説明

荷重補償機構

【課題】初期弾性力の導入の労力を低減することができる荷重補償機構を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る荷重補償機構は、回転体1に荷重が作用する第1の作用点Pと、回転体1に第1の弾性体2の弾性力が作用する第2の作用点Aと、回転体1に第2の弾性体5の弾性力が作用する第3の作用点Bと、を備え、第1の作用点Pに作用する荷重に基づく回転体1の回転軸回りのトルクと、第2の作用点Bに作用する弾性力に基づく回転体1の回転軸回りのトルク及び第3の作用点Cに作用する弾性力に基づく回転体1の回転軸回りのトルクの合力トルクと、が逆向きの回転方向に作用して相殺する荷重補償機構であって、第2の弾性体5に初期弾性力を導入する初期弾性力導入機構7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重補償機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、非特許文献1において荷重補償機構を発表している。当該荷重補償機構の基本原理は、実施の形態において詳細に説明するが、回転体に荷重が作用する第1の作用点と、回転体に第1の弾性体の弾性力が作用する第2の作用点と、回転体に第2の弾性体の弾性力が作用する第3の作用点と、を備え、第1の作用点に作用する荷重に基づく回転体の回転軸回りのトルクと、第2の作用点に作用する弾性力に基づく回転体の回転軸回りのトルク及び第3の作用点に作用する弾性力に基づく回転体の回転軸回りのトルクの合力と、が逆向きの回転方向に作用して相殺する構成である。
ここで、当該荷重補償機構は、第2の弾性体に初期弾性力を導入することで、当該荷重の変化に対して対応することができる構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2010 講演論文集、2P1−D11、2010年6月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の構成の荷重補償機構は、荷重の変化に対して第2の弾性体に初期弾性力を導入する必要があるが、当該荷重が大きくなるにつれ、初期弾性力の導入に多大な力が必要になる。
本発明の目的は、初期弾性力の導入の労力を低減することができる荷重補償機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態に係る荷重補償機構は、 回転体に荷重が作用する第1の作用点と、前記回転体に第1の弾性体の弾性力が作用する第2の作用点と、前記回転体に第2の弾性体の弾性力が作用する第3の作用点と、を備え、前記第1の作用点に作用する前記荷重に基づく前記回転体の回転軸回りのトルクと、前記第2の作用点に作用する弾性力に基づく前記回転体の回転軸回りのトルク及び前記第3の作用点に作用する弾性力に基づく前記回転体の回転軸回りのトルクの合力トルクと、が逆向きの回転方向に作用して相殺する荷重補償機構であって、前記第2の弾性体に初期弾性力を導入する初期弾性力導入機構を備える。
【0006】
上記荷重補償機構において、前記初期弾性力導入機構は、第3の弾性体と、前記第2の弾性体における前記第3の作用点と逆側の作用点である第4の作用点と、前記第3の弾性体の弾性力が作用する第5の作用点と、前記第4の作用点と前記第5の作用点とを連結するリンク機構と、前記第2の弾性体の伸縮方向以外の動きを拘束する拘束機構と、を備え、前記第2の弾性体に初期弾性力を導入するとき、前記第2の弾性体に生じる復元力と、前記第3の弾性体の弾性力に基づき前記第2の弾性体に作用する力と、が相殺すること、が好ましい。
【0007】
上記荷重補償機構において、前記第2の弾性体の弾性係数と前記第3の弾性体の弾性係数とは等しいこと、が好ましい。
上記荷重補償機構において、前記第2の弾性体と前記第3の弾性体とは平行に配置されていること、が好ましい。
上記荷重補償機構において、前記第2の弾性体と前記第3の弾性体とは直交するように配置されていること、が好ましい。
【0008】
上記荷重補償機構において、前記初期弾性力導入機構は、前記第2の弾性体における前記第3の作用点と逆側の作用点である第4の作用点と、前記第4の作用点に駆動力を伝達するカム機構と、前記第2の弾性体の伸縮方向以外の動きを拘束する拘束機構と、を備え、前記カム機構のカム本体が回転したとき、前記第2の弾性体の復元力により前記カム本体に生じるトルクが一定となるように前記カム本体のカム形状が設定されていること、が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
以上、説明したように、本発明によると、初期弾性力の導入の労力を低減することができる荷重補償機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施の形態1の荷重補償機構を模式的に示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態1の荷重補償機構における、第2及び3の作用点の変位を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態1の荷重補償機構における、初期弾性力導入機構の単純モデルを示す図である。
【図4】図3の単純モデルに連結される第3の弾性体の一形態を示す図である。
【図5】図3の単純モデルに連結される第3の弾性体の異なる一形態を示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態1の荷重補償機構における、初期弾性力導入機構の異なる単純モデルを示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態1の荷重補償機構における、初期弾性力導入機構の異なる単純モデルを示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態1の荷重補償機構における、初期弾性力導入機構の異なる単純モデルを示す図である。
