説明

蓄光性蛍光体及びその製造方法

【課題】蛍光色及び蓄光色の少なくとも一方が白色光を発光し、かつ、発光ムラの少ない蓄光性蛍光体を提供する。
【解決手段】下記成分を含有してなることを特徴とする蓄光性蛍光体。
(A)Ca及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心として少なくともEuを含有する結晶体
(B)Sr及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心として少なくともEuを含有する結晶体
(C)Ca及びAl並びにEu及び/又はNdを含有する複合酸化物であり、成分(A)の結晶母材と異なる結晶形を有する結晶体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性蛍光体及びその製造方法に関する。より詳しくは、蛍光色及び蓄光色の少なくとも一方が、目視で白色が認識される蓄光性蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光体の1種である蓄光性蛍光体は、蛍光発光するのみならず、外部から光を吸収して、そのエネルギーを蓄えることにより暗所において発光する、いわゆる残光機能を有する。このような蓄光性蛍光体は、固体素子であるため、動作寿命が長く、耐振動性にも優れるという利点があるため、発光素子として電力消費量が少ない各種インジケータや液晶バックライト等、種々の光源に広く利用されてきている。
【0003】
蓄光性蛍光体としてCsB:Bi(青色発光)ZuCdS:Cu(黄色発光)等の硫化物蛍光体が従来知られているが、発光強度や残光時間が不十分であることに加え、化学的に不安定であったり、有害元素を含んでいるなど実用的面での問題があった。
【0004】
これに対し、例えば、アルカリ土類元素とアルミニウムとからなる複合酸化物に、賦活剤として、ユーロピウム(Eu)およびジスプロシウム(Dy)を加えた発光時間の長い酸化物型の蓄光性蛍光体が開発されている。このような蓄光性蛍光体としては、ユーロピウム(Eu)やジスプロシウム(Dy)等の希土類元素を含有したCaAlO(青色発光)や、SrAlO(黄色発光)等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−11250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、白色光源として蛍光灯や白熱灯が広く用いられてきたが、電力消費量や動作寿命等の観点から、用途によっては蓄光性蛍光体の使用が期待されている。しかしながら、従来の蓄光性蛍光体では、単一の母材結晶で白色発光をするものは存在しない。
【0007】
そのため、補色関係にある複数の蓄光性蛍光体を組み合わせて拡散混色によって白色光を得ているが、発光ムラが起こりやすく均質な白色光が得られなかったり、蓄光性蛍光体の組み合わせによっては相互に反応して輝度が低下するなどの問題があった。
【0008】
このように、白色発光する蓄光性蛍光体に関しては、いまだ課題が多いのが実情である。かかる状況下、本発明の目的は、蛍光色及び蓄光色の少なくとも一方が白色光を発光し、かつ、発光ムラの少ない蓄光性蛍光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、Ca原料化合物、Sr原料化合物、Al原料化合物、Eu原料化合物を含む混合物を、還元性雰囲気下で所定の温度及び時間で加熱保持することにより、上記目的に合致する蓄光性蛍光体を得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 下記成分を含有してなる蓄光性蛍光体。
(A)Ca及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心として少なくともEuを含有する結晶体
(B)Sr及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心として少なくともEuを含有する結晶体
(C)Ca及びAl並びにEu及び/又はNdを含有する複合酸化物であり、成分(A)の結晶母材と異なる結晶形を有する結晶体
<2> 成分(A)における結晶母材がCaAl、成分(B)における結晶母材がSrAl、成分(C)が、Ca(Eu,Nd)AlOである前記<1>記載の蓄光性蛍光体。
