説明

蓄電装置及び蓄電装置の作製方法

【課題】電池特性の向上を図った蓄電装置の構造を提供することを課題の一とする。または、電池特性の向上を図った蓄電装置の作製方法を提供することを課題の一とする。
【解決手段】正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有し、前記正極は、集電体と、前記集電体上に設けられた活物質を含む膜と、前記活物質を含む膜上に設けられた炭素膜とを有する蓄電装置である。すなわち、炭素膜は、活物質を含む膜と電解質との間に位置するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蓄電装置及び蓄電装置の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への関心が高まるなか、ハイブリッド自動車用電源に使用する二次電池や電気二重層キャパシタなど蓄電装置の開発が盛んである。その候補として、エネルギー性能の高いリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタが注目されている。リチウムイオン電池は、小型でも大容量の電気を蓄えられるため、既に携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなど携帯情報端末に搭載され、製品の小型化などに一役買っている。
【0003】
二次電池及び電気二重層キャパシタは、正極と負極との間に電解質を介在させた構成を有する。正極及び負極は、それぞれ、集電体と、集電体上に設けられた活物質と、を有する構成が知られている。例えば、リチウムイオン電池は、リチウムイオンを挿入及び脱離することのできる材料を活物質として電極に用い、電解質を間に介在させて構成する。
【0004】
リチウムイオン電池の正極用の活物質としてはリチウム酸化物等が知られ、負極用の活物質としては黒鉛などの炭素材料が知られている。ここで、正極用の活物質であるリチウム酸化物へNa及びSなどが不純物として混入することを防ぎ、Pを適切に添加し、焼結性を高めることで、電池特性を向上させることが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/049001号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次電池及び電気二重層キャパシタなどの蓄電装置は、用途の広がりとともにさらなる電池特性の向上が求められている。そのため、電極や電解質の材料及び製造方法、蓄電装置の構造など、さまざまな面からアプローチされている。上述の特許文献1のように、正極用の活物質材料の検討も、電池特性向上へのアプローチの一つである。
【0007】
リチウム酸化物は、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能であり、リチウムイオンの挿入及び脱離に伴う結晶構造の変化が起きにくいため、正極用の活物質として有望視されている。しかしながら、リチウム酸化物は酸化物であるため導電性が低く、充放電レート特性や容量など電池特性を満足させるに至っていないのが現状である。
【0008】
上記問題を鑑み、本発明の一態様は、電池特性の向上を図った蓄電装置の構造を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、電池特性の向上を図った蓄電装置の作製方法を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
少なくとも、正極と、正極と電解質を介して対向するように設けられた負極と、を有する蓄電装置とする。正極は、集電体と、集電体上に設けられた活物質を含む膜と、活物質を含む膜上に設けられた炭素膜と、の積層構造で構成される。正極において、電解質と接する面に炭素膜を配置する。したがって、炭素膜は、活物質を含む膜と電解質との間に位置することになる。
【0010】
活物質を含む膜は、活物質の薄膜、活物質の粒子が分散された膜、又は活物質の粒子の集合体とすることができる。炭素膜は、活物質の薄膜表面、活物質の粒子が分散された膜表面、又は活物質の粒子の集合体表面を被覆する。
【0011】
本発明の一態様は、正極と、正極と電解質を介して設けられた負極とを有し、正極は、集電体と、集電体上に設けられた活物質を含む膜と、活物質を含む膜上に設けられた炭素膜とを有する蓄電装置である。
【0012】
本発明の一態様は、正極と、正極と電解質を介して設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、正極の作製工程は、集電体上に活物質を含む膜を形成した後、活物質を含む膜上に炭素膜を形成する工程を有する蓄電装置の作製方法である。
