説明

蓄熱部材の設置構造、および温室

【構成】 蓄熱部材の設置構造10では、蓄熱部材12を支持部材26によって支持して地面100から浮かせるとともに、蓄熱部材12を温室14の内壁面16と間隔を隔てて設置することにより、蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間へ繋がる空気通路32が形成される。そして、昼間の高気温時には、蓄熱部材12が、その室内側を自然対流によって上昇する暖気と熱交換を行うとともに、空気通路32を通って蓄熱部材12と内壁面16との間を上昇する暖気と熱交換を行う。また、夜間の低気温時には、蓄熱部材12が、その室内側を自然対流によって下降する冷気と熱交換を行うとともに、その室外側を下降する冷気と熱交換を行う。
【効果】 蓄熱部材が効率良く熱交換を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蓄熱部材の設置構造、および温室に関し、特にたとえば、潜熱蓄熱材を封入した蓄熱部材を温室等の構造物内に設置するための、蓄熱部材の設置構造、および温室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビニールハウス等の温室を温度制御する目的で、温室内に潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)を内装した蓄熱構造体(蓄熱部材)を設置する技術が公知である。
【0003】
たとえば、特許文献1には、南側の壁面を全光入射型の壁体にして、入射量を最大にするとともに、北側の壁面を蓄熱構造体によって形成した蓄熱温室が開示されている。そして、この北側壁面が、昼間は温室熱によって貯熱作用を、また夜間は温室に対して放熱作用を繰り返す。
【特許文献1】特開平4−131020[A01G 9/24]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、温室の北側壁面と、温室内の空気との熱交換を、実質的にその北側壁面における内壁面側の一部分だけでしか行うことができない。したがって、蓄熱構造体の大きさに対して熱交換に有効な部分の大きさが非常に小さく、熱交換の効率が悪いという問題があった。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、蓄熱部材の設置構造、および温室を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、効率良く熱交換を行うことができる、蓄熱部材の設置構造、および温室を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0008】
第1の発明は、所定の構造物内に潜熱蓄熱材を封入した蓄熱部材を設置する蓄熱部材の設置構造において、蓄熱部材を地面から浮かせた状態で構造物の内壁面と間隔を隔てて設置することによって、蓄熱部材と地面との間から蓄熱部材と内壁面との間へ繋がる空気通路を形成したことを特徴とする、蓄熱部材の設置構造である。
【0009】
第1の発明では、蓄熱部材の設置構造(10)は、潜熱蓄熱材を封入した蓄熱部材(12)をたとえば温室(14)内に設置するためのものである。実施例では、蓄熱部材を支持部材(26)によって支持して地面(100)から浮かせるとともに、蓄熱部材を温室の内壁面(16)と間隔を隔てて設置することにより、蓄熱部材と地面との間から蓄熱部材と内壁面との間へ繋がる空気通路(32)が形成される。このような設置構造では、昼間の高気温時には、自然対流によって暖かい空気が上昇するが、蓄熱部材がその室内側を上昇する暖気と熱交換を行うとともに、空気通路を通って蓄熱部材と内壁面との間を上昇する暖気とも熱交換を行って、それらの暖気から空気熱を奪うことにより、潜熱蓄熱材が溶融し、蓄熱される。また、夜間の低気温時には、自然対流によって冷たい空気が下降するが、蓄熱部材はその室内側および室外側を下降する冷気と熱交換を行って、昼間に潜熱蓄熱材に蓄えた熱を下降冷気に与える。
【0010】
