説明

蒸気養生用急硬性高強度混和材

【課題】 前養生や20℃/時間以下の低速での昇温を必要とせず、練混ぜ直後に65℃程度の高温で蒸気養生を行うことが可能であり、短い養生時間でセメント系組成物に高い強度を付与できる蒸気養生用急硬性高強度混和材を提供すること。
【解決手段】 カルシウムアルミネート、炭酸リチウム及び硫酸マグネシウムを含有する蒸気養生用急硬性高強度混和材、並びにポルトランドセメント又は混合セメント 100重量部に対し、上記混和材 10〜100重量部を混合して得られる蒸気養生用急硬性高強度セメント系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等の各種セメント系組成物に蒸気養生によって養生促進を付与することができる高強度混和材及び高強度セメント系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントペースト、モルタル又はコンクリートのようなセメント系組成物の硬化促進方法としては蒸気養生を利用することが知られている。蒸気養生は、一般的には、2〜3時間程度の前養生をとり、20℃/時間以下で昇温し、65℃程度の最高温度で4〜10時間程度保持して行う(例えば、非特許文献1参照)。しかし、前養生や低速での昇温を必要とする従来法では、製造に時間がかかるという問題点があった。
また、蒸気養生の際、強度向上のため、セメント系組成物に無水石膏を混和させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の手法により、高強度部材を製造することが可能となるが、この手法においても前養生や低速での昇温が必要であり、製造時間を短縮することはできない。
また、常温での養生の際に使用する硬化促進材として、カルシウムアルミネート、石膏及び炭酸リチウムを配合した急硬性高強度混和材が知られており、常温では比較的短い養生時間で比較的高い強度を得ることができる(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−187746号公報
【特許文献2】特開2001−39761号公報
【非特許文献1】土木学会編 平成3年度版 コンクリート標準示方書 施工編 社団法人土木学会刊 平成3年9月発行 p.252−253
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献2の方法は蒸気養生を全く行わず、単に急硬性高強度混和材をセメント等と混合したにすぎないものであるため、環境温度の影響を強く受け、温度により強度発現性に大きなバラツキを生じる。また、20℃程度の標準的な環境温度では、蒸気養生を行う特許文献1の手法と比較して、低い圧縮強度しか得ることができない。また、特許文献2の混和材を用いて、蒸気養生を行っても、前養生なしでは低い圧縮強度しか得ることができず、製造時間を短縮することはできない。
従って、本発明の目的は、前養生や20℃/時間以下の低速での昇温を必要とせず、練混ぜ直後に65℃程度の高温で蒸気養生を行うことが可能であり、短い養生時間でセメント系組成物に高い強度を付与することができる蒸気養生用急硬性高強度混和材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、カルシウムアルミネート及び炭酸リチウムに硫酸マグネシウムを併用した混和材が、前養生や20℃/時間以下の低速での昇温を必要とせず、練混ぜ直後に65℃程度の高温で蒸気養生を行うことが可能であり、通常の半分以下の短い養生時間でセメント系組成物に高い強度を付与できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、カルシウムアルミネート、炭酸リチウム及び硫酸マグネシウムを含有する蒸気養生用急硬性高強度混和材を提供するものである。
【0005】
また本発明は、ポルトランドセメント又は混合セメント 100重量部に対し、上記混和材 10〜100重量部を混合して得られる蒸気養生用急硬性高強度セメント系組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前養生及び低速での昇温を必要とせず、練混ぜ直後に65℃程度の高温で蒸気養生を行っても、コンクリートやモルタルに高い短時間強度を付与することができ、コンクリート製品等の製造工程を簡便化できるとともに、製造時間を大幅に短縮できる。また、高い短時間強度が得られるため、養生後更に材令を待つまでもなく早い出荷が可能となり、保管作業の省略、保管スペースの節約も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における「カルシウムアルミネート」とは、少なくともCaOとAl23を主要成分とする化合物、固溶体、ガラス質性物質又はこれらの混合物の総称である。本発明で使用するカルシウムアルミネートとしては、特に制限されず、例えばC117・CaF2(11CaO・7Al23・CaF2)、C127(12CaO・7Al23)、C43S(4CaO・3Al23・SO3)、NC83(Na2O・8CaO・3Al23)、C3A(3CaO・Al23)又はアルミナセメントが挙げられ、アルミナセメント又はC127が好ましい。カルシウムアルミネートの焼成には、電気炉、キルン等の公知の装置を用いることができる。また、粉砕にも通常の粉砕機を用いることができる。
