説明

蓄熱材及び蓄熱システム

【課題】固相率が所定の割合に達したことを温度で判断することができ、かつ、放熱あるいは蓄熱前後での温度差を小さくできる蓄熱材を提供する。
【解決手段】熱源から供給された熱を蓄熱して、その熱を熱負荷に放熱する蓄熱システムに用いる蓄熱材であって、凝固および融解時に偏晶反応を起こし、その偏晶温度TMが、熱負荷の温度Taより高く、熱源の温度Tbより低い偏晶型の多成分混合物からなり、多成分混合物の組成が、偏晶反応を起こす組成である蓄熱材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源から供給された熱を潜熱として蓄熱し、その熱を熱負荷に放熱する蓄熱材及び蓄熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体と液体の相変化による潜熱を利用して、熱源からの熱を蓄熱して熱負荷に放熱する潜熱蓄熱材は、顕熱蓄熱材と比較して蓄熱密度が大きく、かつ、熱負荷の温度を略一定に保つことができるという利点があり、例えばソーラシステム等の蓄熱システムに用いられる。しかし、流動性が低い固体状態の潜熱蓄熱材の伝熱効率は、液体状態の潜熱蓄熱材の伝熱効率と比較して低いという欠点がある。そこで、潜熱蓄熱材に流動性を持たせて伝熱効率を向上させる技術の一つとしてスラリ化がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
スラリ化技術の一つとして、純物質または共晶点の組成を持つ共晶型の2成分混合物を使用する方法がある。放熱により冷却された2成分混合物は、融点または共晶点にて温度一定のまま凝固反応が起こる。固相率が30〜60%の固液共存状態となったときを放熱完了とすれば、攪拌することでスラリ化が実現できる。
【0004】
また、他のスラリ化技術の例として、共晶点からずらした組成の共晶型の2成分混合物を使用する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この場合、放熱により冷却された2成分混合物は、液相線温度で固相が晶出し始め、その後、系の温度が液相線に沿って低下しながら固相率が増加していく。固相率が30〜60%の固液共存状態となったときを放熱完了とすれば、攪拌することでスラリ化が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−204517号公報
【特許文献2】特開2007−254697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のスラリ化技術においては、以下のような問題があった。
【0007】
純物質、あるいは共晶点の組成の共晶型の2成分混合物を使用した場合には、凝固および融解時の温度を一定とできるものの、固相率が所定の割合に達したことを温度で判断することができないという問題点があり、固相率の制御が困難である。
【0008】
また、共晶点からずらした組成の共晶型の2成分混合物を使用した場合には、固相率が所定の割合に達したことを温度から判断できるものの、凝固および融解時の温度が一定ではなく、放熱開始時(あるいは蓄熱完了時)と放熱終了時(あるいは蓄熱開始時)の蓄熱材の温度差が大きい。このとき、放熱開始時の温度を一定とすると、蓄熱材に温度変化がないと想定した場合と比較して、放熱終了時の蓄熱材の温度が大きく低下することになるので、その蓄熱材から熱を受け取る熱負荷の温度をより低くする必要がある。つまり、放熱前後で蓄熱材の温度変化が大きい場合、蓄熱した熱を十分に取り出すためには、熱負荷の温度をより低くする必要がある。よって、蓄熱温度範囲(放熱開始時と放熱完了時の温度差)が大きくなり、蓄熱システムの効率が低下してしまう。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、固相率が所定の割合に達したことを温度で判断することができ、かつ、放熱あるいは蓄熱前後での温度差を小さくできる蓄熱材及び蓄熱システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために創案された本発明は、熱源から供給された熱を蓄熱して、その熱を熱負荷に放熱する蓄熱システムに用いる蓄熱材であって、凝固および融解時に偏晶反応を起こし、その偏晶温度が、前記熱負荷の温度より高く、前記熱源の温度より低い偏晶型の多成分混合物からなり、前記多成分混合物の組成が、前記偏晶反応を起こす組成である前記多成分混合物を用いた蓄熱材である。
