説明

蓄電デバイス用セパレータ

【課題】低温での安全性に優れたポリオレフィン系多孔フィルムを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂と熱可塑性エラストマーと粒子とを含み、次の式で算出される伸度保持率が70%以上であるポリオレフィン系多孔フィルムを特徴とする。
伸度保持率(%)={−30℃における突き刺し伸度(mm)/25℃における突き刺し伸度(mm)}×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温での安全性に優れる蓄電デバイス用セパレータに関する。特に、低温での突き刺し特性を向上させると共に、ポリオレフィン系多孔フィルムの優れた電気性能を併せ持ちリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる高安全な蓄電デバイス用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系多孔フィルムは、電気絶縁性やイオン透過性に加えて、力学特性にも優れることから、特にリチウムイオン二次電池のセパレータ用途に広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用セパレータとして備えるべき性質には多くの項目があるが、主に電池の高容量化、高出力化、および安全性に適した膜物性が求められている。その中でも、近年、電池の使用温度が低温となった場合の安全性や電池性能の維持が求められている。従来の技術では、常温での機械特性(例えば突き刺し特性や引張強伸度)を改善する手法が検討されているが(例えば、特許文献1〜3)、これらの手法では常温での特性は改善できても低温における物性は改良されないといった問題があった。
【0004】
また、一般的なフィルムの低温における機械特性の改善方法として、樹脂の組成にエラストマー成分を添加する手法が報告されているが(特許文献4)、微多孔フィルムに応用した際にその孔形成が十分になされないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−521964号公報
【特許文献2】特開2003−20357号公報
【特許文献3】特開2007−112855号公報
【特許文献4】特開2000−129051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、本発明の目的は、低温における突き刺し試験における伸度の低下を抑制し、低温における優れた電池性能と安全性を持った蓄電デバイス用セパレータ用として好適なオレフィン系多孔フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有する。
【0008】
ポリオレフィン系樹脂と熱可塑性エラストマーと粒子とを含み、次の式で算出される伸度保持率が70%以上であるポリオレフィン系多孔フィルム。
【0009】
伸度保持率(%)={−30℃における突き刺し伸度(mm)/25℃における突き刺し伸度(mm)}×100
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは、低温における突き刺し伸度が良好であり、セパレータとして用いた際に優れた特性を示す多孔フィルムとして提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する微細な貫通孔を多数有している。フィルムに貫通孔を形成する方法としては、湿式法、乾式法どちらでも構わないが、工程を簡略化できることから乾式法が望ましい。
【0012】
ポリオレフィン系多孔フィルムを構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1などの単一ポリオレフィン樹脂や、これら樹脂の混合物、さらには、単量体同士をランダム共重合やブロック共重合した樹脂を用いることができる。
【0013】
ポリオレフィン系多孔フィルムは、耐熱性の観点で融点が155〜180℃であることが好ましい。融点が155℃未満であると、後述する粒子含有層をポリオレフィン系多孔フィルム上に積層する際に多孔フィルムが寸法変化してしまう場合がある。一方、ポリオレフィン系多孔フィルムの融点を180℃を超える温度にするためには、ポリオレフィン樹脂以外の耐熱性樹脂を多量に添加する必要があり、その場合、セパレータとしての基本特性であるイオン電導性が著しく低下してしまう場合ある。なお、ポリオレフィン系多孔フィルムの融点は、単一の融点を示す場合はもちろんその融点をいうが、例えばポリオレフィン系多孔フィルムがポリオレフィンの混合物から構成されるなど、複数の融点を有している場合は、そのうち最も高温側に現れる融点をポリオレフィン系多孔フィルムの融点とする。ポリオレフィン系多孔フィルムの融点は、より好ましくは耐熱性の観点から160〜180℃、さらに好ましくは165〜180℃である。また、上記したように、ポリオレフィン系多孔フィルムが複数の融点を示す場合は、それら全てが上記範囲内にあることが好ましい。
【0014】
ポリオレフィン系多孔フィルムは、優れた電池特性を実現するために、ポリプロピレン樹脂からなることが好ましく、特にβ晶法と呼ばれる多孔化法を用いて製造された多孔フィルムであることが好ましい。β晶法を用いてフィルムに貫通孔を形成するためには、ポリプロピレン樹脂中にβ晶を多量に生成させることが重要となるが、そのためにはβ晶核剤と呼ばれる、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に生成させる結晶化核剤を添加剤として用いることが好ましい。β晶核剤としては種々の顔料系化合物やアミド系化合物などを挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリプロピレン樹脂全体を100質量部とした場合、0.05〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.3質量部であればより好ましい。
【0015】
ポリオレフィン系多孔フィルムを構成するポリプロピレン樹脂はメルトフローレート(以下、MFRと表記する、測定条件は230℃、2.16kg)が2〜30g/10分の範囲のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であることが好ましい。MFRが上記した好ましい範囲を外れると延伸フィルムを得ることが困難となる場合がある。より好ましくは、MFRが3〜20g/10分である。また、アイソタクチックポリプロピレン樹脂のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%であれば好ましい。アイソタクチックインデックスが90%未満であると、樹脂の結晶性が低く、高い透気性を達成するのが困難な場合がある。アイソタクチックポリプロピレン樹脂は市販されている樹脂を用いることができる。
