説明

茹で枝豆様の食感を有する納豆の製造方法、及び該方法で製造される納豆

【課題】 従来全く知られていない新たな食感を有する納豆、より詳しくは、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆を製造する方法を提供すること、並びに、前記方法によって製造された、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆を提供することを目的とする。
【解決手段】 原料大豆を水に浸漬する浸漬工程と、浸漬大豆を蒸煮する蒸煮工程と、蒸煮大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程と、を有する納豆の製造方法において、原料大豆の浸漬工程として、原料大豆を0.02〜0.70質量%のカルシウムを含有する浸漬水の中に、4〜23時間浸漬することを特徴とする、0.75〜1.49Nの硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆の製造方法と、前記方法によって製造され、0.75〜1.49Nの硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来と異なる食感、すなわち茹で枝豆様の歯応えのある好ましい硬い食感を有する納豆を製造する方法と、該方法で製造される納豆と、に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生理機能成分を強化した納豆や特徴的な香味・物性を有する納豆が開発され、上市されて消費者に受け入れているが、さらに、新たな機能や香味・物性を有する納豆が求められている。
市販納豆の硬度は、0.3〜0.6N(ニュートン)の範囲にあるが、最近、軟らかな食感を有する納豆の開発を目的として、製造に適した納豆菌の選択や変化株の取得が検討されており(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、硬度としては、例えば、0.2〜0.3N程度である(特許文献2)。
また、大豆の蒸煮条件を選択することによって、硬度0.18〜0.68Nの軟らかさと、もちもちした食感とを有する納豆を製造する方法も知られていた(特許文献4)。
しかし、硬く歯応えがあるが、茹で枝豆様の好ましい食感を有する納豆については知られていなかった。
【0003】
一方、納豆の製造工程は、原料大豆を水に浸漬する浸漬工程、浸漬大豆を蒸煮する蒸煮工程、蒸煮大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程から主に成り、納豆の食感に影響を及ぼす製造条件については、従来から大豆の浸漬蒸煮条件、納豆菌の発酵条件が納豆の硬度に影響することが知られている。
浸漬蒸煮条件については、水分量80%以上、保持時間15分以上、蒸煮温度121℃以下とした場合、納豆が硬いと感じさせないことが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。また、発酵条件の影響については、発酵が進むにつれて、硬度が上昇し、菌数が多い程、また高い温度で発酵する程、納豆が硬化することが知られている(非特許文献1、非特許文献3)。
【0004】
しかし、これらはいずれも通常の納豆において、好ましい食感を実現するのに適した製造条件を明らかにすることを目的としたものであって、本発明の目的とする、茹で枝豆様の歯応えのある好ましい硬さの食感を有する納豆ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−209285号公報
【特許文献2】特開2008−263929号公報
【特許文献3】特開2009−39080号公報
【特許文献4】特開2007−135406号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌、56巻1号、40〜47頁(2009)
【非特許文献2】日本食品工業学会誌、40巻1号、83〜90頁(1993)
