説明

薄片化黒鉛分散液の製造方法、薄片化黒鉛分散液及び薄膜の製造方法

【課題】 本発明は、薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる薄片化黒鉛分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、硫黄含有基を有する黒鉛化合物と、一級アミン、ヒドラジン及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも一種の窒素化合物と、水とを混合してpHが8〜14である混合液とし、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とするので、黒鉛化合物の層面同士を剥離して薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片化黒鉛分散液の製造方法及びこの製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液、並びに、上記製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液を用いた薄膜の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素骨格を有し且つ形状異方性の高い物質として、黒鉛をその層面間で剥離し、層面(グラフェン)の重なりが数十層以下になるまで薄片化した薄片化黒鉛が注目されており、薄片化黒鉛は非常に大きな表面積を有するため、樹脂などと複合化すると、少量の薄片化黒鉛の添加で各種機能が発現すると期待されている。
【0003】
上記薄片化黒鉛の製造方法としては、例えば、特許文献1に、硫酸・硝酸及び過マンガン酸カリウムを用いて酸化させた黒鉛層間化合物を精製し、遠心分離した後、上澄みを除去することによって薄片化黒鉛が得られることが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記方法では、薄片化黒鉛の製造に長時間を要し又は高温状態を利用するものであるため、薄片化黒鉛の製造効率が低いという問題点を有しており、薄片化黒鉛がより安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液をより効率良く製造することができる製造方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−53313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる薄片化黒鉛分散液の製造方法及びこの製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液、並びに、上記製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液を用いた薄膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の薄片化黒鉛分散液の製造方法は、硫黄含有基を有する黒鉛化合物と、一級アミン、ヒドラジン及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも一種の窒素化合物と、水とを混合してpHが8〜14である混合液とし、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とする。
【0008】
本発明において、硫黄含有基を有する黒鉛化合物としては、硫黄含有基を外表面又は層面間の何れか一方或いは双方に有している黒鉛化合物をいう。硫黄含有基としては、特に限定されず、例えば、−SO3H基などが挙げられる。
【0009】
硫黄含有基は、黒鉛化合物に化学的に結合してしても、或いは、黒鉛化合物に弱い相互作用により疑似的に結合していてもよい。なお、黒鉛化合物とは、C原子が強固に結合して六角環網平面状に配列してできる層面が更に上下に積み重なった板状体(結晶子)から主に形成されてなるものである。
【0010】
具体的には、黒鉛化合物としては、粒子全体で単一の多層構造を有する黒鉛が好ましく、例えば、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、高配向性熱分解黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛とキッシュ黒鉛は、各層面(基本層)が略単一の方位を有する単独の結晶であり、高配向性熱分解黒鉛の各層面(基本層)は異なる方位を有する多数の小さな化粧の集合体である。
【0011】
黒鉛化合物と硫黄含有基とを反応させて硫黄含有基を有する黒鉛化合物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、(1)硫黄含有基を含む溶液に黒鉛化合物を分散させ、黒鉛化合物と硫黄含有基を含む溶液とを反応させて、硫黄含有基を有する黒鉛化合物を製造する方法、(2)Hummers−Offeman法などが挙げられる。
【0012】
上記(1)の製造方法において、硫黄含有基を含む溶液としては、例えば、硫酸と酸化剤と硫酸以外の酸とを含有する水溶液が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩素酸カリウム、臭素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどが挙げられる。硫酸以外の酸としては、例えば、硝酸、燐酸、ギ酸、酢酸などが挙げられる。水溶液中における硫酸と酸化剤と硫酸以外の酸の合計重量は、黒鉛化合物の重量以上であることが好ましい。
【0013】