【0016】
ポリオレフィン系多孔フィルムにはホモポリプロピレン樹脂を用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下の範囲で共重合してもよい。なお、ポリプロピレンへのコモノマーの導入形態としては、ランダム共重合でもブロック共重合でもいずれでも構わない。また、上記のポリプロピレン樹脂は0.5〜5質量%の範囲で高溶融張力ポリプロピレンを含有させることが製膜性向上の点で好ましい。高溶融張力ポリプロピレンとは高分子量成分や分岐構造を有する成分をポリプロピレン樹脂中に混合したり、ポリプロピレンに長鎖分岐成分を共重合させたりすることで溶融状態での張力を高めたポリプロピレン樹脂であるが、中でも長鎖分岐成分を共重合させたポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。この高溶融張力ポリプロピレンは市販されており、たとえば、Basell社製ポリプロピレン樹脂PF814、PF633、PF611やBorealis社製ポリプロピレン樹脂WB130HMS、Dow社製ポリプロピレン樹脂D114、D206を用いることができる。
【0017】
本発明において、ポリオレフィン系多孔フィルムを構成するポリプロピレン樹脂の濃度は85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。ポリプロピレン樹脂濃度が85質量%を下回ると、延伸時の空隙形成効率を損なう場合がある。
【0018】
ポリオレフィン系多孔フィルムを構成するポリプロピレン樹脂には、延伸時の空隙形成効率を高め、孔径が拡大することで透気性が向上することから、ポリプロピレン樹脂にエチレン・α−オレフィン共重合体を1〜10質量%添加することが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合したエチレン・オクテン−1共重合体を好ましく用いることができる。このエチレン・オクテン−1共重合体は市販されている樹脂を用いることができる。
【0019】
本発明において、フィルム原料とはポリオレフィン系多孔フィルムを製造する際に使用する原料のことをいう。具体的には上述したポリオレフィン樹脂や核剤、添加剤等を配合したものである。
【0020】
本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは次の式で算出される伸度保持率が70%以上である。好ましくは70%以上100%以下である。
【0021】
伸度保持率(%)={−30℃における突き刺し伸度(mm)/25℃における突き刺し伸度(mm)}×100
上記式および本発明において突き刺し伸度とは、JIS Z 1707(1997)に準じて測定した突き刺し強度の測定において、ピン先端がフィルムに接触してから、突き刺し破断が起こるまでの、ピン先端の移動距離をいう。上記の伸度保持率が70%未満ではポリオレフィン系多孔フィルムをセパレータとして用いた場合、低温での電池性能が低下したり、衝撃や摩擦によりセパレータが破損する場合がある。また、伸度保持率は大きいほどポリオレフィン系多孔フィルムをセパレータとして用いた場合の安全性が向上するため好ましい。なお、低温での物性変化が少ないことが好ましいことから、伸度保持率は70%以上100%以下であることが好ましい。伸度保持率はより好ましくは75%以上100%以下、さらに好ましくは80%以上100%以下、さらに好ましくは85%以上100%以下、より好ましくは90%以上100%以下である。
【0022】
本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは25℃における突き刺し伸度が2.5mm以上であることが好ましく、2.5mm以上10mm以下であることがより好ましく、3.0mm以上10mm以下であることがさらに好ましい。2.5mmよりも小さい場合、セパレータとして用いた場合に衝撃や摩擦によりセパレータが破損する場合がある。なお、10mmより大きい場合、ポリオレフィン系多孔フィルムをセパレータとして使用した際に外力により変形しやすくなる場合がある。
【0023】
本発明において25℃での突き刺し伸度を2.5mm以上にするためには、ポリオレフィン系多孔フィルムを構成するポリプロピレン樹脂に、エチレン・α−オレフィン共重合体の有無に関わらず、これとは異なる熱可塑性エラストマーを含有させることが好ましい。当該熱可塑性エラストマーとしてはスチレン系エラストマーやジエン系エラストマーが好ましい。スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン型、スチレン−イソプレン−スチレン型、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン型、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン型、及びポリスチレンとビニル−ポリイソプレンの結合型などのポリスチレンブロックとゴム中間ブロックを持つブロック共重合体であるスチレン系熱可塑性エラストマー、スチレン−ブタジエンゴム、水添スチレン−ブタジエンゴム及びスチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン結晶ブロックコポリマー並びにこれらの任意の混合ゴムなどを挙げることができるがこれに限定されるものではない。ジエン系エラストマーとしては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明において、ポリオレフィン系多孔フィルム中に含有される熱可塑性エラストマーの含有量はフィルムを構成するポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜7質量部であることがより好ましく、さらに好ましくは2〜6質量部である。10質量部を超えて熱可塑性エラストマーを添加すると、フィルムの孔形成を阻害する場合がある。また、0.1質量部未満であると、低温での突き刺し特性が悪化する場合がある。
【0025】
本発明において、伸度保持率を70%以上にするためには、熱可塑性エラストマーは粒子を核として分散させることが有効である。粒子を核として熱可塑性エラストマーが分散し分散体(ドメイン)を形成することで、粒子の脱落を抑制しながらポリオレフィン系多孔フィルム中により強固なネットワーク構造が作られるため、低温時の突き刺し特性を向上することができる。ドメインの構造としては熱可塑性エラストマーのみで形成される構造、またはフィルム中にエチレン・α−オレフィン共重合体を含む場合にはエチレン・α−オレフィン共重合体が熱可塑性エラストマーにより形成されるドメインと共存する構造の何れでもよい。