【0011】
前記多成分混合物の組成が、その放熱完了時の固相率が30%以上60%以下となる組成であると良い。
【0012】
また本発明は、前記蓄熱材を用いた、蓄熱システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固相率が所定の割合に達したことを温度で判断することができ、かつ、放熱あるいは蓄熱前後での温度差を小さくできる蓄熱材及び蓄熱システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る蓄熱材に用いる偏晶型の2成分混合物の平衡状態図を示す図である。
【図2】本発明に係る蓄熱材の蓄熱及び放熱時の温度・エンタルピ線図を示す図であり、2成分混合物の組成と温度・エンタルピ線図との関係を示す図である。
【図3】本発明に係る蓄熱材に用いる偏晶型の2成分混合物の平衡状態図を示す図である。
【図4】偏晶型のCu−Pb系の平衡状態図を示す図である。
【図5】本発明に係る蓄熱システムの一例を示す模式図であり、(a)は蓄熱槽の外部に熱交換器を設置する構成を、(b)は蓄熱槽の内部に熱交換器を設置する構成を示す図である。
【図6】従来の蓄熱材に用いる共晶型の2成分混合物の平衡状態図を示す図である。
【図7】従来の蓄熱材の蓄熱及び放熱時の温度・エンタルピ線図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態について図面に基づき説明する。
【0016】
まず、本発明を説明するに先立ち、共晶型の2成分混合物を蓄熱材として使用した場合の挙動について説明しておく。
【0017】
図6は、成分AEおよび成分BEの2成分からなる共晶型の2成分混合物の平衡状態図を示す図である。なお、図6に示す共晶型の2成分混合物では、成分AEおよび成分BEは液体状態で完全に溶け合い液相Lとなり、固体状態で全く溶け合わず固相AEおよび固相BEとなる。
【0018】
さて、上述のように、共晶点Eの共晶組成xEを有する2成分混合物を用いた蓄熱材では、図6に示すように、共晶点Eの共晶温度TEにて温度一定のまま潜熱を放熱することになるため、液相Lが完全に固相AEと固相BEに凝固するまで、温度から蓄熱材の固相率を判断することができない。また、共晶点Eからずらした組成xAを有する2成分混合物を用いた蓄熱材では、固相率の変化を温度から判断することができるが、放熱(または蓄熱)前後で蓄熱材の温度が大きく変化する場合があり、図7に示されるように、放熱中の温度・エンタルピ線71が熱負荷の温度Taと交わり、熱を十分に放熱できない可能性がある。そのため、共晶型の2成分混合物を蓄熱材に用いた場合、その熱負荷の温度Taを、より低い熱負荷の温度Ta'とする必要があり、熱負荷の温度Taと熱源の温度Tbとの温度範囲である蓄熱温度範囲ΔTが大きくなってしまう(図6)。
【0019】
そこで本発明者らはこの問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、凝固および融解時に偏晶反応を起こす偏晶型の多成分混合物を蓄熱材に用いることで、固相率が所定の割合に達したことを温度で判断することができ、かつ、放熱あるいは蓄熱前後での温度差を小さくできることを見出した。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る蓄熱材に用いる偏晶型の2成分混合物の平衡状態図を示す図である。
【0021】