【非特許文献3】日本食品工業学会誌、40巻1号、75〜82頁(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来全く知られていない新たな食感を有する納豆、より詳しくは、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆を製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記方法によって製造された、従来全く知られていない新たな食感を有する納豆、より詳しくは、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
茹で枝豆においては、生枝豆を適度に茹でることによって、大豆タンパク質の変性が起こり、硬いが好ましい硬さにしているものと考えられる。
一方、納豆においては、前記したように、大豆の浸漬蒸煮条件、納豆菌の発酵条件が納豆の硬度に影響することが知られている。
従って、通常の納豆の製造方法において、所望の食感を実現するために、浸漬蒸煮条件を適宜選択する方法が考えられる。
しかしながら、実際には、浸漬蒸煮条件は、次工程の発酵工程に影響するために、単に浸漬・蒸煮条件を最適化することによって、目的とする食感を有する納豆を得ることは困難である。また、浸漬・蒸煮条件を最適化し、次いで発酵条件を最適化する方法も考えられるが、実際には、蒸煮後の大豆に目的とする食感を保持させたとしても、その食感を変更せずに、納豆菌を発酵させることは困難である。
【0009】
すなわち、茹で枝豆の場合とは異なり、納豆においては、蒸煮によって大豆タンパク質等の大豆成分の立体構造が影響を受けて物性が変化し、さらに発酵段階での納豆菌の作用によっても物性に変化が起きるため、それらが総合されて、最終的な納豆の物性が決定されている。
【0010】
本発明者は、当初、通常の浸漬蒸煮条件や発酵条件を検討することで硬い納豆を得ることは可能と考えたが、得られた納豆の食感は単に硬いだけで、目的とする好ましい硬さのものでなかった。
このため、従来の蒸煮条件や発酵条件の改変だけでは、本発明の目的とする、茹で枝豆様の食感を付与された納豆を製造することは困難であると結論し、納豆の各製造工程を詳細に検討した。
その結果、本発明者は、通常の納豆の製造方法において、カルシウムを含有する浸漬水の中に原料大豆を浸漬することによって、原料大豆が柔らかくなること、そして前記方法で調製された浸漬大豆を蒸煮し、蒸煮大豆を発酵すると、硬さはあるが、歯応えのある好ましい硬さを有する納豆が製造できることを見出した。
【0011】
ところで納豆製造において、カルシウムを栄養学的に補給するために、蒸煮後の大豆に不溶性カルシウムを添加して納豆菌で発酵させる方法が知られている(特開昭54−32647号公報)。この他に、発酵後の納豆に不溶性のカルシウムを添加することによって日持ちを改善する方法が知られている(特開2009-232818号公報)。
しかし、カルシウムは、納豆の最も特徴的な物性である糸引きに影響し(特開昭60−19466号公報)、カルシウムイオンが存在すると糸切れを起こしてしまい、糸引きの悪い納豆となるため、品質的に劣化することになるとされていた。
従って、納豆製造においてカルシウムを用いることは、積極的に糸切れさせたいような特別な場合を除いて、納豆独特の特徴である糸引き性などを損ない、嗜好性を低下させることになり、好ましいことではなかった。
しかしながら、上記したように、本発明者は、通常の納豆の製造方法において、カルシウムを含有する浸漬水の中に原料大豆を浸漬することによって、原料大豆が柔らかくなること、そして前記方法で調製された浸漬大豆を蒸煮し、蒸煮大豆を発酵すると、硬さはあるが、歯応えのある好ましい硬さを有する納豆が製造できることを見出した。
【0012】
そして、前記知見をもとに、カルシウムを含有する浸漬水の中に原料大豆を浸漬する浸漬条件を検討し、さらに得られた浸漬大豆を蒸煮し、蒸煮大豆を発酵した場合に種々の硬さを有する納豆が製造できることを見出し、前記方法で製造された納豆のうち、0.75〜1.49Nの範囲の硬度を有する納豆が、目的とする茹で枝豆様の好ましい硬い食感を有していることを見出した。
【0013】
そして、納豆硬度と大豆浸漬液のカルシウム濃度の相関関係を詳しく検討し、0.02〜0.70質量%の範囲のカルシウムを含有させた浸漬液を使用し、浸漬時間を適切に設定した場合、前記硬度範囲にある茹で枝豆様食感を有する納豆を製造でき、しかも、発酵工程において納豆独特の糸引き性や菌膜被膜の外観が損なわれておらず、製品納豆の段階でも、呈味において苦味等の異味がなく、納豆本来の呈味を有し、保存性も同等であることを見出した。
【0014】
