置B付近では遅く、両位置A,B間を移動する時は速くなるようにしてある。
【0021】
また、ロータリケース71の内部には、キー105(図5)にて植付ケース軸74に一体回転するように取り付けた制動カム107(図3、図5)と、該制動カム107の外周面に当接する制動アーム108と、該制動アーム108を制動カム107に押し付けるスプリング109とからなる位相ずれ防止機構が設けられている。制動カム107は図5に示すような三角形状をしており、植付ケース75が苗取出位置A及び苗植付位置Bにある時に植付ギヤ102の回転を制動し、各ギヤ間のバックラッシュを吸収して、苗分離及び苗植付の動作が正確に行われるように作用する。
【0022】
なお、ロータリケース71は半割りケース部材71A,71Bをボルトとナットで接合した構造となっている。各半割りケース部材71A,71Bの合わせ面には液状パッキン保持用の溝110,…が形成されており、この溝110,…に保持されている液状パッキンが合わせ面の全域に確実に供給されるので、ロータリケース71の高度な気密性及び水密性が確保されている。
【0023】
植付ケース75は、該植付ケース75の外側面にボルトによって植付ケース取付用ハブ121を固着し、該ハブ121に装入したコッタピン122を植付ケース軸74の角軸面に係合させることにより、植付ケース軸74にこれと一体作動するように取り付けられている。植付ケース75の植付ケース軸収容ボス部には、後記押出カム91を収容する大径部75aとハブ121に当接するフランジ部75bとの間に溝状の小径部75cが形成されており、この小径部75cの外側をもう一方の植付ケース75の苗分離爪76先端部が通過するようになっている。
【0024】
苗植付体である苗分離爪76は、先端側が鋭利に形成された二股のフォーク状をしたものであって、植付ケース75に取り付けられる。苗分離爪76の図示しない取付穴に挿入した苗分離爪取付ボルト124を植付ケース75に螺着して締付ハンドル125を装着する。
【0025】
苗押出体である苗押出爪77は、苗分離爪76に近い側が先割れしたフォーク状をしたものであって、植付ケース75に摺動自在に支持された押出ロッド90の先端部に苗分離爪76の裏面に近接させて取り付けられ、該押出ロッド90の作動により苗分離爪76の先端側へ突出、及び苗分離爪76の根元側へ後退するようになっている。
【0026】
植付ケース75内には、苗押出爪77の作動機構が収容されている。押出カム91は、植付ケース75内に突出したロータリケース71のボス部の内周部に一体的に嵌合し、植付ケース軸74及び植付ケース75に対し回転自在に設けられている。この押出カム91の外周面に摺接するカムアーム92は、アーム軸93に回動自在に軸支されている。また、アーム軸93にはカムアーム92と一体に回動する押出規制アーム94が軸支されていて、該押出規制アーム94の先端部と前記押出ロッド90のケース内部側の端部とが継手部材95を介して連結されている。そして、この継手部材95を介して押出ロッド90を苗分離爪突出側に付勢するように押出スプリング96が設けられている。
【0027】
植付ケース軸74に対し押出カム91が相対的に回転し、押出カム91とカムアーム92とからなるカム機構の働きで、押出規制アーム94が揺動する。押出スプリング96を圧縮する位置に押出規制アーム94があるときは、苗押出爪77が後退した状態にある。その位置から押出規制アーム94が回動して押出スプリング96の圧縮が緩和されると、押出スプリング96の弾発力で押出ロッド90が押し出され、苗押出爪77が突出する。この苗押出爪77が突出した時には、押出ロッド90の軸心方向すなわち苗押出爪77の苗押出方向と押出規制アーム94との角度がほぼ直角になるように設定されている。
【0028】
苗植付装置52は以上の構成で、植付作業時には次のように作動する。
