説明

荷役機械の移載方法、および荷役機械の移載用スイベルジョイント

【課題】岸壁にある既設の荷役機械を短時間、低コストで接岸中の運搬船に移載することを可能にする。
【解決手段】荷役機械1の脚体20にロックピンで連結されている走行ボギー30をジャッキ40で保持し、ロックピン34を抜いて脚体と走行ボギーを分離し、当該分離した双方の間にスイベルジョイント50を挿入し、走行方向が岸壁100の壁面101法線方向となるように走行ボギーを回転させ、走行ボギーにより荷役機械を前記法線方向に移動させて運搬に移載可能にする。スイベルジョイントは、脚体におけるロックピンの挿通孔23と同軸上に配置される孔61を備えた上部材60と、走行ボギーにおけるロックピンの挿通孔35と同軸上に配置される孔71を備えた下部材70とから構成され、ジャッキは回転中の走行ボギーに干渉しない位置に設置され、脚体と上部材、および走行ボギーと下部材は、それぞれ個別のロックピン(62,72)で連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナクレーンやアンローダなどの荷役機械を海上輸送する際に、その荷役機械を岸壁に接岸されているバージなどの運搬船に移載するための方法に関する。また、当該方法において用いられるスイベルジョイントにも関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、代表的な荷役機械であるコンテナクレーン1の構造図を示した。なお、この図では、紙面法線方向に岸壁100の壁面101が延長しているものとする。コンテナクレーン1は、概略的には、コンテナ15の積み込みや荷揚げのための機能を担う本体構造体10と、この本体構造体10を岸壁100に沿って移動させるための走行装置(走行ボギー)30とから構成されている。本体構造体10は、岸壁100の海102側と陸103側にそれぞれ二本一対で鉛直方向に延長する脚体20(海側脚体20f,陸側脚体20r)、陸側に水平に延長するガーダ11、ガーダ11の海側端部に起伏可能に枢支されたブーム12、ガーダ11およびブーム12に案内されて横行するトロリー13、およびトロリー13に対して昇降してコンテナ15との係合が可能なスプレッダ14などによって構成されている。
【0003】
ここで、岸壁100の壁面101に対する法線方向を前後方向とし、海102側を前、陸103側を後とするとともに、岸壁100の壁面101に沿う方向を左右方向とすると、海102側と陸103側のそれぞれの脚体(20f、20r)の下端に取り付けられている走行ボギー30は、左右方向を走行方向とし、本体構造体10自体が走行ボギー30によって左右方向(図中、紙面奥行き方向)に移動する。そして、トロリー13が前後に移動することから、接岸中のコンテナ積載船舶の甲板平面のどの位置にもスプレッダ14を移動させることができる。
【0004】
ところで、コンテナクレーンやアンローダなどの巨大な荷役機械を新たに岸壁に設置したり、既設の荷役機械を他の場所で転用したりする場合には、荷役機械をバージなどの運搬船に移載して海上輸送することになる。荷役機械を運搬船に移載する方法としては、大型のフローティングクレーンを用いて船舶と岸壁の間で荷役機械を受け渡しする、リフトオンオフ式と呼ばれる移載形態がよく知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、フローティングクレーンを用いる際には、積込港と荷揚港の双方にそのフローティングクレーンが設置されている必要があり、フローティングクレーン自体が設置されていない港では、この移載方法は使えない。また、フローティングクレーンを用いた移載には多大なコストが係る。もちろん、強風時には荷役機械を吊り上げることができない。移載作業が延期になれば、当然のことながら、その遅延分の経済的損失が発生する。さらに、フローティングクレーンを使用する際には、周辺水域の航行規制を行なわなければならない、という問題もある。
【0006】
