説明

蓄電デバイスの安全性評価方法及び評価治具

【課題】電池の内部短絡を想定した評価方法として、完成電池を分解し導電性異物を挿入させる強制内部短絡法は、工程が煩雑で、作業上難しい面が多く、危険作業でもある。一方、釘刺し法は、短絡面積、気密性、釘からの放熱で、実際の電池内部における局所的内部短絡現象とは異なる評価結果となる可能性があった。
【解決手段】蓄電デバイス1に対し、先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される評価治具3を蓄電デバイス1へ内部短絡が発生する深さまで刺し込み、強制的に内部短絡を発生させる作業の安全性が高くかつ簡便、迅速な安全性評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの安全性評価において、局所的内部短絡に対し正確な評価を与え、作業の安全性が高くかつ簡便、迅速な評価方法及び評価治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラに代表される携帯機器用小型蓄電デバイス(小型二次電池)の分野では、軽量化、小型化及び高容量化のニーズに応えるべく、1990年代初頭より、ニッケルカドミウム電池に続き、新型電池としてニッケル水素電池、リチウム二次電池の開発が進展し、200Wh/l以上の体積エネルギー密度を有する電池が市販されている。特にリチウムイオン電池は、350Wh/l、形状によっては500Wh/lを超える体積エネルギー密度を有するタイプも上市し、その市場を飛躍的に延ばしてきた。
【0003】
一方、中大型蓄電デバイスの分野では、省資源を目指したエネルギーの有効利用及び地球環境問題の観点から、深夜電力貯蔵及び太陽光発電の電力貯蔵を目的とした家庭用分散型蓄電システム、電気自動車、ハイブリッド車向けの蓄電システム等が注目を集めている。その中でも、原油価格上昇に伴いガソリン価格が高騰する中、低燃費であり、環境に優しい車としてハイブリッド車の開発が加速され、ハイブリッド車用として、安全かつ高出力、高エネルギー密度、長寿命を有する中大型蓄電デバイスが希求されている。
【0004】
また最近では、リチウムイオン電池による電子機器の発火事故発生が相次ぎ、さらには、蓄電デバイスにおける大型化、高エネルギー密度化、高出力化といった技術革新に伴い、異常時に安全性を確保することは益々困難となってきており、一旦電池内部で局所的な内部短絡という現象(異物混入、デンドライトショート等の小部位な内部短絡)が発生した場合、電圧、電流、温度等を監視して外部回路を遮断する保護回路や、外部接続ヒューズを用いても同現象を抑止することは出来ない。よって、蓄電デバイスを商品化する際に、多くの安全性試験項目の中でも、局所的内部短絡現象が発生した場合の安全性を評価することは非常に重要である。その安全性を評価する基準としては、例えば以下の文献がある。
【0005】
特許文献1には、完成した電池を分解して取り出した電極群内部の正極と負極が対向する箇所に異物を混入させ、加圧子による加圧力で異物混入部をプレスし、正負極間に介在する絶縁層を局所的に破壊することによって、内部短絡を発生させる内部短絡安全性評価方法が開示されている。
【0006】
また、非特許文献1である日本工業規格JIS C 8714携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験において、圧壊、外部短絡、外部加熱、強制内部短絡、落下等の試験が制定されているが、中でも強制内部短絡試験は、電池内部での局所的な内部短絡を想定した評価試験である。
【0007】
非特許文献2である電池工業会指針SBA G 1101−1997リチウム二次電池安全性評価基準ガイドライン(2003年6月に廃止、JIS C 8711に移行)では、電気的試験として外部短絡、連続充電、過充電、大電流充電、強制放電、機械的試験として釘刺し、圧壊、衝突、高所落下、衝撃、振動、落下、環境試験として加熱、温度衝撃、高温貯蔵、低圧、水中投下が設定されており、中でも釘刺し試験は、電池の梱包時(木箱梱包の時など)に誤って釘など刺し込まれるような誤用を想定しているが、この試験法は、釘を貫通させることにより電池を強制的に内部短絡状態とし、電池が内部短絡した時を想定した評価試験としても利用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−270090号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本工業規格JIS C 8714携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験
【非特許文献2】電池工業会指針SBA G 1101−1997リチウム二次電池安全性評価基準ガイドライン