ロータリケース軸70が駆動回転することにより、ロータリケース71に取り付けられている一対の植付ケース75,75が、苗分離爪76が先端軌跡Pを描く同一軌道上を互いに1/2周期の間隔を保ったまま一定姿勢で移動する。図4に示す苗取出位置Aで苗分離爪76が苗取出口51aを通過し、苗載台51の苗を一株分離して取り出す。このとき、苗押出爪77は後退した状態にある。植付ケース75が下動して苗植付位置Bまで移動すると、苗押出爪77が突出し、苗分離爪76が保持している苗の土部を下向きに押すことにより、苗を苗分離爪76から押し出して圃場に植付ける。その後、植付ケース75が下動時よりも後方の軌道Pを通って上動するとともに、苗押出爪77が後退する。
【0029】
側面視で苗分離爪76の中心と苗押出爪77の先端面との角度θ(図4)は90度よりも小さくなっている。このため、苗植付位置Bで苗押出爪77が苗を押し出す時、苗の姿勢が若干後倒れに変更される。その結果、圃場に植付けた状態では、苗がまっすぐに立った適正な植付姿勢となる。
【0030】
図6には図1の田植機の苗植付装置52のエンジン動力の伝達機構図を示し、図7には、伝動軸140から苗植付具52aへの動力伝達部の要部断面図を示す。なお、苗植付具52aとは一対の植付ケース75,75と苗分離爪76の組合体をいうこととする。
【0031】
ベベルギア機構により伝動軸140にエンジン動力が伝達され、植付畦クラッチ141が係合するとそれぞれの苗植付具52aが駆動される。また苗植付具伝動ギアケース143から伸びる常時回転しているリードカム軸144に設けた溝144aに内周部に中心軸方向に向けて設けられた突起部が係合しながら左右に移動するリードカム146と連結された苗載台51(図1)が左右に移動する。
【0032】
リードカム146が左右に移動することで、例えば左に移動するとリードカム軸144の先端の苗縦送りカム(図示せず)が苗植付部4のいずれも図示しない縦送り伝動軸に直結した左右の苗縦送りアーム(ワンウエイクラッチ付き)に当たり、縦送りベルト51b(図2)を苗の1回の植付け分だけ回動させる。伝動軸140から苗植付具52aへはチェーン148で動力が伝達される。
【0033】
上記苗植付装置52において、従来は偏心ギアを用いるギア機構による不等速伝動(特開2004−71号公報の図4参照)には限界があったが、本実施例では植付性能(植付姿勢)の向上を図るために図8(図7のX−X線断面図)の要部側面図に示す構成によりロータリーケース軸70で回転駆動される遊星歯車機構(サンギア100を除く)の回転体(ロータリケース71)の回転半径や苗植付具52aの寸法に拘わらず所望の苗分離爪76の作動軌跡Pが得られる構成にした。
【0034】
すなわち、遊星歯車機構のサンギア100は通常はロータリケース71に固定され、一体となったサンギア100とロータリーケース71がロータリーケース軸70の周りを回動することでサンギア100の周りの遊星歯車群が回動するが、本実施例では該サンギア100をロータリーケース軸70の周りに揺動させて、ロータリケース71の回動時に所望の苗分離爪76の作動軌跡Pを得ることができる構成とした。
【0035】
サンギア100の前記揺動はサンギア100の側面の係止部に爪係合しているメタル150を揺動させることで行うが、該メタル150の揺動は次のような構成により行う。
植付伝動ケース159の中央部のサンギア152(図7も参照)はロータリーケース軸70に固着しており、該サンギア152はカウンタギア154と噛合し、回転軸153に遊嵌されたカウンタギア154が伝動ケース159内に設けられている。カウンタギア154は回転軸153にスプライン係合しているクラッチ155(図7)がオンとなるとサンギア152の回転に連動する構成である。カウンタギア154の回転軸153に固着したアーム157がクランクアーム158によりメタル150と連結している。従ってロータリーケース軸70の駆動力がサンギア152、カウンタギア154、回転軸153、アーム157及びクランクアーム158を経由してメタル150に伝達される。
【0036】
また、従来はメタル150は伝動ケース159(図7)の壁面にボルトで固定されていて、該メタル150の側面がサンギア100の係止部に爪係合しているが、本実施例では図8に示すようにメタル150の側面の円周方向に3つの長穴150aがほぼ等間隔に設けられており、メタル150は伝動支持ケース159の壁面とは固定せず、ボルトで抜け止めのみ行い、揺動することができる構成になっている。
