説明

蓄冷器付き冷凍サイクル装置

【課題】限られた蓄冷熱を効果的に活用すると共に、乗員に対する快適な空調フィーリングを与えることのできる蓄冷器付き冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】車両エンジン10の作動によって圧縮機110が駆動されている時に、開閉手段190を開状態として、蓄冷器180を流通する低圧冷媒によって蓄冷材に蓄冷する蓄冷モードを実行し、車両エンジン10が停止された時に、蓄冷器180の冷媒入口側のみ開閉手段190を開状態として、蒸発器150から蓄冷器180に流入される低圧冷媒に蓄冷材の冷熱を放出する放冷モードと、開閉手段190を閉状態として、蓄冷材の冷熱を保持する貯冷モードとを繰り返し実行すると共に、空調空気の温度変化幅ΔTの中央値T1が、車両エンジン10作動時の目標温度T0よりも所定量αだけ高くなるようにし、且つ、温度変化幅ΔTの下限値TLが目標温度T0よりも低くなるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクルの作動中に蓄冷器に蓄冷し、圧縮機の停止時に蓄冷熱により冷房を継続可能とする蓄冷器付き冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルが停止した後にも蒸発器において冷凍能力を発揮することが求められる装置として、例えば特許文献1に示される冷凍サイクル装置がある。即ち、この冷凍サイクル装置には、蒸発器の下流側に直列配置される蓄冷器(蓄冷タンク装置)が設けられている。そして、車両エンジンの稼働時(蓄冷時)には、蒸発器から流出される低温冷媒により蓄冷器に充填された蓄冷材が冷却されて蓄冷される。一方、車両エンジンが停止して圧縮機が停止されると(放冷時)、蒸発器で蒸発した冷媒は蓄冷器(蓄冷材)により冷却凝縮され、蒸発圧力が低く維持される。そして、凝縮器と蒸発器との間の残圧により凝縮器側から蒸発器側に冷媒が流入されることになり、蒸発器での冷房能力が維持され、車両エンジン停止時の空調が継続されるようになっている。
【特許文献1】特開2007−113904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術では車両エンジン停止時の蓄冷器においては成り行きで放冷されるのみであるため、蓄冷された冷熱が完全に放出された時点で冷房能力はなくなり、また、時間経過と共に冷房温度が単純に上昇していくため、乗員に対しては必ずしも快適な空調フィーリングを与えることができなかった。
【0004】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、車両エンジンの停止時に蓄冷器によって冷房を継続するものにおいて、限られた蓄冷熱を効果的に活用すると共に、乗員に対する快適な空調フィーリングを与えることのできる蓄冷器付き冷凍サイクル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0006】
請求項1に記載の発明では、減圧器(130)によって減圧された低圧冷媒を蒸発させて、通過する空調空気を冷却する蒸発器(150)と、
車両エンジン(10)によって駆動され、蒸発器(150)から流出される低圧冷媒を吸入して、凝縮器(120)側に圧縮吐出する圧縮機(110)と、
蒸発器(150)の冷媒出口と圧縮機(110)の冷媒吸入口との間に配設されて、低圧冷媒の流れに対して所定の流通抵抗となる流路抵抗体(160)と、
流路抵抗体(160)に対して並列に接続される並列流路(170)と、
内部に蓄冷材が設けられ、並列流路(170)の途中に介在される蓄冷器(180)と、
並列流路(170)における蓄冷器(180)の冷媒入口側および冷媒出口側をそれぞれ開閉する開閉手段(190)と、
開閉手段(190)の開閉状態を制御する制御手段(200)とを備え、
制御手段(200)は、車両エンジン(10)の作動によって圧縮機(110)が駆動されている時に、蓄冷器(180)の冷媒入口側および冷媒出口側の開閉手段(190)を開状態として、蓄冷器(180)を流通する低圧冷媒によって蓄冷材に蓄冷する蓄冷モードを実行し、
車両エンジン(10)が停止された時に、蓄冷器(180)の冷媒入口側のみ開閉手段(190)を開状態として、蒸発器(150)から蓄冷器(180)に流入される低圧冷媒に蓄冷材の冷熱を放出する放冷モードと、蓄冷器(180)の冷媒入口側および冷媒出口側の開閉手段(190)を閉状態として、蓄冷材の冷熱を保持する貯冷モードとを繰り返し実行すると共に、蒸発器(150)を通過した空調空気の温度変化幅(ΔT)の中央値(T1)が、車両エンジン(10)作動時の空調空気の目標温度(T0)よりも所定量(α)だけ高くなるようにし、且つ、温度変化幅(ΔT)の下限値(TL)が目標温度(T0)よりも低くなるように制御することを特徴としている。
【0007】
これにより、車両エンジン(10)の停止に伴って圧縮機(110)が停止される間において、蓄冷モードによって蓄冷器(180)に蓄冷された冷熱を、放冷(放冷モード)と貯冷(貯冷モード)とを繰り返して冷房に使用することができるので、貯冷の分、冷熱を使い切るまでの時間を延ばして、冷房時間を延ばすことができる。
【0008】
また、空調空気の温度変化幅(ΔT)の中央値(T1)を車両エンジン(10)の作動時の空調空気の目標温度(T0)よりも所定量(α)だけ高くなるように設定しているので、更に冷熱を使い切るまでの時間を延ばして、冷房時間を延ばすことができる。
【0009】
この時、蒸発器(150)を通過した空調空気の温度は、蓄冷器(180)による放冷と貯冷との繰り返しによって揺らぎを持った変化を呈することになり、また、揺らぎの下限値(温度変化幅の下限値TL)が車両エンジン(10)作動時の空調空気の目標温度(T0)よりも低くなるようにしているので、放冷のみの継続によって冷房温度が単純に上昇していく場合に比べて、乗員に対する空調フィーリングを向上させることができる。
