説明

菌数測定装置、及び菌数測定方法

【課題】菌の回収率を高く維持しつつ、被測定液の前処理とDEPIM測定処理とを同一の容器内で効率よく行う菌数測定装置等を提供する。
【解決手段】被測定液17に含まれる菌数を被測定液17のインピーダンスの変化に基づいて測定する菌数測定装置1において、被測定液17のイオン交換処理を行うイオン交換処理部11と、被測定液17の導電率の調整、及びインピーダンスの検出を行う測定処理部12とを有し、イオン交換処理部11、及び測定処理部12が、着脱自在に配設された分離体13により区画された少なくとも二つの領域を有する一のセル10内に夫々の区画ごとに備えられる。分離体13に隣接する位置には、イオン交換処理部11と測定処理部12との間で被測定液17の移動を可能とし、イオン交換樹脂15の移動を遮断する一又は複数の仕切体14を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定液のインピーダンスの変化に基づいて当該被測定液に含まれる菌数を測定する菌数測定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定液に含まれる菌数を定量する技術として、誘電泳動とインピーダンス測定とを組み合わせたDEPIM(Dielectrophoretic Impedance Measurement Method)が知られている。DEPIMは、例えば細菌の菌数を定量する場合、細菌懸濁液中の電極に所定周波数の交流電圧を印加して、電極ギャップ間に細菌を捕集し、このときの電極間のインピーダンスの変化を測定することで細菌数を定量するものである。
【0003】
このDEPIMに関連する技術として、特許文献1に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、検液のインピーダンス変化から菌数測定を行うときに該検液を予め調製するものであって、菌株を溶液に懸濁し、この懸濁液の導電率に応じてイオン化傾向が大きく菌より結合力が強い電解質を添加して一旦250μS/cm以上の導電率の懸濁液とし、この懸濁液を電解質に対するイオン選択性の高いイオン交換樹脂でイオン交換して導電率を10μS/cm以下に下げ、処理後の懸濁液を検液にすることを主な特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−29104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように特許文献1に示す菌数測定前処理装置は、部品数が多く構成が複雑になり装置が大型化してしまうと共に、それぞれを配管で接続するため接続関係が非常に複雑なものとなってしまうという課題を有する。また、構成が複雑であるため処理に時間要してしまうと共に、配管の洗浄等の処理が発生するため、作業が効率的ではないという課題を有する。さらに、前処理された懸濁液を回収し、回収された懸濁液をDEPIM測定する装置に改めてセットする必要があり、前処理と測定処理とがシームレスではなく、作業に手間が掛かってしまうという課題を有する。
【0006】
そこで、菌の回収率を高くし、被測定液の前処理とDEPIM測定処理とを同一の容器内で効率よく行う菌数測定装置、及び菌数測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本願に開示する菌数測定装置は、被測定液に含まれる菌数を前記被測定液のインピーダンスの変化に基づいて測定する菌数測定装置において、前記被測定液のイオン交換処理を行うイオン交換処理部と、前記被測定液の導電率の調整、及び前記被測定液のインピーダンスの検出を行う測定処理部とを有し、前記イオン交換処理部、及び前記測定処理部が、着脱自在に配設された分離体により区画された少なくとも二つの領域を有する一の収納容器内に夫々の区画ごとに備えられることを特徴とするものである。
【0008】
このように、本願に開示する菌数測定装置は、イオン交換処理部と測定処理部とが、着脱自在に配設された分離体により区画された二つの領域を有する一の収納容器内に、夫々の区画ごとに備えられるため、一の収納容器で導電率の調整、イオン交換処理、及び測定処理を行うことができ、処理の開始からDEPIM測定までバッチ方式により効率よく作業を行うことができるという効果を奏する。また、それぞれの処理部が一体となっていることで、構成が簡素化されて装置を小型化することができると共に、配管等による接続が不要となるため配管の洗浄等の手間を省いて効率よく作業を行うことができるという効果を奏する。