図1に示すように、この蓄熱材を構成する偏晶型の2成分混合物は、その偏晶温度TMが蓄熱温度範囲ΔT(すなわち、蓄熱システムの熱負荷の温度Taよりも高く、熱源の温度Tbより低い温度範囲)にあり、その放熱(凝固)および蓄熱(融解)時に偏晶反応を起こす成分AMおよび成分BMの2成分混合物から選択される。
【0022】
また、この蓄熱材の組成は、放熱(または蓄熱)時に偏晶反応を起こすように、2成分混合物の組成が偏晶反応を起こす組成、すなわち図1に示した偏晶線QN上の任意の組成から選択される。
【0023】
なお、蓄熱材の組成は、放熱完了時に偏晶型の2成分混合物の固相率が30%以上60%以下となる組成であることが望ましい。これは、放熱完了時の固相率を30%以上60%以下とすることで、蓄熱材のスラリ化を容易とし、伝熱効率を向上することができるためである。
【0024】
次に、本発明の蓄熱材で、放熱完了時の固相率を温度から判断できる理由について図1,2により説明する。ここでは、成分AMおよび成分BMの2成分からなり、偏晶点Mの偏晶組成yMを有する偏晶型の2成分混合物を用いる場合について説明する。
【0025】
図1に示すように、高温の液体状態で完全に溶け合い液相Lとなった2成分混合物は、冷却により偏晶点Mに達し、偏晶組成yMの液相Lから、固相AMと、偏晶線QNの液相Lに望む端点Nに対応した組成yNを有する液相LNとが生成する偏晶反応(液相L⇔固相AM+液相LN)を起こす。偏晶反応で生成する固相AMと液相LNの存在比は、所謂天秤の法則(てこの法則)により表される。より具体的には、2成分混合物の偏晶組成yMと偏晶線QNの交点(ここでは偏晶点)Mを用いて、線分MNの長さ:線分QMの長さの比として表される。よって、偏晶反応完了時の2成分混合物の固相率は、線分MNの偏晶線QNに対する長さの割合(MN÷QN)となる。この偏晶反応の間は、系の温度は偏晶温度TMで一定に保たれる。つまり、偏晶反応による潜熱を蓄熱システムに利用するためには、2成分混合物の偏晶温度TMが、蓄熱システムの熱負荷の温度Taより高く、熱源の温度Tbより低ければよい。
【0026】
液相Lから固相AMと液相LNを生成する偏晶反応が終了したとき、2成分混合物(蓄熱材)は、固相AMと液相LNの固液共存状態にあり、これらを攪拌することでスラリ化することが可能である。このときの蓄熱材の固相率は、30%以上60%以下であることが好ましい。また、偏晶反応の終了時には、偏晶温度TMで一定温度であった系の温度が再び低下し始める。よって、偏晶反応を利用すれば、温度変化から蓄熱材の固相率がMN÷QNに達したことを判断でき、スラリ化を行う上で扱いやすい。
【0027】
なお、本実施の形態に係る蓄熱材は、その2成分混合物の組成を偏晶点Mの偏晶組成yMに限定するものではなく、偏晶点Mよりも固相AMをより少なく生成する組成yM'や、反対に固相AMをより多く生成する組成yM"を有する2成分混合物を用いてもよい。
【0028】
例えば、図1に示すように、組成yM'の2成分混合物を用いた蓄熱材では、二液分離の境界線MNと組成yM'が交わる温度T1で、液相Lが成分AMに富む液相L1と、成分BMに富む液相L2に分離する。その後、温度低下に伴って、液相L1は偏晶点Mの偏晶組成yMに、液相L2は偏晶線QNの端点Nの組成yNに境界線MNに沿って近づき、やがて偏晶温度TMで偏晶反応を起こし、偏晶組成yMの液相L1が消費しつくされ、組成yNの液相LNと固相AMが残る。
【0029】
また、組成yM"の2成分混合物を用いた蓄熱材では、液相線CMと組成yM"が交わる温度T2で固相AMが晶出し始める。その後、液相Lの組成は液相線CMに沿って偏晶点Mの偏晶組成yMに近づき、偏晶温度に達すると偏晶反応が起きる。このように、偏晶型の2成分混合物の組成を偏晶線QN上の組成とすることで、凝固および融解時に偏晶反応を起こす蓄熱材とすることができ、偏晶反応による潜熱を蓄熱に利用することができる。
【0030】