【0010】
よって、車両エンジン(10)の停止時に蓄冷器(180)によって冷房を継続するものにおいて、限られた蓄冷熱を効果的に活用すると共に、乗員に対する快適な空調フィーリングを与えることのできる蓄冷器付き冷凍サイクル装置(100)とすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、制御手段(200)は、温度変化幅(ΔT)を時間経過と共に変化させることを特徴としている。
【0012】
これにより、蒸発器(150)の空調空気温度の揺らぎを強調でき、更に乗員に対する空調フィーリングを向上させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、制御手段(200)は、温度変化幅(ΔT)を揺らぎの乱数に基づいて決定することを特徴としている。
【0014】
これにより、容易に、且つ効果的に温度変化幅(ΔT)を決定することができる。
【0015】
温度変化幅(ΔT)は、請求項4に記載の発明のように、時間経過に対して、一定とするようにしても良い。
【0016】
請求項5に記載の発明では、所定量(α)は、蓄冷材の蓄冷し得る蓄冷量、および蓄冷材の放冷時間に応じて決定されることを特徴としている。
【0017】
これにより、車両エンジン(10)停止時の冷房能力と冷房時間とをうまくバランスした蓄冷器付き冷凍サイクル装置(100)とすることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明では、開閉手段(190)は、蓄冷器(180)の冷媒入口側に配設される第1開閉弁(191)と、蓄冷器(180)の冷媒出口側に配設される第2開閉弁(192)とから構成されていることを特徴としている。
【0019】
これにより、容易且つ安価に開閉手段(190)を構成することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明では、開閉手段(190)は、蓄冷器(180)の冷媒入口側に配設される開閉弁(191)と、蓄冷器(180)の冷媒出口側に配設されて、蓄冷器(180)の内部と圧縮機(110)の冷媒吸入口との間の冷媒圧力差に応じて、蓄冷器(180)側から圧縮機(110)側への冷媒流通を許容し、圧縮機(110)側から蓄冷器(180)側への冷媒流通を阻止する逆止弁(193)とから構成されていることを特徴としている。
【0021】
これにより、更に安価な開閉手段(190)とすることができる。
【0022】
請求項8に記載の発明では、凝縮器(120)の冷媒出口と減圧器(130)の冷媒入口との間から分岐されて、蓄冷器(180)の冷媒入口に接続される分岐流路(102)と、
分岐流路(102)の途中に配設されて、凝縮器(120)からの冷媒を減圧する分岐流路減圧器(131)と、
分岐流路(102)の途中に配設されて、分岐流路(102)を開閉する分岐流路開閉手段(132)とを備え、
制御手段(200)は、車両エンジン(10)の作動時に、蓄冷器(180)の冷媒入口側のみ開閉手段(190)を閉状態とし、分岐流路開閉手段(131)を開状態として、分岐流路(102)からの低圧冷媒を蓄冷器(180)に流通させて蓄冷モードを実行すると共に、
車両エンジン(10)停止時に、分岐流路開閉手段(131)を閉状態とすることを特徴としている。
【0023】
これにより、車両エンジン(10)作動時に分岐流路(102)から低圧冷媒を蓄冷器(180)に流入させて蓄冷することができるので、蒸発器(150)において蓄冷分を加味した冷房能力(冷房温度)にする必要がなくなる。よって、蒸発器(150)においては、本来の乗員の要求する冷房能力(冷房温度)で運転すれば良くなるので、乗員に対して冷房時の違和感を与えることが無くなる。
【0024】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1実施形態)
第1実施形態の蓄冷器付き冷凍サイクル装置(以下、冷凍サイクル装置)100Aは、例えば信号待ち等のように走行状態からアイドリングでの停車状態に移行した際にエンジンが停止されるいわゆるアイドルストップ車両に適用されたものであり、以下、図1を用いてその基本構成について説明する。尚、図1は冷凍サイクル装置100Aの全体構成を示す模式図である。
【0026】
冷凍サイクル装置100Aは、低温側の熱を高温側に移動させて冷熱および温熱を空調に利用するものである。冷凍サイクル装置100Aは、図1に示すように、圧縮機110、凝縮器120、温度式膨張弁130、蒸発器150が配管101によって順次環状に接続される通常の冷凍サイクルに、ブリードポート140、流路抵抗体160、並列流路170に介在される蓄冷器180、および開閉手段190が付加されると共に、エアコン制御装置(以下、制御装置)200が設けられたものとなっている。
【0027】
圧縮機110は、車両エンジン(以下、エンジン)10の駆動力がプーリ111を介して伝達されて駆動される流体機械であり、冷凍サイクル装置100A内の冷媒(例えばHFC134a)を高温高圧に圧縮して吐出するようになっている。圧縮機110は、例えば1回転当たりの吐出容量が調節可能な斜板式の可変容量型圧縮機であり、後述する制御装置200によって吐出容量が調節されるようになっている。圧縮機110の吐出容量は、ほぼゼロとなる最小吐出容量から、圧縮機110自身が吐出し得る最大吐出容量まで連続的に調節されるようになっている。圧縮機110の吐出量は、上記吐出容量と圧縮機回転数との積によって決定される。また、圧縮機110作動時の必要動力は、上記吐出量に相関(比例)する。
【0028】
尚、圧縮機110としては、上記可変容量型圧縮機に代えて、1回転当たりの吐出容量を固定として、プーリ111に設けられた電磁クラッチの接続切断によってエンジン10からの駆動力が断続されるクラッチ式の圧縮機としても良い。この場合の圧縮機では、電磁クラッチの接続時間および切断時間の比を変えることで、実質的な吐出量を調節できる。
