説明

蒸気直接加熱の殺菌開始位置の検出方法

【課題】液状食品を殺菌する直接加熱殺菌装置を対象として、蒸気を液状食品に直接吹き込む管路における殺菌開始位置を正確に把握し、殺菌温度保持部の信頼性を向上させる殺菌開始位置の検出方法を提供する。
【解決手段】液状食品を流す管路2内に蒸気を吹き込んで、該蒸気により液状食品を加熱殺菌する装置1を対象として、管路2における蒸気の吹き込み位置3から下流側へ向けて液状食品内の気泡の有無を超音波により検出し、該検出結果に基づいて該管路2における殺菌開始位置を検出することにより、検出の手間や工数の低減が図れると共に殺菌開始位置を正確に把握し、殺菌時間を正確に設定して適切に殺菌を行うことができる方法にかかるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状食品に蒸気を吹き込んで管路内を流し連続的に加熱殺菌するための加熱殺菌装置を対象とした、殺菌開始位置の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液状食品に蒸気を混合して加熱殺菌するための技術として、例えばミルクを原料とする製品を間接予備加熱し、次いで製品中に蒸気を直接噴射することによって滅菌温度140−153℃に加熱し、その滅菌済製品を前記滅菌温度からフラッシュ冷却によって70−85℃に冷却するミルクを原料とする液状製品の連続滅菌法が提案されている。この方法は、蒸気吹き込み式(スチームインジェクション式)殺菌方式といわれるものである。
【特許文献1】特開平6−303899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記の蒸気吹き込み式殺菌方式においては、インジェクションノズルにおいて液状食品と蒸気が激しく混合するが、瞬時に殺菌温度に到達せず、実際には吹き込みノズル直後から始まる管路内において、液状食品と蒸気の混合に要する部分が必要である(以下、この部分を「混合長さ」という)。したがって、混合長さを終了した位置から殺菌時間が開始されることになる。
一方、管路は、ステンレス製の管であり外部から監視できないため、内部に温度計を装着して温度を監視、制御することは可能であるが、蒸気の気泡が完全に凝縮されて混合が完了した位置を把握することはできないため、混合長さを特定することができなかった。
上記の混合長さを把握するためには、混合長さを直接加熱殺菌装置の設置工事の段階で試運転時に実測し、実測に当たっては、透明管路を仮設し、レーザードップラー法で測るか、管路各部に数個以上の流量計を取り付けて場所を変えて測定する必要があり、相当の手間と工数を要した。
しかしながら、混合長さは、インジェクションノズルに応じて異なるものであり、従来は、この様な場合に殺菌を開始する位置を、正確に特定することが困難であるという問題があった。
【0004】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、液状食品を殺菌する直接加熱殺菌装置を対象として、蒸気を液状食品に直接吹き込む管路における殺菌開始位置を正確に把握し、殺菌温度保持部の信頼性を向上させる殺菌開始位置の検出方法を提供し、正確な殺菌時間を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供している。
第1の発明は、液状食品を流す管路内に蒸気を吹き込んで該蒸気により該液状食品を加熱殺菌する装置を対象として、前記管路における前記蒸気の吹き込み位置から下流側へ向けて前記液状食品内の気泡の有無を超音波により検出し、該検出結果に基づいて該管路における殺菌開始位置を検出することを特徴とする。
第2の発明は、請求項1の発明において、前記超音波による検出方法が、超音波流量計を前記管路に沿って移動させ、該超音波流量計が、流量測定不能領域を経て流量を正常に測定可能となった位置を殺菌開始位置とする検出方法であることを特徴とする。
第3の発明は、請求項2の発明において、前記超音波流量計が、伝播時間差式超音波流量計であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、管路における蒸気の吹き込み位置から下流側へ向けて液状食品内の気泡の有無を超音波により検出し、この検出結果に基づいて殺菌開始位置を検出するので、検出の手間や工数の低減が図れると共に、殺菌開始位置を正確に把握することができるという効果が得られる。
