説明

蓄煙システム

【課題】避難口から室外に安全に避難できる時間や、初期の消火活動を行える時間を確保し易い蓄煙システムを提供する。
【解決手段】室外への避難口1を設けてある室内2で発生する煙を蓄煙する蓄煙システムであって、室内で発生する煙を、避難口から遠ざかる方向に誘導可能な誘導手段12を介して、避難口から遠ざかる側に蓄煙可能な蓄煙空間13を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室外への避難口を設けてある室内で発生する煙を蓄煙する蓄煙システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記蓄煙システムは、室内での火災時に発生する煙を蓄煙空間に蓄煙することで、室内の人が、煙を吸い込んだり、煙に巻かれずに、避難口から室外に安全に避難できる時間や、初期の消火活動を行える時間を確保できるように設けてある。
従来の蓄煙システムでは、天井裏空間を蓄煙空間として利用できるように、多数の貫通孔を形成してある天井板で室内上部を覆って、火災時に室内で発生した煙を、それらの貫通孔を通して、天井裏空間に流入させている(例えば、特許文献1参照)。
ちなみに、図9,図10に示すように、平面視で略矩形に構築してある外壁3,4の内側を上下の階層に区画する床スラブ5を、多数の中空部9を一方向に連続的に、かつ、略一定間隔で水平方向に並設してあるボイドスラブ(中空スラブ)で構成して、このボイドスラブ5の下面側を下側室内2に臨ませ、各階の空間を仕切り壁6で室内2側と廊下7側とに仕切るとともに、室内2から室外(廊下)7への避難口としての出入り口1を仕切り壁6に設け、室内2側のボイドスラブ部分に、中空部9を下側室内2に連通する多数の煙導入口14を略一定間隔で各中空部9毎に形成して、室内2で火災時に発生した煙を、それらの煙導入口14を通して中空部9に流入させて、室内上部を天井板で覆って蓄煙空間を形成するような手間を掛けずに、ボイドスラブ5の各中空部9を蓄煙空間13として利用することも考えられる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−156335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の蓄煙システムは、多数の貫通孔を介して室内に連通する天井裏空間を蓄煙空間として利用するために、天井裏空間に一旦流入した煙が、煙の流入が少ない避難口近くの貫通孔から室内に溢れ出したり、天井裏空間に流入しきれない煙が天井板の下面側に沿って室内に拡散したりし易いので、避難口から室外に安全に避難できる時間や、初期の消火活動を行える時間を確保し難い欠点がある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、避難口から室外に安全に避難できる時間や、初期の消火活動を行える時間を確保し易い蓄煙システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、室外への避難口を設けてある室内で発生する煙を蓄煙する蓄煙システムであって、前記室内で発生する煙を、前記避難口から遠ざかる方向に誘導可能な誘導手段を介して、前記避難口から遠ざかる側に蓄煙可能な蓄煙空間を設けてある点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
室内で発生する煙を、避難口から遠ざかる方向に誘導して、避難口から遠ざかる側の蓄煙空間に蓄煙することができるので、発生した煙が避難口近くに拡がり難いとともに、その発生元にも滞留し難くなり、避難口から室外に安全に避難できる時間や、初期の消火活動を行える時間を確保し易い。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記室内の天井側に臨ませるスラブをボイドスラブで構成するとともに、前記誘導手段を構成するに、前記ボイドスラブにおける下面に、前記ボイドスラブ内の筒状中空部に連通する煙導入口を形成するとともに、前記避難口から遠ざかる側のボイドスラブ端面に、前記筒状中空部と前記蓄煙空間とを連通する排煙口を形成して構成してある点にある。
【0008】
〔作用及び効果〕
室内の天井側に臨ませるスラブをボイドスラブで構成し、そのボイドスラブにおける下面に、ボイドスラブ内の筒状中空部に連通する煙導入口を形成するとともに、避難口から遠ざかる側のボイドスラブ端面に、筒状中空部と蓄煙空間とを連通する排煙口を形成して誘導手段を構成してあるので、室内で発生する煙を、ボイドスラブ内の筒状中空部を利用した簡単な構造で、避難口から遠ざかる側の設けた蓄煙空間に確実に誘導することができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記蓄煙空間を前記室内の上部に形成してあり、前記誘導手段を、前記室内で発生する煙を前記蓄煙空間に誘導可能なファンを設けて構成してある点にある。
