説明

蒸気弁

【課題】蒸気弁各部の振動を低減するとともに、圧力損失が小さく、蒸気を迅速に遮断可能な蒸気弁を提供する。
【解決手段】蒸気弁1は、弁体2を弁座4に対して相対移動させることで、弁座4と弁体2との間の流路の面積を変化させて該流路を流れる蒸気量を調節するようになっている。弁体2は、弁座4と接触する弁頭部2Aの曲率半径をr、弁座4のシート径をDとしたときにr>0.6Dを満たし、弁頭部2Aの上流側において、弁頭部2Aよりも弁体2の弁座4に対する相対移動方向22側に傾斜したテーパ面2Bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、火力発電所や原子力発電所の蒸気タービン等に供給する蒸気量を調節するための蒸気弁に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所等の蒸気タービンは、負荷変化に応じて蒸気量を調節したり、異常時に蒸気の供給を遮断したりするために、多数の蒸気弁が設けられている。蒸気弁は、アクチュエータで弁棒を動かし、弁座と弁体との間の流路面積を変化させることで、蒸気量を調節可能としたものが一般的である。
【0003】
この種の蒸気弁は、高圧の蒸気が流れるため、蒸気流れの偏流や渦流等によって振動が発生し、蒸気弁の弁体やこれに連結された弁棒に亀裂が生じてしまうことがある。特に、蒸気タービンの高圧室の上流に配置される蒸気加減弁や、中圧室の上流に配置されるインターセプト弁は、高圧かつ大流量の蒸気を扱うため、弁体と弁座との間隙を流れる蒸気が遷音速状態となる際に発する衝撃波に伴う流れの乱れが、蒸気弁各部の振動を引き起こすことが問題になっていた。そこで、従来から、弁体及び弁座の形状を工夫することで、蒸気弁各部の振動を低減する試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、弁体の曲率半径をシート径の0.52〜0.6倍とし、弁座の曲率半径をシート径の0.6倍よりも大きくした蒸気弁が開示されている。
図4は、特許文献1及び2に記載された蒸気弁を模式的に示す断面図である。図4に示すように、弁体2の曲率半径rはシート径Dの0.52〜0.6倍であり、弁座4の曲率半径Rはシート径Dの0.6倍よりも大きくなっている。よって、蒸気弁が微小開されたときの蒸気の流線100は、弁体の移動方向Yに比較的沿った状態(いわゆる、流線100が立った状態)となるので、蒸気流が弁座4側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)が形成され、蒸気流が安定化し、蒸気弁各部の振動を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭58−44909号公報
【特許文献2】特許第4185029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の蒸気弁では、弁座4と弁体2とが接触する位置(シート位置3)における弁座4の接線方向が比較的立っている(弁体2の移動方向Yに比較的沿っている)ため、弁座4と弁体2との間の流路面積が小さく、圧力損失が大きい傾向にあり、十分な蒸気供給量を確保するためには弁体2のリフト量を大きく設定するか、蒸気弁全体を大きくする必要がある。ここで、蒸気弁には、緊急時に蒸気タービンへの蒸気の供給を迅速に遮断することで蒸気タービンが過速度で損傷することを防止することが求められるが、弁体2のリフト量を大きく設定すると、全開状態から全閉状態に移行するまでに時間を要し、蒸気を迅速に遮断することが難しい。また、蒸気弁全体を大きくした場合は、その設置に制約が生じたり、大幅なコスト上昇につながる。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、蒸気弁各部の振動を低減するとともに、圧力損失が小さく、蒸気を迅速に遮断可能な蒸気弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る蒸気弁は、弁体を弁座に対して相対移動させることで、前記弁座と前記弁体との間の流路の面積を変化させて該流路を流れる蒸気量を調節する蒸気弁であって、前記弁体は、前記弁座と接触する弁頭部の曲率半径をr、前記弁座のシート径をDとしたときにr>0.6Dを満たし、前記弁頭部の上流側において、前記弁頭部よりも前記弁体の前記弁座に対する相対移動方向側に傾斜したテーパ面を有することを特徴とする。