【0029】
凝縮器120は、圧縮機110によって高温高圧に圧縮された冷媒を冷却して、凝縮液化する熱交換器であり、圧縮機110の冷媒吐出側に設けられている。
【0030】
温度式膨張弁(本発明における減圧器に対応し、以下膨張弁)130は、凝縮器120から流出される液相冷媒を等エンタルピ的に減圧膨脹させるもので、図示しない弁部と、後述する蒸発器150の冷媒出口側に設けられた感温部とを有している。膨張弁130は、感温部で検出される冷媒温度に応じて弁部の絞り開度が制御されて、蒸発器150から流出される冷媒の過熱度を所定値(例えば5〜10℃)とするようになっている。
【0031】
膨張弁130には、この膨張弁130に対して並列配置される絞り機構としてのブリードポート140が設けられている。ブリードポート140の絞り度合いは、膨張弁130の最大開度に対して1/10程度に設定されたものとしており、通常の冷凍サイクル作動時は、冷媒は膨張弁130側を流通し、圧縮機110の停止等に伴って、膨張弁130が閉じてしまう場合に、冷媒はブリードポート140を流通するようになっている。
【0032】
蒸発器150は、膨張弁130にて減圧された低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮する熱交換器であり、図示しない空調ケース内に配設されている。蒸発器150は、空調ケース内に供給されて蒸発器150自身を通過する空調空気を冷却(空調空気から吸熱)する。尚、空調ケース内には、この他に図示しない空調空気送風用の送風機、空調空気加熱用の熱交換器、冷却空気および加熱空気の混合割合を調整するエアミックスドア機構等が設けられて、室内ユニットを形成している。この室内ユニットは車室内のインストルメントパネル内に配設されている。
【0033】
蒸発器150の空調空気流れ下流側には、冷却された空調空気の温度(以下、エバ後空気温度T)を検出する温度検出手段としての温度センサ151が設けられている。また、配管101における蒸発器150の冷媒出口側には、蒸発器150から流出される冷媒の温度(以下、エバ出口冷媒温度Tr)を検出する温度検出手段としての温度センサ152が設けられている。そして、各温度センサ151、152によって検出された温度信号は、後述する制御装置200に出力されるようになっている。
【0034】
流路抵抗体160は、蒸発器150から流出される冷媒に対して所定の流通抵抗となるものであり、配管101上において蒸発器150の冷媒出口と圧縮機110の冷媒吸入口との間に設けられている。流路抵抗体160は、例えば、配管101に対して、内径が小さくなるように所定量絞られて、蒸発器150から流出される冷媒を流路抵抗体160自身と、後述する蓄冷器180側となる並列流路170とに所定比で分配流通させるようになっている。
【0035】
並列流路170は、上記流路抵抗体160に対して並列に接続された流路であり、蓄冷器180は、この並列流路170の途中に介在されている。つまり、蓄冷器180は、流路抵抗体160に対して、並列となるように配設されている。
【0036】
蓄冷器180は、例えばシェルアンドチューブタイプの熱交換器として形成されており、蓄冷熱交換器181と、この蓄冷熱交換器181を内部に収容する蓄冷タンク182とを備えている。そして、蓄冷タンク182内には蓄冷材(例えば、パラフィン、氷等)が所定量充填されており、蓄冷材は蓄冷熱交換器181の外表面と接触するようになっている。
【0037】
蓄冷熱交換器181は、並列流路170の途中に接続されており、後述する開閉手段190の開閉状態に応じて、蒸発器150から流出される冷媒が蓄冷熱交換器181の内部を流通する場合と、流通しない場合とに切換えられるようになっている。そして、蓄冷熱交換器181内を冷媒が流通する場合には、この冷媒と、蓄冷タンク182内の蓄冷材との間で熱交換(蓄冷あるいは放冷)されるようになっている。また、蓄冷熱交換器181内を冷媒が流通しない場合には、蓄冷材に貯められた冷熱がそのまま保持(貯冷)されるようになっている。尚、蓄冷器180としての蓄冷、放冷、貯冷にかかわる伝熱性能は、蓄冷材の選定、蓄冷熱交換器181の熱交換容量(体格)の設定、および蓄冷材の封入量等によって決定することができる。
【0038】
そして、蓄冷器180には、蓄冷材の温度(以下、蓄冷材温度Tp)を検出する温度検出手段としての温度センサ183が設けられている。温度センサ183によって検出された温度信号は、後述する制御装置200に出力されるようになっている。
【0039】
開閉手段190は、並列流路170における蓄熱器180の冷媒入口側(蒸発器150の冷媒出口側)、および冷媒出口側(圧縮機110の冷媒吸入口側)を開閉するものであり、第1開閉弁191と第2開閉弁192とを備えている。第1開閉弁191は、並列流路170における蓄熱器180の冷媒入口側を開閉する弁であり、第2開閉弁192は、並列流路170における蓄熱器180の冷媒出口側を開閉する弁である。各開閉弁191、192は電磁式の弁となっており、その開閉状態は後述する制御装置200によって制御されるようになっている。
【0040】
2つの開閉弁191、192の開閉状態は、エンジン10の作動状態および、蓄熱器180を用いた各作動モード(蓄冷モード、放冷モード、貯冷モードであり詳細後述)に応じて、図2に示すような態様が予め設定されている。
【0041】
即ち、エンジン10の停止時において、貯冷モードと放冷モードとが設定されており、貯冷モードの場合に両開閉弁191、192は共に閉状態とされ、放冷モードの場合に第1開閉弁191が開状態とされ、第2開閉弁192が閉状態とされる。また、エンジン10の作動時において、貯冷モードと蓄冷モードとが設定されており、貯冷モードの場合に両開閉弁191、192は共に閉状態とされ、蓄冷モードの場合に両開閉弁191、192が共に閉状態とされる。
【0042】