また、カルシウムの形態として、特に乳酸カルシウムは、溶解性が高く、浸漬水を調製するのが容易で、かつ納豆菌発酵への影響が小さく、また製造された納豆の外観を含む官能的特性や保存性が優れていることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1);原料大豆を水に浸漬する浸漬工程と、浸漬大豆を蒸煮する蒸煮工程と、蒸煮大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程と、を有する納豆の製造方法において、原料大豆の浸漬工程として、原料大豆を0.02〜0.70質量%のカルシウムを含有する浸漬水の中に、4〜23時間浸漬することを特徴とする、0.75〜1.49N(ニュートン)の硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆の製造方法。
(2);カルシウムとして、乳酸カルシウム又は/及び塩化カルシウムを用いる、前記(1)記載の納豆の製造方法。
(3);前記(1)又は(2)に記載の方法によって製造され、0.75〜1.49N(ニュートン)の硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来全く知られていない新たな食感を有する納豆、より詳しくは、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆を製造する方法が提供される。
また、本発明によれば、前記方法によって製造された、従来全く知られていない新たな食感を有する納豆、より詳しくは、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の方法は、原料大豆を水に浸漬する浸漬工程と、浸漬大豆を蒸煮する蒸煮工程と、蒸煮大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程と、を含む納豆の製造方法において、原料大豆の浸漬工程として、原料大豆を0.02〜0.70質量%のカルシウムを含有する浸漬水の中に、4〜23時間浸漬することを特徴とする、0.75〜1.49N(ニュートン)の硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆の製造方法である。
本発明の方法により製造される納豆は、0.75〜1.49Nの硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有するものである。
このような物性を有する本発明の納豆は、納豆としての糸引き性と菌膜の状態が良好であり、かつ、茹で枝豆様のような歯応えのある、消費者に好まれる食感を同時に有するものである。
【0018】
本発明の納豆を製造する工程としては、原料である大豆を蒸煮する前の工程、すなわち、原料大豆に吸水させる浸漬工程に特色があり、その他の工程については、基本的に従来から実施されている納豆製造方法を採用すればよい。
納豆の製造工程は、原料大豆を水に浸漬する浸漬工程、浸漬大豆を蒸煮する蒸煮工程、蒸煮大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程から主に成り、より詳しく述べると、原料大豆に吸水させる浸漬工程、大豆を蒸煮する蒸煮工程、大豆に納豆菌を接種する工程、大豆を容器に充填する工程、並びに発酵工程を経て、熟成した後、最終的に納豆製品が得られる。
【0019】
以下に、本発明の納豆の製造方法について説明する。
本発明に用いる原料の大豆は、特に制限は無いが、本発明の納豆に特有な茹で枝豆様の食感を感じられることから、丸大豆が好ましく、丸大豆の中でも特に中粒、大粒の大豆が好適である。また、これらの大豆は、乾燥処理を行ったものでも、乾燥処理を行わないで生のままでも用いることができる。
原料の大豆は、通常、水洗した後、水に浸漬するが、本発明は、この浸漬水に特色を有する。
【0020】
すなわち、本発明においては、浸漬水として、カルシウムを浸漬水に添加し、溶解させたカルシウム含有水を用いる。
用いるカルシウムに特に限定はないが、浸漬水に均一に溶解させることができ、原料大豆での吸収が均一にできることから、水溶性カルシウム塩が好ましく、具体的には塩化カルシウム、リンゴ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