【0009】
以下、蒸気の流線、弁座の接線方向、テーパ面等が、弁体の弁座に対する相対移動方向に比較的沿っていることを「立っている」と表現し、蒸気の流線、弁座の接線方向、テーパ面等が、弁体の弁座に対する相対移動方向に直交する方向に比較的沿っていることを「寝ている」と表現することがある。シート位置における弁座の接線方向は、幾何学的関係により、弁体の弁頭部の曲率半径rと、弁座のシート径Dの比によって決定される。
【0010】
本発明に係る蒸気弁では、弁体の弁頭部の曲率半径rがr>0.6D(ただし、Dは弁座のシート径)を満たすので、シート位置における弁座の接線方向は、従来に比べて寝ており、同一リフト量における弁座と弁体との間の流路面積が大きく、圧力損失が小さい傾向を有する。よって、蒸気供給量を確保するための弁体のリフト量は比較的小さく、蒸気タービン等への蒸気の供給を迅速に遮断することができる。
一方、この蒸気弁では、弁頭部よりも弁体移動方向側(弁体の弁座に対する相対移動方向側)に傾斜したテーパ面が弁頭部の上流側に設けられているので、蒸気は、弁座と弁体との間の流路を通過する前に、テーパ面によって弁座移動方向に向かうように整流される。よって、弁頭部の曲率半径rとシート径Dとがr>0.6Dの関係を満たし、シート位置における弁座の接線方向が比較的寝ているにもかかわらず、弁座と弁体との間における蒸気の流線が立った状態をテーパ面によって実現することができる。したがって、蒸気流が弁座側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)を形成し、蒸気弁各部の振動を低減することができる。
【0011】
すなわち、本発明の蒸気弁では、弁頭部の曲率半径rのシート径Dに対する比を従来よりも大きく設定し、シート位置における弁座の接線方向を従来よりも寝かせて圧力損失を小さくするとともに、テーパ面を弁頭部の上流側に設け、弁頭部とテーパ面とを含めた仮想的な曲率半径をシート径及び弁座の曲率半径に対して十分に小さくすることで、弁座と弁体との間における蒸気の流線が立った状態を実現し、蒸気流れを弁座側に付着させることで蒸気弁各部の振動を低減するようになっている。
【0012】
上記蒸気弁において、前記弁頭部は、0.61D≦r≦0.80Dを満たすことが好ましい。
【0013】
このように、弁頭部の曲率半径rを0.61D以上とすることで、蒸気の供給をより迅速に遮断することができる。また、弁頭部の曲率半径rを0.80D以下とすることで、蒸気流が弁座側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)を形成しやすくなり、蒸気弁各部の振動をより確実に低減することができる。
【0014】
上記蒸気弁において、前記テーパ面は、シート位置から下流側に延ばした前記弁座の接線方向に対してなす角度θが150度以上170度以下であることが好ましい。
【0015】
テーパ面がシート位置における弁座接線方向に対してなす角度θが小さすぎると、シート位置の上流側において、テーパ面から弁頭部に移行する部分に角が立ち、該角の周辺で蒸気流の剥離が発生してしまい、蒸気弁各部の振動が生じてしまう。一方、角度θが大きすぎると、テーパ面によって蒸気の流線が立つように十分に整流することが難しい。
そこで、角度θが150度以上170度以下に設定することで、テーパ面から弁頭部に移行する領域における蒸気流の剥離を防止し、かつ、テーパ面によって蒸気の流線が立つように確実に整流することができる。
【0016】
上記蒸気弁において、前記テーパ面は、前記弁体の前記弁座に対する相対移動方向に対して前記テーパ面がなす角度をθとし、シート位置における前記弁座の接線方向が前記弁体の前記弁座に対する相対移動方向に対してなす角度をδとしたときに、0.3≦θ/(90−δ)≦0.4の関係を満たすことが好ましい。
【0017】