第1の発明によれば、蓄熱部材がその内側の空気のみならず外側の空気とも熱交換を行うことができる。つまり、蓄熱部材が効率良く熱交換を行うことができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に従属し、蓄熱部材の蓄熱時に空気通路を開き、蓄熱部材の放熱時に空気通路を閉じる開閉手段を備える。
【0012】
第2の発明では、蓄熱部材(12)のたとえば室外側の下部に、蓄熱部材の蓄熱時に空気通路(32)を開き、蓄熱部材の放熱時に空気通路を閉じる開閉部材(34)が設けられる。よって、夜間の低気温時に蓄熱部材と内壁面(16)との間を下降した冷気が、空気通路を通って蓄熱部材の室内側へ流れ込んでしまうことがなく、しかも、温室(14)の外から温室内に伝播する冷気を開閉部材によって遮断することができる。
【0013】
第2の発明によれば、温室全体の保温性をより向上させることができる。
【0014】
第3の発明は、第2の発明に従属し、開閉手段は、蓄熱部材を上昇させることによって空気通路を開き、蓄熱部材を下降させることによって空気通路を閉じる昇降手段を含む。
【0015】
第3の発明では、たとえば温室(14)の躯体のパイプ材(46)に取り付けられた巻取り機(48)に蓄熱部材(12)が吊り下げられる。そして、昼間の高気温時には、たとえば巻取り機を回転させて蓄熱部材を上昇させることによって、蓄熱部材と地面(100)との間から蓄熱部材と温室の内壁面(16)との間へ繋がる空気通路(32)が形成される。また、夜間の低気温時には、たとえば巻取り機を回転させて蓄熱部材を下降させることによって、空気通路が蓄熱部材自身によって塞がれる。
【0016】
第4の発明は、第1ないし3のいずれかの発明の蓄熱部材の設置構造によって蓄熱部材が設置された温室である。
【0017】
第4の発明では、温室(14)内には、地面から浮かせた状態で内壁面(16)と間隔を隔てて蓄熱部材(12)が設置される。したがって、夜間の低気温時も温室内の温度低下が抑制され、延いては、温室内の昼夜の温度変動が抑えられる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、蓄熱部材を地面から浮かせた状態で内壁面と間隔を隔てて設置して、空気の循環を生じやすくしたため、蓄熱部材の熱交換の効率が向上される。
【0019】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施例の蓄熱部材の設置構造を示す斜視図である。
【図2】図1の蓄熱部材の設置構造を示す概略図である。
【図3】図1の潜熱蓄熱パネルを示す斜視図である。
【図4】図1の支持部材を示す斜視図である。
【図5】図1の蓄熱部材の設置構造における昼間の高気温時の空気の流れを示す図解図である。
【図6】図1の蓄熱部材の設置構造における夜間の低気温時の空気の流れを示す図解図である。
【図7】この発明の別の実施例の蓄熱部材の設置構造を示す概略図である。
【図8】図7の蓄熱部材の設置構造における昼間の高気温時の空気の流れを示す図解図である。
【図9】図7の蓄熱部材の設置構造における夜間の低気温時の空気の流れを示す図解図である。
【図10】この発明のさらに別の実施例の蓄熱部材の設置構造を示す概略図である。
【図11】支持部材の変形実施例を示す斜視図である。
【図12】支持部材の変形実施例を示す斜視図である。
【図13】図12の支持部材によって蓄熱部材を支持した状態を示す概略図である。
【図14】図12の支持部材に開閉部材を取り付けた様子を示す概略図である。
【図15】蓄熱部材の変形実施例を示す斜視図である。
【図16】図15の蓄熱部材の設置構造を示す概略図である。
【図17】この発明のさらに別の実施例の蓄熱部材の設置構造を示す概略図であって、(a)は、蓄熱部材を上昇させて空気通路を開いた様子を示す概略図であり、(b)は、蓄熱部材を下降させて空気通路を閉じた様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して、この発明の一実施例である蓄熱部材の設置構造10(以下、単に「設置構造10」という。)は、潜熱蓄熱材を封入した蓄熱部材12をビニールハウスやガラス室などの温室14内に設置するためのものである。