また、カルシウムを含有する天然物やその加工品なども用いることができるが、カルシウムの含有量が低いものを用いると浸漬水への添加量が多くなり、大豆の物性や納豆菌の発酵、不純物による納豆の呈味などへの悪影響が出てくることから、少なくともカルシウム含有量が5質量%以上含有するものを用いることが好ましい。
【0021】
前記したように、カルシウムとして、種々の水溶性カルシウム塩などが使用できるが、溶解度や納豆菌発酵への影響、呈味への影響等から、塩化カルシウムや乳酸カルシウムが、より好ましい。塩化カルシウムと乳酸カルシウムは、それぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。
特に乳酸カルシウムは、他の形態のカルシウムと比較して、水への溶解度が高く、納豆菌の発酵にほとんど影響を及ぼさず、かつ、呈味への影響も小さいため、使用範囲可能な濃度範囲が広く、その結果、目的とする硬度と茹で枝豆様の食感を有する納豆を製造するのが容易であり、かつ、通常の納豆と同等の外観や呈味を呈する納豆を製造することが可能なため、特に好適に使用される。
【0022】
原料大豆の浸漬水として用いるカルシウム含有水は、水にカルシウムを添加して、カルシウムの濃度が、0.02質量%〜0.70質量%、好ましくは0.04質量%〜0.60質量%になるように溶解させることによって調製することができる。
原料大豆の浸漬水として用いるカルシウム含有水におけるカルシウムの濃度が、0.02質量%より低いと、納豆とした時に硬度が低く、茹で枝豆様の食感が感じられない。また、上記濃度が0.70質量%を越えると、納豆の硬度は上昇するが、茹で枝豆様の食感がなくなり、また、納豆菌への影響が大きく、納豆の形状にならず、また苦味が感じられるようになる。
【0023】
浸漬工程において、原料大豆に対して、重量ベースで2〜3倍程度のカルシウム含有水を用いる。
浸漬は、浸漬中の腐敗を防ぐために、一般的に行われている4〜20℃で行う。
【0024】
カルシウム含有水への原料大豆の浸漬時間は、4〜23時間、好ましくは、5〜22時間、より好ましくは7〜22時間、さらに好ましくは10〜20時間である。
カルシウム含有水への原料大豆の浸漬時間が4時間より短いと、浸漬後の大豆のカルシウム含有量が低く、必要な硬度が得られない。また、浸漬時間が長くなるにつれて、浸漬後の大豆中のカルシウム含有量は増加するが、浸漬時間を23時間より長くすると、大豆粒に吸収されたカルシウムが大豆成分と長時間反応することによって、カルシウムの形態が変化したり、大豆タンパク質等の高次構造が変化するためと考えられたが、浸漬後の大豆中のカルシウム濃度や発酵して納豆にした場合の納豆の硬度はかえって低下してしまい、茹で枝豆様の食感が失われてしまう。
【0025】
なお、大豆中のカルシウム含有量を高める方法として、カルシウム含有水に原料大豆を浸漬する方法以外に、カルシウムを含有する水を原料大豆に噴霧する方法や、蒸煮時や発酵時にカルシウムを添加する方法も検討したが、浸漬する方法以外の方法においては、本発明に記載したような茹で枝豆様の物性を示す納豆を製造することは困難であった。
【0026】
浸漬工程でカルシウム含有水に浸漬して調製した浸漬大豆は、次いで蒸煮工程に供する。
本発明の方法における大豆蒸煮工程は、通常の納豆製造における公知の方法、例えば釜内に浸漬大豆を入れ蒸気を噴きこむ方法、を採用することができる。蒸煮時間は1分〜30分の範囲である。
蒸煮時間が1分より短いと殺菌や大豆蛋白の変性等が十分に出来ず、次工程の納豆菌発酵に影響がある。一方、蒸煮時間が30分より長いと目的とする硬度を有する納豆が製造することが難しい。
【0027】
蒸煮工程終了後、調製された蒸煮大豆を、納豆菌による発酵工程に供する。
用いる納豆菌(Bacillus subtilis)は、納豆の製造に使用可能な菌であれば特に制限はなく、一般的な市販菌である宮城野菌、高橋菌、成瀬菌の他に、それらの突然変異株や遺伝子組み換え株などの自社開発菌なども利用することができる。
【0028】
発酵条件は一般的な条件で発酵させればよく、納豆菌を蒸煮大豆に散布して密閉し(通常は容器に充填して密閉し)、35〜45℃の温度で、15〜22時間、好ましくは18〜20時間発酵させる。
発酵時間がこれより短いと十分に発酵させることができない。また、発酵時間がこれより長くなると、過剰に発酵してしまうため、目的とする硬度および茹で枝豆様食感を納豆に付与させることが困難となる。