【0010】
〔作用及び効果〕
避難口から遠ざかる側に設けてある蓄煙空間を室内の上部に形成し、室内で発生する煙をその蓄煙空間に誘導可能なファンを設けて、避難口から遠ざかる方向に誘導可能な誘導手段を構成してあるので、室内の状況を把握し易い状態に維持しながら蓄煙し易く、安全な避難行動や初期の消火活動を行い易い。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記蓄煙空間を、前記室内の上部に、上下方向に沿う仕切りを隔てて他の空間と区画して形成してあり、その仕切りに、前記室内で発生する煙を前記蓄煙空間に流入させる貫通孔を形成してある点にある。
【0012】
〔作用及び効果〕
避難口から遠ざかる側に設けてある蓄煙空間を、室内の上部に、上下方向に沿う仕切りを隔てて他の空間と区画して形成して、その仕切りに、室内で発生する煙を蓄煙空間に流入させる貫通孔を形成してあるので、蓄煙空間に流入した煙が、仕切りで隔てられた他の空間に流出し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1,図2は、室外(廊下)7への避難口1を設けてある室内2で発生する煙を蓄煙する本発明による蓄煙システムを設置してある鉄筋コンクリート造りの建物の内部を示し、平面視で略矩形に構築してある外壁3,4の内側を鉄筋コンクリート製床スラブ5で上下階に区画して、各階の空間を仕切り壁6で室内2側と廊下7側とに仕切り、室内2から室外(廊下)7への避難口としての出入り口1を仕切り壁6に設け、各床スラブ5の上面側に床材8を設置してある。
【0014】
前記床スラブ5の夫々は、多数の円筒状中空部9を一方向に連続的に、かつ、略一定間隔で水平方向に並設してあるボイドスラブで構成して、その下面側を室内2の天井側に臨ませてあり、中空部9の長手方向を仕切り壁6に直交する方向に沿わせて、廊下側外壁3に一体に構築してある廊下側梁10と、室内側外壁4から離して構築してある室内側梁11とで支持し、ボイドスラブ5の廊下側端部を廊下側外壁3に一体に構築して各中空部9の廊下側端部を塞ぎ、ボイドスラブ5の室内側端部は、各中空部9が室内側外壁4近くに向けて開口するように切欠いてある。
【0015】
前記蓄煙システムは、室内2で発生する煙を、避難口1から遠ざかる方向、つまり、室内側外壁4に近づく方向に誘導可能な誘導手段12を設けるとともに、その誘導手段12を介して、避難口1から遠ざかる側、つまり、室内側外壁4近くの上部に蓄煙可能な蓄煙空間13を設けて構成してある。
【0016】
前記誘導手段12は、ボイドスラブ5における天井側に臨む下面に、中空部9に連通する多数の煙導入口14を略一定間隔で各中空部9毎に形成するとともに、中空部9が開口しているボイドスラブ端面15を室内側外壁4近くに臨ませることにより、中空部9と蓄煙空間13とを連通する排煙口16を形成して構成してある。
【0017】
従って、室内2での火災時に発生した煙は、上昇気流によって煙発生元に近い煙導入口14から各中空部9に流入し、各中空部9を煙道にして排煙口16から排出されて、室内側外壁4近くの蓄煙空間13に蓄煙される。
【0018】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明による蓄煙システムの別実施形態を示し、排煙口16近くの各中空部9内に、中空部9に流入した煙を蓄煙空間13に誘導可能なファン17を設けるとともに、室内2で発生した煙を感知する煙感知器18と、設定量以上の煙を煙感知器18が感知するとファン17を駆動させる制御装置19とを備えた誘導手段12を設置してある。
【0019】
そして、室内2で煙が発生すると、ファン17が駆動されて、煙が発生元近くのボイドスラブ5に形成してある煙導入口14から中空部9に吸引されるとともに、その煙が排煙口16から蓄煙空間13に排煙されるように構成してある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0020】
〔第3実施形態〕
図4,図5は、本発明による別実施形態の蓄煙システムを設置してある建物の内部を示し、各床スラブ5を、廊下側外壁3に一体に構築してある廊下側梁10と、室内側外壁4に一体に構築してある室内側梁11とに亘って一体に構築し、各階の空間を仕切り壁6で室内2側と廊下7側とに仕切り、室内2側の各床スラブ5の下面側に天井板20を設けて天井裏空間21を形成してある。
【0021】
