説明

蓄熱性物質の腐食性低減方法

【課題】第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料の腐食を抑制することができる電気防食技術を提供し、また、蓄熱性物質の中から、これと接触する金属材料より貴な金属イオンである銅イオンを除去する又は量的に減少させることにより、当該金属材料の腐食を有効に抑制又は防止することができる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質の腐食性を低減する方法であって、Al-Zn-In合金材を、前記蓄熱性物質を取り扱う装置類を構成する金属材料と電気導通させることなく、前記蓄熱性物質と接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去することにより、前記金属材料に対する腐食性を低減することを特徴とする蓄熱性物質の腐食性低減方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱性物質の腐食性の低減技術、または蓄熱性物質と接触する金属材料の防食技術に関する。
<用語の定義>
本明細書において使用する主な用語について、以下にその定義を示す。
・[貴な金属][卑な金属]
溶液中の金属のイオンになりやすさの相対尺度であるイオン化傾向が相対的に小さい金属を貴な金属という。イオン化傾向が相対的に小さいほど金属イオンは還元され金属として析出しやすい。
他方、イオン化傾向が相対的に大きい金属を卑な金属という。イオン化傾向が相対的に大きいほど金属は酸化され金属イオンとして溶解しやすい。
・アノード電極
電気化学的な酸化反応、すなわち金属が酸化されて金属イオン化する反応がおこり、電子を放出し回路を通じてカソード電極に電子を供給し電解質中に電流を流出させる電極をいう。
・カソード電極
アノード電極から回路を通じて電子を受給し電解質中から電流が流入して、電気化学的な還元反応、すなわち金属イオンが還元されて金属が析出する反応がおこる電極をいう。
【背景技術】
【0002】
機器、装置、設備等(これらを構成する部材を含む。以下、まとめて又は個別的に「装置類」という)の一部又は全部を構成する金属材料(以下、「装置類金属材料」という)と接触する物質が当該装置類金属材料の腐食を引き起こす場合、装置類金属材料の腐食を防止又は抑制する技術として電気防食法が知られている。この電気防食法として、前記装置類の内部に消耗可能な材料からなるアノード電極(犠牲電極)を設け、アノード電極から装置類金属材料に該装置類金属材料と接触する物質を介して直流電流を通電させる(防食電流を流入させる)ことにより装置類金属材料の電位を腐食しない電位にまで変化させて、装置類金属材料の腐食を防止又は抑制する防食方法があり、犠牲電極(流電陽極)防食法としてよく知られている。アノード電極として装置類金属材料より卑な(低い)電位をもつ溶解しやすい金属(装置類金属材料が炭素鋼の場合には例えばアルミニウム、亜鉛)を用いる。
【0003】
ここで、腐食の原理と電気防食の原理について、炭素鋼を水溶液に浸けた時の腐食を例に挙げて説明する。
<腐食の原理>
炭素鋼を電解質水溶液(例えば貴な金属イオンを含まない海水)に浸けると、アノード反応(鉄の溶解:Fe→Fe2+ + 2e-)とカソード反応(水溶液中の溶存酸素の還元:O2 + 2H2O +4e-→ 4OH-)が炭素鋼表面で同時に起こり、アノード反応部とカソード反応部からなる電池(腐食電池)が形成され、アノード反応部から電流(腐食電流)が流出して鉄が溶解して腐食する。
この時、アノード反応部の電位はカソード反応部の電位より低くなっている。このように金属材料を電解質水溶液と接触させると、金属材料表面でアノード反応とカソード反応が進行し腐食する。そして、金属材料表面では、この腐食電池の反応がアノード反応部とカソード反応部の場所を変えながら進行するので、腐食が進行する。
【0004】
<電気防食の原理>
電解質水溶液中において金属材料、例えば炭素鋼の腐食を防止又は抑制させる場合、炭素鋼より卑な(低い)電位をもつ金属(例えばアルミニウム、亜鉛)からなる犠牲電極を炭素鋼と電気的に導通させる。これにより、犠牲電極は炭素鋼との電位差により酸化(溶解)して電子を放出し、炭素鋼には水溶液を介して電流(防食電流)が流入する。このため、炭素鋼の電位は腐食しない電位にまで変化し、腐食が防止又は抑制される。
【0005】
このような犠牲電極防食法の例として、臭化リチウムを主成分とする吸収液が流れる配管を備える吸収式冷凍機において、特定金属を犠牲電極の材質として選定した防食技術がある(特許文献1参照)。
特許文献1に記載の技術では、臭化リチウムを主成分とする吸収液が流れる配管内部に炭素電極と犠牲電極(例えばアルミニウム電極)を設置し、炭素電極とアルミニウム電極を短絡させることにより、アルミニウム電極を溶解させ、吸収液を介して配管材料に防食電流を流し、配管材料の腐食を抑制するとともに、配管材料の腐食を加速させる作用のある銅イオンを除去するとしている。特許文献1に記載のものにおいては、下記に示すように、アルミニウム電極ではアノード反応が、炭素電極上ではカソード反応が起こる。
アノード反応:Al→Al3++3e-
カソード反応:Cu2++2e-→Cu
【0006】
吸収液を収容する装置類を構成する金属材料(装置類金属材料)より貴な金属のイオン、例えば装置類金属材料として炭素鋼、ステンレス鋼を用いる場合、貴な金属のイオンとして銅イオンがある。銅材は吸収液を収容する装置類や配管類の一部に用いられており、この銅材から銅イオンが溶出しているが、この銅イオンは装置類金属材料に対して強い酸化剤として作用するため、装置類金属材料が溶解して金属イオンとなり装置類金属材料が腐食するという現象が生じる。
そこで、特許文献1に記載の技術においては、アルミニウム電極でのアノード反応と炭素電極上でのカソード反応との反応により電気防食を行うともに、強い酸化剤の働きをして配管材料の腐食を加速させる銅イオンを炭素電極上に銅として析出させることにより、吸収液中の銅イオンを減少させることができるので、吸収式冷凍機を構成している材料、特に炭素鋼やステンレス鋼等の鉄系材料の防食を図ることができるというものである。
【0007】
この特許文献1の技術では、「犠牲電極の材質としては、アルミニウム以外に、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびV等が挙げられる。また、これらの元素を1つ以上含む合金、あるいはこれらの元素を1つ以上含んだ鉄合金,ステンレス鋼,低合金鋼でもインヒビターの作用が期待できる。」(段落0011)とされている。
なお、特許文献1の実施例に記載されている犠牲電極の材質は、Al,Mo,W、1%Al−Fe合金、1%Mo−Fe合金及び1%W−Fe合金のみであり(表1及び段落0016参照)、「インヒビターの作用が期待できる」はずの「これらの元素を1つ以上含む合金」、即ち、Al, Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびV等の元素を一つ以上含む(鉄合金以外の)合金については全く記載がない。従って、特許文献1には、Al,
Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびV等の元素を一つ以上含む(鉄合金以外の)合金からなる犠牲電極について、インヒビターの作用の単なる期待のみが記載されていると解するのが妥当である。
【0008】
一方、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質は、それが何らかの目的に使用されるとき、金属材料と接触することがある。例えば、第四級アンモニウム臭化物をゲスト分子とする包接水和物又はそのスラリは、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質の典型例であり、その蓄熱性に着目されて蓄熱媒体として使用されている。そのゲスト分子の典型例は、TBAB(臭化テトラn−ブチルアンモニウム)、TBPAB(臭化トリnブチルnペンチルアンモニウム)などである(特許文献2、3、4参照)。
【0009】
第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質は、金属材料との接触により、当該金属材料を腐食させることがある。例えば、蓄熱性物質を収容する装置類を構成する金属材料は、当該蓄熱性物質に第四級アンモニウム臭化物が含まれる場合、その第四級アンモニウム臭化物との接触により腐食される。蓄熱性物質が包接水和物又はそのスラリである場合には、当該包接水和物のゲスト分子として含まれる第四級アンモニウム臭化物又はその水溶液と接触する金属材料が腐食されることになる。また、第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質についても、同様に金属材料との接触により、当該金属材料を腐食させることがある。
【特許文献1】特開2002−81806号公報
【特許文献2】特許第3508549号公報
【特許文献3】特許第3641362号公報
【特許文献4】特開2007−186667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、特許文献1には、臭化リチウムを主成分とする吸収液に起因する腐食を抑制する防食方法が開示されている。それ故、特許文献1に記載の技術において、臭化リチウムを主成分とする吸収液を、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質により置き換えれば、当該蓄熱性物質と接触する装置類の一部又は全部を構成する金属材料の腐食を防止することができるのではないか、と発想できなくもない。
しかし、実際、特許文献1に記載の技術をそのまま適用しただけでは、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質と接触する装置類の一部又は全部を構成する金属材料の腐食を防止することは難しい。なぜなら、犠牲電極としてアルミニウム、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびV等を採用すると、あるいはこれらの元素を1つ以上含む合金又はこれらの元素を1つ以上含んだ鉄合金、ステンレス鋼,低合金鋼等を採用すると、その犠牲電極は第四級アンモニウム臭化物との接触により、犠牲電極として有効に作用せず、電極の材質によっては犠牲電極としての機能が阻害されるからである。
以下、この理由を詳細に説明する。
【0011】
まず、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質と接触する装置類を構成する金属材料の腐食抑制を期待して、アルミニウム、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびVの元素を1つ以上含んだ鉄合金,ステンレス鋼,低合金鋼を犠牲電極に採用しても、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質と接触する環境では、これらの鉄合金、ステンレス鋼、低合金鋼の電位が装置類を構成する金属材料より卑にならないため、犠牲電極として作用しない。また、Zr,Ti,Mo,WおよびVの単体金属の場合においても同じように電位が装置類を構成する金属材料より卑にならないため、犠牲電極として作用しない。
【0012】
また、犠牲電極の材質が例えばアルミニウムである場合、その表面は不働態被膜により覆われていて普段は比較的安定であるが、第四級アンモニウム臭化物と接触すると、臭素の作用により当該不働態被膜が不安定になり、そこに孔食が発生すことがある。不働態被膜に孔食が発生すると、その孔食部分以外は不働態被膜に覆われているため、アルミニウム電極の電位が卑にならず、アノード電極としての効果、延いては犠牲電極としての機能が阻害される。実際には、例えば臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)水溶液中において、アルミニウム電極を犠牲電極として用いると、炭素鋼との接触部や結線部周囲で孔食が発生しやすくなり、孔食が進展して減肉し、接触部が腐食したり短期間に断線したりしてしまうことがあり、アルミニウム電極は犠牲電極としての機能が発揮できない。更に、犠牲電極の材質が例えばZnである場合、Znは第四級アンモニウム臭化物と接触すると激しく腐食するため、海水中や淡水中で使用するよりも犠牲陽極として使用可能な期間が非常に短い。
このような現象は、犠牲電極の材質がアルミニウムの場合だけでなく、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびVの単体金属の場合においても、また、Al−X合金(XはZn,Zr,Ti,Mo,WおよびVのいずれか一つ)、即ち、アルミニウムを主成分とし、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびVのいずれか1つを含む2元系合金の場合においても、同様に生じ、犠牲電極としての機能が阻害される。
【0013】
このように、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質と接触する装置類の一部又は全部を構成する金属材料の腐食を防止するために、犠牲電極としてアルミニウム、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびVの単体金属、アルミニウム、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびVの元素を1つ以上含む合金、また、アルミニウム、Zn,Zr,Ti,Mo,WおよびVの元素を1つ以上含んだ鉄合金,ステンレス鋼,低合金鋼を犠牲電極に採用しても、犠牲電極として有効に作用せず、電極の材質によっては犠牲電極としての機能が阻害される。このため、電気防食を行うことができず、また炭素電極上でカソード反応が起こらず、強い酸化剤の働きをして金属材料の腐食を加速させる銅イオンを炭素鋼電極上に銅として析出させ銅イオンを減少させることができない。