制御装置200は、圧縮機110の作動、および両開閉弁191、192の開閉状態を制御する制御手段である。制御装置200は、エンジン10の作動を制御するエンジン制御装置(図示せず)と連動しており、制御装置200にはエンジンの作動状態(オフ状態あるいはオン状態)、およびエンジンの負荷状態等の信号が入力されるようになっている。また、制御装置200には、各温度センサ151、152、183からの温度信号が入力されるようになっている。そして、制御装置200は、上記エンジン10の作動状態、負荷状態、冷凍サイクルの熱負荷、および蓄冷器180における蓄冷、放冷状態に応じて、圧縮機110の吐出量調節、開閉手段190の開閉状態を制御する。尚、制御装置200は、エバ後空気温度Tに基づいて、冷凍サイクルの熱負荷を判定し、また、エバ出口冷媒温度Tr、蓄熱材融点Tp0との温度差、およびその温度差が維持される経過時間等に基づいて、蓄冷材における蓄冷状態、あるいは放冷状態を判定するようになっている。
【0043】
次に、上記構成に基づく冷凍サイクル装置100Aの作動およびその作用効果について、図3〜図8を加えて説明する。尚、図3、図4は制御装置200が実行する制御のフローチャート、図5は制御装置200が蓄冷状態を確認するサブフローチャート、図6はエンジン10の回転数、蓄冷材の蓄冷量、エバ後空気温度Tを示すタイムチャート、図7は蓄冷材の温度変化に伴う蓄冷状態を説明する説明図、図8はエバ後空気温度Tの条件A、B、Cを示すイメージ説明図である。
【0044】
図3、図4に示すように、制御装置200は、まず、ステップS100にて、開閉手段190に対して初期設定を行う。ここでは、開閉手段190を貯冷モードに設定する。貯冷モードとは、蓄冷器180の蓄冷材に蓄えた冷熱をそのまま蓄冷器180に保持するモードであり、そのために、両開閉弁191、192を共に閉状態とする。
【0045】
次に、ステップS110にて、エンジン制御装置から得られるエンジンの作動状態情報より、車両がアイドルストップによりエンジン10が停止したか否かを判定する。エンジン10が停止していない(エンジン10作動中)と判定すると、ステップS120で開閉手段190に対して蓄冷モードに設定する。蓄冷モードとは、冷凍サイクルを循環して蒸発器150から流出される低温の冷媒によって、蓄冷器180の蓄冷材に冷熱を蓄えるモードであり、そのために、両開閉弁191、192を共に開状態とする。
【0046】
ここで、エンジン10の作動中においては(図6のア)、エンジン10によって圧縮機110が駆動され、冷凍サイクル装置100Aが作動されることになる。圧縮機110で圧縮吐出された冷媒は、凝縮器120で凝縮液化され、膨張弁130で減圧され、蒸発器150で空調空気から吸熱して蒸発し、空調空気を冷却する(冷房する)。制御装置200は、冷凍サイクルの熱負荷(温度センサ151によって検出されるエバ後空気温度T)に応じて圧縮機110の吐出量を調節する。つまり、エバ後空気温度Tが、乗員の設定する設定温度に応じた目標温度T0(図6のイ)となるように、圧縮機110の吐出量を調節する。
【0047】
そして、蒸発器150から流出される冷媒は、開状態とされた開閉弁191によって、並列流路170の分岐点で分流して、流路抵抗体160と蓄冷器180とを通流し、更に開状態とされた開閉弁192によって、再び合流して圧縮機110に吸入される。そして、蓄冷器180において、蓄冷材融点Tpより低い温度の冷媒によって蓄冷材は液相から固相に変化されて、蓄冷材にはその時の凝固潜熱が蓄えられていく。つまり、蓄冷タンク182内の蓄冷材は、低温冷媒によって冷却され、蓄冷されていくことになる(図6のウ)。
【0048】
次に、制御装置200は、ステップS130で、蓄冷材の蓄冷状態がフル状態になったか否かを判定する。フル状態の判定は、図5に示すサブフローチャートに基づいて行われる。補足説明図として図7を示す。
【0049】
即ち、制御装置200は、ステップS131で、温度センサ183によって得られる蓄冷材温度Tpが、低温の冷媒によって蓄冷材融点Tp0以下に低下したか否かを判定する。蓄冷材温度Tpが蓄冷材融点Tp0以下に低下したと判定すると、ステップS132で、蓄冷材温度Tpが蓄冷材融点Tp0と等しくなった時点(図7のt1)から所定時間tだけ経過した時の蓄冷材から冷媒への移動熱量Q1(冷媒から蓄冷材への移動冷熱量)を推定する。これは、蓄冷器180を流通する冷媒の流量と、蓄冷材温度Tpとエバ出口冷媒温度Trとの温度差と、所定時間tと、予め定めた定数との積として算出される。
【0050】
そして、ステップS133で、予め定めた蓄冷材における蓄冷し得る熱量Q0(全潜熱量)に対する移動熱量Q1の割合(Q1/Q0)が、予め定めた所定値K1よりも大きくなったと判定すると蓄冷材の蓄冷状態がフル状態になったと判定し、大きくない判定するとフル状態でないと判定する。
【0051】
よって、ステップS130(ステップS133)でフル状態でないと判定すると、ステップS110に戻り、蓄冷モードを繰り返し、また、フル状態になったと肯定判定するとステップS140に進む。
【0052】
ステップS140では、制御装置200は、開閉手段190に対して貯冷モードに設定する。つまり、両開閉弁191、192を共に閉状態とする。両開閉弁191、192が閉状態とされることで、蒸発器150から流出される冷媒は、蓄冷器180には流れなくなり、冷媒と蓄冷材との熱交換は成されず、蓄冷材の冷熱が保持されることになる。そして、ステップS140の後に、ステップS110に戻る。
【0053】
一方、ステップS110で、車両がアイドルストップによりエンジン10が停止していると判定すると(図6のエ)、ステップS150に進む。ここで、エンジン10の停止により、圧縮機110が停止され、冷凍サイクル内の冷媒循環が停止される。そして、蒸発器150における冷媒流れが停止し、両開閉弁191、192が仮にステップS100にによる貯冷モード(閉状態)であると(図6のオ)、エバ後空気温度Tが徐々に上昇していく(図6のカ)。
【0054】