前記蓄煙システムは、天井板20に多数の貫通孔22を略均一に分散させて形成して、室内2で発生する煙を、発生元近くの貫通孔22から天井裏空間21に流入させ、その天井裏空間21を通して避難口1から遠ざかる方向に誘導可能な誘導手段12を設けるとともに、その誘導手段12を介して、避難口1から遠ざかる側である室内側外壁4近くの天井板20の下面側に蓄煙可能な蓄煙空間13を設けて構成してある。
【0022】
前記誘導手段12は、天井裏空間21に流入した煙を蓄煙空間13に誘導可能なファン17を天井裏空間21に設けるとともに、室内2で発生した煙を感知する煙感知器18と、設定量以上の煙を煙感知器18が感知するとファン17を駆動させる制御装置19とを設置して、室内2で煙が発生すると、ファン17が駆動されて、煙が発生元近くの天井板20の貫通孔22から天井裏空間21に吸引されるとともに、その煙が室内側外壁4近くにおける天井板20の貫通孔22から、蓄煙空間13に排煙されるように構成してある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0023】
〔第4実施形態〕
図6は、本発明による蓄煙システムを設置してある建物内部の別実施形態を示し、室内側外壁4近くに上下方向に沿う間仕切り23を設けて、間仕切り23と室内側外壁4との間の室内上部に、間仕切り23を隔てて他の空間と区画してある蓄煙空間13を形成してあるとともに、仕切り壁6と間仕切り23との間の室内上部に天井板20を設けて天井裏空間21を形成し、間仕切り23の上部に天井裏空間21と蓄煙空間13とを連通する煙流入用の貫通孔24を形成してある。
その他の構成は第3実施形態と同様である。
【0024】
〔第5実施形態〕
図7は第4実施形態の変形例を示し、間仕切り23に代えて防煙垂れ壁25を設けて、防煙垂れ壁25と室内側外壁4との間に蓄煙空間13を設け、ファン17と煙感知器18及び制御装置19の設置を省略してある。
その他の構成は第4実施形態と同様である。
【0025】
〔第6実施形態〕
図8は第4実施形態の変形例を示し、間仕切り23に代えて、室内2を必要に応じてシャッター板26で区画するシャッター装置27を設けるとともに、室内2で発生した煙を感知する煙感知器18と、設定量以上の煙を煙感知器18が感知するとファン17を駆動させるとともに、シャッター板26が下降するようにシャッター装置27を駆動させる制御装置19とを設置して、室内2で煙が発生すると、シャッター板26を下降させて、シャッター板26と室内側外壁4との間に蓄煙空間13を形成できるように構成してある。
その他の構成は第4実施形態と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】蓄煙システムを示す建物の縦断面図
【図2】蓄煙システムを示す建物の縦断面図
【図3】第2実施形態を示す縦断面図
【図4】第3実施形態を示す縦断面図
【図5】第3実施形態を示す縦断面図
【図6】第4実施形態を示す縦断面図
【図7】第5実施形態を示す縦断面図
【図8】第6実施形態を示す縦断面図
【図9】比較例を示す縦断面図
【図10】比較例を示す縦断面図
【符号の説明】
【0027】
1 避難口
2 室内
5 ボイドスラブ
7 室外
9 中空部
12 誘導手段
13 蓄煙空間
14 煙導入口
15 ボイドスラブ端面
16 排煙口
17 ファン
23 仕切り
24 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室外への避難口を設けてある室内で発生する煙を蓄煙する蓄煙システムであって、
前記室内で発生する煙を、前記避難口から遠ざかる方向に誘導可能な誘導手段を介して、前記避難口から遠ざかる側に蓄煙可能な蓄煙空間を設けてある蓄煙システム。
【請求項2】
前記室内の天井側に臨ませるスラブをボイドスラブで構成するとともに、
前記誘導手段を構成するに、
前記ボイドスラブにおける下面に、前記ボイドスラブ内の筒状中空部に連通する煙導入口を形成するとともに、前記避難口から遠ざかる側のボイドスラブ端面に、前記筒状中空部と前記蓄煙空間とを連通する排煙口を形成して構成してある請求項1記載の蓄煙システム。
【請求項3】
前記蓄煙空間を前記室内の上部に形成してあり、
前記誘導手段を、前記室内で発生する煙を前記蓄煙空間に誘導可能なファンを設けて構成してある請求項1又は2記載の蓄煙システム。
【請求項4】
前記蓄煙空間を、前記室内の上部に、上下方向に沿う仕切りを隔てて他の空間と区画して形成してあり、
その仕切りに、前記室内で発生する煙を前記蓄煙空間に流入させる貫通孔を形成してある請求項1〜3のいずれか1項記載の蓄煙システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate