説明

蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体

【課題】良好な蓄熱性能を有し、厳しい使用環境下においても十分な蓄熱性を示し、長時間高温下に晒された場合においても該蓄熱性が維持される耐久性を備え、且つ被覆物との密着性に優れた蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を提供する。
【解決手段】ウレタン系樹脂中に、少なくとも蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを配合してなる蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体であって、前記ウレタン系樹脂は少なくとも水酸基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物とから構成され、水酸基を有する化合物の水酸基に対するイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基の官能基当量比が0.5〜1.2であり、架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC硬度計で測定される硬度が55以下であることを特徴とする蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体に関し、より詳しくは、蓄熱ボード、電子機器部品用の蓄熱材、保冷材、保温材等に用いることができる蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器の表面温度を任意の温度域に長時間保持させて熱による部品の破損防止や安定作動を確保するために蓄熱性樹脂成形体が用いられてきた。そして、このような蓄熱性樹脂成形体としては、蓄熱剤を内包したマイクロカプセルを樹脂内に含有させた蓄熱性樹脂成形体が種々研究開示されてきている。
【0003】
例えば、特開2003−246931号公報(特許文献1)においては、潜熱蓄熱性物質を封入した、粒径分布が1μm以上5μm以下の範囲内で、かつ平均粒径が1μm以上2μm以下のマイクロカプセルが、成形物の重量に対し20重量%以下の割合で練り込まれているマイクロカプセル保有成形物(成形体)が開示されている。また、特開2005−23229号公報(特許文献2)においては、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを樹脂内に含有することを特徴とする蓄熱性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の蓄熱性樹脂組成物やその成形体においては、製造の際に前記マイクロカプセルを高比率で含有させた場合に、樹脂等の粘度が高くなって混練りが困難となったり、更には、マイクロカプセル同士が凝集して早期に沈降してしまったりするためシート化が困難となる場合があり、加工適性の点で問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、従来は、電子機器中の発熱部分に熱伝導性シート状成形体を被覆させた上、さらにファンを設け、あるいは周囲に放熱するスペースを確保するなどの対策が一般的に可能であった。しかしながら電子機器などの小型・精密化が非常に早いスピードで改良されており、上記ファンの設置や放熱スペースの確保が物理的に困難となってきている。したがって、電子機器内の急激な温度変化の緩和の対策として、主として蓄熱性シート状成形体のみに依存する場合が増大している。換言すると、蓄熱性シート状成形体がより厳しい環境で使用される結果となっている。このため、長時間高温化に晒された場合であっても、蓄熱性シート状成形体の本来備える蓄熱性が充分に発揮されるよう、該成形体の耐熱性、耐久性のさらなる改良が望まれていた。またさらに、電子機器などの小型・精密化に伴い、電子機器の騒音、振動の問題も浮上してきているため、蓄熱性のほかに防音性および防振性を有する該成形体も望まれていた。
【特許文献1】特開2003−246931号公報
【特許文献2】特開2005−23229号公報 本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、防音性・防振性に優れるウレタン系樹脂を使用し、良好な蓄熱性能を有し、厳しい使用環境下においても充分な蓄熱性を示し、長時間高温化に晒された場合においても該蓄熱性が維持される耐久性を備え、且つ被覆物との密着性に優れた蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シート状成形体の耐熱性、耐久性を研究する過程において、本発明者は、THF抽出のゲル分率で表される蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の架橋密度を高くすることによって望ましい耐熱性を付与することができることに着目した。しかしながら、さらなる研究の結果、ゲル分率が高くなった蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体は硬度が高くなる傾向にあることがわかった。蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体が適度な柔軟性を有していない場合には、電子機器中の発熱部分に該成形体を被覆した際に、該発熱部分と該蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体との密着性が悪くなり、蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の有する蓄熱性能が実質的に充分に発揮されず望ましくない。したがって、蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の改良において、耐熱性の向上とシートの良好な硬度の確保を同時に達成させる必要がある。
【0007】
本発明者は、シート状成形体が良好な耐熱性を示すべくその架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、且つ、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC(ASKER C型)硬度計で測定される硬度が55以下である蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体であれば、耐熱性、耐久性に優れ、且つ、被覆部分との密着性が良好で、シート状成形体が本来備える蓄熱性能を実質的に充分発揮しうること、及び、上記良好なゲル分率と硬度とを実現するための蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の構成を見出し本発明の完成に至った。
