説明

蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の供給方法

【目的】復水をボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、復水配管の腐食が効果的にかつ経済的に抑制されるよう復水配管用の腐食抑制剤の供給量を制御する。
【構成】復水をボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置1において、復水配管30の腐食抑制剤を薬剤供給装置60から供給するための方法は、先ず、蒸気ボイラ装置1における復水配管30の長さ等の腐食傾向判定用項目の判定値を制御装置70に入力し、この判定値と、予め制御装置70に記録された対応する腐食傾向判定用項目の基準値との差を数量的に求める。そして、当該差に基づいて、薬剤供給装置60から蒸気供給配管24へ供給する腐食抑制剤の供給量を制御装置70により制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の供給方法、特に、ボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を蒸気供給配管を通じて負荷装置へ供給して利用するとともに、蒸気が凝縮して得られる復水を負荷装置から延びる復水配管を通じてボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、復水配管の腐食抑制剤を供給装置から供給するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気ボイラへボイラ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を負荷装置において利用すると共に、当該蒸気が凝縮して得られる復水を負荷装置から延びる復水配管を通じてボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置が知られている。このような蒸気ボイラ装置は、ボイラ給水と混合する復水のために、ボイラ給水として用いる補給水量を削減することができ、蒸気ボイラの経済的な運転が可能になる。
【0003】
ところで、上述の蒸気ボイラ装置において、復水経路は、鋼材等の非不動態化金属を用いて形成されていることが多く、ボイラ給水中に含まれる溶存酸素や炭酸塩成分の分解により発生する炭酸ガスの影響を受け、腐食が生じやすい。この腐蝕は、復水の円滑な回収を妨げる孔空きを復水経路に引き起こす場合があり、また、ボイラ給水において不純物成分となる鉄イオンその他の金属イオンを復水中に溶出させる可能性がある。
【0004】
そこで、蒸気ボイラ装置の運転では、一般に、復水配管の腐食を抑制するための薬剤をボイラ給水や蒸気ボイラから負荷装置へ供給される蒸気に対して供給し、復水配管における腐食の進行を抑制している(例えば特許文献1、2参照)。また、薬剤の供給量は、通常、炭酸ガスや溶存酸素等の腐食促進因子の濃度に応じて制御している(例えば特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−19970公報
【特許文献2】特開2005−337585公報
【0006】
しかし、蒸気ボイラ装置は、利用目的や設置環境に応じて仕様が様々である。例えば復水配管は、設置環境に応じて長さが調節されるため、長いものもあれば短いものもある。この場合、長い復水配管は、炭酸ガスや溶存酸素等の腐食促進因子の濃度に基づいて薬剤の供給量を制御しても、復水配管の腐食を効果的に抑制することができないことがある。逆に、短い復水配管は、炭酸ガスや溶存酸素等の腐食促進因子の濃度に基づいて薬剤の供給量を制御すると、薬剤の過剰添加になる可能性があり、経済性が損なわれることがある。
【0007】