【0009】
(2)本願に開示する菌数測定装置は、前記分離体が、前記イオン交換処理部と前記測定処理部との間で前記被測定液の移動を遮断することを特徴とするものである。
【0010】
このように、本願に開示する菌数測定装置は、分離体がイオン交換処理部と測定処理部との間で被測定液の移動を遮断するため、導電率を調整する場合には、被測定液がイオン交換処理部に移動してイオン交換処理が行われることを防止することができ、正確に導電率を調整することができるという効果を奏する。また、DEPIM測定時には、イオン交換処理部において過剰にイオン交換処理された被測定液が、測定処理部に流入することがないため、DEPIM測定の精度を高く保つことができるという効果を奏する。
【0011】
(3)本願に開示する菌数測定装置は、前記収納容器に固定され、前記イオン交換処理部と前記測定処理部との間で前記被測定液の移動を可能とし、前記イオン交換処理部内のイオン交換樹脂の移動を遮断する一又は複数の仕切体を備えることを特徴とするものである。
【0012】
このように、本願に開示する菌数測定装置は、イオン交換処理部と測定処理部との間で被測定液の移動を可能とし、イオン交換処理部内のイオン交換樹脂の移動を遮断する一又は複数の仕切体を備えるため、イオン交換処理を行う場合には、被測定液をイオン交換処理部に移動させて収納容器全体を利用してイオン交換処理を行うことができると共に、イオン交換処理後は、イオン交換樹脂が測定処理部に移動しないため、測定処理部での処理をイオン交換樹脂がない状態で行うことができ、高い菌回収率でDEPIM測定を行うことができるという効果を奏する。
【0013】
(4)本願に開示する菌数測定方法は、被測定液に含まれる菌数を前記被測定液のインピーダンスの変化に基づいて測定する菌数測定方法において、一の収納容器に投入された前記被測定液の導電率を測定する導電率測定工程と、前記導電率測定工程で測定された導電率に基づいて、当該導電率が所定の第一の値以上になるまで前記被測定液に電解質を添加する電解質添加工程と、前記導電率が所定の第一の値以上になった場合に前記電解質の添加を停止し、前記一の収納容器にイオン交換樹脂を投入するイオン交換樹脂投入工程と、前記イオン交換樹脂が投入された前記一の収納容器内の被測定液を攪拌し、当該被測定液の導電率が所定の第二の値以下になるまでイオン交換処理を行うイオン交換処理工程と、前記導電率が所定の第二の値以下になった場合に前記被測定液と前記イオン交換樹脂とを隔離するイオン交換樹脂隔離工程と、前記イオン交換樹脂が隔離された被測定液のインピーダンスの値を検出するインピーダンス検出工程とを含むことを特徴とするものである。
【0014】
このように、本願に開示する菌数測定方法は、一の収納容器に投入された被測定液に電解質を添加して導電率が所定の第1の値以上になるまで調整し、調整後にイオン交換樹脂を投入してイオン交換処理を行い導電率を所定の第2の値以下まで調整し、イオン交換樹脂と被測定液とを隔離して被測定液のインピーダンスの変化を測定することで、処理の開始からDEPIM測定までバッチ方式により効率よく作業を行うことができるという効果を奏する。また、一の収納容器内で処理の開始からDEPIM測定まで完結するため、再現性がよく安定した結果を得ることができるという効果を奏する。
【0015】
(5)本願に開示する菌数測定方法は、前記菌数測定装置を用いた菌数測定方法であって、前記測定処理部に投入された被測定液の導電率を測定する導電率測定工程と、前記導電率測定工程で測定された導電率に基づいて、当該導電率が所定の第一の値以上になるまで前記測定処理部に電解質を添加する電解質添加工程と、前記導電率が所定の第一の値以上になった場合に前記電解質の添加を停止し、前記分離体を取り外す分離体除去工程と、前記分離体除去工程の結果、前記測定処理部から前記イオン交換処理部に移動した前記被測定液を、イオン交換処理部内のイオン交換樹脂により、前記被測定液の導電率が所定の第二の値以下になるまでイオン交換処理を行うイオン交換処理工程と、前記導電率が所定の第二の値以下になった場合に前記分離体の取り付けを行う分離体取付工程と、前記分離体取付工程により区画された測定処理部で前記被測定液のインピーダンスの値を検出するインピーダンス検出工程とを含むことを特徴とするものである。
