説明

落射暗視野照明用対物レンズ及び顕微鏡

【課題】高開口数、長作動距離のレンズ系に対しても、光量ロスを低減して有効なエピダーク照明を供給することが可能な構成の落射暗視野照明用対物レンズ、及びこれを備えた顕微鏡を提供する。
【解決手段】落射照明装置から供給されるリング状の光束を集光させて標本16を照明する略中空円筒状の光学部材40と、この光学部材40に同軸的に包囲されて標本16からの反射光を結像するレンズ系31とを備えて構成される対物レンズ30であって、光学部材40は、落射照明装置から供給される光束を拡径させてレンズ系31の略光軸方向へ偏向させる光偏向部41と、光偏向部41により偏向された光束を略光軸方向に沿って導く導光部45と、導光部45により導かれた光束を標本16に集光させる集光部48とが一体的に繋がって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡等の光学系に最適な落射暗視野照明用対物レンズ、及びこれを備えた顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
落射暗視野照明(「エピダーク照明」とも称される)とは、落射照明型顕微鏡において標本からの反射光を結像するレンズ系(対物レンズ光学系)の周囲から当該レンズ系の光軸に中心が一致するリング状光束を供給し、この光束をレンズ系の先端付近に設けられた集光部材(例えば反射鏡)によって標本上に導く落射暗視野観察のための照明である。近年では、対物レンズの高開口数化や長作動距離化が進んでおり、これに伴って対物レンズの外径がより大きくなる傾向にあるため、従来の落射照明型顕微鏡において標準的に装備されている照明系(リング状光束の供給系)では有効なエピダーク照明を行うことが難しい。そこで、例えば特許文献1には、大口径を有するレンズ系に対応した落射暗視野照明を可能にすべく、レンズ系の光軸と同心状に配置された外方偏向部材、内方偏向部材、及び集光部材を備えたエピダーク照明用の対物レンズが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この対物レンズにおいては、光源からのリング状光束は外方偏向部材によって外方へ偏向されてより大きな径の光束に変換され、この偏向された光が内方偏向部材によりレンズ系の光軸方向に直進する平行光束として更に偏向された後、集光部材により集光されて標本に照射されるようになっている。標本で反射した反射光は、レンズ系を通って結像レンズに入射し、この結像レンズで結像された像を接眼レンズを介して観察することにより、標本の落射暗視野観察が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平2−41603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような対物レンズは大きな有効径にも対応しているが、レンズ系の周囲に配置する光学部材(偏向部材、集光部材)間での光路中で角度を持つ光線(平行光束以外の光線)が光学部材の周囲に設けられた鏡筒の内壁面に当たって光路外へ反射されることで光量ロスが生じる。顕微鏡における暗視野観察では、その観察方法の特性上、強い照明光を供給することが必要となるため、照明光の光量を十分に確保できないと、良好な落射暗視野観察ができなくなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、高開口数、長作動距離のレンズ系に対しても、光量ロスを低減して有効なエピダーク照明を供給することが可能な構成の落射暗視野照明用対物レンズ、及びこれを備えた顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するため、第1の本発明に係る落射暗視野照明用対物レンズは、照明装置から供給されるリング状の光束を集光させて標本面を照明する略中空円筒状の光学部材と、光学部材に同軸的に包囲されて標本面からの反射光を結像するレンズ系とを備えて構成される対物レンズであって、光学部材は、照明装置から供給される光束を拡径させてレンズ系の略光軸方向へ偏向させる光偏向部と、光偏向部により偏向された光束を略光軸方向に沿って導く導光部と、導光部により導かれた光束を標本面に集光させる集光部とが一体的に繋がって構成されている。
【0008】
なお、本発明の落射暗視野照明用対物において、光学部材が、照明装置から供給されて透過した光束を、当該光学部材と外部との境界面で全反射させることで、光偏向部での偏向及び集光部での集光を行わせることが好ましい。
【0009】
また、本発明の落射暗視野照明用対物において、光偏向部、導光部及び集光部が、同一材料により一体的に形成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の落射暗視野照明用対物において、光学部材の入射面および射出面の少なくとも一方に反射防止膜が形成されていることが好ましい。