ステップS150では、温度センサ151によって得られるエバ後空気温度Tが、(T1+ΔT/2)以上であるか否かを判定する。ここで、図6に示すように、T1は、以下で説明するエバ後空気温度Tに上下の幅を持たせた揺らぎ制御を実行する際の目標中心温度(中央値)であり、エンジン10の作動時に設定された目標温度T0に対して所定量αだけ高い値に設定される(T1=T0+α)。所定量αは、蓄冷材が蓄冷し得る蓄冷量(冷房能力)と、エンジン10停止時の蓄冷材による放冷時間(冷房時間)とに応じて決定される。つまり、所定量αを大きくするほど、エバ後空気温度T(平均値)は、エンジン10の作動時のエバ後空気温度Tに対して上昇(冷房能力低下)するものの、放冷時間(冷房時間)を稼ぐことができ、逆に、所定量αを小さくするほど、冷房能力は向上し、冷房時間が短くなる。所定値αは、この冷房能力と冷房時間との兼ね合いから決定される。また、ΔTは、エバ後空気温度Tの上下の温度変化幅であり、温度変化幅ΔTの下限値TLは、目標温度T0よりも低くなるように設定される。
【0055】
尚、本制御フローでは、ステップS110から後述するステップS280までが繰り返し実施されて、温度変化幅ΔTが後述するステップS200で都度変更されていくようになっているため、最初のステップS150における温度変化幅ΔTは、予め定められた初期値が用いられるようにしている。
【0056】
上記のステップS150で肯定判定すると、ステップS160で、制御装置200は、フラグの設定として、放冷フラグ=1、貯冷フラグ=0とし、ステップS190に進む。ステップS150における肯定判定は、エバ後空気温度Tが、図8のイメージ図におけるAの領域にあり、温度変化幅ΔTの上限値を超えた領域にあることを示している。
【0057】
また、ステップS150で否と判定すると、ステップS170で、温度センサ151によって得られるエバ後空気温度Tが、(T1−ΔT/2)未満であるか否かを判定する。上記のステップS170で肯定判定すると、ステップS180で、制御装置200は、フラグの設定として、放冷フラグ=0、貯冷フラグ=1とし、ステップS190に進む。ステップS170における肯定判定は、エバ後空気温度Tが、図8のイメージ図におけるCの領域にあり、温度変化幅ΔTの下限値(TL)を下回ったことを示している。
【0058】
また、ステップS170で、否と判定すると制御装置200は、フラグ設定(フラグ変更)は行わずにステップS190に進む。ステップS170における否定判定は、エバ後空気温度Tが、図8のイメージ図におけるBの領域にあり、温度変化幅ΔT内にあることを示している。
【0059】
ステップS190では、制御装置200は、設定フラグ、つまり放冷フラグ、貯冷フラグの変更があったか否かを判定し(つまりステップS160あるいはステップS180を通ったか否かを判定し)、フラグの変更があったと判定すると、ステップS200で温度変化幅ΔTを変更する。温度変化幅ΔTの変更にあたっては、揺らぎの乱数を都度発生させて、その乱数に基づいて決定する。尚、温度変化幅ΔTの変更は、上記揺らぎの乱数を用いるものに代えて、予め定めた揺らぎのパターンに基づいて決定するようにしても良い。また、ステップS190で、否と判定すると、ステップS200を実行せずに、ステップS210に進む。
【0060】
次に、ステップS210で、制御装置200は、蓄冷器180(蓄冷材)における蓄冷量がゼロか否かを判定する。蓄冷量ゼロの判定は、エバ出口冷媒温度Trと蓄冷材温度Tpとを比較することで行われ、制御装置200は、蓄冷材温度Tpがエバ出口冷媒温度Trよりも高くなった時点で、蓄冷量ゼロと判定する。
【0061】
ステップS210で、蓄冷量がゼロでないと判定すると、ステップS220で、制御装置200はステップS160、ステップS180における放冷、貯冷のフラグ状態を確認し、放冷フラグ=1、貯冷フラグ=0であると、ステップS230で放冷モードに設定し(図6のキ)、また、放冷フラグ=0、貯冷フラグ=1であるとステップS240で、貯冷モードに設定する(図6のク)。放冷モードとは、蓄冷器180の蓄冷材に蓄えた冷熱を蒸発器150から流出される冷媒に放出するモードである。
【0062】
ステップS230の放冷モードの設定においては、制御装置200は、第1開閉弁191を開状態とし、第2開閉弁192を閉状態とする。放冷モードにおける冷凍サイクル100Aの作動は以下のようになる。
【0063】
即ち、車両が停車してエンジン10が停止されると、圧縮機110も停止される。この時、蒸発器150における冷媒は、気液2相の飽和状態となるため、膨張弁130は蒸発器150出口側の冷媒の過熱度を所定値に維持しようとして、絞り開度を小さくするように制御していくことから全閉状態となる。よって、冷凍サイクル内では高圧側となる凝縮器120、低圧側となる蒸発器150および蓄冷器180に、その残圧によりブリードポート140を通じて冷媒が流入する。
【0064】
蒸発器150に流入した冷媒は空調空気との熱交換により空調空気を冷却して、蓄冷材の融点よりも高い温度の過熱ガス冷媒となる。過熱ガス冷媒は、圧縮機110が停止されていることから、流路抵抗体160を流通せずに、並列流路170の第1開閉弁191から蓄冷器180に流入して、蓄冷材に融解潜熱を与えて放冷する。換言すれば、過熱ガス冷媒は、蓄冷材の蓄冷熱により冷却されて凝縮液化し、蓄冷器180内に液冷媒として溜められる。
【0065】
つまり、蒸発器150からの過熱ガス冷媒は、蓄冷器180の蓄冷熱交換器181で凝縮されて体積を縮小させて、蓄冷熱交換器181内に液冷媒として溜められて圧力を低圧に維持するので、圧縮機110が停止されても蓄冷材の蓄冷熱が保持されている間は凝縮器120と蒸発器150との間の残圧により、冷媒は継続して蒸発器150に流入可能となり、蒸発器150による空調空気の冷却を継続可能とすることができる。よって、この放冷モードにおいては、エバ後空気温度Tが徐々に低下していく(図6のケ)。
【0066】