【図9】本発明に係る実施の形態1の荷重補償機構における、初期弾性力導入機構の異なる単純モデルを示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態2の荷重補償機構を模式的に示す図である。
【図11】第2の弾性体及びカム本体の各パラメータを説明するための図である。
【図12】カム本体の各パラメータを説明するための図である。
【図13】カム本体のカム形状の一例を示す図である。
【図14】第2の弾性体の下端部の変位とカム本体に発現させるトルクとの関係を示す図である。
【図15】本発明に係る実施の形態2の荷重補償機構における、異なるカム本体を模式的に示す図である。
【図16】本発明に係る他の形態の荷重補償機構における、第2並びに3の作用点の配置、及び第1並びに2の弾性体の配置を示す図である。
【図17】本発明に係る他の形態の荷重補償機構における、第2並びに3の作用点の配置、及び第1並びに2の弾性体の配置を示す図である。
【図18】本発明に係る他の形態の荷重補償機構における、第2並びに3の作用点の配置、及び第1並びに2の弾性体の配置を示す図である。
【図19】本発明に係る他の形態の荷重補償機構における、第2並びに3の作用点の配置、及び第1並びに2の弾性体の配置を示す図である。
【図20】本発明に係る荷重補償機構を適用した昇降装置を概略的に示す正面透視図である。
【図21】本発明に係る荷重補償機構を適用した昇降装置における、第1のリンク周辺を概略的に示す正面透視図である。
【図22】本発明に係る荷重補償機構を適用した昇降装置における、第2及び3のリンク周辺を概略的に示す正面透視図である。
【図23】本発明に係る荷重補償機構を適用した昇降装置における、初期弾性力導入機構を概略的に示す平面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。ちなみに、以下の説明において、荷重mgが作用する方向と平行な方向をY軸方向とし、Y軸方向と直交方向をX軸方向とする。
【0012】
<基本原理>
先ず荷重補償機構の基本原理を説明する。本原理では、図1に示すように、回転体であるリンク1がY軸方向に配置されている。リンク1は、回転軸O1を中心として回転する。リンク1の一方の端部には、荷重mg(以下、単にmgと示す)が作用する第1の作用点Pが設けられている。
【0013】
リンク1の他方の端部には、第1の弾性体2の弾性力が作用する第2の作用点Aが設けられている。第1の弾性体2は、X軸方向に配置されている。第1の弾性体2としては、例えばコイルバネを用いることができるが、弾性係数を有するゴム等の部材でも良い。第1の弾性体2の一方の端部は、基台3に連結されている。第1の弾性体2の他方の端部は、第2の作用点Aに接触している。第1の弾性体2は、リンク1が回転していない状態、即ち図1ではY軸方向に配置されている状態で、弾性力がゼロ(自然長)となるように配置されている。ちなみに、図1では、リンク1の配置を明瞭に示すために、第1の弾性体2の配置位置が正確に示されていない。
【0014】
ここで、リンク1が回転軸O1を中心に回転した際に、第1の弾性体2がY軸方向に捻じれないように、リンク1のY軸方向への変位を許容する許容部4を備えていることが好ましい。許容部4は、第2の作用点AからZ軸方向に突出する突出部4aと、第1の弾性体2の他方の端部に設けられた摺動板4bと、を備えている。これにより、図1に示すように、リンク1の第1の作用点Pにmgが作用して、リンク1が矢印N方向に回転すると、突出部4aは摺動板4b上を摺動しつつ、当該摺動板4bを押し込む。そのため、第1の弾性体2がリンク1の回転に追従して捻じれることがない。ちなみに、突出部4aはローラを備えていることが好ましい。これにより、突出部4aをスムーズに摺動板4b上で移動させることができる。
【0015】
リンク1における、回転軸O1と第2の作用点A、即ち本原理では第1の作用点Pと第2の作用点Aとを結ぶ直線L1上には、第2の弾性体5の弾性力が作用する第3の作用点Bが設けられている。第3の作用点Bは、回転軸O1と第2の作用点Aとの間の位置に配置されている。第2の弾性体5は、Y軸方向に配置されている。第2の弾性体5としては、例えばコイルバネを用いることができるが、弾性係数を有するゴム等の部材でも良い。第2の弾性体5の一方の端部は、後述する拘束機構10に連結されている。第2の弾性体5の他方の端部は、第3の作用点Bに接触している。第2の弾性体5は、リンク1が回転していない状態で、弾性力がゼロ(自然長)となるように配置されている。ちなみに、図1では、リンク1の配置を明瞭に示すために、第2の弾性体5の配置位置が正確に示されていない。
【0016】
ここで、リンク1が回転軸O1を中心に回転した際に、第2の弾性体5がX軸方向に捻じれないように、リンク1のX軸方向への変位を許容する許容部6を備えることが好ましい。許容部6は、第3の作用点BからZ軸方向に突出する突出部6aと、第2の弾性体5の他方の端部に設けられた摺動板6bと、を備えている。これにより、図1に示すように、リンク1の第1の作用点Pにmgが作用して、リンク1が矢印N方向に回転すると、突出部6aは摺動板6b上を摺動しつつ、当該摺動板6bを押し込む。そのため、第2の弾性体5がリンク1の回転に追従して捻じれることがない。ちなみに、突出部6aはローラを備えていることが好ましい。これにより、突出部6aをスムーズに摺動板6b上で移動させることができる。
【0017】
第1の作用点Pに作用するmgに基づく回転軸O1回りの回転トルクτと、第2の作用点Aに作用する第1の弾性体2の弾性力に基づく回転軸O1回りの回転トルクτ及び第3の作用点Bに作用する第2の弾性体5の弾性力に基づく回転軸O1回りの回転トルクτの合計トルクと、は互いに回転軸O1を中心に逆向きの回転方向に作用する。そのため、回転トルクτと、回転トルクτとτとを加算した値と、が等しいと、mgを補償する機構となる。