【0014】
また、第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質についても、同様に電気防食を行うことができず、また炭素電極上でカソード反応が起こらず、強い酸化剤の働きをして金属材料の腐食を加速させる銅イオンを炭素鋼電極上に銅として析出させ銅イオンを減少させることができない。
【0015】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものであり、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料に対する前記蓄熱性物質の腐食性を低減することができる電気防食技術を提供し、また、蓄熱性物質の中から、これと接触する金属材料より貴な銅イオンを除去する又は量的に減少させることにより、当該金属材料の腐食を有効に抑制又は防止することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料とは別に、Al-Zn-In合金材を蓄熱性物質と接触するように、また金属材料と電気導通させることなく設ける態様(以下の説明において「形態A」ということがある)にすると、Al-Zn-In合金材において、次のようなアノード反応とカソード反応とが同時に起こる。
なお、下記では、カソード反応として銅について記述しているが、これは蓄熱性物質に銅イオンが含まれていることを前提としている。
アノード反応:Al→Al3++3e-
カソード反応:Cu2++2e-→Cu
Al-Zn-In合金材において、アノード反応部とカソード反応部とが生じ、これらが場所を変えながら反応が進行する。これらの反応により、Al-Zn-In合金材の表面からアルミニウムイオンが蓄熱性物質の側に溶解し、また、蓄熱性物質の側から金属銅が析出する。
そのため、Al-Zn-In合金材を蓄熱性物質と接触させると共に金属材料と電気導通させることなく設けることにより、蓄熱性物質から金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンを除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を低減することができる。
【0017】
なお、第1の形態における「電気導通させることなく」とは、Al-Zn-In合金材を金属材料と接触させる場合のようにAl-Zn-In合金材と金属材料を積極的に電気導通させることを排除する趣旨であり、Al-Zn-In合金材と金属材料の間に絶縁材を設けて両者を積極的に絶縁する場合の他、Al-Zn-In合金材を金属材料に接触させることなく蓄熱性物質中に配置させる場合のように積極的な絶縁処理をしていない場合も含む。
【0018】
本発明の第2の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質の腐食性を低減する方法であって、Al-Zn-In合金材を、前記蓄熱性物質を取り扱う装置類を構成する金属材料と電気導通させると共に前記蓄熱性物質と接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去することにより、前記金属材料に対する腐食性を低減することを特徴とするものである。
【0019】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料とは別に、Al-Zn-In合金材を蓄熱性物質と接触するように、また金属材料と電気導通させて設ける態様(以下の説明で「形態B」という。)にすると、Al-Zn-In合金材において、主に次のようなアノード反応が起こり、金属材料において次のようなカソード反応が起こる。なお、下記では、カソード反応として銅について記述しているが、これは蓄熱性物質に銅イオンが含まれていることを前提としている点は上記の第1の形態と同様である。
アノード反応:Al→Al3++3e-
カソード反応:Cu2++2e-→Cu
【0020】
これらの反応により、Al-Zn-In合金材の表面(アノード部)からアルミニウムイオンが蓄熱性物質の側に溶解し、また、金属材料の表面(カソード部)では蓄熱性物質の側から金属銅が析出する。そのため、Al-Zn-In合金材を蓄熱性物質と接触するように、また金属材料と電気導通させて設けることにより、Al-Zn-In合金材は犠牲電極として作用し、金属材料へ防食電流が流入し金属材料の電位を腐食しない電位にまで変化させて、金属材料の腐食を防止又は抑制する。さらに、金属材料の表面(カソード部)で蓄熱性物質から金属銅が析出して、蓄熱性物質から金属材料の腐食を促進させる作用のある金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンを除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を低減することができる。
【0021】
形態Aでは、Al-Zn-In合金材を蓄熱性物質と接触するように、また金属材料と電気導通させることなく設けて、Al-Zn-In合金材表面にアノード反応部とカソード反応部とが生じているのに対して、形態Bでは、Al-Zn-In合金材を蓄熱性物質と接触するように、また金属材料と電気導通させて設けて、Al-Zn-In合金材がアノード部、金属材料がカソード部となっている。
形態AでのAl-Zn-In合金材表面のアノード反応部とカソード反応部との電位差は数十mV程度と小さいことに比べて、形態Bでのアノード反応部(Al-Zn-In合金材)とカソード反応部(金属材料)との電位差は数百mV程度と大きくなっている。そのため、形態Aでも形態BでもAl-Zn-In合金材においてアノード反応が生じるが、形態BのようにAl-Zn-In合金材を金属材料と電気導通させて設けることにより、アノード反応部とカソード反応部との電位差が大きいことに起因して、形態BではAl-Zn-In合金材におけるアノード反応が形態Aに比べてより多く生じ、そのためカソード反応もより多く生じるので、蓄熱性物質から金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンをより多く除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を効率よく低減することができる。
【0022】
本発明の第3の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質の腐食性を低減する方法であって、Al-Zn-In合金材とカソード電極を前記蓄熱性物質と接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去することにより、前記金属材料に対する腐食性を低減することを特徴とするものである。