【0022】
図1および図2に示すように、この実施例では、蓄熱部材12は、潜熱蓄熱パネル12aを縦横に組み合わせることによって平板状に形成され、温室14の内壁面(つまり、室内側の壁面)16と一定の間隔を隔てて設置される。
【0023】
ここで、設置構造10の具体的な説明に先立って、潜熱蓄熱パネル12aについて説明しておく。
【0024】
図3に示すように、潜熱蓄熱パネル12aは、高密度ポリエチレンなどの合成樹脂からなる平板状の容器であり、その内部には、潜熱蓄熱材が封入される。
【0025】
潜熱蓄熱材としては、従来公知のものを適宜用いるとよく、たとえば塩化カルシウム6水和塩および硫酸ナトリウム10水和塩などの無機水和物を好適に用いることができる。この潜熱蓄熱材には、所望の相変化温度に調整するための融点調整剤が適宜添加される。潜熱蓄熱材の相変化温度は、設置環境において求められる温度に適宜調整され、特に限定されないが、温室に設置される場合には、10−25℃、好ましくは15−20℃に調整される。
【0026】
潜熱蓄熱パネル12aの上下(縦)方向の長さは、たとえば300−600mmに設定され、その左右(横)方向の長さは、たとえば300−600mmに設定される。また、潜熱蓄熱パネル12aの厚みは、たとえば10−30mmに設定される。
【0027】
潜熱蓄熱パネル12aには、厚み方向に対向する主面どうしを連結する1または複数(この実施例では28つ)の補強部18が設けられる。補強部18は、たとえば潜熱蓄熱パネル12aを厚み方向に貫通する管状に形成され、封入した潜熱蓄熱材が固形に相変化して膨張或いは収縮したときに主面が湾曲変形してしまうことを防止する。なお、図面の簡素化のために、図1では補強部18の図示を省略していることに留意されたい。
【0028】
また、潜熱蓄熱パネル12aの上下方向の各端には、互いに連結可能な形状にされている連結部20,22が形成される。そして、一方の潜熱蓄熱パネル12aの連結部20を、他方の潜熱蓄熱パネル12aの連結部22に嵌合させることによって、潜熱蓄熱パネル12aどうしを上下方向に連結させることが可能である(図1参照)。ただし、潜熱蓄熱パネル12aどうしの連結構造は、特に限定されず、この発明の要旨ではないため、詳細は省略する。
【0029】
さらに、潜熱蓄熱パネル12aの横方向の端には、潜熱蓄熱パネル12a内に潜熱蓄熱材を充填するための注入部24が形成される。注入部24は、たとえば円形等の開口であり、この開口が潜熱蓄熱パネル12a内に潜熱蓄熱材を充填した後にキャップなどを熱融着して塞がれる。
【0030】
図1および図2に戻って、温室14内の地面100上には、内壁面16と一定の間隔を隔てて、複数(この実施例では、10つ)の支持部材26が配置される。支持部材26は、温室14の内壁面16に沿う方向にほぼ等間隔で並べられ、この支持部材26の上に、上述した、蓄熱部材12が設けられる。
【0031】
支持部材26は、図4に示すように、一定以上の硬度を有する合成樹脂からなる略直方体状の本体28を含み、この本体28の上面には、凹状に窪む溝部30が形成される。すなわち、支持部材26は、全体として、略コ字形状を有している。
【0032】
本体28の寸法は、蓄熱部材12のサイズや重量等に応じて適宜設定されるが、その上下方向の長さは、たとえば100−200mmに設定され、その横方向の長さは、たとえば100−200mmに設定され、その厚みは、たとえば50−100mmに設定される。
【0033】
また、溝部30は、本体28の横方向の全長に亘って形成されており、その上下方向の長さ(深さ)は、たとえば50−100mmに設定される。そして、溝部30内に蓄熱部材12の底部(つまり、最下部の潜熱蓄熱パネル12a)を嵌め込む(差し込む)ことにより、蓄熱部材12が地面100から少し浮いた状態で保持される(図2参照)。
【0034】
溝部30の厚み方向の長さは、潜熱蓄熱パネル12aを嵌め込み可能であって、かつ潜熱蓄熱パネル12aを安定的に支持できるように、潜熱蓄熱パネル12aの厚みと等しいかやや大きくなるように設定され、たとえば10−30mmに設定される。