【0013】
本発明の一態様は、正極と、正極と電解質を介して設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、正極の作製工程は、集電体上に乾式法を用いて活物質を含む膜を形成した後、活物質を含む膜上に乾式法を用いて炭素膜を形成する工程を有する蓄電装置の作製方法である。
【0014】
本発明の一態様は、正極と、正極と電解質を介して設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、正極の作製工程は、集電体上に湿式法を用いて活物質を含む膜を形成した後、活物質を含む膜上に乾式法を用いて炭素膜を形成する工程を有する蓄電装置の作製方法である。
【0015】
上記構成において、活物質を含む膜は、複数の活物質粒子を含み、炭素膜が複数の活物質粒子の間に介入するように形成してもよい。
【0016】
上記構成において、集電体と活物質とが接していてもよい。
【0017】
上記構成において、活物質は、リチウム酸化物を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、電池特性の向上した蓄電装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】蓄電装置の構造の一例を示す図。
【図2】蓄電装置の構造の一例を示す図。
【図3】蓄電装置の作製方法の一例を示す図。
【図4】蓄電装置の作製方法の一例を示す図。
【図5】蓄電装置の特性の一例を示す図。
【図6】X線回折の測定結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下の実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態では、蓄電装置の構造の一例について説明する。
【0022】
図1は、蓄電装置に用いる正極の構造の一例である。
【0023】
正極101は、集電体103と、集電体103上に形成された活物質を含む膜105と、活物質を含む膜105上に形成された炭素膜107とを有している。
【0024】
活物質の材料としては、リチウム酸化物を用いることが好ましい。リチウムは、イオン化傾向が大きく、原子半径が小さいため好適である。例えば、LiCoO、LiMn、又はLiFePO等の、化学式Li(x、y、zは、正の実数)で表される化合物を用いることができる。ここで、Mは1つ又は複数の物質を示す。Mが1つの場合、金属であることが好ましい。Mが複数の場合、複数の金属の組み合わせ、又は、金属と非金属の組み合わせでもよい。また、リチウムの代わりにカルシウム等を用いてもよい。本実施の形態では、リチウム酸化物を用いた場合について説明する。
【0025】
活物質を含む膜105は、活物質の薄膜、活物質の粒子が分散された膜、又は活物質の粒子の集合体とすることができる。活物質を含む膜105の膜厚は、50nm以上30μm以下とすることが好ましい。また、活物質を含む膜105に活物質の粒子が含まれる場合(活物質の粒子が分散された膜、又は活物質の粒子の集合体である場合)、粒子の直径は5nm以上200nm以下とすることが好ましい。
【0026】
活物質は、酸化物が用いられているため、導電性が低く、リチウムイオンの挿入及び脱離が遅くなる。そのため、蓄電装置の充放電レート特性が低下する。
【0027】
そこで、本実施の形態では、活物質を含む膜105上に炭素膜107を有している。炭素は導電性が高いため、リチウムイオンの挿入及び脱離を促進させる。そのため、蓄電装置の充放電レート特性が向上し、電池特性が向上する。
【0028】
具体的には、炭素膜107は、活物質を含む膜105と電解質との間に位置するように設ける。そのため、炭素膜107は、少なくとも、活物質を含む膜105の電解質側の面を被覆するように設ける。このようにすることで、正極101において電解質と接する面に炭素膜107が配置され、炭素膜107をリチウムイオンの挿入及び脱離の促進に寄与させることができる。炭素膜107の膜厚は、10nm以上200nm以下とすることが好ましい。
【0029】
なお、集電体103の材料としては、特に限定されないが、アルミニウム、チタン等の導電性の高い材料を用いることができる。
【0030】
次に、上記正極を用いた蓄電装置の構造の一例について説明する。
【0031】
図2は、蓄電装置の構造の一例であり、正極101と、正極101と電解質201を介して設けられた負極203とを有している。また、正極101と負極203との間には、セパレータ205を有している。
【0032】