また、蒸気を管路に噴射し、混合長さの終了位置を、超音波流量計が正常に作動した場合に気泡が完全に凝縮された位置として判断するため、管路の外側から殺菌開始位置を容易に把握することができる。したがって殺菌時間を正確に設定することができ、適切に殺菌を行うことができる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明方法の適用対象となる加熱殺菌装置の概略構成図である。
この図に示す加熱殺菌装置1は、液状食品を流す管路2と、該管路2内に蒸気を吹き込み液状食品を加熱するインジェクションヒータ3と、管路2の混合部4(その詳細は後述する)より下流側で殺菌開始時の液状食品の液温を測定する殺菌温度制御用側温抵抗体5と、液状食品の殺菌後減圧前に該食品の殺菌終了時の液温を測るダイバート用側温抵抗体6と、液状食品の加圧状態を解放する背圧バルブ7とを備えている。
【0008】
この加熱殺菌装置1に原料として供給される液状食品としては、加熱殺菌が必要な液状食品、例えば牛乳、乳飲料、ジュース等の清涼飲料、デザート類のゲル化前の溶解液、液体調味料、スープ、豆乳などの液状調理食品などの各種の液状食品が挙げられる。この加熱殺菌装置1に供給する液状食品は、適当なタンク内に貯留したものを管路2内に連続して供給され、通常はポンプなどによって加圧して供給される。
【0009】
前記インジェクションヒータ3は、高圧蒸気の供給源と、該供給源に接続され管路2内に先端を配置した1つ以上のインジェクションノズルと、蒸気の供給量を制御する弁などから構成されている。このインジェクションヒータ3によって管路2内に吹き込まれる蒸気の温度や圧力は、液状食品の殺菌温度や流量に応じて適宜選択される。
前記管路2は、ステンレス製の管路である。温度計5は、混合部4より下流側で液状食品の液温を測定するものであり、この測定結果により液温を一定にするために蒸気の流量が制御される。
【0010】
この加熱殺菌装置1を用いて液状食品の殺菌を行う場合、図示しないタンク内に入れ、必要に応じて予備加熱した液状食品(原料)を、管路2内に供給する。インジェクションヒータ3からは管路2内に高温の蒸気を供給する。管路2のうち、蒸気吹き込み位置(A)から、液状食品中の蒸気の凝縮が終わる位置(B)までの混合長さLの部分は、蒸気の凝縮が終わっておらず液状食品と蒸気とが混合して流れる混合部4である。液状食品に混入した蒸気は、位置(A)から位置(B)に向かって流れる間に、熱エネルギーを液状食品に与えながら漸次凝縮し、位置(B)において完全に凝縮される。液状食品は高温の蒸気が吹き込まれて急速に加熱され、所定の殺菌温度に昇温するが、しかし混合部4の途中を流れる液状食品は所定の殺菌温度まで達していない部分が多く存在し、または、所定の流速になっていない。したがって、前記混合部4は、所定の殺菌温度を保持した液状食品が流れる殺菌温度保持部に含めない。殺菌温度保持部の長さは、殺菌温度まで加熱された液状食品を一定の流量で流した際に、所定の殺菌時間保持し得るように設定されている。この殺菌温度保持部を所定温度、所定時間で通過した液状食品は、確実に加熱殺菌されたものと判断し得る。
【0011】
本発明は上記の加熱殺菌装置1を対象として、管路2内を流れる液状食品の殺菌開始位置を把握するものである。当該開始位置の把握には、伝播時間差式の流量計を用いる。具体的には管路2の外側から伝播時間差式超音波流量計Sを管路2に沿って移動させる。
この場合、超音波流量計Sは、気泡が混入していると測定がなされずエラー信号を発するためこの特性を利用するものである。すなわち、超音波流量計Sを管路2の長さ方向に少しずつ移動し、エラー信号が消えて流量を測定し出した位置を気泡の凝縮した位置とみなすことができる。エラー信号が消えて流量を測定し出した超音波流量計Sは、所定の正しい流量を測定、表示し、再現性も得られる。この方法により、混合長さL(混合部4)を知ることができ、したがって殺菌開始位置をはるかに簡単で安全に測定して求めることが出来る。
液状食品に蒸気を吹き込んで加熱する殺菌方法において、殺菌時間を決める混合長さLを、工事立ち上げ現場で試運転時に安全かつ簡単に測定できる。これにより混合長さLが不明では算出できない殺菌時間を正確に求められる。また、必要に応じてその場で管路を改造し、必要な殺菌時間を有する装置を製作することができる。これにより、食品の殺菌操作の正確度が著しく向上する。
