説明

蓄熱材及びそれを利用した熱利用システム

【課題】排熱エネルギーや太陽光などの熱エネルギーを回収・貯蔵できる蓄熱材及びそれを用いた熱利用システムを提供。
【解決手段】式(I)で示される錯体化合物(式中、R、R’は、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基等。A、B、C、D、A’、B’、C’、及びD’は水素又は、隣とのアリール環)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錯体化合物の蓄熱材としての使用、新規結晶形の錯体化合物及びその蓄熱材としての使用、ならびにそれら蓄熱材を利用した熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車上で発生する余剰な熱や太陽光の熱エネルギー(例えば、近赤外よりも長波長の電磁波)の利用が望まれている。一般的には、熱が発生するシーン(時間)とその熱を利用する(又はしたい)シーンが必ずしも時間的に一致しない問題があった。
例えば、冬場に自動車に乗車する場合、走行時に発生する熱などの排熱を、次回乗車する時(例えば、翌朝など)にエンジン暖気などに使うことができれば、多くの利益をもたらす。例えば、初期の暖気時間が短くなることにより、エンジンの始動時の燃料消費が少なくなる、すなわち燃費がよくなるというものがある。また、乗車とほぼ同時に暖房が使えるという点も、乗員にとっての快適性も向上するというメリットがある。
また住宅を例にとると、日中の太陽光の熱エネルギーを、日没後の任意の時間(例えば、当日の夜、翌日の夜等)に使うことができれば、光熱費を削減することができる。
【0003】
上記の問題を解決してこれら利益を享受するための1つの方法としては、温度の上昇とともに三態が変化する物質を用いた蓄熱材によりエネルギーを貯蔵する方法がある。
このような蓄熱材として、従来、ピロリン酸ナトリウム、イオン性液体、氷酢酸又はエリスリトールなどを用いたものがあった(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-107035号公報
【特許文献2】特開2006-219557号公報
【特許文献3】特開2005-97530号公報
【特許文献4】特開平5-32963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の蓄熱材は、材料の持つ潜熱を利用して熱を貯蔵している。しかしながら、例えば、熱エネルギーを除去すると相変化(三態が変化する)したり、あるいは解離状態が基に戻ったりするなどの現象を利用する場合、エネルギーを貯蔵したときの温度を下げると貯蔵した熱が逃げてしまう、すなわち熱を回収(吸収)した状態で蓄熱材の温度が低下するとエネルギーの貯蔵量も低下するという問題があった。そのため熱を回収した後に、温度低下などの外環境の影響を受けず、熱などのトリガーで発熱する蓄熱材及びそれを用いた熱利用システムが強く望まれていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、排熱エネルギーや太陽光などの熱エネルギーを回収・貯蔵できる蓄熱材及びそれを用いた熱利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式(I):
【0008】
【化1】