ここで、「θ/(90−δ)」は、弁体の移動方向に対してテーパ面がなす角度θに比例し、シート位置における弁座の接線方向の立ち角を意味する(90−δ)に反比例する。よって、「θ/(90−δ)」が小さいということは、テーパ面が立っているか、シート位置における弁座の接線方向が立っているかのいずれか(あるいはその両方)の場合を意味する。
したがって、上述のように、θ/(90−δ)を0.4以下とすることで、テーパ面によって蒸気の流線を立てるか、あるいは、シート位置における弁座の接線方向を立てて、蒸気流が弁座側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)を確実に形成することができる。また、θ/(90−δ)を0.3以上とすることで、テーパ面が過度に立ってしまい、テーパ面から弁頭部に移行する部分において蒸気流の剥離が生じてしまうことを防止できる(なお、本発明では、弁頭部の曲率半径rとシート径Dとの間にr>0.6Dの関係が成立するため、シート位置における弁座の接線方向が過度に立ってしまう場合は考慮しなくてもよい)。
【0018】
上記蒸気弁において、前記弁体の前記弁頭部は、前記弁座に接触するシート位置よりも下流側の頭頂に円状凹部を有し、前記円状凹部の直径をDnとしたとき、前記弁座のシート径Dとの間に、0.90D≦Dn≦0.98Dの関係が成立することが好ましい。
【0019】
このように、円状凹部の直径Dnをシート径Dの0.90倍以上にして、シート位置の直後の下流側に円状凹部を設けることで、蒸気流が遷音速状態となる際に発する衝撃波の影響を受けて弁体が振動してしまうことを防止できる。また、円状凹部の直径Dnをシート径Dの0.98倍以下にすることで、蒸気弁の全閉時に円状凹部のエッジが弁座に押し付けられることによる弁体又は弁座の機械的損傷を防止できる。
【0020】
上記蒸気弁において、前記弁体の前記テーパ面よりも上流側の基部は円筒状に形成されており、前記弁体の前記基部の直径をDvとしたとき、前記弁座のシート径Dとの間で、1.03D≦Dv≦1.10Dの関係を満たすことが好ましい。
【0021】
このように、弁体の基部の直径Dvを1.03D≦Dvとすることで、テーパ面を比較的広域に亘って形成し、蒸気流が弁座側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)をより確実に実現することができる。また、弁体の基部の直径DvをDv≦1.10Dとすることで、弁体の外径を適度な大きさにして、蒸気弁の大型化を防止することができるとともに、過度に広域に亘って形成されたテーパ面で整流された蒸気流がテーパ面から弁頭部に移行する部分において急激に向きを変える際に生じる剥離を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、弁体の弁頭部の曲率半径rをr>0.6D(ただし、Dは弁座のシート径)に設定したので、弁座と弁体との間の流路面積が大きく、圧力損失が小さいことから、蒸気供給量を確保するための弁体のリフト量を小さくすることができる。よって、蒸気タービン等への蒸気の供給を迅速に遮断することができる。
また、本発明によれば、弁頭部よりも弁体移動方向側に傾斜したテーパ面を弁頭部の上流側に設けたので、蒸気は、弁座と弁体との間の流路を通過する前に、テーパ面によって弁座移動方向に向かうように整流される。よって、弁座と弁体との間における蒸気の流線が立った状態をテーパ面によって実現可能であり、蒸気流が弁座側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)を形成し、蒸気弁各部の振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る蒸気弁の全体構成の一例を示す断面図である。
【図2】シート部周辺の弁体及び弁座の形状を示す拡大断面図である。
【図3】弁頭部とテーパ面とを含めた仮想的な曲率半径を示す断面図である。
【図4】従来の蒸気弁を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0025】
まず、本発明に係る蒸気弁の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る蒸気弁の全体構成の一例を示す断面図である。
