説明

苦味マスキング

【課題】苦味を有する薬物の苦味をマスキングし、服用性の向上した口腔内崩壊錠を提供する。
【解決手段】苦味を有する薬物、及び該薬物に対して3〜240質量%かつ全質量100質量部に対して6質量部以下の乳酸カルシウムを含有し、さらに所望に応じて高甘味度甘味剤及び/又は矯味剤、例えば1−メントール、を含有する口腔内崩壊錠。苦味を有する薬物及び該薬物に対して3〜30質量%乳酸カルシウムを含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸カルシウム等を用いた薬物の苦味マスキングに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の中には苦味を有するものが多く、苦味を有する薬物は患者にとって服用し難いことから服薬コンプライアンス低下の一因となるとともに、しばしば薬物の商品化に際しての大きな障害となっている。したがって、薬物の苦味をマスキングすることで、服薬コンプライアンス向上及び薬物の商品化促進等の効果が期待される。これまで薬物の苦味をマスキングする方法については数多く報告されており、なかでもワックスや水不溶性高分子物質などの難溶解性物質を苦味マスキング成分として用いた薬物コーティング法が一般的である。具体的には、エチルセルロース、オイドラギット等の高分子で被覆し、錠剤が口腔内で崩壊しても該医薬成分が直接曝露されないようにする方法(特許文献1)やエチルセルロースと水溶性可塑剤とからなる水性懸濁液を噴霧コーティングして苦味をマスキングする方法(特許文献2)等があげられる。しかし、これらの薬物の苦味マスキング法は、コーティング剤自体に高価なものが多いことに加え、製造工程数の増加を伴うため、薬物の製剤化コスト増大を招くという問題がある。
【0003】
特に、最近、患者のQOL(quality of life)向上の観点から、嚥下能力の低い高齢者や小児にも服用しやすい口腔内崩壊錠の開発が盛んに行われている。しかし、苦味を有する薬物を口腔内崩壊錠に配合させた場合には、錠剤が口腔内で直ちに崩壊するため、一般の内服錠よりも苦味を有する薬物が口腔内に長時間曝露されることになり、服用しやすい口腔内崩壊錠を製造するための大きな問題となっている。この際、苦味のマスキング効果を上げるためには苦味マスキング成分を多く加えねばならず、それにより口腔内崩壊時間の遅延を招く等、崩壊性と苦味のマスキング効果との両立は困難であった。
【特許文献1】特表平6−502194号公報
【特許文献2】特開2000−53563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、苦味を有する薬物を口腔内崩壊錠に配合させながらも、苦味をマスキングするために生じるコスト増大を解消すること、及び崩壊性と苦味のマスキング効果とを両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定量の乳酸カルシウムを配合することにより、薬物の苦味をマスキングすることができ、かつ、口腔内崩壊性が速やかな口腔内崩壊錠が得られることを見出した。さらに、これに高甘味度甘味剤及び/又は矯味剤を配合することで苦味のマスキング効果がより高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、乳酸カルシウムは苦味を有する薬物に対して3〜240質量%であり、好ましくは3〜200質量%、さらに好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%、特に好ましくは10〜15質量%であり、かつ苦味を有する薬物を含有する口腔内崩壊錠の全質量100質量部に対して6質量部以下、好ましくは5質量部以下である。乳酸カルシウムが苦味を有する薬物に対して3質量%未満では服用者が薬物の苦味を感じるため、好ましくない。また、本発明の口腔内崩壊錠を得るには、乳酸カルシウムを添加し、さらに所望に応じて高甘味度甘味剤及び/又は矯味剤を添加するだけでよいことから、複雑な工程を要せず、大幅なコストダウンを図ることができる。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]苦味を有する薬物及び該薬物に対して3〜240質量%の乳酸カルシウムを含有し、かつ全質量100質量部に対して6質量部以下の乳酸カルシウムを含有する口腔内崩壊錠、
[2]苦味を有する薬物及び該薬物に対して3〜30質量%の乳酸カルシウムを含有する上記[1]記載の口腔内崩壊錠、
[3]さらに、高甘味度甘味剤を含有する、上記[1]または[2]記載の口腔内崩壊錠、
[4]さらに、矯味剤を含有する、上記[1]〜[3]のいずれか記載の口腔内崩壊錠、
[5]矯味剤がl−メントールである、上記[4]記載の口腔内崩壊錠、
を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における薬物は、苦味を有する薬物であれば特に限定されず、例えば、アセトアミノフェン、無水カフェイン、フマル酸クレマスチン、塩酸プロメタジン、メキタジン、塩酸ジフェンヒドラミン、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸エフェドリン、デキストロメトルファン、塩酸ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸ブロムヘキシン、サリチルアミド、イブプロフェン、フェナセチン、ジクロフェナクナトリウム、クエン酸モサプリド、キニーネ、ジギタリス、塩化ベルベリン、塩酸メクロフェノキサート、塩酸エチレフリン、塩酸トリヘキシフェニジル等があげられる。
【0009】
本発明における乳酸カルシウムの態様は、特に限定されず、その光学異性体、水和物、無水物等を用いることができる。例えば、L型又はD型乳酸のカルシウム塩、無水乳酸カルシウム、乳酸カルシウム一水和物、乳酸カルシウム五水和物等があげられる。乳酸カルシウムの配合量は、薬物に対して3〜240質量%、かつ全質量100質量部に対して6質量部以下であり、この範囲で薬物の配合量やその苦味の強さの程度等によって適宜選択することができる。好ましくは薬物に対して3〜200質量%であり、さらに好ましくは薬物に対して3〜30質量%であり、より好ましくは5〜20質量%であり、特に好ましくは薬物に対して10〜15質量%である。薬物に対する乳酸カルシウムの配合量が3質量%未満であると、苦味のマスキング効果が減少して薬物の苦味を感じるようになり、配合量が全質量100質量部に対して6質量部または薬物に対して240質量%を超えると、口腔内崩壊時間が遅くなり、かつ、乳酸カルシウムが有する酸味も感じるようになることから、口腔内崩壊錠としての服用感が著しく損なわれる。また、本発明で用いられる乳酸カルシウムは、粉末状で添加してもよく、水や水溶性有機溶媒等の溶媒に溶解させて溶液として添加してもよい。
【0010】
本発明における高甘味度甘味剤は、人工的に合成された甘味剤のうち、その甘味度が砂糖の約10倍以上のもの、好ましくは約100倍以上のものをいい、例えば、アスパルテーム、ステビア、サッカリン、グリチルリチン二カリウム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファームK等があげられるが、好ましくはアスパルテーム、ステビアである。これらの高甘味度甘味剤の配合量は、薬物の配合量やその苦味の強さの程度、併せて配合される乳酸カルシウム及び矯味剤の配合量によって適宜選択することができるが、一般には、全質量100質量部に対して約0.01〜20質量部、好ましくは約0.05〜15質量部、特に好ましくは約0.1〜10質量部の範囲とすることができる。