【0016】
このように、本願に開示する菌数測定方法は、測定処理部に投入された被測定液に電解質を添加して導電率が所定の第1の値以上になるまで調整し、調整後に分離体を取り外して被測定液をイオン交換処理部に移動させ、イオン交換処理部内のイオン交換樹脂によりイオン交換処理を行い導電率を所定の第2の値以下まで調整し、再び分離体の取り付けを行いイオン交換樹脂と隔離された測定処理部で被測定液のインピーダンスの変化を測定することで、バッチ処理によりイオン交換処理と測定処理とを効率よく行うことができるという効果を奏する。また、分離体により処理工程に応じて被測定液の移動が制限されるため、不要な処理を排除して必要な処理のみを確実に効率よく行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態に係る菌数測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る菌数測定装置のセル及び電極を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る菌数測定方法を示すフローチャートである。
【図4】第1の実施形態に係る菌数測定方法の各工程を示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る菌数測定方法を示すフローチャートである。
【図6】カラム方式とバッチ方式の実験結果を示す図である。
【図7】イオン樹脂量と攪拌時間の測定結果を示す図である。
【図8】異なる仕切体ごとに測定した場合の実験結果を示す図である。
【図9】DEPIM測定時の条件についての実験結果を示す図である。
【図10】仕切体の位置についての実験結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。従って、本実施形態の記載内容のみで本発明を解釈すべきではない。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0019】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る菌数測定装置、及び菌数測定方法について、図1ないし4を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る菌数測定装置の構成を示すブロック図、図2は、本実施形態に係る菌数測定装置のセル及び電極を示す図、図3は、本実施形態に係る菌数測定方法を示すフローチャート、図4は、本実施形態に係る菌数測定方法の各工程を示す図である。
【0020】
図1に示すように、菌数測定装置1は、被測定液を投入してイオン交換処理及び測定処理等を行うセル10と、菌数測定装置1全体の動作を制御する制御部20と、セル10を分離して2つの領域に区画している分離体を移動する分離体移動部30と、被測定液の導電率やインピーダンス等の電気的な測定を行うための電圧を印加する電圧印加部40と、被測定液の導電率を調整するための電解質を添加する電解質添加部50と、利用者が菌数測定装置1を操作するための操作部60と、測定結果等をモニタリングするための表示部70とを備える。
【0021】
また、セル10は、分離体により2つの領域に区画されており、一方の区画はイオン交換処理を行うためのイオン交換処理部11であり、予めイオン交換樹脂が投入されている。他方の区画は導電率やインピーダンスの変化等の測定を行う測定処理部12であり、電圧が印加される。セル10の下部にはスターラーが配設されており、処理工程に応じてイオン交換処理部11、及び/又は測定処理部12内の被測定液を攪拌する。
【0022】