【0035】
なお、図示は省略するが、溝部30内に、面圧(接触圧)を大きくして潜熱蓄熱パネル12aとの密着性を向上させるための弾性材等を設けてもよい。
【0036】
図1を参照して、このような設置構造10を温室14内に構成するには、先ず、温室14の内壁面16と一定の間隔を隔てた温室14内の地面100上に、複数の支持部材26をほぼ等間隔で並べて配置する。
【0037】
そして、それらの支持部材26の上に左右に隙間ができないように潜熱蓄熱パネル12aを設置する。支持部材26の上に潜熱蓄熱パネル12aを設置するときには、隣接する支持部材26の各溝部30に潜熱蓄熱パネル12aがまたがるように潜熱蓄熱パネル12aを嵌め込むようにする。
【0038】
なお、蓄熱部材12と内壁面16との間隔があまり狭いと、潜熱蓄熱パネル12aと温室14の内壁面16とが接触して、詳細は後述する、空気通路32を通る空気の流れが妨げられることとなる。一方、この間隔があまり広いと、蓄熱部材12の熱交換効率が低下し、さらに温室14内の栽培可能面積も小さくなってしまう。したがって、蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間隔は、空気通路32を通る空気の流れを妨げることがなく、かつ蓄熱部材12の熱交換の効率が低下しないように、10−50mm程度に設定するとよい。
【0039】
それから、各潜熱蓄熱パネル12aの上に、用意しておいた別の潜熱蓄熱パネル12aを連結させ、所望の高さになるまで潜熱蓄熱パネル12aの連結作業を繰り返す。そして、蓄熱部材12が所望の高さになるまで組み上がったら、蓄熱部材12の左右(横)方向の端部に断熱用のシートや藁等の断熱部材(図示せず)を設けて、蓄熱部材12と内壁面16との間を塞ぐ。ただし、この断熱部材は、作業者が夜間の低気温時にのみ適宜設けるようにしてもよい。
【0040】
このような設置構造10では、蓄熱部材12を支持部材26によって支持して地面100から浮かせるとともに、蓄熱部材12を温室14の内壁面16と間隔を隔てて設置することにより、蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間へ繋がる空気通路32が形成される。
【0041】
昼間の高気温時、つまり蓄熱部材12の蓄熱時には、太陽熱を受けて温室14内の全体が暖められることにより、図5中に矢印で示すように、下部から上部へ空気の自然対流が起こり、暖められた空気(暖気)が上昇する。そして、蓄熱部材12がその室内側を上昇する暖気と熱交換を行って、暖気から空気熱を奪うことにより、潜熱蓄熱材は溶融し、蓄熱される。
【0042】
また、それと同時に、図5中に矢印で示すように、一部の空気が空気通路32を通って蓄熱部材12の室内側から室外側へ流れ込み、自然対流によって蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間を上昇する。そして、蓄熱部材12がその室外側を上昇する暖気と熱交換を行って、暖気から空気熱を奪うことにより、潜熱蓄熱材は溶融し、蓄熱される。
【0043】
一方、夜間の低気温時、つまり蓄熱部材12の放熱時には、図6中に矢印で示すように、温室14の外部から伝播する冷気を受けて温室14内の天井や壁面の付近の空気が冷やされることにより、上部から下部へ空気の自然対流が起こり、冷やされた空気(冷気)が下降する。そして、蓄熱部材12がその室内側および室外側を下降する冷気と熱交換を行って、潜熱蓄熱材に蓄えた熱を下降冷気に与えることにより、下降冷気による温室14の温度低下が抑制され、延いては、温室14内の昼夜の温度変動が抑えられる。
【0044】
以上のように、この実施例によれば、蓄熱部材12を地面100から浮かせた状態で温室14の内壁面16と間隔を隔てて設置することによって、蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間へ繋がる空気通路32を形成して、空気の循環を生じやすくしたため、蓄熱部材12がその内側の空気のみならず外側の空気とも熱交換を行うことができる。つまり、蓄熱部材12が効率良く熱交換を行うことができる。