【0011】
本発明における矯味剤として、例えば、l−メントール、ハッカ油、ユーカリ油、ケイヒ油、ウイキョウ油、チョウジ油、オレンジ油、レモン油、ローズ油等があげられ、好ましくはl−メントール、ハッカ油、ケイヒ油、ウイキョウ油、チョウジ油であり、特に好ましくはl−メントールである。矯味剤の配合量は、薬物の配合量やその苦味の強さの程度、併せて配合される乳酸カルシウム及び高甘味度甘味剤の配合量によって適宜選択することができるが、一般には、全質量100質量部に対して約0.01〜10質量部、好ましくは約0.02〜8質量部、特に好ましくは約0.05〜5質量部の範囲とすることができる。また、l−メントールの配合量は、全質量100質量部に対して0.1〜5質量部が好適である。
【0012】
本発明の口腔内崩壊錠は、薬物、乳酸カルシウム、高甘味度甘味剤及び矯味剤のほかに、一般の口腔内崩壊錠の製造に用いられる結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、酸味剤、発泡剤などを含有していてもよい。これらの添加剤の添加量は口腔内崩壊錠の製造に通常用いられる量である。
【0013】
結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、α化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アラビアゴム末、ゼラチン、プルラン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等があげられる。
賦形剤としては、例えば、δ型D−マンニトール、β型D−マンニトール、糖アルコール(例えば、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール)、糖類(例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖)、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等があげられる。
崩壊剤としては、例えば、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、コーンスターチ等があげられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸等があげられる。
着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素、食用レーキ色素、ベンガラ等があげられる。
酸味剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等があげられる。
発泡剤としては、例えば、重曹等があげられる。
【0014】
本発明の口腔内崩壊錠は、例えば、薬物、乳酸カルシウム、高甘味度甘味剤、及び、前記の結合剤、賦形剤、崩壊剤などを含有する組成物を造粒した後、必要に応じて滑沢剤、矯味剤などと混合し、打錠することにより製造することができる。
【0015】
前記の造粒により得られた造粒物は、自体公知の造粒法により製造できる。造粒法としては、転動造粒法(例えば、遠心転動造粒法等)、流動造粒法(例えば、転動流動層造粒法、流動造粒法等)、撹拌造粒法等があげられる。このうち、好ましくは流動造粒法である。さらに、該造粒物を、所望により滑沢剤などの添加剤と混合し、打錠することで、本発明の口腔内崩壊錠を得ることができる。
【0016】
本発明の口腔内崩壊錠は、通常の口腔内崩壊錠と同様に水なしで咀嚼等して嚥下すること等により服用すればよい。また該口腔内崩壊錠の投与量は薬物、投与対象、疾患の種類等により異なるが、薬物としての投与量が有効量となる範囲から選択すればよい。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、部は質量部を示す。
【0018】
[実施例1]
無水カフェイン、乳酸カルシウム(2部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、カルメロースを42meshの篩で篩過後、バーチカルグラニュレーター(VG−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 10%水溶液を添加して練合造粒を行った。真空乾燥後、得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表1に示す。
【0019】
[比較例1]
無水カフェイン、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、カルメロースを42meshの篩で篩過後、バーチカルグラニュレーター(VG−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 10%水溶液を添加して練合造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
[試験例1]
実施例1及び比較例1で得られた錠剤を用いて、被験者5名により官能試験及び口腔内崩壊時間の測定を行った。官能試験は、1錠質量200mgの錠剤を口中に含み表2の評価基準にしたがって行った。また、口腔内崩壊時間は錠剤が完全に崩壊するまでの時間を測定した。官能試験の結果を表3に、口腔内崩壊時間の結果を表4にそれぞれ示す。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
表3及び表4より、実施例1において、錠剤の崩壊性を損なうことなく、無水カフェインの苦味が現実の服用に全く問題のない程度まで抑制されることが明らかとなった。従って、苦味を有する薬物をマスキングした口腔内崩壊錠を調製するのに、乳酸カルシウムが有用であることが確認された。
【0026】
[実施例2]
アセトアミノフェン、乳酸カルシウム(0.6部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表5に示す。
【0027】
[実施例3]
アセトアミノフェン、乳酸カルシウム(3部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表5に示す。
【0028】
[実施例4]
アセトアミノフェン、乳酸カルシウム(6部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表5に示す。
【0029】
[比較例2]
アセトアミノフェン、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表5に示す。
【0030】
[比較例3]
アセトアミノフェン、乳酸カルシウム(0.5部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表5に示す。
【0031】
[比較例4]
アセトアミノフェン、乳酸カルシウム(8部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
[試験例2]
実施例2〜4及び比較例2〜4で得られた錠剤を用いて、被験者5名により官能試験及び口腔内崩壊時間の測定を行った。試験は、1錠質量200mgの錠剤を口中に含み表2と表6の評価基準にしたがって行った。結果を表7〜9に示す。苦味の官能試験の結果を表7に、酸味の官能試験の結果を表8に、口腔内崩壊時間の結果を表9にそれぞれ示す。
【0034】
【表6】

