説明

荷電粒子ビーム照射装置

【課題】製作の容易なリッジフィルタを有する荷電粒子ビーム照射装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム照射装置は、荷電粒子ビーム発生装置と、照射野形成装置とを有する。照射野形成装置がビームのエネルギー分布を拡大するエネルギー分布拡大装置であるリッジフィルタ24を有する。リッジフィルタ24のリッジフィルタ要素32は、ビームの上流側の面とビーム下流側の面において、共に階段状の構造を備える。そして、階段状の構造は、ビームの上流側の面と前記ビーム下流側の面において対称である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器を有する荷電粒子ビーム照射装置に係り、特に、リッジフィルタを用いる荷電粒子ビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加速器等の荷電粒子ビーム発生装置から出射される荷電粒子ビーム(以下、「イオンビーム」と称する)は、細いビームである。癌腫瘍などの照射標的を一様に照射するためには、イオンビームを荷電粒子照射装置によってイオンビーム進行方向に垂直な面内で拡大(または走査)する。荷電粒子ビーム発生装置から出射されるイオンビームは、一般的にエネルギーの揃ったイオンビームである。この荷電粒子ビーム、特に陽子線及び重粒子線を照射標的に照射した場合には、それらのエネルギーによって決まる特定の深さにピークを有する線量分布が形成される。この線量分布のピークをブラッグピークと呼ぶ。ブラッグピークの広がりは数mmと狭いので、荷電粒子照射装置によってエネルギーの異なるイオンビームを照射することで標的を一様に照射する。照射標的にイオンビームをビーム進行方向に一様に照射するためには、エネルギーの異なる複数のイオンビームを、適切な割合で足し合わせる。
【0003】
エネルギー分布を拡大する方法としては、1)加速器からのイオンビームのエネルギーを直接変える方法(エネルギースキャニング)、2)イオンビームを、厚さに分布を有して回転している円盤状の板の一部を通過させる方法(レンジモジュレーティングプロペラ)、及び厚みに分布を有する楔形のエネルギー分布拡大装置(リッジフィルタ)をイオンビームの通過領域に設置する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
リッジフィルタを使用する場合、イオンビームは、リッジフィルタの通過位置の厚みにより異なるエネルギーを損失する。また、特定のエネルギーを損失するイオンビームの割合は、リッジフィルタの対応する厚みの部分のビーム上流から見たときの面積に比例する。そこで、イオンビームが通過する部分における厚みの分布を予め所望の分布に設定しておくことで、通過したイオンビームのエネルギー分布を所望の分布にすることができる。
【0005】
ここで、イオンビームは有限のエミッタンスを有するため、イオンビームを構成する粒子の一部は、斜めにリッジフィルタへ入射し、十分に減衰されず、リッジフィルタから抜け出すことになる。そこで、リッジフィルタの厚みが増える方向を変更することで、ビームエミッタンスの影響を小さくすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−202048号公報
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック(Review of Scientific Instruments)Vol.64 No.8(1993年8月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リッジフィルタは多数の楔形構造物を備え、楔形構造物は階段状になっている。照射標的の厚みが厚いほど、イオンビームのエネルギー分布を広げる必要があり、必要なエネルギーの種類は増える。同じエネルギーの粒子は、リッジフィルタの同じ厚さの部分を通過したもので、同じ深さにブラッグピークを形成するが、楔形の間隔が広い場合、同一のエネルギーの粒子がリッジフィルタ上の互いに離れた位置から照射標的に向かい、照射標的位置でも離れた位置に線量が分布するので一様な照射野が形成できない。このため、楔形の間隔は2cm程度以下にする必要がある。
【0008】
また、深さ方向へ一様な高線量領域を形成する場合、イオンビームのエネルギー分布には、その一様度に応じたエネルギー数と精度が要求される。同じ厚さの部分の面積の割合がイオンビームのエネルギー分布の割合を決定するので、階段形状の段数は必要なエネルギー数と同じになり、30段ほど必要となる。1段の高さは1mm程度であり、最厚部の幅は100μm程度となる。また、製作精度には10μm程度が要求される。
【0009】