【0018】
具体的に云うと、図2に示すように、第1の作用点Pにmgが作用して、リンク1が回転軸O1を中心として矢印N方向に回転角θ、回転したとすると、第1の作用点Pに作用するmgに基づく回転軸O1回りの回転トルクτは、[式1]で表される。
[式1] τ=mglsinθ
但し、第1の作用点Pから回転軸O1までの距離をlとする。
【0019】
この時の第1の弾性体2のX軸方向の変位xは、[式2]で表される。
[式2] x=lsinθ
但し、第2の作用点Aから回転軸O1までの距離をlとする。
また、第2の弾性体5のY軸方向の変位yは、[式3]で表される。
[式3] y=l(1−cosθ)
但し、第3の作用点Bから回転軸O1までの距離をlとする。
【0020】
そのため、第2の作用点AにおいてX軸方向に作用する力fは、[式4]で表される。
[式4] f=kx=ksinθ
但し、第1の弾性体2の弾性係数をkとする。
また、第3の作用点BにおいてY軸方向に作用する力fは、[式5]で表される。
[式5] f=ky=k(1−cosθ)
但し、第2の弾性体5の弾性係数をkとする。
【0021】
よって、第2の作用点Aに作用する第1の弾性体2の弾性力に基づく回転軸O1回りの回転トルクτは、[式6]で表される。
[式6] τ=ksinθcosθ
また、第3の作用点Bに作用する第2の弾性体5の弾性力に基づく回転軸O1回りの回転トルクτは、[式7]で表される。
[式7] τ=k(1−cosθ)sinθ
【0022】
したがって、回転トルクτとτとの合計トルク(合力トルク)τは、[式8]で表される。
[式8] τ=ksinθcosθ+k(1−cosθ)sinθ
ここで、k=kとすると、[式8]は[式9]で表される。
[式9] τ=ksinθ
そのため、上方に作用する力ωは、[式10]で表される。
[式10] ω=τ/(lsinθ)=k/l
これにより、上述の原理は上方に作用する力を一定にすることができる。
【0023】
さらに、k=k=Cとすると、[式8]は[式11]で表される。
[式11] τ=Csinθ
そのため、[式1]より、C=mglを満たせば、mgを補償することができる機構が実現できる。
【0024】
上述の荷重補償機構の設計方法では、mgまでしか荷重を補償することができないので、第2の弾性体5に初期弾性力を導入しておくことが好ましい。
すなわち、第2の弾性体5に初期弾性力を導入するべく、初期設置点(平衝点)をl'だけ下方に移動させる。
【0025】
これにより、[式3]は[式12]に変化する。
[式12] y=l(1−cosθ)+l'
ここで、l'を、lを用いてl'=l(α−1)と表すと、[式9]は[式13]で表される。
[式13] τ=Cαsinθ
【0026】
この場合、α=1は初期変位l=0のことであり、mgを補償することになる。そして、α=2とすると、l'=lとなり、補償できる荷重は2倍になる。このように、第2の弾性体5に初期弾性力を導入するだけで、対応荷重を調整することができる。ちなみに、第2の弾性体5を予め伸張させて設置すると、対応荷重を減らすことができる。なお、第2の弾性体5のみに初期弾性力を導入するのは、上述のようにcosθを消すことができるようにするためである。そのため、y軸方向への回転トルクを生じさせる弾性体に初期弾性力が導入される。
【0027】
このとき、補償するmgが大きくなるにつれ、初期弾性力の導入に大きな力が必要になる。そこで、本実施の形態では、以下のような構成とした。
【0028】
<実施の形態1>
実施の形態1に係る荷重補償機構を説明する。本実施の形態の荷重補償機構は、図1に示すように、基本原理で説明した構成要素に加えて、初期弾性力導入機構7を備えている。初期弾性力導入機構7は、第3の弾性体8と、リンク機構9と、拘束機構10と、を備えている。
【0029】
第3の弾性体8は、第1の弾性体2と略平行に配置されている。すなわち、第3の弾性体8は、X軸方向に配置されている。第3の弾性体8の一方の端部は、基台3に連結されている。第3の弾性体8の他方の端部は、リンク機構9に接触している。なお、第3の弾性体8は、後述する第4の作用点Cを通りY軸方向に延びる直線上に他方の端部が配置された状態で、弾性力がゼロとなるように設定されている。
【0030】
リンク機構9は、長さの等しい二本のリンク9a、9bを備えている。二本のリンク9a、9bは、リンク9aと9bとの一方の端部の連結部がX及びY軸方向に移動し、リンク9a及び9bの他方の端部がY軸方向に移動する。
【0031】
詳細には、リンク9aの一方の端部は、リンク9bの一方の端部にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。リンク9aの他方の端部は、拘束機構10にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。リンク9bの他方の端部は、基台3にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。リンク9a及び9bの他方の端部は、後述する第4の作用点Cを通りY軸方向に延びる直線上に配置されている。つまり、リンク機構9は、Z軸方向から見るとくの字形状に配置されている。
【0032】
リンク9aと9bとの連結部は、第3の弾性体8の他方の端部に接触している。つまり、リンク9aと9bとの連結部は、第3の弾性体8の弾性力が作用する第5の作用点Dとして機能する。
【0033】
ここで、リンク9aと9bとの連結部は、当該連結部のY軸方向への変位を許容する許容部11を備えることが好ましい。許容部11は、当該連結部からZ軸方向に突出する突出部11aと、第3の弾性体8の他方の端部に設けられた摺動板11bと、を備えている。これにより、詳細は後述するが、リンク機構9を介して第3の弾性体8の弾性力で第2の弾性体5を押し込んだ際に、突出部11aが摺動板11b上を摺動してY軸方向に移動するので、第3の弾性体8がY軸方向に捻じれることがない。ちなみに、突出部11aはローラを備えていることが好ましい。これにより、突出部11aをスムーズに摺動板11b上で移動させることができる。