測定処理部12に投入された被測定液の導電率を測定するために、電圧印加部40が測定処理部12内に配設された電極に電圧を印加する。測定された導電率に基づいて適量の電解質が電解質添加部50により添加される。被測定液に応じて、導電率が250μScm-1ないし1000μScm-1以上になったら分離体移動部30が分離体を取り外し、被測定液がイオン交換処理部11に移動する。イオン交換処理部11には予めイオン交換樹脂が投入されており、被測定液がイオン交換処理され、次第に導電率が低下する。導電率が20μScm-1以下(より好ましくは10μScm-1以下)になったら、分離体移動部30が再び分離体をセル10に取り付け、測定処理部12内の被測定液とイオン交換処理部11内のイオン交換樹脂との接触を遮断する。その状態で測定処理部12内においてDEPIM測定が行われる。
【0023】
図2にセル10の構造を示す。図2(A)がセル10全体の構造を示す図であり、図2(B)が電極部の配線構造を示す図である。図2(A)において、セル10は分離体13により2つの領域(イオン交換処理部11と測定処理部12)に区画されている。この分離体13は、セル10に容易に着脱可能になっており、取り付け時にはイオン交換処理部11と測定処理部12との間で被測定液17の移動を遮断し、取り外し時にはイオン交換処理部11と測定処理部12との間で被測定液17の移動を可能とする。イオン交換処理部11には予めイオン交換樹脂15が投入されており、測定処理部12の側面部には電極部16が配設されている。このイオン交換樹脂15は、強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂を混合したものが適しており、特にポーラス型のものが最適である。
【0024】
電極部16では、図2(B)に示すように、被測定液17の導電率の測定が導電率測定部102で行われ、DEPIM測定が細菌捕集部101で行われる。それぞれの配線はパッド103を介して外部と電気的に接続されており、導電率を測定する際にはパッド103aとパッド103dとの間に電圧が印加され、DEPIM測定の際にはパッド103bとパッド103cとの間に電圧が印加される。
【0025】
導電率測定部102では、対向する一対の電極により導電率が算出される。細菌捕集部101は、櫛歯状の1対の電極が5μm程度のギャップを設けて嵌合して形成され、パッド103bとパッド103cとの間に所定の周波数で交流電圧が印加されると、ギャップに菌が捕集されDEPIM測定が行われる。
【0026】
分離体13がセル10に取り付けられている場合において、その隣接する位置には一又は複数の仕切体14がセル10に固定されて配設されている。この仕切体14は、多孔のメッシュ材(例えば、ナイロン材、ステンレス材、アクリル材等)で形成されており、イオン交換処理部11と測定処理部12との間で被測定液17の移動を可能とするが、イオン交換樹脂15の移動は遮断する。つまり、イオン交換処理の際に被測定液17が攪拌されるが、被測定液17はセル10全体に拡散し、イオン交換樹脂15はイオン交換処理部11に留まるため、再び分離体13をセル10に取り付けることで、イオン交換樹脂15が存在しない状態で測定処理部12内でのDEPIM測定を行うことができる。
【0027】
なお、多孔のメッシュ材は、被測定液17の移動を可能とし、イオン交換樹脂15の移動を遮断するため、イオン交換樹脂15の直径以下の径(例えば、0.5mm程度)を有する孔が形成されていればよい。また、孔径の大きさや材料に応じて多重に積層(例えば、ステンレス網×3枚)してもよい。さらに、複数素材を組み合わせて積層(例えば、ステンレス網+ナイロン材等)してもよい。
【0028】
なお、分離体13の取り付け、取り外しは、例えばソレノイド等を用いて行うことができる。具体的には、分離体移動部30が、ソレノイド、アーム部、及びフック部からなり、分離体13の上方には、被測定液17により浸漬されない位置にフック用の穴を開けておき、制御部20がソレノイドを制御することで、フック部の前後移動で分離体13の穴にフックを引っ掛け、アーム部の上下移動で分離体13の取り付け、取り外し等を行うようにしてもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る菌数測定方法について、図3及び図4を用いて説明する。まず、被測定液17を測定処理部12に投入し(S31)、被測定液17の導電率を測定する(S32)。このとき、分離体13はセル10に取り付けられた状態とし、被測定液17は、測定処理部12にのみ存在している状態となる(図4(A)を参照)。なお、図4(A)では、イオン交換処理部11に予めイオン交換樹脂15が投入されているが、この時点では必ずしも投入されていなくてもよい。