材質にアルミニウムを使用した場合、5cmほどの高さになるが、最厚部の幅が小さく、強度が弱いにも関わらず、厳しい加工精度が必要であり、製作が困難であるという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、製作の容易なリッジフィルタを有する荷電粒子ビーム照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビーム発生装置と、荷電粒子照射装置とを有し、前記荷電粒子照射装置は前記ビームのエネルギー分布を拡大するエネルギー分布拡大装置を有する荷電粒子ビーム照射装置において、前記エネルギー分布拡大装置は、前記ビームの上流側の面と前記ビーム下流側の面において、共に階段状の構造を備えるようにしたものである。
かかる構成により、エネルギー分布拡大装置,すなわち、リッジフィルタの製作を容易にすることができる。
【0012】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記エネルギー分布拡大装置の前記階段状の構造は、前記ビームの上流側の面と前記ビーム下流側の面において対称としたものである。
【0013】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記エネルギー分布拡大装置の前記階段状の構造は、厚みが変化する位置が、前記ビーム上流側の面と前記ビーム下流側の面とで異なる位置としたものである。
【0014】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記エネルギー分布拡大装置の前記階段状の構造は、最厚部に対して両側を非対称とし、異なる厚さの部分を、前記ビーム軸方向の一端を揃え、順に薄くなっていくように配置したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定の加工精度を有するリッジフィルタを容易に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図6を用いて、本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置の構成について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置の全体構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置の全体構成を示す斜視図である。
【0017】
荷電粒子ビーム照射装置1は、荷電粒子ビーム発生装置2と、照射野形成装置13とを備える。荷電粒子ビーム発生装置2は、イオン源(図示せず)と、前段加速器3と、シンクロトロン4とを有する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽イオン(または炭素イオン))は、前段加速器(例えば直線加速器)3で加速される。前段加速器3から出射されたイオンビームは、シンクロトロン4に入射される。このイオンビームは、シンクロトロン4で、高周波加速空胴5から印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。
【0018】
シンクロトロン4の内部を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギーまでに高められた後、出射用の高周波印加装置6から高周波がイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、高周波印加装置6による高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ28を通ってシンクロトロン4から出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン4に設けられた四極電磁石7及び偏向電磁石8等の電磁石に導かれる電流が設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。高周波印加装置6への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止される。
【0019】
シンクロトロン4から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系9を経て照射野形成装置13に達する。ビーム輸送系9の一部である逆U字部10及び照射野形成装置13は、回転可能なガントリー(図示せず)に設置される。逆U字部10は偏向電磁石11,12を有する。イオンビームを照射標的に照射される照射対象31は、治療台30上で照射野形成装置13の下に位置決めされる。照射野形成装置13は、ケーシング29の内部に収納されている。照射野形成装置13の詳細構成については、図2を用いて後述する。
【0020】
次に、図2を用いて、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いる照射野形成装置13の構成について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いる照射野形成装置の構成を示すブロック図である。
【0021】
照射野形成装置13は、一対の走査用電磁石14,15と、ビーム拡大装置16と、リッジフィルタ24と、レンジシフタ25とを有する。ビーム拡大装置16,リッジフィルタ24及びレンジシフタ25は、この順序でイオンビームの進行方向において上流側から下流側に向かって配置されている。
