説明

茶葉の熱不安定性カフェイン画分および植物でのアグロバクテリウムが媒介する遺伝形質転換を誘導する効率的な方法における前記画分の使用

本発明は、植物において所望の形質を発現させるための植物系における効果的なアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換に利用する熱不安定性カフェイン画分、また、茶葉から前記画分を調製する方法、また、茶葉の前記カフェイン画分を用いて、植物系において、効率的且つ費用効果的な前記アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物において所望の形質を発現させるための植物系での効果的なアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換に有効な熱不安定性カフェイン画分、また、茶葉から前記画分を調製する方法、また、茶葉の前記カフェイン画分を用いて、植物系に、前記アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を効率的且つ費用効果的に誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アグロバクテリウムは、グラム陰性の土壌細菌であり、ほとんどの双子葉植物やかなり多くの単子葉植物の細胞に、そのTiプラスミドまたは腫瘍誘発プラスミドを導入する。前記Tiプラスミドは,細胞-細胞の識別、シグナル伝達、細胞および核の導入、および最終的にはT-DNAの組み込みをうける(非特許文献1)。
【0003】
25bpの不完全なボーダーリピート(imperfect border repeat)により、どちらかの末端に結合したオンコ遺伝子を有する転移DNAまたはT-DNAは、遺伝形質転換およびクラウンゴール疾患を起こす。シグナル形質導入のプロセスは、7遺伝子が最も重要であるいくつかのビルレンス遺伝子(virulence genes)1セットにより開始される。
【0004】
シグナル応答の第1ステップおよび形質導入は、フェノール樹脂や糖のような誘導物質によってはじまる(非特許文献2参照)。
【0005】
過去の20年間、画期的な研究は、一般的な形質転換植物の開発がなされたことであり、アグロバクテリウムの安全な株(例えば、重要な遺伝子により置換されたオンコ遺伝子を持つTiプラスミド)が、非常に短い時間において、必要なものとして、植物の生産に使用されている。遺伝形質転換実験に使用される誘導物質は、一般的に、米国のSigma Aldrich社により商業的に提供されているアセトシリンゴン(非特許文献3参照)およびヒドロキシアセトシリンゴンである。
【0006】
茶葉を抽出する際、カフェイン、カテキンおよび他のフラボノールならびにアミノ酸の画分を有することが知られている。いくつかの実験において、カフェインを含む茶の特定の画分は、アグロバクテリウムによる感染、細胞-細胞認識およびビルレンスを促進できると示されている。これは、我々に、カフェイン画分が、アセトシリンゴンまたはヒドロキシアセトシリンゴンに代えて、遺伝形質転換実験においてビルレンス誘導物質として使用できることを確信させた。
【0007】
6種類のカテキンと、それらの誘導体、すなわちエピカテキン(EC)、ガロカテキン(GC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガリウム酸塩(epicatechin gallate:ECg)、エピガロカテキンガリウム酸塩(epigallocatechin gallate:EGCg)を高レベルで含有する他にも、茶葉は、カフェイン、アミノ酸、窒素化合物、ビタミン、無機成分、炭水化物および脂質を含んでいる(非特許文献3参照)。
【0008】
スニクマーらの1999年の報告は、形質転換効率を増加するためのプレインキュベートの必要性は、アグロバクテリウムとの共生培養の間、新鮮なカットした葉(cut leaf rings)に100μMアセトシリンゴンを添加することにより除去できることを開示している(非特許文献4参照)。プレインキュベート期間の間、葉によるvir遺伝子誘導物質の生産は、プレインキュベートにおいてアグロバクテリウムの形質転換効率の増加に寄与する重要な因子であるが、欠点は、誘導物質アセトシリンゴンおよびプレインキュベートの効果が類似しており、誘導物質はあまり役割を果たしていないという点である。
【0009】
Agrobacterium tumefaciens ビルレンス(vir)遺伝子の発現と、この生体による双子葉植物の形質転換は、宿主植物のフェノール化合物や、vir遺伝子の強力な誘導物質である、数種のアルキルシリングアミド(alkylsyringamides)、シリンガ酸、エチルシチングアミド(ethylsyringamide)のような合成アミド、フェルラ酸またはシナピン酸に依存する(非特許文献5参照)。
【0010】
しかしながら、試験した誘導物質はいずれも、1mMより大きい濃度のエチルシリングアミド(ethylsyringamide)を除いて、アセトシリンゴン、vir遺伝子誘導のための関連する化合物よりも高い活性を示さなかった。A. tumefaciens株A348(pSM243cd)を試験した際、エチルフェルラアミド(ethylferulamide)およびエチルシナピンアミド(ethylsinapamide)は、100μMより大きければ、フェノール酸よりもより効率的である。
【0011】