【0011】
また、光学部材の射出面に、射出光の進行方向が当該射出面に対して法線方向を向くような曲率が形成されていることが好ましい。
【0012】
また、このような目的を達成するため、第2の本発明に係る顕微鏡は、照明装置と、上記構成の落射暗視野照明用対物レンズとを備えて構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高開口数、長作動距離のレンズ系に対しても、光量ロスを低減して有効なエピダーク照明を供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る対物レンズを備えた顕微鏡を示す側面図である。
【図2】上記対物レンズを示す側断面図である。
【図3】上記顕微鏡における暗視野観察状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る落射暗視野照明用対物レンズ(以下、単に「対物レンズ」と称する)を備えた顕微鏡について図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態は、発明の理解の容易化のためのものに過ぎず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において当業者により実施可能な付加・置換等を施すことを排除することは意図していない。この点に関しては補正・訂正後においても同様である。
【0016】
図1に対物レンズを備えた顕微鏡の側面図を示しており、まず、この図面を参照して顕微鏡の全体構成を概要説明する。この顕微鏡1は、顕微鏡本体2、落射照明装置3、ステージ15、対物レンズ30、及び接眼レンズ18等を備えて構成される。
【0017】
落射照明装置3は、ランプハウス11、照明光学系12、及び暗視野観察用のフィルタブロック13(以下、「暗視野ブロック」と称する)等を備えて構成されており、ランプハウス11からの照明光は照明光学系12を介して暗視野ブロック13に導かれる。暗視野ブロック13中の中空ミラーで反射された照明光は、対物レンズ30の外周部の暗視野照明光路に入射し、この暗視野照明光路を介してステージ15に載置された標本16に照射される。なお、対物レンズ30はレボルバ19を介して顕微鏡本体2に配置され、適宜交換可能になっている。
【0018】
標本16からの光は、対物レンズ30で集光され、暗視野ブロック13の中空ミラー(中空部分)を通過して、結像光学系17を介して接眼レンズ18で観察者に標本像が観察される。以上のようにして、暗視野観察可能な顕微鏡1が構成されている。
【0019】
なお、以降の説明では、倒立顕微鏡1を基に説明するが、対物レンズ30が適用される顕微鏡は倒立顕微鏡に限定されないことは言うまでもない。また、顕微鏡1の暗視野ブロック13を当該顕微鏡1の光路に挿脱可能に構成して、この暗視野ブロック13と図示省略する明視野観察用のフィルタブロックとを適宜光路に挿脱し、暗視野観察と明視野観察とを選択的に切換可能に構成してもよい。
【0020】
次に、図2を追加参照して、顕微鏡1に備えられた対物レンズ30について説明する。図2は対物レンズ30の側断面図を示している。なお、図2においては説明の便宜上、図1及び図3の状態に対して上下方向を反転させた状態の対物レンズ30を示している。
【0021】
対物レンズ30は、図2に示すように、単数または複数のレンズからなるレンズ系31と、このレンズ系31の外周を包囲するとともにレンズ系31の光軸と同心状に配置されて暗視野照明光路を形成する略中空円筒形状の光学部材40とを有している。なお、レンズ系31については、従来公知のものであるので、その詳細説明を省略する。
【0022】
光学部材40は、光偏向部41、導光部45、及び集光部48からなり、これらの要素が上下方向に連なって一体的に形成され、全体として略中空円筒形状を呈している。この光学部材40は、射出成形等の手段により完全一体に成形したものでも、複数の要素を接合して(貼り合わせて)一体的に形成したものであってもよい。また、光学部材40は、各要素が同一の材料によって形成されていることが好ましく、適用される材料としては例えば、プラスチック等の樹脂、ガラス、石英などが例示される。特に、樹脂成形品は、射出成形の如き成形によって作られるため、その形状の如何に拘らず作製が困難となることがなく、製造コストを抑えることができるとともに、対物レンズ30の軽量化が図られる。
【0023】
光偏向部41は、図2において下方に向かって拡径されたリング状のプリズムで構成されており、真空蒸着等により単層又は複層からなる反射防止膜が施された入射面42、及び径方向に対向配置された一対の全反射面43,44を有している。互いに平行配置された全反射面43,44は約45°の傾斜角をなしているが、この傾斜角に限定されるものではなく、この光偏向部41の屈折率などに応じて適宜な角度に設定される。