一方、ステップS240の貯冷モードの設定においては、制御装置200は、両開閉弁191、192を共に閉状態とする。この貯冷モードにおける冷凍サイクル100Aの作動は、両開閉弁191、192が閉状態とされることで、蒸発器150から蓄冷器180への冷媒流れが停止され、蓄冷器180における冷媒の凝縮作用がなくなることから、凝縮器120から蒸発器150への冷媒流入が停止されて、エバ後空気温度Tが徐々に上昇していく(図6のコ)。
【0067】
そして、ステップS230、ステップS240の後に、再びステップS110へ戻り、上記の制御を繰り返す。
【0068】
このように、本実施形態では、エンジン10の停止時に、エバ後空気温度Tを温度変化幅ΔTの上限側および下限側を閾値として判定し、放冷モードと貯冷モードとを繰り返し実行することにより、図6に示すように、エバ後空気温度Tに揺らぎを持たせるようにしている。そして、制御フローの繰り返しにおけるステップS200の実行により、揺らぎにおける温度変化幅ΔTが時間経過と共に変化するようにしている。
【0069】
尚、上記ステップS210で、蓄冷器180における蓄冷量がゼロであると判定すると、制御装置200は、ステップS250でエンジン10を始動させる。具体的には、エンジン制御装置に対して、エンジン始動信号を出力する。
【0070】
そして、ステップS260で開閉手段190に対して蓄冷モードに設定し、ステップS270で蓄冷材の蓄冷状態がフル状態になったか否かを判定する。そして、ステップS270で蓄冷状態がフル状態になったと判定すると、ステップS280でエンジン10を停止させる。具体的には、エンジン制御装置に対して、エンジン停止信号を出力する。尚、ステップS260、ステップS270の具体的な内容は、上記ステップS110、ステップS120の内容と同一である。
【0071】
以上のように、本冷凍サイクル装置100Aにおいては、蓄冷器180と、この蓄冷器180の冷媒位置口側および冷媒出口側を開閉する開閉手段190(第1開閉弁191、第2開閉弁192)とを設け、エンジン10の作動時(圧縮機110の作動時)に両開閉弁191、192を開状態として蓄冷器180の蓄冷材への蓄冷を可能としている(蓄冷モード)。
【0072】
そして、エンジン10の停止時(圧縮機110の停止時)に、第1開閉弁191のみを開状態として(第2開閉弁192は閉状態)、蒸発器150から流出される冷媒に蓄冷材の冷熱を放出する放冷モードと、両開閉弁191、192を閉状態として、蓄冷材の冷熱を保持する貯冷モードとを繰り返すようにしている。
【0073】
これにより、エンジン10の停止に伴って圧縮機110が停止される間において、蓄冷モードによって蓄冷器180に蓄冷された冷熱を、放冷(放冷モード)と貯冷(貯冷モード)とを繰り返して冷房に使用することができるので、貯冷モードを実行する分だけ冷熱を使い切るまでの時間を延ばして、冷房時間を延ばすことができる。
【0074】
また、空調空気の温度変化幅ΔTの目標中心温度T1をエンジン10の作動時の空調空気の目標温度T0よりも所定量αだけ高くなるように設定しているので、更に冷熱を使い切るまでの時間を延ばして、冷房時間を延ばすことができる。
【0075】
この時、蒸発器150を通過した空調空気の温度(エバ後空気温度T)は、蓄冷器180による放冷と貯冷との繰り返しによって揺らぎを持った変化を呈することになり、また、揺らぎの下限値(温度変化幅の下限値TL)がエンジン10作動時の空調空気の目標温度T0よりも低くなるようにしているので、放冷のみの継続によって冷房温度が単純に上昇していく場合に比べて、乗員に対する空調フィーリングを向上させることができる。
【0076】
よって、エンジン10の停止時に蓄冷器180によって冷房を継続するものにおいて、限られた蓄冷熱を効果的に活用すると共に、乗員に対する快適な空調フィーリングを与えることができる。
【0077】
また、エバ後空気温度Tに揺らぎを持たせるにあたって、温度変化幅ΔTを時間経過と共に変化させるようにしているので、エバ後空気温度Tの揺らぎを強調でき、更に乗員に対する空調フィーリングを向上させることができる。
【0078】
また、上記温度変化幅ΔTについて、揺らぎの乱数に基づいて決定するようにしているので、容易に、且つ効果的に温度変化幅ΔTを決定することができる。
【0079】
また、目標中心温度T1を決定するための所定量αを、蓄冷材の蓄冷し得る蓄冷量および蓄冷材の放冷時間に応じて決定するようにしているので、エンジン10停止時の冷房能力と冷房時間とをうまくバランスさせることができる。
【0080】
また、蓄冷器180に対する開閉手段190を、第1開閉弁191および第2開閉弁192によって構成するようにしているので、容易且つ安価に開閉手段190を構成することができる。
【0081】
(第2実施形態)
第2実施形態を図9に示す。第2実施形態の冷凍サイクル装置(符号100Aと構成同一)は、上記第1実施形態に対して、エンジン10停止時に、エバ後空気温度Tに揺らぎを持たせる際の温度変化幅ΔTを時間経過に対して一定となるようにしたものである。
【0082】
第2実施形態では、上記第1実施形態での制御フローチャート(図3、図4)において、ステップS190、ステップS200を廃止することで、温度変化幅ΔTを時間経過に対して一定とするようにしている。即ち、制御フローの繰り返しの中で、フラグの変化に応じた温度変化幅ΔTの計算を実施しないことで、初期に与えた温度変化幅ΔTが継続されて、図9で示すようなエバ後空気温度Tを与えることができる。
【0083】
第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0084】
(第3実施形態)
第3実施形態を図10に示す。第3実施形態の冷凍サイクル装置100Bは、上記第1実施形態に対して、開閉手段190の構成を変更したものである。
【0085】
第3実施形態では、第1実施形態における開閉手段190を構成する第1開閉弁191、第2開閉弁192のうち、第2開閉弁192を逆止弁193に変更したものとしている。第1開閉弁191は、ここでは開閉弁に対応する。