【0023】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料とは別に、蓄熱性物質と接触するAl-Zn-In合金材とカソード電極を設ける態様(以下の説明において「形態C」という)にすると、Al-Zn-In合金材において、主に次のようなアノード反応が起こり、カソード電極において次のようなカソード反応が起こる。なお、下記では、カソード反応として銅について記述しているが、これは蓄熱性物質に銅イオンが含まれていることを前提としている点は上記の第1、第2の態様と同様である。
アノード反応:Al→Al3++3e-
カソード反応:Cu2++2e-→Cu
【0024】
これらの反応により、Al-Zn-In合金材の表面(アノード部)からアルミニウムイオンが蓄熱性物質の側に溶解し、また、カソード電極の表面では蓄熱性物質の側から金属銅が析出する。そのため、蓄熱性物質と接触するAl-Zn-In合金材とカソード電極を設けることにより、Al-Zn-In合金材は犠牲電極として作用し金属材料へ防食電流が流入し金属材料の電位を腐食しない電位にまで変化させて、金属材料の腐食を防止又は抑制する。さらに、カソード電極の表面で蓄熱性物質から金属銅が析出して、蓄熱性物質から金属材料の腐食を促進させる作用のある金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンを除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を低減することができる。
カソード電極を構成する金属の種類としてはAl-Zn-In合金よりも貴な金属(例えば、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、銅、黄銅、高珪素鋼、Ti、白金めっきチタンなど)や導電性の酸化物(MMO:Mixed Metal Oxide coated titanium、マグネタイト)であれば良い。
【0025】
形態Cでは、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料とは別に、蓄熱性物質と接触するAl-Zn-In合金材とカソード電極を設けることにより、カソード電極表面でカソード反応を生じさせため、形態AにおいてAl-Zn-In合金材表面でカソード反応を生じさせることや、形態Bにおいて金属材料表面でカソード反応を生じさせることに比べて、カソード反応をより確実にまたより継続して生じさせることに有用である。すなわち、形態Cによれば、適切な寸法、形状のカソード電極を適用してカソード反応を生じさせることができるので、カソード反応の電流密度を高くでき、カソード反応の速度を高くできるため、金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンをより多く析出させ除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を効率よく低減することができる。
【0026】
本発明の第4の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質を収容する装置類から前記蓄熱性物質の少なくとも一部を取り出して処理装置に収容する第1の工程と、前記処理装置に収容した蓄熱性物質にAl-Zn-In合金材を接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去する第2の工程と、該第2の工程において、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンの少なくとも一部が除去された蓄熱性物質を前記装置類に戻す第3の工程とを有することを特徴とするものである。
【0027】
本発明の第5の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質を収容する装置類から前記蓄熱性物質の少なくとも一部を取り出して処理装置に収容する第1の工程と、前記処理装置に収容した蓄熱性物質にAl-Zn-In合金材とカソード電極を接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記カソード電極の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去する第2の工程と、 該第2の工程において、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンの少なくとも一部が除去された蓄熱性物質を前記装置類に戻す第3の工程と、を有することを特徴とするものである。
【0028】
本発明の第6の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第1又は第4の形態に係る方法であって、前記Al-Zn-In合金材において、その成分であるアルミニウムが酸化されて溶解するアノード反応と、前記銅イオンが還元されて析出するカソード反応とを起こすことを特徴とするものである。
【0029】
本発明の第7の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第3又は第5の形態に係る方法であって、前記Al-Zn-In合金材をアノード電極とし、前記アノード電極と前記カソード電極との間に電源を設け、電気を流すことを特徴とするものである。
【0030】
この形態は、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料とは別に、蓄熱性物質と接触するAl-Zn-In合金材とカソード電極を設ける形態Cにおいて、さらに、Al-Zn-In合金材をアノード電極とし、アノード電極とカソード電極との間に電源を設け電気を流すという形態(以下において「形態D」という。)である。
アノード電極とカソード電極との間に電源を設け電気を流すことにより、金属材料へ防食電流が流入し金属材料の電位を腐食しない電位にまで変化させて、金属材料の腐食を防止又は抑制する。さらに、カソード電極の表面で蓄熱性物質から金属銅が析出して、蓄熱性物質から金属材料の腐食を促進させる作用のある金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンを除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を低減することができる。特に、電源を設け電気を流すことにより、アノード反応とカソード反応がより多く起こり、蓄熱性物質から金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンをより多く除去することができ、蓄熱性物質の腐食性をより効率よく低減することができる。
【0031】