上記(2)の製造方法を具体的に説明すると、Hummers−Offeman法では、硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムが用いられる。先ず、黒鉛化合物を硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを含む処理液中に分散させ、黒鉛化合物の層面間に過マンガン酸カリウムを進入させて層間化合物を生成する。しかる後、処理液中に水を加えて層間化合物を加水分解して、硫黄含有基を有する黒鉛化合物を製造する。なお、得られた硫黄含有基を有する黒鉛化合物は、その層面間以外にも−SO3H基が弱い結合で結合していると推定される。
【0014】
Hummers−Offeman法で得られた硫黄含有基を有する黒鉛化合物は、硫酸水溶液、又は、硫酸と過酸化水素との混合水溶液で洗浄することが望ましい。硫酸水溶液、又は、硫酸と過酸化水素との混合水溶液で洗浄することによって、過マンガン酸イオンをマンガン(IV)イオンに分解することができ、その後に、硫黄含有基を有する黒鉛化合物を水やアルコールなどの水系媒体によって精製した場合に容易にマンガン(IV)イオンを除去することができる。
【0015】
硫黄含有基を有する黒鉛化合物が黒鉛酸化物となっている場合には、還元処理を行うことが好ましい。還元処理を行う方法としては、特に限定はされないが、例えば、硫黄含有基を有する黒鉛化合物を還元剤の蒸気に曝す方法、硫黄含有基を有する黒鉛化合物を還元剤の溶液に浸す方法などが挙げられる。上記還元剤としては、特に限定されず、例えば、ヒドラジン、ジメチルヒドラジン、ジエチルヒドロキシルアミンなどが挙げられる。還元剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0016】
上述の要領で製造された硫黄含有基を有する黒鉛化合物に薄層化処理を施して原料黒鉛よりも薄層化させておくことが好ましい。黒鉛化合物に施す薄層化処理としては、例えば、黒鉛化合物にマイクロ波又は超音波を照射する方法、黒鉛化合物に物理的に応力を加えて黒鉛化合物を粉砕する方法などが挙げられる。
【0017】
なお、硫黄含有基を有する黒鉛化合物は、例えば、XGサイエンス社から商品名「XGnP−5」にて市販されている。
【0018】
薄層化処理を施した後の黒鉛化合物における層面の面方向に沿った大きさは、大きいと、黒鉛化合物の薄片化が進行しにくくなることがあるので、10μm以下が好ましい。なお、薄層化処理を施した後の黒鉛化合物における層面の面方向に沿った大きさは、レーザー光回折法により粒度分布を測定した場合に50%径として得られた値をいう。
【0019】
次に、硫黄含有基を有する黒鉛化合物と窒素化合物と水とを混合して混合液を作製する。窒素化合物としては、一級アミン、ヒドラジン及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも一種の窒素化合物が用いられる。一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エタノールアミンなどが挙げられる。なお、窒素化合物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0020】
硫黄含有基を有する黒鉛化合物と窒素化合物と水とを混合して混合液を作製する方法としては、特に限定されず、例えば、硫黄含有基を有する黒鉛化合物を水に分散させて黒鉛化合物分散液を作製すると共に、窒素化合物を水に溶解させて窒素化合物水溶液を作製し、黒鉛化合物分散液と窒素化合物水溶液とを均一に混合して混合液を作製する方法、窒素化合物を水に溶解させて窒素化合物水溶液を作製し、この窒素化合物水溶液に硫黄含有基を有する黒鉛化合物を添加して均一に混合して混合液を作製する方法などが挙げられる。
【0021】
硫黄含有基を有する黒鉛化合物と窒素化合物と水とを混合させて混合液を作製するにあたって、得られる混合液のpHが8〜14となるように硫黄含有基を有する黒鉛化合物と窒素化合物と水の混合割合を調整する。
【0022】
混合液をpH8〜14に調整する理由は明確には解明されていないが、硫黄含有基が硫酸由来である場合には、下記の理由によると考えられる。混合液のpHを8〜14に調整することにより、硫酸イオンを生成する方向に平衡が傾き、硫黄含有基が結合していた部位に硫酸イオンが結合した状態になり、硫酸イオン同士の静電反発で黒鉛化合物の層面同士が互いに剥離されて薄片化黒鉛が生成すると考えられる。
【0023】
又、硫黄含有基を有する黒鉛化合物の層面間に窒素化合物を挿入させることによって、窒素化合物の有する非共有電子対間の静電反発力によって黒鉛化合物の対向する層面を互いが離間する方向に変位させることにより黒鉛化合物の層面間の間隔が拡がり、黒鉛化合物における層面間の剥離の進行を促進し黒鉛化合物を薄片化して薄片化黒鉛の製造を効率的に行うことができると考えている。そして、混合液をpH8〜14に調整することによって、黒鉛化合物の層面間への窒素化合物の進入が容易となり、その結果、上述の作用によって黒鉛化合物の層面間における剥離が円滑に行われて黒鉛化合物を薄片化して薄片化黒鉛を効率良く製造できると考えられる。
【0024】
上述のように、硫黄含有基を有する黒鉛化合物と窒素化合物と水とを混合させてpHが8〜14の混合液を製造した後、この混合液を静置することによって黒鉛化合物の層面間における剥離を進行させ、黒鉛化合物を薄片化させて得られる薄片化黒鉛が水中に安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を得ることができる。
【0025】