【0024】
導光部45は、光偏向部41と同一の物質により円筒状に形成されている。導光部45の内周面46には、径方向内方に延びてレンズ系31の外周に繋がる複数の接続アーム(図示せず)が周方向等間隔に設けられており、これにより導光部45にレンズ系31が同心状に保持される。
【0025】
集光部48は、光偏向部41および導光部45と同一物質により、図2において下方に向けて縮径されたリング状に形成されており、この光学部材40を透過した光束(照明光)がレンズ系31の光軸上に集光されるような全反射面49、及び真空蒸着等により単層又は複層からなる反射防止膜が施された射出面50を有している。全反射面49は、レンズ系31の光軸上に焦点を有する放物面(光軸を中心とする回転放物面)により形成されている。また、射出面50は、その射出光線が当該射出面50(光学作用面)に対してほぼ法線方向を向くような所定の曲率を持つ面となっており、射出光線が当該射出面50で表面反射するのを防止している。
【0026】
このような光学部材40では、光学部材40と空気層との境界面となる上記の全反射面43,44,49において入射角を臨界角よりも大きく設定し、光学部材40内からこの境界面に入射する光束が全反射されるようになっている。
【0027】
それでは、このように構成される対物レンズ30を備えた顕微鏡1における暗視野観察について図3を追加参照して説明する。図3は、顕微鏡1における暗視野観察状態を示している。なお、以降の説明において、顕微鏡1を構成する筐体は図示及び説明を省略している。
【0028】
図3において、ランプハウス11(図1を参照)からの照明光は、暗視野レンズ21でリング状の光束に変換され、暗視野ブロック13の暗視野中空ミラー22(以下、「中空ミラー」と称する)に入射する。中空ミラー22で(垂直上方に折り曲げられるように)反射された光束は、対物レンズ30(図2に示すように、光学部材40の光偏向部41に形成された入射面42)に垂直入射する。
【0029】
そして、図2において、光偏向部41に入射した光束は、この光偏向部41を透過して全反射面43に到達し、径方向外方へ全反射される。この反射された光束は、光偏向部41を更に透過してもう一方の全反射面44に到達して、導光部45へ向けて垂直方向に全反射される。これにより、落射照明装置3から供給されたリング状光束の光束径が光偏向部41によって拡大される。
【0030】
このように光偏向部41により全反射の作用を受けて偏向された光束は、より大きな径のリング状光束として整形されて、この光偏向部41と一体に繋がる導光部45へと導かれる。導光部45を透過する光束は、レンズ系31の光軸方向と略平行に直進して、レンズ系31の先端近傍において当該光軸をレンズ系31の光軸と一致させて配置された集光部48に導かれる。なお、光束が導光部45の内部を透過する際に、光軸方向に対して角度のついた光線は、導光部45の内周面46又は外周面47で全反射されて光路(暗視野照明光路)に戻るため、この経路中での光量ロスが抑制される。
【0031】
導光部45より導かれた光束は、集光部48を透過し全反射面(放物面)49に到達して、レンズ系31の光軸上の焦点に向けて全反射される。この全反射された光は射出面50から射出されて標本16(標本面)に集光し、暗視野観察が可能となるように十分に大きな入射角で標本16を照明する。
【0032】
標本16からの観察光はレンズ系31により集められて略平行光に変換されて暗視野ブロック13に入射し、中空ミラー22の中空部を通過して、(結像光学系17を構成する)第2対物レンズ23により像面24に結像される。このようにして、顕微鏡1では標本16の落射暗視野観察が可能となる。
【0033】
このような構成によれば、光学部材40を構成する光偏向部41、導光部45及び射出部48を樹脂等の同一材料で一体化して形成し、光学部材40に入射した光束をレンズ系31よりも径の大きな光束に整形して射出するための光束の偏向や集光等には全反射の作用を利用しているので、この光学部材40における暗視野照明光路での光量ロスがほとんど無くなる。
【0034】
また、光学部材40の入射面42及び射出面50に反射防止膜を形成するとともに、射出面50には所定の曲率を形成して、これら入射面42及び反射面50での表面反射を防止しているため、この光学部材40への入射光及び射出光に対する光量ロスも低減することができる。
【0035】
従って、以上説明した本実施形態に係る対物レンズ30及びこれを備えた顕微鏡1によれば、落射照明装置3から供給されるリング状光束を、その光量ロスの防止を図りつつ、レンズ系31の周囲でより大きな径のリング状光束に変換して、暗視野観察が可能となるように十分に大きな入射角で標本16上を照明することができるため、高開口数、長作動距離を有する大口径のレンズ系31に対しても、効率よく有効なエピダーク照明を供給することが可能である。