そこで、比較的、強風に強い移載方法として、通常は岸壁に沿う左右方向にのみ直線移動できる荷役機械を、岸壁の壁面法線方向に走行させて岸壁に接岸された運搬船に直接移載する方法がある。具体的には、走行ボギーが水平面内で回転可能な荷役機械を用い、移載時には、走行ボギーによる走行方向を岸壁法線に向けるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−211880号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】川井 紀久男,「東京港大井コンテナ埠頭の再整備 〜大型コンテナクレーンの改造工事の概要〜」,港湾荷役,社団法人 港湾荷役機械システム協会,平成11年9月,第44巻第5号,p.512−517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術のように、走行ボギーを岸壁の壁面法線方向に走行させて荷役機械を移載する方法は、従来では、走行ボギーの回転機構が荷役機械に設けられていることが前提となっていた。すなわち、当初から走行ボギーの回転機構を備えた専用の荷役機械を用いる必要があった。あるいは既設の荷役機械に対し、当初の走行ボギーの取付け部位を切断した上で回転機構を取り付けるなど、大がかりな改造を施すことが必要であった。
【0010】
専用の荷役機械を使用する場合では、すでに既設の荷役機械があると、その既設の荷役機械を新規な荷役機械に交換することになり、莫大な費用がかかる。もちろん、既設の荷役機械の分解や撤去にも多大なコストと時間が掛かる。既設の荷役機械を改造する場合においても、やはり多くのコストと時間を要する。さらに、改造に際しては広い作業スペースも必要であり、同じ港湾で行われている他の積み込み作業や荷揚げ作業が阻害される可能性もある。また、荷役機械などの構造物の改造には、所有者の承認や、所轄官庁の許可が必要となり、その承認や許可が降りるまでにも長い時間を要し、火急の輸送案件に対応することができない。
【0011】
本発明は、上述した、従来の荷役機械を移載する際の種々の問題に鑑みなされたもので、その主な目的は、岸壁に沿って走行可能な既設の荷役機械に対して実質的な改造を施さず、短時間で、かつ低コストで岸壁の壁面法線方向に移動させ、岸壁に接岸している運搬船に移載する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明は、複数の脚体が、それぞれの下端にて走行ボギーのロッカービームとロックピンによって連結されて、岸壁の壁面延長方向に沿って走行可能な荷役機械を、当該壁面の法線方向に移動させて接岸している運搬船に移載可能とする方法であって、
それぞれの前記脚体に連結されている前記走行ボギーに対してジャッキを設置するジャッキ設置ステップと
前記ロックピンが取り外し可能となるように前記荷役機械を前記ジャッキにより保持する保持ステップと、
前記ロックピンを抜くとともに、前記ジャッキを上昇させて、前記脚体から前記走行ボギーを分離する分離ステップと、
分離している前記脚体と前記ロッカービームとの間に鉛直方向に回転軸を有するスイベルジョイントを挿入して、当該スイベルジョイントを前記脚体と前記ロッカービームの双方に連結する連結ステップと、
前記走行ボギーを前記スイベルジョイントの前記回転軸周りに回転させて、当該走行ボギーの走行方向を前記法線方向に向かせる回転ステップと、
前記ジャッキを下降させる下降ステップと、
前記走行ボギーにより、前記法線方向に前記荷役機械を移動させて、前記運搬船に当該荷役機械を移載可能とる移載ステップと、
を含み、
前記スイベルジョイントは、前記回転軸に軸支されて上下に対向配置されつつ相対的に水平面内で回転可能な上ブロック部材と下ブロック部材とから構成され、
前記上ブロック部材は、前記脚体における前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される上方連結孔を備え、
前記下ブロック部材は、前記ロッカービームにおける前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される下方連結孔を備え、
前記ジャッキ設置ステップでは、前記回転ステップにおいて、前記走行ボギーに干渉しない位置に前記ジャッキを設置し、
前記連結ステップでは、前記脚体と前記上ブロック部材とを第1のロックピンで連結するとともに、前記下ブロック部材と前記ロッカービームとを第2のロックピンで連結する、ことを特徴とする港湾荷役機械の移載方法としている。そして、前記ジャッキ設置ステップでは、各走行ボギーに対して一台のジャッキを、前記スイベルジョイントの前記回転軸に最も近接するように設置することがより望ましい。
【0013】