本発明の目的は、復水配管からの復水をボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、復水配管の腐食が効果的にかつ経済的に抑制されるよう復水配管用の腐食抑制剤の供給量を制御することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を蒸気供給配管を通じて負荷装置へ供給して利用するとともに、蒸気が凝縮して得られる復水を負荷装置から延びる復水配管を通じてボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、復水配管の腐食抑制剤を供給装置から供給するための方法に関する。この供給方法は、基準となる蒸気ボイラ装置を設定し、当該基準蒸気ボイラ装置における仕様項目群から選択された少なくとも一つの腐食傾向判定用項目の評価値と、当該評価値に基づいて設定された基準蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の最適供給量とを制御装置に記録する工程Aと、腐食抑制剤を供給する処方対象蒸気ボイラ装置における腐食傾向判定用項目の判定値を制御装置に入力し、当該制御装置において、入力された判定値と記録された評価値との差を数量的に求める工程Bと、工程Bにおいて求めた差に基づいて、供給装置から処方対象蒸気ボイラ装置へ供給する腐食抑制剤の供給量を制御装置により制御する工程Cとを含んでいる。
【0009】
そして、工程Cでは、上記差が復水配管の腐食が進行しやすい側にある場合は供給量を上記差の数量に応じて最適供給量よりも多く設定し、上記差が復水配管の腐食が進行しにくい側にある場合は供給量を上記差の数量に応じて最適供給量よりも少なく設定する。
【0010】
この供給方法をより具体的に説明すると、先ず、基準蒸気ボイラ装置は、予め任意に選択されたものである。そして、その仕様項目群は、当該基準蒸気ボイラ装置を構成する各部の仕様であって、復水配管の腐食に影響を与える仕様項目、すなわち腐食傾向判定用項目からなる。腐食傾向判定用項目の具体例としては、例えば、蒸気供給配管の長さ、復水配管の長さ、復水配管の肉厚、復水配管の材質、復水の温度、復水配管における水滞留部分の長さ、および、復水配管が外気と隔絶されるよう施工されているか否かの項目を挙げることができる。
【0011】
基準蒸気ボイラ装置においては、復水配管の腐食を促進する因子(以下、「腐食促進因子」と云う場合がある)、すなわち、蒸気ボイラから負荷装置へ供給される蒸気の炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度、並びに、復水の炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度の平均的な値を予め求めておき、これらの腐食促進因子の平均的な値を参照しつつ、仕様項目群から選択された少なくとも一つの腐食傾向判定用項目の評価値に基づいて、復水配管の腐食を抑制可能な腐食抑制剤の最適供給量を設定する。ここで、評価値は、腐食傾向判定用項目を数値化したものであり、処方対象蒸気ボイラ装置における同項目の数値(判定値)を評価する際の基準値となるものである。
【0012】
そして、本発明の供給方法は、工程Aにおいて、上述の基準蒸気ボイラ装置において選択した腐食傾向判定用項目の評価値と、上述の最適供給量とを制御装置に記録する。
【0013】
一方、腐食抑制剤を供給する処方対象蒸気ボイラ装置は、本発明の供給方法により腐食抑制剤を供給する蒸気ボイラ装置である。本発明の供給方法では、工程Bにおいて、この処方対象蒸気ボイラ装置における腐食傾向判定用項目、すなわち、基準蒸気ボイラ装置において選択した腐食傾向判定用項目と同じ腐食傾向判定用項目の判定値を上述の制御装置に入力する。判定値は、処方対象蒸気ボイラ装置の腐食傾向判定用項目を数値化したものである。そして、制御装置において、入力された判定値と工程Aにおいて記録された評価値との差を数量的に求める。これにより、処方対象蒸気ボイラ装置は、基準蒸気ボイラ装置と対比した場合において、復水配管の腐食が進行しやすいか否かの傾向が判明する。例えば、腐食傾向判定用項目が復水配管の肉厚である場合、上述の差(判定値−評価値)がマイナスのとき(すなわち、処方対象蒸気ボイラ装置の復水配管の肉厚が基準蒸気ボイラ装置の復水配管の肉厚よりも小さい場合)は、処方対象蒸気ボイラ装置は基準蒸気ボイラ装置よりも復水配管の腐食が進行しやすいことが判明する。逆に、上述の差がプラスのとき(すなわち、処理対象蒸気ボイラ装置の復水配管の肉厚が基準蒸気ボイラ装置の復水配管の肉厚よりも大きい場合)は、処方対象蒸気ボイラ装置は基準蒸気ボイラ装置よりも復水配管の腐食が進行しにくいことが判明する。