【0026】
本発明において、熱可塑性エラストマーのドメインの構造は、ポリオレフィン系多孔フィルムの断面を電子顕微鏡で観察することで確認できる。
【0027】
本発明において、用いる粒子は有機粒子または無機粒子の何れでも好適に用いることできる。無機粒子としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックスや窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等のセラミックスなど、有機粒子としては高分子化合物を架橋剤により架橋したもので、例えば、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッ化物系化合物の架橋粒子等が挙げられるが、電気化学的な安定性の観点から、酸化物系セラミックスを用いることが好ましい。本発明においてはこれら粒子を単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。もちろん、無機系材料と有機系材料とが複合した粒子であっても構わない。
【0028】
さらに、リチウムイオン電池内での安定性の観点から、粒子の含水量は1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、含水量が0.5質量%以下であることが好ましい。本発明において含水量とは粒子表面および粒子の細孔に含まれる水分量のことをさす。含水量はJIS K5101(2004)に従い測定することができる。
【0029】
本発明において、含水量が1質量%以下の粒子としては、内部に細孔を持たないような緻密な構造を有する粒子が好ましい。例えば、アルミナ、乾式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたジルコニアなどの酸化物系セラミックスや窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウムケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等のセラミックスなどが挙げられるが、電気化学的な安定性の観点から、アルミナ、乾式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたジルコニアを用いることが好ましく、これらを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明において、用いる粒子の平均粒子径(面積円相当径の平均値)は、50〜500nmの範囲が好ましい。平均粒子径が500nmを超えるとフィルムの孔形成を阻害する場合がある。また50nmを下回ると樹脂中の粒子の凝集による欠点が増加する。より好ましくは100〜400nmである。
【0031】
本発明において、ポリオレフィン系多孔フィルム中に含有される粒子の含有量はポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜8質量部であり、さらに好ましくは0.1〜6質量部である。含有量が0.1質量部未満であると、熱可塑性エラストマーの核となる粒子が不足し、低温での機械強度が低下する場合がある。また、10質量部を超えて添加すると、フィルムとした際にフィルムがもろくなったり、粒子が脱落しやすくなったり、熱可塑性エラストマーのドメイン中の核の占める体積割合が大きくなりすぎてドメインの径が大きくなるため、ポリオレフィン系多孔フィルムの貫通孔の形成を阻害するため透気性が悪化する場合がある。
【0032】
本発明において、粒子は表面処理されたものを用いることもできる。処理の種類としてはシランカップリング剤や飽和および不飽和脂肪酸によるものが挙げられるが、耐熱性の観点からシランカップリング剤が好適に用いられる。
【0033】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス−(3−〔トリエトキシシリル〕−プロピル)−テトラサルファン(TESPT)、ビス−(3−〔トリエトキシシリル〕−プロピル)−ジサルファンなどを挙げることができる。特に耐熱性の観点から沸点が150℃以上であるシランカップリング剤が好ましい。
【0034】
本発明において、ポリオレフィン系多孔フィルム中に熱可塑性エラストマーを、粒子を核として分散させる方法としては、粒子と熱可塑性エラストマーとをあらかじめ混練した後に、ポリオレフィン系樹脂で任意の濃度で希釈したマスターバッチを作製し、フィルム製造時に添加する方法があげられるが、これに限定されるものではない。
【0035】
マスターバッチの作成方法としては、ベントを有する押出機に原料となる熱可塑性エラストマーと粒子とを供給し、ベントから真空吸引による脱気を行いながら溶融混練し、熱可塑性エラストマー中に粒子を分散させる方法が利用できる。押出機から吐出されたガット状の粒子含有熱可塑性エラストマーを常法により水浴中などで冷却後、切断してペレット(以下エラストマーペレットと称することがある)を得ることができる。ついで、ベントを有する押出機に原料となるエラストマーペレットとポリオレフィン系樹脂とを供給し、ベントから真空吸引による脱気を行いながら溶融混練し、ポリオレフィン系樹脂中に粒子を含有した熱可塑性エラストマーを分散させる。押出機から吐出されたガット状の該ポリマーは、常法により水浴中などで冷却後、切断してポリオレフィン系樹脂に熱可塑性エラストマーが粒子を核として分散したマスターバッチとなる。さらに、押出機と口金の間に瀘過装置を設け、該混練ポリマー中の粗粒を除去することも好ましい方法である。
【0036】
本発明において、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂との相溶性を向上させるためにマスターバッチ製造時に変性ポリプロピレン樹脂を添加することが好ましい。変性ポリプロピレン樹脂としては、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物及びそれらの誘導体を、グラフト共重合又はラジカル共重合によって、プロピレン単独重合体、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体又はこれらの混合物である、いわゆるポリプロピレン系樹脂に導入することによって得られるものである。
【0037】