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び日本工業規格JIS C 8714携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験における強制内部短絡試験の方法は、完全充電した電極体を電池容器から取り出し、その電極体を巻き解き、最外周の正極活物質部−負極活物質間あるいは正極集電体露出部−負極活物質間に異物を挿入した後、電極体を巻き戻し、密閉パックに入れ異物挿入部を加圧治具により局所的に内部短絡を発生させる手順である。
【0011】
前記試験の方法では、電極体を電池容器から取り出してから密閉パックに入れるまでの工程(容器の解体、電極体の取り出し、電極体の巻き解き、取り扱い困難な異物小片の配置、電極体を巻き戻しテーピング)に時間を要し、電解液が溶媒の揮発により減少し、評価電池の内部抵抗が増加する傾向にあり、その抵抗が増加した電池を内部短絡させた場合、安全性が高い結果となりやすく正確な評価ができないという課題を有する。また、現実の内部短絡現象は、規格小片サイズより小さい場合が多く、規格よりさらに小さい導電性の異物小片を必要とした場合、その導電性の異物小片を手作業するには自ずと限界があった。またさらには、完全充電した電極体を取り扱う際に、作業ミスで電極体を短絡させてしまう可能性を持っており危険作業であるという点、導電性の異物小片を取り扱う作業は容易では無く、作業者による工程時間に差が生じるという点についても作業上難しい面が多い。また、希求されている高容量の中大型蓄電デバイスで同様の試験方法を想定した場合、より危険な作業となり現実的に困難であると考える。
【0012】
一方、電池工業会指針SBA G 1101−1997リチウム二次電池安全性評価基準ガイドラインにおける釘刺し試験は、前記の通り電池内部での内部短絡を想定した評価試験でもある。しかし直径2.5mmから5mmの釘では短絡面積が大きいという点、釘が刺さった箇所より外部空気が混入するあるいは内部ガスが外部へ排出される点、電池内部で釘の先端近傍で内部短絡が発生した熱が金属製の釘を通して外部へ放熱するというケースもあり、実際の電池内部における局所的内部短絡現象とは異なる評価結果となる可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の様な従来技術の問題点に留意しつつ、研究を進めた結果、蓄電デバイスの局所的内部短絡に対し、正確な安全性評価を与え、作業の安全性が高くかつ簡便、迅速な評価方法及び評価治具を見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
【0015】
(1)正極、負極、電解質及び正負極を電気的に絶縁するセパレータ又は正極、負極及び正負極を電気的に絶縁する電解質を具備した蓄電デバイスの安全性評価方法であって、
前記蓄電デバイスに対し、先端あるいは先端付近に導電性部材を備えた絶縁性の棒を内部短絡が発生する深さまで刺し込み、蓄電デバイス内部で強制的に内部短絡を発生させることを特徴とする蓄電デバイスの安全性評価方法。
【0016】
(2)前記先端あるいは先端付近に導電性部材を備えた絶縁性の棒を蓄電デバイスへ刺し込む場合に、予めその刺し込み箇所表面に接着性樹脂層を形成させておくことを特徴とする前記(1)記載の蓄電デバイスの安全性評価方法。
【0017】
(3)正極、負極、電解質及び正負極を電気的に絶縁するセパレータ又は正極、負極及び正負極を電気的に絶縁する電解質を具備した蓄電デバイスの安全性評価方法に用いる評価治具であって、
先端あるいは先端付近に導電性部材を備えた絶縁性の棒であることを特徴とする評価治具。
【0018】
(4)前記導電性部材の幅が、内部短絡を発生させる幅であることを特徴とする前記(3)記載の評価治具。
ここで、導電性部材の幅とは、前記絶縁性の棒の長軸方向の幅をさす。
【0019】
(5)前記導電性部材の材質が、電気抵抗率が10Ω・m以下でかつ融点が600℃以上であることを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の評価治具。
【0020】
(6)前記絶縁性の棒の絶縁材料の材質が、電気抵抗率が10Ω・m以上でかつ融点が600℃以上であることを特徴とする前記(3)から(5)のいずれかに記載の評価治具。
【0021】