【0008】
硫酸マグネシウムとしては、無水物〜7水和物まで任意のものを使用できる。本発明で使用する硫酸マグネシウムは、同じアルカリ土類金属の硫酸塩である硫酸カルシウムよりもはるかに溶解度が高い。そのため、セメント系組成物にマグネシウムイオン及び硫酸イオンを高い速度で供給でき、セメント系組成物に高い短時間強度を付与できるものと考えられる。
【0009】
硫酸マグネシウムの配合量は、カルシウムアルミネート100重量部に対し、無水物換算で50〜200重量部、より60〜150重量部が好ましく、特に70〜110重量部が好ましい。硫酸マグネシウムの配合量が50重量部未満であるか又は200重量部を超えると、充分な強度向上効果が得られないことがある。
【0010】
本発明の急硬性高強度混和材には強度増進の点から炭酸リチウムを配合する。炭酸リチウムは溶解度が極端に低いが、硫酸マグネシウムと併用することによりセメント系組成物中に高い溶解度で溶解させることができる。炭酸リチウムの配合量は、カルシウムアルミネートと硫酸マグネシウムとの総量100重量部に対し、0.5〜20重量部、より0.5〜10重量部が好ましく、特に1.0〜5.0重量部が好ましい。炭酸リチウムの配合量が0.5重量部未満では強度増進効果が充分に得られず、20重量部を超えるとカルシウムアルミネート量と硫酸マグネシウム量が相対的に減少し、養生時間の短縮が困難となるおそれがあるため好ましくない。
【0011】
本発明の急硬性高強度混和材には、その硬化を阻害しない限り、上記以外の材料を更に添加してもよい。このような材料としては、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、分散剤、消泡剤、AE剤、増粘剤、シリカフューム、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、珪石粉等を挙げることができる。
【0012】
本発明の急硬性高強度混和材の製造には、リボンミキサー、レーディゲミキサー、プローシェアーミキサー等の任意の粉体混合用ミキサーを用いることができる。
【0013】
本発明の急硬性高強度混和材は、本発明の急硬性高強度セメント系組成物中、ポルトランドセメント又は混合セメント100重量部に対し、10〜100重量部、より20〜70重量部混合することが好ましい。10重量部未満では充分な短時間強度を得ることができず、100重量部を超えると急硬性が高すぎて、コンクリートやモルタルの成形時間が充分に確保できない。
【0014】
本発明の急硬性高強度セメント系組成物に使用するポルトランドセメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等のいずれも使用できる。混合セメントとしては、高炉セメント、フライアッシュセメント等が使用できる。また、混合セメントの一部を石灰石粉末又はシリカヒュームで置換したセメント、混合セメントに石膏を添加したセメント等も使用できる。ポルトランドセメント及び混合セメントから選ばれる2種以上を組み合わせて使用してもよい。養生時間を効果的に短縮できる点から、ポルトランドセメントが好ましく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント又は白色ポルトランドセメントが特に好ましい。
【0015】
本発明の急硬性高強度セメント系組成物には、更に強度発現を阻害しない範囲で遅延剤を添加することができる。遅延剤は、セメント系材料に使用されるものであれば特に制限されないが、短時間強度発現の阻害程度が小さい点から、酒石酸又は酒石酸塩が特に好ましい。遅延剤は、可使時間と短期強度発現の点から、急硬性高強度セメント系組成物中に、ポルトランドセメント又は混合セメントに対して0.05〜1.00重量%の割合で添加することが好ましい。
【0016】
セメント系組成物に使用する細骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂又はこれらの混合物が挙げられる。粗骨材としては、川砂利、海砂利、砕石又はこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