【0014】
そこで、本発明の供給方法は、工程Cにおいて、工程Bにおいて求めた上述の差に基づいて、供給装置から処方対象蒸気ボイラ装置へ供給する腐食抑制剤の供給量を制御装置により制御する。ここで、上述の差が復水配管の腐食が進行しやすい側にあるとき(例えば、上述の肉厚の差がマイナスのとき)は、処方対象蒸気ボイラ装置へ供給する腐食抑制剤の供給量を上述の差の数量に応じて最適供給量よりも多く設定する。この結果、処方対象蒸気ボイラ装置は、腐食抑制剤の供給不足が回避され、復水配管の腐食が効果的に抑制され得る。一方、上述の差が復水配管の腐食が進行しにくい側にあるとき(例えば、上述の肉厚の差がプラスのとき)は、処方対象蒸気ボイラ装置へ供給する腐食抑制剤の供給量を上述の差の数量に応じて最適供給量よりも少なく設定する。この結果、処方対象蒸気ボイラ装置は、腐食抑制剤の過剰供給が回避され、経済的に復水配管の腐食を抑制することができる。
【0015】
本発明において、腐食傾向判定用項目の評価値および判定値は、絶対的評価で数値化したもの(例えば復水配管の肉厚が腐食傾向判定用項目の場合、当該肉厚の具体的な測定値)であってもよいし、相対的評価で数値化したもの(例えば同様の場合、復水配管の肉厚を腐食しやすさに応じて段階的なレベルで表現した数値)であってもよい。但し、絶対的評価で数値化するか、相対的評価で数値化するかは、評価値と判定値との差を求める必要のあることから、評価値と判定値とで統一する必要がある。
【0016】
本発明の供給方法において、腐食抑制剤は、通常、ボイラ給水および蒸気ボイラから負荷装置へ供給する蒸気のうちの少なくとも一つに供給することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の供給方法は、上述の工程を含むため、復水配管からの復水をボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、復水配管の腐食が効果的にかつ経済的に抑制されるよう復水配管用の腐食抑制剤の供給量を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1を参照して、本発明の実施の一形態に係る供給方法を実施可能な蒸気ボイラ装置を説明する。図1において、蒸気ボイラ装置1は、熱交換器、蒸気釜、リボイラ若しくはオートクレーブ等の蒸気使用設備である負荷装置2に対して蒸気を供給するためのものであり、給水装置10、蒸気ボイラ20、復水配管30および薬剤供給装置60を主に備えている。
【0019】
給水装置10は、蒸気ボイラ20へボイラ給水を供給するためのものであり、ボイラ給水を貯留するための給水タンク40と、ボイラ給水として用いる補給水を給水タンクへ供給するための補給経路50とを主に備えている。給水タンク40は、その底部から蒸気ボイラ20へ延びる給水経路41を有している。給水経路41は、蒸気ボイラ20に連絡しており、給水タンク40内に貯留されたボイラ給水を蒸気ボイラ20へ送り出すための給水ポンプ42を有している。
【0020】
補給経路50は、注水路51を有している。この注水路51は、水道水、工業用水若しくは地下水等の水源から供給される原水が貯留されている原水タンク(図示せず)から給水タンク40へ補給水を供給するためのものであり、給水タンク40へ向けて軟水化装置52および脱酸素装置53をこの順に有している。
【0021】
軟水化装置52は、原水タンクからの補給水をナトリウム型陽イオン交換樹脂により処理し、補給水に含まれる硬度分、すなわち、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンをナトリウムイオンに置換して軟化水へ変換するためのものである。
【0022】
脱酸素装置53は、軟水化装置52において処理された補給水中の溶存酸素を除去するためのものであり、通常、分離膜を用いて溶存酸素を除去する形式のもの、処理水を減圧環境下において溶存酸素を除去する形式のもの、若しくは、処理水を加熱して溶存酸素を除去する形式のものなどの公知の各種の形式のものが用いられる。