【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
【表9】

【0038】
表7〜9より、実施例2〜4では、アセトアミノフェンの苦味がマスキングされ、口腔内崩壊時間の遅延も認められないことが明らかとなった。
しかし、比較例4に示されるように、乳酸カルシウムの配合率が製剤の全質量100質量部に対して6質量部(苦味を有する薬物に対して30質量%)を超えると、苦味のマスキング効果は有するものの、口腔内崩壊時間が全ての被験者において最も速い崩壊においても25秒と顕著に遅延し、かつ、乳酸カルシウムが有する酸味も強く感じるようになることから、口腔内崩壊錠としての服用には著しく不都合であることが明らかとなった。
したがって、苦味をマスキングした口腔内崩壊錠を調製するのに、本発明の範囲内で乳酸カルシウムを添加することは極めて有用であることが判明した。
【0039】
[実施例5]
クエン酸モサプリド、乳酸カルシクム(2.5部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、ク口スポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシルプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得た顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−5、日和混合機工業)で10分間混合後し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表10に示す。
【0040】
[実施例6]
クエン酸モサプリド、乳酸カルシウム(5部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシルプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得た顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−5、日和混合機工業)で10分間混合後し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表10に示す。
【0041】
[実施例7]
クエン酸モサプリド、乳酸カルシウム(6部)、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得た顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合後し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表10に示す。
【0042】
[比較例5]
クエン酸モサプリド、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得た顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合後し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表10に示す。
【0043】
【表10】

