説明

草刈作業機

【課題】傾斜地の草刈作業においてエンジンの潤滑油の供給が安定的に行われる草刈作業機において、従来の傾斜に合わせてエンジンを水平に保つようにしたものより簡易で軽量な構造として、故障が発生しにくくメンテナンスが容易であり、傾斜地での草刈作業時に転倒モーメントが大きくならないようにして走行を安定させて作業中の転倒を防ぎ、安全性を向上させる。
【解決手段】草刈り作業機は、車台(1)と、エンジン(2)と、前輪及び後輪(4)と、草刈用のカッター(7,7a)と、水平方向において所要角度で方向を変えることができる操作ハンドル(6)とを備え、エンジン(2)のシリンダーは軸線方向が、操作ハンドル(6)の軸線方向が変わる側において車台(1)の方向に対して鋭角に所要角度で傾斜させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、草刈作業機に関するものである。更に詳しくは、従来のような傾斜地の傾斜に合わせてエンジンを水平に保つようにしたものより簡易で軽量な構造とし、これにより故障が発生しにくくメンテナンスが容易であると共に、傾斜地での草刈作業時に転倒モーメントが大きくならないようにして走行を安定させることにより、作業中の転倒を防ぎ、安全性を向上させた草刈作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
草刈作業機等、エンジンを備えた農業用作業機は、平地だけでなく法面等の傾斜地で作業を行う場合がある。一般的な農業用作業機は、重量物であるエンジンが車台の上に固定されているために、傾斜地で作業機が傾くと、重量バランスが悪くなって走行時のコントロールがしにくくなるので、作業を行うには十分な注意が必要であった。
【0003】
そこで、エンジンのマウント部を可動式とし、傾斜地の傾斜に合わせてエンジンの重心を移動させて重量バランスをとると共に、平地だけでなく法面等の傾斜地においてもエンジンの潤滑油の供給が安定的に行われるようにして、作業が安全にできるようにした草刈作業機等の農業用作業機が提案されている。このような農業用作業機としては、例えば本出願人が提案した特許文献1記載に開示された農業用機械(草刈機)がある。
【0004】
この草刈機は、草刈機本体とハンドルを備え、草刈機本体はカバーを有し、カバー下部にはカッターが設られ、カバー上部には4サイクルエンジン、クラッチボックス及びミッションケース等が設けられ、エンジンは下部に設けられている案内プレートと、クラッチボックスとの間に設けられた回動取付装置によってカバーに対して回動自在に取り付けられてエンジンが常時水平に保たれるようになっており、4サイクルエンジンを搭載した草刈機が傾斜地でも潤滑油の供給が十分な状態で使用できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−6222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1記載の農業用機械は、4サイクルエンジンを搭載した草刈機等の農業用機械を法面等の傾斜地でも潤滑油の供給が十分な状態で使用できるようにするという目的を達成するためには十分に有用である。しかしながら、次のような課題及び改良の余地があることも分かってきた。
【0007】
すなわち、4サイクルエンジンのマウント部を可動式とすると、構造が複雑になるために故障の原因になりやすく、メンテナンスを行うのにも相当な手間がかかっていた。また、構造が複雑で部品点数が増えるので、その分だけ重量が重くなり、特に傾斜角度が大きい傾斜地での作業においては、依然、重量バランスが取りにくいという問題もあった。
【0008】
(本発明の目的)
本発明は、従来のような傾斜地の傾斜に合わせて4サイクルエンジンを水平に保つようにしたものより簡易で軽量な構造とし、これにより故障が発生しにくくメンテナンスが容易であると共に、傾斜地での草刈作業時に転倒モーメントが大きくならないようにして走行を安定させることにより、作業中の草刈作業機の転倒を防ぎ、安全性を向上させた草刈作業機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
(1)本発明は、
車台と、
当該車台に搭載されているエンジンと、
当該エンジンで駆動される草刈用のカッターと、
平面視で進行方向と平行な方向から進行方向と交わる方向に所要角度で軸線方向を変えることができる操作ハンドルと、