【0034】
拘束機構10は、リニアガイド10aと、駆動機構10bと、を備えている。リニアガイド10aは、一般的なリニアガイドと同様の構成とされている。詳細には、リニアガイド10aは、具体的な図示を省略したが、Y軸方向に配置されたレール部材に沿って摺動部10cが移動する。ここで、レール部材は、基台3に連結されている。そして、摺動部10cは、X軸方向に突出する突出部10dを備えている。つまり、摺動部10cは、Z軸方向から見ると略L字形状に形成されている。突出部10dにおけるY軸方向に配置される一方の面(図1では下面)には、第2の弾性体5の一方の端部が接触している。突出部10dにおけるY軸方向に配置される他方の面(図1では上面)には、リンク9aの他方の端部がZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。つまり、突出部10dとリンク9aとの連結部は、第2の弾性体5における第3の作用点Bと逆側の作用点である第4の作用点Cとして機能する。
【0035】
摺動部10cには、駆動機構10bからY軸方向に駆動力が伝達される。例えば、駆動機構10bは、駆動装置の一例である電動モータの回転軸に設けられたピニオンギアを、摺動部10cに連結されたラックギヤやボールネジに螺合させ、電動モータの駆動力を摺動部10cに伝達する構成とされている。但し、駆動機構10bは、摺動部10cをY軸方向に移動させる駆動力を当該摺動部10cに与えることができれば、構成は特に限定されない。
【0036】
このような構成により、第2の弾性体5の伸縮方向(Y軸方向)以外の方向の動きが拘束される。そのため、第3の弾性体8の弾性力は、リンク9aを介して第2の弾性体5を下方に押し込むように作用する。
【0037】
次に、初期弾性力導入機構7を用いた場合、第2の弾性体5に初期弾性力を導入する際に小さい力で済む原理を説明する。
図3では、初期弾性力導入機構7の単純モデルを示している。第4の作用点Cは、Y軸方向に延在するリニアガイド12により、他の方向への動きが拘束されている。第5の作用点Dは、X軸方向に延在するリニアガイド13により、他の方向への動きが拘束されている。そして、第4の作用点Cと第5の作用点Dとは、リンク9aで連結されている。さらに図4に示すように、X軸方向に配置された第3の弾性体8が第5の作用点Dに連結されている。
【0038】
ここで、図3に示すように、第4の作用点Cを通りY軸方向に延びる直線と、第5の作用点Dを通りX軸方向に延びる直線と、の交点を原点として、第4の作用点CのY軸方向への変位及び第5の作用点DのX軸方向への変位をq及びpとして示す。ちなみに、第3の弾性体8は、当該交点位置で弾性力がゼロに設定されている。
【0039】
このような条件下において、三平方の定理より、[式14]の関係が成り立つ。
[式14] p+q=r
但し、リンク9aの長さ(第4の作用点Cと第5の作用点Dとの距離)をrとする。
[式14]を変形すると、[式15]を導き出すことができる。
[式15] p=√(r−q
[式15]をqで偏微分すると、qからpへの減速比(ヤコビアン)Jは[式16]で表される(p(・)=Jq(・))。
[式16] J=−q/√(r−q)=−q/p
【0040】
また、図3に示すように、X軸方向とリンク9aとの傾き角度をφとすると、[式16]は[式17]で表される。
[式17] J=−q/p=−tanφ
このヤコビアンにより、力の伝達には[式18]が成り立つ。
[式18] f=−ftanφ
但し、第5の作用点Dに作用する第3の弾性体8の弾性力をf、第4の作用点Cに作用する力をfとする。
【0041】
は[式19]で表される。
[式19] f=−k
但し、第3の弾性体8の弾性係数をkとする。
このとき、第4の作用点Cに作用する力fは[式20]で表される。
[式20] f=ktanφ=k
【0042】
すなわち、符号が反転し、弾性係数はそのままで、変位はpからqに置き換わった形となる。このこと自体は、例えば振動系の分野で「負のばね」等として、既に知られている事項である。
【0043】
ここで、第4の作用点Cに図1に示す第2の弾性体5の一方の端部を連結する。第4の作用点Cには、第3の弾性体8からの下向きの力fと、第2の弾性体5からの上向きの力fと、が作用することになり、上向きを正とするとその合力f'は[式21]で表される。
[式21] f'=f−f=k(q+y)−k
【0044】
また、第3の弾性体8の弾性係数をk=kとすると、第4の作用点Cに作用する合力(平衝点移動に必要な力)は、[式22]で表される。
[式22] f'=k
【0045】
このように、平衡点移動に必要な力は第4の作用点Cの変位qに関わらず、第2の弾性体5の他方の端部の変位yで決定される。つまり、第2の弾性体5に初期弾性力を導入する際に生じる当該第2の弾性体5の復元力と、第3の弾性体8の弾性力に基づき第2の弾性体5に作用する力と、が相殺する。そのため、初期弾性力導入機構7が無かった場合に比べて、小さな力で第2の弾性体5に初期弾性力を導入することができる。
【0046】
なお、上記実施の形態のリンク機構9は、第5の作用点Dを押し込むように第3の弾性体8を配置しているが、図5に示すように、第5の作用点Dを引き込むように第3の弾性体8を配置しても同様に実施できる。
【0047】
また、上記実施の形態のリンク機構9は、二本のリンク9aと9bとが等しい長さに設定されているが、図6に示すリンク機構91のように、リンク91aの一方の端部を延長させても良い。例えば、図6のリンク機構91では、リンク91aの長さをリンク91bの長さの2倍に設定し、その中間位置でリンク91bの一方の端部と連結している。そして、リンク91aの他方の端部を第3の弾性体8の他方の端部に接触させている。この場合、p=p、q=q、r=rと置き換えれば、図3で示したリンク機構9の原理と同様である。なお、図1のリンク機構9は、図6のリンク91aの中間位置に第3の弾性体8の他方の端部を接触させたものと等価であり、このとき第3の弾性体8の変位はpの1/2となるため、第3の弾性体8の復元力により第2の弾性体5の復元力と相殺するには、第3の弾性体8の弾性係数は第2の弾性体5の弾性係数の2倍に設定することになる。