【0008】
即ち本発明は、
(1)ウレタン系樹脂中に、少なくとも蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを配合してなる蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体であって、前記ウレタン系樹脂は少なくとも水酸基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物とから構成され、水酸基を有する化合物の水酸基に対するイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基の官能基当量比が0.5〜1.2であり、架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC硬度計で測定される硬度が55以下であることを特徴とする蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体。
【0009】
(2)ウレタン系樹脂100重量部に対して、上記蓄熱剤を内包するマイクロカプセルが40〜180重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の蓄熱性ウレタン系樹脂シート成形体、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを高比率で含有させることができ高い蓄熱性能を発揮可能であって、その蓄熱性能は、長時間高温化に晒された場合であっても、上記マイクロカプセルを破壊することなく長時間保持することができる。また本発明は優れた柔軟性をも有しており、電子機器などとの密着性が良好であり、本発明の備える優れた蓄熱性を実質的に充分発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体(以下、単に「シート状成形体」ともいう)は、ウレタン系樹脂と、蓄熱剤を内包するマイクロカプセルとを、少なくとも用いてシート状に成形される。上記ウレタン系樹脂は少なくとも水酸基と有する化合物とイソシアネート基を有する化合物とからなるものであり、水酸基を有する化合物は、イソシアネート基を有する化合物と硬化反応をおこすものであって、上記水酸基と有する化合物と上記イソシアネート基を有する化合物とは、両者が有する硬化反応に関与する官能基当量比において特定の関係にある。即ち、上記水酸基を有する化合物の水酸基とイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基の官能基当量比が、0.5〜1.2であることが必要である。そして上記蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体において、その架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC(ASKER C型)硬度計で測定される硬度が55以下であることが示されることにより、本発明の所期の目的が達成される。以下、本発明を実施するための最良の形態についてより詳細に説明する。
【0012】
本発明の蓄熱性ウレタン系シート状成形体は、ウレタン樹脂中に少なくとも蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを配合し形成されるものであり、ウレタン系樹脂は、少なくとも水酸基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物が反応することにより形成される。
【0013】
本発明において使用される水酸基を有する化合物は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの2価のアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,4−ブタントリオールなどの3価アルコール、ペンタエリスリトール、エリスリトールなどの4価アルコール、ソルビトール、ジペンタエリストールなどの6価アルコール、トリペンタエリストール、ショ糖などの8価アルコール、アジペートポリオール、フタレートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールなどのエステル系ポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのエーテル系ポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートポリオールなどのカーボネート系ポリオールなどが挙げられる。
【0014】
また、水酸基を有する化合物としては、末端水酸基含有プレポリマー等を用いることも可能である。
【0015】
本発明に使用されるイソシアネート基を有する化合物としては、いわゆるポリイソシアネートと称されている、一つの分子に2個以上のイソシアネート基を有する芳香族系、脂環族系及び脂肪族系ポリイソシアネート、それら2種類以上の混合物や変性して得られる変性ポリイソシアネート等がある。例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジンイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネートなどのイソシアネートやそれらのプレポリマー型変性体、ヌレート変性体、ウレア変性体、カルボジイミド変性体などが挙げられる。
【0016】
上述のイソシアネート基を有する化合物は、イソシアネート基に化合物(保護基)を結合させたブロックイソシアネートであってもよい。遊離イソシアネート基に結合可能な化合物(保護基)としては、例えば、フェノール系、アルコール系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、ラクタム系、イミダゾール系、尿素系、オキシム系、アミン系、ピラゾール系、イミド系等の化合物が挙げられる。ブロックイソシアネートを使用すると、予め水酸基を有する化合物と混合しておいても、ポットライフが長く貯蔵安定性に優れ、シート状成形体を形成しやすい。
【0017】