【0023】
蒸気ボイラ20は、貫流ボイラであり、図2に示すように、給水経路41から供給されるボイラ給水を貯留可能な環状の貯留部21、貯留部21から起立する多数の伝熱管22(図2では二本のみ示している)、伝熱管22の上端部に設けられた環状のヘッダ23、ヘッダ23から負荷装置2へ延びる蒸気供給配管24およびバーナーなどの燃焼装置25を主に備えている。燃焼装置25は、ヘッダ23側から貯留部21方向へ燃焼ガスを放射し、伝熱管22を加熱可能である。
【0024】
伝熱管22は、非不動態化金属を用いて形成されている。非不動態化金属は、中性水溶液中において自然には不動態化しない金属をいい、通常はステンレス鋼、チタン、アルミニウム、クロム、ニッケルおよびジルコニウム等を除く金属である。具体的には、炭素鋼、鋳鉄、銅および銅合金等である。なお、炭素鋼は、中性水溶液中においても、高濃度のクロム酸イオンの存在下では不動態化する場合があるが、この不動態化はクロム酸イオンの影響によるものであって中性水溶液中での自然な不動態化とは言い難い。したがって、炭素鋼は、ここでの非不動態化金属の範疇に属する。また、銅および銅合金は、電気化学列(emf series)が貴な位置にあるため、通常は水分の影響による腐食が生じ難い金属と考えられているが、中性水溶液中において自然に不動態化するものではないので、非不動態化金属の範疇に属する。
【0025】
復水配管30は、負荷装置2から給水タンク40へ延びており、スチームトラップ31を有している。スチームトラップ31は、蒸気と水とを分離するためのものである。復水配管30は、通常、給水タンク40内に貯留されたボイラ給水に対して空気を巻き込まないようにするため、外気と隔絶されるよう施工されているのが好ましい。具体的には、復水配管30は、先端部がボイラ給水内に配置されているのが好ましく、給水タンク40の底部近傍に配置されているのが特に好ましい。復水配管30は、蒸気ボイラ20の伝熱管22と同じく、非不動態化金属を用いて形成されている。
【0026】
薬剤供給装置60は、蒸気供給配管24と連絡しており、蒸気ボイラ20から負荷装置2へ供給される蒸気中へ復水配管30の腐食抑制剤を供給するためのものである。薬剤供給装置60は、腐食抑制剤を貯留するための薬剤タンク61と、薬剤タンク61から蒸気供給配管24へ延びる供給路62と、供給路62に設けられた供給ポンプ63と、制御装置70とを有している。供給ボンプ63は、薬剤タンク61に貯留された腐食抑制剤を供給路62を通じて蒸気供給配管24へ送り出すものであり、流量制御が可能なものである。
【0027】
また、ここで用いられる腐食抑制剤は、揮発性の薬剤であり、腐食促進因子の種類に応じて中和型腐食抑制剤、皮膜型腐食抑制剤および複合型腐食抑制剤が選択して用いられる。中和型腐食抑制剤は、炭酸ガスを中和することによって、炭酸ガスに起因する腐食を抑制するものであり、例えばモルホリンや脂肪族アミノアルコール系化合物などの脂肪族アミン化合物である。皮膜型腐食抑制剤は、復水配管30の内部表面に皮膜を形成することによって、溶存酸素に起因する腐食を抑制するものであり、例えばオクタデシルアミンなどの長鎖脂肪族アミン化合物である。さらに、複合型腐食抑制剤は、中和型腐食抑制剤と皮膜型腐食抑制剤とを混合した薬剤である。
【0028】
制御装置70は、供給ポンプ63を制御するための電子情報処理組織であり、図3に示すように、中央制御装置71と、読出専用記録装置72、書換可能記録装置73および入出力ポート74を主に備えている。中央制御装置71は、制御装置70全体の動作を制御するためのものである。読出専用記録装置72は、主に、薬剤供給装置60の動作プログラムを記録している。書換可能記録装置73は、各種の電子データを一時的に記録するためのものである。さらに、入出力ポート74は、制御装置70において情報の入出力をするためのものであり、入力側に情報を手入力するための入力装置75を有し、また、出力側に供給ポンプ63が連絡している。
【0029】
次に、上述の蒸気ボイラ装置1の動作を説明する。