【0048】
ちなみに、図7に示すように、第3の弾性体8を例えばY軸方向(但し、配置方向は特に限定されない。)に配置し、当該第3の弾性体8の他方の端部をプーリ14を介してリンク9aの一方の端部に連結しても良い。
【0049】
また、上記実施の形態のリンク機構9は、二本のリンク9aと9bとを一組配置しているが、図8に示すように、二組のリンク機構9をX軸方向に並列に配置し、リンク9aと9bとの連結部相互を第3の弾性体8で連結しても良い。これにより、第3の弾性体8の揺動を略防ぐことができる。
【0050】
また、上記実施の形態のリンク機構9は、二本のリンク9aと9bとを組み合わせているが、リンクの本数は特に限定されない。すなわち、図9に示すリンク機構92のように、複数のリンクを組み合わせても良い。例えば、図9のリンク機構92は、L字形状の第1のリンク92aと、直線状の第2及び3のリンク92b及び92cを備えている。第1のリンク92aの角部は、基台3にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第1のリンク92aの一方の端部は、第2のリンク92bの一方の端部にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第1のリンク92aの他方の端部は、第3のリンク92cの一方の端部にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第2のリンク92bの他方の端部は、Y軸方向に配置されたリニアガイド15に連結されている。つまり、第2のリンク92bの他方の端部は、リニアガイド15によってY軸方向以外の方向への動きが拘束されている。第3のリンク92cの他方の端部は、Y軸方向に配置されたリニアガイド16に連結されている。つまり、第3のリンク92cの他方の端部は、リニアガイド16によってY軸方向以外の方向への動きが拘束されている。ここで、第2のリンク92bの他方の端部と、第3のリンク92cの他方の端部と、はY軸方向に延びる共通の直線上に配置されている。そして、第3のリンク92cの他方の端部は、第3の弾性体8の他方の端部に接触している。第3の弾性体8は、Y軸方向に配置されており、一方の端部が基台3に連結されている。このような構成においても、p=p、q=q、r=rと置き換えれば、上述したリンク機構9の原理と同様である。
【0051】
<実施の形態2>
実施の形態2に係る荷重補償機構を説明する。本実施の形態の荷重補償機構は、図10に示すように、基本原理を説明した構成要素に加えて、初期弾性力導入機構71を備えている。初期弾性力導入機構71は、カム機構72を備えている。
【0052】
カム機構72は、カム本体73と、拘束機構74と、を備えている。カム本体73は、詳細を後述する外周側面の曲面形状(カム形状)に形成されており、当該外周側面に拘束機構74が接触している。カム本体73は、図示を省略した駆動装置の駆動力が回転軸73aに伝達されて回転する。
【0053】
拘束機構74は、リニアガイド74aを備えている。リニアガイド74aは、一般的なリニアガイドと同様の構成とされている。つまり、リニアガイド74aは、具体的な図示を省略したが、Y軸方向に配置されたレール部材に沿って摺動部74bが移動する。ここで、レール部材は、基台3に連結されている。そして、摺動部74bは、X軸方向に突出する突出部74cを備えている。つまり、摺動部74bは、Z軸方向から見ると略L字形状に形成されている。
【0054】
突出部74cにおけるY軸方向に配置される一方の面(図10では下面)には、第2の弾性体5の一方の端部が接触している。突出部74cにおけるY軸方向に配置される他方の面(図10では上面)には、カム本体73の外周側面が接触している。つまり、突出部74cとカム本体73との接触部は第4の作用点Cとして機能する。ちなみに、本実施の形態では、突出部74cとカム本体73とはカムフォロア75を介して接触している。
【0055】
このような構成により、カム本体73を回転させると、第2の弾性体5の伸縮方向(Y軸方向)以外の方向の動きが拘束された状態で、カム本体73のカム形状に倣って第2の弾性体5が下方に押し込まれる。このとき、以下に説明するように、カム本体73を回転させた際に、第2の弾性体5の復元力によりカム本体73に生じるトルクが設定状態において一定となるように当該カム本体73のカム形状が設計されていると良い。
【0056】
次に、カム本体73のカム形状の設計方法を説明する。図11(a)、(b)及び図12は、カム本体73の各パラメータを示している。Ψはカム本体73の回転角度、Rはカム本体73の最小半径、R(Ψ)はカム本体73がΨ回転した際の第4の作用点Cと回転軸73aとの距離(半径)、l'は第2の弾性体5の上端部のY軸方向への変位、yは第2の弾性体5の下端部のY軸方向への変位、dΨは微小角度、RdΨはカム本体73における外周側面の微小角度部分におけるX軸方向の距離、dRはカム本体73における外周側面の微小角度部分におけるY軸方向の距離、φはカム本体73における外周側面の微小角度部分における傾斜角度、fはカム本体73における外周側面の微小角度部分における一端部に作用するX軸方向の力、fはカム本体73における外周側面の微小角度部分における一端部に作用するY軸方向の力である。
【0057】
このようなパラメータにおいて、第2の作用点BをY軸方向にy(θ)変位させる。また、第4の作用点Cをカム本体73によってY軸方向にl'(Ψ)変位させる。ここで、Ψ=0のときのカム本体73の半径はR=R(0)であり、y(θ)は[式23]([式3]と同様)で表される。