本発明のポリオレフィン系多孔フィルムの透気抵抗は用途にもよるが、好ましくは50〜500秒/100ml、より好ましくは65〜450秒/100ml、さらに好ましくは80〜400秒/100mlである。透気抵抗が50秒/100ml未満ではフィルム強度が低く、セパレータとして用いた際に容易にピンホールが発生し、短絡の原因となる場合や、電池内部に収納するために捲回した際に破れてしまうなど取扱性に劣る場合がある。また500秒/100mlを超える透気抵抗ではイオン電導性に劣ってしまう。
【0038】
透気抵抗をかかる好ましい範囲に制御する方法としては、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン共重合体とを特定比率で混合した樹脂を用いることで達成しやすくなり、さらに、後述する特定の二軸延伸条件を採用することにより効果的に達成することができる。
【0039】
ポリオレフィン系多孔フィルムはβ晶法により多孔化することが好ましいため、フィルムを構成する(含まれる)ポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が40〜90%であることが好ましい。
【0040】
ここで、β晶形成能とは以下の条件で測定される、一定条件下におけるポリプロピレン樹脂中のβ晶の存在比率を示しており、β晶をどれだけ形成する能力があるのかを示す値である。β晶形成能の測定は、ポリプロピレン樹脂あるいはポリプロピレンフィルム5mgを、示差走査熱量計を用いて窒素雰囲気下で室温から240℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、30℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観察される融解ピークについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、それぞれ融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。
【0041】
β晶形成能(%)=〔ΔHβ/(ΔHα+ΔHβ〕×100
β晶形成能が40%未満ではフィルム製造時にβ晶量が少ないためにα晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。また、β晶形成能が90%を超える場合は、粗大孔が形成され、蓄電デバイス用セパレータとしての機能を有さなくなる場合がある。β晶形成能を40〜90%の範囲内にするためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレン樹脂を使用し、かつ、上述のβ晶核剤を添加することが好ましい。β晶形成能としては45〜80%であればより好ましい。
【0042】
また、上記β晶法以外にポリオレフィン系多孔フィルムを製造する方法としては、ポリプロピレンをマトリックス樹脂として、シート化する際、抽出する被抽出物を添加、混合し、被抽出物の良溶媒を使用して添加物のみを抽出することで、マトリックス樹脂中に空隙を形成する抽出法と呼ばれる方法や、溶融押出時に低温押出、高ドラフト比を採用することにより、シート化した延伸前フィルム中のラメラ構造を制御し、これを一軸延伸することでラメラ界面での開裂を発生させ、空隙を形成するラメラ延伸法と呼ばれる方法などがあり、いずれも用いることができる。
【0043】
本発明において用いるポリオレフィン系多孔フィルムは空孔率が45〜90%であることが好ましく、より好ましくは50〜80%である。45%未満ではポリオレフィン系多孔フィルムをセパレータとして用いた際の電池性能が不十分となる場合がある。90%を超えるとセパレータ特性、および強度の観点から不十分となる場合がある。
【0044】
フィルムの空孔率をかかる好ましい範囲に制御する方法としては、後述する特定の二軸延伸条件を採用することで達成することができる。
【0045】
本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは少なくとも一軸方向に延伸されていることが好ましい。未延伸のフィルムを用いた場合、フィルムの空孔率や機械強度が不十分となる場合がある。ポリオレフィン系多孔フィルムを少なくとも一軸方向に延伸する方法としては、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよいが、逐次二軸延伸が好ましい。
【0046】
また、本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは、組成の異なる、もしくは同一組成からなる複数の層を積層してなる積層フィルムであってもよい。積層フィルムとすると、フィルム表面特性とフィルム全体の特性を好ましい範囲に個別に制御できる場合があるので、好ましい。その場合、A|B|A型の3層積層とすることが好ましいが、A|B型の2層積層としても、また、4層以上の多層積層としても問題ない。なお、積層厚み比は、本発明の効果を損なわない範囲において特に制限されない。
【0047】
以下に本発明のポリオレフィン系多孔フィルムの製造方法を具体的に説明する。なお、本発明のポリオレフィン系多孔フィルムの製造方法はこれに限定されるものではないが、β晶法によるポリプロピレン多孔フィルムを例として説明する。
【0048】
ポリプロピレン樹脂として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂94質量部、同じく市販のMFR2.5g/10分高溶融張力ポリプロピレン樹脂1質量部、さらにメルトインデックス18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂5質量部にN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.2質量部を混合し、二軸押出機を使用して予め所定の割合で混合したポリプロピレン樹脂原料を準備する。この際、溶融温度は270〜300℃とすることが好ましい。
【0049】
また、市販の熱可塑性エラストマー79.8質量%、市販の有機または/および無機粒子20質量%、市販の酸化防止剤0.2質量%を混合し、溶融温度170〜200℃で二軸押出機を使用して混練し、エラストマーペレットを作製した。このエラストマーペレットを40質量%、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂59.8質量%、市販の酸化防止剤0.2質量%を混合し、溶融温度170〜200℃で二軸押出機を使用して混練し、熱可塑性エラストマーのマスターバッチを作製する。
【0050】