形態A乃至Dにおいて、Al-Zn-In合金材表面でアノード反応が生じ、Al-Zn-In合金材からアルミニウムが溶解しアルミニウムイオンとして蓄熱性物質側に移る。アルミニウムイオンは例えば水酸化アルミニウムとなって沈殿し、蓄熱性物質の蓄熱性能や流動性など本来具備している特性に影響を与えることがない。
【0032】
また、形態B乃至Dにおいて、Al-Zn-In合金材表面でアノード反応が生じ、Al-Zn-In合金材からアルミニウムが均一に安定して溶解するため、金属材料へ防食電流が流入し金属材料の電位を腐食しない電位にまで変化させて、金属材料の腐食を防止又は抑制する。さらに、Al-Zn-In合金材、金属材料またはカソード電極のカソード反応部で蓄熱性物質から金属銅が析出して、蓄熱性物質から金属材料の腐食を促進させる作用のある金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンを除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を低減することができる。特に犠牲電極としてAl-Zn-In合金材を用いることにより、アノード反応を確実に生じさせカソード反応が確実に生じるので、蓄熱性物質から金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンを除去することができ、蓄熱性物質の腐食性を低減することができる。
【0033】
従来技術で犠牲電極として用いられるアルミニウムと、本発明のAl-Zn-In合金材との第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質中での挙動を比較して、Al-Zn-In合金材を用いることにより、アノード反応を確実に生じさせカソード反応が確実に生じることの理由を推定した。(この推定は、本発明、特にその効果の説明の便のためのものであって、本発明の効果が容易に予測できることを意味するものではなく、本発明の技術的範囲を限定するものでもない)。
【0034】
まず、従来技術で用いられる純アルミニウムやAl−Cu合金、Al−Mn合金などの金属は、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触すると、臭素又は硝酸基の作用により一部に孔食が生じるものの不働態被膜が維持されるため電位が貴となる。このとき、孔食の内部は酸性となり、水素イオン濃度が高くなるため、水素発生反応(2H++2e-→H2)が起こり、貴な金属のイオンである銅イオンの還元反応が起こらず、貴な金属のイオンである銅イオンを還元して析出させることが難しい。また、これらの金属を、装置類を構成する炭素鋼と接触させると、接触部や結線をした周囲で孔食が発生しやすく、孔食が進展して局部的に減肉し、短期間に断線してしまう。それ故、これらの金属を犠牲電極(消耗可能なアノード電極)として利用することには問題がある。
【0035】
これに対し、本発明のAl-Zn-In合金材では、形態A乃至Dのいずれの場合であれ、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触すると、アノード反応が生じ、Al-Zn-In合金材の表面が均一に溶解する。これは、アルミニウムにZnとInを添加することにより、合金材の結晶と結晶粒界の電位差が小さくなるためであると推定される。
形態Aの場合、Al-Zn-In合金材の表面では、アノード部が形成され、アノード反応が起こり均一な溶解が起こるとともに、カソード部が形成され、カソード反応が起こり貴な金属のイオンである銅イオンの還元が起こり、当該貴な金属が析出してAl-Zn-In合金材の表面に付着する。付着した貴な金属はある程度の量になると表面から脱落し、活性なAl-Zn-In合金面が露出して、その部分が再びアノード部になり、均一な溶解が起こるとともに、カソード部で貴な金属が付着する(以後、これらの反応が繰り返される)。それ故、形態Aにおいて、Al-Zn-In合金材は、犠牲電極としてより有益となる。
【0036】
なお、Mg、Siなどはアルミニウムよりも卑な金属であるため電位を卑に維持する作用がある。それ故、Al-Zn-In合金材についての上記の推定は、Al-Zn-In-X合金(X:Mg Si)についても、上記の推定は当て嵌まり、Al-Zn-In合金材の組成にさらにMg、Siを添加することにより、溶解を促進する効果が期待できる。
【0037】
本発明の第8の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第1乃至第7のいずれかの形態に係る方法であって、前記Al-Zn-In合金材は、Mgを含むことを特徴とするものである。
【0038】
本発明におけるAl-Zn-In合金材は、本発明がその効果を全く奏しなくなるような場合を除き、その他の成分を含んでいてもよい。例えば、Al-Zn-In-X合金材(X:Mg Si、)のような、Al、Zn及びIn以外の第4成分を含んでいるものも、更に第5、第6・・・の成分を含んでいるものも、本発明がその効果を全く奏しなくなるような場合を除き、本発明におけるAl-Zn-In合金に該当する。
【0039】
本発明の第9の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第1乃至第8のいずれかの形態に係る方法であって、前記第四級アンモニウム臭化物は、臭化テトラnブチルアンモニウム、臭化トリnブチルnペンチルアンモニウム、臭化テトラisoペンチルアンモニウム、臭化トリnブチルnプロピルアンモニウムのうち少なくとも一つを含むことを特徴とするものである。
【0040】
また、本発明における蓄熱性物質は、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を主成分とするものである。当該臭化物の典型例は、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)、臭化トリnブチルnペンチルアンモニウム(TBPAB)、臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)、臭化トリnブチルnプロピルアンモニウムなどのアルキルアンモニウム臭化物である。
更に、本発明における第四級アンモニウム臭化物を主成分とする蓄熱性物質は、主成分である第四級アンモニウム臭化物以外の成分として、弗化テトラnブチルアンモニウム(TBAF)のような第四級アンモニウム弗化物、亜硫酸塩又はチオ硫酸塩のナトリウム塩、リチウム塩等の脱酸型腐食抑制剤、ポリリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、燐酸水素二塩、ピロ燐酸塩又はメタ珪酸塩のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、アルコール(メタノール、エタノール)等の添加剤を含んでいてもよい。アルコール(メタノール、エタノール)を添加することにより、蓄熱性物質の融点を低下させることができる。