【0086】
逆止弁193は、蓄冷器180の冷媒出口側に配設されて、蓄冷器180の内部と圧縮機110の冷媒吸入口との間の冷媒圧力差に応じて、蓄冷器180側から圧縮機110側への冷媒流通を許容し、圧縮機110側から蓄冷器180側への冷媒流通を阻止する弁としている。制御装置200は、蓄冷モード、放冷モード、貯冷モードの実行時においては、第1開閉弁191に対して直接的な開閉制御を行う。
【0087】
逆止弁193の作動について以下、説明する。エンジン10の作動によって圧縮機110が駆動されている時は、第1開閉弁191が開状態とされ、蓄冷器180を流通する冷媒は、蓄冷材から吸熱する形となり温度上昇、圧力上昇を伴うことから、逆止弁193の蓄冷器180側圧力が、圧縮機110側圧力よりも高くなり、逆止弁193は開状態となる。そして、蓄冷器180から流出される冷媒は、並列流路170を流れ、流路抵抗体160を流通した冷媒と共に圧縮機110に吸引される(蓄冷モードの形成)。
【0088】
一方、エンジン10の停止により圧縮機110が停止される時は、第1開閉弁191が開状態とされ、蓄冷器180に流入される冷媒は、蓄冷材によって冷却されて、温度低下、圧力低下を伴い、圧縮機110も停止されていることから、逆止弁193の蓄冷器160側圧力が、圧縮機110側圧力よりも低くなり、逆止弁193は閉状態となり、蓄冷器180から圧縮機110への冷媒流れは停止される(放冷モードの形成)。
【0089】
尚、貯冷モードにおいては、第1開閉弁191を閉状態とすることで、蓄冷器180には冷媒が流れないようすることができ、蓄冷材の冷熱を保持することができる。
【0090】
これにより、第1実施形態と同一の作動を可能としつつ、第1実施形態に対して安価な開閉手段190とすることができる。
【0091】
(第4実施形態)
第4実施形態を図11に示す。第4実施形態の冷凍サイクル装置100Cは、上記第3実施形態に対して、分岐流路102、膨張弁(分岐流路減圧器)131、分岐流路開閉弁(分岐流路開閉手段)132を追加したものである。
【0092】
分岐流路102は、凝縮器120の冷媒出口と膨張弁130の冷媒入口との間から分岐されて、蓄冷器180の冷媒入口に接続される流路である。
【0093】
膨張弁131は、所定の弁開度を備え、分岐流路102の途中に配設されて、凝縮器120からの冷媒を減圧する減圧器である。
【0094】
分岐流路開閉弁(以下、開閉弁)132は、分岐流路102において膨張弁131と蓄冷器180の冷媒入口との間に配設されて、分岐流路102を開閉するようになっており、その開閉状態は制御装置200によって制御されるようになっている。尚、開閉弁132は、分岐流路102において、膨張弁131の凝縮器120側に配設されるようにしても良い。
【0095】
この冷凍サイクル装置100Cにおいて、制御装置200は、エンジン10作動時の蓄冷モードを実行する際に、第1開閉弁191を閉状態とし、開閉弁132を開状態とする。すると、冷凍サイクル内の冷媒は、圧縮機110の作動に伴い、圧縮機110→凝縮器120→膨張弁130→蒸発器150→流路抵抗体160→圧縮機110を循環すると共に、凝縮器120の冷媒出口側で分岐流路102に分流して、膨張弁131で減圧されて、更に開閉弁132を通り、蓄冷器180を流通し、逆止弁193を通り、圧縮機110に戻る。
【0096】
また、制御装置200は、エンジン10停止時の放冷モード、貯冷モードを実行する際には、開閉弁132を閉状態として、第1開閉弁191の開閉状態を制御する。第1開閉弁191に対する開閉状態の設定は、上記第1実施形態と同一である。
【0097】
これにより、エンジン10作動時の蓄冷モードを実行する際に、分岐流路102から低圧冷媒を蓄冷器180に流入させて蓄冷することができるので、蒸発器150において蓄冷分を加味した冷房能力(冷房温度)にする必要がなくなる。よって、蒸発器150においては、本来の乗員の要求する冷房能力(冷房温度)で運転すれば良くなるので、乗員に対して冷房時の違和感を与えることが無くなる。
【0098】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、アイドルストップ車両を対象として説明したが、エンジンと走行用モータとを有するハイブリッド車両としても良い。
【0099】
また、蓄冷器180は、シェルアンドチューブ式の熱交換器として説明したが、これに限らず、複数積層される冷媒チューブの両端部にタンクが接合される熱交換器の外部に蓄冷タンクを設けたものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】第1実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】第1実施形態における各モードでの開閉手段の開閉状態を示すマップである。
【図3】第1実施形態における制御装置が実行する制御のフローチャート(前半)である。
【図4】第1実施形態における制御装置が実行する制御のフローチャート(後半)である。
【図5】第1実施形態における制御装置が蓄冷状態を確認するサブフローチャートである。
【図6】第1実施形態におけるエンジンの回転数、蓄冷材の蓄冷量、エバ後空気温度Tを示すタイムチャートである。
【図7】第1実施形態における蓄冷材の温度変化に伴う蓄冷状態を説明する説明図である。
【図8】第1実施形態におけるエバ後空気温度の条件A、B、Cを示すイメージ説明図である。
【図9】第2実施形態におけるエンジンの回転数、蓄冷材の蓄冷量、エバ後空気温度Tを示すタイムチャートである。
【図10】第3実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す模式図である。
【図11】第4実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0101】
10 車両エンジン
100A〜100C 蓄冷器付き冷凍サイクル装置
102 分岐流路
110 圧縮機