【0037】
こうして、苗植付具52aの苗分離爪76の作動用の回転体であるロータリケース71の回転半径や苗植付具52aの寸法に拘わらず所望の苗分離爪76の作動軌跡P(以後これを田植機が走行していない状態の軌跡での静軌跡Pということがある)が得られ、植付性能(植付姿勢)が従来より向上した苗植付装置52を提供することができる。
なお、以下の苗植付具52aの作動軌跡とは実際には苗分離爪76の作動軌跡のことであるが、ここでは苗植付具52aの作動軌跡ということがある。
【0038】
図9(b)に示すように、従来は前記特開2004−71号公報(図4など)に開示した偏心ギアを用いないギア機構により苗植付具52aを等速伝動させて苗植付具52aの動軌跡(田植機が走行している状態での軌跡)Aを得ることと偏心ギアを用いるギア機構により苗植付具52aを不等速伝動させて苗植付具52aの動軌跡Bを得ることができた。なお前記動軌跡Bは株間隔を比較的広くする疎植時に利用する。
前記動軌跡Bは苗植付段階でロータリケース71の回転が大きく変化しており、この回転速度が鋭く変化するあたりでは苗分離爪76がぎこちない動きとなる。なお動軌跡Bの変化と苗分離爪76がぎこちない動きとは直接関係なく、動軌跡Bだけをみて苗分離爪76のぎこちない動きをするかどうかは分からない。
【0039】
しかし、本実施例の上記図8に示すカウンタギア154とクランクアーム158を用いる構成にすると、図9(a)に示す苗分離爪76の動軌跡Cが得られ、この動軌跡Cは苗植付段階ではロータリケース71は従来の図9(b)と比較してスムーズに回転し、苗分離爪76はぎこちない動きをしなくなる。なお、前記図8に示す苗分離爪76を前記特開2004−71号公報(図4など)に開示した不等速伝動させる機構を用いて作動させると苗分離爪76は動軌跡Dを形成する。
【0040】
この動軌跡Dは苗植付段階では鋭く軌跡が変化するが、この場合には圃場に大きな穴を開けないで苗を植え付けることができる。また密植え時にも動軌跡Cが得られ、苗分離爪76はぎこちない動きをしなくなる。
【0041】
従来は田植機の走行車速に応じて苗植付具52aの苗植付速を変更していたが、例えば疎植えをする場合には株間が広がり過ぎで整列植付ができないことがあったが、図8に示す構成により、圃場に大きな穴を開けないで苗を植え付けることができる。
【0042】
またロータリケース(回転体)71の回転半径や苗植付具52aの寸法に拘わらず植付穴が大きくなり過ぎることなく、所望の苗植付具52aの作動軌跡が得られ、植付性能(植付姿勢)の向上が図れる。
【0043】
また、クラッチ155の入、切で静軌跡Pを変更する場合に、株間変更レバー166(図2)と連動してある株数(一坪当たりの植付株)が37株など疎植の状態であるときにクラッチ155が「入」とすると、メタル150が揺動可能になり、苗植付具52aの静軌跡Pを変更し、疎植時の苗植付具52aの軌跡に切り替ることができる。従来は疎植のように動軌跡を変更するために図7に示すロータリケース軸70のシャフトの回転を不等速でぎこちなく回していたため、苗植付具52aの非規則な動きが必ず発生していたが、図8に示す本実施例の構成により苗植付具52aを疎植状態に切り替えてもロータリケース71がスムーズに回り、苗の植付不良がでない。
【0044】
また、サンギア152とカウンタギヤ154をそれぞれ非円形ギアにする場合、又は前記非円形ギアのギヤ列を複数列の配置にして、ギア列を切替可能にする場合には静軌跡を複数種類に変更できる。
【0045】
上記したように苗植付具52aの静軌跡Pをギア列を切り替えると、苗植付具52aによる苗の掻き取り位置と植付深さ位置をギア列の切替前と同じにして地中での苗分離爪76の引きづり量のみ変更することができる。
【0046】
さらに、図示しないがクランクアーム158のメタル150への支点位置をピンの差し替え等により変更できるようにし、アーム比を変えることによって苗植付具52aの静軌跡を簡単に変更できる。
【0047】
