説明

荷電粒子線の照射方法及び荷電粒子線装置

【課題】
本発明は、検出器等以外の方向に向かう荷電粒子を高効率に検出可能とする荷電粒子線の照射方法及び荷電粒子線装置の提供を目的とする。
【解決手段】
上記目的を達成するために、試料から放出される荷電粒子の軌道を集束する集束素子を、当該集束素子による集束作用が、試料に向かう荷電粒子線に影響を与えない(或いは影響を抑制可能な)位置に配置した荷電粒子線装置、及び荷電粒子線の照射方法を提案する。集束作用は、試料から放出された電子に選択的に影響し、試料に向かう荷電粒子線への影響を抑制されるため、試料から放出され、検出器等以外の方向に向かう荷電粒子を集束し、検出器等に導くことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線の照射方法、及び荷電粒子線装置に係り、特に、試料から放出される二次信号の軌道の制御が可能な荷電粒子線の照射方法、及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の1種である走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下SEM)は、電子源から放出された一次電子線(電子ビーム)を加速し、静電または磁界レンズを用いて試料上に集束したスポットビームを、試料上で二次元状に走査し、試料から二次的に発生する二次電子または反射電子等の二次信号を検出し、検出信号強度を一次電子線の走査と同期して走査されるモニターの輝度変調入力とすることで二次元の走査像(SEM像)を得る装置である。
【0003】
近年、半導体産業の微細化が進んだことから、SEMが光学顕微鏡に代わって、半導体素子製作のプロセスまたはプロセス完成後の検査(例えば電子ビームによる寸法測定や電気的動作の検査)に使われるようになった。半導体デバイス内部構造の多層薄膜構造観察では、試料表面の情報を有する二次電子に加え、傾斜情報を有する反射電子を効率よく検出することで、表面形状の測定や欠陥検出の評価が可能となる。最新のSEMでは、二次電子と反射電子の信号を分離できるエネルギーフィルタ等が搭載されており、目的に応じた像コントラストの形成が可能である。また、最近の半導体プロセスで利用されているArFレジストやLow−K材は、SEM観察を行うと電子ビーム照射による収縮(シュリンク)や変形が見られる。この現象は加速電圧を低くすることで軽減できるが、一方でSEMの分解能が低下するため高分解能観察が困難であった。
【0004】
そこで、試料に負の電圧を印加するリターディング法や、対物レンズ近傍に加速電極を配置することで一次電子線の色収差低減を図ったブースティング法等の採用により、低加速電圧領域においても高分解能観察が可能となってきた。一方、試料から放出される二次電子,反射電子等の二次信号を効率よく検出するために、二次信号分離用直交電磁界発生器(EXB)を使用した検出器が用いられている。その代表的な例が、特許文献1に記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、検出器を分割した検出素子にて構成し、電子の軌道に応じた信号処理を行うことによって、所望のコントラストで試料像を形成する技術が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−250560号公報
【特許文献2】特開2005−347281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、試料から放出される電子の軌道は、試料に到達する電子ビームのエネルギー、或いは試料に付着する帯電の状況等によって、変動する。試料から放出される電子が、検出器や二次電子変換電極(試料から放出された電子の衝突によって、新たな二次電子を放出する電極、以下検出器と二次電子変換電極を併せて検出器等と称することがある)に到達する前に、他の構造物等に衝突すると、その分の二次電子情報は失われ、検出効率が低下する。特許文献1,2には、例えば電子ビーム光軸を中心として検出器等の外側方向に向かう電子を検出する手法は提案されていない。
【0008】