なお、偏晶反応後に晶出する固相AMの量は、偏晶型の2成分混合物の組成が端点Qに近いほど多くなり、組成が端点Nに近いほど少なくなる。つまり本実施の形態では、偏晶型の2成分混合物の組成を偏晶線QN上で調節することで、偏晶反応終了後、すなわち放熱完了時の蓄熱材の固相率を自由に設定することができる。
【0031】
また本実施の形態の蓄熱材では、蓄熱させる蓄熱量を自由に設定することができる。ここで具体的に、熱源の温度Tbが液相線CMおよび境界線MNより高温であり、熱負荷の温度Taが偏晶線QNの直下である蓄熱システムにて、偏晶組成yM,組成yM',組成yM"の3種の2成分混合物を蓄熱材に用いる場合について説明する。
【0032】
図2に示すように、偏晶組成yMの2成分混合物を温度Tbから冷却する場合、その温度・エンタルピ線21は、温度Tbと偏晶温度TMの区間で単調減少を示し、偏晶温度TMでは、偏晶反応により温度一定のままエンタルピの減少を示す。
【0033】
次に、組成yM'の2成分混合物を冷却する場合、その温度・エンタルピ線22は、偏晶組成yMの場合と同様に、温度Tbと偏晶温度TMの区間で単調減少を示し、偏晶温度TMでは、偏晶反応により温度一定のままエンタルピの減少を示す。偏晶反応の終了時、2成分混合物から晶出する固相AMの量は、偏晶組成yMのものよりも少ないので、組成yM'の蓄熱材から放熱される潜熱の量は偏晶組成yMよりも少なくなる。
【0034】
また、組成yM"の2成分混合物の場合、その温度・エンタルピ線23は、温度Tbと温度T2(組成yM"と液相線CMが交わる温度)の区間で単調減少した後、温度T2と偏晶温度TMの区間では単調減少の勾配が凝固による潜熱で緩やかとなり、偏晶温度TMでは偏晶反応により温度一定のままエンタルピの減少を示す。偏晶反応の終了時には、より多くの固相AMが晶出するので、組成yM"の蓄熱材から放熱される潜熱の量はより多くなる。
【0035】
このように、本実施の形態の蓄熱材は、その偏晶型の2成分混合物の組成を任意に調節することによって、偏晶反応により晶出する固相AMの量を調節し、蓄熱量を自由に設定することができる。
【0036】
以上要するに、本実施の形態では、熱源から供給された熱を蓄熱して、その熱を熱負荷に放熱する蓄熱システムに、凝固および融解時に偏晶反応を起こし、その偏晶温度が、熱負荷の温度より高く、熱源の温度より低い偏晶型の多成分混合物からなり、その偏晶型の多成分混合物の組成が、偏晶反応を起こす組成である蓄熱材を用いるようにした。
【0037】
これにより、放熱あるいは蓄熱時に固相率が所定の割合に達したことを温度で判断することができ、かつ、放熱あるいは蓄熱前後での温度差を小さくできるため、スラリ化を行う上で取り扱いやすい蓄熱材とすることができる。
【0038】
なお、本実施の形態では、液体状態で一部溶け合い、固体状態で全く溶け合わない液相分離型の偏晶型の2成分混合物を用いた蓄熱材について説明したが、例えば図3に示すように、液体状態で一部溶け合い、固体状態で一部溶け合う偏晶型の2成分混合物を用いてもよい。図3に示す2成分混合物は、固体状態で一部溶け合い、主成分AMに成分BMが溶けた固溶体αMと、主成分BMに成分AMが溶けた固溶体βMを形成するが、図1に示した2成分混合物と同じく、偏晶反応による潜熱を蓄熱に利用する蓄熱材として使用できる。また、本発明は蓄熱材を2成分混合物に限らず、偏晶温度や粘度を調節するための成分を添加した多成分混合物であっても良い。
【0039】
次に、偏晶反応を起こす2成分混合物としてCu−Pb系の2成分混合物を用いた場合の、偏晶反応で得られる蓄熱密度(単位体積当たりのエンタルピ)を計算した一例を示す。ここではCu−Pb系の偏晶点の組成の2成分混合物を蓄熱材とし、その偏晶反応の蓄熱密度を、図4に示すCu−Pbの平衡状態図から求めた。
【0040】
図4に示すように、このCu−Pb系の偏晶点Mの組成(モル分率)はCu0.221で、端点Nの組成はCu0.629なので、偏晶反応終了後の固相率は天秤の法則(てこの法則)よりa=0.650となる。偏晶反応での放熱量は、その偏晶点の温度(1230[K])における融解エンタルピL(T)と固相率aの積で求められる。また、温度T[K]における融解エンタルピL(T)は、[数1]に示す式(1)より求められる。