上記(1)から(6)の構成によれば、局所的内部短絡に対する安全性評価において、内部短絡に対し正確な評価を与え、作業の安全性が高くかつ簡便、迅速に評価することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の評価方法及び評価治具を用いることにより、蓄電デバイスを解体しないので、電解液の減少、内部抵抗増加をすることはなく、種々の大きさ、抵抗の目的で局所的内部短絡を再現できることから、蓄電デバイスの局所的内部短絡に対し、正確な安全性評価を与え、作業の安全性が高くかつ簡便、迅速な評価をすることが可能となり、蓄電デバイスの研究開発、商品設計に有用である。また、中大型蓄電デバイスの内部短絡試験方法としても有効な評価方法である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施形態の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る実施形態の他の一例を示す模式図である。
【図3】比較例における手順を示す模式図である。
【図4】比較例における内部短絡試験を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の対象となる蓄電デバイスは、正極、負極、電解質及び正負極を電気的に絶縁するセパレータ又は正極、負極及び正負極を電気的に絶縁する電解質を具備した蓄電デバイスである。
そのような蓄電デバイスの一つとして、正極集電体と正極電極層から構成される正極、負極集電体と負極電極層から構成される負極、電解質及び正負極を電気的に絶縁するセパレータを具備した蓄電デバイスがあるが、その代表的な電池としては、リチウム二次電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。
【0025】
また、最近開発が進められている電気的な絶縁性を有する電解質である固体電解質薄膜を電解質とする正負極を電気的に絶縁するセパレータを有さない蓄電デバイスにも本発明を用いることができる。
【0026】
そして、本発明は、蓄電デバイスの大きさを問わず携帯機器用小型蓄電デバイス(小型二次電池)から中大型蓄電デバイスに至るまでの全ての蓄電デバイスを対象とすることができる。
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面に基づいて説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0028】
図1及び図2を用いて、本発明の蓄電デバイスにおける局所的内部短絡現象(異物混入、デンドライトショート等の小部位な内部短絡)に対する安全性評価方法及び評価治具の一例を説明する。蓄電デバイス1及び外部容器表面中央部に塗布された接着性樹脂2と評価治具3が示されている。評価治具3については、先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される。
【0029】
図1及び図2の蓄電デバイスにおける局所的内部短絡現象の安全性評価方法は、正極集電体と正極電極層から構成される正極、負極集電体と負極電極層から構成される負極、正負極を電気的に絶縁するセパレータを積層された電極体及び電解質を具備した蓄電デバイス1に対し、先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される評価治具3を蓄電デバイス1の外部容器へ内部短絡が発生する深さまで刺し込み、蓄電デバイス1の内部で強制的に内部短絡を発生させる方法である。
【0030】
前記蓄電デバイス1に用いる電極体とは、正極とセパレータを介し負極が積層され電解液を含むものであり、その構造は特に限定されないが、多積層構造、捲回構造、折り畳み構造等が一般的である。
【0031】
また、本発明の内部短絡安全性評価方法においては、前記電極体を収納する外部容器としては、特に限定されないが、金属層と樹脂層を積層したラミネートフィルム、金属ケース、プラスチックケース等が挙げられる。さらに、形状としては、角型、円筒型、フィルム型、若しくはその他の形状に適用可能である。
【0032】
先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される評価治具3を蓄電デバイス1へ刺し込む場合に、予めその刺し込み箇所に接着性樹脂2を評価治具3の断面積より大きい面積で形成させておくことが望ましい。接着性樹脂2を形成させることで刺し込み箇所より内部ガスが外部へ排出されるあるいは同部より外部空気が混入することを抑止することが可能となる。形成する接着性樹脂2の厚さは、この目的から厚さ2mm以上とすることが好ましい。また、接着性樹脂2が厚過ぎる場合、評価治具3が刺さりにくくなりことから、20mm以下が好ましい。接着性樹脂としては、天然ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム等のゴム系材料、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ酢酸樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等の合成樹脂系材料が考えられるが、刺し込み時に絶縁性の棒側面と穴との隙間が形成されにくく気密性を高める目的より弾性が高いゴム系材料が望ましい。