【0026】
図1に示すように、蒸気弁1は、主として、弁体2、弁座4、弁棒6、アクチュエータ8により構成されている。
【0027】
弁体2は、ピン5により弁棒6に固定されており、アクチュエータ8の駆動によって支点12を支点としてレバー10を矢印方向に動かすことで、弁棒6とともに上下移動するようになっている。これにより、弁座4に対する弁体2の位置は、供給すべき蒸気量に応じて、弁座4とシート位置3において接する全閉状態から、弁座4から最大リフト量だけ離れた全開状態の間で適宜調節されるようになっている。
蒸気弁1に導入された蒸気は、蒸気弁1のケーシング14で囲まれた弁室16から、弁体2と弁座4との間に形成される環状流路を通って、矢印Aで示す方向に流れ出て、蒸気弁1の後段に配設された蒸気タービン等(不図示)に供給される。
【0028】
次に、本実施形態に係る蒸気弁1の弁体2及び弁座4の形状について説明する。図2は、シート部周辺の弁体2及び弁座4の形状を示す拡大断面図である。同図に示すように、弁体2は、シート位置3において弁座4と接触する曲率半径rの弁頭部2Aと、弁頭部2Aの上流側に設けられたテーパ面2Bとを有する。
【0029】
弁頭部2Aの曲率半径rは、弁座4のシート径(シート位置3の直径)をDとしたときにr>0.6Dを満たす。このため、シート位置3における弁座4の接線方向20は従来よりも寝ているので、弁体2と弁座4との間の流路面積が比較的大きく、圧力損失は比較的小さい。よって、蒸気供給量を確保するための弁体2のリフト量は比較的小さく、蒸気タービン等(不図示)への蒸気の供給を迅速に遮断することができる。
なお、弁頭部2Aの曲率半径rがr>0.6Dの範囲内に設定する場合、弁座4の曲率半径Rは、例えば、0.20D≦R≦0.50Dを満たすように設定してもよい。
【0030】
一方、弁頭部2Aの上流側に設けられたテーパ面2Bは、弁頭部2Aよりも弁体2の移動方向22側に傾斜している。テーパ面2Bは、例えば、曲率半径rを有する弁頭部2Aの上流側のみを面取り加工することで形成してもよい。
このテーパ面2Bを設けることによって、弁室16に導入された蒸気は、シート位置3を通過する前に弁座2の移動方向22に向かうように整流される。よって、弁頭部2Aの曲率半径rとシート径Dとがr>0.6Dの関係を満たし、シート位置3における弁座4の接線方向20が比較的寝ているにもかかわらず、弁体2と弁座4との間における蒸気の流線が立った状態をテーパ面2Bによって実現することができる。したがって、蒸気流が弁座4側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)を形成し、蒸気弁1の各部の振動を低減することができる。
【0031】
また、図2に示す蒸気弁1において、弁頭部2Aの曲率半径rは、0.61D≦r≦0.80D(ただし、Dはシート径)を満たすことが好ましい。
このように、弁頭部2Aの曲率半径rを0.61D以上とすることで、蒸気の供給をより迅速に遮断することができる。また、弁頭部2Aの曲率半径rを0.80D以下とすることで、蒸気流が弁座4側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)を形成しやすくなり、蒸気弁1の各部の振動をより確実に低減することができる。
【0032】
また、テーパ面2Bは、シート位置3から下流側に延ばした弁座4の接線方向20に対してなす角度θが150度以上170度以下であることが好ましい。
テーパ面2Bがシート位置3における弁座4の接線方向20に対してなす角度θが小さすぎると、シート位置3の上流側において、テーパ面2Bから弁頭部2Aに移行する部分(移行領域24)に角が立ち、該角の周辺で蒸気流の剥離が発生してしまい、かえって蒸気弁1の各部に振動が生じてしまうことがある。一方、角度θが大きすぎると、テーパ面2Bによって蒸気の流線が立つ(弁体2の移動方向に沿う)ように十分に整流することが難しい。
そこで、角度θが150度以上170度以下に設定することで、テーパ面2Bから弁頭部2Aに移行する移行領域24における蒸気流の剥離を防止し、かつ、テーパ面2Bによって蒸気の流線が立つように確実に整流することができる。
【0033】