【0036】
また、光偏向部41、導光部45及び集光部48を一体化して光学部材40を形成しているため、対物レンズ30の部品点数が少なくなって組み立て誤差が低減され、レンズ系31に対する位置精度(例えば、光学部材40の集光位置とレンズ系31の焦点位置との位置精度など)を容易に確保することが可能になる。
【0037】
さらに、このような顕微鏡1によれば、十分な光量を標本16に照射して良好な暗視野観察をすることが可能である。
【0038】
なお、本実施形態に係る対物レンズ30及び顕微鏡1は、上記構成に限定されるものではない。
【0039】
例えば、上記のように一体的に形成される光学部材40中に光偏向部41および導光部45を2組形成して交互に配置し、第1の光偏向部41でリング状光束を拡径して第1の導光部45に導いた後、更に第2の光偏向部41でリング状光束を拡径して第2の導光部45に導き、最終的に射出部48から射出する構成、すなわちリング状照明の光束径を2段階(複数段階)で拡大させるような構成としてもよい。
【0040】
また、顕微鏡1において、中空ミラー22と対物レンズ30との間に、リング状の照明光の光束径を対物レンズ30(光学部材40の光偏向部41の入射面42)の径に合わせるためのプリズムを更に追加して構成してもよい。
【0041】
また、集光部48の全反射面49として、上述の実施形態のように放物面ではなく、例えば、傾斜面、非球面、その他の自由曲面(多項式非球面など)を形成してもよい。さらに、集光部48の射出面50として、上述の曲率に限定されず、他の自由曲面(多項式非球面など)を形成してもよい。
【0042】
なお、本発明では、光学部材40内での暗視野照明光路中において、当該光束の一部が光学部材40と空気層との各境界面で全反射以外の屈折を行うことを排除するものではない。
【符号の説明】
【0043】
1 顕微鏡
3 落射照明装置(照明装置)
11 ランプハウス(照明装置)
12 照明光学系(照明装置)
13 フィルタブロック(照明装置)
16 標本
30 対物レンズ(落射暗視野照明用対物レンズ)
31 レンズ系
40 光学部材
41 光偏向部
42 入射面
43 全反射面(境界面)
44 全反射面(境界面)
45 導光部
48 集光部
49 全反射面(境界面)
50 射出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明装置から供給されるリング状の光束を集光させて標本面を照明する略中空円筒状の光学部材と、前記光学部材に同軸的に包囲されて標本面からの反射光を結像するレンズ系とを備えて構成される対物レンズであって、
前記光学部材は、前記照明装置から供給される光束を拡径させて前記レンズ系の略光軸方向へ偏向させる光偏向部と、前記光偏向部により偏向された光束を略光軸方向に沿って導く導光部と、前記導光部により導かれた光束を標本面に集光させる集光部とが一体的に繋がって構成されていることを特徴とする落射暗視野照明用対物レンズ。
【請求項2】
前記光学部材が、前記照明装置から供給されて透過した光束を、当該光学部材と外部との境界面で全反射させることで、前記光偏向部での偏向及び前記集光部での集光を行わせることを特徴とする請求項1に記載の落射暗視野照明用対物レンズ。
【請求項3】
前記光偏向部、前記導光部及び前記集光部が、同一材料により一体的に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の落射暗視野照明用対物レンズ。
【請求項4】
前記光学部材の入射面および射出面の少なくとも一方に反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の落射暗視野照明用対物レンズ。
【請求項5】
前記光学部材の射出面に、射出光の進行方向が当該射出面に対して法線方向を向くような曲率が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の落射暗視野照明用対物レンズ。
【請求項6】
前記照明装置と、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の落射暗視野照明用対物レンズとを備えて構成されることを特徴とする顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−13879(P2012−13879A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149328(P2010−149328)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】