【0022】
照射野形成装置13は、イオンビームを照射する照射対象毎に作成されるコリメータ26及びボーラス27を取り付けられるようになっている。イオンビームを照射標的32に照射される照射対象31は、治療台30上で、照射野形成装置13の下に位置決めされる。
【0023】
電磁石14は、ビーム軸に垂直な面内のX軸方向にイオンビームの位置を移動させる。電磁石15は、そのビーム軸に垂直な面内でX軸と直交するY軸方向にイオンビームの位置を移動させる。本例では、走査用電磁石14,15を用いて、イオンビームをそのビーム軸に垂直な面内において、ある半径で旋回するように移動させる。走査用電磁石14,15は、荷電粒子ビーム走査装置として機能する。
【0024】
ビーム拡大装置16は、走査用電磁石15の下方に設置されている。ビーム拡大装置16は、少ないエネルギー損失で大きく散乱させられる鉛またはタングステンなどの原子番号の大きい材質で構成される。旋回されたイオンビームは、ビーム拡大装置16へのイオンビームの入射方向に垂直な方向に拡大される。
【0025】
拡大されたイオンビームは、リッジフィルタ24に達する。リッジフィルタは、エネルギーの揃ったイオンビームにエネルギー分布を与える役割を担う。すなわち、リッジフィルタは、ビームのエネルギー分布を拡大するエネルギー分布拡大装置である。リッジフィルタ24を通過し、エネルギーの分布を持ったイオンビームは、レンジシフタ25に達する。レンジシフタ25は、板状の構造となっており、必要に応じて厚みが変更できるようになっている。レンジシフタ25では、イオンビームは一様にエネルギー損失するため、イオンビームの最もエネルギーの高い成分が、照射標的32の最深部と一致するようにレンジシフタ25の厚みを調節する。
【0026】
レンジシフタ25を通過したイオンビームは、コリメータ26に達する。コリメータ26は、治療台30上の照射対象31の照射標的32の水平方向における形状に合わせて、イオンビームを切取る。ボーラス27は、コリメータ26によって切取られたイオンビームのエネルギーを減衰させ、照射標的32の形状に合わせて調整する。ボーラスを通過したイオンビームは照射対象に到達する。
【0027】
次に、図3を用いて、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置におけるイオンビームのエネルギーと線量の関係について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置におけるイオンビームのエネルギーと線量の関係の説明図である。
【0028】
照射標的が深さ方向に厚みを持っている場合、イオンビームは厚みに応じたエネルギー分布を持つ必要がある。図3は、イオンビームのエネルギーと線量の関係を示している。
【0029】
イオンビームが照射対象31内において到達する深さは、イオンビームが持っているエネルギーによって決まり、イオンビームはエネルギーによって決まる特定の深さにピークを有する線量分布を形成する。エネルギーが大きいイオンビームは深い位置まで到達し、エネルギーが小さいイオンビームほど到達する位置は浅くなる。リッジフィルタの段部の数を例えば6段とする。この場合には、リッジフィルタを通過したイオンビームは、6個のエネルギーが異なるイオンビーム成分を含んでいる。このイオンビームを照射対象31に照射した場合には、エネルギーに応じて、各イオンビーム成分が照射対象31の内部で到達する異なる6つの各位置で、ブラッグピークが形成される。そのようなイオンビームを照射した場合の照射対象31内の総放射線量分布は、照射対象31の深さ方向において、それらのブラッグピークが足し合わされることによって、線36の様になる。すなわち、線量が高くかつ一様になっている範囲(SOBP)が形成される。イオンビームの照射時には、照射対象31内の照射標的32と、線量が高く、一様な領域が一致するように照射する。
【0030】
次に、図4〜6を用いて、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成について説明する。
図4は、比較例として、従来のリッジフィルタの構成を示す斜視図である。図5は、本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す斜視図である。図6は、本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す正面図である。
【0031】
最初に、リッジフィルタの原理について説明する。イオンビームは物質中を通過する際、散乱等によりエネルギーを損失する。すなわち、イオンビームが厚みの異なる同じ物質中を通過すると、異なるエネルギーのイオンビームとなる。リッジフィルタに達したイオンビームは、通過位置によりリッジフィルタの厚みが異なり、厚みの違いによりエネルギーを損失し、数種類の異なるエネルギーのイオンビーム成分に分割される。イオンビーム成分の数は、リッジフィルタの異なる厚みの数(段の数)に等しい。分割されたイオンビーム成分の割合は、イオンビーム上流から見たときの対応する厚みの面積の割合に比例する。