主な欠点は、前述のような誘導物質は、100μM以上の高濃度で使用する必要がある非常に高価な化学化合物ということである。さらに、アセトシリンゴンのような化合物は、Sigma Aldrichのような2,3の選ばれた会社によってのみ製造されており、開発途上国における研究所により米国から輸入する必要がある。
【0012】
リーら(Lee et al.)は、1995年に、Agrobacterium tumefaciensのビルレンス(vir)遺伝子は、VirAおよびVirBタンパク質からなる2成分調節系を通じて、低分子量フェノール化合物および単糖類により誘導されることを報告した(非特許文献6参照)。アセチバニロンのような15種類の異なるフェノール化合物のvir誘導能が、4つの野生株A. tumefaciens KU12、C58、A6およびBo542を用いて試験された。異なるTiプラスミドを同質遺伝系統の染色体バックグラウンドに導入することにより、フェノール-センシングデターミナントは、Tiプラスミドとの共同を示した。Tiプラスミドのサブクローニングは、virの位置(vir a locus)が、フェノール化合物がvir遺伝子誘導物質として機能できると決定することを示す。これらの結果は、VirAタンパク質が直接的にvir遺伝子活性化のためのフェノール化合物を感知することを示唆している。この報告の欠点は、Tiプラスミドのサブクローニングが、virのため、確かなフェノール誘導物質の同定を必要とされている点である。
【0013】
ヘスら(Hess et al.)は、1991年に、ジヒドロジコニフェリルアルコールグリコシド(dihydrodiconiferyl alcohol glycosides)のアグリコンが、A. tumefaciensにおけるビルレンス遺伝子発現の強力な誘導物質であることを報告している(非特許文献7参照)。このモデルを使用して、vir誘導の特異的インヒビターが開発された。この報告の欠点は、このインヒビターが、Tiプラスミドにおいて他の遺伝子の誘導に影響しないが、vir発現を不可逆的にブロックすることである。
【0014】
フォーティンら(Fortin et al.)は、1992年に、アセトシリンゴン、すなわちA. tumefaciensのビルレンス(vir)遺伝子のフェノール誘導物質が、酸性条件下でインキュベートしたノパリン型株T37およびC58Fの生育を阻害することを報告した(非特許文献8参照)。2つの他のvir誘導物質であるシナピン酸およびシリングアルデヒド(syringaldehyde)もまた、生育を阻害し、C58F株およびT37株の培養において、無毒クローンの蓄積を促進した。他方、vir遺伝子を誘導しないと報告された様々なアセトシリンゴン類縁体は、生育インヒビターとして作用しなかった。変異株C58Fは、アセトシリンゴンの存在下で、virB::lacZ融合を誘導する能力を欠く。この報告の欠点は、いくつかの誘導物質は促進的であり、他は、阻害的であり、また、株に特異的であるということである。
【0015】
デルモットら(Delmotte et al.)は、1991年、virE::lacZ融合プラスミドを有するA. tumefaciens str. A348 (pSM358)が、13種の合成アセトシリンゴン、アセトバニロン、シリングアルデヒド(syringaldehyde)およびシリンガ酸β-グルコシドのビルレンス誘導能力を検出するために使用され、また、レポーターβ-ガラクトシダーゼ活性を、基質として4-メチルウンベリフェリル β-ガラクトピラノシドを用いた蛍光スペクトル法によって検出したことを報告した(非特許文献9)。アセトシリンゴニル β-L-フコピラノシド(Acetosyringonyl beta-L-fucopyranoside)は、最も有効な活性を持つモノグリコシドであり、高濃度でさえ、この化合物は、ビルレンス効果を欠いていた。しかしながら、モノグリコシドは、遊離アセトシリンゴンよりもvir誘導物質に有効ではない。対照的に、シリングアルデヒド(syringaldehyde)のβ-マルトシドは、高濃度で、遊離フェノールよりも高い活性を示した。このような糖化誘導物質の活性は、細菌細胞表面における特異的な糖レセプターに関連している。この報告の欠点は、アセトシリンゴンは、米国のSigma Aldrichから輸入する必要がある高コストな化合物であるという点である。
【非特許文献1】ウィナン(Winans SC)、Two-way chemical signaling in Agrobacterium-plant interactions、Microbiological-Reviews、1992年、56: 1, 12-31。
【非特許文献2】アンケンバウアー(Ankenbauer RG)、Nester EW、Sugar-mediated induction of Agrobacterium tumefaciens virulence genes: structural specificity and activities of monosaccharides、Journal of Bacteriology、1990年、172: 11、6442-6446頁。
【非特許文献3】チュー(Chu DC)およびジュネジャ(Juneja L.R)、General chemical composition of green tea and its infusion、In: Chemistry and Application of Green Tea、1997年、CRC Press, N. York. eds. Yamamoto T., Juneja L.R., Chu DC, Kim M., pp.