また、図10に示すようにメタル150の一端に連結するクランクアーム158の他端を前記カウンタギア154ではなく、伝動支持ケース159内のチェーン148の駆動軸(伝動軸140)に固定されたスプロケット162に連結する構成でも良い。スプロケット162からクランクアーム158を介してメタル150を揺動させると、メタル150と一体のサンギヤ100を揺動させて苗分離爪76の軌跡を変更することができる。
この場合はカウンタギア154は不要となり、伝動支持ケース159を小さくすることができる。
【0048】
また図11に示すように、伝動支持ケース159内のチェーン148の前側駆動軸(伝動軸140)からチェンスプロケット162と同軸上に設けられたギア160と噛合するカウンタギヤ161からクランクアーム158を介して動力を取り出し、メタル150への動力を取り出す構成にしても良い。この場合には、カウンタギア161の回転でチェーン駆動軸(伝動軸140)に干渉しないようにして、4条以上の多条植の機械などにも対応でき、多条植の中央部の条などにも干渉無く適用できる。
【0049】
また前記苗植付具52aの軌跡変更機構で静軌跡Pを変更した場合、静軌跡Pの苗取り量位置が変わってしまう場合には、クラッチ155の入切レバーである図示しない静軌跡変更レバーと図2に示す苗送りベルト51bの苗取り量調節レバー169を連動させて、常に同じ苗取り量になるよう構成することができる。
【0050】
さらに、前記苗植付具52aの静軌跡Pを変更した場合、静軌跡Pの植付深さ位置が変わってしまう場合には、図12と図13に示す苗植付部4の支持フレーム170aから水平方向に伸びる支持フレーム170bに設けた植付深さ調節レバーガイド168と苗取り量変更レバーガイド171の適切なレバー位置を選択するようにそれぞれ植付深さ調節レバー167と苗取り量変更レバー169を操作することで常に同じ苗取り量になるよう構成することができる。
【0051】
また、図14に示すように植付ケース75内に突出したロータリケース71の押出カム91をロータリケース71とは別体(図3では一体)として、その取付角度が調節により変更できるように構成しても良い。
すなわち、ロータリケース71とは別体の押出カム91を植付ケース75の穴に挿入して支持させ、また押出カム91のロータリケース71への取付角度をロータリケース71の側面に設けたロータリーケース側部材79と押出カム91のケース71からの露出部とを連結する押出カム取付角度調節ボルト80により変更できるようにした構成しても良い。
こうして、押出ロッド90の押出タイミングを変更できるようにし、苗の条件が変わっても押出ロッド90の押出位置を最適にして植付姿勢を向上させる。
【0052】
また、図15に示すように押出ロッド90の押出ストロークを自由に変更調節できるように押出規制アーム94に当接するボルト174の頭部にクッションゴム176を設け、その反対側の端部に調節ナット177を設け、該調節ナット177によりボルト174の突出長さを調整することでロータリケース71の外部から操作できる構成にすることもできる。この場合には押出ロッド90の押出ストロークを自由に変更調節でき、苗が苗分離爪76と押出ロッド90との間に詰まり、苗の持帰りが発生した時に押出ロッド90のストロークを伸ばし、苗を苗分離爪76から離れやすくさせることができる。また苗の状態により植付姿勢の角度調節ができる。また、苗の植付状態が後傾になる場合には押出ロッド90のストロークを伸ばせばよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の苗植付装置は、苗の植付間隔と植付状態を適宜に変更して多様な苗の植え付けができる苗植付作業機に装着して利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例の乗用型田植機の側面図である。
【図2】図1の乗用型田植機の平面図である。
【図3】図1の乗用型田植機の苗植付装置の一部断面を示す平面図である。
【図4】図3の苗植付装置の一部断面を示す側面図である。
【図5】図3の乗用型田植機の苗植付装置の動力伝動部を示す図である。
【図6】図1の乗用型田植機の田植機の苗植付装置のエンジン動力の伝達機構図である。
【図7】図6の一部拡大図である。
【図8】本発明の一実施例の苗植付装置の揺動機構を示す図7のX−X線断面図である。