<3> 蓄光性蛍光体全量におけるCa、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:0.9〜1.1であり、かつ、Ca:Sr=0.45:0.55〜0:65:0.35の関係を満たす前記<1>又は<2>記載の蓄光性蛍光体。
<4> 蓄光性蛍光体全量において、Euの含有量が、0.1〜10モル%である前記<1>から<3>のいずれかに記載の蓄光性蛍光体。
<5> 成分(A)及び成分(B)における賦活成分として、さらにNdを含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の蓄光性蛍光体。
<6> さらにAgを含有する前記<5>記載の蓄光性蛍光体。
<7> Agの含有量が、蓄光性蛍光体の全量に対し、1〜10モル%である前記<6>記載の蓄光性蛍光体。
<8> 粉末状のCa原料化合物、Sr原料化合物、Al原料化合物、Eu原料化合物を、蓄光性蛍光体全量におけるCa、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:0.9〜1.1であり、かつ、Ca:Sr=0.45:0.55〜0:65:0.35の関係を満たし、Euの含有量が、蓄光性蛍光体全量に対して、0.1〜10モル%であるように混合し、得られた混合物を還元性雰囲気下で1000〜1400℃、15時間以下の条件で加熱保持する蓄光性蛍光体の製造方法。
<9> 加熱保持条件が、1〜5時間である前記<8>記載の蓄光性蛍光体の製造方法。
<10> さらに、Nd原料化合物を、Ndの含有量が、蓄光性蛍光体全量に対して、1〜10モル%であるように混合する前記<8>又は<9>記載の蓄光性蛍光体の製造方法。
<11> さらに、Ag原料化合物を、Agの含有量が、蓄光性蛍光体全量に対して、0.1〜10モル%であるように混合する前記<8>から<10>のいずれかに記載の蓄光性蛍光体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蛍光色及び蓄光色の少なくとも一方が白色光を発光し、かつ、発光ムラの少ない蓄光性蛍光体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試料1〜5のXRDパターンである。
【図2】試料1〜2及び試料4〜5の発光スペクトルである。
【図3】試料3及び試料4の発光スペクトルである。
【図4】試料3及び試料6〜8のXRDパターンである。
【図5】試料3及び試料6〜8の発光スペクトルである。
【図6】試料3の色度測定の結果である。
【図7】試料6の色度測定の結果である。
【図8】試料7の色度測定の結果である。
【図9】試料8の色度測定の結果である。
【図10】試料8〜11のXRDパターンである。
【図11】試料8〜11の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、下記成分を含有してなる蓄光性蛍光体に関するものである。
(A)Ca及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心成分として少なくともEuを含有する結晶体
(B)Sr及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心成分として少なくともEuを含有する結晶体
(C)Ca及びAl並びにEu及び/又はNdを含有する複合酸化物であり、成分(A)の結晶母材と異なる結晶形を有する結晶体
【0014】
本発明の蓄光性蛍光体は、単独では青色発光する成分(A)、黄色発光する成分(B)以外に成分(C)を含有することに特徴がある。なお、成分(C)を含まない場合には、蓄光性蛍光体は、蛍光色及び蓄光色の何れも白色光を発光しないか、あるいは発光ムラが顕著になる。ここで、「発光ムラ」とは、蓄光性蛍光体の各部分で輝度が異なったり、他の色が混ざっていることが目視にて認識できることを意味する。
成分(C)を含有することによって、発光ムラの少ない白色光を発光する蓄光性蛍光体となる理由については現状のところ明らかではないが、成分(C)が、成分(A)と成分(B)のEu等の発光中心成分や、必要に応じて添加された他の賦活成分を貯留排出するバッファー的な役割をし、蓄光性蛍光体の発光中心成分等の分布が均等になっていることに寄与している可能性がある。
以下、各成分について説明する。
【0015】
成分(A)の結晶母材である、Ca及びAlを含有する複合酸化物としては、発光中心成分としてEuを含有することにより、青色発光を発光するものであればいずれでもよいが、化学的安定性が高く、発光輝度が高い成分(A)の結晶母材が、CaAlであることが望ましい。
【0016】
成分(B)の結晶母材である、Sr及びAlを含有する複合酸化物としては、発光中心成分としてEuを含有することにより、黄色発光を発光するものであればいずれでもよいが、化学的安定性が高く、発光輝度が高い成分(B)の結晶母材が、SrAlであることが望ましい。
【0017】
なお、成分(A)及び成分(B)の結晶母材中のEuの含有量は、少なすぎると、発光が不十分となる場合があり、多すぎると結晶母材が不安定となるため、それぞれの結晶母材に対して、好ましくは、0.1〜10モル%であり、より好ましくは、1〜5モル%である。
【0018】
成分(A)及び成分(B)の結晶母材中には、主な発光中心成分であるEu以外にも、賦活成分として他の希土類元素を含んでいてもよい。他の希土類元素を加えることで、蓄光性蛍光体の発光する蛍光や蓄光の色相や輝度を調整することができる。
他の希土類元素としては、具体的には、Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Tm等が挙げられる。
この中でも、Ndを含有することが好ましい。賦活成分として、Ndを含有することにより蓄光性蛍光体の発光、特に蓄光における輝度を高めることができるという利点がある。
なお、成分(A)及び成分(B)の結晶母材中の賦活成分の含有量は、少なすぎると、その効果が認められない場合があり、多すぎると発光ムラや輝度低下の原因となるため、結晶母材に対して、0.01〜5モル%であることが好ましい。
【0019】
成分(C)は、Ca及びAl並びにEu及び/又はNdを含有する複合酸化物であり、成分(A)の結晶母材と異なる結晶形を有する結晶体である。
成分(C)は、通常、後述するようにCa原料化合物、Sr原料化合物、Al原料化合物、Eu原料化合物を含有する混合物を、還元性雰囲気下で所定の温度及び時間で加熱保持することにより、混相生成物として、成分(A)及び成分(B)と共に製造することができる。
【0020】
より発色ムラの少ないという点で、本発明の蓄光性蛍光体は、成分(A)における結晶母材がCaAl、成分(B)における結晶母材がSrAl、成分(C)が、Ca(Eu,Nd)AlOであることが好ましい。なお、Ca(Eu,Nd)AlOは、CaAlOにおいて、Eu及びNdがCaのサイトを置換した化合物である。
また、成分(A)、(B)及び(C)がこのような組み合わせであると、原料化合物としてそれぞれの酸化物から容易に形成できるという利点もある。
【0021】
本発明の蓄光性蛍光体は、蛍光スペクトルから明らかなように、波長450nm近傍、550〜570nm近傍において蛍光発光を示し、その混色として、目視にて青白−白−黄白に認識される蛍光発光を示す。
本発明の蓄光性発光体は、蛍光及び蓄光のいずれかあるいは両方が白色に発光するが、暗所での用途を考慮すると、特に少なくとも蓄光が白色発光することが好ましい。蛍光色及び蓄光色は、目視あるいは色度計を用いて評価することができる。
【0022】
また、蓄光性蛍光体全量におけるCa、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:0.9〜1.1であり、かつ、Ca:Sr=0.45:0.55〜0:65:0.35の関係を満たすことが好ましい。この範囲を外れると、例え白色光が得られても輝度が不十分であったり、発色ムラが生じるおそれがある。
特に結晶母材の量論からは、Ca、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:1(即ち、Al原子含有量と、Ca原子含有量及びSr原子含有量の合計とが同量)を満たすことが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の蓄光性蛍光体は、Agを含有することが好ましい。1価の陽イオンであるAgを含有することにより、電荷補償効果によって、成分(A),(B)の結晶母材へ対するEuや他の希土類の固溶が促進される結果、蛍光や蓄光の輝度を高かまる場合がある。
【0024】
