説明

蒸気弁

【課題】弁体ガイドの振動を確実に抑制することができる蒸気弁を提供する。
【解決手段】蒸気弁1は、弁体ガイド6に沿って弁体8を上下動させて、弁体8を弁座2のシート部18に対して離接することで、弁体8と弁座2との間を流れる蒸気量を調節するようになっている。弁体ガイド6は、複数の開口部6A及びリブ6Bが周方向に交互に配設され、リブ6Bをその先端側で連結するとともに弁座2の環状溝20に嵌合されるリング部6Cを有する。弁体ガイド6のリング部6Cは、開口部6Aを通ってシート部18に向かう蒸気主流と干渉しないように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、火力発電所や原子力発電所の蒸気タービン等に供給する蒸気量を調節するための蒸気弁に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所等の蒸気タービンは、負荷変化に応じて蒸気量を調節するために、アクチュエータで弁棒を動かし、弁座と弁体との間の流路面積を変化させることで蒸気量を調節する蒸気弁が多数設けられている。
【0003】
蒸気弁には、蒸気量調節のために円筒状の弁体ガイド(マフラ)の内周面に沿って弁体を摺動させる構成のものがある。ここで弁体ガイドは弁体案内機能及び消音機能を兼ね備える部材であり、複数の開口部およびリブが周方向に交互に配設され、該リブをその先端側で互いに連結し、弁座に設けられた環状溝に嵌合するリング部が設けられている。これにより、リング部によって弁座に固定された弁体ガイドの内周を弁体が摺動し、該弁体が弁座から離れることで、蒸気弁の出入口の差圧によって蒸気が開口部を通過して弁体と弁座との間の流路へと流れるようになっている。
【0004】
この種の蒸気弁では、弁体と弁座との間の流路を流れる蒸気流の乱れによって蒸気弁の各部に振動が発生し、蒸気弁が損傷してしまうことがあった。特に、蒸気タービンの高圧室の上流に配置される蒸気加減弁や、中圧室の上流に配置されるインターセプト弁は、高圧かつ大流量の蒸気を扱うため、蒸気流の乱れに起因する蒸気弁各部の振動を如何にして抑制するかが問題になっていた。
そこで、従来から、弁体ガイドのリング部の形状等を工夫することで、蒸気弁各部の振動を低減する試みがなされている。例えば、特許文献1には、弁体ガイドのリング部をテーパ状に形成し、開口部から流入する蒸気流の乱れを防止し、蒸気弁各部の振動を抑制するようにした蒸気弁が開示されている。
【0005】
また、従来から、弁体ガイドのリング部の上流と下流との圧力差によって、蒸気の一部がリング部と環状溝との間の隙間を流れること(いわゆる、隙間流れ)が弁体ガイドの振動の一因として問題視されていた。
そこで、特許文献2には、弁座の環状溝とマフラ(弁体ガイド)のリング部との隙間にシールリングや金網メッシュ消音材等の流体流れ阻止手段を設け、該隙間の蒸気流(隙間流れ)に起因する弁体ガイドの振動を防止するようにした蒸気弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−154203号公報
【特許文献2】実開平3−56802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、最近の蒸気タービンは超々臨界圧に対応可能なものまで開発が進んでおり、特許文献1及び2に記載の蒸気弁では、弁体ガイドの振動を十分に抑制することが難しい場合がある。
【0008】
このため、本願発明者らは、弁体ガイドのリブを束ねるリング部の断面積を大きくして、リング部を強化することで、弁体ガイドの振動を抑制しようとしたが、リング部の断面積を増加しても弁体ガイドの振動の抑制効果を十分に得ることはできなかった。
そこで、本願発明者らは、弁体ガイドの振動の原因を調べる目的で、蒸気弁内における蒸気流の圧力分布についてシミュレーションを行ったところ、蒸気流とリング部との干渉によって、該リング部の下流側で蒸気流が剥離してウェークが生じるという知見を得るととともに、このウェークによるリング部の励振が弁体ガイドの振動の一因であることを認識するに至った。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、弁体ガイドの振動を確実に抑制することができる蒸気弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る蒸気弁は、シート部および該シート部の上流側に形成された環状溝を有する弁座と、複数の開口部およびリブが周方向に交互に配設され、該リブをその先端側で互いに連結するとともに前記弁座の前記環状溝に嵌合するリング部を有する円筒状の弁体ガイドと、前記弁体ガイドの内側に配設され、前記弁座の前記シート部に対して離接することで前記弁座との間を流れる蒸気量を調節可能な弁体とを備える蒸気弁であって、前記弁体ガイドの前記リング部は、前記開口部を通って前記シート部に向かう蒸気主流と干渉しないように形成されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、リング部が「蒸気主流と干渉しない」とは、該リング部の下流側で、該リング部による蒸気流の剥離が生じないことを意味し、蒸気流の剥離の有無は、例えば、蒸気弁内における蒸気流の圧力分布についてのシミュレーション結果に基づいて判定可能である。