【0045】
また、この実施例では、温室14の内壁面16に沿って蓄熱部材12を設置するようにしたため、夜間の低気温時に温室14の外から温室14内に伝播する冷気を蓄熱部材12によって遮断することができる。つまり、蓄熱部材12が断熱効果を発揮するので、断熱用のシート等を別途設けなくても、温室14全体の保温性を向上でき、特に、日当たりが悪く夜間の温度低下が著しい温室14の北側壁面の内壁面16に沿って蓄熱部材12を設置するようにすれば、より効果的に温室14の保温性を向上できる。
【0046】
ただし、これに限定される必要はなく、温室14の環境条件、温室14内での栽培作物や方法などの様々な条件に応じて、蓄熱部材12の設置位置や設置高さを適宜変更可能である。
【0047】
図7−図9に示すこの発明の他の一実施例である設置構造10では、蓄熱部材12の蓄熱時に空気通路32を開き、蓄熱部材12の放熱時に空気通路32を閉じる開閉部材34が設けられる。以下、図1に示す設置構造10と共通する部分については同じ番号を付して、重複する説明は省略する。
【0048】
開閉部材34は、たとえば軟質合成樹脂をフィルム状に薄く成形することによって形成され、図7に示すように、蓄熱部材12の室外側の下部に接着剤等によって取り付けられる。開閉部材34は、蓄熱部材12の左右(横)方向に隣接する支持部材34どうしの間に配置され、蓄熱部材12から下方かつやや外側(室外側)に向けて延び、その下端部が地面100に接することによって、蓄熱部材12と地面100との間を塞いでいる。
【0049】
このような設置構造10では、昼間の高気温時には、図8中に矢印で示すように、蓄熱部材12と地面100との間に流れ込んだ一部の空気によって開閉部材34と地面100との間に隙間ができて空気通路32が開き、その空気通路32を通って蓄熱部材12の室内側から室外側に流れ込んだ空気が、自然対流によって蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間を上昇する。そして、蓄熱部材12がその室外側を上昇する空気と熱交換を行って、蓄熱部材12が空気熱を奪うことにより、潜熱蓄熱材は溶融し、蓄熱される。また、当然、蓄熱部材12はその室内側を自然対流により上昇する暖気とも熱交換を行う。
【0050】
一方、夜間の低気温時、つまり蓄熱部材12の放熱時には、図9中に矢印で示すように、自然対流により冷気が蓄熱部材12と内壁面16との間を下降しても、空気通路32が開閉部材34によって塞がれている(閉じられている)ことにより、その冷気が蓄熱部材12の室内側へ流れ込むことがない。
【0051】
このように、この実施例によれば、蓄熱部材12の下部に開閉部材34を設けて、蓄熱部材12の蓄熱時に空気通路32を開き、蓄熱部材12の放熱時に空気通路34を閉じるようにしたため、蓄熱部材12の蓄熱時に空気通路32を開き、蓄熱部材12の放熱時に空気通路34を閉じる開閉部材34を設けたため、夜間の低気温時に蓄熱部材12と内壁面16との間を下降した冷気が、空気通路32を通って蓄熱部材12の室内側へ流れ込んでしまうことがなく、しかも、温室14の外から温室14内に伝播する冷気を開閉部材34によって遮断することができる。したがって、温室14全体の保温性をより向上させることができる。
【0052】
なお、この実施例では、軟質合成樹脂をフィルム状に薄く成形することによって開閉部材34を形成したが、開閉部材34の材質は特に限定されず、通常時には自重により空気通路32を閉じることが可能であって、かつ蓄熱部材12と地面100との間に空気が流れ込んだときに自身と地面100との間に隙間ができることで空気通路32を開くことが可能な程度の薄さや重量であれば、たとえばアルミフィルムや布などを開閉部材34に用いてもよい。
【0053】
また、空気流により空気通路32を開閉するフィルム状ないしシート状の開閉部材34に限定される必要もなく、蓄熱部材12の蓄熱時に空気通路32を開き、蓄熱部材12の放熱時に空気通路32を閉じることができるのであれば、適宜の開閉手段を適用することができる。
【0054】