を備えており、
前記エンジンのシリンダーは、シリンダーの軸線方向が、前記操作ハンドルの軸線方向が進行方向と交わる方向に変わる側において、前記車台の方向に対して鋭角に所要角度で傾斜させてある、
草刈作業機である。
【0010】
(2)本発明は、
エンジンが4サイクルエンジンであり、該エンジンのシリンダーの下方には潤滑油を溜める油溜室が設けられ、当該油溜室には、潤滑油注入口を兼ねるゲージ管が設けられている、
前記(1)の草刈作業機である。
【0011】
(3)本発明は、
油溜室に潤滑油を注入する潤滑油注入口が、前記油溜室から上方へ所要長さに延長されたゲージ管の先端部に形成されている、
前記(2)の草刈作業機である。
【0012】
(4)本発明は、
エンジンのシリンダーの軸線の角度が車台の方向に対して40°乃至50°の範囲内で設定されている、
前記(1)、(2)又は(3)の草刈作業機である。
【0013】
(5)本発明は、
燃料タンクを有し、当該燃料タンクの燃料注入口が上方へ所要長さに延長された延長管の先端部に形成されている、
前記(1)、(2)、(3)又は(4)の草刈作業機である。
【0014】
(6)本発明は、
草刈作業機の進行方向において、カッターの前方又は後方に刈草の飛散を止めるカバーを備えており、
操作ハンドルの軸線方向が草刈作業機の進行方向と平行であるときに前記カバーを閉じ、前記操作ハンドルを回動させて軸線方向が進行方向と交差したときにカバーを開くカバー開閉手段を備えている、
前記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の草刈作業機である。
【0015】
(作用)
本発明に係る草刈作業機の作用を説明する。なお、ここでは、説明で使用する各構成要件に、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、特許請求の範囲の各請求項に記載した符号と同様に、あくまで内容の理解を容易にするためであって、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。
【0016】
草刈作業機は、草地が例えば河川敷のような平地である場合も、堤防の法面のような傾斜地である場合も草刈作業を行うことができる。
草刈作業機を使用して、水平又はほぼ水平な草地の草刈作業を行う場合は、操作ハンドル(6)の軸線方向を平面視で進行方向と平行にして、草刈作業機を前進させながら行うようにする。
このとき、車台(1)は水平又はほぼ水平であり、エンジン(2)のシリンダーは軸線方向が車台(1)の方向に対して鋭角に所要角度で傾斜しているが、油溜室(21)内の潤滑油は、回転するクランクに取り付けられている爪部材(図示省略)で掻き上げられて微細化することができる。これにより、潤滑油がシリンダー内部やクランク軸等に供給され、エンジン(2)内の各可動部の潤滑と冷却が十分に行われることにより、エンジン(2)は円滑に作動する。
【0017】
また、草刈作業機を使用して、傾斜した草地の草刈作業を行う場合には、操作ハンドル(6)の軸線方向を前記平面視で進行方向と平行な方向から進行方向と交わる方向、例えば直角方向に方向を変えて、その角度で固定する。草刈作業機の進行方向は、通常は草地の傾斜方向と直角方向であり、草地において大体同じ高さの部分を走行することになる。
【0018】
なお、操作ハンドル(6)は、少なくともエンジン(2)のシリンダーが傾斜している側と同じ側へ回動されるようになっている。したがって、操作ハンドル(6)を操作する作業者は、傾斜した草地において草刈作業機の傾斜上方側に立って作業を行う。また、操作ハンドル(6)は、エンジン(2)のシリンダーが傾斜している側と反対側へ回動できるようにしてもよい。
【0019】
このとき、車台(1)は傾斜した草地と平行又はほぼ平行であり、エンジン(2)はシリンダーの軸線方向が、操作ハンドル(6)の軸線方向が変わる側(平面視で操作ハンドル(6)の軸線方向が進行方向と交わる方向)において車台(1)の方向に対して鋭角になるように、例えば40°乃至50°の範囲で傾斜している。
【0020】
すなわち、シリンダーの軸線方向は、水平方向に対しては、軸線の角度が起き上がる方向へ例えば30°動くことで(草地の傾斜角度が30°である場合)、シリンダーの軸線の角度が鉛直線方向(重力方向)に近い角度「70°〜80°」になり、40°動けば(草地の傾斜角度が40°である場合)、鉛直線方向又は鉛直線方向により近い角度「80°〜90°」になる。
【0021】
このように、傾斜地での草刈作業において、傾斜した草刈作業機のエンジン(2)のシリンダーの軸線方向が鉛直線方向により近付くことで、転倒モーメントが大きくならないようにすることができ、作業時における重量バランスが取りやすくなり、草刈作業機の走行が安定して転倒しにくくなるので、安全性が向上する。
【0022】
また、エンジン(2)のシリンダーの軸線方向が鉛直線方向に近くなった状態でも、油溜室(21)の潤滑油の液面は、通常の作業条件(例えば、平地から40°〜50°程度の傾斜地)であれば、回転するクランクが接触できる高さにある。これにより、潤滑油の掻き上げによる微細化と、微細化した潤滑油のエンジン(2)のシリンダー内部やクランク軸等への供給が十分に行われるようになっており、エンジン(2)内の各可動部の潤滑と冷却を支障なく行うことができるので、エンジン(2)は円滑に作動する。
【0023】
さらに、従来のような、傾斜地の傾斜に合わせてエンジンを水平に保つ機構が不要となり、したがって簡易で軽量な構造となっており、故障が発生しにくくメンテナンスが容易である。
【0024】
燃料タンク(24)を有し、燃料タンク(24)の燃料注入口が上方へ所要長さに延長された延長管(25)の先端部に形成されているものは、傾斜地での草刈作業において、燃料注入口に装着されているキャップ(26)が作業中に仮に緩んでも、通常は燃料の液面の高さが延長管(25)の燃料注入口より低いので、燃料の漏出を防止することができる。
また、草刈作業機を傾斜させたままで給油を行う必要が生じた場合、燃料タンク(24)の内部の最も高い部分が延長管(25)先端部の燃料注入口の高さより低ければ、燃料タンク(24)の容量のほぼ一杯まで給油することができる。
【0025】
油溜室(21)に潤滑油を注入する潤滑油注入口が油溜室(21)から斜め上方へ所要長さに延長されたゲージ管(22)の先端部に形成されているものは、草刈作業機を平地に置いた場合において、油溜室(21)内に注入できる潤滑油の量を、ゲージ管が従来のように短い場合に比べて増やすことができる。
【0026】
これにより、油溜室(21)内の潤滑油の液面がより高くなるので、草地の傾斜の変化に伴って液面の傾斜に多少の変化があっても、油溜室(21)内の潤滑油は、回転するクランクによって掻き上げられて微細化し、エンジン(2)のシリンダー内部やクランク軸等への供給が十分に行われるようになっており、エンジン(2)内の各可動部の潤滑と冷却を支障なく行うことができるので、エンジン(2)は円滑に作動する。
【0027】
草刈作業機の進行方向において、カッター(7,7a)の前方又は後方に刈草の飛散を止めるカバーを備えており、操作ハンドルの軸線方向が草刈作業機の進行方向と平行であるときにカバーを閉じ、操作ハンドルを回動させて軸線方向が進行方向と交差したときにカバーを開くカバー開閉手段を備えているものは、操作ハンドル(6)の軸線方向が草刈作業機の進行方向と平行で通常の前進状態のときは、カバー(73)が閉じることで、例えば小石などをカッター(7,7a)が跳ね飛ばしたときにも草刈作業機の後方にいる作業者の安全を図ると共に、傾斜地走行で操作ハンドル(6)を回動させて軸線方向が進行方向と交差する方向になり作業者の位置が変わると、カバー(73)が開いて、刈草を作業者のいない後方へ効率よく排出できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、エンジンのシリンダーの軸線方向が、操作ハンドルの軸線方向が進行方向と交わる方向に変わる側において、車台の方向に対して鋭角に所要角度で傾斜させてある構造を有し、草地が例えば河川敷のような平地である場合も、堤防の法面のような傾斜地である場合も支障なく草刈作業を行うことができる。したがって、従来のような傾斜地の傾斜に合わせてエンジンを水平に保つ機構が不要となり、したがって簡易で軽量な構造となっており、故障が発生しにくくメンテナンスが容易である。
また、本発明の草刈作業機は、傾斜地での草刈作業時にシリンダーの軸線方向が鉛直線方向に近付くことにより、転倒モーメントが大きくならないので、重量バランスが取りやすく、走行を安定させることができる。これにより、作業中の草刈作業機の転倒を防ぐことができるので、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る草刈作業機の一実施の形態を示す後方斜視図。
【図2】草刈作業機の前方斜視図。
【図3】草刈作業機の操作ハンドルを進行方向に対し直交する方向へ回動させた状態を示す後方斜視図。
【図4】傾斜した草地で草刈作業を行っている状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を図面に示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
図1乃至図4を参照する。
草刈作業機Aは、車台1と、車台1の上側に取り付けられているエンジン2と、駆動輪である前輪3及び後輪4と、エンジン2の動力を前輪3及び後輪4に伝える動力伝達系5と、操作ハンドル6を備えている。また、車台1の下側に二基の水平回転式のカッター7、7a(図4参照)が並設されている。
【0031】
エンジン2は4サイクルエンジンであり、シリンダーブロック20を有している。シリンダーブロック20内のシリンダー(図では見えない)の軸線方向が車台1の方向(草刈作業機Aを水平面に置いたときに水平方向となる)に対し40°の角度で傾斜するように取り付けられている(図1、図4を参照)。また、シリンダーの傾斜方向は、平面視においては草刈作業機Aの進行方向(前進方向)に対し右側へ90°(直交する方向)に設定されている。なお、エンジン2は、本実施の形態では単気筒であるが、二気筒以上のエンジンを採用することもできる。また、4サイクルエンジンの他に2サイクルエンジンを採用することもできる。
【0032】
エンジン2のシリンダーの下方には、潤滑油を溜める油溜室21が設けられている。油溜室21の底部において、シリンダーの軸線方向と交わる部分の外側には、車台1が水平方向である場合において斜め上方を向くように、所要長さのゲージ管22が形成されている。ゲージ管22は円管形であり、通常のものよりも長くなるように形成されている。ゲージ管22の先端部には、潤滑油注入口(図では見えない)が設けられている。ゲージ管22には、潤滑油注入口を液密に塞ぐようにして油溜室21内の油量を計るゲージ23が挿着されている。
【0033】
また、草刈作業機Aが、エンジン2のシリンダーが起き上がる方向に所要角度で傾斜したときにも、油溜室21に溜まっている潤滑油の液面は、通常の作業条件(例えば、平地から40°〜50°程度の傾斜地)であれば、回転するクランクが接触できる高さにある。これにより、潤滑油の掻き上げによる微細化と、微細化した潤滑油のエンジン2のシリンダー内部やクランク軸等への供給が十分に行われるようになっており、エンジン2内の各可動部の潤滑と冷却を支障なく行うことができるので、エンジン2は円滑に作動する。
【0034】
車台1の上側には、エンジン2に隣接して燃料タンク24が取り付けられている。燃料タンク24の上部には、車台1が水平方向である場合において鉛直線方向の上方へ向けて所要長さの円管形の延長管25が設けられている。延長管25の先端部には燃料注入口(図では見えない)が設けられており、燃料注入口にはキャップ26が装着されている。
【0035】
前記操作ハンドル6は所要の長さを有し、車台1の後部側、すなわち草刈作業機Aの進行方向(前進方向)とは反対側に取り付けられている。操作ハンドル6には、先部(手元となる側)に各種操作部(符号省略)が設けられている。操作ハンドル6は、基端部が上下方向及び水平方向に所要の角度で回動できるように取り付けられている。操作ハンドル6の軸線方向の水平方向の角度は、草刈作業機Aの進行方向(前進方向)に対し左側90°から右側90°までの範囲で調節できるように構成されている。
【0036】
また、車台1には、前記カッター7、7aの周りの前後及び左右の四箇所にカバーが設けられている。カバーは、車台1の草刈作業機Aの進行方向(前進方向)において左右両側に前記前輪3と後輪4より外側へ張り出すように設けられたサイドカバー70、71と、両前輪3の間に設けられた前部カバー72と、両後輪4の間に設けられた後部カバー73で構成されている。前部カバー72は、変形可能なゴム製である。後部カバー73は、上部側の軸支部(符号省略)を中心として上下方向へ昇降回動自在な金属製の上カバー730と、その下部に取り付けられている変形可能なゴム製の下カバー731で構成されている。
【0037】