次に、上記のポリプロピレン樹脂原料100質量部に対して、粒子0.1〜10質量部、エラストマーが0.1〜10質量部になるようにマスターバッチを計量して単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。この際、キャストドラムは表面温度が105〜130℃であることが、キャストフィルムのβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。また、特にシートの端部の成形が後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。なお、シート全体のドラム上への密着状態から必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付ける方法や、静電印加法を用いてキャストドラムにポリマーを密着させてもよい。
【0051】
次に得られた未延伸シートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、高透気性フィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0052】
具体的な延伸条件としては、まず未延伸シートを長手方向に延伸する温度に制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては90〜135℃、さらに好ましくは100〜130℃の温度を採用することが好ましい。延伸倍率としては3〜6倍、より好ましくは4〜5.5倍である。次に、いったん冷却後、ステンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、好ましくは140〜155℃に加熱して幅方向に5〜12倍、より好ましくは6〜10倍延伸を行う。なお、このときの横延伸速度としては300〜5,000%/分で行うことが好ましく、500〜3,000%/分であればより好ましい。ついで、そのままステンター内で熱固定を行うが、その温度は横延伸温度以上168℃以下が好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に幅方向の弛緩率を3〜20%とすることが、熱寸法安定性の観点から好ましい。
【0053】
本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは優れた透気性と低温における突き刺し特性を有していることから、蓄電デバイスのセパレータとして好適に使用することができる。
【0054】
ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。本発明のセパレータとして使用した蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
【0055】
また、本発明のポリオレフィン系多孔フィルムは、蓄電デバイスのセパレータの他、優れた通気性、透湿性に加えて、防漏性、機械的強度にも優れており、透湿防水衣料、生理用品、紙おむつ等の吸収性物品、衛生用品、建築材料、各種包装材料、合成紙、濾過膜や分離膜、並びに農業用マルチシート等の分野に使用される素材として非常に有用である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0057】
(1)粒子の平均粒子径
粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡SEMを用い、無作為に抽出した粒子を観察倍率20,000倍の写真を撮影する。
【0058】
平均粒子径(D)は、上記写真から100個の粒子の面積円相当径(Di)を求め、下記式より求める。ここで面積円相当径(Di)は個々の外接円の直径である。
【0059】
【数1】

【0060】
(2)透気抵抗
ポリオレフィン系多孔フィルムから1辺の長さ100mmの正方形を切取り試料とし、JIS P 8117(2009)のB形のガーレー試験機を用いて、23℃、相対湿度65%にて、100mlの空気の透過時間の測定を3回行った。透過時間の平均値をポリオレフィン系多孔フィルムの透気抵抗とした。
【0061】
(3)空孔率
ポリオレフィン系多孔フィルムを30mm×40mmの大きさに切取り試料とした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をそのフィルムの比重ρとした。
【0062】
次に、測定したフィルムを280℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作成した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値を樹脂の比重(d)とした。なお、後述する実施例においては、いずれの場合も樹脂の比重dは0.91であった。フィルムの比重と樹脂の比重から、以下の式により空孔率を算出した。
【0063】
空孔率(%) = 〔( d − ρ ) / d 〕 × 100
(4)β晶形成能
ポリオレフィン系多孔フィルムを構成する樹脂またはポリオレフィン系多孔フィルムそのもの5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から280℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、30℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークにについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
【0064】
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
(5)突き刺し伸度および伸度保持率
万能試験機(島津製作所製オートグラフAG-IS)を用いてJIS Z1707(1997)に準じて25℃と−30℃で測定を行い、ピン先端がフィルムに接触してから、突き刺し破断が起こるまでの、ピン先端の移動距離を読み取り、その温度での突き刺し伸度とした。−30℃の測定では恒温槽(島津製作所製TCR2L)を用いた。上記測定より得られた突き刺し伸度を下記式に代入し、伸度保持率を算出した。
【0065】
伸度保持率(%)={−30℃における突き刺し伸度(mm)/25℃における突き刺し伸度(mm)}×100
(6)低温での安全性評価
宝泉(株)製のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)厚みが40μmの正極を使用し、直径15.9mmの円形に打ち抜き、また、宝泉(株)製の厚みが50μmの黒鉛負極を使用し、直径16.2mmの円形に打ち抜き、次に、ポリオレフィン系多孔フィルムを直径24mmに打ち抜いた。正極活物質と負極活物質面が対向するように、下から負極、金属粒子(平均粒子径11μm、Alfa Aesar製アルミニウム粒子)1mg、ポリオレフィン系多孔フィルム、正極の順に重ね、蓋付ステンレス金属製小容器(宝泉(株)製、HSセル、ばね圧10kgf)に収納した。容器と蓋とは絶縁され、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内にプロピレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に溶質としてLiPFを濃度1モル/リットルとなるように溶解させた電解液を注入して密閉し、電池を作製した。
【0066】
作製した各二次電池について、25℃の雰囲気下、充電を1.6mAで4.2Vまで3.5時間、25℃の雰囲気下で、1週間放置した後、1.6mAで2.7Vまで放電を行い、放電容量を測定した。
【0067】
また、25℃の雰囲気下、1.6mAで4.2Vまで3.5時間充電を行い、−30℃の雰囲気下で、1週間放置した後、常温で3時間放置した後、1.6mAで2.7Vまで放電を行い、放電容量を測定した。
【0068】
[(−30℃放置後放電容量)/(25℃放置後放電容量)]×100の計算式で得られる値を以下の基準で評価した。なお、試験個数は50個測定し、その平均値で評価した。
【0069】
○:85%以上
△:80%以上85%未満
×:80%未満または1個以上が20%未満
(7)熱可塑性エラストマーのドメインの構造
ポリオレフィン系多孔フィルムを、フィルム長手方向の断面がみえるようにウルトラミクロトーム(ライカ社製、RM2265)を用いて、−100℃にて超薄切片を作製した。上記サンプルをRuOにて染色し、透過型電子顕微鏡(日立(株)製、H7100FA)を用いて10,000倍で観察した。観察画像中、無作為に抽出した熱可塑性エラストマーのドメイン100個の構造を確認した。
【0070】
(実施例1)
ポリオレフィン系多孔フィルムの主原料樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を94.55質量%、エチレン−オクテン−1共重合体であるダウ・ケミカル製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分)を5質量%に加えて、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製 Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.2質量%、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.15、0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン樹脂原料とした。
【0071】
エラストマーペレットの原料としてスチレン・ブタジエンブロック共重合体である旭化成ケミカルズ製、タフテック(登録商標)H1052を80質量%、粒子として電気化学工業製シリカ粒子SFP−20(平均粒子径200nm)20質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてエラストマーペレット(あ)とした。
【0072】
また、マスターバッチを作製するために、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を59.8質量%、エラストマーペレット(あ)を40質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(a)とした。
【0073】
ポリプロピレン樹脂原料93.55質量%とマスターバッチ(a)6.25質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。このフィルム原料を単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、25μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4.5倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6倍に延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で6秒間の熱処理を行い、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム1を得た。
【0074】
ポリオレフィン系多孔フィルム1の熱可塑性エラストマーのドメインの構造を評価したところ、半数以上のドメインがドメイン中に粒子を含む構造であった。
【0075】
(実施例2)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料およびマスターバッチ(a)を作製し、ポリプロピレン樹脂原料87.3質量%とマスターバッチ(a)12.5質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。
【0076】
このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム2を得た。
【0077】
ポリオレフィン系多孔フィルム2の熱可塑性エラストマーのドメインの構造を評価したところ、半数以上のドメインがドメイン中に粒子を含む構造であった。
【0078】
(実施例3)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料およびマスターバッチ(a)を作製し、ポリプロピレン樹脂原料74.8質量%とマスターバッチ(a)25質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。
【0079】
このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム3を得た。
【0080】
ポリオレフィン系多孔フィルム3の熱可塑性エラストマーのドメインの構造を評価したところ、半数以上のドメインがドメイン中に粒子を含む構造であった。
【0081】
(実施例4)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料を作製した。エラストマーペレットの原料としてスチレン・ブタジエンブロック共重合体である旭化成ケミカルズ製、タフテック(登録商標)H1052を67質量%、粒子として電気化学工業製シリカ粒子SFP−20(平均粒子径200nm)33質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてエラストマーペレット(い)とした。
【0082】
また、マスターバッチを作製するために、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を59.8質量%、エラストマーペレット(い)を40質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(b)とした。