また、テーパ面2Bは、弁体2の弁座4に対する相対移動方向22に対してテーパ面2Bがなす角度をθとし、シート位置3における弁座4の接線方向20が弁体2の弁座4に対する相対移動方向22に対してなす角度をδとしたときに、0.3≦θ/(90−δ)≦0.4の関係を満たすことが好ましい。
ここで、「θ/(90−δ)」は、弁体2の移動方向22に対してテーパ面2Bがなす角度θに比例し、シート位置3における弁座4の接線方向20の立ち角を意味する(90−δ)に反比例する。よって、「θ/(90−δ)」が小さいということは、テーパ面2Bが立っているか、シート位置3における弁座4の接線方向20が立っているかのいずれか(あるいはその両方)の場合を意味する。
したがって、上述のように、θ/(90−δ)を0.4以下とすることで、テーパ面2Bによって蒸気の流線を立てるか、あるいは、シート位置3における弁座4の接線方向20を立てて、蒸気流が弁座4側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)を確実に形成することができる。また、θ/(90−δ)を0.3以上とすることで、テーパ面2Bが過度に立ってしまい、テーパ面2Bから弁頭部2Aに移行する移行領域24において蒸気流の剥離が生じてしまうことを防止できる。なお、本実施形態では、弁頭部2Aの曲率半径rとシート径Dとの間にr>0.6Dの関係が成立するため、シート位置3における弁座4の接線方向20が過度に立ってしまう場合は考慮しなくてもよい。
【0034】
また、蒸気弁1において、弁体2の弁頭部2Aは、弁座4に接触するシート位置3よりも下流側の頭頂に円状凹部26を有し、この円状凹部26の直径をDnとしたとき、弁座4のシート径Dとの間に、0.90D≦Dn≦0.98Dの関係が成立することが好ましい。
【0035】
このように、円状凹部26の直径Dnをシート径Dの0.90倍以上にして、シート位置3の直後の下流側に円状凹部26を設けることで、蒸気流が遷音速状態となる際に発する衝撃波の影響を受けて弁体2が振動してしまうことを防止できる。また、円状凹部26の直径Dnをシート径Dの0.98倍以下にすることで、蒸気弁1の全閉時に円状凹部26のエッジが弁座4に押し付けられることによる弁体2又は弁座4の機械的損傷を防止できる。
【0036】
さらに蒸気弁1において、弁体2のテーパ面2Bよりも上流側の基部28は円筒状に形成されており、弁体2の基部28の直径をDvとしたとき、弁座4のシート径Dとの間で、1.03D≦Dv≦1.10Dの関係を満たすことが好ましい。
【0037】
このように、弁体2の基部28の直径Dvを1.03D≦Dvとすることで、テーパ面2Bを比較的広域に亘って形成し、蒸気流が弁座4側に付着したアニュラーフロー(環状流れ)をより確実に実現することができる。また、弁体2の基部28の直径DvをDv≦1.10Dとすることで、弁体2の外径を適度な大きさにして、蒸気弁1の大型化を防止することができるとともに、過度に広域に亘って形成されたテーパ面2Bで整流された蒸気流がテーパ面2Bから弁頭部2Aに移行する部分(移行領域24)において急激に向きを変える際に生じる剥離を防止することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る蒸気弁1では、弁体2は、弁座4と接触する弁頭部2Aの曲率半径をr、弁座4のシート径をDとしたときにr>0.6Dを満たし、弁頭部2Bの上流側において、弁頭部2Bよりも弁体2の弁座4に対する相対移動方向22側に傾斜したテーパ面2Bを有する。
すなわち、本実施形態では、弁頭部2Aの曲率半径rのシート径Dに対する比を従来よりも大きく設定し、シート位置3における弁座4の接線方向20を従来よりも寝かせて圧力損失を小さくするとともに、テーパ面2Bを弁頭部2Aの上流側に設け、弁頭部2Aとテーパ面2Bとを含めた仮想的な曲率半径をシート径D及び弁座4の曲率半径Rに対して十分に小さくすることで、弁座4と弁体2との間における蒸気の流線が立った状態を実現し、蒸気流れを弁座側に付着させることで蒸気弁1の各部の振動を低減するようになっている。
【0039】