〔式中、
R及びR’は、互いに独立して、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のあるアルキル基であるか、又は場合により置換されているアリール基であり;
Mは二価の遷移金属イオンであり;
A、B、C、D、A’、B’、C’、及びD’は水素であるか、あるいはそれらのうちの隣り合う2個同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になって場合により置換されているアリール環を形成する〕
で示される錯体化合物を含むことを特徴とする、蓄熱材を提供する。
また、本発明は、上記式(I)で示される錯体化合物の新規の結晶形及びそれを含む蓄熱材も提供する。
さらに、本発明は、上記の蓄熱材を備えた熱利用システムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
式(I)で示される錯体化合物は、排熱エネルギーなどの熱エネルギーを回収・貯蔵できるので、蓄熱材及びそれを用いた熱利用システムを提供できる。
式(I)で示される錯体化合物は熱吸収と共に結晶構造を変化させる。このことは、式(I)で示される錯体化合物が、熱を吸収してその結晶構造を変え、エネルギーを蓄えたことを意味する。
このような錯体化合物は、エネルギーを吸収・貯蔵した状態で外環境温度変化の影響を受けない(外環境温度の低下による蓄エネルギー量が減少しない)蓄熱材を提供できるので好ましい。また、このような錯体化合物は、外部からトリガー、例えば熱又は物理的・機械的刺激を与えることで、貯蔵したエネルギーを放出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】エンジンでの空気の流れを示す模式図である。
【図2】エアコンの断面図の模式図である。
【図3】空気の流れとエアコン(特にヒータ)とのかかわりを示す模式図である。
【図4】エンジンの排熱を排気マニホールドから回収する実施形態1の模式図である。
【図5】エンジンの排熱を排気管から回収する実施形態2の模式図である。
【図6】エンジンの排熱を排気管から回収し、直接空気を暖気する実施形態3の模式図である。
【図7】住宅での太陽光の熱エネルギーを回収する実施形態4の模式図である。
【図8】太陽光の分光放射分布を示す図である。
【図9】本発明の蓄熱材を備える熱回収・放出部に関する実施形態5の模式図である。
【図10】(a)で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NACuの粗生成物のDSCカーブを(b)に示す。
【図11】(a)で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物S8CuのDSCカーブを(b)に示す。
【図12】下段の折れ線で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NBPNiの粗生成物のDSCカーブを上段に示す。
【図13】下段の折れ線で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NOTNiの精製物のDSCカーブを上段に示す。
【図14】下段の折れ線で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NMTNiの精製物のDSCカーブを上段に示す。
【図15】下段の折れ線で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NANiの精製物のDSCカーブを上段に示す。
【図16】下段の折れ線で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NPTCuの精製物のDSCカーブを上段に示す。
【図17】下段の折れ線で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NACuの精製物のDSCカーブを上段に示す。
【図18】錯体化合物S8Cuの機械的刺激による結晶化の拡大映像及びサーモグラフィーを示す。図中、拡大映像及びサーモグラフィーは、それぞれ錯体化合物S8Cuの結晶化の状態及び当該結晶化に伴う熱分布を表す。また、刺激点は金属スパチュラが突いた錯体化合物S8Cuの箇所を指し、結晶、液体、及び発熱部はそれぞれ錯体化合物S8Cuの結晶部分、液状部分、及び発熱部分を指す。
【図19】下段の折れ線で示される加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NANiの粗生成物のDSCカーブを上段に、これに錯体化合物NACuの精製物を5%添加して得た混合物のDSCカーブを中段に示す。
【図20】最下段の折れ線で示される各加熱冷却サイクルで測定された、錯体化合物NMTNiの精製物のDSCカーブを上段にそれぞれ示す。
【図21】1サイクル目の錯体化合物NACuの粗生成物のDSCスペクトルである。図中の斜めの矢印は温度の変化方向を表し、縦の矢印はピークを指す。
【図22】1サイクル目の各温度下での錯体化合物NACuの粗生成物の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図23】1サイクル目の各温度下での錯体化合物NACuの粗生成物の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図24】2サイクル目の錯体化合物NACuの粗生成物のDSCスペクトルである。図中の斜めの矢印は温度の変化方向を表し、縦の矢印はピークを指す。
【図25】2サイクル目の各温度下での錯体化合物NACuの粗生成物の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図26】2サイクル目の各温度下での錯体化合物NACuの粗生成物の粉末X線回折スペクトルを示す。
【図27】2サイクル目の190.8℃〜203.0℃下での錯体化合物NACuの粗生成物の粉末X線回折スペクトルを示す。図中の丸印はピークを指す。
【図28】1サイクル目の錯体化合物S8CuのDSCスペクトルである。図中の斜めの矢印は温度の変化方向を表し、縦の矢印はピークを指す。
【図29】1サイクル目の各温度下での錯体化合物S8Cuの粉末X線回折スペクトルを示す。
【図30】1サイクル目の各温度下での錯体化合物S8Cuの粉末X線回折スペクトルを示す。
【図31】2サイクル目の錯体化合物S8CuのDSCスペクトルである。図中の横や斜めの矢印は温度の変化方向を表し、縦の矢印はピークを指す。
【図32】2サイクル目の各温度下での錯体化合物S8Cuの粉末X線回折スペクトルを示す。
【図33】2サイクル目の各温度下での錯体化合物S8Cuの粉末X線回折スペクトルを示す。
【図34】2サイクル目の47.0℃〜59.4℃下での錯体化合物S8Cuの粉末X線回折スペクトルを示す。図中の丸印はピークを指す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、場合により図面を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0012】
(錯体化合物)
本発明のR及びR’における炭素数1〜18の直鎖又は分岐のあるアルキル基は、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、又はイソプロピル、あるいは直鎖状又は分岐鎖状のブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、又はオクタデシルなどが挙げられる。
【0013】
本発明のR及びR’におけるアリール基は、環員が、例えば5〜16員、好ましくは6〜10員であってもよく、環の数が、例えば1〜4個、好ましくは1個であってもよい。このようなアリール基として、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びピレン環などが挙げられ、配位子の溶解度の点からベンゼン環及びナフタレン環などが好ましい。このR及びR’におけるアリール基は、場合により置換されていてもよく、非置換であっても、あるいはメチル基若しくはエチル基などのアルキル基又はフェニル基などのアリール基などで置換されていてもよい。
【0014】
式(I)で示される錯体化合物において、R及びR’は、互いに異なっていても同一であってもよいが、合成の容易さから同一であることが好ましい。
【0015】
本発明における、A、B、C、D、A’、B’、C’、及びD’のうちの任意の隣り合う2個同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になってアリール環を形成してもよい。このようなアリール環は、環員が、例えば5〜16員、好ましくは6〜10員であってもよく、また、環の数が、例えば1〜4個、好ましくは1個であってもよい。このようなアリール環として、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などが挙げられ、配位子の溶解度の点からベンゼン環及びナフタレン環などが好ましい。
このアリール環は、場合により置換されていてもよく、非置換であっても、あるいはメチル基若しくはエチル基などのアルキル基又はフェニル基などのアリール基などで置換されていてもよい。
【0016】
R及びR’が炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のあるアルキル基、特にオクチル基であり;A、B、C、D、A’、B’、C’、及びD’が水素である、前記式(I)で示される錯体化合物は、良好な蓄熱効果が得られる点で好ましい。
【0017】
R及びR’が、非置換であっても、あるいはメチル基若しくはエチル基などのアルキル基又はフェニル基などのアリール基などで置換されていてもよい、アリール基、特にフェニル基であり;AとB同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になってアリール環、特にベンゼン環を形成し、A’とB’同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になってアリール環、特にベンゼン環を形成し、C、D、C’、及びD’が水素である、前記式(I)で示される錯体化合物は、良好な蓄熱効果が得られる点で好ましい。
【0018】
本発明の二価の遷移金属イオンは、配位子である後記の式(III)又は(III’)で示される2-ヒドロキシフェニル-1-イミン化合物に結合(配位)するものであれば特に制限されないが、好ましくは、周期表第4周期の遷移金属元素から選択されるものであり、特には、亜鉛(II)、銅(II)、ニッケル(II)、コバルト(II)、マンガン(II)、及び鉄(II)、とりわけ銅(II)又はニッケル(II)である。
【0019】
本発明の式(I)の錯体化合物において、
R及びR’がいずれもオクチル基であるか、あるいは非置換又はメチル基、エチル基、若しくはフェニル基で置換されているフェニル基であり;
R及びR’がいずれもオクチル基である場合、A、B、C、D、A’、B’、C’、及びD’が水素であるか、又はR及びR’がいずれも非置換又はメチル基、エチル基、若しくはフェニル基で置換されているフェニル基である場合、AとB同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になってベンゼン環を形成し、A’とB’同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になってベンゼン環を形成し、C、D、C’、及びD’が水素であり;
かつMが、亜鉛(II)、銅(II)、ニッケル(II)又は鉄(III)、特に銅(II)又はニッケル(II)であるのが、良好な蓄熱効果が得られる点で好ましい。
【0020】
本発明の式(I)の錯体化合物の製法は特に制限されないが、以下のスキーム1〜3に示される工程に従って簡便に製造することができる。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
上記スキーム1及び2の工程1では、式(II)又は(II’)で示される2-ヒドロキシフェニル-1-アルデヒド化合物(式中、A、B、C、D、A’、B’、C’、及びD’は前述の式(I)で定義されたとおりである)を、種々のアルキルアミン又は芳香族アミンといったアミン化合物(R-NH又はR’-NH、ここで、R及びR’は前述の式(I)で定義されたとおりである)と、例えばメタノールやエタノールなどのアルコール中で反応させて、2-ヒドロキシフェニル-1-イミン化合物(III又はIII’)を合成する。出発物質の2-ヒドロキシフェニル-1-アルデヒド化合物及びアミン化合物はいずれも市販されているか、公知の方法で製造できる。
【0024】
【化4】