また、イソシアネート化合物としては、末端イソシアネート基含有プレポリマーを用いてもよく、イソシアネート化合物に鎖延長剤、架橋剤等を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体において、良好なゲル分率と良好な硬度をともに実現するための、さらなる要素として、水酸基を有する化合物の水酸基の官能基当量と、イソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基の官能基当量との比率が重要である。即ち、上記水酸基を有する化合物の水酸基に対する上記イソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基の官能基当量比が、0.5〜1.2となるよう水酸基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物の配合量を調整する。
【0019】
上記官能基当量比が、0.5未満の場合には、蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の製造の際に硬化が充分に進行せず、完全に樹脂が固化しないか、あるいは成形体が粘着性を帯び、シート状成形体の取扱い不良や耐熱性不良の問題が生じる傾向にある。他方、上記官能基当量比が1.2を上回る場合には、過剰のイソシアネート基が空気中の水分と反応してアミンが生成され、生成されたアミンがイソシアネート基と反応して尿素結合が形成される為硬度が極端に高くなる傾向にある。
【0020】
ウレタン系樹脂の合成手順としては、全成分を一度に混合して反応させるワンショット法でもよいが、事前にイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物から末端イソシアネート基含有プレポリマーを合成しておき、これに水酸基を有する化合物を反応させる、もしくは事前にイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物から末端水酸基含有プレポリマーを合成しておき、これにイソシアネート基を有する化合物を反応させるプレポリマー法であるとポットライフが長く好ましい。なお、プレポリマー法においては、市販の末端イソシアネート基含有プレポリマーや末端水酸基含有プレポリマーを用いてウレタン系樹脂を合成することも可能である。
【0021】
ウレタン系樹脂に配合される蓄熱剤を内包したマイクロカプセルは、皮膜の内側に蓄熱剤を内包した微小な粒子である。このような蓄熱剤としては特に制限されないが、単位体積当たりの蓄熱量が大きく、安全で腐食しにくく、融解と凝固を繰り返しても安定して放熱と蓄熱作用が得られるとともに、安価であるノルマルパラフィン、有機酸及びアルコール等を用いることが好ましく、n−テトラデカン、n−オクタデカン、n−ペンタコサン、ステアリン酸、セチルアルコール等を用いることがより好ましい。このような蓄熱剤は、使用目的に応じて適宜選択可能であり、例えば、目的の温度範囲に融点を有する1種の蓄熱剤を選択して用いたり、2種以上の蓄熱剤を混合して用いたりすることも可能である。
【0022】
また、上記マイクロカプセルの皮膜を形成する膜材としては特に制限されず、例えば、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの膜材は、単独であるいは混合して皮膜を形成することができる。特にユリア樹脂及び/またはメラミン樹脂により形成された皮膜が好ましい。また、蓄熱剤をマイクロカプセル化する方法としては特に制限されず、適宜公知の方法を採用することができる。なお、このような蓄熱剤を内包したマイクロカプセルとしては、市販されている蓄熱剤を内包したマイクロカプセルを適宜用いてもよい。
【0023】
また、平均粒子径が1〜100μm、好ましくは5〜50μm程度のマイクロカプセルを用いることが好ましい。上記平均粒子径が上記1μm未満では、シート状成形体を構成する樹脂中に混合せしめた際に、該樹脂の粘度が高くなり過ぎて加工性が低下する傾向にあり、他方、上記平均粒子径が100μmを超えると、上記マイクロカプセルが上記樹脂中に均一に混合させることが困難であるためシート状成形体に均一に分散し難くなる傾向にある。
【0024】
本発明における蓄熱剤を内包したマイクロカプセルの配合量は、上記ウレタン系樹脂100重量部に対して40〜180重量部、好ましくは50〜150重量部である。上記マイクロカプセルの配合量が40重量部未満では、得られる蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体に充分な蓄熱性が得られず、他方、180重量部を超えると、配合後の樹脂の粘度が高くなって、シート加工性が低下する傾向にある。
【0025】
本発明の蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体は、そのゲル分率が70%以上である。本発明においてゲル分率は、所謂THF抽出法で測定される。より具体的には、硬化したシート(厚み1.0mm)を25mm角の大きさにカットして、これを試料片とする。この試料片をTHF(テトラヒドロフラン)に浸漬し、15時間後に不溶解分を200メッシュの濾過布により分離し、100℃で1時間、乾燥オーブン中でTHFを蒸発させ、浸漬後の重量減少を以下の式1により算出することにより求められる。
ゲル分率(%)=(THF浸漬後の不溶解分の重量[g])/(浸漬前のシート重量[g])×100 (式1)
【0026】
本発明の蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体は、その硬度が、55以下、好ましくは50以下、より好ましくは45以下である。硬度の下限については特に限定されないが、シート状成形体の取扱い性が良好であるという観点から、硬度は5以上であることが好ましい。本発明における硬度は、所謂アスカーC硬度を意味し、JIS K7312に準拠し、ASKER−C硬度計を用いて測定される。アスカーC硬度は、一般的には硬化したシートを25mm角に切断して厚さが6mm以上になるよう重ねて測定される。
【0027】
尚、本発明における硬度は、シート状成形体と電子機器内における発熱部分との密着性が良好であり、該発熱部分から放熱される熱を効率よくシート状成形体が吸収し蓄熱される、という観点から特定されたものである。ここで、蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体は、一般的に、使用の経時によりシート状成形体が高熱に晒された場合には、成形後の硬度よりも高くなるとともに若干収縮し、むしろ発熱部分との密着性が高くなる傾向にある。したがって、蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の硬度は、主として使用時における柔軟性が重要であるため、本発明で特定するアスカーC硬度は、原則として、シート状成形体を形成後、蓄熱性シートとして使用する前(即ち高熱に晒される前)の成形体の硬度を意味する。