なお、弁頭部2Aとテーパ面2Bとを含めた仮想的な曲率半径は、図3に示すように、シート位置3に対応する弁頭部2A上の点P1、テーパ面2Bの最も上流側の点P2、弁頭部2Aの曲面の下流側終端に当たる点P3を通る仮想円の曲率半径Rvを意味する。曲率半径Rvは、上述のr、D、θ、θ/(90−δ)等のパラメータを規定することで決定されるが、弁座4のシート径Dとの間で0.10D≦Rv≦0.45Dを満たすことが好ましく、弁座4の曲率半径Rとの間で0.2R≦Rv≦0.9Rを満たすことが好ましい。このようにRvをRよりも小さくすることで、弁座に付着した安定な蒸気流を実現することができる。
【0040】
以上、本発明の一例について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0041】
例えば、上述の実施形態では、図1に示す全体構成を有する蒸気弁1について説明したが、蒸気弁1の全体構成は、弁頭部2Aの曲率半径rがr>0.6D(ただし、Dはシート径)を満たし、弁頭部2Bよりも相対移動方向22側に傾斜したテーパ面2Bを弁頭部2Aの上流側に有する限り特に限定されず、種々の構成を採り得る。例えば、蒸気弁1は、弁棒6の先端が副弁として機能し、該副弁が弁体(主弁)2内に収納されており、最初に副弁が開いた後、主弁としての弁体2が開くような構成であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 蒸気弁
2 弁体
3 シート位置
4 弁座
5 ピン
6 弁棒
8 アクチュエータ
10 レバー
12 支点
14 ケーシング
16 弁室
20 シート位置における弁座の接線方向
22 弁体の相対移動方向
24 移行領域
26 円状凹部
28 基部
100 流線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体を弁座に対して相対移動させることで、前記弁座と前記弁体との間の流路の面積を変化させて該流路を流れる蒸気量を調節する蒸気弁であって、
前記弁体は、前記弁座と接触する弁頭部の曲率半径をr、前記弁座のシート径をDとしたときにr>0.6Dを満たし、前記弁頭部の上流側において、前記弁頭部よりも前記弁体の前記弁座に対する相対移動方向側に傾斜したテーパ面を有することを特徴とする蒸気弁。
【請求項2】
前記弁頭部は、0.61D≦r≦0.80Dを満たすことを特徴とする請求項1に記載の蒸気弁。
【請求項3】
前記テーパ面は、シート位置から下流側に延ばした前記弁座の接線方向に対してなす角度θが150度以上170度以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気弁。
【請求項4】
前記テーパ面は、前記弁体の前記弁座に対する相対移動方向に対して前記テーパ面がなす角度をθとし、シート位置における前記弁座の接線方向が前記弁体の前記弁座に対する相対移動方向に対してなす角度をδとしたときに、0.3≦θ/(90−δ)≦0.4の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蒸気弁。
【請求項5】
前記弁体の前記弁頭部は、前記弁座に接触するシート位置よりも下流側の頭頂に円状凹部を有し、
前記円状凹部の直径をDnとしたとき、前記弁座のシート径Dとの間に、0.90D≦Dn≦0.98Dの関係が成立することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蒸気弁。
【請求項6】
前記弁体の前記テーパ面よりも上流側の基部は円筒状に形成されており、
前記弁体の前記基部の直径をDvとしたとき、前記弁座のシート径Dとの間で、1.03D≦Dv≦1.10Dの関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の蒸気弁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−252437(P2011−252437A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126845(P2010−126845)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】