【0025】
上記スキーム3の工程2では、前記スキーム1及び2で合成した式(III)及び(III’)で示される2-ヒドロキシフェニル-1-イミン化合物を、例えばテトラヒドロフランやクロロホルムなどの有機溶媒、エタノールなどのアルコール、又はこれらの混合溶媒、例えばテトラヒドロフランとエタノールとの混合溶媒に溶かし、そこに遷移金属化合物(MX)、例えば遷移金属塩をメタノールやエタノールなどのアルコールに溶解させた溶液を加えると、2-ヒドロキシフェニル-1-イミン化合物(III及びIII’)の水素イオンと遷移金属イオンが交換されて錯体が形成されて沈殿が生じる。ろ過により回収して本発明の錯体化合物(I)を得る。
得られた錯体化合物は、そのまま本発明の蓄熱材などに使用してもよいが、テトラヒドロフランなどの溶媒に溶解させ、適量のエタノールなどを加えることで析出させた結晶など、精製したものを使用してもよい。
【0026】
本発明おいて遷移金属化合物:MXは、二価の遷移金属イオン、好ましくは周期表第4周期の遷移金属から選択されるもの、特に好ましくは亜鉛(II)、銅(II)、ニッケル(II)、コバルト(II)、マンガン(II)、又は鉄(II)を、式(III)又は(III’)の配位子に供給して、式(I)の錯体化合物を形成させうるものであれば特に制限されない。本発明に使用する遷移金属化合物の例としては、上記遷移金属の塩、例えば上記遷移金属の低価数の無機酸塩、有機酸塩、又は錯塩の形で一般に使用されるものが挙げられる。そのような遷移金属化合物としては、アセチルアセトン亜鉛(II)、アセチルアセトン銅(II)、アセチルアセトンニッケル(II)、アセチルアセトンコバルト(II)、アセチルアセトンマンガン(II)、塩化亜鉛(II)、塩化コバルト(II)、塩化鉄(II)、炭酸亜鉛(II)、炭酸コバルト(II)、炭酸マンガン(II)、酸化コバルト(II)、酢酸亜鉛(II)、酢酸銅(II)、酢酸ニッケル(II)、酢酸コバルト(II)、酢酸マンガン(II)、ステアリン酸亜鉛(II)、ステアリン酸コバルト(II)、ステアリン酸マンガン(II)、乳酸亜鉛(II)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。酢酸亜鉛(II)、酢酸銅(II)、酢酸ニッケル(II)、又は塩化鉄(II)の使用が好ましい。
【0027】
(蓄熱材)
本発明の蓄熱材は、式(I)で示される錯体化合物そのものであってよいし、あるいは2種以上の式(I)で示される錯体化合物からなるものであってもよいし、あるいは本発明の効果を損なわない限り、他の添加剤、例えば薄膜形成時の膜強度を高めるためのバインダーや、薄膜の熱伝導率を高めるために金属やカーボンナノチューブ(CNT)などを、上記錯体化合物1種以上と共に含んでいてもよい。特に、錯体化合物を2種含む蓄熱材は、蓄熱現象が出現するまでの加熱冷却サイクル数が減少する点で好ましい。
本発明の蓄熱材の製法は特に制限されないが、例えば、上記錯体化合物1種以上、及び必要に応じて添加される上記添加剤を撹拌混合して均一に分散させて製造することができる。この蓄熱材を適当な容器、例えばカプセル状の蓄熱材容器(蓄熱カプセル)に充填して使用してもよい。このような蓄熱カプセルの容器の材質としては、ポリプロピレン等のプラスチック、あるいはアルミニウム、ステンレス等の金属を用いることができる。
【0028】
以下、本発明の熱利用システムの実施形態として車両用空調システム(実施形態1〜3)及び住宅用空調システム(実施形態4)を説明するが、ここに示す実施形態は、常温よりも高い熱を蓄熱することを想定している。本発明の蓄熱材は、常温よりも低い熱も蓄えることもできる、すなわち蓄冷材の用途もあるため、本発明はこれらに限られるものではない。
その前に先ず、図1を用いてエンジンに取り込んだ空気の流れを説明する。吸気口から取り込んだ空気は、フィルターで除塵後、吸気マニホールドからエンジン内に供給される。供給された空気は、エンジン内で燃料とともに燃焼し、燃焼熱とともに排気ガスが、排気マニホールドから排気される。この排気は、触媒で排ガスの浄化を行った後、エキゾーストパイプ内を通り、マフラーから排出される。
次に、図2を用いてエアコンでの空気の流れを説明する。空気の流れは、内外気切替ドアから取り込んだ空気を、ブロアファンで送り出し、エバポレータ(冷却)、ヒータコア(加熱)を通った後、吹き出し口から車室内に供給される。吹き出す空気の温度は、エバポレータとヒータコアの間にあるエアミックスドアにより、制御される。また内外気切り替えドアの位置により、取り込む空気を車室内あるいは車室外から選択することができる。一般的には、車室内から取り込むと[内気モード]、外気から取り込むと[外気モード]と呼ばれる。
次に、図3を用いてエンジンとエアコン(特にヒータ)での空気と水の流れを説明する。熱利用システムは、熱、特に排熱を回収し、それを熱として再利用するものである。「空気流れ」と「水の流れ」をヒータという観点から平易に説明する。
(空気の流れ)
エンジンに取り込まれた空気は、エンジン内の燃焼により、燃焼熱を伴って排気ガスとして排出される。排気管の温度は、排気マニホールド近傍が最も高温であり、マフラーに向かっていくに従って温度が低下する。排気管の温度は、定常状態の運転(例えば、40km/hでの一定走行時)であれば、排気マニホールドで500〜600℃程度、触媒〜マフラー間で200〜300℃である。
(水の流れ)