【非特許文献4】スニルカマー(Sunilkumar G)、ビジャヤチャンドラ(Vijayachandra K)、ベルタンビ(Veluthambi K)、1999年、Pre-incubation of cut tobacco leaf explants promotes Agrobacterium-mediated transformation by increasing vir gene induction.Plant Science Limerick.、141: 1, 51-58。
【非特許文献5】ベルセロット(Berthelot、 K)、ブレット(Buret, D)、グエリン(Guerin, B)、デレイ(Delay, D)、ネグレル(Negrel, J)、デルモット(Delmotte, FM)、Vir gene inducing activities of hydroxycinnamic acid amides in Agrobacterium tumefaciens、Phytochemistry、1998年、49: 6, 1537-1548頁。
【非特許文献6】ヤンウォン(Lee, YongWoog)、ショウグアング(Jin, ShouGuang)、ウォングセオプ(Sim, WoongSeop)、ネスター(Nester, EW)、Lee, YW、Jin, SG、Sim, WS、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 1995 Genetic evidence for direct sensing of phenolic compounds by the VirA protein of Agrobacterium tumefaciens、92: 26, 12245-12249頁。
【非特許文献7】ヘス(Hess, KM)、ダドレイ(Dudley, MW)、リン(Lynn, DG)、ジョーガー(Joerger, RD)、ビンス(Binns, AN)、1991年、Mechanism of phenolic activation of Agrobacterium virulence genes: development of a specific inhibitor of bacterial sensor/response systems.、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.、1991年、88: 17, 7854-7858頁。
【非特許文献8】フォーティン(Fortin, C)、ネスター(Nester, EW)、ディオン(Dion, P)、1992年、Growth inhibition and loss of virulence in cultures of Agrobacterium tumefaciens treated with acetosyringone.Journal of Bacteriology. 174: 17, 5676-5685
【非特許文献9】デルモット(Delmotte FM)デレイ(Delay D)、チゼオウ(Cizeau J)、グエリン(Guerin B)、レプル(Leple JC)、1991年、Agrobacterium vir-inducing activities of glycosylated acetosyringone, acetovanillone, syringaldehyde and syringic acid derivatives. Phytochemistry. 30: 11, 3549-3552頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
(本発明の目的)
本発明の主目的は、植物におけるアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換に有用な熱不安定性カフェイン画分を開発することである。
【0017】
本発明の他の主目的は、茶葉由来の熱不安定性カフェイン画分の開発である。
【0018】
本発明のさらの他の目的は、茶葉から得られた熱安定性カフェインの特性を明らかにすることである。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、植物における非特異的な株のアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する能力を持つ茶葉由来の画分を開発することである。
【0020】
本発明の他の目的は、植物におけるアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換に対する天然で効果的な誘導物質の開発である。
【0021】
本発明の他の目的は、植物におけるアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換の経済的且つ費用効果的な誘導物質の開発である。
【0022】
本発明の他の目的は、植物におけるアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換のための、茶葉のクロロホルム画分の理想濃度範囲を決定することである。
【0023】
さらに、本発明の他の目的は、茶葉から熱不安定性カフェイン画分を調製する方法の開発である。
【0024】