[式23] y(θ)=l(1−cosθ)
【0058】
また、l'(Ψ)は[式24]で表される。
[式24] l'(Ψ)=R(Ψ)−R
そして、カム本体73に作用するトルクは、[式25]で表される。
[式25] τ=R(Ψ)f
ここで、[式26]〜[式28]が成り立つ。
[式26] f=ftanφ
[式27] f=k(y(θ)+l'(Ψ))
[式28] tanφ=dR/RdΨ
【0059】
そのため、[式29]を導くことができる。
[式29] τ=k(y+R−R)dR/dΨ
[式29]を変数分離して、積分すると[式30]を導くことができる。
【数1】

[式30]を解くと、[式31]を導くことができる。
[式31] τΨ=k(yR+R/2−RR−yR+R/2)
[式31]をRについて解くと、[式32]を導くことができる。
[式32] R=R−y±√(y+2τΨ/k
【0060】
このように[式32]で表すようなカム本体73のカム形状を導くことができる。ここで、例えば第2の弾性体5の弾性係数k=28000[N/m]、カム本体73の最小半径R=22[mm]、駆動装置で発現させるトルク設定値、即ちカム本体73に発現させるトルクτ=6.2[N・m]、第2の弾性体5の下端部の変位y=20[mm]としたとき、上記の[式32]によって得られるカム本体73のカム形状は、図13に示す形状となる。ここでは、180°まで求めて、カム本体73が線対称になるような形状としたが、一周分求めることで、トルクをさらに低減することも可能である。
【0061】
上述の例では、カム本体73に作用させるトルクτを6.2[N・m]と調整することで、最小半径R(0)=22[mm]と最大半径R(π)=44[mm]との差で、平衡点移動に必要な22[mm]を確保できるようにした。
【0062】
このカム本体73のカム形状を用いた場合に必要なトルクを逆算すると、[式33]で表される。
[式33] τ=k((R−R+y)−y)/2Ψ
【0063】
第2の弾性体5の下端部の変位yが変化したときに、カム本体73を回転させるのに必要なトルクがどのように変化するかを確認すると、図14に示すようになる。yの最大変位20[mm]を設計値としたため、y=20[mm]のときには設定トルク6.2[N・m]で一定であり、yが20mmより小さいときには当該トルクより小さくなっていることが確認できる。
【0064】
このようにカム本体73のカム形状を設計することで、yが予め設定された最大変位以下の条件においては、予め設定したトルク以下で第2の弾性体5を押し込むことができる。したがって、初期弾性力導入機構71が無かった場合に比べて、小さな力で第2の弾性体5に初期弾性力を導入することができる。
【0065】
なお、本実施の形態のカム本体73は180°までカム形状を求めて、線対称になるような形状としたが、図15に示すように360°まで求めたカム形状に形成しても良い。
ここで、[式33]は、第4の作用点Cに位置するローラ(カムフォロア75)の直径がゼロとして求めたカムの外周形状であり、実施に当たってはカムフォロアの半径分内側にオフセットした外周形状を用いることとなる。
【0066】
<他の実施の形態>
上述の原理は、リンク1における第1の作用点Pが設けられた側と回転軸O1を挟んで逆側に、第2の作用点A及び第3の作用点Bを設けたが、この限りでない。
【0067】
例えば図16に示すように、リンク1における第1の作用点Pと回転軸O1との間に、第2の作用点A及び第3の作用点Bを設けても良い。
【0068】
また、図17に示すように、リンク1に代わってT字形状のリンク17を用いる場合は、リンク17の回転軸O2を挟んで両端部に第1の作用点Pと第3の作用点Bとをそれぞれ設け、第1の作用点Pと第3の作用点Bとを結ぶ直線L2と直交し、且つ回転軸O2を通る直線L3上に第2の作用点Aを設けても良い。
【0069】
また、図18に示すように、同じくリンク1に代わってT字形状のリンク17を用いる場合は、リンク17の回転軸O2を挟んで両端部に第1の作用点Pと第2の作用点Aとをそれぞれ設け、第1の作用点Pと第2の作用点Aとを結ぶ直線L4と直交し、且つ回転軸O2を通る直線L5上に第3の作用点Bを設けても良い。
【0070】
さらに図19に示すように、リンク1に代わって、L字形状の第1のリンク18と、直線状の第2及び3のリンク19及び20と、を用いて、以下のように第1乃至3の作用点を設けても良い。詳細には、第1のリンク18の一方の端部に第1の作用点Pが設けられる。第1のリンク18の第1辺18aの他方の端部に回転軸O3が設けられる。第1のリンク18における回転軸O3と第1の作用点Pとの間の位置に第6の作用点Eが設けられる。第6の作用点Eには、Z軸と平行な軸回りに回転可能に第2のリンク19の一方の端部が連結される。第2のリンク19の他方の端部は、具体的な図示を省略したが、X軸方向に摺動可能な構成とされる。また、第2のリンク19の他方の端部には、X軸方向に配置された第1の弾性体2に連結される。つまり、第2のリンク19の他方の端部は、第2の作用点Aとして機能する。そして、第1のリンク18の第2辺18bの端部に第7の作用点Fが設けられる。第7の作用点Fには、Z軸と平行な軸回りに回転可能に第3のリンク20の一方の端部が連結される。第3のリンク20の他方の端部は、具体的な図示を省略したが、X軸方向に摺動可能な構成とされる。また、第3のリンク20の他方の端部には、X軸方向に配置された第2の弾性体5に連結される。つまり、第3のリンク20の他方の端部は、第3の作用点Bとして機能する。
【0071】
要するに、第1の作用点Pに作用するmgに基づく回転軸回りの回転トルクに対して、第2の作用点Aに作用する第1の弾性体2の弾性力に基づく回転軸周りの回転トルク及び第3の作用点Bに作用する第2の弾性体5の弾性力に基づく回転軸周りの回転トルクの合力トルクが逆向きの回転方向に作用し、且つ等しくなるように、第2の作用点Aや第3の作用点B、及び第1の弾性体2や第2の弾性体5の配置並びに弾性係数は適宜、変更すれば良い。
