説明

蓄熱装置

【課題】設備コストを低減しながら相変化材を能率よく凝固、融解して、蓄熱量を多くする。
【解決手段】蓄熱装置は、相変化材1を凝固、融解させてその潜熱を利用して蓄熱する。蓄熱装置は、蓄熱槽2に、相変化材1と、この相変化材1よりも比重の大きい熱伝達液3を充填して、熱伝達液3の上に相変化材1を積層する状態としている。さらに、蓄熱槽2には上下方向に延長される熱伝導体7を配設して、熱伝導体7の下部を熱伝達液3に、上部を相変化材1に熱結合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化材を凝固、融解してその潜熱を利用して蓄熱する装置に関する。本明細書において「蓄熱」は、とくに広義に解釈するものであって、熱エネルギーを蓄える状態のみでなく、熱エネルギーを吸収できる状態をも含むものとする。たとえば、相変化材を冷却して凝固し、これを融解して熱エネルギーを吸収できる状態も蓄熱とする。すなわち、熱エネルギーを蓄える状態と、熱エネルギーを吸収できる状態の両方を「蓄熱」と定義する。
【背景技術】
【0002】
水は0℃で融解される相変化材である。0℃以上の温度で凝固、融解する相変化材としてパラフィン系の相変化材が開発されている。相変化材を凝固、融解させて潜熱を利用して蓄熱する装置は、コンパクトで蓄熱量を大きくできる特長がある。相変化材は、たとえば深夜電力で蓄熱して冷房や暖房に使用できる。冷房は、相変化材を深夜電力で凝固させる。相変化材が融解するときに周囲から奪う融解熱で室内を冷房する。冷房には、融解温度の低い相変化材を使用する。暖房は、相変化材を深夜電力で融解させる。相変化材が凝固するときに発生する凝固熱で室内を暖房する。暖房には、融解温度の高い相変化材を使用する。
【0003】
相変化材としてパラフィン系相変化材を使用する蓄熱装置は開発されている(特許文献1参照)。パラフィン系相変化材等の相変化材の融解熱は顕熱に比べて比較的大きく、これを凝固、融解して蓄熱する装置は、蓄熱量を大きくできる。しかしながら、相変化材は、速やかに全体を凝固させるのが難しい欠点がある。それは、凝固状態における熱伝導が悪いからである。たとえば、相変化材に熱交換パイプを挿入し、この熱交換パイプに低温液体を流して相変化材を冷却して凝固させる場合、熱交換パイプの周囲は凝固するが、凝固部分が速やかに拡大されない。それは、凝固した相変化材の熱伝導が悪いからである。
【0004】
相変化材にガラスビーズやアルミナビーズを互いに接触するように充填して、実質的な熱伝導を向上できる。互いに接触するガラスビーズやアルミナビーズが、熱を伝導させるからである。ただ、相変化材にこれ等のガラスビーズやアルミナビーズを充填すると、相変化材の充填量が少なくなり、容積に対する蓄熱量が少なくなる欠点がある。また、蓄熱量が減少するにもかかわらず、ガラスビーズやアルミナビーズを充填するので、部品コストが極めて高くなる欠点もある。
【0005】
本発明者は、この欠点を解消するために、相変化材を充填しているケーシングに複数の金属パイプを入れ、金属パイプを互いに接触させて金属パイプの熱伝導で相変化材を凝固、融解させる装置を開発した(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−320988号公報
【特許文献2】特開2004−156793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この構造の冷却装置は、多数の金属パイプを使用するので設備コストが高くなる。また、蓄熱槽に金属パイプを入れるのでパラフィン系相変化材を充填できる量が減少して、蓄熱量も少なくなる欠点がある。とくに、パラフィン系相変化材をより均一に凝固させるには多数の金属パイプを使用する必要があって、ますます設備コストが高くなり、またパラフィン系相変化材量が少なくなって蓄熱量が減少する欠点がある。さらにまた、金属パイプを介してパラフィン系相変化材を均一に凝固させるので、パラフィン系相変化材を直接に凝固させる構造に比較すると効率よく凝固させるのが難しくなる欠点もある。
【0007】
本発明は、さらにこの欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、設備コストを低減しながら相変化材を効率よく凝固、融解して、蓄熱量を多くできる蓄熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蓄熱装置は、相変化材1を凝固、融解させてその潜熱を利用して蓄熱する。蓄熱装置は、蓄熱槽2に、相変化材1と、この相変化材1よりも比重の大きい熱伝達液3を充填して、熱伝達液3の上に相変化材1を積層する状態としている。さらに、蓄熱槽2には上下方向に延長される熱伝導体7を配設して、熱伝導体7の下部を熱伝達液3に、上部を相変化材1に熱結合している。
【0009】
本発明の蓄熱装置は、熱伝達液3として、相変化材1の熱伝導率よりも大きい熱伝導率のものを使用して、効率よく相変化材に蓄熱できる。相変化材1は、パラフィン系の相変化材とすることができる。本発明の蓄熱装置は、相変化材1の凝固点を0℃よりも高くし、熱伝達液3を水とすることができる。本発明の蓄熱装置は、熱伝導体7を金属とすることができる。金属に代わって、炭素繊維やセラミック等も使用できる。この熱伝導体7は、金属パイプ、金属板のいずれかとすることができる。さらに、本発明の蓄熱装置は、熱伝達液3に伝熱管4を配設して、伝熱管4で熱伝達液3を冷却し、または熱伝達液3で伝熱管4を冷却することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄熱装置は、設備コストを低減しながら相変化材を効率よく凝固、融解して、蓄熱量を多くできる特長がある。それは、本発明の蓄熱装置が、蓄熱槽に、相変化材よりも比重の大きい熱伝達液の上に相変化材を積層する状態で充填すると共に、上下方向に延長される熱伝導体を蓄熱槽に配設して、熱伝導体の下部を熱伝達液に、上部を相変化材に熱結合しているからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための蓄熱装置を例示するものであって、本発明は蓄熱装置を以下のものに特定しない。
【0012】
さらに、この明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0013】
図1と図2に示す蓄熱装置は、相変化材1を凝固、融解させてその潜熱を利用して蓄熱する。この装置は、深夜電力で相変化材1を凝固又は融解させて、熱エネルギーを蓄熱できる。とくに、本発明の蓄熱装置は、冷房や冷却に適している。この蓄熱装置は、深夜電力で相変化材1を凝固させる。凝固した相変化材1は融解するときに周囲から熱を奪う、すなわち冷却するので、昼間の冷房や冷却に利用できる。冷却は、たとえば深夜電力で相変化材1を凝固させて、昼間に冷却する冷蔵庫等にも使用できる。蓄熱装置を使用して深夜電力を利用して、昼間に冷房し、あるいは冷却すると、深夜電力を有効に利用でき、また昼間のピーク電力を低くできる効果がある。ただし、本発明の蓄熱装置は、暖房や加熱にも利用できる。
【0014】
図1と図2に示す蓄熱装置は、蓄熱槽2に、相変化材1と、この相変化材1よりも比重の大きい熱伝達液3を充填している。相変化材1は熱伝達液3よりも軽いので、熱伝達液3の上に相変化材1が積層される状態、いいかえると、熱伝達液3の上に相変化材1が浮く状態となる。
【0015】
蓄熱槽2は、水密構造として熱伝達液3と相変化材1が漏れない構造としている。相変化材1は、融解状態から凝固すると体積が減少し、反対に凝固する状態から融解して体積が増加する。したがって、蓄熱槽2は、相変化材1の凝固、融解の体積変化を吸収できる構造としている。この構造は、たとえば、蓄熱槽を密閉構造として、上部に排出管を連結して、排出管を上方に延長する。排出管は、相変化材に連結される。また、蓄熱槽は、内部に空気を入れて、空気層に排出管を連結することもできる。さらに、空気を入れている蓄熱槽は、密閉構造として、空気を体積変化させて、いいかえると、内圧を変化させて、相変化材の体積変化を吸収することができる。また、空気を入れている蓄熱槽は、上部の空気層に連結するように一部を開口して、相変化材の体積変化を吸収できる。
【0016】
蓄熱槽2は、熱の無駄な放熱や吸熱を防止するために断熱している。断熱は、蓄熱槽2の外側あるいは内側に断熱材(図示せず)を張設して、熱伝達を少なくしている。蓄熱槽2は、所定量の熱伝達液3と相変化材1を充填できる形状とすることができる。蓄熱槽2は、金属製、コンクリート製、あるいはプラスチック製である。
【0017】
相変化材1は、凝固、融解する潜熱及び顕熱でエネルギーを蓄熱する。相変化材1は、凝固、融解する温度、すなわち融解温度を用途に最適な温度となるものが選択される。たとえば、冷房用の蓄熱装置は、融解温度を1〜12℃とする相変化材が使用される。この融解温度の相変化材として、パラフィン系のものがある。暖房用の蓄熱装置には、融解温度を20〜120℃とする相変化材が使用される。パラフィン系の相変化材は、結合しているカーボン数で融解温度を調整できる。カーボン数が多くなって分子量が多くなると融解温度が高くなる。相変化材は、融解温度よりも高い温度で熱融解される。さらに、融解温度よりも低い温度で凝固される。相変化材は、凝固状態から融解されて周囲から熱を吸収する。すなわち、この状態で周囲を冷却する。融解された状態から凝固すると熱を放出する。この状態で周囲を加熱する。相変化材1は、凝固と融解を繰り返して、潜熱に相当する熱エネルギーを吸収あるいは放出する。
【0018】
熱伝達液3は、熱伝導率を相変化材(1)の熱伝導率よりも大きいものが適している。熱伝達液が、伝熱管4と相変化材1の間に効率よく熱伝導できるからである。熱伝達液3は、水、又は水に塩化ナトリウム等の融点を低下させる無機材を溶解しているブライン液のいずれかである。相変化材にパラフィン系の相変化材を使用する場合、パラフィン系の相変化材の熱伝導率は液体の状態で約0.18W/mk、固体状態で0.17W/mkである。これに対して水の熱伝導率は液体の状態で0.59W/mkと相変化材よりも大きいので、水は、伝熱管から相変化材に、また相変化材から伝熱管に効率よく熱を伝達する。熱伝達液3は、相変化材1を凝固させる温度で凝固しない液体である。熱伝達液3は、常に液体の状態で相変化材1に接触して、相変化材1との間で熱交換する。図1に示す蓄熱装置は、熱伝達液3に浸漬する状態で配管している伝熱管4を介して、熱伝達液3を冷却又は加熱している。したがって、熱伝達液3は、伝熱管4で冷却され、又は加熱される状態においても液体の状態にあるものが使用される。
【0019】
相変化材1の凝固点が0℃よりも高い装置は、熱伝達液3に水を使用できる。相変化材1の凝固点が0℃よりも低い場合、熱伝達液3には0℃で凝固しないブライン液を使用する。ただし、相変化材1に凝固点が0℃以上のものを使用する装置においても、熱伝達液3にはブライン液を使用できる。熱伝達液3に水を使用する装置は、熱伝達液3を安価にできる。とくに、凝固点が5℃以上である相変化材1を使用する蓄熱装置は、熱伝達液3として水が適している。安価で取り扱いの簡単な水を使用して、ランニングコストを低減できるからである。相変化材1の凝固点が0℃に近付くと、これを冷却して凝固させる熱伝達液3の温度も0℃に近く、あるいは0℃以下にする必要がある。したがって、相変化材1の温度が5℃以下になると、熱伝達液3には好ましくは凝固点が0℃よりも低いブライン液を使用する。すなわち、相変化材1を凝固させる状態で熱伝達液3が凝固しないように、熱伝達液3の凝固点を、相変化材1の凝固点よりも3℃以上、好ましくは5℃以上低くするのがよい。
【0020】
図1に示すように、熱伝達液3を伝熱管4で冷却し、あるいは加熱する蓄熱装置は、伝熱管4を熱伝達液3に完全に浸漬できる状態、いいかえると、伝熱管4の全周を熱伝達液3の内部に配管できる量の熱伝達液3を蓄熱槽2に充填する。図1の蓄熱装置は、熱伝達液3に1本の伝熱管4を配管しているが、熱伝達液に複数の伝熱管を配管し、あるいは表面にフィンを固定している伝熱管を配管することができる。この蓄熱装置は、全ての伝熱管を熱伝達液に浸漬できる量の熱伝達液を蓄熱槽に充填する。伝熱管4を完全に熱伝達液3の液中に配管し、あるいは、フィンと伝熱管を液中に配設している蓄熱装置は、伝熱管4でもって効率よく熱伝達液3を冷却し、あるいは加熱できる。
【0021】
図1に示す蓄熱装置は、熱伝達液3に伝熱管4を配管し、この伝熱管4に循環液を循環させる。この装置は、伝熱管4の内部に通過させる循環液を、冷却器又は加熱器であるチラー5と外部熱交換器6とに循環させる。チラー5と外部熱交換器6は直列に連結されて、伝熱管4に通過される循環液を循環させる。チラー5は、循環液を冷却して相変化材1を凝固し、あるいは循環液を加熱して凝固した相変化材1を融解させる。この図の装置は、伝熱管4に循環液を循環させて、熱伝達液3を冷却又は加温するので、熱伝達液3をチラー5や外部熱交換器6に循環させる必要がない。このため、熱伝達液3を常に一定のレベルにできる。また、熱伝達液3と循環液とが混合しないので、熱伝達液3と循環液に、水とブライン等のように異なる液体を使用することができる。
【0022】
図2に示す蓄熱装置は、熱伝達液3を循環液として、チラー5と外部熱交換器6とに循環させる。チラー5と外部熱交換器6には、熱伝達液3が循環される。チラー5は、熱伝達液3を直接に冷却して相変化材1を凝固し、あるいは加熱して凝固した相変化材1を融解させる。この図の装置は、熱伝達液3をチラー5で直接に冷却又は加温するので、チラー5で効率よく熱伝達液3を冷却又は加熱できる。この装置は、熱伝達液3に水を使用する装置に適している。水を蓄熱槽2とチラー5と外部熱交換器6とに循環できるからである。
【0023】
以上の装置は、チラー5を深夜電力で運転して、相変化材1を凝固または融解させて蓄熱する。外部熱交換器6は、空調用の熱交換器、あるいは冷蔵庫や冷却器等の熱交換器である。空調用の熱交換器は、室内空気を通過させて、室内を冷房又は暖房する。また、冷蔵庫や冷却器の熱交換器は、冷蔵庫や冷却器を冷却する。
【0024】
さらに、蓄熱装置は、上下方向に延長される熱伝導体7を蓄熱槽2に配設している。熱伝導体7は、下部を熱伝達液3に、上部を相変化材1に熱結合している。熱伝導体7は、銅やアルミニウム等の金属である。金属は優れた熱伝導特性を有するので、熱伝達液3の熱を効率よく相変化材1に伝導し、また相変化材1の熱を熱伝達液3に伝導する。熱伝導体7は、金属パイプが最適である。金属パイプは、丸パイプ又は角パイプである。パイプは、貫通孔を設けて、内部に相変化材1や熱伝達液3を充填することができる。ただし、熱伝導体には、金属ロッドや金属板も使用できる。熱伝導体7は、相変化材1と熱伝達液3とに熱を伝導させるので、下端を熱伝達液3に浸漬させて熱結合状態とし、上部を相変化材1に挿通して熱結合状態としている。
【0025】
熱伝導体7は、相変化材1や熱伝達液3に熱結合する面積、いいかえると相変化材1や熱伝達液3に接触する面積を変更して、相変化材1や熱伝達液3から熱伝導体7に伝導する熱量をコントロールできる。熱伝導体7が相変化材1や熱伝達液3に熱結合する面積が小さくなると、相変化材1や熱伝達液3から熱伝導体7に伝導する熱量が少なくなる。反対に、熱伝導体7が相変化材1や熱伝達液3に熱結合する面積、すなわち接触面積が大きくなると、相変化材1や熱伝達液3から熱伝導体7に伝導する熱量が多くなる。この特性を利用して、相変化材1に蓄熱される熱エネルギーの取り出し量をコントロールできる。たとえば、蓄熱装置を深夜電力で相変化材1を凝固させる冷房装置に利用する場合、熱伝導体7が相変化材1又は熱伝達液3に熱結合する面積を変更して、相変化材1から取り出す熱エネルギー、いいかえると凝固した相変化材1が融解して熱伝達液3を冷却する熱量をコントロールできる。外気温度が高くて、冷房熱量を大きくする場合、熱伝導体7が相変化材1や熱伝達液3に熱結合する面積を大きくして、相変化材1が熱伝達液3を冷却する熱量を多くできる。また、冷房負荷が小さく、冷房熱量を小さくする場合、熱伝導体7が相変化材1や熱伝達液3に熱結合する面積を小さくして、相変化材1が熱伝達液3を冷却する熱量を小さくできる。熱伝導体7が相変化材1や熱伝達液3に熱結合する面積を変更するための機構として以下のメカニズムが採用できる。
【0026】
[熱伝導体が相変化材や熱伝達液に熱結合する面積を小さくして、相変化材と熱伝達液との伝導熱量を小さくする機構]
(1) 熱伝導体7を相変化材1の方向に移動させて、熱伝導体7が熱伝達液3に熱結合する面積を、相変化材1に熱結合する面積よりも小さくする。このメカニズムは、熱伝導体7を相変化材1に熱結合する面積を大きくするが、熱伝達液3に熱結合する面積を小さくするので、熱伝達液3と熱伝導体7との伝導熱量を小さくして、熱伝導体7による相変化材1と熱伝達液3との伝導熱量を小さくする。
(2) 熱伝導体7を熱伝達液3の方向に移動させて、熱伝導体7が相変化材1に熱結合する面積を、熱伝達液3に熱結合する面積よりも小さくする。このメカニズムは、熱伝導体7を熱伝達液3に熱結合する面積を大きくするが、相変化材1に熱結合する面積を小さくするので、相変化材1と熱伝導体7との伝導熱量を小さくして、熱伝導体7による相変化材1と熱伝達液3との伝導熱量を小さくする。
(3) 熱伝導体7を相変化材1と熱伝達液3の境界面に対して傾斜させる。このメカニズムでは、熱伝導体7が相変化材1と熱伝達液3の両方に熱結合する面積は変化しないが、熱伝導体7が相変化材1と熱伝達液3の両方に熱結合する領域が、相変化材1と熱伝達液3との境界部分の近傍に制限される状態となる。このため、相変化材1と熱伝達液3の全体的な熱交換の効率が低下して伝導熱量が小さくなる。
【0027】
図3は、熱伝導体7が、熱伝達液3の熱を効率よく相変化材1に伝導し、また、相変化材1の熱を効率よく熱伝達液3に伝導する状態を示す。図の矢印は、熱伝達液3が相変化材1を冷却する方向を示している。したがって、冷却は熱を奪うので、熱エネルギーは矢印と反対の方向に伝導される。熱伝導体7は、熱伝達液3と相変化材1の両方に熱結合されて、熱伝達液3と相変化材1との間の熱伝導を効率よくする。パラフィン系の相変化材1は、凝固すると比重が大きくなって底に沈降する。凝固して底に沈降したパラフィン系の相変化材1は、熱伝導が非常に悪い性質がある。このため、凝固した相変化材1Aが熱伝達液3との境界面に沈降すると、これが熱伝達液3と相変化材1との熱伝導を悪くする。このため、凝固した相変化材1Aの上にある液状の相変化材1Bは、熱伝達液3に冷却されなくなって凝固しなくなる。熱伝導体7は、下部を熱伝達液3に、上部を相変化材1に熱結合しているので、凝固した相変化材1Aの層を貫通して、熱伝達液3と液状の相変化材1Bとの熱伝導を効率よくする。このため、相変化材1が凝固して底に沈降しても、熱伝導体7を介して熱伝達液3は相変化材1を効率よく冷却して凝固させる。さらに、凝固しない液状の相変化材1Bは、熱伝導体7に冷却されて対流する。したがって、熱伝導体7は相変化材1を均一に冷却する。熱伝達液3が相変化材1を冷却して凝固させる状態において、熱エネルギーは、熱伝導体7を介して相変化材1から熱伝達液3に伝導される。以上の状態は、相変化材1を凝固して冷却のエネルギーを蓄熱する状態と、融解した相変化材1を凝固させて蓄熱した熱エネルギーで外部熱交換器6を加温する状態に発生する。すなわち、チラー5で熱伝達液3を冷却し、冷却された熱伝達液3が相変化材1を冷却して、冷却のエネルギーを凝固する相変化材1に蓄熱する状態と、融解した相変化材1を凝固させて、相変化材1が熱伝導体7を介して熱伝達液3を加温して蓄熱した熱エネルギーで外部熱交換器6を加温する状態に発生する。
【0028】
反対に、熱エネルギーを熱伝達液3から相変化材1に伝導する状態においては、凝固している相変化材1が融解される。この状態は、凝固した相変化材1を融解して蓄熱する状態と、凝固した相変化材1を融解させて蓄熱した冷却のエネルギーで外部熱交換器6を冷却する状態に発生する。すなわち、チラー5で熱伝達液3を加温し、加温された熱伝達液3が相変化材1を加温して、熱エネルギーを融解する相変化材1に蓄熱する状態と、凝固した相変化材1が融解されて、相変化材1が熱伝導体7を介して熱伝達液3を冷却して蓄熱した冷却のエネルギーで外部熱交換器6を冷却する状態に発生する。
【0029】
熱伝導体7が、極めて優れた作用効果を実現することを図4のグラフに示す。この図は、熱伝導体のない装置に対する、熱伝導体を設けた装置の蓄熱量の比率を示している。この図は、相変化材が凝固して蓄える蓄熱量(潜熱)を鎖線Aで、相変化材が冷却されて蓄える蓄熱量(顕熱)を一点鎖線Bで、相変化材の凝固と冷却で蓄えるトータルの蓄熱量を実線Cで示している。実線Cで示すように、熱伝導体7を設けた本発明の装置は、時間が経過するにしたがって、蓄熱する熱エネルギーが増加する。たとえば、2時間経過後には、蓄熱する熱エネルギーが熱伝導体のない装置に比べて2倍以上となり、ピーク時には約2.2倍となる。
【0030】
ただし、図4のグラフは、以下の条件で測定したものである。
(1) 蓄熱槽2の内容積は、縦×横×高さを、76mm×65mm×206mmとする。
(2) 伝熱管4は、外径を6mm、内径を4mmとする1本の銅パイプとする。
(3) 熱伝導体7は、蓄熱槽2の底から天井まで伸びる1本の銅パイプとする。
(4) 熱伝導体7の銅パイプは、外径を6mm、内径を4mmとする。
(5) 相変化材1は、凝固点の温度を12℃とするパラフィン系の相変化材を使用する。
(6) 熱伝達液3は水を使用し、底からの深さが16mmとなる充填量とする。
(7) 相変化材1は、熱伝達液3の上に充填されて、蓄熱槽2を満たす量とする。
(8) 伝熱管4に通過させる循環液の温度を2℃とする。
(9) 実験を開始する最初の熱伝達液3と相変化材1の温度は27℃とする。
【0031】
図1の蓄熱装置は、以下のようにして夏期の冷房に使用される。この図において、チラー5は、蓄熱槽2の伝熱管4から排出される循環液を吸入して冷却し、冷却した循環液を伝熱管4に循環させる。伝熱管4は、熱伝達液3と熱伝導体7を介して相変化材1を冷却して凝固させる。この図において、チラー5は、深夜電力で運転されて、たとえば12℃の循環液を吸入し7℃に冷却して伝熱管4に循環させる。チラー5が循環液を冷却する深夜において、循環液は外部熱交換器6を通過することなく蓄熱槽2に循環されるように、外部熱交換器6の両端に連結している切換弁8が切り換えられる。蓄熱槽2の伝熱管4に循環される7℃の循環液は、熱伝達液3を冷却し、熱伝達液3が相変化材1を凝固させる。蓄熱槽2の内部において、熱伝達液3は相変化材1に直接に接触して、また熱伝導体7を介して相変化材1を凝固させる。相変化材1を凝固させる熱伝達液3は温度が上昇し、これで加温される循環液は、温度が上昇してチラー5に循環される。この運転で蓄熱槽2の相変化材1が凝固されて、凝固された相変化材1は液相に変換するときに潜熱を奪う状態として熱エネルギーを蓄える。冷房するときは、伝熱管4の循環液を外部熱交換器6に循環させる。外部熱交換器6を通過する循環液は、室内空気を冷却して、7℃から15℃に加温される。加温された循環液は伝熱管4に循環され、蓄熱槽2の内部で熱伝達液3に冷却される。熱伝達液3は相変化材1の潜熱で冷却される。外部熱交換器6に伝熱管4の循環液を循環させるとき、チラー5を運転し、相変化材1の潜熱とチラー5の両方で循環液を冷却することもできる。
【0032】
暖房時には、以下のように運転される。この状態において、チラー5は伝熱管4に循環される循環液を加温する。伝熱管4は、熱伝達液3を介して相変化材1を加温して、相変化材1を融解する状態として熱エネルギーを蓄熱する。この状態において、チラー5は、深夜電力で運転されて循環液を加温して伝熱管4に循環させる。循環液4の加温は、チラー5に変わってヒータも使用できる。また、ヒータは、熱伝達液3の内部に内蔵して、熱伝達液3を直接に加温することもできる。加温される循環液は、外部熱交換器6を通過することなく蓄熱槽2内の伝熱管4に循環される。伝熱管4に循環される循環液は、熱伝達液3を加温し、熱伝達液3が相変化材1を直接に加温し、また熱伝導体7を介して相変化材1を加温して融解させる。相変化材1を融解する熱伝達液3は冷却され、冷却された熱伝達液3は伝熱管4で加温される。この運転で蓄熱槽2の相変化材1が融解されて、融解された相変化材1は固相に変換するときに潜熱を奪う状態として熱エネルギーを蓄熱する。暖房するときは、伝熱管4の循環液を外部熱交換器6に循環させる。外部熱交換器6を通過する循環液は、室内空気を加温して、冷却される。冷却された循環液は伝熱管4に循環され、伝熱管4は熱伝導体7と熱伝達液3を介して相変化材1で加温される。外部熱交換器6に循環液を循環させるとき、チラー5を運転し、あるいはヒータに通電して相変化材1の潜熱と両方で循環液を加温することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例にかかる蓄熱装置の概略構成図であって、夏期に冷房する状態を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例にかかる蓄熱装置の概略構成図である。
【図3】蓄熱槽の熱伝導体が熱伝達液の熱を相変化材に伝導する状態を示す概略図である。
【図4】本発明の蓄熱装置の従来の蓄熱装置に対する蓄熱量の比率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1…相変化材 1A…凝固した相変化材 1B…液状の相変化材
2…蓄熱槽
3…熱伝達液
4…伝熱管
5…チラー
6…外部熱交換器
7…熱伝導体
8…切換弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化材(1)を凝固、融解させてその潜熱を利用して蓄熱する蓄熱装置であって、
蓄熱槽(2)に、相変化材(1)と、この相変化材(1)よりも比重の大きい熱伝達液(3)を充填して、熱伝達液(3)の上に相変化材(1)を積層する状態としており、さらに、蓄熱槽(2)には上下方向に延長される熱伝導体(7)を配設して、熱伝導体(7)の下部を熱伝達液(3)に、上部を相変化材(1)に熱結合してなる蓄熱装置。
【請求項2】
熱伝達液(3)の熱伝導率が相変化材(1)の熱伝導率よりも大きい請求項1に記載される蓄熱装置。
【請求項3】
相変化材(1)がパラフィン系の相変化材である請求項1に記載される蓄熱装置。
【請求項4】
相変化材(1)の凝固点が0℃よりも高く、熱伝達液(3)が水である請求項1に記載される蓄熱装置。
【請求項5】
熱伝導体(7)が金属、炭素繊維、セラミックのいずれかである請求項1に記載される蓄熱装置。
【請求項6】
熱伝導体(7)が金属パイプ、金属板のいずれかである請求項5に記載される蓄熱装置。
【請求項7】
熱伝達液(3)に伝熱管(4)を配設しており、伝熱管(4)で熱伝達液(3)を冷却し、または熱伝達液(3)が伝熱管(4)を冷却する請求項1に記載される蓄熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−38266(P2006−38266A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214981(P2004−214981)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(000126414)株式会社アイピー (2)
【出願人】(000219820)株式会社トーエネック (51)
【出願人】(304031151)株式会社ミューテック (1)