セメント系組成物には、更に減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を添加してもよい。減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤としては、アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、リグニンスルホン酸系等の高性能減水剤(高性能AE減水剤も含む)が挙げられ、液状又は粉末状のいずれも使用できる。
【0018】
セメント系組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、生コン工場や工事現場に設置した慣用のミキサーで本発明の急硬性高強度セメント系組成物を混合すればよい。また、セメント系組成物の成形についても、公知の成形用装置を用いて任意の成形方法で行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1〜5
[使用材料]
(1)セメント;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)細骨材;北九州市小倉南区産砕砂(比重:2.69):長崎県壱岐郡郷ノ浦沖合海砂(比重:2.59)=3:7(重量比)混合品
(3)水;水道水
(4)遅延剤;ロッシェル塩
【0021】
(5)急硬性高強度混和材
・カルシウムアルミネート
A1;アルミナセメント(太平洋マテリアル社製)
A2;C127を電気炉で1,600℃にて焼成し、ボールミルで粉砕して製造した。ブレーン比表面積5000cm2/g。
・炭酸リチウム
・硫酸塩
B1;無水石膏(太平洋マテリアル社製)
B2;硫酸マグネシウム・無水物(馬居化成工業社製)
【0022】
上記のカルシウムアルミネート、炭酸リチウム及び硫酸塩をレーディゲミキサー(レーディゲ社製)を用いて混合して急硬性高強度混和材とした。
【0023】
[セメント系組成物の製造及び圧縮強度試験]
表1に示す配合に従い調合した急硬性高強度混和材と、表1に示す配合割合のセメント、ロッシェル塩、細骨材及び水をホバートミキサを用いて1分間混合し、本発明の急硬性高強度セメント系組成物を得た。また、強度試験用供試体としては、4×4×16cmの供試体を20℃恒温室内で成形し、前養生及び昇温時間なしに直ちに蒸気養生(65℃)にかけ、4時間後に取り出して、即座に圧縮強度を測定した。成形方法及び圧縮強度試験方法は、JIS R 5201の試験方法に準じて行った。測定結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から明らかなように、本発明における蒸気養生用急硬性高強度混和材を使用した場合には、前養生及び昇温時間がなくても、(短い養生時間で)高い強度のセメント系組成物を得ることができた。一方、比較例1に示したように、硫酸マグネシウムに代えて石膏を使用した場合には圧縮強度が著しく低下した。
【0026】
尚、硫酸マグネシウムを使用すると、その高い溶解度から、硫酸マグネシウム粉末の粒度を極端に細かくする必要がなく、カルシウムアルミネート及び炭酸リチウムとのプレミックスにより得られる粉体は石膏系と比べて空気圧送等が容易なうえ、保管中ブリッジを形成し難い。また、混和材に水を添加した後のセメント材料の粘性が低く、短時間で混合が可能であるという利点も有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート、炭酸リチウム及び硫酸マグネシウムを含有する蒸気養生用急硬性高強度混和材。
【請求項2】
硫酸マグネシウムを、カルシウムアルミネート100重量部に対し、無水物換算で50〜200重量部含有する請求項1記載の蒸気養生用急硬性高強度混和材。
【請求項3】
炭酸リチウムを、カルシウムアルミネートと硫酸マグネシウムの総量100重量部に対し、0.5〜20重量部含有する請求項1又は2記載の蒸気養生用急硬性高強度混和材。
【請求項4】
ポルトランドセメント又は混合セメント 100重量部に対し、請求項1〜3のいずれか1項記載の混和材 10〜100重量部を混合して得られる蒸気養生用急硬性高強度セメント系組成物。

【公開番号】特開2006−151759(P2006−151759A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345662(P2004−345662)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】