発酵終了後、通常、4〜10℃で24〜72時間程度、熟成を行い、製品納豆となる。
【0029】
このようにして、0.75〜1.49Nの硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆が得られる。
本発明の納豆は、硬度として、0.75〜1.49Nであり、かつ、官能的に硬いが好ましい硬さであり、茹で枝豆様の歯応えを感じさせる好ましい食感を有することを特徴とする。
【0030】
なお、本発明における硬度(N)は、市販硬度計を使用して測定可能であり、カルシウム量は、原子吸光法で測定可能である。
【0031】
本発明において、浸漬工程で大豆にカルシウムを含有させるが、従来の製造方法で製造された納豆と比較して、納豆菌による発酵工程においても、発酵の遅延等の影響は見られず、蒸煮大豆表面への納豆菌菌膜の形成も通常の納豆と同様である。また、糸切れしやすくなるなどの影響はなく、良好な納豆の特性を示すものである。
【0032】
熟成後の納豆には、納豆として十分な糸引き性を有し、同等の外観(菌膜の張り)を呈し、強い苦味などの異味は感じられず、食感以外は従来の納豆との官能的な違いは見られない。
また、熟成後、保管しても、アンモニアの発生やシャリなどの析出は通常の納豆との違いはなく、日持ち性も従来の納豆と同等である。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例等により説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0034】
〔実施例1〜5及び比較例1〜2;浸漬水のカルシウム濃度の影響〕
水に、乳酸カルシウムを表1に記載の各量を添加し、溶解してカルシウム含有水を調製した。原料大豆に対して、このカルシウム含有水を重量ベースで2.5倍量加え、5℃で18時間、大豆を浸漬した。
浸漬大豆をよく水きりして、その後、12分間ほど蒸煮し、得られた蒸煮大豆に納豆菌を散布し、蒸煮大豆50gを各容器に盛り込み、ポリエチレンの被膜で覆い、フタをして39℃で20時間発酵させた。発酵終了後、5℃で24時間熟成させ、納豆を得た。
【0035】
対照として、通常の納豆製造方法である、水(カルシウム無添加の通常の水)を浸漬水として用いて、前記と同様に製造して納豆を得た(比較例1)。
【0036】
このようにして得られた納豆について、30名の経験豊かなパネルによる官能評価を実施した。官能評価は、硬さの好ましさ、食感(茹で枝豆様食感)、苦味、糸引きの強さ、菌膜(外観)の状態を、それぞれ下記の5段階で評価した。
【0037】
・硬さの好ましさ
1:好ましくない
2:あまり好ましくない
3:どちらとも言えない
4:やや好ましい
5:好ましい
【0038】
・食感(茹で枝豆様食感)
1:思わない
2:あまり思わない
3:どちらとも言えない
4:まあ思う
5:思う
【0039】
・苦味
1:弱い
2:やや弱い
3:どちらとも言えない
4:やや強い
5:強い
【0040】
・糸引きの強さ
1:弱い
2:やや弱い
3:どちらとも言えない
4:やや強い
5:強い
【0041】
・菌膜状態
1:菌膜がごく僅かにしか存在しない
2:菌膜が一部分に認められるが、不十分である
3:菌膜が全面に認められるが、やや不均一である
4:菌膜が全面に均一に広がっている
5:菌膜が全面に厚く、かつ均一に広がっている
【0042】
硬度は、納豆の豆粒を採取して硬度計に供し、納豆の豆粒が潰れるのに要する力(ニュートン(N))を測定し、平均値を求めた。
硬度計は、直径1.5mmのプランジャーを装着したデジタルホースゲージ(型式:FGC−0.2、日本電産シンポ社製)を、電動式縦型簡易試験スタンド(型式:FGS−50V−L、日本電産シンポ社製)に、プランジャー部を下方にしてセットしたものを用いた。
【0043】
測定方法は、測定すべき納豆を15〜25℃に温めた後、豆粒を潰さないように箸で良くほぐし、任意の1粒を上記の電動式縦型簡易試験スタンドの台上に置いた。
その後、該デジタルホースゲージを60mm/分の速度で降下させ、プランジャーで豆粒の中心を突き刺すように押し潰した。プランジャーが豆粒底面から1±0.2mmのところまで降下したところで、デジタルホースゲージの降下を停止し、この時の表示値(単位:ニュートン(N)、ピーク値)を記録した。