たとえば、図示は省略するが、空気通路32における蓄熱部材12の室内側から室外側への空気の流れを許容し、かつ空気通路32における蓄熱部材12の室外側から室内側への空気の流れを遮断する一方通気弁を設置するようにしてもよい。
【0055】
また、たとえば、夜間の低気温時にのみ作業者が適宜の閉手段(閉部材)によって空気通路32を塞ぐようにしてもよい。この場合には、作業に手間がかかるものの、蓄熱部材12の蓄熱時に、たとえば蓄熱部材12の室内側から室外側への空気の流れが小さくてそれが原因で空気通路32が開かないといった不具合等が生じることがなく、蓄熱部材12の蓄熱時に確実に空気を循環させることができる。
【0056】
さらにまた、この実施例では、蓄熱部材12と地面100との間を開閉部材34で塞ぐことによって空気通路32を閉じたが、これに限定される必要はなく、図10に示すように、夜間の低気温時に蓄熱部材12と内壁面16との間を閉部材(或いは、開閉部材)36で塞ぐことによって空気通路32を閉じるようにしてもよい。
【0057】
ところで、上述の実施例では、蓄熱部材12を地面100から浮かせた状態で保持するために、蓄熱部材12を支持部材26によって支持するようにしたが、蓄熱部材12の設置方法は特に限定されるものではなく、蓄熱部材12を地面100から浮かせた状態で固定的に保持することができるのであれば、適宜な設置方法を採用し得る。
【0058】
また、支持部材26を合成樹脂によって略コ字状に形成し、蓄熱部材12の底部を支持部材26の溝部30に嵌め込むことで、蓄熱部材12を地面100から浮かせたが、支持部材26の材質や形状は特に限定されない。
【0059】
さらに、アルミニウムやステンレス等の一定の強度を有する金属によって支持部材26を形成してもよい。ただし、耐食性、耐薬品性、コストおよび重量などを考慮すると、高密度ポリエチレンやポリプロプピレン等の合成樹脂を用いることが好ましい。
【0060】
さらにまた、図11に示すように、支持部材26の本体28を略台形状に形成してもよい。この場合には、支持部材26の地面100に対する当接面積が大きくなるため、蓄熱部材12をより安定的に設置することが可能である。
【0061】
さらにまた、蓄熱部材12の横方向の全長に亘る1つの支持部材26によって蓄熱部材12を支持するようにしてもよい。図12に示すように、支持部材26の本体28には、横方向にほぼ等間隔に並ぶ複数の通気孔38が形成され、この通気孔38によって室内側と室外側との間の通気性が確保される。こうすることにより、図13に示すように、この通気孔38を介して蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間へ繋がる空気通路32が形成される。
【0062】
さらに、図12に示すように、蓄熱部材12の左右(横)方向の全長に亘る1つの支持部材26によって蓄熱部材12を支持するようにしてもよい。支持部材26の本体28には、横方向にほぼ等間隔に並ぶ複数の通気孔38が形成され、この通気孔38を介して蓄熱部材12の室内側と室外側との間の通気が確保される。つまり、この通気孔38を利用することによって、図13に示すように、蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間へ繋がる空気通路32が形成される。
【0063】
ただし、このように、支持部材26の通気孔38を介して蓄熱部材12の室内側と室外側との間の通気を確保する場合に、図14に示すように、空気通路32を開閉する開閉部材34を支持部材26の通気孔38に設けてもよい。
【0064】
また、上述の実施例では、一方の潜熱蓄熱パネル12aの連結部20と他方の潜熱蓄熱パネル12aの連結部22とを嵌合させることによって、潜熱蓄熱パネル12aを上下方向或いは横方向に連結させたが、これに限定される必要はない。特殊な工具などを使用せずに潜熱蓄熱パネル12aどうしを簡単に連結させることができるのであれば、嵌合のみならず、係止、係合、ボルト締めなどの適宜な連結構造を採用することができる。
【0065】