【図9】図8の苗植付部の苗植付具の静軌跡と動軌跡(図9(a))および従来技術の苗植付部の苗植付具の静軌跡と動軌跡(図9(b))である。
【図10】本発明の他の実施例の揺動機構を示す図である。
【図11】本発明の他の実施例の揺動機構を示す図である。
【図12】本発明の乗用型田植機の苗植付部の構成を示す側面図である。
【図13】図12の苗植付部の一部平面図である。
【図14】本発明の一実施例の苗植付部の一部断面図(図14(a))と一部斜視図(図14(b))である。
【図15】本発明の一実施例の苗植付部の一部断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 乗用型田植機 2 走行車体
3 昇降リンク装置 4 苗植付部
5 施肥装置 10 前輪
11 後輪 12 ミッションケース
13 前輪ファイナルケース 15 メインフレーム
18 後輪ギヤケース 20 エンジン
21 第一ベルト伝動装置 23 HST
25 植付クラッチケース 26 植付伝動軸
27 施肥伝動機構 30 エンジンカバー
31 座席 32 フロントカバー
34 ハンドル 35 フロアステップ
35a 格子状部分 36 リヤステップ
38 予備苗載台 40 上リンク
41 下リンク 42 リンクベースフレーム
43 縦リンク 44 連結軸
45 スイングアーム 46 昇降油圧シリンダ
50 伝動ケース 51 苗載台
51a 苗取出口 51b 苗送りベルト
52 苗植付装置 52a 苗植付具
53 線引きマーカ 55 センターフロート
56 サイドフロート 57 上下動検出機構
60 肥料ホッパ 61 繰出部
62 施肥ホース 63 施肥ガイド
64 作溝体 65 コッタピン
66 伝動モータ 67 ブロア
68 エアチャンバ 69 バックアップピン
70 ロータリケース軸 71 ロータリケース
71A,71B 半割部材 71a ボス部
72,73 軸受 74 植付ケース軸
75 植付ケース 75a 大径部
75b フランジ部 75c 小径部
76 苗分離爪 77 苗押出爪
79 ロータリケース側部材 80 押出カム取付角度調整ボルト
86 コッタピン挿入孔 87 ナット
88 誤組み防止用リブ 90 押出ロッド
91 押出カム 92 カムアーム
93 アーム軸 94 押出規制アーム
95 継手部材 96 押出スプリング
100 太陽ギヤ 101 遊星ギヤ
102 植付ギヤ 103 軸受
104 遊星ギヤ軸 105 キー
107 制動カム 108 制動アーム
109 スプリング 110 溝
121 植付ケース取付用ハブ 122 コッタピン
124 苗分離爪取付ボルト 125 締付ハンドル
140 伝動軸 141 植付畦クラッチ
143 苗植付具伝動ギヤケース
144 リードカム軸 144a 溝
146 リードカム 148 チェーン
150 メタル 150a 長穴
152 サンギヤ 153 回転軸
154 カウンタギヤ 155 クラッチ
157 アーム 158 クランクアーム
159 伝動支持ケース 160,161 ギア
162 チェンスプロケット 166 株間変更レバー
167 植付深さ調節レバー 168 植付深さ調節レバーガイド
169 苗取り量変更レバー 170a、170b 支持フレーム
171 苗取り量変更レバーガイド
174 ボルト 176 クッションゴム
177 調節ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の先端軌跡を描いて移動し、苗載台の苗を一株づつ取り出して圃場まで搬送する苗植付具(52a)と、
該苗植付具(52a)の姿勢制御用の遊星歯車機構を備えた回転体(71)と、
該回転体(71)の回転中心に設けられた遊星歯車機構の太陽歯車(100)を、前記苗植付具(52a)の作動に同期して揺動させる揺動部材(150,154など)と
を備えたことを特徴とする苗植付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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