エンジンから出る熱を冷却水で取り除き、冷却水が所望の温度以上(サーモスタットで測定)になると、ラジエータから排熱し、冷却水を一定に保つ制御をしている。エアコンでの暖房は、この冷却水の一部をヒータコアに循環することで行っている。
【0029】
(実施形態1)
図4を用いて、エンジンの排熱を排気マニホールドから回収する実施形態1を説明する。回収した熱をエンジン始動時など冷却水温度が低いときの熱源として利用する。
[操作]走行中、排気マニホールドで発生する排熱を本発明の蓄熱材を備える熱回収・放出部(図中の斜線部)で熱回収する。上記蓄熱材は、エンジンが停止した後も排熱のエネルギーを結晶構造の変化として物質内に保持し得る。エンジンが再び始動される時(例えば、翌日の朝など)に、上記蓄熱材が蓄えるエネルギーを放出させ、冷却水(実施形態3では、空気)を加熱することができる。
[効果]回収した熱を供給する場所により、2つの効果を発揮できる。一つ目は、主にヒータコアを加熱する場合である。上記熱回収・放出部からヒータコアの冷却水ループを用いてヒータコアを加熱すると、エンジン始動直後からの暖房が可能となる。二つ目は、エンジン周囲の冷却水を加熱する場合である。エンジンに加熱された冷却水を供給すると、エンジン始動時の暖機運転時間が短くなるだけでなく、「空気の流れ」の下流にある触媒層の大きさ(容積)を小さくできるという利益をもたらす。
【0030】
(実施形態2)
図5を用いて、エンジンの排熱を排気管から回収する実施形態2を説明する。本発明の蓄熱材を備える熱回収・放出部の設置場所は、排熱温度の高い触媒前(図中の斜線部)の方が好ましいが、特に限定されるものではなく、排気マニホールドなどいずれに設置することができる。[操作]及び[効果]については、実施形態1と同じである。
【0031】
(実施形態3)
図6を用いて、エンジンの排熱を排気管から回収し、直接空気を暖気する実施形態3を説明する。暖気する空気は、エアコンの「空気の流れ」からエアーポンプ等により吸引し、加熱後、再びエアコンに戻す。戻す場所は、エバポレータとヒータコアの間が好ましい。本発明の蓄熱材を備える熱回収・放出部の設置場所は、排熱温度の高いところ、例えば触媒前(図中の斜線部)が好ましいが、特に限定されるものではなく、排気マニホールドなどいずれに設置することもできる。[操作]は実施形態1と同じである。[効果]は、エンジン始動直後からの暖房が可能という点である。
【0032】
(実施形態4)
図7を用いて、住宅での太陽光の熱エネルギーを回収する実施形態4を説明する。熱エネルギーとして利用する光の波長は、780nmよりも長波長である(図8)。したがって熱エネルギーを受ける形態は、輻射となる。本発明の蓄熱材を備える熱回収・放出部が太陽光を受けて、太陽からの熱エネルギーを回収する。その後、任意時に上記蓄熱材が蓄えるエネルギーを放出させ、冷却水を加熱したり、その熱をお風呂や床暖房に利用したりする。[効果]は、光熱費の削減である。
【0033】
(実施形態5)
図9を用いて、本発明の蓄熱材を備える熱回収・放出部に関する実施形態5を説明する。熱源は、温度が高いほど好ましいが、排気マニホールドなどいずれの場所に設置してもよい。熱源からの熱エネルギーを上記蓄熱材に伝えるエネルギー形態は、伝導、対流、及び輻射のいずれの形態でも可能である。
対流を使う場合は、熱源と上記蓄熱材層との間の空気層を十分に攪拌するためのファンなどを備える方が好ましい。輻射では、熱源の輻射面に対して、平行になる様に上記蓄熱材層を設置することが望ましい。熱源と蓄熱材層との間の空間には、空気の層が設けられている。この距離は、特に限定されないが、蓄熱材に最適な温度になるようにその距離を決めればよい。上記蓄熱材に貯蔵したエネルギーを放出して、冷却水又は空気に伝熱する際には、伝熱効率を高めるために、放出側(伝導図中のA面)には表面積を高めるためのフィン材を設置することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示し、本発明の詳細を説明するが、これらの実施例は本発明を限定することを意図するものではない。
【0035】
[実施例1]
6.88g(40.0mmol)の2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒドをエタノール10ml中で加熱しながら溶解させ、3.72g(20.0mmol)のアニリンを加えた。70℃で1時間還流攪拌したあと、TLCで反応終了を確認した。冷蔵庫で一晩静置したところ結晶が生成し、生じた沈殿を桐山ロートでろ過した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、2-ヒドロキシ-1-ナフチルメチリデンアニリン(以下「HNA」ともいう)の黄色結晶(9.17g、93%)を得た。0.99g(4.00mmol)のHNAを脱気エタノール50mlに溶解させ、撹拌しながら0.40g(2.00mmol)の酢酸銅一水和物の脱気エタノール溶液50mlを加えた。70℃で1時間還流攪拌したところ沈殿が生成し、TLCで反応終了を確認した。生じた沈殿を桐山ロートでろ過し、エタノールで十分に洗浄した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、赤褐色結晶(1.10g、98%)として下式で表される錯体化合物NACuの粗生成物を得た。また、得られた結晶の一部をテトラヒドロフランに溶解し、その4倍容のエタノールを加えて結晶を析出させた。これをろ過、減圧乾燥し、錯体化合物NACuの精製物も得た。
【0036】
【化5】