また、本発明は、上記荷役機械の移載方法において使用される上記スイベルジョイントにも及んでいる。そして、当該スイベルジョイントは複数の脚体が、それぞれの下端にて走行ボギーのロッカービームとロックピンによって連結されて、岸壁の壁面延長方向に沿って走行可能な荷役機械を、当該岸壁の壁面の法線方向に移動させて接岸している運搬船に移載する際に用いるスイベルジョイントであって、
上下に対向配置されているとともに、鉛直方向を軸方向とした回転軸に軸支されて、相対的に水平面内で回転可能な上ブロック部材と下ブロック部材とから構成され、
前記上ブロック部材は、前記脚体における前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される上方連結孔を備え、
前記下ブロック部材は、前記ロッカービームにおける前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される下方連結孔を備え、
前記上ブロック部材と前記脚体とを第1のロックピンで固定するとともに、前記下ブロック部材と前記ロッカービームとを第2のロックピンで固定することで、前記走行ボギーを水平面内で回転可能とする、
ことを特徴とする荷役機械の移載用スイベルジョイントとしている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の荷役機械の移載方法によれば、岸壁に沿って走行可能な既設の荷役機械に対して改造を施さず、荷役機械を短時間で、かつ低いコストで岸壁の壁面法線方向に移動させて接岸している運搬船に移載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】荷役機械の概略構造を示す図である。
【図2】本発明の対象となる荷役機械の走行ボギーの構成を示す図である。
【図3】従来の荷役機械の移載方法の概略を示す図である。
【図4】本発明の実施例における荷役機械の移載方法の概略を示す図である。
【図5】上記移載方法において使用されるスイベルジョイントの動作を示す図である。
【図6】上記荷役機械において、走行ボギーの走行方向が変更された状態を示す図である。
【図7】上記実施例におけるジャッキの配置と、走行ボギーを分離して再連結するまでの作業に伴う走行ボギーの平面内での移動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
===走行ボギーの取付け構造===
本発明に係る荷役機械の移載方法では、専用の荷役機械を用いず、また、既設の荷役機械を改造することなく、走行ボギーによる荷役機械の走行方向を岸壁の壁面法線方向に転向可能とすることができる。本発明の対象は、図1に示した走行ボギーを備えた荷役機械1であるが、脚体20と走行ボギー30とが所定の構造で連結されていることを前提としている。
【0017】
図2(A)は、本発明の対象となる荷役機械1の下部を拡大した図であり、例えば、図1に示した荷役機械1を陸103側あるいは海102側から見ている図に相当する。すなわち、この図2(A)では、2本一対の海102側あるいは陸103側の脚体20が図示されている。そして、ここに示した荷役機械1では、左右に2本一対で配置されている脚体20が、左右方向に延長するシルビーム22によって連結されており、走行ボギー30が各脚体20の下端21に取付けられている。
【0018】
図2(B)は、(A)の一部拡大図であり、本発明の前提となる脚体20と走行ボギー30との連結構造を示している。車輪32を備えた台車33が、上方からの荷重を均等に分散させるロッカービーム31に取り付けられており、ロッカービーム31には、走行方向に直交する方向に貫通するロックピン34の挿通孔35が設けられている。また、本体構造体10の各脚体20は、下端21にてこのロッカービーム31を前後から挟持するとともに、当該下端21にも上記ロックピン34の挿通孔23が設けられている。そして、この脚体20の下端21に形成されている挿通孔23と、ロッカービーム31における挿通孔35とが同軸に配置されつつロックピン34が挿通されて、各脚体20に走行ボギー30が連結されている。なお、例示した荷役機械1は、脚体20とロッカービーム31とが1本のロックピン34で連結されていたが、複数本であってもよい。いずれにしても、本発明は、脚体20とロッカービーム31とがロックピン34で連結されている構造を備えた荷役機械1を対象としている。
【0019】
===荷役機械の移載手順===
従来、荷役機械1の走行ボギー30の走行方向を変更する場合、その走行ボギー30と本体構造体10との連結構造に応じた改造を施していた。例えば、走行ボギー30が脚体20に対してフランジ構造で締結されている場合には、上下のフランジ部材を分離するとともに、上下のフランジ部材の間にスイベルジョイントを挟み込んでいた。走行ボギー30が脚体20に一体的に溶接されている場合には、走行ボギー30を脚体20から切り離して、スイベルジョイント取り付けるためのフランジ部材を新設していた。
【0020】
また、脚体20と走行ボギー30との連結構造が図2に示した構造の荷役機械1では、図3(A)〜(F)に示した手順に従った移載方法も採用されている。なお、図3では、図2と同様に、荷役機械1の下部を海102側、あるいは陸103側から見たときを拡大して示している。まず、各走行ボギー30のそれぞれについて、ジャッキ40を所用の台数だけ設置するとともに、脚体20の下端21とロッカービーム31とを連結しているロックピン34が取り外せる程度まで、ジャッキ40を上昇させる。すなわち、ロッカービーム31に加わっている本体構造体10の荷重をジャッキ40で保持し、ロックピン34に掛かっている荷重を開放させる(A)。
【0021】
ロックピン34を取り外した後、さらにジャッキ40を上昇させて脚体20とロッカービーム31とを完全に分離するとともに、走行ボギー30を次の作業の邪魔にならない位置まで移動させておく(B)。そして、その分離した脚体20の下端21を切断し(C)、その切断面25に鉛直方向に回転軸を有するスイベルジョイント150を溶接する(D)。なお、スイベルジョイント150は、上方と下方の部材(160,170)が相対回転し、その上方の部材160には、脚体20の切断面25との溶接面が形成され、下方の部材170には、ロッカービーム31におけるロックピン34の挿通孔35と同軸に配置される孔171が形成されている。そして、移動させておいた走行ボギー30を脚体20の下方に戻し、スイベルジョイント150における上記の孔171と、ロッカービーム31における上記挿通孔35とが同軸に配置された状態で、先に取り外したロックピン34、あるいは別のロックピンをそれらの孔(170,35)に挿入する(E)。それによって、脚体20と走行ボギー30とが、スイベルジョイント150を介して回転可能に再連結される。すなわち、荷役機械1は、通常の走行方向である左右方向に直交する前後方向に移動可能となる(F)。
【0022】
以上のように、従来の荷役機械1の移載方法では、上下のフランジ部材を締結していた多数のボルトを全て取り外して再び締結する煩雑な作業や、脚体20を切断する大がかりな作業が必要となっていた。また、図3に示した従来の移載方法では、脚体20を切断したり、スイベルジョイント150を溶接したりする際に、走行ボギー30を脚体20から離れた位置に移動させる作業が必要であり、その移動作業に要するスペースを必要とし、港湾内における他の作業を邪魔する可能性もあった。そして、従来の移載方法では、既存の本体構造体10に改造を施すことになり、事前の承認や許可が必要となる。
【0023】
一方、本発明の実施例に係る荷役機械1の移載方法では、脚体20の下端21と走行ボギー30のロッカービーム31とがロックピン34で連結されている荷役機械1を対象として、この荷役機械1に特化した特殊なスイベルジョイントを用いることで、本体構造体10に改造を施すことなく、短時間で、かつ低コストで荷役機械1を移載することができる。図4に本発明の実施例における移載方法における作業手順を示した。図4(A)〜(C)は、当該手順の概略であり、図2と同様に、荷役機械1の下部を海102側、あるいは陸103側から見たときの図を示している。(A)は、作業開始に相当する状態であり、一対の脚体20を2本とも示している。(B)(C)は、一本の脚体20についての拡大図である。また、(D)は、(C)における円110内の拡大図であり、(E)は、(D)におけるa−a矢視断面図である。
【0024】
本実施例に係る荷役機械1の移載方法では、まず、各走行ボギー30のそれぞれについてジャッキ40を設置する(A)。なお、この例では、ジャッキ40の設置に際し、シルビーム22において、左右1対の脚体の外側に張り出した部分にヘッド41を当接させている。つぎに、ジャッキ40を上昇させ、ロッカービーム31に加わっている本体構造体10の荷重をジャッキ40で保持し、ロックピン34への荷重を開放させる。ロックピン34を取り外した後、さらにジャッキ40を上昇させて脚体20とロッカービーム31とを完全に分離する(B)。そして、その分離した脚体20の下端21とロッカービーム31との間に鉛直方向に回転軸51を有するスイベルジョイント50を挿入し、脚体20の下端21とロッカービーム31とが鉛直方向を軸として相対的に回転可能となるように、当該スイベルジョイント50を脚体20とロッカービーム31の双方に固定する(C)。