【0030】
導電率を測定しながら電解質を添加し(S33)、導電率が250μScm-1以上であるかを判定する(S34)。ここでの判定基準は、被測定液によって250μScm-1ないし1000μScm-1となる。導電率が250μScm-1以上でなければ、250μScm-1以上になるまで繰り返して電解質を添加する(図4(B)を参照)。なお、電解質としては、イオン化傾向が強く、菌のゼータ電位による電気力よりもイオン交換樹脂との反応活性が高い物質が望ましく、例えば塩化ナトリウムがよい。また、図4(B)においても図4(A)の場合と同様に、イオン交換処理部11に予めイオン交換樹脂15が投入されているが、この時点では必ずしも投入されていなくてもよい。
【0031】
導電率が250μScm-1以上になると、分離体13をセル10から取り外し(S35)、イオン交換処理を行う(S36)(図4(C)を参照)。図4(C)に示すように分離体13を取り外すことで、被測定液17がセル10全体に拡散し、イオン交換処理が行われる。このとき、仕切体14により被測定液17はセル10全体に拡散するが、イオン交換樹脂15はイオン交換処理部11に留まる。また、イオン交換処理が十分に行われるように、スターラーを用いて被測定液17を攪拌する。
【0032】
イオン交換処理が行われることにより、導電率が次第に低下し、その値が20μScm-1以下かどうかを判定する(S37)。ここでは、判定基準が20μScm-1以下でもDEPIM測定に問題ないが、より好ましくは10μScm-1がよい。導電率が20μScm-1以下でない場合は、導電率が20μScm-1以下になるまで、イオン交換処理を継続する。導電率が20μScm-1以下になると、再び分離体13をセル10に取り付けて(S38)、イオン交換処理が測定処理部12内でこれ以上継続されない状態でDEPIM測定を行い(S39)(図4(D)を参照)、処理を終了する。
【0033】
このように、本発明の実施形態に係る菌数測定装置1は、イオン交換処理部11と測定処理部12とが、着脱自在に配設された分離体13により区画された二つの領域を有する一のセル10内に、夫々の区画ごとに備えられるため、一のセル10でイオン交換処理と測定処理とを行うことができ、処理の開始からDEPIM測定までバッチ方式により効率よく作業を行うことができる。
【0034】
また、それぞれの処理部がセル10により一体となっていることで、構成が簡素化されて装置を小型化することができると共に、配管等による接続が不要となるため配管の洗浄等の手間を省いて効率よく作業を行うことができる。
【0035】
さらに、分離体がイオン交換処理部11と測定処理部12との間で被測定液17の移動を遮断するため、導電率を調整する場合には、被測定液17がイオン交換処理部11に移動してイオン交換処理が行われることを防止することができ、正確に導電率を調整することができる。また、DEPIM測定時には、イオン交換処理部11において過剰にイオン交換処理された被測定液17が、測定処理部12に流入することがないため、DEPIM測定の精度を高く保つことができる。
【0036】
さらにまた、セル10に固定され、分離体13がセル10に取り付けられている場合に当該分離体13に隣接し、イオン交換処理部11と測定処理部12との間で被測定液17の移動を可能とし、イオン交換処理部11内のイオン交換樹脂15の移動を遮断する一又は複数の仕切体14を備えるため、イオン交換処理を行う場合には、被測定液17をイオン交換処理部11に移動させてセル10全体を利用してイオン交換処理を行うことができると共に、イオン交換処理後は、イオン交換樹脂15が測定処理部12に移動しないため、測定処理部12での処理をイオン交換樹脂15がない状態で行うことができ、高い菌回収率でDEPIM測定を行うことができる。
【0037】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る菌数測定方法について、図5を用いて説明する。本実施形態に係る菌数測定方法は、前記第1の実施形態の場合と同様に処理開始からDEPIM測定までをバッチ方式により行う菌数測定方法である。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明については省略する。