現状では理由は完全には明らかではないが、Agを含有することにより、本発明の蓄光性蛍光体の蓄光時間(残光時間)が増長する傾向にある。他の1価の陽イオンでは、Agに匹敵する効果は得られない。
Agの含有量は、蓄光性蛍光体の全量に対し、好ましくは、1〜10モル%、より好ましくは、3〜8モル%である。Agの含有量が1モル%未満ではAg添加の効果が不十分な場合があり、10モル%を超えると輝度が低下するおそれがある。
【0025】
上記本発明の蓄光性蛍光体の製造方法は特に限定されないが、通常、(a)Ca原料化合物、(b)Sr原料化合物、(c)Al原料化合物、(d)Eu原料化合物、及び必要に応じて(e)他の希土類原料化合物や(f)Ag化合物を混合して得られる混合物を還元性雰囲気下にて、所定の温度で加熱保持することによって製造することができる。
【0026】
次に、上記本発明の蓄光性蛍光体の好ましい製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称す。)について説明する。
本発明の製造方法は、粉末状のCa原料化合物、Sr原料化合物、Al原料化合物、Eu原料化合物を、蓄光性蛍光体全量におけるCa、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:0.9〜1.1であり、かつ、Ca:Sr=0.45:0.55〜0:65:0.35の関係を満たし、Euの含有量が、蓄光性蛍光体全量に対して、0.1〜10モル%であるように混合し、得られた混合物を還元性雰囲気下で1000〜1400℃、15時間以下の条件で加熱保持することを特徴とする。
上記条件を採用することにより、上記本発明の蓄光性蛍光体を再現性良く得ることができる。
【0027】
ここで、(a)Ca原料化合物としては、Caの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。この中でも、入手が容易で反応性の高い炭酸塩(CaCO)が好適である。
【0028】
また、(b)Sr原料化合物としては、Srの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。この中でも、入手が容易で反応性の高い、炭酸塩(SrCO)が好適である。
【0029】
また、(c)Al原料化合物としては、Alの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。この中でも、通常、入手が容易で反応性の高い酸化物(Al)が好適である。
【0030】
また、(d)Eu原料化合物としては、Euの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。この中でも、通常、入手が容易な高い酸化物(Eu)が使用される。
【0031】
なお、本発明の製造方法において、上記原料化合物以外の原料を含んでいてもよい。
例えば、発光スペクトルの色度調整や賦活成分としての(e)他の希土類原料化合物や、電荷補償効果を示す(f)銀イオン(Ag)の原料化合物などが挙げられる。
【0032】
(e)他の希土類原料化合物としては、Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Tm等の希土類元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、フッ化物、塩化物等を挙げることができ、通常、入手が容易な酸化物が使用される。
【0033】
なお、蓄光特性を向上させる観点からは、特にNd、Dy化合物を含ませることが好ましい。
【0034】
(f)銀イオン(Ag)の原料化合物としては、それぞれの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。
1価の陽イオンの中でも、Agは蓄光時間を増長させることができることから、好ましく用いられる。銀イオン(Ag)の原料化合物として、入手が容易で反応性の高い酸化物(AgO)が好適である。
【0035】
また、蓄光性蛍光体全量におけるCa、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:0.9〜1.1であり、かつ、Ca:Sr=0.45:0.55〜0:65:0.35の関係を満たす必要があり、特に結晶母材の量論からは、Ca、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:1(即ち、原料中のAl量と、Ca量及びSr量の合計とが同量)を満たすことが好ましい。