さらに、潜熱蓄熱材に黒色の着色剤(染料、顔料など)を添加してもよい。たとえば、透明色(半透明、有色透明、および無色透明を含む。)の潜熱蓄熱パネル12a内に黒色の潜熱蓄熱材を充填すれば、潜熱蓄熱材に直接太陽光線が吸収されるため、潜熱蓄熱パネル12aの蓄熱効率を向上させることが可能である。
【0066】
また、潜熱蓄熱パネル12aの設置する高さ位置に応じて、潜熱蓄熱パネル12a内に相変化温度が異なる潜熱蓄熱材を封入してもよい。たとえば、複数の潜熱蓄熱パネル12aを上下方向に連結させるときに、上部に配設される潜熱蓄熱パネル12aに、下部に配設される潜熱蓄熱パネル12aよりも相変化温度が高い潜熱蓄熱材を封入しておけば、下部に配設される潜熱蓄熱パネル12aにおいては低めの温度の蓄熱効率を高めることができ、また上部に配設される潜熱蓄熱パネル12aにおいては高めの温度の蓄熱効率が高めることができる。こうすることにより、蓄熱部材12がより優れた蓄熱性能を発揮することができる。
【0067】
さらに、上述の実施例では、潜熱蓄熱パネル12aを縦横に組み合わせることによって蓄熱部材12を平板状(壁状)に形成したが、これに限定される必要はない。潜熱蓄熱パネル12aを縦方向ないし横方向の一方向にのみ組み合わせることによって蓄熱部材12を形成してもよいし、1枚の大型の潜熱蓄熱パネル12aにより蓄熱部材12を形成してもよい。また、蓄熱部材12を平板状(壁状)に形成する必要もない。
【0068】
図15および図16に示すこの発明のさらに他の一実施例である設置構造10では、温室14の内壁面16と間隔を隔てた所定の位置に蓄熱部材12を吊り下げることにより、蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と内壁面16との間へ繋がる空気通路32が形成される。以下、図1に示す設置構造10と共通する部分については同じ番号を付して、重複する説明は省略する。
【0069】
図15に示すように、蓄熱部材12は、プラスチックフィルム等からなる袋状の本体40に潜熱蓄熱材を封入したものである。蓄熱部材12の本体40の上端部には、潜熱蓄熱材を封入されていない非封入部42が形成されており、この非封入部42には、蓄熱部材12を吊るすための孔44が形成されている。そして、図16に示すように、たとえば温室12の躯体のパイプ材46を蓄熱部材12の孔44に挿通させることによって、蓄熱部材12が温室14内に所謂カーテン状に吊り下げられる。
【0070】
蓄熱部材12の上下方向の長さは、蓄熱部材12を吊り下げたときに蓄熱部材12の底部が地面100から少し浮き上がる所定の値に設定されている。つまり、蓄熱部材12を温室14の内壁面16と一定の間隔を隔てた所定の位置に吊り下げることによって、蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間へ繋がる空気通路32が形成されることとなる。
【0071】
したがって、この実施例においても、図1の実施例と同じように、蓄熱部材12が効率良く熱交換を行うことができる。
【0072】
なお、この実施例では、温室14のパイプ材46を蓄熱部材12の孔44に挿通させることで、蓄熱部材12を温室14内に吊り下げたが、これに限定される必要はない。たとえば、図示は省略するが、蓄熱部材12に別途吊り下げ用の孔を有する吊り下げ補助具を取り付けて、その吊り下げ補助具に温室14のパイプ材46を挿通させるようにしてもよい。また、温室14内の地面100上に内壁面16と一定の間隔を隔てて吊り下げ用のフレームを設置し、そのフレームに蓄熱部材12を吊り下げるようにしてもよい。
【0073】
また、図17に示すように、温室14のパイプ材46に、ローラ50とこのローラ50に回転を付与するチェーン等の操作部52とを備える巻取り機48を取り付けて、この巻取り機48に蓄熱部材12を設置するようにしてもよい。この場合には、巻取り機48に蓄熱部材12を設置するときに、本体40の上端をローラ50に固定するとともに、本体40の非封入部42をローラ50に巻き付けるようにする。
【0074】