以下に、検出器等以外の方向に向かう荷電粒子を高効率に検出可能とすることを目的とした荷電粒子線の照射方法及び荷電粒子線装置について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、試料から放出される荷電粒子の軌道を集束する集束素子を、当該集束素子による集束作用が、試料に向かう荷電粒子線に影響を与えない(或いは影響を抑制可能な)位置に配置した荷電粒子線装置、及び荷電粒子線の照射方法を提案する。集束作用は、試料から放出された電子に選択的に影響し、試料に向かう荷電粒子線への影響を抑制されるため、試料から放出され、検出器等以外の方向に向かう荷電粒子を集束し、検出器等に導くことが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、試料に向かう荷電粒子線への影響を与えることなく、荷電粒子検出効率を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】走査電子顕微鏡の概略構成図。
【図2】試料から放出された電子が検出器に至るまでの軌道を説明する図。
【図3】二次信号軌道の解析結果の一例を説明する図。
【図4】二次信号軌道の制御の一例を説明する図。
【図5】集束電極電圧とファラデーカップによって検出される電流値の関係を示す図。
【図6】二次信号軌道の制御の一例を説明する図。
【図7】集束電極電圧と電流値の関係を示す図。
【図8】試料帯電時の二次信号軌道の制御の一例を説明する図。
【図9】試料帯電時の集束電極電圧と電流値の関係の推移を説明する図。
【図10】二次信号軌道制御のフローチャート。
【図11】多段の集束電極の構成の一例を説明する図。
【図12】昇降機構を持つ集束電極の構成の一例を説明する図。
【図13】クロスオーバを作らない光学系の概要を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、試料から放出される荷電粒子線の軌道を制御可能な荷電粒子線装置について、図面を用いてその詳細を説明する。なお、以下の説明では、荷電粒子線装置の一例として走査電子顕微鏡を例にとって説明するが、これに限られることはなく、集束したイオンビームを走査して、その走査像を形成する集束イオンビーム(Focused Ion Beam)装置への適用も可能である。
【0013】
SEMでは、例えば電子ビームが試料に到達する際のエネルギーや、試料に付着する帯電等によって、試料から放出される電子の軌道が変化し、例えば、反射電子や二次電子等の二次信号が検出器等に到達する前に他の構造物に衝突してしまうことや検出器等に設けた一次電子(電子ビーム)通過用の穴から二次信号が抜けることなどで、二次信号が損失し、検出効率を低下させるという問題がある。また、一次電子線の照射による試料帯電によって二次信号が偏向作用を受けて時間経過とともに二次信号の軌道が変化し、二次信号が検出器等に到達できず検出効率を低下させる事象については、対応できないことがある。
【0014】
以下に説明する実施例では、試料から放出される二次信号の検出効率を向上し、検出信号を一定に制御することが可能となる。
【0015】
本実施例では、上記目的を達成するために、集束電極を対物レンズと二次電子変換電極の間に配置し、一次電子線のクロスオーバ点を集束電極の中心位置に制御することで、二次信号の軌道のみを制御することを特徴としている。
【0016】
更に、二次電子変換電極の外側にはファラデーカップを配置し、二次電子変換電極に衝突しなかった二次信号を電流値に変換して測定し、電流値をフィードバックして集束電極に印加する電圧を決定し、二次信号の軌道を二次電子変換電極内に制御できることを特徴としている。
【0017】
図1は走査電子顕微鏡の構成を示す図である。陰極1と第一陽極2の間には、制御演算装置40(制御プロセッサ)で制御される高電圧制御電源30により電圧が印加され、所定のエミッション電流が陰極1から引き出される。陰極1と第二陽極3の間には制御演算装置40で制御される高電圧制御電源30により加速電圧が印加されるため、陰極1から放出された一次電子線4は加速されて後段レンズ系に進行する。
【0018】
一次電子線4(電子ビーム)は、集束レンズ制御電源31で制御された集束レンズ5で集束され、絞り板8で一次電子線4の不要な領域が除去された後に、集束レンズ制御電源32で制御された集束レンズ6および対物レンズ制御電源36で制御された対物レンズ7により、試料10に微小スポットとして集束される。集束レンズ6は対物レンズ7の物点を任意の位置に制御することができ、対物レンズ7の入射開き角の制御が可能である。
【0019】