電解質201は、リチウムを伝導する機能を有する。電解質201の材料としては、液体又は固体を用いることができる。
【0033】
液体の場合、溶媒と、溶媒に溶解される溶質(塩)とを含んでいる。溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート若しくはエチレンカーボネート等の環状カーボネート、又はジメチルカーボネート若しくはジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。溶質(塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、又はLiTFSA等、軽金属塩(リチウム塩等)を1種又は2種以上含んでいるものを用いることができる。
【0034】
固体の場合、例えば、LiPO、LiPOに窒素を混ぜたLiPO(x、y、zは正の実数)、LiS−SiS、LiS−P、LiS−B等を用いることができる。また、これらにLiIなどをドープしたものを用いることができる。
【0035】
セパレータ205は、正極101と負極203との接触を防止するとともに、リチウムイオンを通過させる機能を有する。セパレータ205の材料としては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、あるいは、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維であり、ビナロンとも呼ぶ)、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維等を用いることもできる。ただし、電解質に溶解しない材料を選ぶ必要がある。なお、電解質201に固体電解質を適用すれば、セパレータ205を省略した構成とすることも可能である。
【0036】
負極203は、集電体209と、活物質を含む膜207とを有する。集電体209の材料としては、特に限定されないが、白金、アルミニウム、銅、チタン等の導電性の高い材料を用いることができる。活物質の材料としては、特に限定されないが、リチウム金属、黒鉛等の炭素材料、シリコン等を用いることができる。
【0037】
次に、蓄電装置としてリチウム二次電池を用いた場合について、充放電の一例を説明する。
【0038】
充電は、図2(B)に示すように、正極101と負極203との間に電源211を接続することで行われる。電源211から電圧が印加されると、正極101のリチウムがイオン化し、リチウムイオン213が脱離するとともに、電子215が発生する。リチウムイオン213は、電解質201を介して負極203に移動する。電子215は、電源211を介して負極203に移動する。そして、リチウムイオン213は、負極203で電子215を受け取り、リチウムとして負極203に挿入される。
【0039】
一方、放電は、図2(C)に示すように、正極101と負極203の間に負荷217を接続することで行われる。負極203のリチウムがイオン化し、リチウムイオン213が脱離するとともに、電子215が発生する。リチウムイオン213は、電解質201を介して正極101に移動する。電子215は、負荷217を介して正極101に移動する。そして、リチウムイオン213は、正極101で電子215を受け取り、リチウムとして正極101に挿入される。
【0040】
このように、リチウムイオンが正極101及び負極203の間を移動することで、充放電が行われる。
【0041】
本実施の形態で示した正極101は、活物質を含む膜105上に炭素膜107を有し、炭素膜107がリチウムイオンの挿入及び脱離を促進させる。そのため、蓄電装置の充放電レート特性が向上し、電池特性が向上する。
【0042】
本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【0043】
(実施の形態2)
本実施の形態では、蓄電装置の正極の作製方法において、乾式法を用いて活物質を含む膜を形成する例を説明する。
【0044】
まず、集電体103を準備する(図3(A))。
【0045】
集電体103の材料は、実施の形態1で示したものを用いることができる。例えば、本実施の形態ではチタンを用いる。
【0046】
次に、集電体103上に、乾式法を用いて活物質を含む膜305を形成する(図3(B))。
【0047】
乾式法としては、PVD法(例えばスパッタリング法)、真空蒸着法、又はCVD法(例えばプラズマCVD法)などを用いることができる。乾式法を用いて活物質を含む膜305を形成することで、薄膜の活物質を含む膜305を得ることができる。
【0048】
活物質を含む膜305に含まれる活物質の材料は、実施の形態1で示したものを用いることができる。例えば、スパッタリング法により、オリビン型のLiFePOターゲットを用いて、膜厚100nmのリン酸鉄リチウム(活物質を含む膜305)を形成する。
