説明

蕎麦紅麹およびその製造方法

【課題】コレステロール低下物質であるモナコリンKを含有する紅麹と、血管を強くし、血圧降下に有効とされるルチン、さらには、動脈硬化の原因となるLDL−コレステロールの酸化を抑制する抗酸化力を有するポリフェノールの一種であるケルセチンが豊富である蕎麦を原料とした、モナコリンK、ルチン、ケルセチンを含有する蕎麦紅麹、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】従来よりも、コレステロール低下物質であるモナコリンKの産生量が高い紅麹菌株を玄蕎麦に植菌、培養することにより、紅麹中にモナコリンK含量が高く、蕎麦由来のルチン、ケルセチンも含有されている蕎麦紅麹を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蕎麦を原料としたモナコリンK、ルチン、ケルセチンを含有する機能性食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蕎麦は、日本で古くから食用に用いられている代表的な食材の一つであり、血管を強くし、血圧降下に有効とされるルチンを含有している。さらには、動脈硬化の原因となるLDL−コレステロールの酸化を抑制する抗酸化力を有するポリフェノールの一種であるケルセチンが豊富であることから、健康食として注目されている。
【0003】
紅麹は、穀類にモナスカス属の菌株を繁殖させた麹で、中国、台湾などでは紅酒、老酒、紅乳腐などの醸造原料として利用されており、また古来より生薬としての効果が知られている。モナスカス属の紅麹菌を用いて麹化させた紅麹がコレステロール低下物質であるモナコリンKを生産することが知られており(特許文献1)、紅麹自体にもコレステロール低下作用があること(特許文献2)が知られている。さらに、血圧降下作用(特許文献3)もあることが明らかにされ、健康志向の高まりにより、玄米酢、味噌、醤油などの醸造食品やパンや麺類など主食への添加、そしてさまざまな健康補助食品(サプリメント)など、食品分野で幅広く利用されている。
【0004】
上述のごとく、蕎麦と紅麹はいずれも血液や血管に作用する成分を有していることから、蕎麦を紅麹菌により麹化することにより、動脈硬化の予防など健康食品としての用途が期待できる。すなわち、紅麹に含まれるモナコリンKによるコレステロール低下作用と、蕎麦に含まれるルチンやケルセチンによる血管の補強作用の相乗効果が期待される。
【0005】
本願出願人は、これまでに米(特許文献4)、小麦(特許文献5)、大豆(特許文献6)などを原料とし、紅麹菌を植菌、培養することによって麹化させた紅麹を開発してきた。
しかしながら、原料によって培養する条件が異なり、蕎麦に適した培養条件を類推することは容易ではない。また、紅麹の産生物質であるモナコリンKと、蕎麦の有用成分であるルチン、ケルセチンを有用な量で得ることは容易ではない。
【0006】
【特許文献1】特公昭59−25599号公報
【特許文献2】特公昭60−44914号公報
【特許文献3】特公平3−31170号公報
【特許文献4】特開平1−171476号公報
【特許文献5】特開平3−76573号公報
【特許文献6】特開2006−75003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、蕎麦を原料とし、紅麹中に1重量%以上のモナコリンKを含有し、さらにルチン、ケルセチンをも含む蕎麦紅麹、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
有効な量のモナコリンKを食品として摂取するためには、培養した紅麹中にモナコリンKが1重量%以上含まれていることが望ましい。そのためには、従来菌、例えばMonascus pilosus NBRC4520、よりもモナコリンK産生量が高い紅麹菌株(以下、高MK菌と称する)を用いることが好ましい。これに関して本願出願人は、モナコリンK産生量に優れる高MK菌を開発した(特許文献7)。このような高MK菌としては、出願人が開発した受託番号NITE P−412によって独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された紅麹菌株が例示される。本発明は、前述の高MK菌を蕎麦に植菌、培養することによって、培養後の紅麹中に1重量%以上のモナコリンKが含まれ、かつ、蕎麦に含有されるルチン、ケルセチンをあわせて含有することを特徴とする、蕎麦紅麹に関するものである。
【特許文献7】特願2007−271481未公開
【0009】
ルチンやケルセチンは蕎麦に含まれる成分であるが、玄蕎麦の方が多く含まれていることから、原料として用いる蕎麦は、むき実蕎麦よりも玄蕎麦を用いることが望ましい。玄蕎麦とは収穫されたままの実のことであり、むき実蕎麦とは玄蕎麦の外側の黒い皮の部分を取り除いた実のことをいう。
【0010】
すなわち、本発明の目的は玄蕎麦に高MK菌を植菌し、一定条件下で培養をすることにより、紅麹中に1重量%以上のモナコリンKを含有し、さらに蕎麦由来のルチン及びケルセチンをあわせて含有する、蕎麦紅麹を得ることである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モナコリンK、ルチン、ケルセチンをすべて含有する、蕎麦紅麹を製造することができる。得られた蕎麦紅麹をそのままサプリメントとして飲食することもできるし、蕎麦紅麹を粉砕して粉末とすることによって食品に添加することもできる。さらには、飲料に添加することによって、ドリンク剤の形態にすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
一晩水に浸漬させた後に水切りした玄蕎麦を、200mL三角フラスコに30g入れ、125℃で25分間オートクレーブ滅菌を行った。滅菌後、高MK菌(受託番号NITE P−412によって独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された紅麹菌株)を寒天培地に繁殖させたもの1cm角片をフラスコ内に投入し、30〜35℃の範囲に制御して4日間培養した後に20〜25℃の範囲に制御して35日間静置して培養を行った。培養7、14、21、28、35日後にそれぞれ10gの紅麹を採取した。