【0038】
図5は、本実施形態に係る菌数測定方法を示すフローチャートである。まず、一の収納容器に被測定液17を投入し(S51)、導電率を測定する(S52)。導電率を測定しながら電解質を添加し(S53)、導電率が250μScm-1以上であるかを判定する(S54)。導電率が250μScm-1以上でなければ、250μScm-1以上になるまで繰り返して電解質を添加する。
【0039】
導電率が250μScm-1以上になると、イオン交換樹脂15を収納容器に投入し(S55)、イオン交換処理を行う(S56)。ここでは、イオン交換処理が十分に行われるように被測定液17を十分に攪拌する。イオン交換処理が行われることにより、導電率が次第に低下し、その値が20μScm-1以下かどうかを判定する(S57)。導電率が20μScm-1以下でない場合は、導電率が20μScm-1以下になるまで、イオン交換処理を継続する。導電率が20μScm-1以下になると、イオン交換樹脂15と被測定液17とを隔離する(S58)。
【0040】
なお、イオン交換樹脂15と被測定液17との隔離の方法として、例えばイオン交換樹脂15を予め多孔構造を有する網(孔径がイオン交換樹脂15の直径未満)に入れた状態で被測定液17に投入し、イオン交換処理が終わったら網ごと被測定液17から除去するようにしてもよい。また、収納容器内の内側に予め多孔構造を有する網(孔径がイオン交換樹脂15の直径未満)を配設しておき、イオン交換処理が終わったらイオン交換樹脂15を網で包囲した状態で網ごと被測定液17から除去するようにしてもよい。特に後者の場合、イオン交換樹脂15が収納容器全体に広がり、イオン交換樹脂15と被測定液17との接触面積も多くすることができ、イオン交換処理を効率よく行うことができる。
イオン交換樹脂15が被測定液17から隔離されると、被測定液17のDEPIM測定を行い(S59)、処理を終了する。
【0041】
このように、本実施形態に係る菌数測定方法によれば、処理の開始からDEPIM測定までバッチ方式により効率よく作業を行うことができる。また、一の収納容器内で処理の開始からDEPIM測定まで完結するため、再現性がよく安定した結果を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、上記実施の形態に係る菌数測定装置の実施例について説明する。
(1)カラム方式とバッチ方式との比較
カラム方式の実験装置を図6(A)、バッチ方式の実験装置を図6(B)に示す。カラム方式は、サンプル液量が20ml、初期導電率(電解質としてNaClを添付後)が1000μScm-1、イオン交換樹脂量が3.0g、流速が2.46ml・min-1、空間速度(SV)が32.3h-1の条件で菌回収率、導電率の測定を行った。バッチ方式は、サンプル液量が10ml、初期導電率(電解質としてNaClを添付後)が1000μScm-1、イオン交換樹脂量が0.5g、攪拌時間が4minの条件で菌回収率、導電率の測定を行った。
【0043】
カラム方式における測定結果を図6(C)、バッチ方式における測定結果を図6(D)に示す。図6(C)、(D)より、カラム式の場合は、菌回収率、導電率共に安定せず、菌回収率が45%〜60%であるのに対し、バッチ方式の場合は、菌回収率が高く(65%〜85%)、且つ導電率が低く(5μScm-1〜20μScm-1)安定していることがわかる。また再現性も非常によいものとなっていることがわかる。
(2)イオン樹脂量と攪拌時間
セル10:アクリル製(D30mm×W60mm×H50mm)
仕切体13:ナイロン網(0.1mmメッシュ)
サンプル液量:50ml
初期導電率(電解質としてNaClを添付後):1000μScm-1
イオン交換樹脂量:2.0〜3.5g
攪拌時間:4min
この条件で菌回収率を測定した結果を図7(A)に示す。図7(A)より、イオン交換樹脂量とイオン交換処理後の導電率(10μScm-1以下まで下がるのが望ましいが、10ないし20μScm-1でもよい)と菌回収率には相間関係があり、イオン交換樹脂量を増やすと導電率を下げることができるが、菌回収率も併せて低下してしまう。したがって、この条件においては3.0gのイオン交換樹脂を用いるのが最適であり、約60%の菌回収率を達成することができる。