【0041】
【数1】

【0042】
但し、cpml[J/(mol・K)]は純物質液相の定圧モル比熱、cpms[J/(mol・K)]は純物質固相の定圧モル比熱、Tm[K]は純物質の融点、L0[J/mol]は純物質の融解エンタルピである。
【0043】
これらCuの物性値は、
pml=32.844[J/(mol・K)] (900<T[K]<4000)
pms=−1111.3179+0.0934944879T
+360627463T-2−1909966.9T-1
+82126.974T-0.5 (1100<T[K]<2000)
m=1358[K]
0=13138[J/mol]
であり、偏晶点の温度T=1230[K]では、
pms=30.947[J/(mol・K)]
となる。
【0044】
よって、偏晶点の温度T=1230[K]における融解エンタルピはL=11669[J/mol]となり、偏晶反応で得られるエンタルピはL×a=7580[J/mol]となる。
【0045】
ここで、Cu原子量は63.55[g/mol]、Pb原子量は207.2[g/mol]であるので、
この2成分混合物の分子量は、
63.55×0.221+207.2×0.779=175.45[g/mol]
となる。
【0046】
また、Cuの密度は8.92[g/mL](20℃,1気圧)、Pbの密度は11.34[g/mL](20℃,1気圧)であり、Cuの質量分率は、
(63.55×0.221)/175.45=0.0800
であり、Pbの質量分率は、
(207.2×0.779)/175.45=0.920
である。
【0047】
さらに、0.221molのCuの容積は、
(63.55×0.221)/8.92=1.575[mL]
であり、0.779molのPbの容積は、
(207.2×0.779)/11.34=14.234[mL]
なので、この2成分混合物の密度は、
175.45/(1.575+14.234)=11.098[g/mL]=11098[kg/m3
となる。
【0048】
よって、Cu−Pb系の偏晶点Mの組成の蓄熱材から偏晶反応で得られる単位体積当たりのエンタルピは、
(7580[J/mol]×11098[kg/m3])/(175.45×10-3[kg/mol])=479000[kJ/m3
となり、蓄熱材として十分な蓄熱密度が偏晶反応により得られることがわかる。
【0049】
この偏晶反応で得られる蓄熱材の蓄熱密度で十分な熱量が確保できれば、図7に示すような、温度が略一定であるような温度・エンタルピ線72の蓄熱材が実現でき、蓄熱システムの蓄熱温度範囲ΔTをさらに小さくできる。
【0050】
次に、本実施の形態に係る蓄熱材を用いた蓄熱システムの一例を図5により説明する。なお、図5(a),(b)に示す蓄熱システム100aおよび蓄熱システム100bは一例であり、本実施の形態に係る蓄熱材31sを用いる蓄熱システムの構成はこれらに限定されない。
【0051】
図5(a)に示す蓄熱システム100aは、熱源11からの熱を本発明の蓄熱材31sに蓄熱して、その熱を熱負荷13に放熱するものである。また、蓄熱システム100aは、熱源11の熱を蓄熱材31sに蓄熱するための蓄熱熱交換器12と、その熱を熱負荷13に放熱するための放熱熱交換器14を、蓄熱材31sを貯留する蓄熱槽31の外部に設置する構成を有する。
【0052】
蓄熱材31sとしては、例えば偏晶型の2成分混合物を用いる。蓄熱槽31の蓄熱温度範囲は、蓄熱材31sが固液共存状態となるように、熱負荷13の温度が蓄熱材31sの偏晶温度よりも低く、熱源11の温度が蓄熱材31sの偏晶温度よりも高く設定される。
【0053】