120 凝縮器
130 温度式膨張弁(減圧器)
131 膨張弁(分岐流路減圧器)
132 分岐流路開閉弁(分岐流路開閉手段)
150 蒸発器
160 流路抵抗体
170 並列流路
180 蓄冷器
190 開閉手段
191 第1開閉弁(開閉手段)
192 第2開閉弁(開閉手段)
193 逆止弁(開閉手段)
200 エアコン制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧器(130)によって減圧された低圧冷媒を蒸発させて、通過する空調空気を冷却する蒸発器(150)と、
車両エンジン(10)によって駆動され、前記蒸発器(150)から流出される低圧冷媒を吸入して、凝縮器(120)側に圧縮吐出する圧縮機(110)と、
前記蒸発器(150)の冷媒出口と前記圧縮機(110)の冷媒吸入口との間に配設されて、前記低圧冷媒の流れに対して所定の流通抵抗となる流路抵抗体(160)と、
前記流路抵抗体(160)に対して並列に接続される並列流路(170)と、
内部に蓄冷材が設けられ、前記並列流路(170)の途中に介在される蓄冷器(180)と、
前記並列流路(170)における前記蓄冷器(180)の冷媒入口側および冷媒出口側をそれぞれ開閉する開閉手段(190)と、
前記開閉手段(190)の開閉状態を制御する制御手段(200)とを備え、
前記制御手段(200)は、前記車両エンジン(10)の作動によって前記圧縮機(110)が駆動されている時に、前記蓄冷器(180)の冷媒入口側および冷媒出口側の前記開閉手段(190)を開状態として、前記蓄冷器(180)を流通する前記低圧冷媒によって前記蓄冷材に蓄冷する蓄冷モードを実行し、
前記車両エンジン(10)が停止された時に、前記蓄冷器(180)の冷媒入口側のみ前記開閉手段(190)を開状態として、前記蒸発器(150)から前記蓄冷器(180)に流入される前記低圧冷媒に前記蓄冷材の冷熱を放出する放冷モードと、前記蓄冷器(180)の冷媒入口側および冷媒出口側の前記開閉手段(190)を閉状態として、前記蓄冷材の冷熱を保持する貯冷モードとを繰り返し実行すると共に、前記蒸発器(150)を通過した前記空調空気の温度変化幅(ΔT)の中央値(T1)が、前記車両エンジン(10)作動時の前記空調空気の目標温度(T0)よりも所定量(α)だけ高くなるようにし、且つ、前記温度変化幅(ΔT)の下限値(TL)が前記目標温度(T0)よりも低くなるように制御することを特徴とする蓄冷器付き冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御手段(200)は、前記温度変化幅(ΔT)を時間経過と共に変化させることを特徴とする請求項1に記載の蓄冷器付き冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記制御手段(200)は、前記温度変化幅(ΔT)を揺らぎの乱数に基づいて決定することを特徴とする請求項2に記載の蓄冷器付き冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記制御手段(200)は、前記温度変化幅(ΔT)を時間経過に対して、一定とすることを特徴とする請求項1に記載の蓄冷器付き冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記所定量(α)は、前記蓄冷材の蓄冷し得る蓄冷量、および前記蓄冷材の放冷時間に応じて決定されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の蓄冷器付き冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記開閉手段(190)は、前記蓄冷器(180)の冷媒入口側に配設される第1開閉弁(191)と、前記蓄冷器(180)の冷媒出口側に配設される第2開閉弁(192)とから構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の蓄冷器付き冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記開閉手段(190)は、前記蓄冷器(180)の冷媒入口側に配設される開閉弁(191)と、前記蓄冷器(180)の冷媒出口側に配設されて、前記蓄冷器(180)の内部と前記圧縮機(110)の冷媒吸入口との間の冷媒圧力差に応じて、前記蓄冷器(180)側から前記圧縮機(110)側への冷媒流通を許容し、前記圧縮機(110)側から前記蓄冷器(180)側への冷媒流通を阻止する逆止弁(193)とから構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の蓄冷器付き冷凍サイクル装置。
【請求項8】
前記凝縮器(120)の冷媒出口と前記減圧器(130)の冷媒入口との間から分岐されて、前記蓄冷器(180)の冷媒入口に接続される分岐流路(102)と、
前記分岐流路(102)の途中に配設されて、前記凝縮器(120)からの冷媒を減圧する分岐流路減圧器(131)と、
前記分岐流路(102)の途中に配設されて、前記分岐流路(102)を開閉する分岐流路開閉手段(132)とを備え、
前記制御手段(200)は、前記車両エンジン(10)の作動時に、前記蓄冷器(180)の冷媒入口側のみ前記開閉手段(190)を閉状態とし、前記分岐流路開閉手段(131)を開状態として、前記分岐流路(102)からの低圧冷媒を前記蓄冷器(180)に流通させて前記蓄冷モードを実行すると共に、
前記車両エンジン(10)停止時に、前記分岐流路開閉手段(131)を閉状態とすることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1つに記載の蓄冷器付き冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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