モナコリンKの含量は、調製した紅麹粉末に20〜100倍量の60%エタノールを加え、攪拌しながら30分間抽出し、その抽出液を高速液体クロマトグラフィーにかけて定量した。培養日数とモナコリンK含量を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
培養28日後のモナコリンK含量は、1121.0mg/100g、培養35日後のモナコリンK含量は、1357.0mg/100gであり、紅麹中に1重量%以上のモナコリンKが含有されていた。
【実施例2】
【0016】
一晩水に浸漬させた後に水切りをした玄蕎麦を、200mL三角フラスコに30g入れ、125℃で25分間オートクレーブ滅菌を行った。滅菌後、紅麹菌(従来菌;Monascus pilosus NBRC4520)を寒天培地に繁殖させたもの1cm角片をフラスコ内に投入し、30〜35℃の範囲に制御して4日間培養した後に20〜25℃の範囲に制御して35日間静置して培養を行った。培養7、14、21、28、35日後にそれぞれ10gの紅麹を採取した。モナコリンKの含量は、調製した紅麹粉末に20〜100倍量の60%エタノールを加え、攪拌しながら30分間抽出し、その抽出液を高速液体クロマトグラフィーにかけて定量した。
培養日数とモナコリンK含量を表2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
培養28日後のモナコリンK含量は、274mg/100g、培養35日後のモナコリンK含量は、393mg/100gであり、紅麹中に含有されるモナコリンKは1重量%未満であった。実施例1と比較すると1/4のモナコリンK含量であった。
【実施例3】
【0019】
一晩水に浸漬させた後に水切りした玄蕎麦を、200mL三角フラスコに30g入れ、125℃で25分間オートクレーブ滅菌を行った。滅菌後、紅麹菌(従来菌;Monascus pilosus NBRC4520)を寒天培地に繁殖させたもの1cm角片をフラスコ内に投入し、30〜35℃の範囲に制御して4日間培養した後に20〜25℃の範囲に制御して21日間静置して培養を行った。培養21日後に10gの紅麹を採取した。採取した紅麹に20〜50倍量のメタノールを加え、超音波で20分間抽出し、その抽出液を高速液体クロマトグラフィーにかけてルチン、ケルセチンの量を測定した。モナコリンKの含量は、調製した紅麹粉末に20〜100倍量の60%エタノールを加え、攪拌しながら30分間抽出し、その抽出液を高速液体クロマトグラフィーにかけて定量した。
原料とした玄蕎麦には、ルチンが13.9mg/100g、およびケルセチンが0.4mg/100g含有されていた。培養21日後の紅麹にはモナコリンKが196.0mg/100g、ルチンが5.6mg/100g、およびケルセチンが1.9mg/100g含有されていた。
【0020】
培養前と比較すると、培養後にケルセチンの含量が増加した。
【実施例4】
【0021】
一晩水に浸漬させた後に水切りしたむき実蕎麦を、200mL三角フラスコに30g入れ、125℃で25分間オートクレーブ滅菌を行った。滅菌後、紅麹菌(従来菌;Monascus pilosus NBRC4520)を寒天培地に繁殖させたもの1cm角片をフラスコ内に投入し、30〜35℃の範囲に制御して4日間培養した後に20〜25℃の範囲に制御して21日間静置して培養を行った。培養21日後に10gの紅麹を採取した。採取した紅麹に20〜50倍量のメタノールを加え、超音波で20分間抽出し、その抽出液を高速液体クロマトグラフィーにかけてルチン、ケルセチンの量を測定した。モナコリンKの含量は、調製した紅麹粉末に20〜100倍量の60%エタノールを加え、攪拌しながら30分間抽出し、その抽出液を高速液体クロマトグラフィーにかけて定量した。
原料としたむき実蕎麦にはルチンが2.6mg/100gが含有されていたが、ケルセチンは検出されなかった。培養21日後の紅麹にはモナコリンKが177.0mg/100g、ルチンが1.1mg/100g含有されていたが、ケルセチンは培養前と同様に検出されなかった。
【0022】
むき実蕎麦を用いた場合、紅麹を植菌、培養をしてもケルセチンは検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の蕎麦紅麹は、コレステロール低減作用をもつモナコリンKを高濃度に含有し、さらに蕎麦が有するルチンやケルセチンをもあわせて含有することから、その効果が期待される。すなわち、サプリメントとしてそのまま摂取するのみならず、種々の添加材料としての機能性飲食品の素材として、極めて広汎に、且つ好適に用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蕎麦に紅麹菌を植菌、培養して麹化させることによって得られる、モナコリンK、ルチン、ケルセチンを含有する蕎麦紅麹を原料とした飲食品の製造方法。
【請求項2】
受託番号:NITE P−412によって独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された紅麹菌を用いることを特徴とする、請求項1に記載のモナコリンK、ルチン、ケルセチンを含有する蕎麦紅麹を原料とした飲食品の製造方法。
【請求項3】
原料として玄蕎麦を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のモナコリンK、ルチン、ケルセチンを含有する蕎麦紅麹を原料とした飲食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られる、蕎麦紅麹を原料とした飲食品。

【公開番号】特開2010−94034(P2010−94034A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265146(P2008−265146)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】