【0044】
セル10:アクリル製(D30mm×W60mm×H50mm)
仕切体13:ナイロン網(0.1mm孔)
サンプル液量:50ml
初期導電率(電解質としてNaClを添付後):1000μScm-1
イオン交換樹脂量:1.0〜2.5g
攪拌時間:イオン交換処理後の導電率が30μScm-1以下になるまでの時間を測定
この条件で菌回収率を測定した結果を図7(B)に示す。図7(B)より、イオン交換樹脂量が増えると攪拌時間が短くなることがわかる。図7(A)の結果と総合的に判断すると、イオン交換樹脂量を3.0gで4分の攪拌を行うのが最適な条件と言える。
(3)仕切体の種類
セル10:アクリル製(D30mm×W60mm×H50mm)
仕切体13:ステンレス網(0.5mm孔)(図8(A)を参照)×3
アクリル板(0.5mm孔)(図8(B)を参照)
サンプル液量:50ml
初期導電率(電解質としてNaClを添付後):1000μScm-1
イオン交換樹脂量:1.0g
この条件で導電率の変化を測定した結果を図8(C)に示す。図8(C)より、アクリル板よりもステンレス網の方が、短時間で導電率が低下していることがわかる。したがって、仕切体13としてステンレス網を用いるのが好ましい。また、ステンレス網は開孔率が高いが、3枚積層することでイオン交換処理部11から測定処理部12へのイオン交換樹脂の移動を確実に遮断することができ、効率よく且つ精度のよいDEPIM測定が可能となる。
(4)DEPIM測定時の条件
図9は、イオン交換樹脂の存在下でサンプル液を攪拌した場合の攪拌時間と菌回収率との関係を示す図である。図7より、イオン交換樹脂の存在下でサンプル液を攪拌すると、攪拌時間に応じて次第に菌回収率が低下することがわかる。したがって、DEPIM測定時には、被測定液中にイオン交換樹脂が存在しないように、イオン交換処理後に分離体13をセル10に取り付けてから測定を行うのが好ましい。
(5)仕切体の位置
セル10:アクリル製(D30mm×W60mm×H50mm)
仕切体13:ステンレス網(0.5mm孔)(図8(A)を参照)×3
サンプル液量:50ml
初期導電率(電解質としてNaClを添付後):1000μScm-1
イオン交換樹脂量:1.0g
攪拌時間:660sec
仕切体13の位置:イオン交換処理部11におけるサンプル液量が20mlとなる位置(図10(A)を参照)
イオン交換処理部11におけるサンプル液量が30mlとなる位置(図10(B)を参照)
この条件で導電率の変化を測定した結果を図10に示す。また、仕切体13の各位置における菌回収率を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
図10の結果、及び表1の結果より、仕切体13の位置によって攪拌時間に影響がないことがわかる。また、菌回収率についても、若干の相違があるがいずれの位置でも高い回収率を維持できている。したがって、仕切体13の位置は、少なくともイオン交換処理を行うことができる位置であり、測定処理部12において導電率及びインピーダンス変化の検出ができる程度の位置に設定されればよい。
【0047】
以上、上記各実験結果より、本発明に係る菌数測定装置、及び菌数測定方法は、適切な条件を設定することにより、処理の手間を最小限に抑えつつ構成を簡略化して、高い菌回収率を実現することができる。また、従来から行われているカラムを用いた処理の場合、被測定液がカラムを流れる状態(液体の均一性)により菌回収率が安定せず、その値も低い(平均して50%弱程度)ものとなっていたのに対し、本願に係る菌数測定装置、及び菌数測定方法のようにバッチ方式で処理を行うことで、再現性がよく、菌回収率を安定的に高く(60%から80%程度)することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 菌数測定装置
10 セル
11 イオン交換処理部
12 測定処理部
13 分離体
14 仕切体
15 イオン交換樹脂
16 電極部
17 被測定液
20 制御部
30 分離体移動部
40 電圧印加部
50 電解質添加部
60 操作部
70 表示部
101 細菌捕集部
102 導電率測定部