【0036】
原料の混合は、乾式混合、湿式混合いずれで行ってもよい。
乾式混合としては、従来公知の方法を任意に選択すればよく、例えばボールミル等で混合する方法が挙げられる。
湿式混合としては、従来公知の方法を任意に選択すればよく、原料化合物粉末にエタノール等の適当な媒体を添加したのちにボールミル等で混合した後、乾燥すればよい。
【0037】
上記原料化合物を混合して得られた混合物は、還元性雰囲気下で1000〜1400℃で加熱保持される。この加熱保持工程によって、上述の各原料化合物が反応し、上記本発明の蓄光性蛍光体で説明した、成分(A)〜(C)の化合物が混相状態で生成する。
なお、加熱する前に、必要に応じて、上記如く得られた原料混合物を粉砕、分級、乾燥を行ってもよい。
【0038】
加熱保持するときの雰囲気としては、還元性雰囲気が好ましい。すなわち、水素雰囲気、水素を含有する不活性ガス雰囲気あるいは一酸化炭素を含有する二酸化炭素雰囲気等の還元雰囲気であることが好ましい。なお、特に安全性の観点から、水素ガスを含有する不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0039】
加熱保持時間は、15時間以下であり、1〜5時間であることが好ましい。加熱保持時間が、1時間未満の場合には、原料化合物の反応が不十分となり目的となる成分(A)〜(C)が得られない場合がある。5時間を超えると過反応によって、特に成分(C)の量が低減しすぎる場合があり、15時間を超えると本発明の蓄光性蛍光体が形成できないおそれがある。
【0040】
なお、上記加熱保持工程に先立って、仮焼するようにしてもよい。
例えば、原料化合物の混合物を800〜1100℃程度で仮焼することにより、原料化合物が含む炭素不純物を除去したり、原料化合物に炭酸塩を用いる場合等には、原料化合物を十分に分解させて、上記加熱保持工程に供することができる。
仮焼の時の雰囲気は、特に限定はなく、空気等の酸化雰囲気、窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素ガスを含有する不活性ガス雰囲気などいずれでもよい。
【0041】
また、仮焼後の原料化合物の混合物を取り出し、さらに全体が均一となるように、粉砕混合した後に、上記加熱保持工程に供するようにしてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
「評価方法」
実施例における評価方法は以下の通りである。
(i)X線回折(XRD)測定
試料の結晶相を同定するために、以下の装置及び条件にてXRD測定を行った。
測定装置:RINT,XRD−610D(株式会社リガク製)
線源:CuKα
管電圧:40kV
管電流:30mA
【0044】
(ii)輝度測定
(a)蛍光測定
暗室にて、試料と輝度計(コニカミノルタ社製、品番:LS−100)の距離を約3cmに合わせたのちに、試料にブラックライト(10W)を照射して輝度(L値)[単位:cdm−2]を記録した。
(b)蓄光測定
暗室にて、試料と輝度計(コニカミノルタ社製、品番:LS−100)の距離を約3cmに合わせたのちに、ブラックライト(10W)を照射した。
蓄光の経時変化は、ブラックライト(10W)を5分間照射して輝度が一定になったことを確認した後に、ブラックライトを遮断して、輝度(L値)が0cdm−2になるまでの経時変化を評価した。
【0045】
(iii)発光スペクトル測定
試料が発光する蛍光または蓄光の発光スペクトルを評価するために、発光スペクトル測定を以下の条件で行った。
測定装置:USB4000(オプトシリウス株式会社)
波長測定範囲:400〜650nm
【0046】
1.蓄光性蛍光体の合成
試料1
Ca:Sr=1:0(モル比)である蓄光性蛍光体(試料1)は以下の手順で合成した。
まず、CaCO(48モル%)、Al(48モル%)、Eu(2モル%)、Nd(2モル%)の粉末をそれぞれ秤量し、適量のエタノールを加え、ボールミルを均一になるまで0.5時間、混合した。次いで、混合した粉体を、10%H,90%Nからなる還元雰囲気下、1300℃、4時間加熱保持した後に、得られた焼結体を粉砕することにより試料1を得た。仕込み組成を表1に示す。
【0047】
試料2