【0028】
ウレタン系樹脂中にはマイクロカプセル以外にも、シート状成形体の上記物性を損ねない範囲で適宜他の成分を配合させることができる。例えば、シート状成形体に難燃性を付与するために難燃剤を含有させても良い。難燃剤としては、金属水酸化物、赤燐、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸エステル系化合物、燐酸アンモン、炭酸アンモン、錫酸亜鉛、トリアジン化合物、メラニン化合物、グアニジン化合物、硼酸、硼酸亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、膨張黒鉛等が挙げられる。これら難燃剤は単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
上記難燃剤の中でも特に、金属水酸化物が好ましい。金属水酸化物は、他の難燃剤と比較して樹脂との相溶性が高く、200℃以上で結晶水の解離反応が起こり、大きな吸熱を伴うことにより自己消化性を示すことから難燃性が高く、好ましい。金属水酸化物は具体的には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0030】
さらに、ウレタン系樹脂中には熱伝導性充填剤を組み合わせて用いることも可能である。熱伝導性充填剤としては、金属酸化物、窒化硼素、窒化アルミ等の窒化物、銅、銀、アルミ等の金属粉末、天然黒鉛(燐状、土状、燐片状、塊状等)、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系を添加することも可能である。
【0031】
さらには、熱伝導的には必ずしも優れない炭酸カルシウム等の炭酸金属や、クレー、カオリン等の充填剤等を添加することも可能である。
【0032】
さらに、上記ウレタン系樹脂に中は、これを用いて成形されるシート状成形体の要求性能に応じて、触媒、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、湿潤分散剤等を適宜添加することが可能である。
【0033】
蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を形成する方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を用いることが可能である。例えば、ポリエステルフィルム等のセパレータフィルムの上に水酸基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、マイクロカプセル等を含有するウレタン系樹脂組成物をコーティングし、120〜150℃の温度条件下で13分間加熱することによって硬化させる方法を挙げることができる。
【0034】
このような本発明の蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体は、一般的には単層のシートとして形成され、その厚さとしては、0.3mm〜30mmであることが好ましく、1.0mm〜6.0mmであることがより好ましい。上記厚さが0.3mm未満では、充分な蓄熱性を達成できない傾向にあり、他方、上記厚さが6.0mmを超えると、蓄熱性は向上するが、電子機器部品等の使用目的にそぐわない製品となってしまう傾向にある。
【0035】
このように形成される蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体は、必要に応じて切断することが可能であり、任意の形状にすることにより蓄熱が必要な部位に容易に貼着させることが可能である。
【0036】
このような蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体としては、このような蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体が用いられる電子機器の性能や寿命、更には誤作動の防止等の観点からみて、環境温度+50℃の範囲内で使用されることが多い。そのためこのような蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の蓄熱性能としては、0〜100℃の範囲内で機能を発現するものが好ましく、20〜90℃の範囲内で機能を発現するものがより好ましい。
【0037】
上記蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の蓄熱量としては、上述する蓄熱性能が発現されるのに好ましい温度環境において10J/g〜100J/gであることが好ましい。上記蓄熱量が10J/g未満では、例えば厚さ1mm×タテ10mm×ヨコ10mmのシートを製造して熱を発生する部品に貼付した場合の蓄熱性能が約0.2cal/枚(約0.3℃)であり、蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体としての蓄熱性が不充分となる傾向にある。一方、上記蓄熱量が100J/gを超えると、例えば厚さ1mm×タテ10mm×ヨコ10mmのシートを製造して熱を発生する部品に貼付した場合の蓄熱性能が約2.3cal/枚(約3.3℃)となり、充分な蓄熱性が得られるものの、そのシート状成形体を得る際に用いられる蓄熱性ウレタン系樹脂中に含有させるマイクロカプセルの添加量が多くなりすぎて、シート化が困難になる傾向にある。
【0038】
このような蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の用途としては特に制限されないが、携帯電話、パソコン、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、テレビ、DVD、カーナビゲーション、プリンター等の電子機器における発熱を伴う部品等に適用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1〜6及び比較例1〜3>
先ず、表1に示すポリオール、及び表3に示す蓄熱剤を含有するマイクロカプセル1、それぞれ表4及び表5に示す割合で配合して混合攪拌した後、次いで、表2に示すイソシアネート化合物を、表4及び表5に示す割合で配合して再度混合攪拌し、減圧下において脱泡して蓄熱性ウレタン系系樹脂組成物の実施例1〜6及び比較例1〜3を得た。