更に、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物における層面間の剥離を更に促進するために、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物に剥離処理を施してもよい。このような剥離処理としては、例えば、(1)薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物に超音波を照射する方法、(2)薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び残存する黒鉛化合物に物理的に応力を加える方法などが挙げられる。なお、上記(1)の方法において、超音波の周波数は、低すぎても高すぎても、得られる薄片化黒鉛分散液中の薄片化黒鉛の分散性が低下するので、20〜50kHzが好ましい。又、上記(1)の方法において、超音波の照射時間は、短いと、薄片化黒鉛又は黒鉛化合物の層面間における剥離が充分に進行しないことがあり、長いと、薄片化黒鉛における層面の面方向に沿った大きさが必要以上に小さくなることがあるので、5〜60分が好ましい。
【0026】
上述のようにして、黒鉛化合物がその層面間において剥離して薄片化黒鉛が生成し、この薄片化黒鉛が水中に安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を製造することができる。なお、薄片化黒鉛分散液に沈殿物が生じる場合があるが、この沈殿物は、層面間において充分に剥離しなかった黒鉛化合物であると推定され、このような沈殿物が薄片化黒鉛分散液中に生じた場合は、上澄みを採取し、この上澄みを薄片化黒鉛分散液とすればよい。
【0027】
得られた薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛の層面の積層数は、15層以下が好ましく、5層以下がより好ましい。
【0028】
上述のようにして得られた薄片化黒鉛分散液は、極めて薄い薄片化黒鉛が安定に分散しているため、何ら処理を施すことなく、所望の用途に使用し又は分散液のまま安定的に保管しておくことがきる。薄片化黒鉛分散液の使用方法としては、薄片化黒鉛分散液を所望個所に噴霧し又は塗布する方法の他に、水溶性モノマーに添加して用いる方法などが挙げられる。
【0029】
薄片化黒鉛分散液の用途によっては水以外の分散媒が望ましいことがある。そのような場合には、薄片化黒鉛分散液を遠心分離などで濃縮して水量を減らしてから、他の溶媒を薄片化黒鉛分散液に加えて混合後に遠心分離などで濃縮する工程を繰返し、薄片化黒鉛の分散媒を交換すればよい。又、薄片化黒鉛分散液の分散媒の交換の際に、水と、交換後の分散媒の相溶性が良くない場合には、水と交換後の分散媒の双方に相溶性の良い第3の分散媒を経由して分散媒の交換を行ってもよい。
【0030】
そして、薄片化黒鉛分散液を用いて薄片化黒鉛からなる膜を形成することができる。具体的には、ガラスや合成樹脂板などの基材上に薄片化黒鉛分散液を塗布、乾燥させることによって薄片化黒鉛からなる膜を安定的に形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、硫黄含有基を有する黒鉛化合物と、一級アミン、ヒドラジン及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも一種の窒素化合物と、水とを混合してpHが8〜14である混合液とし、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とするので、黒鉛化合物の層面同士を剥離して薄片化黒鉛が安定的に分散してなる薄片化黒鉛分散液を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1で作製した薄片化黒鉛からなる膜の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
硫黄含有基を有する黒鉛化合物(XGサイエンス社製 商品名「XGnP−5」、層面の面方向に沿った平均大きさ:5μm)を用意した。
【0035】
次に、pHが10のアンモニア水溶液を用意し、このアンモニア水溶液18gに上記硫黄含有基を有する黒鉛化合物0.05gを供給して均一に混合してpH9.5の混合液を製造し、この混合液を25℃にて60分間に亘って静置することによって、硫黄含有基を有する黒鉛化合物をその層面間から剥離して薄片化黒鉛を生成し、この薄片化黒鉛が水中に分散してなる薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中に沈殿物が残っていた。
【0036】
更に、薄片化黒鉛分散液に周波数28kHz、100Wの条件下にて超音波を5分間に亘って照射し、続いて、周波数45kHz、100Wの条件下にて超音波を10分間に亘って照射して25℃にて2時間に亘って静置し、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を更に促進した。なお、薄片化黒鉛分散液中には、硫黄含有基を有する黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので上澄みを採取した。上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0037】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0038】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0039】
得られた膜のSEM観察(日立製作所社製 走査型電子顕微鏡S−3500N)を行ったところ、図1に示したように、高度に薄片化された薄片化黒鉛が分散している様子が観察できた。
【0040】