以下、同様にして合計14粒について表示値を計測した後、最上位2つ、及び、最下位2つの表示値を除いた10粒分の表示値の平均をとって、納豆の硬度(N)を求めた。N値が大きい程、納豆が硬いことを示す。
【0044】
また、カルシウム量は、原子吸光光度計を用いて定量した。
【0045】
結果を表1に示す。
表1に示すように、浸漬水に添加する乳酸カルシウムの量が上昇すると、同時に納豆の硬度も上昇したが、乳酸カルシウムの添加濃度が5質量%を越えると、硬度はほぼ一定の値となった。
硬さの好ましさや茹で枝豆様食感は、乳酸カルシウムの添加量が0.3質量%から感じられるようになり、5.0質量%まで感じられた。
しかし、乳酸カルシウムの添加量が7.0質量%(カルシウム換算で約0.91質量%)では、納豆菌の発酵が進まず、硬度は低かった(比較例2参照)。
以上から、大豆の浸漬水に乳酸カルシウムを0.3〜5.0質量%添加した場合(カルシウム換算で0.03〜0.65質量%)、硬度0.762〜1.472Nの納豆が製造され、これらの納豆は従来にない硬い食感を有するが、好ましい茹で枝豆様の食感であり、特に0.5〜2.0質量%(カルシウム換算で約0.06〜約0.26質量%)の添加(硬度0.982〜1.342N)は、特に好ましいと評価された。
【0046】
【表1】


注:0;<0.002質量%。
【0047】
〔実施例6〜9及び比較例3〜4;カルシウム含有水中での浸漬時間の影響〕
実施例1において、原料大豆の浸漬水に添加する乳酸カルシウムの量を2.0質量%(カルシウム濃度として0.26質量%)とし、カルシウム含有水に大豆を浸漬する時間を表2に記載の各時間にした以外は、実施例1に記載の方法に従って納豆を製造し、実施例1と同様の方法で、官能評価、硬度測定、およびカルシウム量測定を実施した。
結果を表2に示す。
【0048】
浸漬時間については、大豆が十分吸水し、また、大豆中のカルシウム含有量が増加するために一定の時間が必要となるが、2時間では、吸水が不十分であり、納豆菌の発酵が不良であり、糸引きの強さや菌膜状態は納豆の形状でなかった。
納豆の硬度は、5時間でいったん低下するが、好ましい硬さを有する納豆が製造され、その後、硬度は上昇し、10時間、18時間で最も高くなり、硬度の上昇に伴い、好ましい硬さが強く感じられ、同時に茹で枝豆様の食感が感じるようになった。22時間では、硬度は高く、茹で枝豆様の食感が感じられた。22時間を越え24時間となると、納豆の硬度が低下し、茹で枝豆様の食感も感じられなくなった。
以上から、茹で枝豆様の食感を有する納豆を製造するには、カルシウム含有水への大豆の浸漬時間は、2時間では不足であり、できれば5時間以上が必要であり、好ましくは10〜22時間程度であることが分かった。また、浸漬時間が22時間を越え24時間となると、茹で枝豆様食感が感じられなくなり、浸漬時間は24時間より短くする必要があることが分かった。
【0049】
【表2】


【0050】
〔実施例10〜11及び比較例5〜7;塩化カルシウムの濃度の影響〕
実施例1において、乳酸カルシウムの代わりに、表3に記載の量の塩化カルシウムを添加した浸漬水を用いる以外は、実施例1に記載の方法に従って納豆を製造し、実施例1と同様の方法で官能評価、硬度測定、およびカルシウム量測定を実施した。
比較例として、塩化カルシウムを浸漬水に浸漬前に添加せず、浸漬終了後に添加する試験区を設定した(比較例7)。
結果を表3に示す。
【0051】
塩化カルシウムの添加量が上昇するにつれて、納豆の硬度が上昇した。
硬度の上昇に伴い、好ましい硬さおよび茹で枝豆様の食感が感じされるようになった。
しかし、塩化カルシウムの添加量が3.0質量%(比較例6;浸漬水の塩化カルシウム濃度は、1.08質量%)になると、納豆菌発酵が正常に行われず、糸引きの強さも著しく低下し、菌膜の状態も悪く、納豆の形状にならなかった。弱いながらも硬さや枝豆様用の食感があると評価されたが、納豆発酵が進んでおらず、発酵中に蒸煮大豆の水分が減少し、硬く感じられるようになったことが原因と思われる。
また、水に浸漬後、蒸煮工程直前に塩化カルシウム2.0質量%添加した試験区では、納豆の硬度は上昇せず、また、硬さや茹で枝豆様の食感は感じられなかった。
以上から、塩化カルシウムを0.5〜1.0質量%添加した場合(浸漬水の塩化カルシウム濃度は、それぞれ0.18質量%と0.36質量%)、1.143〜1.382Nの硬度を有する納豆が製造でき、これらの納豆は茹で枝豆様の好ましい硬い食感を有することが分かった。