第四級アンモニウム硝酸塩の典型例は、硝酸テトラnブチルアンモニウム(テトラnブチルアンモニウムナイトライト、TBAN)である。
第四級アンモニウム臭化物と第四級アンモニウム硝酸塩(例えば硝酸テトラnブチルアンモニウム)を混合して蓄熱性物質として用いることもできる。
【0041】
本発明の第10の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第1乃至第9のいずれかの形態に係る方法であって、前記Al-Zn-In合金材が交換可能であることを特徴とするものである。
【0042】
本発明の第11の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第3、第5及び第7のいずれかの形態に係る方法であって、前記Al-Zn-In合金材及び前記カソード電極のうち少なくとも一方が交換可能であることを特徴とするものである。
Al-Zn-In合金材及び/又はカソード電極が交換可能とすることにより、Al-Zn-In合金材からアルミニウムが溶解して損耗する場合や、カソード電極表面に金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンが析出して付着し表面の活性度が低下する場合等、アノード反応やカソード反応の効率が低下した場合にAl-Zn-In合金材及び/又はカソード電極を交換して、アノード反応やカソード反応を活性化することができる。
【0043】
本発明の第12の形態に係る蓄熱性物質の腐食性低減方法は、第3、第5及び第7のいずれかの形態に係る方法であって、前記カソード電極として金属製のフィルターを用い、前記カソード電極において前記金属材料よりも貴な金属のイオンである銅イオンの析出と(錆などの)固形物の除去を同時に行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0044】
本発明においては、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質と接触する金属材料とは別に、前記蓄熱性物質と接触するAl-Zn-In合金材を設けたことにより、Al-Zn-In合金材が犠牲電極として作用して金属材料へ防食電流を流入させ、その電位を腐食しない電位にまで変化させて、金属材料の腐食を防止又は抑制できる。また、前記蓄熱性物質に含まれ、かつ前記金属材料より貴な金属のイオンである銅イオンのうち少なくとも一部を析出させ前記蓄熱性物質から除去するようにしたので、貴な金属のイオンである銅イオンの作用による金属材料の腐食を防止又は抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質中にAl-Zn-In合金材をアノード電極として設け、Al-Zn-In合金材が、蓄熱性物質中に含まれており金属材料(例えば炭素鋼またはステンレス鋼)の腐食を促進する銅イオンを除去する作用を検証する実験を行った。
そこで、以下の実施例において、まず実験方法と評価方法について説明し、その後で実験結果について考察する。
【実施例】
【0046】
[実験方法、評価方法]
実験に用いたアノード電極と、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質について説明する。
・ アノード電極
アノード電極として、Al-Zn-In合金材、さらに他の金属(Mg、MgとSi)を含むAl-Zn-In合金材を用いた。アノード電極の詳細は以下の通りである。
Al-Zn-In合金(Zn3.5%、In0.02%、残部Al)
Al-Zn-In-Mg合金(Zn2.0%、In0.02%、Mg2.0%、残部Al)
Al-Zn-In-Mg-Si合金(Zn2.0%、In0.02%、Mg2.0%、Si0.2%、残部Al)
・ 第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質
第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質としては、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)、臭化トリnブチルnペンチルアンモニウム(TBPAB)、臭化テトラisoペンチルアンモニウム(TiPAB)及び臭化トリnブチルnプロピルアンモニウムそれぞれの25重量%水溶液を準備し、また第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質として、硝酸テトラnブチルアンモニウム(TBAN)の40重量%水溶液を準備し、それぞれの水溶液に硫酸銅を1重量%添加して実験に供する蓄熱性物質を調製した。なお、硫酸銅を1重量%添加したのは、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質を収容する装置類や配管類の一部に用いられている銅材から、蓄熱性物質中に銅イオンが溶出していることを模擬するためである。
【0047】
本発明の実施例として前述した形態A、C、Dの3つの形態に対応する態様と、これらに対する比較例としてそれぞれ以下に示すものを実施した。
<実施例>
・ 形態A
Al-Zn-In合金材等のアノード電極(25×50×3mm)を単独で蓄熱性物質に浸漬する。
・ 形態C
Al-Zn-In合金材等のアノード電極(25×50×3mm)とSUS304ステンレス鋼のカソード電極(25×50×3mm)を接続して蓄熱性物質に浸漬する。
・ 形態D
Al-Zn-In合金材等のアノード電極(25×50×3mm)とSUS304ステンレス鋼のカソード電極(25×50×3mm)を定電流電源に接続して蓄熱性物質に浸漬し、カソード電極に流入する電流密度を10μA/cm2に制御して通電する。
・それぞれの形態において、カソード電極としてSUS304ステンレス鋼製網を用いた実験も行った。
<比較例>
それぞれの形態において、アノード電極として純アルミニウム(1070)を用い、他の条件は同じ条件で実験を行った。
<評価方法>
30℃の蓄熱性物質に7日間浸漬し、アノード電極、カソード電極の表面への銅の析出を調べ、析出した銅の量が、比較例の純アルミニウムのアノード電極に析出した量より多い場合を、銅をよく析出することができ蓄熱性物質中の銅イオンを除去し腐食性を低減する効果があるとして○と記した。
【0048】
以下、それぞれの形態について実験方法の詳細を述べると共に実験結果とそれに対する考察を述べる。
【0049】
<形態Aについて>
[実施例]
Al-Zn-In合金材等のアノード電極(25×50×3mm)を単独で蓄熱性物質に浸漬する。また、蓄熱性物質として実験方法の項で記載したものの他に、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)15重量%水溶液に、ポリリン酸ナトリウムを0.1重量%、硫酸銅を1重量%添加した水溶液と、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)10重量%水溶液に、リン酸水素二カリウムを15重量%、硫酸銅を1重量%添加した水溶液を用いた。