【0049】
次いで、活物質を含む膜305上に炭素膜107を形成する(図3(C))。
【0050】
炭素膜107の形成方法は、真空蒸着法、CVD法、又はPVD法等の乾式法を用いることが好ましい。乾式法を用いることで、炭素膜107を緻密にすることができる。例えば、真空蒸着法により、膜厚100nmの炭素膜107を形成する。
【0051】
以上のようにして、正極101を作製する。
【0052】
なお、炭素膜107を形成した後、活物質を含む膜305及び炭素膜107に加熱処理を行ってもよい。加熱処理を行うことで、活物質を含む膜305を結晶化させる、又は結晶性を高めることができる。
【0053】
以降は、上記実施の形態1で示したように、正極101と電解質を介して対向するように負極を形成することで、蓄電装置を得ることができる。
【0054】
本実施の形態では、活物質を含む膜305を薄膜で形成し、活物質を含む膜305上に炭素膜107を形成する。炭素膜107が、活物質を含む膜305と電解質との間に存在することで、リチウムイオンの挿入及び脱離が促進される。その結果、蓄電装置の充放電レート特性が向上し、電池特性が向上する。また、集電体103と、活物質を含む膜305と、炭素膜107と、を薄膜の積層構造とすることで、正極101を薄型化することができ、蓄電装置自体の薄型化を実現できる。
【0055】
本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【0056】
(実施の形態3)
本実施の形態では、蓄電装置の正極の作製方法において、湿式法を用いて活物質を含む膜を形成する例を説明する。
【0057】
まず、集電体103を準備する(図4(A))。
【0058】
集電体103の材料は、実施の形態1で示したものを用いることができる。本実施の形態ではチタンを用いる。
【0059】
次に、集電体103上に活物質を含む膜405を湿式法を用いて形成する(図4(B))。
【0060】
湿式法としては、例えば、塗布法等を用いることができる。湿式法を用いることで、真空系の装置を用いるより製造コストを低減することができる。活物質を含む膜405の材料は、実施の形態1で示したものを用いることができる。本実施の形態では、オリビン型のLiFePOを材料として用い、塗布法により、膜厚100nmのリン酸鉄リチウム(活物質を含む膜405)を形成する。
【0061】
次いで、活物質を含む膜405上に炭素膜107を形成する(図4(C))。
【0062】
炭素膜107の形成方法は、真空蒸着法、CVD法(例えばプラズマCVD法)、又はPVD法(例えばスパッタリング法)等の乾式法を用いることが好ましい。乾式法を用いることで、炭素膜107を緻密にすることができる。本実施の形態では、真空蒸着法により、膜厚100nmの炭素膜107を形成する。
【0063】
以上のようにして、正極101を作製する。
【0064】
なお、炭素膜107を形成した後、活物質を含む膜405及び炭素膜107に加熱処理を行ってもよい。加熱処理を行うことで、活物質を含む膜405を結晶化させる、又は結晶性を高めることができる。
【0065】
以降は、上記実施の形態1で示したように、正極101と電解質を介して対向するように負極を形成することで、蓄電装置を得ることができる。
【0066】
作製された正極101において、湿式法により形成された活物質を含む膜405は、巨視的には図4(C)のように、集電体103の表面上において膜の形状を有しているが、微視的には、図4(D)のように、複数の活物質粒子401から構成されている。そして、乾式法により形成された炭素膜107は、複数の活物質粒子401の間に侵入するように形成されている。このような構造とすることで、炭素膜107がイオンの挿入及び脱離を促進する効果を向上させることができる。
【0067】
なお、炭素膜107が各々の活物質粒子401を包むように形成してもよい。ただし、集電体103と活物質粒子401との間にも炭素膜107が形成され、膜厚が増加するため、導電性を下げる可能性がある。そのため、本実施の形態のように、活物質を含む膜405を形成した後、炭素膜107を形成し、集電体103と活物質を含む膜405(活物質粒子401)とが接するような構造とすることが好ましい。
【0068】
本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例1】
【0069】
本実施例では、炭素膜の有無による電池特性の差について観察した結果を示す。
【0070】