<適用形態>
【0072】
上述の基本原理を昇降装置に適用した形態を説明する。本適用形態の昇降装置100は、図20乃至23に示すように、リンク機構110と、基台120と、昇降台130と、第1の弾性体140と、第2の弾性体150と、初期弾性力導入機構160と、を備えている。
【0073】
リンク機構110は、直線状の第1のリンク111と、L字形状の第2のリンク112と、直線状の第3のリンク113と、を備えている。第1のリンク111と第2のリンク112とは、長手方向の中央部分で回転可能に連結されX形状に配置されている。第2のリンク112は、第1辺112aと、第1辺112aの下端に直交する第2辺112bと、を備えている。
【0074】
第1のリンク111の一方の端部は、図21に示すように、基台120にX軸方向に摺動可能に連結されている。第1のリンク111の他方の端部は、昇降台130にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第2のリンク112の第1辺112aの一方の端部は、図22に示すように、昇降台130にX軸方向に摺動可能に連結されている。第2のリンク112の第1辺112aの他方の端部は、基台120にZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第2のリンク112の第2辺112bの端部には、第3のリンク113の一方の端部がZ軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第3のリンク113の他方の端部は、基台120にX軸方向に摺動可能に連結されている。
【0075】
基台120は、第1及び3のリンク111及び113の他方の端部を摺動させることができるように、X軸方向に延在する溝部121を備えている。溝部121には、第1のリンク111の他方の端部に設けられたローラ111a、及び第3のリンク113の他方の端部に設けられたローラ113aが挿入されている。
【0076】
昇降台130は、第2のリンク112の第1辺112aの一方の端部を摺動させることができるように、X軸方向に延在する溝部131を備えている。溝部131に第2のリンク112の第1辺112aの一方の端部に設けられたローラ112cが挿入されている。
【0077】
第1の弾性体140は、X軸方向に配置されている。第1の弾性体140の一方の端部は、第1のリンク111の他方の端部に連結されている。第1の弾性体140の他方の端部は、基台120に連結されている。第2の弾性体150も、X軸方向に配置されている。第2の弾性体150の一方の端部は、第3のリンク113の他方の端部に連結されている。第2の弾性体150の他方の端部は、初期弾性力導入機構160に連結されている。第1及び2の弾性体140及び150は、第1及び2のリンク111及び112が回転していない状態、即ちθ=0°の状態で弾性力がゼロとなるように設定されている。ちなみに、第1の弾性体140は、第1のリンク111の他方の端部に連結されているが、これは第2のリンク112の第1辺112aの一方の端部に連結されている状態と同様に扱うことができる。
【0078】
このような構成の昇降装置100の昇降台130に荷物170を置き、任意の高さとすると、第1及び2の弾性体140及び150は、第1及び2のリンク111及び112が回転していない状態、即ちθ=0°で弾性力がゼロとなるように連結されているので、第1のリンク111の他方の端部のX軸方向の変位xは、[式34]で表される。
[式34] x=lsinθ
但し、第1のリンク111の長さをlとする。
また、第3のリンク113の他方の端部のX軸方向の変位xは、[式35]で表される。
[式35] x=l(1−cosθ)
但し、第2のリンク112の第2辺112bの長さをl/2、第3のリンク113の長さをl/2とする。
【0079】
すなわち、本形態は、第1のリンク111の他方の端部は、図1で示す第2の作用点Aに対応させ、第3のリンク113の他方の端部は、図19で示す第3の作用点Bに対応させることができ、上述の基本原理に基づいて設計すると、荷重を補償し得る昇降装置100を実現することができる。
【0080】
ここで、本形態でも、図23に示すように、上述した図9に示す初期弾性力導入機構と略同様の原理の初期弾性力導入機構160によって、第2の弾性体150に初期弾性力を導入する。なお、図23の破線では、初期弾性力導入機構160の動作を示している。初期弾性力導入機構160は、基台120内に収納されている。この初期弾性力導入機構160は、角部を挟んで隣接する辺の長さが等しいL字形状の第4のリンク161と、直線状の等しい長さの第5及び6のリンク162及び163と、第3の弾性体164と、等を備えている。
【0081】
第4のリンク161の角部は、基台120にY軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第4のリンク161の一方の端部は、第5のリンク162の一方の端部にY軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第5のリンク162の他方の端部は、第2の弾性体150の他方の端部に連結されている。ちなみに、本形態では、Z軸方向に配置された連結部材180を介して、第5のリンク162の他方の端部と、第2の弾性体150の他方の端部と、が連結されている。この第5のリンク162の他方の端部は、X軸方向以外の方向への動きが拘束されている。
【0082】
第4のリンク161の他方の端部は、第6のリンク163の一方の端部にY軸と平行な軸回りに回転可能に連結されている。第6のリンク163の他方の端部は、第3の弾性体164の一方の端部に連結されている。ちなみに、本形態では、Z軸方向に配置された連結部材190を介して、第6のリンク163の他方の端部と、第3の弾性体164の一方の端部と、が連結されている。この第6のリンク163の他方の端部は、X軸方向以外の方向への動きが拘束されている。