後部カバー73は、上下方向へ昇降回動することでカッター7、7aの後方側(進行方向とは反対側)を開閉することができる構造である。また、昇降開閉機構部は、前記操作ハンドル6の水平方向に回動する動きと連動するようになっている。具体的には、操作ハンドル6の基部側下部にワイヤ掛け具60が設けられ、前記後部カバー73の上カバー730の下部の幅方向中央にワイヤ掛け具74が設けられており、ワイヤ掛け具60とワイヤ掛け具74は引っ張りワイヤ61で接続されている。ワイヤ掛け具60、74及び引っ張りワイヤ61はカバー開閉手段を構成する。なお、カバー開閉手段は、本実施の形態に限定するものではなく、前記のように操作ハンドル6と後部カバー73を連動させることができれば、公知の各種手段を採用することができる。
【0038】
ワイヤ掛け具60、74の位置及び引っ張りワイヤ61の長さは、操作ハンドル6の軸線方向が草刈作業機Aの進行方向と平行であるとき(通常の前進状態)には、図1に示すように後部カバー73が下降してカッター7、7aの後方側を閉じ、操作ハンドル6の軸線方向が草刈作業機Aの進行方向と直角であるときは、図3に示すように後部カバー73が上昇してカッター7、7aの後方側を所要の開度で開けるように設定されている。
【0039】
すなわち、操作ハンドル6の軸線方向が草刈作業機Aの進行方向と平行で通常の前進状態のときは、後部カバー73が閉じることで、例えば小石などをカッター7、7aが跳ね飛ばしたときにも草刈作業機Aの後方にいる作業者の安全を図ると共に、傾斜地走行で操作ハンドル6を回動させて軸線方向が進行方向と交差する方向になり作業者の位置が変わると、後部カバー73が開いて、刈草を作業者のいない後方へ効率よく排出できるようにしてある。また、草刈作業機Aの進行方向が後部カバー73が前側になる方向に変わった場合は、後部カバー73が開くと、入ってくる草の抵抗を低減できる利点もある。これにより、傾斜地での草刈作業において、各カバー70、71、72、73の内側で飛散し溜まりやすくなる刈草の抵抗によりカッター7、7aやエンジン2にかかる負荷を軽減できるようにしている。
【0040】
(作用)
図1乃至図4を参照して草刈作業機Aの作用を説明する。
草刈作業機Aを使用して、水平又はほぼ水平な草地の草刈作業を行う場合は、操作ハンドル6の軸線方向を平面視で進行方向と平行にして、草刈作業機Aを前進させながら行うようにする。このとき、車台1は水平又はほぼ水平であり、エンジン2のシリンダーは軸線方向が車台1の方向に対して40°で傾斜しているが、前記したように油溜室21内の潤滑油は、回転するクランクにより掻き上げられて微細化し、シリンダー内部やクランク軸等の可動部に十分に供給されるようになっており、エンジン2は円滑に作動する。
【0041】
また、草刈作業機Aを使用して、例えば40°傾斜した草地の草刈作業を行う場合には、まず操作ハンドル6の軸線方向を前記平地での作業時における平面視で進行方向と平行な方向から、エンジン2のシリンダーが傾斜している側かつ進行方向と直角方向に方向を変えて、その角度で固定する。これによって、作業者が歩行するところが傾斜した草地の草刈作業機Aより高いところに変わり、前記したように後部カバー73が上方へ回動して開き、刈草が後方側へ排出されるようになる。
【0042】
また、草刈作業機Aの進行方向は、通常は草地の傾斜方向と直角方向であり、草地において大体同じ高さの部分を走行する。このとき、車台1の傾き方向は傾斜した草地と平行又はほぼ平行であり、エンジン2はシリンダーの軸線方向が、操作ハンドル6の軸線方向が変わる側(平面視で操作ハンドル6の軸線方向が進行方向と交わる方向)において、車台1の方向に対して40°で傾斜しているので、シリンダーの軸線方向は、水平方向に対しては、軸線の角度が起き上がる方向へ40°動くことになり、鉛直線方向に近い角度である80°になる。
【0043】
このように、傾斜地での草刈作業において、傾斜した草刈作業機Aのエンジン2のシリンダーの軸線方向が鉛直線方向により近付くことで、作業時における重量バランスが取りやすくなり、草刈作業機Aの走行が安定して転倒しにくくなるので、安全性が向上する。また、従来のような傾斜地の傾斜に合わせてエンジンを水平に保つようにしたものより簡易で軽量な構造となっており、故障が発生しにくくメンテナンスが容易である。
【0044】