(実施例2)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH12のアンモニア水溶液を用い、pH12の混合液を製造したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中に沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の上澄みを採取した。薄片化黒鉛の上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0041】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0042】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0043】
(実施例3)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH13のアンモニア水溶液を用い、pH13の混合液を製造したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の上澄みを採取した。薄片化黒鉛の上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0044】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0045】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0046】
(実施例4)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH14のアンモニア水溶液を用い、pH14の混合液を製造したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の上澄みを採取した。薄片化黒鉛の上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0047】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0048】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0049】
(実施例5)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH10のヒドラジン水溶液を用い、pH9.5の混合液を製造したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の上澄みを採取した。薄片化黒鉛の上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0050】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0051】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0052】
(実施例6)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH12のヒドラジン水溶液を用い、pH12の混合液を製造したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の上澄みを採取した。薄片化黒鉛の上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0053】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0054】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0055】
(実施例7)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH13のヒドラジン水溶液を用い、pH13の混合液を製造したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の上澄みを採取した。薄片化黒鉛の上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0056】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0057】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0058】
(実施例8)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH14のヒドラジン水溶液を用い、pH14の混合液を製造したこと以外は実施例1と同様にして薄片化黒鉛分散液を得た。なお、薄片化黒鉛分散液中には沈殿物が残っていた。更に、実施例1と同様の要領で、薄片化黒鉛分散液中に分散している薄片化黒鉛及び黒鉛化合物における層面間の剥離を促進させた。なお、薄片化黒鉛分散液中には黒鉛化合物と推定される沈殿物が残っていたので、薄片化黒鉛分散液の上澄みを採取した。薄片化黒鉛の上澄みは光透過性の高い濃灰色であった。
【0059】
薄片化黒鉛分散液の上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。
【0060】
又、薄片化黒鉛分散液の上澄みから塗布液を3cm3採取し、この塗布液をガラス板上に塗布し90℃にて乾燥させて薄片化黒鉛からなる膜を形成した。この薄片化黒鉛からなる膜は、薄灰色で且つ透明性が高かった。
【0061】
(比較例1)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH9のアンモニア水溶液を用い、pH7.5の混合液を製造したこと以外は実施例1の要領で薄片化黒鉛分散液を製造しようとしたが、沈殿物と透明度の高い上澄み部とに分離してしまい薄片化黒鉛分散液を得ることができなかった。更に、実施例1と同様の要領で、混合液に周波数28kHz、100Wの条件下にて超音波を5分間に亘って照射し、続いて、周波数45kHz、100Wの条件下にて超音波を10分間に亘って照射して25℃にて2時間に亘って静置したが、沈殿物と光透過性の高い上澄み部とに分離してしまい薄片化黒鉛分散液を得ることができなかった。得られた混合液の上澄みは無色透明であった。