蓄熱システム100aは、蓄熱槽31の出口31aから圧送ポンプ33により圧送した蓄熱材31sを、熱源11に接続した蓄熱熱交換器12を通じる蓄熱ライン34を経て入口31bに戻すか、あるいは熱負荷13に接続した放熱熱交換器14を通じる放熱ライン35を経て入口31bに戻すかを切替え可能にする流路切換手段32を備える。本実施の形態では、流路切換手段32を出側三方弁32aおよび入側三方弁32bで構成し、蓄熱時には蓄熱熱交換器12を蓄熱材31sが通流し、放熱時には放熱熱交換器14を蓄熱材31sが通流するように各三方弁32a,32bを切換えるようにした。
【0054】
蓄熱槽31に貯留された蓄熱材31sは、圧送ポンプ33によって熱源11に接続した蓄熱熱交換器12に送られることによって蓄熱した状態で蓄熱槽31に戻り、また、熱負荷13に接続した放熱熱交換器14に送られることによって放熱した状態で蓄熱槽31に戻る。
【0055】
蓄熱システム100aでは、熱源11で加熱された熱源用熱媒体を蓄熱熱交換器12に導入し、蓄熱熱交換器12にて熱源用熱媒体と蓄熱材31sとの間で熱交換させることにより、熱源11の熱を蓄熱材31sに伝えるようにしているが、熱源11が熱を出力するための出力用の熱交換器を備えるヒートポンプ等である場合には、その熱交換器を蓄熱熱交換器12として用いるようにしても良い。
【0056】
また、蓄熱システム100aでは、放熱熱交換器14にて蓄熱材31sと熱負荷用熱媒体との間で熱交換させ、加熱された熱負荷用熱媒体を熱負荷13に導入することで、蓄熱材31sの熱を熱負荷13に伝えるようにしている。
【0057】
なお、本実施の形態に係る蓄熱材を用いる蓄熱システムとしては、図5(b)に示すような、蓄熱槽31の内部に熱交換器31pを設置する構成を有する蓄熱システム100bとすることもできる。
【0058】
図5(b)に示す蓄熱システム100bの場合には、蓄熱材31sを貯留する蓄熱槽31の内部に、蓄熱槽31の入口31bから熱媒体を導入して出口31aまで通流させる、熱交換器としての螺旋状の熱媒体用流路31pが設けられる。入口31bから導入された熱媒体は、螺旋状の熱媒体用流路31pを通流する間に蓄熱材31sと熱交換し、蓄熱槽31の出口31aに至る。蓄熱槽31から導出された熱媒体は、熱源11に接続した蓄熱ライン34を経て加熱された状態で蓄熱槽31に戻るか、または、熱負荷13に接続した放熱ライン35を経て冷却された状態で蓄熱槽31に戻る。このとき、熱媒体は熱源11または熱負荷13と直接に熱交換をする。
【0059】
蓄熱槽31は蓄熱材31sを攪拌するための攪拌手段36を備え、この攪拌手段36により固液共存状態の蓄熱材31sを攪拌して、蓄熱材31sのスラリ化を行うようにしている。本実施の形態では攪拌手段36を、熱媒体用流路31pの螺旋の中央に配置され、蓄熱材31sを攪拌する3枚の攪拌羽根36fと、その攪拌羽根36fを回転させるためのモータ36mから構成した。攪拌手段36の攪拌羽根36fの枚数は3枚に限られず、蓄熱槽31の容量等に合わせて適宜変更可能である。
【0060】
なお、上述の蓄熱システム100a,100bの構成は一例であり、例えば蓄熱システム100aと蓄熱システム100bを組合わせた構成としても良い。
【符号の説明】
【0061】
b 熱源の温度
a 熱負荷の温度
M 偏晶温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源から供給された熱を蓄熱して、その熱を熱負荷に放熱する蓄熱システムに用いる蓄熱材であって、
凝固および融解時に偏晶反応を起こし、その偏晶温度が、前記熱負荷の温度より高く、前記熱源の温度より低い偏晶型の多成分混合物からなり、
前記多成分混合物の組成が、前記偏晶反応を起こす組成であることを特徴とする蓄熱材。
【請求項2】
前記多成分混合物の組成が、その放熱完了時の固相率が30%以上60%以下となる組成である請求項1記載の蓄熱材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の蓄熱材を用いた、蓄熱システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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