燃料タンク24の燃料注入口は、燃料タンク24から上方へ延長された延長管25の先端部に形成されているので、傾斜地での草刈作業において、燃料注入口に装着されているキャップ26が作業中に仮に緩んでも、通常は燃料の液面の高さが延長管25の燃料注入口より低いので、燃料の漏出を防止することができる。さらに、草刈作業機Aを傾斜させたままで給油を行う必要が生じた場合、燃料タンク24内部の最も高い部分が延長管25の先端部の燃料注入口の高さより低ければ、燃料タンク24の容量のほぼ一杯まで給油することができる利点もある。
【0045】
さらに、油溜室21に潤滑油を注入する潤滑油注入口が油溜室21から斜め上方へ所要長さに延長されたゲージ管22の先端部に形成されているので、草刈作業機Aを平地に置いた場合において、油溜室21内に注入できる潤滑油の量を、ゲージ管が従来のように短い場合に比べて増やすことができる。
【0046】
これにより、油溜室21内の潤滑油の液面をより高くすることができる。したがって、草地の傾斜の変化に伴って液面の傾斜に変化があっても、通常の作業条件(例えば、平地から40°〜50°程度の傾斜地)であれば、潤滑油の液面は回転するクランクが接触できる高さにある。これにより、潤滑油の掻き上げによる微細化と、微細化した潤滑油のエンジン2のシリンダー内部やクランク軸等への供給が十分に行われ、エンジン2内の各可動部の潤滑と冷却を支障なく行うことができるので、エンジン2は円滑に作動する。
【0047】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
A 草刈作業機
1 車台
2 エンジン
20 シリンダーブロック
21 油溜室
22 ゲージ管
23 ゲージ
24 燃料タンク
25 延長管
26 キャップ
3 前輪
4 後輪
5 動力伝達系
6 操作ハンドル
60 ワイヤ掛け具
61 引っ張りワイヤ
7、7a カッター
70、71 サイドカバー
72 前部カバー
73 後部カバー
730 上カバー
731 下カバー
74 ワイヤ掛け具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車台(1)と、
当該車台(1)に搭載されているエンジン(2)と、
当該エンジン(2)で駆動される草刈用のカッター(7,7a)と、
平面視で進行方向と平行な方向から進行方向と交わる方向に所要角度で軸線方向を変えることができる操作ハンドル(6)と、
を備えており、
前記エンジン(2)のシリンダーは、シリンダーの軸線方向が、前記操作ハンドル(6)の軸線方向が進行方向と交わる方向に変わる側において前記車台(1)の方向に対して鋭角に所要角度で傾斜させてある、
草刈作業機。
【請求項2】
エンジン(2)が4サイクルエンジンであり、該エンジン(2)のシリンダーの下方には潤滑油を溜める油溜室(21)が設けられ、当該油溜室(21)には、潤滑油注入口を兼ねるゲージ管(22)が設けられている、
請求項1記載の草刈作業機。
【請求項3】
油溜室(21)に潤滑油を注入する潤滑油注入口が、前記油溜室(21)から上方へ所要長さに延長されたゲージ管(22)の先端部に形成されている、
請求項2記載の草刈作業機。
【請求項4】
エンジン(2)のシリンダーの軸線の角度が車台の方向に対して40°乃至50°の範囲内で設定されている、
請求項1、2又は3記載の草刈作業機。
【請求項5】
燃料タンク(24)を有し、当該燃料タンク(24)の燃料注入口が上方へ所要長さに延長された延長管(25)の先端部に形成されている、
請求項1、2、3又は4記載の草刈作業機。
【請求項6】
草刈作業機の進行方向において、カッター(7,7a)の前方又は後方に刈草の飛散を止めるカバー(73)を備えており、
操作ハンドル(6)の軸線方向が草刈作業機の進行方向と平行であるときに前記カバー(73)を閉じ、前記操作ハンドル(6)を回動させて軸線方向が進行方向と交差したときにカバー(73)を開くカバー開閉手段(61)を備えている、
請求項1、2、3、4又は5記載の草刈作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−75417(P2012−75417A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225888(P2010−225888)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(393000984)株式会社オーレック (19)
【Fターム(参考)】