【0037】
[実施例2]
0.13g(1.0mmol)のオクチルアミンと0.12g(1.0mmol)のサリチルアルデヒドをエタノール7.5mlに溶解させ、撹拌しながら0.10g(0.5mmol)の酢酸銅一水和物のエタノール溶液5mlを加えた。70℃で1時間還流攪拌したあと、TLCで反応終了を確認した。反応液が5ml程度になるまでエバポレータで溶媒を留去したあと、冷蔵庫で一晩静置したところ結晶が生成した。桐山ロートでろ過し、エタノールで十分に洗浄した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、褐色鱗片結晶(0.19g、72%)として下式で表される錯体化合物S8Cuを得た。
【0038】
【化6】

【0039】
[実施例3]
3.44g(20.0mmol)の2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒドをエタノール50ml中で加熱しながら溶解させ、3.38g(20.0mmol)の2-アミノビフェニルを加えた。70℃で1時間還流攪拌したあと、TLCで反応終了を確認した。エバポレータで溶液を30ml程度に濃縮したところ結晶が生成し、桐山ロートでろ過した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、2-ヒドロキシ-1-ナフチルメチリデン-2-フェニルアニリン(以下「HNBP」ともいう)の黄色結晶(5.62g, 87%)を得た。
1.29g(4.00mmol)のHNBPを、テトラヒドロフラン20mlとエタノール30mlの混合溶媒に溶解させ、撹拌しながら0.50g(2.00mmol)の酢酸ニッケル四水和物のエタノール溶液50mlを加えた。70℃で1時間還流攪拌したところ結晶が析出した。TLCで反応終了を確認した。生じた結晶を桐山ロートでろ過し、エタノールで十分に洗浄した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、緑褐色結晶(1.35g, 96%)として下式で表される錯体化合物NBPNiの粗生成物を得た。
【0040】
【化7】