蒸気ボイラ装置1の運転では、先ず、原水タンク(図示せず)から注水路51を通じて給水タンク40へ補給水を供給し、この補給水をボイラ給水として給水タンク40に貯留する。
【0030】
この際、原水タンクからの補給水は、先ず、軟水化装置52において処理され、軟化水になる。この結果、補給水は、蒸気ボイラ20においてスケールを生成させにくくなる。この軟水化の過程において、補給水は、溶存している塩類がナトリウム塩、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムおよびけい酸ナトリウムなどのアルカリ成分に変化する。
【0031】
軟水化装置52において軟化水となった補給水は、次に、脱酸素装置53において脱酸素処理される。これにより、補給水は、蒸気ボイラ20において伝熱管22等の腐蝕を促進する溶存酸素が除去される。
【0032】
以上の結果、給水タンク40には、脱酸素処理された軟化水がボイラ給水として貯留されることになる。
【0033】
給水タンク40に補給水が貯留された状態で給水ポンプ42を作動させると、給水タンク40に貯留された補給水、すなわちボイラ給水は、給水経路41を通じて蒸気ボイラ20へ供給される。蒸気ボイラ20へ供給されたボイラ給水は、貯留部21においてボイラ水として貯留される。このボイラ水は、各伝熱管22を通じて燃焼装置25により加熱されながら各伝熱管22内を上昇し、徐々に蒸気になる。そして、各伝熱管22内において生成した蒸気は、ヘッダ23において集められ、蒸気供給配管24を通じて負荷装置2へ供給される。
【0034】
負荷装置2へ供給された蒸気は、負荷装置2を通過して復水配管30へ流れ、そこで潜熱を失って一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ31において蒸気と水とが分離されて高温の復水になる。このようにして生成した復水は、復水配管30を通じて給水タンク40へ回収されて貯留された補給水と混合され、ボイラ給水として再利用される。この際、給水タンク40に貯留されたボイラ給水は、高温の復水により加熱されるので、蒸気ボイラ20での加熱負担が軽減される。したがって、蒸気ボイラ装置1は、蒸気ボイラ20を稼動するための燃料コストを抑制することができ、経済的に運転することができる。
【0035】
上述のような蒸気ボイラ装置1の動作において、蒸気ボイラ20から負荷装置2へ供給される蒸気は、ボイラ給水に残留している溶存酸素およびアルカリ成分の分解により生成する炭酸ガスを含む。したがって、復水配管30は、このような溶存酸素および炭酸ガスの作用を受け、腐食が進行しやすい。
【0036】
そこで、蒸気ボイラ装置1は、運転中において、薬剤供給装置60から蒸気供給配管24内へ復水配管30の腐食抑制剤を供給する。
【0037】
次に、図4に示す動作フローチャートに従い、薬剤供給装置60から蒸気供給配管24への腐食抑制剤の供給方法を説明する。この供給方法は、制御装置70の読出専用記録装置72に記録された動作プログラムに基づいて実行される。
【0038】
工程A
先ず、ステップS1において、基準蒸気ボイラ装置における仕様項目群から選択された腐食傾向判定用項目の評価値と、当該評価値に基づいて設定された基準蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の最適供給量とを入力装置75から入力する。
【0039】
ここで、基準蒸気ボイラ装置は、上述の蒸気ボイラ装置1と構成が同じであるが各部の仕様が異なる同種の蒸気ボイラ装置から選択された標準的なものであり、上述の蒸気ボイラ装置1とは別のものである。当該基準蒸気ボイラ装置では、復水配管30の腐食に関連する各種の仕様項目群から任意の仕様項目を少なくとも一つ選択し、選択した仕様項目を腐食傾向判定用項目とする。この実施の形態では、腐食傾向判定用項目として、蒸気供給配管の長さ、復水配管の長さ、復水配管の肉厚、復水配管の材質、復水の温度、復水配管における水滞留部分の長さ、および、復水配管が外気と隔絶されるよう施工されているか否かの七つの項目を腐食傾向判定用項目として選択する。
【0040】
基準蒸気ボイラ装置において選択した各腐食傾向判定用項目は、数値的に評価し、評価値を設定する。ここでは、基準蒸気ボイラ装置において復水配管の腐食を促進する因子(腐食促進因子)である、蒸気ボイラから負荷装置へ供給される蒸気の炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度、並びに、復水の炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度の平均的な値を予め求めておき、これらの腐食促進因子の平均的な値を参照して、各腐食傾向判定用項目の評価値を設定する。
【0041】
ここで、評価値は、絶対的評価による数値(例えば、長さや厚さの測定値)であってもよいし、相対的評価による数値(例えば、0〜10の11段階評価の何段目)であってもよい。例えば、上述の七つの腐食傾向判定用項目のうち、蒸気供給配管の長さ、復水配管の長さ、復水配管の肉厚、復水の温度および復水配管における水滞留部分の長さの各腐食傾向判定用項目の評価値は、絶対的評価による数値として得ることもできるし、相対的評価による数値として得ることもできる。一方、復水配管の材質および復水配管が外気と隔絶されるよう施工されているか否かの各腐食傾向判定用項目は、絶対的評価による数値を得るのが困難であり、通常は相対的評価による数値化を図るのが好ましい。
【0042】
この実施の形態では、便宜上、各腐食傾向判定用項目の評価値が相対的評価によるものとし、また、各評価値が11段階評価(数値が大きい程、腐食が生じやすいことを示し、また、数値が0のとき、腐食が生じない理想状態であることを示す)の5であることにする。
【0043】
基準蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の最適供給量は、上述の七つの腐食傾向判定項目との関係で腐食抑制剤の供給量と復水配管の腐食抑制効果との対応関係を基準蒸気ボイラ装置において実験的に調べ、その実験結果から予め求めておくことができる。因みに、最適供給量は、単位時間当たりの最適供給量を意味する。
【0044】
動作プログラムは、ステップS1で入力された情報をステップS2において記録する。そして、続くステップS3では、ステップS2で記録した情報を加工する。ここでは、先ず、図5に示すように、ステップS2において記録された情報に基づくレーダーチャートを作成する。このレーダーチャートは、基準蒸気ボイラ装置における上述の各腐食傾向判定用項目の評価値を表示したものである。図において、Aは蒸気供給配管の長さ、Bは復水配管の長さ、Cは復水配管の肉厚、Dは復水配管の材質、Eは復水の温度、Fは復水配管における水滞留部分の長さ、Gは復水配管が外気と隔絶されるよう施工されているか否かの各腐食傾向判定用項目を示している。このレーダーチャートにおいて、各腐食傾向判定用項目の評価値は、11段階評価の5に位置する。次に、ステップS3では、このレーダーチャートにおいて各腐食傾向判定用項目の評価値を結んだ正七角形の面積(以下、「基準面積」と云う)を計算する。この基準面積は、基準蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の最適供給量と対応するため、次のステップS4において記録される。
【0045】
工程B
次のステップS5において、動作プログラムは、蒸気ボイラ装置1(処方対象蒸気ボイラ装置)に関する情報入力を待つ。蒸気ボイラ装置1における、基準蒸気ボイラ装置において選択したものと同じ腐食傾向判定用項目の判定値をオペレータが入力装置75から入力すると、動作プログラムは、次のステップS6において、入力された判定値を記録する。
【0046】
ステップS5において入力する判定値は、蒸気ボイラ装置1の各腐食傾向判定用項目毎に調べたものであり、基準蒸気ボイラ装置の評価値と同様に、10段階評価で判定されたものである。
【0047】
次のステップS7において、動作プログラムは、ステップS6で記録した情報を加工する。ここでは、先ず、ステップS6において記録された情報に基づくレーダーチャートを作成する。このレーダーチャートは、蒸気ボイラ装置1における各腐食傾向判定用項目の評価値を表示したものであり、図5と同様のものである。次に、ステップS7では、このレーダーチャートにおいて各腐食傾向判定用項目の評価値を結んだ七角形の面積(以下、「判定面積」と云う)を計算する。この判定面積は、基準蒸気ボイラ装置とは仕様が異なる蒸気ボイラ装置1における腐食抑制剤の最適供給量と対応するため、次のステップS8において記録される。そして、動作プログラムは、次のステップS9において、ステップS8で記録した判定面積とステップS4において記録した基準面積との差X(判定面積−基準面積)を計算する。
【0048】
工程C
動作プログラムは、続くステップS10において、蒸気ボイラ装置1における腐食抑制剤の供給量(単位時間当りの供給量)を計算する。ここで、供給量は、基準蒸気ボイラ装置における最適供給量に差Xに対応する供給量を加減した量に設定される。そして、次のステップS11は、供給ポンプ63を作動させ、ステップS10において計算した供給量で、薬剤タンク61から供給路62を通じて蒸気供給配管24へ腐食抑制剤を供給する。この結果、蒸気ボイラ装置1の復水配管30は、腐食抑制剤が作用し、腐食が抑制される。
【0049】
例えば、蒸気ボイラ装置1において、各腐食傾向判定用項目の判定値が次のような場合、そのレーダーチャートは図6に示すようなものになり、差Xはプラス値になる。図6において、A〜Fは図5と同じである。
【0050】
蒸気供給配管の長さ:判定値7
復水配管の長さ:判定値6
復水配管の肉厚:判定値5
復水配管の材質:判定値7
復水の温度:判定値8
復水配管における水滞留部分の長さ:判定値9
復水配管が外気と隔絶されるよう施工されているか否か:判定値5
【0051】
この場合、蒸気ボイラ装置1は、基準蒸気ボイラ装置に比べて復水配管の腐食が進行しやすい状態にあるため、腐食抑制剤の供給量が最適供給量に対して差Xに対応する供給量を加えた量に設定される。この結果、蒸気ボイラ装置1は、腐食抑制剤の供給不足になるのが回避され、復水配管30の腐食が効果的に抑制される。
【0052】
一方、蒸気ボイラ装置1において、各腐食傾向判定用項目の判定値が次のような場合、そのレーダーチャートは図7に示すようなものになり、差Xはマイナス値になる。図7において、A〜Fは図5と同じである。
【0053】
蒸気供給配管の長さ:判定値4
復水配管の長さ:判定値4
復水配管の肉厚:判定値3
復水配管の材質:判定値5
復水の温度:判定値2
復水配管における水滞留部分の長さ:判定値3
復水配管が外気と隔絶されるよう施工されているか否か:判定値2
【0054】
この場合、蒸気ボイラ装置1は、基準蒸気ボイラ装置に比べて復水配管の腐食が進行しにくい状態にあるため、腐食抑制剤の供給量が最適供給量に対して差Xに対応する供給量を減じた量に設定される。この結果、蒸気ボイラ装置1は、腐食抑制剤の過剰供給が回避され、復水配管30の腐食を経済的に抑制することができる。
【0055】
因みに、蒸気ボイラ装置1において差Xが0の場合、蒸気ボイラ装置1は、最適供給量で腐食抑制剤が供給される。また、蒸気ボイラ装置1において各腐食傾向判定用項目の判定値が0の場合、復水配管30が腐食のおそれがない理想状態であるということであり、腐食抑制剤を供給しなくても復水配管30の腐食抑制が実現されることになる。
【0056】
オペレータが薬剤供給装置60の停止操作をした場合、動作プログラムは、ステップS12において停止指令を発し、薬剤供給装置60からの薬剤供給を停止する。
【0057】
[変形例]
(1)上述の実施の形態では、蒸気供給配管24に対して薬剤供給装置60を連絡させ、蒸気供給経路24中を蒸気ボイラ20から負荷装置2へ供給される蒸気中へ腐食抑制剤を供給するようにしているが、薬剤供給装置60を給水経路41と連絡させ、給水経路41を通じて給水タンク40から蒸気ボイラ20へ供給されるボイラ給水に対して腐食抑制剤を供給するようにした場合も本発明を同様に実施することができる。また、蒸気ボイラ20から負荷装置2へ供給される蒸気中と、給水タンク40から蒸気ボイラ20へ供給されるボイラ給水との両方に対して腐食抑制剤を供給するようにした場合も、本発明を同様に実施することができる。
【0058】
(2)上述の実施の形態では、腐食傾向判定用項目として上述の六つの項目を選択しているが、腐食傾向判定用項目は、その他にも、例えば、蒸気の温度若しくは圧力、蒸気ボイラの蒸気供給能力、復水配管の口径等を選択することができる。また、選択する腐食傾向判定用項目は、一つでもよい。但し、腐食傾向判定用項目は、できるだけ多く選択する方が、腐食抑制剤の供給量をより適切に制御する上で好ましい。
【0059】
(3)上述の実施の形態では、蒸気ボイラ20として貫流ボイラを用いているが、蒸気ボイラ20として他の形態のものを用いた場合も本発明を同様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の一形態に係る供給方法を実施可能な蒸気ボイラ装置の概略図。
【図2】前記蒸気ボイラ装置において用いられる蒸気ボイラの一部断面概略図。
【図3】前記蒸気ボイラ装置において用いられる制御装置の概略図。
【図4】前記制御装置の動作フローチャート。
【図5】基準蒸気ボイラ装置に関する腐食傾向判定用項目の評価値を表したレーダーチャート。
【図6】前記実施の一形態に係る蒸気ボイラ装置に関する腐食傾向判定用項目の判定値の一例を表したレーダーチャート。
【図7】前記実施の一形態に係る蒸気ボイラ装置に関する腐食傾向判定用項目の判定値の他の例を表したレーダーチャート。
【符号の説明】
【0061】
1 蒸気ボイラ装置
2 負荷装置
20 蒸気ボイラ
24 蒸気供給配管
30 復水配管
41 給水経路
60 薬剤供給装置
70 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ給水を蒸気ボイラへ供給して加熱することにより発生する蒸気を蒸気供給配管を通じて負荷装置へ供給して利用するとともに、前記蒸気が凝縮して得られる復水を前記負荷装置から延びる復水配管を通じて前記ボイラ給水と混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、前記復水配管の腐食抑制剤を供給装置から供給するための方法であって、
基準となる蒸気ボイラ装置を設定し、当該基準蒸気ボイラ装置における仕様項目群から選択された少なくとも一つの腐食傾向判定用項目の評価値と、当該評価値に基づいて設定された前記基準蒸気ボイラ装置における前記腐食抑制剤の最適供給量とを制御装置に記録する工程Aと、
前記腐食抑制剤を供給する処方対象蒸気ボイラ装置における前記腐食傾向判定用項目の判定値を前記制御装置に入力し、前記制御装置において、入力された前記判定値と記録された前記評価値との差を数量的に求める工程Bと、
前記差に基づいて、前記供給装置から前記処方対象蒸気ボイラ装置へ供給する前記腐食抑制剤の供給量を前記制御装置により制御する工程Cとを含み、
前記工程Cでは、前記差が前記復水配管の腐食が進行しやすい側にある場合は前記供給量を前記差の数量に応じて前記最適供給量よりも多く設定し、前記差が前記復水配管の腐食が進行しにくい側にある場合は前記供給量を前記差の数量に応じて前記最適供給量よりも少なく設定する、
蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の供給方法。
【請求項2】
前記仕様項目群は、前記蒸気供給配管の長さ、前記復水配管の長さ、前記復水配管の肉厚、前記復水配管の材質、前記復水の温度、前記復水配管における水滞留部分の長さ、および、前記復水配管が外気と隔絶されるよう施工されているか否かの各腐食傾向判定用項目からなる、請求項1に記載の蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の供給方法。
【請求項3】
前記ボイラ給水および前記蒸気ボイラから前記負荷装置へ供給する前記蒸気のうちの少なくとも一つに前記腐食抑制剤を供給する、請求項1から3のいずれかに記載の蒸気ボイラ装置における腐食抑制剤の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−157582(P2008−157582A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348988(P2006−348988)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)