103 パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定液に含まれる菌数を前記被測定液のインピーダンスの変化に基づいて測定する菌数測定装置において、
前記被測定液のイオン交換処理を行うイオン交換処理部と、
前記被測定液の導電率の調整、及び前記被測定液のインピーダンスの検出を行う測定処理部とを有し、
前記イオン交換処理部、及び前記測定処理部が、着脱自在に配設された分離体により区画された少なくとも二つの領域を有する一の収納容器内に夫々の区画ごとに備えられることを特徴とする菌数測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の菌数測定装置において、
前記分離体が、前記イオン交換処理部と前記測定処理部との間で前記被測定液の移動を遮断することを特徴とする菌数測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の菌数測定装置において、
前記収納容器に固定され、前記イオン交換処理部と前記測定処理部との間で前記被測定液の移動を可能とし、前記イオン交換処理部内のイオン交換樹脂の移動を遮断する一又は複数の仕切体を備えることを特徴とする菌数測定装置。
【請求項4】
被測定液に含まれる菌数を前記被測定液のインピーダンスの変化に基づいて測定する菌数測定方法において、
一の収納容器に投入された前記被測定液の導電率を測定する導電率測定工程と、
前記導電率測定工程で測定された導電率に基づいて、当該導電率が所定の第一の値以上になるまで前記被測定液に電解質を添加する電解質添加工程と、
前記導電率が所定の第一の値以上になった場合に前記電解質の添加を停止し、前記一の収納容器にイオン交換樹脂を投入するイオン交換樹脂投入工程と、
前記イオン交換樹脂が投入された前記一の収納容器内の被測定液を攪拌し、当該被測定液の導電率が所定の第二の値以下になるまでイオン交換処理を行うイオン交換処理工程と、
前記導電率が所定の第二の値以下になった場合に前記被測定液と前記イオン交換樹脂とを隔離するイオン交換樹脂隔離工程と、
前記イオン交換樹脂が隔離された被測定液のインピーダンスの値を検出するインピーダンス検出工程とを含むことを特徴とする菌数測定方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の菌数測定装置を用いた菌数測定方法であって、
前記測定処理部に投入された被測定液の導電率を測定する導電率測定工程と、
前記導電率測定工程で測定された導電率に基づいて、当該導電率が所定の第一の値以上になるまで前記測定処理部に電解質を添加する電解質添加工程と、
前記導電率が所定の第一の値以上になった場合に前記電解質の添加を停止し、前記分離体を取り外す分離体除去工程と、
前記分離体除去工程の結果、前記測定処理部から前記イオン交換処理部に移動した前記被測定液を、イオン交換処理部内のイオン交換樹脂により、前記被測定液の導電率が所定の第二の値以下になるまでイオン交換処理を行うイオン交換処理工程と、
前記導電率が所定の第二の値以下になった場合に前記分離体の取り付けを行う分離体取付工程と、
前記分離体取付工程により区画された測定処理部で前記被測定液のインピーダンスの値を検出するインピーダンス検出工程とを含むことを特徴とする菌数測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図10】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−200152(P2011−200152A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69682(P2010−69682)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、九州経済産業局、地域イノベーション創出研究開発事業「食品衛生管理用自動細菌数迅速計測システムの開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000156581)日鉄環境エンジニアリング株式会社 (67)
【出願人】(509065333)有限会社スカイ・ブルー (2)
【Fターム(参考)】