試料10には、試料台11を介して試料印加電源37により負の電圧を印加され、一次電子線を減速させるための電界が形成可能となっている(以下、リターディング方式と称する)。また、対物レンズ7に直接あるいは近傍に色収差低減のための正の電圧を印加して加速させる電極を配置したブースティング方式も可能である。このブースティング方式に関しては、対物レンズの電子ビーム通路にて、電子ビームを選択的に加速させる方式であっても良いし、例えば第二陽極3から対物レンズに至るまで、筒状の加速電極を配置し、当該加速電極に正電圧を印加する手法であっても良い(以下、便宜上、カラムブースティングと称する)。
【0020】
一次電子線4は、走査コイル制御電源33によって制御される走査コイル9で試料10を二次元的に走査される。一次電子線4の照射で試料10から発生した二次電子,反射電子等の二次信号12は、対物レンズ7による引上げ磁界あるいは引上げ電界の作用により有限の広がりを持って対物レンズ7の上部に進行し、二次電子変換電極13に衝突し、二次電子14を発生させる。
【0021】
二次電子14は、偏向電極16が形成する偏向電界によって信号検出器17側に偏向される。信号検出器17で検出された信号は、信号増幅器18で増幅された後、画像メモリ41に転送されて像表示装置42に試料像として表示される。
【0022】
有限の大きさを持つ二次電子変換電極13から外れるような二次信号21は、ファラデーカップ20により補足され、電流計34によって二次電子変換電極で補足出来なかった二次信号12を電流として測定することが可能である。また、二次信号12は、二次信号制御電圧35で制御された集束電極19によって集束され二次電子変換電極13における広がりを制御することが可能である。また、二次電子変換電極13外に向かう電子を補足するための検出器として、ファラデーカップに替えて、例えば、マイクロチャネルプレート(Micro Channel Plate:MCP)検出器のような検出器を適用することも可能である。
【0023】
試料から放出された二次電子,反射電子等の二次信号12の軌道を制御するための実施例について、図2を用いて以下に詳細に説明する。図2は、試料から放出された電子が検出器に至るまでの軌道を概念的に示した図である。
【0024】
一次電子線4は、集束レンズ6で任意のクロスオーバ点23に集束される。クロスオーバ点23は対物レンズ7の入射開き角を制御することができ、対物レンズ7における球面収差や色収差などによる複合収差の最小条件を設定することができ、結果として高分解能化が実現できる。また、逆に開き角を小さくすることで焦点深度の深い光学条件の実現も可能である。
【0025】
一次電子線4は対物レンズ7によって試料10に微小スポットに集束され、微小スポットから発生する二次信号12は対物レンズ7の引上げ作用および集束作用によって対物レンズ7の上方に進行し、クロスオーバ点15で集束した後、有限の広がりを持って二次電子変換電極13に衝突する。
【0026】
二次電子変換電極13によって変換された試料からの情報である二次電子14は偏向電極16によって信号検出器17側に偏向され、信号として取り込まれる。偏向電極16は対向する2枚の電極の単純な構成でも構わないが、一次電子線4に対して偏向収差が発生しない二次信号分離用直交電磁界発生器(EXB)を用いるのが望ましい。
【0027】
集束電極19は集束電界22によって静電レンズとして働き、試料10から上がってくる二次信号12の軌道を制御する。二次電子変換電極13の外側にはファラデーカップ20が配置されており、二次電子変換電極13に衝突しなかった電子を補足し、電流計34によって電流値として測定される。この電流値を用いて制御演算装置40でフィードバック制御することで、二次電子変換電極13から軌道が外れた二次信号12を、二次電子変換電極13に向かって偏向し、二次電子変換電極13に衝突させることが可能になる。集束電極19には例えば負電圧が印加され、ファラデーカップ20にて検出される電子量が大きいほど、印加電圧を高く設定するような制御を行うことで、二次電子変換電極13外に向かう電子を、過剰な電圧を印加することなく、二次電子変換電極13に導くことができる。ファラデーカップ20は、一次電子線4の光軸を中心としたときに、二次電子変換電極13の外側に配置されている。
【0028】
実際には集束電極19は、一次電子線4の通路(一次電子線4が通過する真空雰囲気と同じ空間)に配置されているため、一次電子線4にも集束作用が働き、クロスオーバ点23が変化し、対物レンズ7のフォーカスがずれてしまうことが懸念されるが、クロスオーバ点23を図2に示すように集束電極19の中心位置にすることで(クロスオーバ点23が、集束電極19(集束電極19の中心)と同じ高さとなるように)、一次電子線4のクロスオーバ点23は変化させずに、二次信号12の軌道のみを集束させることが可能である。
【0029】
理想的には、集束電極19が発生する集束電界22の高さ方向の中心が、クロスオーバ23と同じ高さとなるようにすると良い。厳密に言えば、電界がある程度の広がりを持つ以上、集束電極19の集束作用による一次電子線4への影響はゼロではない場合がある。しかしながら、二次信号に対する影響と比べると、相対的にその影響は極めて小さい。
【0030】
尚、試料10から放出される二次信号12は、試料上の広い角度範囲に亘って放出されると共に、数eVから一次電子線4の加速電圧に相当するエネルギーに至るまでの広いエネルギー範囲を持つため、その軌道は一様ではない。しかしながら、特に表面情報を持つ二次電子については、二次電子変換電極13に衝突する二次信号の個数がSEM画像の信号となるため、二次電子放出比の大きい1〜2eV程度の二次電子の軌道について考えれば良い。
【0031】
一方、試料の角度情報を持つ反射電子については、試料10から二次電子変換電極13の間にエネルギーフィルタを配置し、二次信号12を反射電子のみに分離した上で、集束電極19を用いて二次電子変換電極13上での反射電子の広がりを制御することで可能になる。
【0032】
また、二次電子変換電極13は一次電子線4を通過させるために、二次電子変換電極13の中心部に一次電子線の径よりも大きい通過穴24を空けて置く必要がある。例えば、一次電子線4の径が二次電子変換電極13の位置で0.1mm程度のビーム径を持つのであれば、当然であるが0.1より大きい穴が必要である。ただし、一次電子線4を通過させるための穴が大きすぎると、対物レンズ7から上がってきた二次信号12も穴を通過するため、二次信号12の損失に繋がり、S/Nが低下する。
【0033】
通過穴24は二次信号12を著しく損失するような大きであってはならない。従って、二次電子変換電極13上での二次信号12の広がりは通過穴24に対してS/Nを低下しない程度の広がりを持つ必要があるため、通過穴は0.5mmから1.0mm程度のものが望ましい。
【0034】
図3は本実施例を適用する走査電子顕微鏡において、二次信号の軌道についてシミュレーションによって解析した一例である。図3の構成はリターディング法の走査電子顕微鏡の構成であるが、陰極1から−3000Vで加速された一次電子線4は、ランディング電圧を300V,1300V,2000Vに制御するために、Aでは−2700V、Bでは−1700V、Cでは−2000Vの電圧が試料10に印加される。D,E,Fは、A,B,Cの構成に加えて、対物レンズ7近傍に配置したブースティング電極25にブースティング電源38から正の電圧を印加する。二次信号12は二次電子を代表して2eVの二次電子について計算しており、試料上0度から90度の角度で放出された二次電子の軌道について示している。加速電圧が異なる条件では二次電子変換電極13上での二次電子の軌道が異なり、信号量がばらつき、加速電圧によってS/Nが変化する。また、Bでは二次電子変換電極13から二次信号12が大きく外れることによって、あるいはCやFでは二次信号12が通過穴24を抜けることによって、信号が取れず著しくS/Nが劣化している。
【0035】
図4〜図8は上記の内容を補正する構成を具体的に示した一実施例である。図4と図6の二次信号12で示す点線は集束電極19を使用しなかった場合の二次信号12の軌道を示している。
【0036】
図4は図3中Bで示すような二次信号12が二次電子変換電極13から大きくはずれた場合に、集束電極19を用いて二次信号12を集束させる例を示している。二次信号12は集束電界22の集束作用により集束され、集束電極19に印加する電圧がある値以上になれば二次電子変換電極13に衝突する。図5は集束電極19に印加する電圧値と電流計34によって測定される電流値の関係について示している。二次信号12が二次電子変換電極13に衝突しなかった電子の量が電流値であることから、集束電極19の集束作用によって、電流計34によって計測される電流量が小さくなるということは、二次信号12が二次電子変換電極13に衝突したことを意味する。従って、図5中の電流が0になる電圧50に集束電極19の電圧値が上昇した場合に、S/Nの向上が図れる。また、集束電極19の電圧値を電圧50の値に制御することで、二次電子変換電極13に当たる二次信号12の広がりを一定に保つことが可能である。例えば、試料10において、試料の厚さやたわみ等の影響によって試料高さが変わった場合に対しても、二次信号12の軌道を制御することで検出器17に到達する二次電子14の量を一定量にし、S/Nの劣化を防ぐことが可能である。