そして、昼間の高気温時、つまり蓄熱部材12の蓄熱時には、図17(a)に示すように、巻取り機48のローラ50を操作部52により巻き取り方向に回転させて、蓄熱部材12を上昇させることによって、蓄熱部材12と地面100との間から蓄熱部材12と温室14の内壁面16との間へ繋がる空気通路32を形成する。
【0075】
こうすることにより、蓄熱部材12はその室内側を上昇する暖気と熱交換を行うのみならず、空気通路32を通って蓄熱部材12と内壁面16との間を上昇する暖気とも熱交換を行うことができる。
【0076】
一方、夜間の低気温時、つまり蓄熱部材12の放熱時には、図17(b)に示すように、巻取り機48のローラ50を操作部52により巻き取り方向と反対方向に回転させて、蓄熱部材12を下降させることによって、空気通路32を蓄熱部材12自身によって塞ぐ。
【0077】
こうすることにより、自然対流により冷気が蓄熱部材12と内壁面16との間を下降しても、空気通路32が開閉部材34によって塞がれている(閉じられている)ことにより、その冷気が蓄熱部材12の室内側へ流れ込むことがない。
【0078】
このように、この実施例によれば、蓄熱部材12の蓄熱時に空気通路32を開き、蓄熱部材12の放熱時に空気通路34を閉じることが可能であるため、図7の実施例と同じように、温室14全体の保温性をより向上させることができる。
【0079】
なお、上述の各実施例ではいずれも、温室14の内壁面16と間隔を隔てて蓄熱部材12を設置して、昼間の高気温時に空気熱を蓄熱し、夜間の低気温時に放熱することによって、温室14内の昼夜の温度変動を抑えたが、設置構造10の適用場所はこれに限定されず、蓄熱部材12を地面から浮かせた状態で構造物の内壁面と一定の間隔を隔てて設置すれば、同様の効果が期待できる。一例を挙げると、蓄熱部材12を地面から浮かせた状態で住宅の内壁面と一定の間隔を隔てて設置して、安価な深夜電力を用いて発熱させたヒーターからの熱を潜熱蓄熱材に蓄熱し、昼間にヒーターの発熱を停止して潜熱蓄熱材から放熱させる暖房器具として用いることもできる。
【0080】
また、夜間の低気温時に、温室14の外側かつ周囲の全体に断熱用のシートや藁等の断熱部材を別途設けて、温室14全体の保温性を向上させるようにしてもよい。なお、この場合には、蓄熱部材12が設置されていない壁面の外側に重点的に断熱部材を設けるようにすると好適である。
【0081】
さらにまた、上述した長さ等の具体的数値は、いずれも単なる一例であり、必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 …蓄熱部材の設置構造
12 …蓄熱部材
12a …潜熱蓄熱パネル
14 …温室
16 …内壁面
26 …支持部材
32 …空気通路
34 …開閉部材
100 …地面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の構造物内に潜熱蓄熱材を封入した蓄熱部材を設置する蓄熱部材の設置構造において、
前記蓄熱部材を地面から浮かせた状態で前記構造物の内壁面と間隔を隔てて設置することによって、前記蓄熱部材と前記地面との間から前記蓄熱部材と前記内壁面との間へ繋がる空気通路を形成したことを特徴とする、蓄熱部材の設置構造。
【請求項2】
前記蓄熱部材の蓄熱時に前記空気通路を開き、前記蓄熱部材の放熱時に前記空気通路を閉じる開閉手段を備える、請求項1記載の蓄熱部材の設置構造。
【請求項3】
前記開閉手段は、前記蓄熱部材を上昇させることによって前記空気通路を開き、前記蓄熱部材を下降させることによって前記空気通路を閉じる昇降手段を含む、請求項1または2記載の蓄熱部材の設置構造。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の蓄熱部材の設置構造によって蓄熱部材が設置された温室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−29610(P2012−29610A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171294(P2010−171294)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【Fターム(参考)】