【0012】
上記蒸気弁では、弁体ガイドのリング部は蒸気主流と干渉しないように形成されているので、該リング部の下流側における蒸気主流の剥離が起こらず、ウェークに起因する弁体ガイドの振動を防止することができる。
また、弁体ガイドのリング部が蒸気主流と干渉しないことから、リング部の上流と下流とでは圧力差がほとんど生じず、リング部と環状溝との間の隙間を流れる蒸気流(隙間流れ)が起こらないので、シールリングや金網メッシュ消音材等の隙間流れを阻止する部材を設けることなく、隙間流れに起因する弁体ガイドの振動を防止することができる。
【0013】
上記蒸気弁において、前記弁体ガイドの前記リング部は、前記弁座の前記環状溝に完全に収まっていることが好ましい。
【0014】
これにより、リング部の下流側におけるウェークに起因する弁体ガイドの振動と、リング部と環状溝との間の隙間流れに起因する弁体ガイドの振動とをより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、弁体ガイドのリング部が蒸気主流と干渉しないように形成されるので、該リング部の下流側における蒸気主流の剥離が起こらず、ウェークに起因する弁体ガイドの振動を防止することができる。
また、弁体ガイドのリング部が蒸気主流と干渉しないことから、リング部の上流と下流とでは圧力差がほとんど生じず、リング部と環状溝との間の隙間を流れる蒸気流(隙間流れ)が起こらないので、シールリングや金網メッシュ消音材等の隙間流れを阻止する部材を設けることなく、隙間流れに起因する弁体ガイドの振動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る蒸気弁の構成例を示す断面図である。
【図2】図1におけるI−I線に沿った断面図である。
【図3】弁体ガイドのリング部周辺の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0018】
まず、本発明に係る蒸気弁の全体構成について説明する。図1は本実施形態に係る蒸気弁の構成例を示す断面図であり、図2は図1におけるI−I線に沿った断面図である。
【0019】
図1に示すように、蒸気弁1は、弁座2を有する弁体ケーシング4と、円筒状の弁体ガイド(マフラ)6と、弁体ガイド6の内側に配置された弁体8と、弁体8に連結された弁棒10と、弁体ケーシング4上に設けられたボンネット12とより構成されている。
【0020】
弁体ケーシング4の上部にはボルト3によってボンネット12が固定され、弁体ケーシング4の開口がボンネット12で閉じられている。すなわち、ボンネット12の円筒状の円筒部12Aが弁体ケーシング4内に挿入された状態で、ボンネット12の蓋板12Bと弁体ケーシング4とがボルト3で締結され、蒸気弁1の内部空間を形成している。
また弁体ケーシング4には蒸気入口14及び蒸気出口16が形成されており、図中の矢印で示すように、蒸気入口14から蒸気弁1の内部空間に流入した蒸気は、蒸気出口16から流出し、蒸気弁1の後段に配設された蒸気タービン等(不図示)に供給されるようになっている。
【0021】
弁体ケーシング4の弁座2は、蒸気入口14と蒸気出口16との間に、弁体ケーシング4の内面の一部として設けられている。弁座2のシート部18の上流側には環状溝20が形成されている。
【0022】
弁体ガイド(マフラ)6は、弁体8の案内と消音のために設けられる円筒状の部材であり、図2に示すように、蒸気が通過する複数の開口部6Aと、複数のリブ6Bとが周方向に交互に配設されている。また図1及び2に示すように、弁体ガイド6にはリング部6Cが設けられており、このリング部6Cによって複数のリブ6Bが互いに連結されている。
弁体ガイド6の下端側は、リング部6Cが環状溝20に嵌合して弁座2に固定されている。一方、弁体ガイド6の上端側は、ピン22によってボンネット12の円筒部12Aに固定されている。
【0023】
なお、弁座2の環状溝20をできるだけシート部18から離すため、弁体ガイド6は、図1及び2に示すように、リブ6Bで構成される部分が下端側に近づくにつれ拡径し、リブ6Bで構成される部分の外周側のみにリング部6Cが設けられていることが好ましい。