【実施例】
【0012】
実験装置としての蒸気吹き込み式の加熱殺菌装置1には、蒸気吹き込みノズルをシングルタイプとし、ノズルの後から2インチのステンレス製の管路2が開始されるものを用いた。
また、測定用の超音波流量計Sは、高温仕様超音波流量計(富士電機株式会社製変換機:FLCS1012、検出器:FLD320Y1−A)を用いた。この超音波流量計の原理によると、管路の外から超音波を送受信して流量を測定するため、管路内の流体に気泡が含まれていると超音波が散乱してしまい測定が不能となる。
測定は、該当滅菌機の水運転時に実施した。インジェクションノズルの出口から600mmの位置より測定を開始し、上述のステンレス製の管路の長さ方向に超音波流量計を移動させた。
この様に超音波流量計を移動させた場合、上記の超音波流量計の原理を利用すると、蒸気(気泡)が管路内で凝縮していなければ、気泡として管路内に存在するため測定不能となるが、蒸気が完全に凝縮していれば気泡が無くなり測定可能となるため、この位置で蒸気の凝縮が完了している、すなわち混合長さの終了位置であると判断することができる。
測定の結果、700mmまでの位置では、流量の測定が不可能(すなわち超音波信号を受信できず、流量が表示されない)であり、750mmの位置では、流量測定が可能となったり不可能となったりするのを繰返し、800mmの位置では概ね流量測定が可能となり、850mm以上で安定して測定可能となった。
この測定から、750mmの位置辺りでもまだ凝縮しきれていない蒸気が残っていて測定可能/不可能を繰り返している。そして800mmの辺りから蒸気の凝縮が終了し始め、850mmで混合長さが完了していると判断できる。また、その流量は、液状食品と蒸気の完全混合後の計算値と一致し、12,100L/H〜12,300L/Hであった。混合長さは、特許第4076913号の発明において開示されている凝縮計算から混合長さは880mmと求められることから、良い結果を示していることがわかった。
上記実施から、上記吹き込み式殺菌装置の実用機についての超音波流量計による混合長さの測定を実施し、10,000L/hr、殺菌温度151℃、シングルノズルという条件では、混合長さが800mm〜850mmという結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明方法の適用対象となる加熱殺菌装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0014】
1 加熱殺菌装置
2 管路
3 インジェクションヒータ
4 混合部
5 殺菌温度制御用側温抵抗体
6 ダイバート用側温抵抗体
7 背圧バルブ
L 混合長さ
A 混合長さ開始位置
B 混合長さ終了位置
S 超音波流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状食品を流す管路内に蒸気を吹き込んで該蒸気により該液状食品を加熱殺菌する装置を対象として、
前記管路における前記蒸気の吹き込み位置から下流側へ向けて前記液状食品内の気泡の有無を超音波により検出し、
該検出結果に基づいて該管路における殺菌開始位置を検出することを特徴とする液状食品の殺菌装置における殺菌開始位置の検出方法。
【請求項2】
前記超音波による検出方法が、超音波流量計を前記管路に沿って移動させ、
該超音波流量計が、流量測定不能領域を経て流量を正常に測定可能となった位置を殺菌開始位置とする検出方法であることを特徴とする請求項1に記載の液状食品の殺菌装置における殺菌開始位置の検出方法。
【請求項3】
前記超音波流量計が、伝播時間差式超音波流量計であることを特徴とする請求項2に記載の液状食品の殺菌装置における殺菌開始位置の検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−66022(P2010−66022A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230202(P2008−230202)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】