【0032】
ここで、図4を用いて、従来のリッジフィルタの構成について説明する。従来のリッジフィルタ41は、楔形をしたリッジフィルタ要素42を並列に複数配置した構成である。イオンビームの進行方向を厚さ方向、イオンビームに垂直でリッジフィルタ要素42が繰り返される方向を幅方向、イオンビームに垂直で幅方向と垂直な方向を奥行き方向とする。リッジフィルタ要素42は階段状に加工されており、その段のひとつを段部43とする。なお、図示の例では、段数が5段として図示しているが、実際のリッジフィルタにおいては、その段数は30段程度ある。
【0033】
リッジフィルタ41の同じ厚みを通過したイオンビームは同じ深さにブラッグピークを形成する。このため、リッジフィルタ要素42は幅方向の分布を均一にするため、十分に短い間隔で繰り返し配置する必要があり、約2cm毎に配置される。照射標的32の厚みに一様に照射するためには、十分な数の段部43が必要で、通常30段程度である。リッジフィルタ要素42の厚さ方向に最も厚い部分を最厚部44とする。最厚部44の幅は、100μm程度となる。
【0034】
リッジフィルタ要素の材質は、散乱を抑えてエネルギーを吸収する必要があるため、アルミまたは銅などの軽金属である。リッジフィルタ要素42は材質にアルミを使用した場合、高さ5cm程度になる。
【0035】
なお、以下に説明する本実施形態のリッジフィルタとの相違をわかりやすくするために、従来のリッジフィルタ41における最厚部44の幅を100μmとし、最厚部44の高さ(最厚部44の一段下の段に対して、最厚部44が突出している部分の厚さ方向の数値)を、1mmとする。すなわち、最厚部44は高さ1mmで、幅100μmの薄い板材が、奥行き方向に延在している形状となっている。そして、この最厚部44の幅は、10μm以下の加工精度で製作加工する必要があるが、100μmと薄く、強度が弱いため、この加工精度で製作するのが困難であった。
【0036】
次に、図5及び図6を用いて、本実施形態によるリッジフィルタ24の構成について説明する。厚さ方向、幅方向、奥行き方向は、図4と同様に定義するものである。
【0037】
本実施形態のリッジフィルタ24は、ビームに対して、上流面も、下流面も階段状となっている。また、上流面と下流面とは、上下方向に対称となっている。なお、従来のリッジフィルタ41は、図4に示したように、上流面側のみが、階段状となっている。それに対して、本実施形態のリッジフィル24は、幅方向と奥行き方向の断面が、同じ形状の楔形の底面を張り合わせた形をしたリッジフィルタ要素32が並列に複数配置された構成である。階段状の部分のひとつの段を段部34とする。図示の例では、段数は、図4の従来例と比較しやすいように、図4の例と同じように5段として図示しているが、実際のリッジフィルタにおいては、その段数は30段程度ある。
【0038】
リッジフィルタ要素32は多数の段部からなり、最も厚み方向が厚い段部を最厚部34A,34Bとする。
【0039】
従来、厚さ方向のイオンビームの上流側の一面に加工されていたリッジフィルタ要素を、上流面と下流面との両面ともに同じように加工し張り合わせることで、片面でのリッジフィルタ要素の厚みを半分にすることができる。ここで、リッジフィルタ要素の配置間隔、両面合わせての厚さ方向の高さ、及び材質は従来のリッジフィルタに等しい。最厚部34Aと最厚部34Bは、同じ形状となるので、最厚部34Aの寸法についてみると、最厚部34Aの幅は、図4と同じで、例えば、100μmであるが、最厚部34Aの高さ(最厚部34Aの一段下の段に対して、最厚部34Aが突出している部分の厚さ方向の数値)を、図4の半分の,例えば、0.5mmとなる。
【0040】
片面での高さが半分になることは、従来のリッジフィルタを、半分の高さで製作することに等しく、最厚部34A,34Bの高さも半分になる。リッジフィルタの製作では、最厚部付近が薄い構造で強度が低いにもかかわらず、10μm程度の精度で加工しなければならないため、製作に時間と費用が必要であったが、本実施形態では、高さを半減し、強度を増すことで製作を容易にし、製作時間とコストを削減することが可能になる。
【0041】
なお、リッジフィルタ要素32は、片面各々加工した後に張り合わせたものでもよく、また、ひとつの材料から両面を加工してもよいものである。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、最厚部の高さを半減し、強度を増すことで製作を容易にし、製作時間とコストを削減することが可能になる。
【0043】
また、従来技術では、可能な限り小さな原子番号の材質を使用しているが、大きなSOBPを形成する場合、小さな原子番号の材質(アルミ等)は比較的比重が軽いのでリッジフィルタの高さが高くなり過ぎてしまうので、原子番号は大きくなるが比重の重い材質(真鍮等)を使用している。本実施例によれば、最厚部の高さを半減し、製作を容易にできるので、従来使用していた材質よりも比重が軽い材質を使用することができる。比重が軽い材質を使用できることで原子番号の小さな材質を使用することができ、リッジフィルタによる散乱を小さくし、ビーム利用効率を高くすることができる。