【0044】
[試験例3]
実施例5〜7及び比較例5で得られた錠剤を用いて、被験者5名により官能試験を行った。試験方法は、1錠質量200mgの錠剤を口中に含み表2の基準にしたがって評価した。また、口腔内崩壊時間は錠剤が完全に崩壊するまでの時間を測定した。官能試験の結果を表11に、口腔内崩壊時間の結果を表12にそれぞれ示す。
【0045】
【表11】

【0046】
【表12】

【0047】
表11及び12より、実施例5〜7において、錠剤の崩壊性を損なうことなく、クエン酸モサプリドの苦味が現実の服用に全く問題のない程度まで抑制されることが明らかとなった。従って、苦味を有する薬物をマスキングした口腔内崩壊錠を調製するのに、本発明の範囲内で乳酸カルシウムを添加することは極めて有用であることが判明した。
【0048】
[実施例8]
dl−マレイン酸クロルフェニラミン、乳酸カルシウム、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウム、l−メントール10倍散をV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表13に示す。
【0049】
[実施例9]
dl−マレイン酸クロルフェニラミン、乳酸カルシウム、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドン、アスパルテーム、ステビアを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウム、l−メントール10倍散をV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表13に示す。
【0050】
[実施例10]
dl−マレイン酸クロルフェニラミン、乳酸カルシウム、δ型D−マンニトール、コーンスターチ、結晶セルロース、クロスポビドンを42meshの篩で篩過後、流動層造粒乾燥機(MP−01、パウレック)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース 4%水溶液を噴霧し造粒を行った。得られた顆粒とステアリン酸マグネシウムをV型混合機(VB−S、日和混合機工業)で10分間混合し、打錠末を得た。打錠末を打錠機(VIRGO、菊水製作所、錠剤サイズ8.0mmφ、単位面積あたりの硬度2.0N/mm)で打錠した。素錠の処方を表13に示す。
【0051】
【表13】

【0052】
[試験例4]
実施例8〜10で得られた錠剤を用いて、被験者5名により官能試験及び口腔内崩壊時間の測定を行った。官能試験の試験方法は、1錠質量200mgの錠剤を口中に含み表2の基準にしたがって評価した。また、口腔内崩壊時間は錠剤が完全に崩壊するまでの時間を測定した。官能試験の結果を表14に、口腔内崩壊時間の結果を表15にそれぞれ示す。
【0053】
【表14】

【0054】
【表15】

【0055】
表14及び表15より、矯味剤を含有させた実施例8および高甘味度甘味剤および矯味剤を含有させた実施例9において、両者を含有しない実施例10よりもさらに優れた効果が見られた。具体的には、錠剤の崩壊性を損なうことなく、dl−マレイン酸クロルフェニラミンの苦味が現実の服用に全く問題のない程度まで抑制されることが明らかとなった。従って、乳酸カルシウムと高甘味度甘味剤及び/又は矯味剤の組み合せが苦味のマスキング効果をさらに増大させることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苦味を有する薬物及び該薬物に対して3〜240質量%の乳酸カルシウムを含有し、かつ全質量100質量部に対して6質量部以下の乳酸カルシウムを含有する口腔内崩壊錠。
【請求項2】
苦味を有する薬物及び該薬物に対して3〜30質量%の乳酸カルシウムを含有する、請求項1記載の口腔内崩壊錠。
【請求項3】
さらに、高甘味度甘味剤を含有する、請求項1または2記載の口腔内崩壊錠。
【請求項4】
さらに、矯味剤を含有する、請求項1〜3のいずれか記載の口腔内崩壊錠。
【請求項5】
矯味剤がl−メントールである、請求項4記載の口腔内崩壊錠。

【公開番号】特開2008−94837(P2008−94837A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237519(P2007−237519)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000161965)京都薬品工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】