本発明の他の主目的は、植物におけるアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する特性を有する茶葉抽出物由来のクロロホルム画分を調製する方法の開発である。
【0025】
さらに、本発明の他の目的は、植物における前記アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する効率的な方法の開発である。
【0026】
本発明の他の目的は、茶葉の前記カフェイン画分を用いて、植物にアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を効率的に誘導する方法の開発である。
【0027】
本発明の他の目的は、植物におけるアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する費用効果的な方法の開発である。
【0028】
本発明の他の目的は、天然に発生する原料源を用いて、植物における前記アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する方法の開発である。
【0029】
本発明の他の目的は、アセトシリンゴンおよびヒドロキシアセトシリンゴンのような形質転換誘導物質のコストに対する代替物の開発である。
【0030】
さらに、本発明の他の目的は、茶葉のカフェイン画分を用いて、植物へのアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換により、植物に所望の特性遺伝子を誘導する方法の開発である。
【0031】
さらに、本発明の他の目的は、オートクレーブされたカフェイン画分およびフィルター滅菌されたカフェイン画分の両方について形質転換誘導能力を比較することである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
(発明の要約)
本発明は、植物において所望の形質を発現させるための植物系における効果的なアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換に有用な熱不安定性カフェイン画分、および、茶葉から前記画分を調製する方法、また、茶葉の前記カフェイン画分を用いて、植物系において、効率的且つ費用効果的な前記アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明は、植物において所望の形質を発現させるため、植物系における効果的なアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換に有用な熱不安定性カフェイン画分、また、茶葉から前記画分を調製する方法、また、茶葉の前記カフェイン画分を用いて、植物系において、効率的且つ費用効果的な前記アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換を誘導する方法に関する。
【0034】
本発明の一形態において、植物に所望の形質を発現させるために、細菌Agrobacterium tumefaciensが媒介する植物における遺伝形質転換のための天然誘導物質である茶葉の熱不安定性カフェイン画分の費用効果的且つ効率的な使用方法であり、以下の工程を含む方法。
・液体改良イーストマンニトール培地(Yeast Mannitol Broth)に、前記細菌の菌株を接種する工程、
・約12-16時間、約25-30℃、約150-200rpm、暗黒下で、前記接種物をインキュベートする工程、
・ペレットを得るために、細菌生育のlogフェース(log phase of bacterial growth)の間に、1×109cells/mlである、600nmの光学密度約0.6-0.8で、前記インキュベートした接種物を採集する工程、
・懸濁液を得るために、細菌細胞を傷つけることなく、前記ペレットを新しいイーストマンニトール培地に懸濁する工程、
・約5-35分間、細菌懸濁液に、異なる植物の外植片を浸漬する工程、
・1-10日間の異なる期間、培養媒体(incubation medium)において、外植片をインキュベートする工程、
・vir遺伝子を誘導するために、前記細菌の新しい培養菌において、約0.5-300μg/mlの濃度で、カフェイン画分を使用し、それによって、所望の形質の遺伝子により遺伝的に植物を形質転換するために、植物に導入遺伝子を有するTiプラスミドを導入する工程。
【0035】
本発明の他の形態において、15-30分間、4000-8000rpm、25-30℃で遠心分離することによって、生存細菌細胞を沈殿させる。
【0036】
本発明の他の形態において、カフェイン画分は、商業的に利用可能な誘導物質と比較して、より良い誘導物質である。
【0037】
本発明の他の形態において、茶樹由来の熱不安定性カフェイン画分の調製方法であり、前記方法は以下の工程を含む。
・乾燥茶葉を一晩、室温で、約10-40%の水性アセトンにより抽出する工程、
・水層および脂質層を得るために、n-へキサンで茶葉抽出物をろ過する工程、
・前記水層からカテキンを除去するために、石油エーテルと酢酸エチルで、前記水層を抽出する工程、
・クロロホルム層を得るために、クロロホルムで、前記工程(c)の水層を抽出する工程、
・前記クロロホルム層における全カフェイン画分濃度を概算する工程、
・前記画分を得るために、オートクレーブおよびフィルター滅菌によりカフェイン画分を滅菌する工程。