Ca:Sr=0.75:0.25(モル比)である蓄光性蛍光体(試料2)は以下の手順で合成した。
まず、CaCO(36モル%)、SrCO(12モル%)、Al(48モル%)、Eu(2モル%)、Nd(2モル%)の粉末をそれぞれ秤量し、適量のエタノールを加え、ボールミルを均一になるまで混合した。次いで、混合した粉体を、試料1と同じ条件で加熱保持、粉砕を行うことにより、試料2を得た。仕込み組成を表1に示す。
【0048】
試料3
Ca:Sr=0.6:0.4(モル比)である蓄光性蛍光体(試料3)は以下の手順で合成した。
まず、CaCO(28.8モル%)、SrCO(19.2モル%)、Al(48モル%)、Eu(2モル%)、Nd(2モル%)の粉末をそれぞれ秤量し、適量のエタノールを加え、ボールミルを均一になるまで混合した。次いで、混合した粉体を、試料1と同じ条件で加熱保持、粉砕を行うことにより、試料3を得た。仕込み組成を表1に示す。
【0049】
試料4
Ca:Sr=0.5:0.5(モル比)である蓄光性蛍光体(試料4)は以下の手順で合成した。
まず、CaCO(24モル%)、SrCO(24モル%)、Al(48モル%)、Eu(2モル%)、Nd(2モル%)の粉末をそれぞれ秤量し、適量のエタノールを加え、ボールミルを均一になるまで混合した。次いで、混合した粉体を、試料1と同じ条件で加熱保持、粉砕を行うことにより、試料4を得た。仕込み組成を表1に示す。
【0050】
試料5
Ca:Sr=0.25:0.75(モル比)である蓄光性蛍光体(試料5)は以下の手順で合成した。
まず、CaCO(12モル%)、SrCO(36モル%)、Al(48モル%)、Eu(2モル%)、Nd(2モル%)の粉末をそれぞれ秤量し、適量のエタノールを加え、ボールミルを均一になるまで混合した。次いで、混合した粉体を、試料1と同じ条件で加熱保持、粉砕を行うことにより、試料5の蓄光性蛍光体を得た。仕込み組成を表1に示す。
【0051】
試料6
上記試料3の合成方法において、試料3の原料粉末合計を97モル%とし、AgO粉末をAg原子換算で3モル%(母体結晶1モルに対し)として、各原料粉末した。次いで、混合した粉体を、試料1と同じ条件で加熱保持、粉砕を行うことにより、試料6の蓄光性蛍光体を得た。表2にCa:Sr原子比、Ag添加量、加熱保持条件を示す。
【0052】
試料7
上記試料3の合成方法において、試料3の原料粉末合計を97モル%とし、AgO粉末をAg原子換算で5モル%(母体結晶1モルに対し)として、各原料粉末した。次いで、混合した粉体を、試料1と同じ条件で加熱保持、粉砕を行うことにより、試料7の蓄光性蛍光体を得た。表2にCa:Sr原子比、Ag添加量、加熱保持条件を示す。
【0053】
試料8
上記試料3の合成方法において、試料3の原料粉末合計を97モル%とし、AgO粉末をAg原子換算で8モル%(母体結晶1モルに対し)として、各原料粉末した。次いで、混合した粉体を、試料1と同じ条件で加熱保持、粉砕を行うことにより、試料8の蓄光性蛍光体を得た。表2にCa:Sr原子比、Ag添加量、加熱保持条件を示す。
【0054】
試料9
上記試料8の合成方法において、加熱保持時間を5時間とした以外は、試料8の合成方法と同様にして、試料9の蓄光性蛍光体を得た。表2にCa:Sr原子比、Ag添加量、加熱保持条件を示す。
【0055】
試料10
上記試料8の合成方法において、加熱保持時間を8時間とした以外は、試料8の合成方法と同様にして、試料10の蓄光性蛍光体を得た。表2にCa:Sr原子比、Ag添加量、加熱保持条件を示す。
【0056】
試料11
上記試料8の合成方法において、加熱保持時間を12時間とした以外は、試料8の合成方法と同様にして、試料11の蓄光性蛍光体を得た。表2にCa:Sr原子比、Ag添加量、加熱保持条件を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
2.評価
(1)Ca、Sr仕込み比と発光の関係の評価
図1に試料1〜5のXRD測定の結果を示す。また、図2,3に試料1〜5の発光スペクトルを示す。また、表3に目視での蛍光及び蓄光の色評価の結果を示す。
【0060】
【表3】

【0061】
原料粉末にSrCOを含まない試料1では、XRDにおいてCaAlの結晶相及び副生成物である(Eu,Nd)Alのシグナルが確認された。また、試料1では、蛍光スペクトルとして、450nm付近(青色領域)にシグナルが確認された。このシグナルは、CaAl:Euに由来する。また、目視よる評価にて、試料1の蛍光は青色であり、発光スペクトルの結果と整合していた。