【0083】
ポリプロピレン樹脂原料85質量%とマスターバッチ(b)14.8質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム4を得た。
【0084】
ポリオレフィン系多孔フィルム4の熱可塑性エラストマーのドメインの構造を評価したところ、半数以上のドメインがドメイン中に粒子を含む構造であった。
【0085】
(実施例5)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料を作製した。エラストマーペレットの原料としてスチレン・ブタジエンブロック共重合体である旭化成ケミカルズ製、タフテック(登録商標)H1052を50質量%、粒子として電気化学工業製シリカ粒子SFP−20(平均粒子径200nm)50質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてエラストマーペレット(う)とした。
【0086】
また、マスターバッチを作製するために、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を59.8質量%、エラストマーペレット(う)を40質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(c)とした。
【0087】
ポリプロピレン樹脂原料79.8質量%とマスターバッチ(c)20質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム5を得た。
【0088】
ポリオレフィン系多孔フィルム5の熱可塑性エラストマーのドメインの構造を評価したところ、半数以上のドメインがドメイン中に粒子を含む構造であった。
【0089】
(実施例6)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料を作製した。エラストマーペレットの原料としてスチレン・ブタジエンブロック共重合体である旭化成ケミカルズ製、タフテック(登録商標)H1052を33質量%、粒子として電気化学工業製シリカ粒子SFP−20(平均粒子径200nm)67質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてエラストマーペレット(え)とした。
【0090】
また、マスターバッチを作製するために、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を59.8質量%、エラストマーペレット(え)を40質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(d)とした。
【0091】
ポリプロピレン樹脂原料69.9質量%とマスターバッチ(d)29.9質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム6を得た。
【0092】
ポリオレフィン系多孔フィルム6の熱可塑性エラストマーのドメインの構造を評価したところ、半数以上のドメインがドメイン中に粒子を含む構造であった。
【0093】
(比較例1)
ポリオレフィン系多孔フィルムの主原料樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を94.55質量%、エチレン−オクテン−1共重合体であるダウ・ケミカル製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分)を5質量%に加えて、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製 Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.2質量%、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.15、0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピン樹脂原料とした。このフィルム原料を単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、25μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4.5倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6倍に延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で6秒間の熱処理を行い、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム7を得た。
【0094】
(比較例2)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料を作製した。また、マスターバッチを作製するために、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を59.8質量%、スチレン・ブタジエンブロック共重合体である旭化成ケミカルズ製、タフテック(登録商標)H1052を40質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%をこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(e)とした。
【0095】
ポリプロピレン樹脂原料89.8質量%とマスターバッチ(e)10質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム8を得た。
【0096】
(比較例3)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料を作製した。また、マスターバッチを作製するために、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を69.8質量%、粒子として電気化学工業製シリカ粒子SFP−20(平均粒子径200nm)を30質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(f)とした。
【0097】
ポリプロピレン樹脂原料91.5質量%とマスターバッチ(f)8.3質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム9を得た。
【0098】
(比較例4)