【0025】
上述したように、脚体20とロッカービーム31は、それぞれ、双方(20,31)を連結していたロックピン34の挿通孔(23,35)を備え、双方(20,31)が連結状態にあるときは、各挿通孔(23,35)は同軸上に配置されていた。しかし、分離後は、図4(B)に示したように、各挿通孔(23,35)が上下に離間した状態となる。そして、本実施例の移載方法において使用されるスイベルジョイント50は、本発明が対象とする荷役機械1、すなわち、脚体20の下端21と走行ボギー30のロッカービーム31とがロックピン34で連結されている荷役機械1の移載方法に特化した特殊な構造を備えている。
【0026】
本実施例において、スイベルジョイント50は、図4(D)(E)に示したように、共通の回転軸51に軸支されて相対回転する上下のブロック部材(60,70)から構成され、上ブロック部材60および下ブロック部材70には、脚体20とロッカービーム31とを連結するためのロックピン34が挿通されていた挿通孔(23,35)のそれぞれと同軸上に配置される孔(以下、上連結孔61,下連結孔71)が形成されている。そして、スイベルジョイント50を脚体20とロッカービーム31の双方に固定する際には、上下のブロック部材(60,70)における上下の連結孔(61,71)に個別のロックピン(62,72)を挿通する。すなわち、上ブロック部材60と脚体20の下端が第1のロックピン62によって連結され、下ブロック部材70とロッカービーム31も別の第2のロックピン72によって連結される。それによって、脚体20とロッカービーム31とが相対回転可能となり、結果として、走行ボギー30の走行方向が水平面内で回転可能となる。また、脚体20と上ブロック部材60を連結するロックピン62を軸として、スイベルジョイント50自体が鉛直面内で回転してしまわないように、脚体20、ロックピン62、および上ブロック部材60を相互に固定するための固定装置24が設けられている。この例では、上ブロック部材60と脚体20との間隙に固定装置24が設けられている。もちろん、図示した例に限らず、ロックピン62が、脚体20における挿通孔23、および上ブロック部材60連結孔62の双方に対して相対回転しないような装置や機構が設けられていればよい。
【0027】
なお、上ブロック部材60と脚体20とを連結するための第1のロックピン62と、下ブロック部材70とロッカービーム31とを連結するための第2のロックピン72のいずれか一本は、当初、脚体20の下端21とロッカービーム31とを連結していたロックピン34とすることもできる、もちろん、第1および第2のロックピン(62,72)は、双方とも、当初のロックピン34とは別のものであってもよい。
【0028】
図5(A)〜(C)は、スイベルジョイント50の回転状態を示す斜視図である。なお、図5(A)のみ、スイベルジョイント50を一部破断斜視図にして示した。当該図5(A)に示したように、実際のスイベルジョイント50には、上ブロック部材60においてロックピン62が貫通する壁部65同士を連結するプレート状の補強材66が設けられている。これは、上下のブロック部材(60,70)にロックピン(62,72)が挿通された状態で荷重をかけると、下ブロック部材70に挿通されたロックピン72が自身が挿通される壁部75を上方へ付勢し、結果的に、上下のブロック部材(60,70)において互いに対向する底板(64,74)が上方に歪む可能性があるからであり、補強材66は、上ブロック部材60の底板64が変形するのを防止している。なお、図5(B)(C)では、スイベルジョイント50の回転状態が分かりやすいように、この補強材66を省略している。
【0029】
まず、走行ボギー30が初期状態、すなわち、走行方向が左右方向であるとき、上下のブロック部材(60,70)における上下の連結孔(61,71)は、その軸方向(63,73)が平行である(A)。そして、上下のブロック部材(60,70)を相対回転させていき(B)、最終的に、上下のブロック部材(60,70)のそれぞれにおける上下の連結孔(61,71)の軸方向(63,73)が互いに90゜になるまで回転させる(C)。それによって、走行ボギー30の走行方向が前後方向に向く。すなわち、岸壁100の壁面101の法線方向に向く。