原料粉末にSrCOを含む試料2〜5におけるXRDの結果を対比すると、図1に示すように試料3,4では、CaAl、SrAl、Ca(Eu,Nd)AlOの3種類の結晶相のシグナルが確認されたが、試料2では、CaAlとCa(Eu,Nd)AlOの2相のみであり、試料5では、SrAlとCa(Eu,Nd)AlOの2相のみであった。
【0062】
また、試料2〜5における発光特性の結果を対比すると、図3に示すように、試料3,4では、蛍光スペクトルとして、CaAl:Euに由来する450nm付近(青色領域)のシグナルと、SrAl:Euに由来する550〜570nm付近(黄緑色領域)のシグナルとが確認された。目視による観察では、試料3は蓄光において白色発光、試料4では蛍光において白色発光が確認された。
SrAl結晶相を含まない試料2では、試料1と同様に450nm付近(青色領域)のシグナルのみが観察され、蛍光、蓄光ともに白色発光しなかった。一方、CaAl結晶相を含まない試料5では550〜570nm付近(黄緑色領域)のシグナルのみが観察され、蛍光、蓄光ともに白色発光しなかった。
【0063】
以上の結果より、得られた試料が、白色蛍光あるいは白色蓄光を示すためには、XRDにおいてCaAl、SrAl、Ca(Eu,Nd)AlOの3種類の結晶を含むことが必要であることが示唆された。
【0064】
2.Agの添加による蛍光及び蓄光特性の変化
Ca:Sr原子比を0.6:0.4に固定し、Agの添加による蛍光及び蓄光特性の変化を評価した。
【0065】
試料3,6〜8のXRD測定の結果を図4に示す。
Ag添加の試料6〜8のXRDにおいて確認されるシグナルは、Ag未添加の試料3と同じであった。このことから、添加されたAgは、CaAl、SrAl、Ca(Eu,Nd)AlOの結晶に固溶していることが示唆された。
【0066】
図5に試料3,6〜8の発光スペクトルを示す。
Ag未添加の試料3と同様に試料6〜8にも450nm付近(青色領域)の最大ピークと550〜570nm付近(黄緑色領域)にピークが確認された。発光強度は、Ag未添加の試料3が最も高かった。
【0067】
また、図6〜9に試料3,6〜8の蛍光及び蓄光の色度測定の結果を示す。これらの色度測定の結果は、XYZ(Yxy表示系)によるものであり、CIE標準表色系として各表色系の基礎となっているものである。図中において、xyは色度であり、無彩色(白)は色度図の中心にあり、彩度は周辺になるほど高くなる。
また、表4に目視及び色度測定での蛍光及び蓄光の色評価の結果を示し、表5に試料3,6,8の蛍光輝度を示す。なお、表5において、蛍光輝度は、ブラックライト照射3秒後の輝度である。
また、表6に試料3,試料6及び試料8の蓄光の経時変化を示す。蓄光輝度はブラックライトを遮断した直後を0秒として測定した。
【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
まず、蛍光色及び強度を対比すると、図6〜9に示されるように、色度測定による、試料3,6〜8の蛍光の色度は、青白の領域であり、蛍光輝度が最大となったのはAg未添加3の試料であった。この結果は発光スペクトル測定結果と一致する。
一方で、Agを添加することによって蓄光輝度が増加していることが分かる。なお、ブラックライトを遮断した直後(0秒)は、蛍光も同時に測定しているため、見かけ上輝度が大きいものと考えられる。
Agの添加による蓄光強度が増大する原因については詳細不明であるが、Agが固溶することにより、CaAl結晶、SrAl結晶へのNd3+の固溶量が多くなることが推測される。Agが添加された試料6,試料8の残光時間は、Ag未添加の試料3より明らかに長いことから、Agを添加することにより、蓄光性蛍光体の蓄光特性が向上することが明らかになった。特に8モル%Ag添加の試料8では、残光時間が30秒以上であった。
【0072】
3.蛍光及び蓄光特性の加熱保持時間依存性の評価
Ca:Sr原子比を0.6:0.4、Agの添加量を8モル%に固定して、蛍光及び蓄光特性の加熱保持時間依存性を評価した。
【0073】
試料8〜11のXRD測定の結果を図10に示す。
加熱保持時間5hの試料9は、加熱保持時間が4hの試料8と同じ生成相を示したが、CaAl結晶のピーク強度が試料8よりも若干低くなっていた。