【0041】
[実施例4]
3.44g(20.0mmol)の2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒドをエタノール50ml中で加熱しながら溶解させ、2.14g(20.0mmol)のo -トルイジンを加えた。70℃で1時間還流攪拌したあと、TLCで反応終了を確認した。エバポレータで溶液を30ml程度に濃縮したところ結晶が生成し、桐山ロートでろ過した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、2-ヒドロキシ-1-ナフチルメチリデン-2-メチルアニリン(以下「HNOT」ともいう)の黄色結晶(4.24g, 81%)を得た。
1.06g(4.00mmol)のHNOTをテトラヒドロフラン20mlとエタノール30mlの混合溶媒に溶解させ、撹拌しながら0.50g(2.00mmol)の酢酸ニッケル四水和物のエタノール溶液50mlを加えた。70℃で1時間還流攪拌したところ結晶が析出した。TLCで反応終了を確認した。生じた結晶を桐山ロートでろ過し、エタノールで十分に洗浄した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、緑褐色結晶(1.04g, 89%)として下式で表される錯体化合物NOTNiの粗生成物を得た。得られた結晶の一部をテトラヒドロフランに溶解し、その4倍容のエタノールを加えて結晶を析出させた。これをろ過、減圧乾燥し、錯体化合物NOTNiの精製物を得た。
【0042】
【化8】

【0043】
[実施例5]
3.44g(20.0mmol)の2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒドをエタノール50ml中で加熱しながら溶解させ、2.14g(20.0mmol)のm -トルイジンを加えた。70℃で1時間還流攪拌したあと、TLCで反応終了を確認した。エバポレータで溶液を30ml程度に濃縮したところ結晶が生成し、桐山ロートでろ過した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、2-ヒドロキシ-1-ナフチルメチリデン-3-メチルアニリン(以下「HNMT」ともいう)の黄色結晶(4.43g, 85%)を得た。
1.06g(4.00mmol)のHNMTをテトラヒドロフラン20mlとエタノール30mlの混合溶媒に溶解させ、撹拌しながら0.50g(2.00mmol)の酢酸ニッケル四水和物のエタノール溶液50mlを加えた。70℃で1時間還流攪拌したところ結晶が析出した。TLCで反応終了を確認した。生じた結晶を桐山ロートでろ過し、エタノールで十分に洗浄した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、緑褐色結晶(0.98g, 85%)として下式で表される錯体化合物NMTNiの粗生成物を得た。得られた結晶の一部をテトラヒドロフランに溶解し、その4倍容のエタノールを加えて結晶を析出させた。これをろ過、減圧乾燥し、錯体化合物NMTNiの精製物を得た。
【0044】
【化9】

【0045】
[実施例6]
6.88g(40.0mmol)の2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒドをエタノール10ml中で加熱しながら溶解させ、3.72g(40.00mmol)のアニリンを加えた。70℃で1時間還流攪拌したあと、TLCで反応終了を確認した。冷蔵庫で一晩静置したところ結晶が生成し、生じた沈殿を桐山ロートでろ過した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、2-ヒドロキシ-1-ナフチルメチリデンアニリン(以下「HNA」ともいう)の黄色結晶(9.17g, 93%)を得た。
0.99g(4.00mmol)のHNAをエタノール50mlに溶解させ、撹拌しながら0.50g(2.00mmol)の酢酸ニッケル四水和物のエタノール溶液50mlを加えた。70℃で1時間還流攪拌したところ沈殿が生成し、TLCで反応終了を確認した。生じた沈殿を桐山ロートでろ過し、エタノールで十分に洗浄した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、緑褐色結晶(1.03g, 94%)として下式で表される錯体化合物NANiの粗生成物を得た。得られた結晶の一部をテトラヒドロフランに溶解し、その4倍容のエタノールを加えて結晶を析出させた。これをろ過、減圧乾燥し、錯体化合物NANiの精製物を得た。
【0046】
【化10】