[比較例]
アノード電極として純アルミニウム板(1070)(25×50×3mm)またはモリブデン合金鋼(STBA24 Cr2.25%-Mo1%)を用い、他の条件は同じ条件で実験を行った。
結果を次の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
アノード電極としてAl-Zn-In合金材を用い、TBAB水溶液、TBPAB水溶液、TiPAB水溶液、臭化トリnブチルnプロピルアンモニウム水溶液、TBAN溶液、TBAB+ポリリン酸ナトリウム水溶液、TBAB+リン酸水素二カリウム水溶液に浸漬した場合、Al-Zn-In合金材が溶解するとともに、銅が付着し、一部脱落して銅が水溶液の底に溜まっていた。
また、アノード電極としてAl-Zn-In-Mg合金材及びAl-Zn-In-Mg-Si合金材を用い、TBAB水溶液に浸漬した場合、上記の場合と同様に、Al-Zn-In合金材が溶解するとともに、銅が付着し、一部脱落して銅が水溶液の底に溜まっていた。
他方、比較例のアノード電極として純アルミニウムを用い、TBAB水溶液に浸漬した場合、アノード電極表面で孔食腐食が生じ、局所的にアノード反応が進行した。孔食の周囲にごく僅かに銅が付着していたが、表面の大部分では銅の付着が認められなかった。また、アノード電極としてモリブデン合金鋼を用いた場合には、銅の付着が認められなかった。
【0052】
以上の結果から、Al-Zn-In合金材のアノード電極を第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質に接触させることによって、蓄熱性物質に含まれる貴な金属のイオンである銅イオンを還元して除去することができることを確認した。また、Al-Zn-In合金材として、Al-Zn-In-Mg合金材及びAl-Zn-In-Mg-Si合金材を用いることによっても、同様の効果を得ることができる。
一方、アノード電極として純アルミニウムまたはモリブデン合金鋼を用いた場合には、Al-Zn-In合金材を用いた場合に比べて、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質に含まれる貴な金属のイオンである銅イオンを除去する効果が低いことがわかった。
【0053】
<形態Cについて>
[実施例]
Al-Zn-In合金材等のアノード電極(25×50×3mm)とSUS304ステンレス鋼板のカソード電極(25×50×3mm)を電線で接続して蓄熱性物質に浸漬する。また、カソード電極としてSUS304ステンレス鋼製網を用いた実験も行った。
[比較例]
アノード電極として純アルミニウム板(1070)(25×50×3mm)を用い、他の条件は同じ条件で実験を行った。
結果を次の表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
アノード電極としてAl-Zn-In合金材を用い、TBAB水溶液、TBPAB水溶液、TiPAB水溶液、臭化トリnブチルnプロピルアンモニウム水溶液、TBAN水溶液に浸漬した場合、ステンレス鋼板のカソード電極に銅が付着し、一部脱落して銅が水溶液の底に溜まっていた。
また、アノード電極としてAl-Zn-In-Mg合金材及びAl-Zn-In-Mg-Si合金材を用い、TBAB水溶液に浸漬した場合、上記と同様に、ステンレス鋼板のカソード電極に銅が付着し、一部脱落して銅が水溶液の底に溜まっていた。
さらに、アノード電極としてAl-Zn-In合金材を用い、カソード電極としてSUS304ステンレス鋼製網を用い、TBAB水溶液に浸漬した場合、ステンレス鋼製網のカソード電極に銅が付着し、さらに固形物を捕捉していた。
他方、比較例のアノード電極として純アルミニウムを用い、TBAB水溶液に浸漬した場合、アノード電極に電線をスポット溶接した溶接部近傍が著しく溶解して減肉するなど局所的にアノード反応が進行した。ステンレス鋼板のカソード電極にはごく僅かに銅が付着していたが、表面の大部分では銅の付着が認められなかった。
【0056】
以上の結果から、カソード電極とAl-Zn-In合金材のアノード電極を接続し、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質に接触させることによって、蓄熱性物質に含まれる貴な金属のイオンである銅イオンを還元して除去することができることを確認した。
また、Al-Zn-In合金材として、Al-Zn-In-Mg合金材及びAl-Zn-In-Mg-Si合金材を用いることによっても、同様の効果を得ることができる。
一方、アノード電極として純アルミニウムを用いた場合には、Al-Zn-In合金材を用いた場合に比べて、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質に含まれる貴な金属のイオンである銅イオンを除去する効果が低いことがわかった。
また、カソード電極としてステンレス鋼製網を用いると、それがフィルターとしても機能して、金属材料よりも貴な金属のイオンである銅イオンの析出物を捕捉するとともに、メッシュ孔径に相応する大きさの固形物を捕捉し除去することも行うことができることを確認した。
【0057】
<形態Dについて>
[実施例]
Al-Zn-In合金材等のアノード電極(25×50×3mm)とSUS304ステンレス鋼のカソード電極(25×50×3mm)を定電流電源に接続して蓄熱性物質に浸漬し、カソード電極に流入する電流密度を10μA/cm2に制御して通電する。
また、カソード電極としてSUS304ステンレス鋼製網を用いた実験も行った。
[比較例]
アノード電極として純アルミニウム板(1070)(25×50×3mm)または炭素棒(12Φ×50mm)を用い、他の条件は同じ条件で実験を行った。
結果を次の表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
アノード電極としてAl-Zn-In合金材を用い、TBAB水溶液、TBPAB水溶液、TiPAB水溶液、臭化トリnブチルnプロピルアンモニウム水溶液、TBAN水溶液に浸漬し通電した場合、Al-Zn-In合金材の表面が梨肌状に均一に溶解して減肉し、ステンレス鋼板のカソード電極に銅が付着し、一部脱落して銅が水溶液の底に溜まっていた。銅の析出量は形態Cの場合に比べて多くなっていた。
また、アノード電極としてAl-Zn-In-Mg合金材及びAl-Zn-In-Mg-Si合金材を用い、TBAB水溶液に浸漬し通電した場合、Al-Zn-In-Mg合金材及びAl-Zn-In-Mg-Si合金材の表面が梨肌状に均一に溶解して減肉し、ステンレス鋼板のカソード電極に銅が付着し、一部脱落して銅が水溶液の底に溜まっていた。銅の析出量は形態Cの場合に比べて多くなっていた。
また、アノード電極としてAl-Zn-In合金材を用い、カソード電極としてSUS304ステンレス鋼製網を用い、TBAB水溶液に浸漬し通電した場合、ステンレス鋼製網のカソード電極に銅が付着し、さらに固形物を捕捉していた。