【0038】
本発明の他の形態において、熱不安定性カフェイン画分である。
【0039】
本発明の他の形態において、アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換のためのアセトシリンゴン代替物である茶葉の熱不安定性カフェイン画分であり、以下の工程を含む。
(i)カナマイシンまたはハイグロマイシンに対する抗生物質耐性遺伝子ならびにレポーターgus遺伝子を有するAgrobacterium tumefaciensの2株、すなわちEHA105 (mild)およびGV2260 (virulent)を、それぞれの株の母培養(mother culture)から、カナマイシンまたはハイグロマイシン含有の液体改良イーストマンニトール培地(Yeast Mannitol Broth)10-30mlに、接種する工程、
(ii)12-16時間、約25-30℃、約150-200rpm、暗黒下で、インキュベートする工程、
(iii)細菌生育のlogフェースの間に、1×109cells/mlである、600nmの光学密度約0.6-0.8で、採集する工程、
(iv)15-30分、4000-8000rpm、25-30℃で遠心分離することにより生育細菌細胞を沈殿させる工程、
(v)細菌細胞を傷つけることなく、前記細胞ペレットを新しいイーストマンニトール培地5-25mlに懸濁する工程、
(vi)600nmにおける光学密度を測定することにより、細菌細胞密度1×109cells/mlに最適化する工程、
(vii)5-35分間、細菌懸濁液に、異なる植物の外植片を浸漬する工程、
(viii)過剰なAgrobacterium tumefaciens を除去するために、フィルタペーパー上に外植片をブロッティングする工程、
(ix)1-10日間の異なる期間、培養媒体(incubation medium)において、外植片をインキュベートする工程、
(x)Kangra jatの新鮮な茶葉100-500gを、60℃のオーブンで一定の重量にまで乾燥する工程、
(xi)乾燥した茶葉を、10-40%の水性アセトン0.4-1.2リットルで、室温で一晩抽出し、ろ過する工程、
(xii)脂質を除去し、二層を得るために、ろ液を、n-へキサン100-500mlで抽出する工程、
(xiii)水層を取り、カテキンを除去するために、石油エーテル(100-300ml)と酢酸エチル(100-400ml)で抽出を行う工程、
(xiv)水層をとり、クロロホルム(100-400ml)およびアンモニア溶液(3-10%)で抽出を行う工程、
(xv)クロロホルム層を10-50mlまで濃縮し、全カフェインを概算する工程、
(xvi)濃縮クロロホルム層をカフェイン画分として供給する工程、
(xvii)オートクレーブおよびフィルター滅菌の両方により、カフェイン画分を滅菌する工程、
(xviii)アセトシリンゴンに代えてAgrobacterium tumefaciensの新鮮な培地に、0.5-300μg/mlの濃度でカフェイン画分を使用する工程、
(xix)vir遺伝子の誘導および形質転換効率の増加のため、異なる濃度(0.5-300μg/ml)のカフェイン画分を含む再生培地(regeneration medium)に異なる植物の様々な外植片を移す工程、
(xx)さらに、再生とトランスジェニック植物の発達のため、Agrobacterium tumefaciensフリーの外植片を、選択抗生物質を含む再生培地に移す工程、および、
(xxi)以下の表1および表2に示すように、波長250-280nmでのダイオードアレイ検出器を用いたビルレンス誘導化合物(virulence inducing compound)の検出のため、アセトニトリルおよびリン酸を用いた、グラジェントモード(0.05-0.2%)でのHPLCによる、カフェイン画分(オートクレーブとフィルター滅菌の両方、図1および2に言及)、カテキン画分、粗茶抽出物の比較分析。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
本発明の他の形態において、植物におけるアグロバクテリウムを介した遺伝形質転換は、ビルレンス(virulence:病原性)またはvir遺伝子の誘導と、植物組織への導入遺伝子を有するTiプラスミドの導入により起こる。植物組織に誘導された時に、疾患、ストレス耐性、作物品質(crop quality)、フレーバー、色、よりよい貯蔵寿命のような所望の特性をコードする導入遺伝子は、従来の増殖作用(breeding)よりも短い時間で、作物改良を行うことができる。一般に、フェノール誘導物質は、vir遺伝子の誘導の原因となり、一般的な商業的に利用可能な誘導物質は、アセトシリンゴンまたはヒドロキシアセトシリンゴンである。これらの商業的に利用可能な誘導物質は、高価なだけでなく、米国のSigma Aldrichのような少ない選ばれた会社に制限されている。
【0043】
本発明の他の形態は、茶葉のカフェイン画分が、vir遺伝子を誘導し、遺伝形質転換を行うので、これらの商業的に利用可能な誘導物質に代わる潜在性を持っている。入手が容易である天然画分は、費用効果だけでなく、形質転換効率も向上する。
【0044】
本発明の他の形態は、茶葉由来のビルレンス誘導カフェイン画分が、異なる植物種の異なる外植片を使用するトランスジェニック生産に利用できる。
【0045】
本発明の他の形態は、フィルター滅菌した茶葉由来のカフェイン画分が、異なる濃度で前述のように添加される。
【0046】
本発明の他の形態は、オートクレーブした茶葉のカフェイン画分が、異なる濃度で前述のように添加される。
【0047】
本発明の他の形態において、食物系病原体であるClostridium perfringensは、腸で胞子形成する間に毒を生産し、そのビルレンス効果を人に及ぼす。調査は、ダイエットにおいて、世界中で大量に消費されるカフェインの効果を決定するために行われた。100μgカフェイン/mlまたは200μgテオブロミン/mlの存在下、C. perfringens NCTC 8679の胞子形成が、1未満(<1)から、80または85%まで上がった。エンテロトキシン濃度は、未検出レベルから、細胞抽出タンパク質450μg/mgにまで増加した。熱耐性胞子レベルは、1000未満(<1000)から、1×107および2×107/mlの間にまで増加した。カフェインのために、retractile sporesを有する細胞の%において、3-4倍に増加し、エンテロトキシン濃度において同様に増加した。
【0048】
本発明の他の形態において、カフェインがC. perfringensの胞子形成を刺激することによるメカニズムの研究は、カフェインに暴露された培養菌が、細胞内のアデノシンおよびグアノシン三リン酸のレベルを極めて向上したことを示した(ノラン(Nolan LL)、ラビー(Labbe RG)、クラッカー(Craker LE (ed.))、Nolan L (ed.)、Shetty K、 Effect of plant alkaloids on the sporulation of a food-borne pathogen. International symposium on medicinal and aromatic plants, Amherst, Massachusetts, USA, 27-30 Aug. 1995年、Acta-Horticulturae. 1996年, No. 426, 287-295)。この特性は、我々に、茶葉由来カフェイン画分を、アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換におけるビルレンス遺伝子の誘導に使用させ、また、高価な化学アセトシリンゴンの代替品として使用させるにいたった。その上、茶葉由来のビルレンス誘導カフェイン画分は、通常、廃棄し焼却する普通葉の整備から得られ、この方法は、経済的および費用効果的にも良い。茶葉由来ビルレンス誘導物質カフェイン画分の使用は、形質転換効率の増加において特に重要である。
【0049】
本発明の他の形態において、茶葉の熱不安定性カフェイン画分は、アグロバクテリウム媒介遺伝形質転換のための、アセトシリンゴンの代替品である(図4参照)
本発明の他の形態において、茶葉の熱不安定性カフェイン画分、すなわちアグロバクテリウム媒介遺伝形質転換のためのアセトシリンゴンの代替品は、前述のような欠点を排除する。
【0050】
本発明の他の形態において、この方法の新規な点は、費用効果的な天然抽出物が、アセトシリンゴンやヒドロキシアセトシリンゴンのような誘導物質のコストに対する代替品となり得ることを証明したことである。
【0051】
本発明の他の形態において、茶葉のカフェイン画分は、異なる系や植物または外植片のAgrobacterium tumefaciensが媒介する遺伝形質転換に使用できる。
【0052】
本発明の他の形態において、コストのかかる抽出方法を必要とすることなしに、誘導物質を得るための経済的なシステムであり、滅菌活性のある粗葉抽出物は、高価な装置を必要とすることなく抽出される。
【0053】
本発明の他の形態において、ビルレンス誘導物質活性を有する茶葉のカフェイン画分は、天然に育っている茶の潅木から多量に得られる。
【0054】
本発明の他の形態において、ビルレンス誘導物質である茶葉由来カフェイン画分は、天然起源であり、合成ではなく、半合成の天然物でもない。
【0055】
本発明の他の形態において、ビルレンス誘導物質である茶葉由来カフェイン画分は、例えば、2つまたは1つのような、活発に生育する先端の若枝(apical shoots)から、経済的に多量に得られる。
【0056】
本発明の他の形態において、ビルレンス誘導物質である茶葉カフェイン画分は、一般的に、廃棄し焼却する葉であるため、普通葉の少ない整備からでさえ、多量に得られ、それによりさらに経済的となる。
【0057】
本発明の他の形態において、粗抽出物は、また、Agrobacterium rhizogenesisを使用する毛状根形成(hairy root production)の間にも使用できる。
【0058】
本発明の他の形態において、アグロバクテリウムによる形質転換効率は、極めて増加できる。
【0059】
本発明の他の形態において、一般的に使用される合成誘導物質の使用では効果がない、異なる系や植物または外植片における、Agrobacterium tumefaciens遺伝形質転換のための茶葉抽出物の使用である。
【0060】
本発明の他の形態において、Agrobacterium tumefaciensの遺伝形質転換のための費用効果システムを誘導し、商業的および高コストな誘導物質の使用が不要である。
【0061】