【0030】
走行ボギー30の走行方向が、当該法線方向に向いたならば、ジャッキ40を下降させ、走行ボギー30を接地させる。そして、図6に示したように、本体構造体10自体を走行ボギー30により移動させて、接岸している運搬船80に移載する。なお、実際の移載に際しては、岸壁100と運搬船80との間に走行ボギー30用の走行レールを仮設し、走行ボギー30をそのレールに案内させて移載すればよい。
【0031】
===ジャッキの設置台数と設置位置について===
図3などに示した従来の移載方法では、脚体20に対して大がかりな改造を施す必要があることから、脚体20から取り外した走行ボギー30を、脚体20の近傍から一時的に移動させていた。そのため、広い作業スペースを必要としていた。一方、図4に示した本実施例の移載方法では、走行ボギー30を水平面内で平行移動させることなく、ジャッキアップした位置で走行ボギー30の取り外し、スイベルジョイント50の取付け、およびスイベルジョイント50を介した脚体20と走行ボギー30との連結の全ての作業を行えるようになっている。しかしながら、ジャッキ40の位置を考慮しないと、スイベルジョイント50によって回転する走行ボギー30がジャッキ40に干渉する可能性がある。
【0032】
図7に、本実施例の移載方法における、ジャッキ40(40,40b)の設置位置と走行ボギー30の水平面内での回転動作との関係を例示した。この図に示したように、ここでは、1台の走行ボギー30に対して2台のジャッキ(40a,40b)を設置する例を示した。
【0033】
本実施例において、2台のジャッキ(40,40b)は、走行ボギー30の回転軸oを原点とするとともに、その原点oを通る、前後、および左右方向を平面内の直交する二つの軸(x−x,y−y)と見なした場合、原点oに対して点対象となる象限で、かつ、走行ボギー30の回転作業を阻害しない位置に設置される(s1)。そして、先に図4(A)〜(C)に示したように、本体構造体10のジャッキアップからスイベルジョイント50の連結までの手順を行い。次いで、このジャッキアップした初期位置Pで走行ボギー30を平行移動させずに回転させる(s2)。この例では、時計回りに走行ボギー30を回転させれば、その回転中に走行ボギー30がジャッキ40に干渉しない。走行ボギーの30を90゜回転させてその走行方向が前後方向に向いたら(s3)、ジャッキ(40a,40b)を下降させて、運搬船80ヘの移載作業に移行する。
【0034】
このように、本実施例の移載方法では、走行ボギー30を水平面内で平行移動させることなく、ジャッキアップした初期位置Pで回転させることが可能となり、作業時間とコストを大幅に節約することができるとともに、港湾内の他の作業に支障を来たす、という問題も解決することもできる。なお、ジャッキ(40a,40b)の設置位置については、本体構造体10の重量を支える柱状の脚体20の軸に可能な限り近接する位置とすることが望ましい。それによって、ジャッキアップに際して、ジャッキ(40a,40b)のヘッド41が当接する位置と脚体20との距離を短くすることができ、脚体20を作用点とした慣性モーメントを可能な限り減少させることができる。例えば、シルビーム22にジャッキ(40a,40b)のヘッド41を当接させた場合では、本体構造体10の重量によるシルビーム22の歪みを最小限に抑えることができ、作業の安全性を向上させることができる。
【0035】
なお、2台のジャッキ(40a,40b)を用いず、1台のジャッキ40でも、脚体20の近くに設置することで本体構造体10を保持できる場合もある。この場合では、2台のジャッキ(40a,40b)の上昇下降動作を同期させる必要が無く、作業効率が増加し、移載作業に掛かるコストを低下させることが期待できる。もちろん、本体構造体10の重量などに応じて、ジャッキ40の数は適宜に増減できる。いずれにしても、回転中の走行ボギー30に干渉しない位置に設置されていればよい。
【符号の説明】
【0036】
1 荷役機械、10 本体構造体、20,20f,20r 脚体、21 脚体の下端、
22 シルビーム、23 脚体の連結孔、30 走行ボギー、31 ロッカービーム、
33 台車、34 当初のロックピン、35 ロッカービームの連結孔、
40,40a,40b ジャッキ、41 ジャッキのヘッド、