【0033】
望ましい形態として図1及び図2には蓄電デバイス1の外部容器表面中央部に接着性樹脂2が塗布された実施形態が示されているが、評価治具刺し込み時に外部容器が弾性の高いゴム系材料等の接着性樹脂と同等の気密性を発揮する材質であれば、接着性樹脂2の塗布をしなくても安全性評価をすることができる。
【0034】
評価治具3は、先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される。評価治具3の先端形状については、円錐、多角錐等の錘状形状あるいは円柱、多角柱等の柱状形状が挙げられるが、蓄電デバイスの刺し込み箇所の密閉性を確保しやすい点から円錐形状あるいは円柱形状が望ましい。さらに、先端が円錐形状の釘状であると機械的強度が高い蓄電デバイスの外部容器に刺し込む場合、より好ましい。
【0035】
評価治具3には、先端あるいは先端付近に導電性を有する導電性部材3aが具備されている。その位置、形状、大きさ、導電性物質、材質は、目的に応じ適宜決定されたものである。導電性部材3aについては、具体的には図1に示すように、絶縁性の棒3bの先端に機械加工形成された導電性部材3aを接続したもの、絶縁性の棒3bの先端側面に蒸着法、スパッタリング法等の方法により形成させたもの、また図2に示すように絶縁性の棒3bの先端付近に導電性部材3aを形成させたもの等が挙げられる。
【0036】
蓄電デバイスの内部短絡を発生させた場合、短絡部の抵抗が内部抵抗と同等であるとその短絡部での発熱量が大きくなりより危険な状態となることから導電性部材3aの設計は重要である。よって、導電性部材3aの幅を蓄電デバイスの内部抵抗及び正極、負極、セパレータの厚さ等の目的とする短絡部位に応じて適宜設計することで、より現実の現象に近い状態で局所的内部短絡を発生することが可能となる。導電性部材3aの幅は、セパレータの厚さ以上かつ局所的内部短絡を発生させることができる幅であることが必要である。すなわち、導電性部材3aの位置及び幅は、評価治具を蓄電デバイス1に刺し込んだときに評価治具が蓄電デバイス1を貫通することなく内部短絡を発生させることができる幅以上で、できるだけ小さい幅であることが好ましく、刺し込み終了時に蓄電デバイス1の内部に納まる幅以下であることが好ましい。
特に、刺し込み終了時に蓄電デバイス1の内部に納まらない幅であると、蓄電デバイス1の外部容器が金属容器の場合には、短絡電流が外部容器にも流れることになり、局所的内部短絡現象とは異なる評価結果となってしまう可能性がある。
【0037】
前記の導電性部材3aの最適な幅は、蓄電デバイスの種類、形状、大きさ等により異なるが、後記する本実施例で用いた蓄電デバイスであるリチウムイオン電池の場合は、好ましくは0.01mm以上2mm以下、さらに好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下である。
【0038】
日本工業規格JIS C 8714携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験の方法に比べ、本発明の導電性部材3aを先端あるいは先端付近に備えた絶縁性の棒3bで構成される評価治具3を用いれば、導電性部材3aの寸法を蓄電デバイスの内部抵抗及び正極、負極、セパレータの厚さ等の目的とする短絡部位に応じて適宜設計することが可能であり、今後の小型電池における低抵抗化(高出力化)や、より抵抗が低いと考えられる中大型蓄電デバイスに対しても現実的な局所的内部短絡現象を発生させ評価することが可能である。
【0039】
導電性部材3aの材料については、目的とする局所的内部短絡(大きさ、抵抗)を実現すれば特に限定されるものではないが、電気抵抗率が10Ω・m以下であることが好ましく、短絡部の抵抗が内部抵抗と同等であることが最も好ましい。具体的な材料としては、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属や炭素系材料が挙げられる。また、内部短絡発生熱による溶解や溶融を抑制する目的より、蓄電デバイス内部で化学的に安定であり融点が600℃以上であることが望ましい。
【0040】
先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bについては、内部短絡を評価治具3の導電性部材部のみで発生させるために電気抵抗が高く、内部短絡発生熱による溶融を防止させる目的より、導電性部材3aよりも電気抵抗が高いことが必要であり、電気抵抗率が好ましくは10Ω・m以上、さらに好ましくは10Ω・m以上、さらに好ましくは10Ω・m以上でかつ融点が600℃以上であることが望ましい。材料としては、耐熱性プラスチック、耐熱性ガラス、セラミックス等が考えられるが、セラミックス系材料が、電気抵抗率が1010Ω・m以上でかつ耐熱性が1000℃以上と高くかつ機械的強度も高いためより望ましい。また、前記絶縁性の棒3bの表面全てが絶縁性である必要はなく、蓄電デバイスとの接触部分の電気抵抗率が10Ω・m以上でかつ融点が600℃以上であれば良い。例えば機械的強度を高める目的で、金属製芯材の表面にセラミックスをコーティングし形成させても良い。
【0041】
局所的内部短絡に対する安全性評価をする場合、蓄電デバイスを厳しい条件で評価する目的から満充電の状態とし、環境温度については、特に限定されないが、通常使用で想定される範囲でより厳しい高温(例えば、日本工業規格JIS C 8714携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験では、上限試験温度45℃と設定されている)が適当である。
【0042】
先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される評価治具3を蓄電デバイス1へ刺し込む方向は、特に限定されないが、現実の蓄電デバイスにおいて、セパレータを貫通し局所的内部短絡現象を発生する可能性の高い導電性異物混入やデンドライトショートは、正極と負極の対向する箇所に対し垂直方向で短絡する現象が多いこともあり、垂直方向へ刺し込むことが好ましい。また、蓄電デバイス1の電極体最外周一層のみでの短絡を発生させ易く、かつ刺し込み深度の制御が容易である点からも蓄電デバイス1の正極と負極の対向する箇所に対し、評価治具3を垂直方向に刺し込むことが望ましい。
【0043】
先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される評価治具3を蓄電デバイス1へ刺し込む速度は、特に限定されないが、1mm/sec以下の速度で実施する方が最外周のみでの内部短絡発生時点での停止等の制御が容易である。
【0044】
尚、先端あるいは先端付近に導電性部材3aを備えた絶縁性の棒3bで構成される評価治具3を蓄電デバイス1へ刺し込む内部短絡現象を評価する試験装置には、メカニカル式プレス、油圧式プレス、エア式プレス等の加圧可能な試験装置が挙げられるが、特に限定されるものではなく、一定速度の動作が可能でかつ任意の位置で停止可能な試験装置が望ましい。
【0045】
また、蓄電デバイスの安全性評価試験においては、一般的に電圧、温度、映像機器による映像等を記録することにより、電圧変化、発熱挙動、蓄電デバイスの外観状況より安全性レベルを確認することができる。安全性レベルの判定基準としては、試験項目、規格等によって一概ではないが、蓄電デバイスの変化、漏液の有無、発煙の有無、破裂の有無、発火の有無等が挙げられ、これら判定基準より安全性レベルを判断することが重要である。
【実施例】
【0046】
以下、リチウムイオン電池系を一例とし、本発明の実施例及び比較例を示し具体的に説明する。本発明は、これら実施例の記載により限定されるものではなく、その他の電池系やキャパシタ等にも適用可能である。
【0047】
(実施例1)
(1)正極活物質としてコバルト系酸化物LiCoO89重量部、導電材のアセチレンブラック6重量部、バインダーのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を、希釈剤であるN−メチルピロリドン(NMP)と混合し正極合材スラリーを得た。該スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔の両面に塗布、乾燥した後、プレスを行い、厚さ190μmの正極を得た。該正極を縦49mm、横335mmに裁断加工し評価用正極電極を作製した。
【0048】
本実施例において、正極の塗布面積は、49×302mmである。また、電極の短辺片側には、スラリーが塗布されていない49×33mmの集電体露出部を設け、正極端子リードとして縦100mm、横5mm、厚さ0.1mmのアルミニウム板を超音波溶接した。
【0049】
(2)負極活物質として黒鉛化メソカーボンマイクロビーズMCMB93重量部、導電材のアセチレンブラック2重量部、バインダーのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を、希釈剤であるN−メチルピロリドン(NMP)と混合し負極合材スラリーを得た。該スラリーを集電体となる厚さ14μmの銅箔の両面に塗布、乾燥した後、プレスを行い、厚さ188μmの負極を得た。該負極を、縦51mm、横360mmに裁断加工し評価用負極電極を作製した。
【0050】
本実施例において、負極の塗布面積は、51×340mmである。また、電極の短辺片側には、スラリーが塗布されていない51×20mmの集電体露出部を設け、負極端子リードとして縦100mm、横5mm、厚さ0.1mmのニッケル板を超音波溶接した。
【0051】
(3)上記(1)項で得られた正極と上記(2)項で得られた負極とを、縦52mmのポリエチレン製微孔膜セパレータを介して捲回し、扁平形状捲回型の電極体を作製した。
【0052】
(4)次に、電池外装として、厚さ0.12mmのポエチレンテレフタレート−ナイロン−アルミニウム箔−ポリプロピレンが積層されたラミネートフィルム一対のうち一方を絞り加工により矩形の電極体収納部を設け、もう一方を平板状とした。
【0053】
(5)上記収納部を設けたラミネートフィルムに電極体を収納し、正負極端子リードのみが外部に突出するように、変性ポリプロピレンを介しもう一方の平板状のラミネートフィルムを重ね、3辺を熱融着した。
【0054】
次いで、熱融着していない1辺から電解液(エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比30:70に混合した溶媒に、1mol/lの濃度にLiPFを溶解した溶液)を注液した後、この一辺を40000Paの減圧下にて熱融着した。
【0055】
(6)25℃中でこの電池を178mAの電流で4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧を印加する定電流定電圧充電を合計8時間行い、続いて178mAの定電流で2.75Vまで放電した。
【0056】
(7)上記熱融着したラミネートフィルムの一辺を開封し、この一辺を40000Paの減圧下にて熱融着し、リチウムイオン二次電池を得た。
【0057】
(8)25℃中でこの電池を178mAの電流で4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧を印加する定電流定電圧充電を合計8時間行い、続いて178mAの定電流で2.75Vまで放電した。この充放電を3サイクルし、3サイクル目の放電容量は890mAhであった。
【0058】
前記電池の表面中央部にシリコン系接着剤を塗布後、硬化させるため25℃中で2日間保管した。
【0059】
次に、図1に示すように、セラミックスからなる高さ70mm、外径3mmの絶縁性の棒3bを先端が角度60°の円錐形状になるように加工した後、先端1mmを削り、ニッケルからなる高さ1mm、角度60℃の円錐形状に予め加工した導電性部材3aを取り付け、評価治具3を作成した。
【0060】
25℃中で前記電池を178mAの電流で4.25Vまで定電流充電し、4.25Vの定電圧充電を充電電流が44.5mAまで充電した。尚、1kHz時の交流内部抵抗は35.2mΩであった。
【0061】
次に、前記評価治具3を取り付けた加圧装置を内部設置した試験用恒温槽に、電池1を評価治具3がシリコン接着剤上になるよう設置し、電圧測定端子及びシリコン接着剤近傍に熱電対端子を取り付け、45℃環境下で電池の温度が安定するまで保管した。尚、電池は密閉されており、電解液が蒸発することはなかった。
【0062】
評価治具3を0.1mm/secの速度で、電池1のシリコン接着剤を塗布した部分へ刺し込み、電池電圧が初期電圧から低下を検出した時点で、評価治具3の降下を停止した。試験結果は、発火には至らなかったが、熱暴走に至り電池表面の最高到達温度は176℃となり、電池外装ラミネートフィルムの一部が開口し、発煙した。
【0063】
(比較例1)
実施例1と同様の放電容量890mAhの電池1を用意し、日本工業規格JIS C 8714 携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験の方法に準じて強制内部短絡試験を行った。25℃中でこの電池を178mAの電流で4.25Vまで定電流充電し、4.25Vの定電圧充電を充電電流が44.5mAまで充電した。尚、1kHz時の交流内部抵抗は36.9mΩであった。
【0064】
図3に示すように、25℃中、露点−50℃の環境下で上記充電した電池1を解体し、取り出した電極体4を巻き解き、最外周に露出した正極集電体露出部5(アルミ箔)とセパレータ8との間に、ニッケル小片9(高さ0.2mm、幅0.1mm、一辺1mmの角度は約90°のL字型)を縦52mmに対し26mm、横28mmに対し14mmの位置へニッケル小片9の角が巻き込み方向になるよう配置した。巻き解いた電極を巻き直し、テープで固定し、ニッケル小片9位置のセパレータ上にマーキングした。電極体4上に前記マーキングした箇所が中央になるようポリイミドテープ10(テープ基材厚み25μm、テープ幅10mm)を2枚重ねて貼り付けた。ポリイミドテープ10近傍に熱電対端子を取り付け、チャック付きポリエチレン製袋11に入れ、さらにポリエチレン製袋11を熱融着し密閉した後、このポリエチレン製袋11を密閉式のラミネートパックに入れた。尚、電池2を解体してから密閉式のラミネートパックに入れるまで15分を要し、解体直後の電極体に対し重量減があることから電解液の蒸発があったと考えられる。
【0065】
次に、45℃に設定した予備加熱用恒温槽に、前記密閉式のラミネートパックを投入し、50分間放置した。
【0066】
密閉式のラミネートパックよりポリエチレン製袋11に収納された電極体4を取り出し、予め45℃に設定された加圧装置を内部設置した試験用恒温槽に設置し、電圧測定端子を取り付けた。図4に示すように、加圧治具12(幅10mm×10mmのステンレス角柱の先端に2mm厚のニトリルゴム、さらに先端に5×5mm、2mm厚のアクリル板)を前記マーキングした箇所が中央になるようにポリイミドテープ10上に配置し、45℃環境下で電極体4の温度が安定するまで保管した。
【0067】
加圧治具12を0.1mm/secの速度で加圧し、電極体電圧が初期電圧から50mV低下を検出した後、加圧を停止し、30秒後に加圧を開放した。試験結果は、電極体表面の最高到達温度が74℃であり、発煙現象も観察されなかった。
【0068】
本実施例と比較例より、試験結果において本実施例は最高到達温度が176℃、発煙ありであり、比較例の最高到達温度74℃、発煙なしに対し安全性の低い結果であった。比較例においては、完全充電した電極体を電池容器から取り出し導電性異物を挿入して密閉するまでの工程に時間を要し、その作業の間に電解液の溶媒が揮発する。その結果電解液量は減少し内部抵抗は増加することとなり、また、短絡部の大きさが影響し、現実の電池に対し安全性の高い結果となったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の評価方法及び評価治具を用いることにより、蓄電デバイスにおける局所的内部短絡現象の安全評価において、内部短絡に対し正確な評価を与え、作業の安全性が高くかつ簡便、迅速に評価することが可能となり、蓄電デバイスの研究開発、商品設計に有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 蓄電デバイス
2 接着性樹脂
3 評価治具
3a 導電性部材
3b 絶縁性の棒
4 電極体
5 正極集電体露出部
6 正極リード
7 負極リード
8 セパレータ
9 ニッケル小片
10 ポリイミドテープ
11 ポリエチレン製袋
12 加圧治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、電解質及び正負極を電気的に絶縁するセパレータ、又は正極、負極及び正負極を電気的に絶縁する電解質を具備した蓄電デバイスの安全性評価方法であって、
前記蓄電デバイスに対し、先端あるいは先端付近に導電性部材を備えた絶縁性の棒を内部短絡が発生する深さまで刺し込み、蓄電デバイス内部で強制的に内部短絡を発生させることを特徴とする蓄電デバイスの安全性評価方法。
【請求項2】
前記先端あるいは先端付近に導電性部材を備えた絶縁性の棒を蓄電デバイスへ刺し込む場合に、予めその刺し込み箇所表面に接着性樹脂層を形成させておくことを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイスの安全性評価方法。
【請求項3】
正極、負極、電解質及び正負極を電気的に絶縁するセパレータ、又は正極、負極及び正負極を電気的に絶縁する電解質を具備した蓄電デバイスの安全性評価方法に用いる評価治具であって、
先端あるいは先端付近に導電性部材を備えた絶縁性の棒であることを特徴とする評価治具。
【請求項4】
前記導電性部材の幅が、内部短絡を発生させる幅であることを特徴とする請求項3記載の評価治具。
【請求項5】
前記導電性部材の材質が、電気抵抗率が10Ω・m以下でかつ融点が600℃以上であることを特徴とする請求項3又は4に記載の評価治具。
【請求項6】
前記絶縁性の棒の絶縁材料の材質が、電気抵抗率が10Ω・m以上でかつ融点が600℃以上であることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の評価治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−250954(P2010−250954A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95926(P2009−95926)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】