特許第NF14/02における粗茶葉抽出物は、アセトンおよびn-へキサンの使用により得られ、特許第NF221/02におけるカフェイン画分は、カテキンを除去するため、酢酸エチルおよび石油ベンゼンを使用する溶剤抽出により得られる。前述のようにカフェイン画分はカフェインのみを含むのに対して、粗茶葉抽出物は、一般にカテキンおよびカフェインを含み、そのため1つとして処理されるべきでない。図3においてサポートするデータは、Agrobacterium tumefaciens培養の生育における茶葉抽出物の異なる画分の効果を表す。これは、明らかに、各画分における違いを実証している。
【0062】
Agrobacterium tumefaciensの新鮮な培地における濃度0.5-300μg/mlのカフェイン画分の使用は、アセトシリンゴンに代わる。これは、培地におけるカフェイン濃度について言及し、実際に、培地におけるカフェイン濃度0.5-300μgを言及している。誘導物質の濃度は、画分におけるカフェインの濃度として、間接的に算定される。
【0063】
以下に示す実施例について、図を用いて説明するが、これらの実施例は、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0064】
カナマイシンまたはハイグロマイシンに対する抗生物質耐性遺伝子ならびにレポーターgus遺伝子を有するAgrobacterium tumefaciens2株、すなわちEHA105 (mild)およびGV2260 (virulent)を、それぞれの株の母培地(mother culture)から、カナマイシンまたはハイグロマイシン含有の液体改良イーストマンニトール培地(Yeast Mannitol Broth)10-30mlに接種し、12-16時間、約25-30℃、約150-200rpm、暗黒下で、インキュベートした。細胞を、細菌生育のlogフェースの間に、1×109cells/mlである、600nmにおける光学密度約0.6-0.8で採集した。生育細菌細胞を、15-30分、4000-8000rpm、25-30℃で遠心分離することにより沈殿させた。細菌ペレットを、細菌細胞を傷つけることなく、新しいイーストマンニトール培地5-25mlに懸濁し、細胞密度を600nmでの光学密度の測定により、1×109cells/mlに最適化した。異なる植物の様々な外植片を、5-35分間、細菌懸濁液に浸漬した。過剰なAgrobacterium tumefaciens を除去するために、フィルタペーパー上に外植片をブロッティングした。1-10日間の異なる期間、培養媒体(incubation medium)において、外植片をインキュベートした。Kangra jatの新鮮な茶葉100-500gを、60℃のオーブンで一定の重量にまで乾燥し、10-40%の水性アセトン0.4-1.2リットルで、室温において一晩抽出し、ろ過した。脂質除去のために二層を得るべく、ろ液をn-へキサン100-500mlで抽出した。カテキンを除去するために、水層を、石油エーテル(100-300ml)と酢酸エチル(100-400ml)で抽出した。水層をとり、クロロホルム(100-400ml)およびアンモニア溶液(3-10%)で抽出した。クロロホルム層を10-50mlまで濃縮し、全カフェインを概算した。濃縮クロロホルム層をカフェイン画分として供給し、オートクレーブおよびフィルター滅菌方法の両方により滅菌した。濃縮クロロホルム画分をカフェイン画分として、0.5-300μg/mlの濃度でAgrobacterium tumefaciensの新鮮な培地に供給した。vir遺伝子の誘導および形質転換効率の増加のため、異なる濃度(0.5-300μg/ml)のカフェイン画分を含む再生培地(regeneration medium)に、異なる植物の様々な外植片を移した。
【0065】
さらに、再生とトランスジェニック植物の発達のため、Agrobacterium tumefaciensフリーの外植片を、選択抗生物質を含む再生培地に移した。3つの画分すなわちカフェイン(オートクレーブとフィルター滅菌の両方)、カテキン画分および粗茶抽出物について、HPLCにより比較分析を行った。波長250-280nmでのダイオードアレイ検出器を用いて、ビルレンス誘導化合物(virulence inducing compound)を検出するため、グラジェントモード(0.05-0.2%)でアセトニトリルおよびリン酸を用いた。
【実施例2】
【0066】
カフェイン画分は、フィルター滅菌され、前記実施例1に述べるように、Agrobacterium tumefaciensが媒介する形質転換に対する異なる外植片において、アセトシリンゴンに代えて誘導物質剤として使用した。
【実施例3】
【0067】
カフェイン画分は、オートクレーブ処理され、前記実施例に述べるように、Agrobacterium tumefaciensが媒介する形質転換に対する異なる外植片において、アセトシリンゴンに代えて誘導物質剤として使用した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の主な利点は、
(1)茶葉のカフェイン画分は、アセトシリンゴンに代えてAgrobacterium tumefaciens媒介遺伝形質転換のための強力なビルレンス誘導剤として使用できる。
(2)茶葉のカフェイン画分は、商業的に使用されているビルレンス誘導剤であるアセトシリンゴンは効果がない、異なる系または植物もしくは外植片において、Agrobacterium tumefaciens媒介遺伝形質転換に使用できる。