【0083】
第3の弾性体164は、X軸方向に配置されている。そして、第3の弾性体164の他方の端部は、基台120に連結されている。ここで、第3の弾性体164は第4のリンク161の回転角φが0°の状態で弾性力がゼロとなるように設定されている。第2の弾性体150は、第2のリンク112の角度θが0°の状態で、且つ第4のリンク161の回転角φが0°の状態で弾性力がゼロとなるように設定されている。
【0084】
このような初期弾性力導入機構160は、図1に示す初期弾性力導入機構の基本原理と同様の原理で、第2の弾性体150に初期弾性力を導入する際に生じる第2の弾性体150の復元力と、第3の弾性体164の弾性力に基づき第2の弾性体150に作用する力と、が相殺するように機能するので、やはり小さい力で第2の弾性体150に初期弾性力を導入することができる。
【0085】
しかも、初期弾性力導入機構160は、基台120内に収納されている。そのため、第1乃至3のリンクの動作を阻害することが無い。また、昇降装置100をコンパクトに設計することができる。
【0086】
さらに重量物である第1及び2の弾性体140及び150を基台120側に配置したので、第2の弾性体150に初期弾性力を導入する際に、さらに小さい力で済む。
【0087】
以上、本発明に係る荷重補償機構の実施の形態を説明したが、上記の構成に限らず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、変更することが可能である。例えば、上記実施の形態では、第1の作用点Pと第2の作用点Aと第3の作用点Bとを異なる位置に配置したが、等しい位置に配置しても良い。これにより、荷重補償機構の設計工程を簡易に行うことができる。また、荷重補償機構をコンパクトに設計することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 リンク
2 第1の弾性体
3 基台
4 許容部、4a 突出部、4b 摺動板
5 第2の弾性体
6 許容部、6a 突出部、6b 摺動板
7 初期弾性力導入機構
8 第3の弾性体
9 リンク機構
9a、9b リンク
10 拘束機構、10a リニアガイド、10b 駆動機構、10c 摺動部、10d 突出部
11 許容部、11a 突出部、11b 摺動板
12、13 リニアガイド
14 プーリ
15、16 リニアガイド
17 リンク
18 第1のリンク、18a 第1辺、18b 第2辺
19 第2のリンク
20 第3のリンク
21 第1のリンク
22 第2のリンク
71 初期弾性力導入機構
72 カム機構、73 カム本体、73a 回転軸
74 拘束機構、74a リニアガイド、74b 摺動部、74c 突出部、75 カムフォロア
91 リンク機構、
91a 、91b リンク
92 リンク機構、92a 第1のリンク、92b 第2のリンク、92c 第3のリンク
100 昇降装置
110 リンク機構
111 第1のリンク、111a ローラ
112 第2のリンク、112a 第1辺、112b 第2辺、112c ローラ
113 第3のリンク、113a ローラ
120 基台、121 溝部
130 昇降台、131 溝部
140 第1の弾性体
150 第2の弾性体
160 初期弾性力導入機構、161 第4のリンク、162 第5のリンク、163 第6のリンク、164 第3の弾性体
170 荷物
180、190 連結部材
P 第1の作用点
A 第2の作用点
B 第3の作用点
C 第4の作用点
D 第5の作用点
E 第6の作用点
F 第7の作用点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に荷重が作用する第1の作用点と、前記回転体に第1の弾性体の弾性力が作用する第2の作用点と、前記回転体に第2の弾性体の弾性力が作用する第3の作用点と、を備え、前記第1の作用点に作用する前記荷重に基づく前記回転体の回転軸回りのトルクと、前記第2の作用点に作用する弾性力に基づく前記回転体の回転軸回りのトルク及び前記第3の作用点に作用する弾性力に基づく前記回転体の回転軸回りのトルクの合力トルクと、が逆向きの回転方向に作用して相殺する荷重補償機構であって、
前記第2の弾性体に初期弾性力を導入する初期弾性力導入機構を備える荷重補償機構。
【請求項2】
前記初期弾性力導入機構は、
第3の弾性体と、
前記第2の弾性体における前記第3の作用点と逆側の作用点である第4の作用点と、
前記第3の弾性体の弾性力が作用する第5の作用点と、
前記第4の作用点と前記第5の作用点とを連結するリンク機構と、
前記第2の弾性体の伸縮方向以外の動きを拘束する拘束機構と、を備え、
前記第2の弾性体に初期弾性力を導入するとき、前記第2の弾性体に生じる復元力と、前記第3の弾性体の弾性力に基づき前記第2の弾性体に作用する力と、が相殺する請求項1に記載の荷重補償機構。
【請求項3】
前記第2の弾性体の弾性係数と前記第3の弾性体の弾性係数とは等しい請求項2に記載の荷重補償機構。
【請求項4】
前記第2の弾性体と前記第3の弾性体とは平行に配置されている請求項2又は3に記載の荷重補償機構。
【請求項5】
前記第2の弾性体と前記第3の弾性体とは直交するように配置されている請求項2又は3に記載の荷重補償機構。
【請求項6】
前記初期弾性力導入機構は、
前記第2の弾性体における前記第3の作用点と逆側の作用点である第4の作用点と、
前記第4の作用点に駆動力を伝達するカム機構と、
前記第2の弾性体の伸縮方向以外の動きを拘束する拘束機構と、を備え、
前記カム機構のカム本体が回転したとき、前記第2の弾性体の復元力により前記カム本体に生じるトルクが一定となるように前記カム本体のカム形状が設定されている請求項1に記載の荷重補償機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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