他方、比較例のアノード電極として純アルミニウムを用い、TBAB水溶液に浸漬し通電した場合、アノード電極では局部的に溶解して減肉するなど局所的にアノード反応が進行した。ステンレス鋼板のカソード電極にはごく僅かに銅が付着していたが、表面の大部分では銅の付着が認められなかった。また、比較例のアノード電極として炭素棒を用い、TBAB水溶液に浸漬し通電した場合、ステンレス鋼板のカソード電極に銅が多く付着していたが、アノード電極の炭素棒にTBABの分解生成物が付着した。
【0060】
以上の結果から、カソード電極とAl-Zn-In合金材のアノード電極を接続し、第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質に接触させ通電することによって、蓄熱性物質に含まれる貴な金属のイオンである銅イオンを還元して除去することができることを確認した。また、Al-Zn-In合金材として、Al-Zn-In-Mg合金材及びAl-Zn-In-Mg-Si合金材を用いることによっても、同様の効果を得ることができる。また、カソード電極とアノード電極とに通電することにより、形態Cに比べて、蓄熱性物質に含まれる貴な金属のイオンである銅イオンを還元して除去する作用が高くなる。
一方、アノード電極として純アルミニウムを用いた場合には、Al-Zn-In合金材を用いた場合に比べて、第四級アンモニウム臭化物を含む蓄熱性物質に含まれる貴な金属のイオンである銅イオンを除去する効果が低いことがわかった。また、アノード電極として炭素棒を用いた場合には、TBABが分解するので好ましくないことがわかった。
また、カソード電極としてステンレス鋼製網を用いると、それがフィルターとして機能して、金属材料よりも貴な金属のイオンである銅イオンの析出物を捕捉するとともに、メッシュ孔径に相応する大きさの固形物を捕捉し除去することも同時に行うことができることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質の腐食性を低減する方法であって、Al-Zn-In合金材を、前記蓄熱性物質を取り扱う装置類を構成する金属材料と電気導通させることなく、前記蓄熱性物質と接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去することにより、前記金属材料に対する腐食性を低減することを特徴とする蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項2】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質の腐食性を低減する方法であって、Al-Zn-In合金材を、前記蓄熱性物質を取り扱う装置類を構成する金属材料と電気導通させると共に前記蓄熱性物質と接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去することにより、前記金属材料に対する腐食性を低減することを特徴とする蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項3】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質の腐食性を低減する方法であって、Al-Zn-In合金材とカソード電極を前記蓄熱性物質と接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去することにより、前記金属材料に対する腐食性を低減することを特徴とする蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項4】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質を収容する装置類から前記蓄熱性物質の少なくとも一部を取り出して処理装置に収容する第1の工程と、
前記処理装置に収容した蓄熱性物質にAl-Zn-In合金材を接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記Al-Zn-In合金材の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去する第2の工程と、
該第2の工程において、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンの少なくとも一部が除去された蓄熱性物質を前記装置類に戻す第3の工程と、を有することを特徴とする蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項5】
第四級アンモニウム臭化物又は第四級アンモニウム硝酸塩を含む蓄熱性物質を収容する装置類から前記蓄熱性物質の少なくとも一部を取り出して処理装置に収容する第1の工程と、
前記処理装置に収容した蓄熱性物質にAl-Zn-In合金材とカソード電極を接触させ、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンのうち少なくとも一部を前記カソード電極の表面で還元して析出させ前記蓄熱性物質から除去する第2の工程と、
該第2の工程において、前記蓄熱性物質に含まれる銅イオンの少なくとも一部が除去された蓄熱性物質を前記装置類に戻す第3の工程と、を有することを特徴とする蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項6】
前記Al-Zn-In合金材において、その成分であるアルミニウムが酸化されて溶解するアノード反応と、前記銅イオンが還元されて析出するカソード反応とを起こすことを特徴とする請求項1又は4に記載の蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項7】
前記Al-Zn-In合金材をアノード電極とし、前記アノード電極と前記カソード電極との間に電源を設け、電気を流すことを特徴とする請求項3又は5に記載の蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項8】
前記Al-Zn-In合金材は、Mgを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項9】
前記第四級アンモニウム臭化物は、臭化テトラnブチルアンモニウム、臭化トリnブチルnペンチルアンモニウム、臭化テトラisoペンチルアンモニウム、臭化トリnブチルnプロピルアンモニウムのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の蓄熱性物質の腐食性低減方法。
【請求項10】
前記第四級アンモニウム硝酸塩は、硝酸テトラnブチルアンモニウムを含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の蓄熱性物質の腐食性低減方法。