後述のようにリング部6Cを環状溝20に完全に納め、主蒸気流とリング部6Cとの干渉を防止する場合、環状溝20を従来よりも大きくして(幅広にして)リング部6Cの強度を確保する必要がある。しかし、このような幅広な環状溝20がシート部18の近傍に存在すると、弁開閉時にシート部18周辺で弁座2が変形してしまうおそれがある。この点、弁体ガイド6を上記形状とすれば、弁座2の環状溝20がシート部18から比較的離れた位置に存在するため、弁開閉時にシート部18周辺で弁座2が変形してしまうことがない。
【0024】
図1に示す弁体8は、弁体ガイド6の内側に設けられ、弁体8に連結された弁棒10の上下動に伴って、ボンネット12の円筒部12Aと弁体ガイド6とに沿って上下動するようになっている。ここで、弁体8の外周側壁にはプレッシャーシールリング24が設けられているので、ボンネット12の円筒部12Aに対する弁体8の上下方向の摺動は円滑に行われる。また図1及び2に示すように、弁体8の頭頂部にはバランス孔8Aが設けられており、弁体8とボンネット12の円筒部12Aとで囲まれた内部空間26とその外部との圧力バランスを取り、小さな駆動力で弁体8を上下動させることが可能になっている。
この弁体8が弁座2のシート部18に対して離接することで、弁体8と弁座2との間の流路の面積が増減され、該流路を流れる蒸気量が調節される。
【0025】
弁棒10は、一端が弁体8に連結されており、他端が不図示のアクチュエータに連結されている。これにより、アクチュエータの駆動力を弁体8に伝えるようになっている。なお弁棒10は、ボンネット12の蓋板12Bを貫通するスリーブ28によって案内されている。
【0026】
次に、本実施形態に係る蒸気弁1の弁体ガイド6の具体的な構成について説明する。図3は、弁体ガイド6のリング部6C周辺の拡大断面図である。同図に示すように、弁体ガイド6のリング部6Cは、開口部6Aを通ってシート部18に向かう蒸気主流(図中の矢印方向)と干渉しないように形成されている。
このように、本実施形態の蒸気弁1では、蒸気主流がリング部6Cと干渉しないので、リング部6Cの下流側において蒸気主流の剥離は起きず、ウェークに起因する弁体ガイド6の振動を防止することができる。また、蒸気主流がリング部6Cと干渉しないことから、リング部6Cの上流と下流とでは圧力差がほとんど生じず、リング部6Cと環状溝20との間の隙間を流れる蒸気流(隙間流れ)は起きず、シールリングや金網メッシュ消音材等の隙間流れを阻止する部材を設けることなく、隙間流れに起因する弁体ガイド6の振動を防止することができる。
【0027】
弁体ガイド6のリング部6Cは、図3に示すように、弁座2の環状溝20に完全に収まっていることが好ましい。
これにより、リング部6Cの下流側におけるウェークに起因する弁体ガイド6の振動と、リング部6Cと環状溝20との間の隙間流れに起因する弁体ガイド6の振動とをより確実に防止することができる。
【0028】
以上、本発明の一例について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0029】
例えば、上述の実施形態では、図1に示す全体構成を有する蒸気弁1について説明したが、蒸気弁1の全体構成は、弁体ガイド6のリング部6Cが蒸気主流と干渉しないように形成されている限り特に限定されず、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0030】
1 蒸気弁
2 弁座
4 弁体ケーシング
6 弁体ガイド
6A 開口部
6B リブ
6C リング部
8 弁体
8A バランス孔
10 弁棒
12 ボンネット
12A 円筒部
12B 蓋板
14 蒸気入口
16 蒸気出口
18 シート部
20 環状溝
22 ピン
24 プレッシャーシールリング
26 内部空間
28 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部および該シート部の上流側に形成された環状溝を有する弁座と、
複数の開口部およびリブが周方向に交互に配設され、該リブをその先端側で互いに連結するとともに前記弁座の前記環状溝に嵌合するリング部を有する円筒状の弁体ガイドと、
前記弁体ガイドの内側に配設され、前記弁座の前記シート部に対して離接することで前記弁座との間を流れる蒸気量を調節可能な弁体とを備える蒸気弁であって、
前記弁体ガイドの前記リング部は、前記開口部を通って前記シート部に向かう蒸気主流と干渉しないように形成されていることを特徴とする蒸気弁。
【請求項2】
前記弁体ガイドの前記リング部は、前記弁座の前記環状溝に完全に収まっていることを特徴とする請求項1に記載の蒸気弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−252410(P2011−252410A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125615(P2010−125615)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】