ポリオレフィン系多孔フィルムの主原料樹脂として、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を89.55質量%、エチレン−オクテン−1共重合体であるダウ・ケミカル製 Engage8411(メルトインデックス:18g/10分)を10質量%に加えて、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製 Nu−100、以下、単にβ晶核剤と表記)を0.2質量%、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.15、0.1質量%を、この比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピン樹脂原料とした。このフィルム原料を単軸押出機に供給して220℃で溶融押出を行い、25μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、Tダイから120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出し、ドラムに15秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に4.5倍延伸を行った。一旦冷却後、次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、145℃で6倍に延伸した。そのまま、幅方向に5%のリラックスを掛けながら155℃で6秒間の熱処理を行い、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム10を得た。
【0099】
(比較例5)
実施例1と同様の手法を用いてポリプロピレン樹脂原料を作製した。また、熱可塑性エラストマーマスターバッチを作製するために、住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を59.8質量%、スチレン・ブタジエンブロック共重合体である旭化成ケミカルズ製、タフテック(登録商標)H1052を40質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%をこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(g)とした。また、粒子マスターバッチを作製するために住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を59.8質量%、電気化学工業製シリカ粒子SFP−20(平均粒子径200nm)を40質量%、IRGANOX1010およびIRGAFOS168を各0.1質量%をこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、190℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてマスターバッチ(h)とした。ポリプロピレン樹脂原料79.8質量%とマスターバッチ(g)10質量%、マスターバッチ(h)10質量%、IRGANOX1010、IRGAFOS168を各0.1質量%を混合し、フィルム原料を調製した。このフィルム原料を実施例1と同様の手法を用いて製膜し、厚み23μmのポリオレフィン系多孔フィルム11を得た。
【0100】
ポリオレフィン系多孔フィルム11の熱可塑性エラストマーのドメインの構造を評価したところ、ドメイン中に粒子を含む構造のものに比べ、ドメイン中に粒子を含まない構造のものが多数であった。
【0101】
【表1】

【0102】
表1において、多孔フィルム中の原料組成値(質量%)は概略値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の多孔フィルムはポリオレフィン系多孔フィルムに熱可塑性エラストマーおよび粒子を含有せしめることで低温での突き刺し試験における伸度を向上させることができ、広い温度領域で安全性を保てることから、蓄電デバイス、特に非水電解質二次電池であるリチウムイオン電池のセパレータとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と熱可塑性エラストマーと粒子とを含み、次の式で算出される伸度保持率が70%以上であるポリオレフィン系多孔フィルム。
伸度保持率(%)={−30℃における突き刺し伸度(mm)/25℃における突き刺し伸度(mm)}×100
【請求項2】
25℃での突き刺し伸度が2.5mm以上である、請求項1に記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して粒子を0.1〜10質量部含む、請求項1または2に記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項4】
粒子の平均粒子径が50〜500nmである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項5】
粒子がシリカである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーがスチレン系エラストマーまたはジエン系エラストマーである、請求項1〜5のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項7】
透気抵抗が50〜500秒/100mlである、請求項1〜6のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔フィルム
【請求項8】
空孔率が45〜90%である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項9】
ポリオレフィン系多孔フィルムがポリプロピレン樹脂を85質量%以上含んでいる、請求項1〜8のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項10】
ポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が40〜90%である、請求項9に記載のポリオレフィン系多孔フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリオレフィン系多孔フィルムを用いてなる蓄電デバイス用セパレータ。

【公開番号】特開2012−131990(P2012−131990A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261450(P2011−261450)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】