まず、観察した試料について説明する。試料としては、正極と、負極と、正極及び負極の間に電解液を含むセパレータと、を有する2032型コイン形状電池を形成した。負極はリチウムを用いて形成した。セパレータはポリプロピレン(PP)を用いた。電解液は、LiPFを溶解させたエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液を用いた。
【0071】
条件A〜条件Dにおけるサンプルの正極は、チタン上に活物質を含む膜を形成し、活物質を含む膜上に炭素膜を形成した構造とした。条件E〜条件Hの正極は、チタン上に活物質を含む膜のみ形成した構造とした。
【0072】
また、条件A及び条件Eのサンプルは、活物質を含む膜の膜厚を100nmとした。条件B及び条件Fのサンプルは、活物質を含む膜の膜厚を260nmとした。条件C及び条件Gのサンプルは、活物質を含む膜の膜厚を410nmとした。条件D及び条件Hのサンプルは、活物質を含む膜の膜厚を1000nmとした。
【0073】
下記表1に、条件A〜Dのサンプル構成について示す。
【0074】
【表1】

【0075】
活物質を含む膜は、LiFePOターゲットを用い、RF電源の電力700W、圧力0.1Pa、酸素流量:アルゴン流量を0:50として、スパッタリング法により成膜した。
【0076】
条件A〜条件Dにおけるサンプルの正極については、活物質を含む膜上に炭素膜を形成した。炭素膜は、直径0.5mm、硬度Bのシャープ替芯(三菱鉛筆株式会社製、商品名「ユニ ナノダイヤ」)を蒸着材料として用い、蒸着装置により成膜した。炭素膜は、およそ100nmの厚さに成膜した。
【0077】
なお、条件A〜条件Dにおけるサンプルの正極の作製工程では炭素膜を形成した後、条件E〜条件Hにおけるサンプルの正極の作製工程では活物質を含む膜を形成した後、加熱処理を行った。加熱処理は、窒素雰囲気下で、600℃、4時間の条件で行った。
【0078】
条件A〜条件Hのサンプルを用いて充放電試験((株)東洋システム 充放電試験装置 TOSCAT−3100を使用)を行った。測定電圧は2.5V〜4.2Vの範囲に設定し、測定電流は0.001mAの定電流とした。定電流充電→休止2時間→定電流放電→休止2時間の充放電試験を行い、充電時、充電後の休止時、放電時、放電後の休止時の電圧(V)を及び容量(mAh)を測定した。
【0079】
上記充放電試験で測定した値を用い、条件A〜条件Hのサンプルそれぞれについて、放電後の直流抵抗(Ω)を求め、図5(A)に示した。
・放電後の直流抵抗(Ω)=(放電終了直前の電圧)−(放電後の休止開始直後時の電圧)/(放電時の電流)
【0080】
図5(A)の縦軸は直流抵抗(Ω)を表す。図5(A)から、条件A〜条件Dのサンプルは、条件E〜条件Hのサンプルと比較して、放電後の直流抵抗が小さいことがわかる。この結果から、正極に炭素膜を設けた条件A〜条件Dのサンプルの方が、正極に炭素膜を設けない条件E〜条件Hのサンプルよりも放電における内部抵抗の上昇が少なく、この点での電池特性に優れることがわかる。
【0081】
また、上記充放電試験で測定した値を用い、条件A〜条件Hのサンプルそれぞれについて、充電後の直流抵抗(Ω)を求め、図5(B)に示した。
・充電後の直流抵抗(Ω)=(充電終了直前の電圧)−(充電後の休止開始直後時の電圧)/(充電時の電流)
【0082】
図5(B)の縦軸は直流抵抗(Ω)を表す。図5(B)から、条件Aのサンプルは、条件Eのサンプルと比較して、明らかに直流抵抗が小さいことがわかる。また、条件B〜条件Dのサンプルは、条件F〜条件Hのサンプルと比較して、直流抵抗は誤差範囲内の差しか見られないことがわかる。
【0083】
以上のように、正極に炭素膜を設けた条件A〜条件Dのサンプルの方が、正極に炭素膜を設けない条件E〜条件Hのサンプルと比較して、放電における内部抵抗の上昇が少なく、この点での電池特性に優れることがわかる。条件E〜条件Hのサンプルと比較した条件A〜条件Dのサンプルの優位性は、活物質と電解質との間におけるリチウムイオンの挿入及び脱離の促進に、炭素膜が寄与しているためと考察される。
【0084】
なお、ここで、本実施例における活物質を含む膜について考察する。本実施例の活物質を含む膜(LiFePOターゲットを用い、RF電源の電力700W、圧力0.1Pa、酸素流量:アルゴン流量の比を0:50として、スパッタリング法により成膜した膜)について、成膜直後におけるX線光電子分光分析(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)の測定及び誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)の測定を行った。
【0085】