【0047】
[実施例7]
3.44g(20.0mmol)の2-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒドをエタノール50ml中で加熱しながら溶解させ、2.14g(20.0mmol)のp -トルイジンを加えた。70℃で1時間還流攪拌したあと、TLCで反応終了を確認した。エバポレータで溶液を40ml程度に濃縮したところ結晶が生成し、桐山ロートでろ過した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、2-ヒドロキシ-1-ナフチルメチリデン-4-メチルアニリン(以下「HNPT」ともいう)の黄色結晶(4.70g, 90%)を得た。1.06g(4.00mmol)のHNPTをテトラヒドロフラン20mlとエタノール30mlの混合溶媒に溶解させ、撹拌しながら0.40g(2.00mmol)の酢酸銅一水和物のエタノール溶液50mlを加えた。70℃で1時間還流攪拌したところ結晶が析出した。TLCで反応終了を確認した。生じた結晶を桐山ロートでろ過し、エタノールで十分に洗浄した。25℃で24時間減圧乾燥を行ない、赤褐色結晶(1.17g, 94%)として下式で表される錯体化合物NPTCuの粗生成物を得た。得られた結晶の一部をテトラヒドロフランに溶解し、その4倍容のエタノールを加えて結晶を析出させた。これをろ過、減圧乾燥し、錯体化合物NPTCuの精製物を得た。
【0048】
【化11】

【0049】
〔示差走査熱量計(DSC)の測定〕
本発明においてDSCの測定は、以下の装置及び条件で行った。
装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社 DSC3100SA
サンプル容器:アルミ開放セル
温度範囲:0〜200℃
加熱冷却速度:2〜40℃/min
パージガス:N
冷却方式:液体N
【0050】
上記実施例で製造された錯体化合物を乾燥して5〜8mg程度をアルミ開放セルに秤量し、20℃/minの加熱冷却速度でDSCを測定した。結果を図10〜17に示す。
これらの結果では、第一サイクルの昇温時に、融解に伴う吸熱ピーク(融解)が確認された。また同サイクルの冷却時には、吸発熱を示すピークは確認されなかった。そして第二サイクルでは、その昇温時に、発熱ピーク(結晶化)が確認された。その後、発熱ピーク温度以上に昇温すると、第一サイクルの昇温時に見られた吸熱温度付近に同様な吸熱ピーク(融解)が確認された。
但し、錯体化合物NaNiの精製物については、第一サイクルにおいて、昇温時には吸熱を示すピークが、冷却時には発熱を示すピークが確認され、第二サイクルにおいて、昇温時に吸熱を示すピークが確認され、冷却時に吸発熱を示すピークが確認されず、そして第三サイクルにおいて、その昇温時に発熱ピークが確認された(図15)。
従来の潜熱を利用した蓄熱材では、昇温時の吸熱(融解)とその後に続く冷却時の発熱(結晶化)は、対になった現象として確認される。これに対して本発明では、吸熱と発熱が対にならない。すなわち昇温時の吸熱を保持(蓄熱)し、次の昇温時に蓄熱した熱を放出すること(本明細書で「蓄熱現象」ともいう)ができる。したがって、熱をトリガーとして、蓄熱したエネルギーを放出することができる。
【0051】
〔機械的刺激による結晶化に伴う発熱の確認〕
本発明においてサーモグラフィーの測定は、以下の装置で行った。
メーカ:FLIR SYSTEMS
機器名:FLIR SC620
実施例2で得られた錯体化合物S8Cuの一定量を試料皿に取り、80℃で液化した後、過冷却状態で30℃に維持した。この過冷却状態の液状の錯体化合物S8Cuを金属スパチュラで突いて機械的刺激を与えたところ、当該刺激点を中心とした円状の結晶化が目視で確認された(図18の拡大映像)。さらに、当該結晶の円周部分に発熱が起こったことも確認できた(図18のサーモグラフィー)。この発熱は、錯体化合物S8Cuが物理的、機械的刺激によって結晶化して放熱したことを示している(図18)。
したがって、本発明の錯体化合物は、熱以外のトリガー、例えば、物理的、機械的な刺激によっても、蓄熱したエネルギーを放出できることが認められた。
【0052】
〔混合物のDSC測定〕
錯体化合物NANiの粗生成物と、これに錯体化合物NACuの精製物を5%添加して得た混合物のDSCを測定した。その結果を図19に示す。
この結果では、錯体化合物NACuの粗生成物が第三サイクルから蓄熱現象を発現するが、錯体化合物NANiの精製物の添加により、第二サイクルから発現することが確認された。
【0053】
〔加熱冷却サイクルの連続操作でのDSC測定〕
加熱冷却サイクルを複数回繰り返して、錯体化合物NMTNiの精製物についてDSCを測定した。その結果を図20に示す。
この結果では、蓄熱現象の発現が11サイクル目まで確認された。
【0054】
〔X線回折-示差走査熱量(X線DSC)同時測定〕
本発明において、X線DSC同時測定は、以下の装置及び条件で行なった。
装置:X線回折−示差走査熱量同時測定装置、Thermo plus EvoII(SmartLab(9KW))、株式会社リガク
<装置構成>
X線源:Cu-Kα
光源系:集中法光学系(反射法)
入射側スリット系:
ソーラスリット…5deg、長手制限スリット…5mm、
入射スリット(IS)…1/4deg
アタッチメント:XRD-DSCアタッチメント
受光側光学系:
ソーラスリット…5deg、受光スリット1(RS1)…8mm、
受光スリット2(RS2)…13mm
検出器:高速1次元X線検出器(D/teX Ultra)
<走査条件>
管電圧・管電流:45kV-200mA
走査軸:2Θ-Θ
操作方法:連続
走査範囲:5〜35deg.
測定時間:40deg./min
サンプル間隔:0.02deg.
<DSC条件>
昇温速度:10℃/min
雰囲気ガス:N(50ml/min)
冷却:低温用サーキュレーション
【0055】
上記実施例1及び2で製造された錯体化合物NACu(粗生成物)及びS8Cuを乾燥して5〜10mg程度を秤量し、X線DSC同時測定を行なった。一回加熱してから冷却して元の温度に戻す工程を1サイクルとする。1サイクル目と2サイクル目のDSCスペクトル及び各温度下での粉末X線回折スペクトルの結果を図21〜34に示す。
DSCの結果から、錯体化合物NACu及びS8Cuの吸・発熱挙動が、図10及び図11と同様であった。また同時に測定した粉末X線回折スペクトルから、吸熱ピーク後に非晶質(アモルファス)化している。一方、発熱ピークの後では、多数のシャープなスペクトルが確認されることから結晶化していることが確認できる。
よって、本発明の蓄熱材における蓄熱効果とは、融解後、非晶質の準安定(過冷却)状態を維持することであると示唆される。蓄熱効果のメカニズムについては、必ずしも明らかでないが、結晶化状態と融解(非晶質)状態との間での分子の配座などが異なっていることに起因していると考えている。なお、これらと同様の現象は上記サイクルを10回繰り返しても確認された(図20)。以上から、式(I)の化合物が結晶構造を変化させて吸・発熱、すなわち蓄熱を行なっていることが理解される。
【0056】
2サイクル目において、蓄熱効果を示した190.8℃〜203.0℃下での、錯体化合物NACuの粉末X線回折スペクトルでピークを示したブラッグ角を下記の表に示す。錯体化合物NACuでは、蓄エネルギー放出後、この回折パターンになる。すなわちこの回折パターンは、蓄熱効果を持つ錯体化合物NACu固有のパターンと言える。
【0057】
【表1】