【0044】
本実施例によれば、最圧部の高さを半減し、製作を容易にできるので、従来よりも高さの大きいリッジフィルタの製作が可能になる。高さの大きいリッジフィルタを製作できることにより、従来よりも大きなSOBP領域を作ることができる。
【0045】
次に、図7を用いて、本発明の第2の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す正面図である。なお、厚さ方向、幅方向、奥行き方向は、図4や図5と同様に定義するものである。また、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置の全体構成は、図1と同様である。さらに、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いる照射野形成装置の構成は、図2と同様である。
【0046】
本実施形態のリッジフィルタのリッジフィルタ要素32Aは、ビームに対して、上流面も、下流面も階段状となっている。さらに、本実施形態のリッジフィルタのリッジフィルタ要素32Aでは、イオンビームに対して上流側の厚みが変化する位置と下流側の厚みが変化する位置を異なる位置とし、互い違いとしている。リッジフィルタ要素32Aが、図5に示したように、並列に複数配置されて、リッジフィルタが構成される。
【0047】
リッジフィルタ要素32Aは多数の段部からなり、最も厚み方向が厚い段部を最厚部34AA,34BAとする。図示の例では、段数は、図4の従来例と比較しやすいように、図4の例と同じように5段として図示しているが、実際のリッジフィルタにおいては、その段数は30段程度ある。
【0048】
最厚部34AAの寸法についてみると、最厚部34AAの高さ(最厚部34AAの一段下の段に対して、最厚部34AAが突出している部分の厚さ方向の数値)は、図4と同じで、例えば、1mmであるが、最厚部34AAの幅は、図4の1.5倍の,例えば、150μmとなる。
【0049】
これにより、最厚部の幅を大きくすることができ、加工を容易にし、コストを低減することができる。また、片面あたりの厚み方向の変化する位置の数を半減することができるが、リッジフィルタ要素37の異なる厚みの数は従来と同じ数にすることができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、最厚部の厚さを厚くでき、強度を増し、段部1段あたりの幅を大きくすることで、製作を容易にし、製作時間とコストを削減することが可能になる。
【0051】
本実施例によれば、各段部の幅を大きくし、製作を容易にできるので、従来使用していた材質よりも比重が軽い材質を使用することができる。比重が軽い材質を使用できることで原子番号の小さな材質を使用することができ、リッジフィルタによる散乱を小さくし、ビーム利用効率を高くすることができる。
【0052】
本実施例によれば、各段部の幅を大きくし、製作を容易にできるので、従来よりも高さの大きいリッジフィルタの製作が可能になる。高さの大きいリッジフィルタを製作できることにより、従来よりも大きなSOBP領域を作ることができる。
【0053】
本実施例によれば、各段部の幅が大きくなったことで、ひとつのリッジフィルタ要素に従来よりも多くの段部を加工できる。段部の数を多くすることで、リッジフィルタ通過後のイオンビームのエネルギー成分の数を増やすことができる。エネルギー成分を増やすことで、標的でのブラッグピークの数が増え、線量一様度を増すことができる。
【0054】
次に、図8を用いて、本発明の第3の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成について説明する。
図8は、本発明の第3の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す正面図である。なお、厚さ方向、幅方向、奥行き方向は、図4や図5と同様に定義するものである。また、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置の全体構成は、図1と同様である。さらに、本実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いる照射野形成装置の構成は、図2と同様である。
【0055】
本実施形態のリッジフィルタのリッジフィルタ要素32Bは、ビームに対して、上流面も、下流面も階段状となっている。さらに、本実施形態のリッジフィルタのリッジフィルタ要素32Bでは、リッジフィルタ要素32Bの最も厚い部分に対して幅方向の両側を非対称な形とし、リッジフィルタ要素内の同じ厚さの部分は一箇所のみとし、厚みの大きい部分から、最厚部の幅方向の両側に対して互い違いに配置する。配置する際、隣の厚み部分と厚さ方向の片側を揃えた構造とする。リッジフィルタ要素32Bが、図5に示したように、並列に複数配置されて、リッジフィルタが構成される。
【0056】
リッジフィルタ要素32Bは多数の段部からなり、最も厚み方向が厚い段部を最厚部34AB,34BBとする。図示の例では、段数は、図4の従来例と比較しやすいように、図4の例と同じように5段として図示しているが、実際のリッジフィルタにおいては、その段数は30段程度ある。
【0057】
最厚部34ABの寸法についてみると、最厚部34ABの高さ(最厚部34ABの一段下の段に対して、最厚部34ABが突出している部分の厚さ方向の数値)は、図4と同じで、例えば、1mmであるが、最厚部34AAの幅は、図4の2倍の,例えば、200μmとなる。
【0058】
最厚部34BBの寸法についてみると、最厚部34BBの高さ(最厚部34BBの一段下の段に対して、最厚部34BBが突出している部分の厚さ方向の数値)は、図4との2倍で、例えば、2mmであるが、最厚部34AAの幅は、図4の2倍の,例えば、200μmとなる。
【0059】
これにより、最厚部の幅を大きくすることができ、加工を容易にし、コストを低減することができる。また、片面あたりの厚み方向の変化する位置の数を半減することができるが、リッジフィルタ要素37の異なる厚みの数は従来と同じ数にすることができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、最厚部の厚さを厚くでき、強度を増し、段部1段あたりの幅を大きくすることで、製作時間とコストを削減することが可能になる。
【0061】
また、本実施形態によれば、各段部の幅を大きくし、製作を容易にできるので、従来使用していた材質よりも比重が軽い材質を使用することができる。比重が軽い材質を使用できることで原子番号の小さな材質を使用することができ、リッジフィルタによる散乱を小さくし、ビーム利用効率を高くすることができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、各段部の幅を大きくし、製作を容易にできるので、従来よりも高さの大きいリッジフィルタの製作が可能になる。高さの大きいリッジフィルタを製作できることにより、従来よりも大きなSOBP領域を作ることができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、各段部の幅が大きくなったことで、ひとつのリッジフィルタ要素に従来よりも多くの段部を加工できる。段部の数を多くすることで、リッジフィルタ通過後のイオンビームのエネルギー成分の数を増やすことができる。エネルギー成分を増やすことで、標的でのブラッグピークの数が増え、線量一様度を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いる照射野形成装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置におけるイオンビームのエネルギーと線量の関係の説明図である。
【図4】比較例として、従来のリッジフィルタの構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す正面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す正面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による荷電粒子ビーム照射装置に用いるリッジフィルタの構成を示す正面図である。
【符号の説明】
【0065】
1…荷電粒子ビーム照射装置
2…荷電粒子ビーム発生装置
4…シンクロトロン
13…照射野形成装置
16…ビーム拡大装置
24,41…リッジフィルタ
32…リッジフィルタ要素
34…最厚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム発生装置と、荷電粒子照射装置とを有し、前記荷電粒子照射装置は、前記ビームのエネルギー分布を拡大するエネルギー分布拡大装置を有する荷電粒子ビーム照射装置において、
前記エネルギー分布拡大装置は、前記ビームの上流側の面と前記ビーム下流側の面において、共に階段状の構造を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射装置において、
前記エネルギー分布拡大装置の前記階段状の構造は、前記ビームの上流側の面と前記ビーム下流側の面において対称であることを特徴とする荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射装置において、
前記エネルギー分布拡大装置の前記階段状の構造は、厚みが変化する位置が、前記ビーム上流側の面と前記ビーム下流側の面とで異なる位置であることを特徴とする荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項4】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射装置において、
前記エネルギー分布拡大装置の前記階段状の構造は、最厚部に対して両側を非対称とし、異なる厚さの部分を、前記ビーム軸方向の一端を揃え、順に薄くなっていくように配置したものであることを特徴とする荷電粒子ビーム照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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