XPS及びICP−MSの結果から、成膜直後の活物質を含む膜の組成比はLi:Fe:P:O=9.3:11.9:8.6:61.2と見積もられた。また、XPSにおけるFeの2p軌道のピークから、この段階では、Feの価数は主に2価であると推察された。
【0086】
また、成膜後、加熱処理(窒素雰囲気下、600℃、4時間)を行った後の活物質を含む膜について、X線回折(XRD:X−ray diffraction)の測定を行った。XRDの測定結果を図6に示す。
【0087】
なお、ここでは、条件Aのサンプル及び条件Eのサンプルの測定結果を図6(A)、条件Cのサンプル及び条件Gのサンプルの測定結果を図6(B)に示す。
【0088】
図6(A)に示すように、条件Aのサンプルのスペクトル、及び条件Eのサンプルのスペクトルは、略同じピークを有することがわかる。図6(B)においても、条件Cのサンプルのスペクトル、及び条件Gのサンプルのスペクトルは、略同じピークを有することがわかる。したがって、炭素膜の有無は、加熱処理後の活物質を含む膜の構造に影響を及ぼさないことが考察される。
【0089】
また、図6(A)、(B)の結果から、加熱処理後の活物質を含む膜にはFeのピークと、ナシコン型LiFe(POのピークと、が確認できる。したがって、この段階では、3価のFeが含まれると考察される。図6(A)、(B)の結果から、活物質を含む膜に含有されるFeの価数が2価から3価に変化したものも含み、活物質を含む膜を成膜した後、加熱処理を行うことで、活物質を含む膜が酸化されていることがわかる。
【0090】
本実施例は、実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0091】
101 正極
103 集電体
105 活物質を含む膜
107 炭素膜
201 電解質
203 負極
205 セパレータ
207 活物質を含む膜
209 集電体
211 電源
213 リチウムイオン
215 電子
217 負荷
305 活物質を含む膜
401 活物質粒子
405 活物質を含む膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有し、
前記正極は、集電体と、前記集電体上に設けられた活物質を含む膜と、前記活物質を含む膜上に設けられた炭素膜とを有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記集電体と前記活物質とが接していることを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記活物質は、リチウム酸化物を含むことを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、
前記正極の作製工程は、集電体上に活物質を含む膜を形成した後、前記活物質を含む膜上に炭素膜を形成する工程を有することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項5】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、
前記正極の作製工程は、集電体上に乾式法を用いて活物質を含む膜を形成した後、前記活物質を含む膜上に乾式法を用いて炭素膜を形成する工程を有することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項6】
正極と、前記正極と電解質を介して対向するように設けられた負極とを有する蓄電装置の作製方法であって、
前記正極の作製工程は、集電体上に湿式法を用いて活物質を含む膜を形成した後、前記活物質を含む膜上に乾式法を用いて炭素膜を形成する工程を有することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記活物質を含む膜は、複数の活物質粒子を含み、
前記炭素膜が前記複数の活物質粒子の間に侵入するように形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか一において、
前記集電体と前記活物質とが接するように形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項9】
請求項5乃至請求項8のいずれか一において、
前記活物質は、リチウム酸化物を含むことを特徴とする蓄電装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−210713(P2011−210713A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49749(P2011−49749)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】