また、比較例7の結果から、茹で枝豆様の好ましい硬い食感を有する納豆を製造するためには、塩化カルシウムは、蒸煮工程前の浸漬工程で浸漬水に添加することが必要であることが分かった。
【0052】
【表3】


注:0;<0.002質量%。
【0053】
〔実施例12〜13及び比較例8;カルシウムの種類の比較〕
水に乳酸カルシウムを3.0質量%(カルシウム濃度として0.39質量%)添加し、溶解してカルシウム含有水を調製した。調製したカルシウム含有水を重量ベースで原料大豆に対して2.5倍量加え、5℃で18時間、大豆を浸漬した。
浸漬大豆をよく水きりして、その後、蒸煮し、得られた蒸煮大豆に納豆菌を散布し、蒸煮大豆50gを各容器に盛り込み、ポリエチレンの被膜で覆い、フタをして39℃で20時間発酵させた。発酵終了後、5℃で24時間熟成させ、納豆を得た(実施例12)。
また、乳酸カルシウムの代わりに、塩化カルシウムをその濃度が1.0質量%(カルシウム濃度として0.36質量%)となるように水に添加して溶解して調製したカルシウム含有水を用いる以外は、前記と同様な方法で製造して納豆を得た(実施例13)。
対照として、通常の納豆製造方法である、水を浸漬水に使用して、前記と同様に製造して納豆を得た(比較例8)。
上記各納豆について、実施例1と同様の方法で官能評価、硬度測定、およびカルシウム量測定を実施した。
【0054】
官能評価の項目として、硬さについても、以下の5段階で評価した。
・硬さ
1:軟らかい
2:やや軟らかい
3:どちらとも言えない
4:やや硬い
5:硬い
【0055】
また、納豆の保存性として、納豆を10℃で12日間保存後、官能試験によるアンモニア臭の有無の評価と、肉眼観察によるシャリの発生の有無の評価も行った。
結果を表4に示す。
【0056】
無添加区(比較例8)と比較して、乳酸カルシウム又は塩化カルシウムを水に添加溶解して調製した浸漬水に浸漬した大豆を使用した場合、両試験区とも納豆の硬さは上昇し、硬度として1.37N前後であり、硬さは好まれる硬さであり、いずれも茹で枝豆様の食感が感じられた。
また、乳酸カルシウム添加区と塩酸カルシウム添加区における糸引きの強さ、外観(菌膜状態)や保存性(アンモニア臭発生やシャリ発生)は、いずれも無添加区と差がなかった。
塩化カルシウム添加区では、無添加区と比較して苦味がやや感じられた。
以上のように、原料大豆をカルシウム含有水に浸漬することにより、硬度約1.37Nで、かつ茹で枝豆様の食感を有する納豆が製造できた。
また、乳酸カルシウムは、硬さや食感および納豆でのカルシウム含有量以外は、無添加区と差がなく、カルシウムとしてより優れていることが分かった。
【0057】
【表4】


注:0;<0.002質量%。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、従来全く知られていない新たな食感を有する納豆、より詳しくは、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆を製造する方法が提供される。
また、本発明によれば、前記方法によって製造された、従来全く知られていない新たな食感を有する納豆、より詳しくは、従来よりも硬いが、その硬さは茹で枝豆様の好ましい硬さを有する納豆が提供される。
従って、本発明は、これまでにない新たな食感を有する納豆を製造し、提供するものとして有用であり、食品産業に貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料大豆を水に浸漬する浸漬工程と、浸漬大豆を蒸煮する蒸煮工程と、蒸煮大豆に納豆菌を接種して発酵させる発酵工程と、を有する納豆の製造方法において、原料大豆の浸漬工程として、原料大豆を0.02〜0.70質量%のカルシウムを含有する浸漬水の中に、4〜23時間浸漬することを特徴とする、0.75〜1.49N(ニュートン)の硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆の製造方法。
【請求項2】
カルシウムとして、乳酸カルシウム又は/及び塩化カルシウムを用いる、請求項1記載の納豆の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法によって製造され、0.75〜1.49N(ニュートン)の硬度を有し、かつ、茹で枝豆様食感を有する納豆。