50 スイベルジョイント、51 スイベルジョイントの回転軸、
60 上ブロック部材、61 上連結孔、62 第1のロックピン、
70 下ブロック部材、71 下連結孔、72 第2のロックピン、80 運搬船、
100 岸壁、101 岸壁の壁面、102 海、103 陸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の脚体が、それぞれの下端にて走行ボギーのロッカービームとロックピンによって連結されて、岸壁の壁面延長方向に沿って走行可能な荷役機械を、当該壁面の法線方向に移動させて接岸している運搬船に移載可能とする方法であって、
それぞれの前記脚体に連結されている前記走行ボギーに対してジャッキを設置するジャッキ設置ステップと
前記ロックピンが取り外し可能となるように前記荷役機械を前記ジャッキにより保持する保持ステップと、
前記ロックピンを抜くとともに、前記ジャッキを上昇させて、前記脚体から前記走行ボギーを分離する分離ステップと、
分離している前記脚体と前記ロッカービームとの間に鉛直方向に回転軸を有するスイベルジョイントを挿入して、当該スイベルジョイントを前記脚体と前記ロッカービームの双方に連結する連結ステップと、
前記走行ボギーを前記スイベルジョイントの前記回転軸周りに回転させて、当該走行ボギーの走行方向を前記法線方向に向かせる回転ステップと、
前記ジャッキを下降させる下降ステップと、
前記走行ボギーにより、前記法線方向に前記荷役機械を移動させて、前記運搬船に当該荷役機械を移載可能とする移載ステップと、
を含み、
前記スイベルジョイントは、前記回転軸に軸支されて上下に対向配置されつつ相対的に水平面内で回転可能な上ブロック部材と下ブロック部材とから構成され、
前記上ブロック部材は、前記脚体における前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される上方連結孔を備え、
前記下ブロック部材は、前記ロッカービームにおける前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される下方連結孔を備え、
前記ジャッキ設置ステップでは、前記回転ステップにおいて、前記走行ボギーに干渉しない位置に前記ジャッキを設置し、
前記連結ステップでは、前記脚体と前記上ブロック部材とを第1のロックピンで連結するとともに、前記下ブロック部材と前記ロッカービームとを第2のロックピンで連結する、
ことを特徴とする港湾荷役機械の移載方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ジャッキ設置ステップでは、各走行ボギーに対して一台のジャッキを、前記脚体に最も近接するように設置することを特徴とする荷役機械の移載方法。
【請求項3】
複数の脚体が、それぞれの下端にて走行ボギーのロッカービームとロックピンによって連結されて、岸壁の壁面延長方向に沿って走行可能な荷役機械を、当該岸壁の壁面の法線方向に移動させて接岸している運搬船に移載する際に用いるスイベルジョイントであって、
上下に対向配置されているとともに、鉛直方向を軸方向とした回転軸に軸支されて、相対的に水平面内で回転可能な上ブロック部材と下ブロック部材とから構成され、
前記上ブロック部材は、前記脚体における前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される上方連結孔を備え、
前記下ブロック部材は、前記ロッカービームにおける前記ロックピンの挿通孔と同軸上に配置される下方連結孔を備え、
前記上ブロック部材と前記脚体とを第1のロックピンで固定するとともに、前記下ブロック部材と前記ロッカービームとを第2のロックピンで固定することで、前記走行ボギーを水平面内で回転可能とする、
ことを特徴とする荷役機械の移載用スイベルジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−62168(P2012−62168A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208164(P2010−208164)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000227755)日本アイキャン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】