【0058】
2サイクル目において、蓄熱効果を示した47.0℃〜59.4℃下での、錯体化合物S8Cuの粉末X線回折スペクトルにおいて、ピークを有するブラッグ角を下記の表に示す。錯体化合物S8Cuでは、蓄エネルギー放出後、この回折パターンになる。すなわちこの回折パターンは、蓄熱効果を持つ錯体化合物S8Cu固有のパターンと言える。
【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の蓄熱材は、車両用の排熱利用システム又は住宅用の熱利用システム(例えば空調システム)などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化12】


〔式中、
R及びR’は、互いに独立して、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のあるアルキル基であるか、又は場合により置換されているアリール基であり;
Mは二価の遷移金属イオンであり;
A、B、C、D、A’、B’、C’、及びD’は水素であるか、あるいはそれらのうちの隣り合う2個同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になって場合により置換されているアリール環を形成する〕
で示される錯体化合物を含むことを特徴とする、蓄熱材。
【請求項2】
R及びR’がオクチルであるか、あるいは非置換又はメチル基、エチル基、若しくはフェニル基で置換されているフェニルである、請求項1記載の蓄熱材。
【請求項3】
AとB同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になってベンゼン環を形成し、A’とB’同士が互いに結合してそれぞれが結合する炭素原子2個と一緒になってベンゼン環を形成し、C、D、C’、及びD’が水素である、請求項1又は2記載の蓄熱材。
【請求項4】
二価の遷移金属イオンが、周期表第4周期の遷移金属から選択されるものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の蓄熱材。
【請求項5】
二価の遷移金属イオンが、亜鉛(II)、銅(II)、ニッケル(II)、コバルト(II)、マンガン(II)、又は鉄(II)である、請求項4記載の蓄熱材。
【請求項6】
下式:
【化13】


で示される請求項1に定義された式(I)で示される錯体化合物の結晶であって、粉末X線回折スペクトルにおいて下記のブラッグ角:
【表3】


にピークを有することを特徴とする結晶。
【請求項7】
下式:
【化14】


で示される請求項1に定義された式(I)で示される錯体化合物の結晶であって、粉末X線回折スペクトルにおいて下記のブラッグ角:
【表4】


にピークを有することを特徴とする結晶。
【請求項8】
請求項6又は7記載の結晶を含むことを特徴とする、蓄熱材。
【請求項9】
請求項1〜5又は8のいずれか1項記載の蓄熱材を備えた熱利用システム。
【請求項10】
車両用排熱利用システムである、請求項9記載の熱利用システム。
【請求項11】
住宅用排熱利用システムである、請求項9項記載の熱利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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