(3)商業的なビルレンス誘導剤の使用が不要であるため、茶葉のカフェイン画分は、Agrobacterium tumefaciens媒介遺伝形質転換にとって、費用効果的なシステムである。
(4)ビルレンス活性を有する茶葉のカフェイン画分は、高価な装置や高コストの抽出方法を使用することなく得ることができるため、その使用は、経済的な方法である。
(5)ビルレンス誘導活性を有する茶葉のカフェイン画分は、1年を通して、自然に生育する茶の潅木から多量に容易に得ることができる。
(6)ビルレンス誘導活性を有する茶葉のカフェイン画分は、天然起源であり、合成ではなく、また、半合成の天然物でもない。
(7)ビルレンス誘導活性を有する茶葉のカフェイン画分は、一般的に、廃棄され焼却される葉であるため、普通葉の整備から多量に得られ、それによってさらに経済となる。
(8)茶葉のカフェイン画分は、異なる植物または外植片に関わる、異なるin vitroシステムにおけるビルレンス誘導能をもつ薬剤として使用できる。
(9)ビルレンス誘導能を有する茶葉のカフェイン画分は、Agrobacterium rhizogenesisを使用する毛状根形成(hairy root production)の間に使用できる。
【0069】
ビルレンス誘導能を有する茶葉のカフェイン画分は、Agrobacterium媒介形質転換効率の増加のために使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、Agrobacterium tumefaciens培養の生育におけるフィルター滅菌およびオートクレーブされたカフェイン茶画分の効果を示す。
【図2】図2は、フィルター滅菌されたカフェイン画分とオートクレーブされたカフェイン画分の比較を示す。
【図3】図3は、Agrobacterium tumefaciensの生育における、アセトシリンゴンおよびカフェイン画分の効果の比較を示す。
【図4】図4は、Agrobacterium tumefaciensの生育における、アセトシリンゴンおよびカフェイン画分の効果の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に所望の形質を生じさせるために、植物における細菌Agrobacterium tumefaciensが媒介する遺伝形質転換のための天然誘導物質である茶葉の熱不安定性カフェイン画分の費用効果的且つ効率的な使用方法であり、以下の工程を含む方法。
a.液体改良イーストマンニトール培地(Yeast Mannitol Broth)に、前記細菌の菌株を接種する工程、
b.約12-16時間、約25-30℃、約150-200rpm、暗黒下で、前記接種物をインキュベートする工程、
c.ペレットを得るため、細菌生育のlogフェースの間に、1×109cells/mlである、600nmの光学密度約0.6-0.8で、前記インキュベートした接種物を採集する工程、
d.懸濁液を得るために、前記細菌細胞を傷つけることなく、前記ペレットを新しいイーストマンニトール培地に懸濁する工程、
e.約5-35分間、細菌懸濁液に、異なる植物の外植片を浸漬する工程、
f.1-10日間の異なる期間、培養媒体(incubation medium)において、外植片をインキュベートする工程、
g.vir遺伝子を誘導するために、約0.5-300μg/mlの濃度で、茶葉の熱不安定性カフェイン画分を添加し、それによって、所望の形質の遺伝子により遺伝的に植物を形質転換するために、植物に導入遺伝子を有するTiプラスミドを導入させる工程。
【請求項2】
15-30分間、4000-8000rpm、25-30℃で遠心分離することによって、生存細菌細胞を沈殿させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
カフェイン画分が、商業的に利用可能な誘導物質と比較してより良い誘導物質である、請求項3記載の方法。
【請求項4】
以下の工程を含む、茶樹由来の熱不安定性カフェイン画分の調製方法。
a.乾燥茶葉を一晩、室温で、約10-40%の水性アセトンにより抽出する工程、
b.水層および脂質層を得るために、n-へキサンで茶葉抽出物をろ過する工程、
c.前記水層からカテキンを除去するために、石油エーテルと酢酸エチルで、前記水層を抽出する工程、
d.クロロホルム層を得るために、クロロホルムで、前記工程(c)の水層を抽出する工程、
e.前記クロロホルム層における全カフェイン画分濃度を概算する工程、
f.前記画分を得るために、オートクレーブおよびフィルター滅菌の両方によりカフェイン画分を滅菌する工程。
【請求項5】
請求項3記載の熱不安定性カフェイン画分。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−506973(P2006−506973A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−527283(P2004−527283)
【出願日】平成15年3月25日(2003.3.25)
【国際出願番号】PCT/IN2003/000079
【国際公開番号】WO2004/015116
【国際公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(595059872)カウンシル オブ サイエンティフィク アンド インダストリアル リサーチ (81)
【Fターム(参考)】