さらに保持時間を長くした試料10(8h加熱)や試料10(12h加熱)では、今までの結果とは大きく異なり、SrAl結晶の生成割合が増加した。
また、加熱保持時間が増加するに伴い、強度比の比較より、Ca(Eu,Nd)AlOの強度が減少することが確認された。
【0074】
図11に試料8〜11の発光スペクトルを示す。表7に試料8〜11の目視及び色度測定での蛍光及び蓄光の色評価の結果を示す。
また、表8に試料8〜11の蛍光輝度及び蓄光輝度を示す。なお、蛍光輝度は、ブラックライト照射3秒後の輝度であり、蓄光輝度はブラックライトを遮断して5秒後の輝度である。
【0075】
【表7】

【0076】
【表8】

【0077】
保持時間がそれぞれ4hと5hである試料8,試料9を比較したが、蛍光色には大きな違いは見られず、どちらとも青白色の蛍光発光を示した。また、目視で確認する限り発光強度にも違いはなかったが、輝度測定では若干試料9の方が小さかった。
一方、保持時間がそれぞれ8hと12hである試料10,試料11の蛍光色は、SrAl結晶由来の黄白色を示し、XRDの結果と一致した。
一方で、蓄光色は、試料8,試料9では目視、色度測定とも白色であったに対し、試料10,試料11では白色ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の蓄光性蛍光体は、蛍光色及び蓄光色の少なくとも一方が白色光を発光し、かつ、発光ムラの少ないため、様々な発光装置や表示装置に応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分を含有してなることを特徴とする蓄光性蛍光体。
(A)Ca及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心として少なくともEuを含有する結晶体
(B)Sr及びAlを含有する複合酸化物からなる結晶母材に、発光中心として少なくともEuを含有する結晶体
(C)Ca及びAl並びにEu及び/又はNdを含有する複合酸化物であり、成分(A)の結晶母材と異なる結晶形を有する結晶体
【請求項2】
成分(A)における結晶母材がCaAl24、成分(B)における結晶母材がSrAl24、成分(C)が、Ca(Eu,Nd)AlO4である請求項1記載の蓄光性蛍光体。
【請求項3】
蓄光性蛍光体全量におけるCa、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:0.9〜1.1であり、かつ、Ca:Sr=0.45:0.55〜0:65:0.35の関係を満たす請求項1又は2記載の蓄光性蛍光体。
【請求項4】
蓄光性蛍光体全量において、Euの含有量が、0.1〜10モル%である請求項1から3のいずれかに記載の蓄光性蛍光体。
【請求項5】
成分(A)及び成分(B)における賦活成分として、さらにNdを含有する請求項1から4のいずれかに記載の蓄光性蛍光体。
【請求項6】
さらにAg+を含有する請求項5記載の蓄光性蛍光体。
【請求項7】
Ag+の含有量が、蓄光性蛍光体の全量に対し、1〜10モル%である請求項6記載の蓄光性蛍光体。
【請求項8】
粉末状のCa原料化合物、Sr原料化合物、Al原料化合物、Eu原料化合物を、蓄光性蛍光体全量におけるCa、Sr及びAlの含有比(モル比)が、Al:(Ca+Sr)=1:0.9〜1.1であり、かつ、Ca:Sr=0.45:0.55〜0:65:0.35の関係を満たし、Euの含有量が、蓄光性蛍光体全量に対して、0.1〜10モル%であるように混合し、得られた混合物を還元性雰囲気下で1000〜1400℃、15時間以下の条件で加熱保持することを特徴とする蓄光性蛍光体の製造方法。
【請求項9】
加熱保持条件が、1〜5時間である請求項8記載の蓄光性蛍光体の製造方法。
【請求項10】
さらに、Nd原料化合物を、Ndの含有量が、蓄光性蛍光体全量に対して、1〜10モル%であるように混合する請求項8又は9記載の蓄光性蛍光体の製造方法。
【請求項11】
さらに、Ag原料化合物を、Agの含有量が、蓄光性蛍光体全量に対して、0.1〜10モル%であるように混合する請求項8から10のいずれかに記載の蓄光性蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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