次に、このようにして得られた蓄熱性ウレタン系樹脂組成物を用い、これを表面がシリコン離型処理されているポリエステルフィルムの上にコーティングした後140℃のオーブン中で13分間加熱することにより硬化させ、その後、常温にて24時間放置することにより養生して厚さ1mmの蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を得た。
このようにして得られた各蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体について、以下のような評価を行った。評価結果は、実施例の結果を表4に、比較例の結果を表5にそれぞれ示す。
【0041】
<硬度測定>
上述に記載する硬度測定方法に従い、ASKER-C硬度計を用いて、実施例及び比較例で得られた本発明のシート成形体及び比較例で得られた比較としてのシート成形体の硬度測定を行った。より具体的には、得られたシートを25mm角に切断して厚さが6mm以上になるように重ねて硬度測定を行った。
【0042】
<ゲル分率測定>
本発明の蓄熱性熱硬化樹脂シートのゲル分率は、上述に記載する方法に従いTHF抽出法で行った。硬化したシート(厚み1.0mm)を25mm角の大きさにカットして、これを試料片とした。この試料片をTHF(テトラヒドロフラン)に浸漬し、15時間後に不溶解分を200メッシュの濾過布により分離し、100℃で1時間、乾燥オーブン中でTHFを蒸発させ、浸漬後の重量減少を以下の式2に基づいて算出することによりゲル分率を求めた。
ゲル分率(%) = (THF浸漬後の不溶解分の重量[g])/(浸漬前のシート重量[g])×100 (式2)
【0043】
<蓄熱性の試験>
蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の融解を行い、DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて走査により融解熱量(J/g)を測定した。このような測定の結果、蓄熱量が10〜90℃の間で10(J/g)以上となる蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を合格とし、それ以外のものを不合格とした。
【0044】
<耐熱性の試験>
まず、厚み1mmの蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を200mm角の大きさにカットした。そして、DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて走査により融解熱量(J/g)を測定し、融解熱量Aを得た。一方、上記同一の蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体を同様に200mm角の大きさにカットし、これを100℃のオーブン中に1,000時間置いた後、その試験片を取り出してDSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて走査により融解熱量(J/g)を測定し、融解熱量Bを得た。このようにして得られた融解熱量Aおよび融解熱量Bを用いて以下の式3により算出することによって、100℃のオーブン中に1,000時間置く前と後の融解熱量(J/g)を比較して各蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体の融解熱量(J/g)変化率を求め、耐熱性を評価した。評価基準は下記の通りである。
変化率(%)=(A−B)/A×100 (式3)
〔評価基準〕
○:融解熱量(J/g)変化率が20%以下であった
△:融解熱量(J/g)変化率が21〜40%以下であった
×:融解熱量(J/g)変化率が41以上であった
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】


【0048】
【表4】


尚、ポリオールに対するイソシアネートの必要量は以下の式4に基づいて算出した。
イソシアネートの必要量=(酸価[mg/g]/561)×
(42×100/NCO[%])× 官能基当量比 (式4)
【0049】
【表5】

【0050】
実施例1〜6は、本発明の特定する官能基当量比、ゲル分率、硬度を満たし、蓄熱性、耐熱性も良好であった。
【0051】
一方、比較例1は蓄熱剤の原材料を評価した。硬度、ゲル分率に関しては測定不可であったが、耐熱性の評価においては蓄熱剤を内包するカプセルが破損して融解熱量の変化率が41%以上であった。比較例2は硬度が65であり、電子部品との密着性が悪化して実質的な蓄熱性が低下する。比較例3は官能基当量比が0.3、ゲル分率が60%で、いずれも本発明の特定する数値範囲をはずれ、シート状に成形できなかった。また、融解熱量の変化率が21〜40%であり耐熱性が不良であることが確認された。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン系樹脂中に、少なくとも蓄熱剤を内包するマイクロカプセルを配合してなる蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体であって、
前記ウレタン系樹脂は、少なくとも水酸基を有する化合物と、イソシアネート基を有する化合物とから構成され、水酸基を有する化合物の水酸基に対するイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基の官能基当量比が0.5〜1.2であり、
架橋密度がTHF抽出のゲル分率において70%以上であり、
日本工業規格JIS K 7312に準拠するアスカーC硬度計で測定される硬度が55以下であることを特徴とする蓄熱性ウレタン系樹脂シート状成形体。
【請求項2】
ウレタン系樹脂100重量部に対して、前記蓄熱剤を内包するマイクロカプセルが40〜180重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の蓄熱性ウレタン系樹脂シート成形体。

【公開番号】特開2009−79115(P2009−79115A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248954(P2007−248954)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】