【0037】
以上のように、試料から放出される電子の軌道制御によって、所定の信号量を維持するという側面と、極力検出される信号量が多くするという側面がある。そのための具体的な手法として、電流計34によって検出される電流量が極力小さくなる(理想的にはゼロにする)ような制御を行うことが考えられるが、この外にも、電流量がゼロ以外の所定値となるように制御することも考えられる。検出量をゼロ以外の値にするような制御であっても、検出量の維持に基づく測定の安定性をはかることができる。
【0038】
本例では、ファラデーカップ20によって検出される電子量に基づいて、集束電極19に印加する電圧値を制御する例について説明しているが、例えば、検出器17によって検出された電子に基づいて形成される画像の明るさを所定値とするように、集束電極19に印加する電圧を制御するようにしても良い。この場合、ABCC(Auto Brightness Contrast Control)技術を併用して、明るさを所定のものとなるように、集束電極19に印加
する電圧をコントロールするようにしても良い。但し、二次電子変換電極13を外れた電子を直接的に検出した上で、それを小さくするような制御の方が、より直接的に検出効率を向上させることができる。
【0039】
図6は図3中Fで示すような二次信号12が二次電子変換電極13の通過穴24から損失する場合に、集束電極19を用いて二次信号12の軌道を制御する例を示している。二次信号12は集束電界22によって集束電極19と二次電子変換電極13との間にクロスオーバ点26を結ぶ。クロスオーバ26点を過ぎた二次信号12は広がりながら二次電子変換電極13に衝突する。図7は上記内容において集束電極19に印加する電圧値と電流計34によって読取られる電流値の関係を示しているが、電圧をより大きくすることで、ある電圧値以上になると二次信号12は二次電子変換電極13から外れ、ファラデーカップ20に入り、電流計34によって電流値として測定される。電流値が0を超える電圧51に集束電極19の電圧値が上昇した場合に、二次信号12は二次電子変換電極13上の大きさと同程度に広がったことを意味する。従って、集束電極19の電圧値を電圧51に一定に保つことで、二次信号の損失を防ぎ、SEM画像のS/Nを一定に保つことが可能になる。
【0040】
図8は他の実施例についての模式的図である。一次電子線4が試料10に照射されたときに発生する特にエネルギーの低い数eV程度の二次信号12の軌道は、一次電子線4の照射時に蓄積される負帯電による電界によって偏向され、図中実線に示すように試料に対して垂直方向に角度を持つ方向に傾けられる。試料垂直方向から傾けられた二次信号12は、帯電生成前に放出された二次電子より、対物レンズ7の外側を通るために、帯電生成前に放出された二次信号12より、二次電子変換電極13の外側に入射する。二次電子変換電極13は有限の大きさを持つ為、帯電の影響で試料垂直方向から傾けられた二次信号12が、二次電子変換電極13に入射せず、検出効率が低下する場合がある。また、観察領域に正帯電が励起された場合、放出された二次信号12は過収束され、二次電子変換電極13の中央に空けられた通過穴24を通り抜けてしまい、検出効率が低下する。このような試料帯電による二次電子の検出効率を一定にすることにおいても本発明は有効である。図9は試料帯電時の集束電極19の制御方法について模式的に示した図である。帯電現象は一次電子線4の照射中は常に進行するので、二次電子変換電極13位置での広がりも常に変化する。従って、二次信号12を二次電子変換電極13の大きさに合わせて一定の広がりに抑えるためには、ある一定の時間間隔で、例えば0.1ms毎に電流計34の電流値を測定し、制御演算装置40によりフィードバック制御し、電流値が大きくなった場合には集束電極19の印加電圧を上げて電流計34で測定する電流値を0にするように、二次信号12の軌道をリアルタイムに制御することで実現できる。また、本実施例では電流値を0に必ずしもする必要はなく、二次電子変換電極13から外れる二次信号の多少の損失は発生するが、例えば電流計34で測定される電流値Iに対し、1pA≦I<3pAのように、ある一定の電流値になるように集束電極19の電圧をフィードバック制御することで、二次信号12の広がりを一定に保つことも可能である。上記内容は、負帯電時に限らず正帯電時においても有効な制御である。
【0041】
図10は上記二次信号12を一定に制御するフローチャートの一実施例である。所定の観察位置に試料10を動かした後、対物レンズ7によってフォーカスを調整する(S101)。集束電極19の印加電圧を例えば1Vステップで印加し(S102)、ファラデーカップ20で電流値を測定する(S103)。電流値が0でなければ、集束電極19の印加電圧を更に1V上昇させる(S104)。電流が0になったところで、動作を終了する。
【0042】
図11は集束電極19の構成について示したものである。本発明は一次電子線4のクロスオーバ点23に二次信号12の軌道を制御する集束電極19を配置するものであるが、一次電子線4のクロスオーバ点23は、対物レンズ7における開き角を制御し、分解能,焦点深度等の走査電子顕微鏡の性能を決定する重要な因子であり、光学条件(モード)によって位置が変わる。図11に示すように多段の集束電極19であれば、クロスオーバ点23に応じて集束電極19を選択できる。また、図12に示すように昇降機構を持つものであっても良く、クロスオーバ23の位置に応じて、集束電極19の位置が可変なものであっても良い。
【0043】
また、光学条件の変化によっては、クロスオーバ点23と集束電極19の位置がずれてしまうことがあるため、光学モードやレンズ条件に応じて、集束電極19への電圧印加ができなくなるような禁止処理、或いはオペレータにその旨を通知するエラーメッセージを行うようにすれば、クロスオーバ点と集束電極の位置(高さ)が異なる場合に、集束電極に電圧を印加し、結果、光学条件を乱してしまうような事態をなくすことが可能となる。
【0044】
なお、これまで二次電子変換電極によって、試料から放出された電子を、二次電子に変換し、その二次電子を検出器に偏向して検出する検出機構を備えたSEMを例にとって説明してきたが、これに限られることはなく、例えば試料から放出される電子の軌道上に、MCP検出器のような検出器を配置し、試料から放出される電子を直接的に検出する検出機構を備えたSEMにも適用が可能である。
【0045】
また、試料から放出される電子を集束する集束電極19に替えて、集束磁場を発生させる集束コイルを適用することも可能である。
【0046】
更に、電子ビームに影響を与えないコンディションにおいて、試料から放出される電子を選択的に集束する他の手法について、図13を用いて説明する。図13は、集束レンズ6(この光学系の場合、集束させない)によってクロスオーバを作らない光学系の一例を説明する図である。集束電極19と一次電子線4(電子ビーム光軸)との間には、シールド電極43が配置されている。シールド電極43は、電子線光軸を包囲する筒状体であって、集束電極19によってもたらされる集束電場の一次電子線4への到達を抑制する。集束電極19が形成する集束電界は、電子線光軸に及ばないので、当該シールド電極43の外側を通過する電子の軌道を選択的にコントロールすることができる。このような構成によれば、クロスオーバを作らない光学系、或いはクロスオーバを作る光学系であっても、当該クロスオーバを作る個所以外での集束電極の適用が可能となる。なお、シールド電極43によって、集束電極19が形成する集束電場の一次電子線4への到達は抑制可能となるが、シールド電極43内部を通過する二次電子等に集束作用をもたらすことはできず、更に、シールド電極43が検出器に向かう電子の障害物ともなるため、集束電極19は、クロスオーバを作る光学系に適用することが望ましい。
【0047】
なお、集束電極43に替えて、集束コイルを適用する場合には、シールド電極43に替えて磁気シールドを用いるようにすると良い。
【0048】
更に、上記説明では、リターディング方式を適用することを前提としてきたが、上述したカラムブースティング方式の場合、試料から放出された電子は、正電圧が印加された筒状電極によって電子源方向に向かって加速されるため、リターディング方式を採用せずとも、エネルギーが0eVに近い電子を二次電子変換電極(或いは検出器)に導くことができる。無論、リターディング方式とブースティング方式(或いはカラムブースティング方式)を併用する光学系にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 陰極
2 第一陽極
3 第二陽極
4 一次電子線
5,6 集束レンズ
7 対物レンズ
8 絞り板
9 走査コイル
10 試料
11 試料台
12,21 二次信号
13 二次電子変換電極
14 二次電子
15,23,26 クロスオーバ点
16 偏向電極
17 信号検出器
18 信号増幅器
19 集束電極
20 ファラデーカップ
22 集束電界
24 通過穴
25 ブースティング電極
30 高電圧制御電源
31,32 集束レンズ制御電源
33 走査コイル制御電源
34 電流計
35 二次信号制御電圧
36 対物レンズ制御電源
37 試料印加電源
38 ブースティング電源
40 制御演算装置
41 画像メモリ
42 像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射し、当該照射位置から放出された荷電粒子を検出する荷電粒子線照射方法において、
試料から放出された荷電粒子を集束する集束素子と、当該試料から放出された荷電粒子を検出する検出器或いは前記荷電粒子を二次電子に変換する二次電子変換部材と、前記荷電粒子線を中心として前記検出器或いは二次電子変換部材の外側に配置される外側検出器を備えた荷電粒子線装置を用いて、前記外側検出器によって検出される荷電粒子量が少なくなるように、前記集束素子を調整することを特徴とする荷電粒子線照射方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記集束素子は、前記荷電粒子線のクロスオーバ点と同じ高さに配置されることを特徴とする荷電粒子線照射方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記集束素子が配置される位置と、前記試料に照射される荷電粒子線との間に、前記試料に照射される荷電粒子線を包囲すると共に、前記荷電粒子線に対する前記集束素子の集束作用を抑制する筒状体が配置されていることを特徴とする荷電粒子線照射方法。
【請求項4】
荷電粒子源と、
当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線を集束して試料上で走査する荷電粒子光学系と、
前記試料から放出された荷電粒子を検出、或いは当該放出された荷電粒子が二次電子変換部材に衝突したときに発生する電子を検出する検出器を備えた荷電粒子線装置において、
前記試料から放出された荷電粒子を集束する集束素子と、
前記荷電粒子線を中心として前記検出器或いは二次電子変換部材の外側に配置される外側検出器と、
前記外側検出器によって検出される荷電粒子量が少なくなるように、前記集束素子を制御する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記集束素子は、前記荷電粒子源から放出された荷電粒子線のクロスオーバ点と同じ高さに配置されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記クロスオーバ点の移動に従って、前記集束素子を移動させる移動機構を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記集束素子は、前記荷電粒子線光軸に沿って複数配列され、前記制御装置は、前記クロスオーバ点と同じ高さの集束素子による集束が行われるように、当該集束素子を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項4において、
前記集束素子が配置される位置と、前記試料に照射される荷電粒子線との間に、前記試料に照射される荷電粒子線を包囲すると共に、前記荷電粒子線に対する前記集束素子の集束作用を抑制する筒状体が配置されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項4において、
前記外側検出器は、ファラデーカップであることを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−230919(P2012−230919A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186047(P2012−186047)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【分割の表示】特願2008−216098(P2008−216098)の分割
【原出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】