【0062】
上澄みから試験液を3cm3採取し、この試験液を25℃にて24時間に亘って静置したが沈殿物は生成しなかった。試験液の上澄みは無色で透明度が高く、薄片化黒鉛は存在していないと推定された。
【0063】
(比較例2)
pH10のアンモニア水溶液の代わりにpH9のヒドラジン水溶液を用い、pH8の混合液を製造したこと以外は実施例1の要領で薄片化黒鉛分散液を製造しようとしたが、沈殿物と透明度の高い上澄み部とに分離してしまい薄片化黒鉛分散液を得ることができなかった。更に、実施例1と同様の要領で、混合液に周波数28kHz、100Wの条件下にて超音波を5分間に亘って照射し、続いて、周波数45kHz、100Wの条件下にて超音波を10分間に亘って照射して25℃にて2時間に亘って静置したが、沈殿物と透明度の高い上澄み部とに分離してしまい薄片化黒鉛分散液を得ることができなかった。得られた混合液の上澄みは無色透明であった。
【0064】
(X線解析)
原料とした硫黄含有基を有する黒鉛化合物(XGサイエンス社製 商品名「XGnP−5」、層面の面方向に沿った平均大きさ:5μm)及び実施例1〜4で得られた薄片化黒鉛分散液をSiウエハ塗布した塗布品、並びに、実施例1〜4及び比較例1、2で得られたに沈殿物ついて、X線解析(Burker AXS社製 商品名「D8DiscoverHybrid」、X線出力40kV、40mA、検出器:日立ハイテク社製 商品名「2次元PSPC Hi-STAR」を使用)を行った。
【0065】
原料とした硫黄含有基を有する黒鉛化合物及び実施例1〜4で得られた沈殿物については、(002)(004)面に相当する位置にシャープなピークが観測された。ブラッグの回折式を用いて計算を行い、層間距離が0.336nmと算出された。これは、黒鉛の層間距離とほぼ一致した。
【0066】
実施例1〜4で得られた薄片化黒鉛分散液のSiウエハ塗布品については(002)(004)面に相当する位置に非常に弱いピークが観測された。このことから作製した薄片化黒鉛分散液は殆どの黒鉛化合物が薄片化されていることが推測できる。
【0067】
(X線光電子回折分析)
実施例1〜4で得られた薄片化黒鉛分散液をSiウエハ塗布した塗布品、並びに、実施例1〜4及び比較例1、2で得られた沈殿物ついて、X線光電子回折(Kratos社製 商品名「AXIS−165」、X線源:AlKα)によりSulfurのピーク位置を観測した。又、原料とした硫黄含有基を有する黒鉛化合物(XGサイエンス社製 商品名「XGnP−5」、層面の面方向に沿った平均大きさ:5μm)についても同様に解析を行った。
【0068】
実施例1〜4で得られた薄片化黒鉛分散液をSiウエハ塗布した塗布品については228eVのピークが観測され、実施例1〜4及び比較例1、2で得られた沈殿物については、232eVにピークが観測された。
【0069】
原料とした硫黄含有基を有する黒鉛化合物(XGサイエンス社製 商品名「XGnP−5」、層面の面方向に沿った平均大きさ:5μm)については、228eVと232eVにピークが観測された。これにより、得られた薄片化黒鉛と、実施例1〜4及び比較例1、2で得られた沈殿物との間において、Sulfurの異なる結合状態が観測されることが示された。
【0070】
実施例1〜4で得られた薄片化黒鉛は、S/C比が0.04であり、実施例1〜4及び比較例1、2で得られた沈殿物は、S/C比が0.001であった。なお、原料とした硫黄含有基を有する黒鉛化合物(XGサイエンス社製 商品名「XGnP−5」、層面の面方向に沿った平均大きさ:5μm)は、S/C比が0.002であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有基を有する黒鉛化合物と、一級アミン、ヒドラジン及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも一種の窒素化合物と、水とを混合してpHが8〜14である混合液とし、上記黒鉛化合物を薄片化することを特徴とする薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項2】
窒素化合物がアンモニア又はヒドラジンであることを特徴とする請求項1に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項3】
黒鉛化合物を水に分散させてなる黒鉛化合物分散液と、窒素化合物を水に溶解させてなる窒素化合物水溶液とを混合することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項4】
窒素化合物を水に溶解させてなる窒素化合物水溶液に黒鉛化合物を供給することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法によって製造されてなることを特徴とする薄片化黒鉛分散液。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の薄片化黒鉛分散液の製造方法で得られた薄片化黒鉛分散液を基材に塗布、乾燥させて薄片化黒鉛を含む薄膜を形成することを特徴とする薄膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−111367(P2011−111367A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269578(P2009−269578)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】