説明

薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトおよびその製造方法

【課題】薄片状の結晶形状を有し、各種気体の吸着能に優れたモルデナイト型ゼオライトおよびその製法を提供する。
【解決手段】メソポーラスシリケート前躯体のシリケート骨格に起因する薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトであって、メソポーラスシリケート前躯体をアルカリ剤とテンプレート剤の存在下において水熱合成反応させて製造する方法である。界面活性剤が長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩であり、テンプレート剤がテトラエチルアンモニウム塩であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスシリケート前躯体のシリケート骨格に起因する薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトに関し、また、メソポーラスシリケート前躯体をテンプレート剤とアルカリ剤とアルミニウム化合物の存在下において水熱合成反応させて薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミノシリケート、特に結晶性アルミノシリケート(ゼオライト)は、触媒、吸着剤、イオン交換体等として工業上広く利用されている。ゼオライトの構造としては種々のものが知られている。例えば、MFI型ゼオライト(ZSM−5型ゼオライト)はメタキシレンの異性化、トルエンの改質、エチルベンゼンの合成などの触媒として有効であることが知られている。
合成されたままのNa−モルデナイトは、Naイオンが酸素12員環の孔路をふさいでいるため有効孔路径は4オングストロームしかない。そのため、パラフィンや芳香族は孔路内への拡散が阻害され、吸着・触媒用途には適用できない。同様に、酸素や窒素も孔路内への拡散が阻害され、通常用いられる窒素吸着法による細孔容積や比表面積の測定はできない。吸着・触媒用途にはNaイオンをプロトンに置換したH−モルデナイトが使用される。また、本発明におけるモルデナイト型ゼオライトの細孔特性の評価には、拡散阻害を受けにくいアルゴンガス吸着法を用いる。
H−モルデナイトは高酸度が求められるパラフィンや芳香族の異性化等に使用され、ZSM−5型ゼオライトよりも細孔径が大きく、より大きな化学種の吸着・触媒に利用されている。いずれのゼオライトも、結晶表面だけで触媒作用を発現していることが多く、触媒としての反応活性を高くし、分子拡散を早くすることが要望されるため、結晶性を高くし、結晶サイズを小さくすることが必要となる。このことは、しばしば相反する合成条件を意味し、微妙な合成条件を選定することとなり、製品品質に問題を生じる。薄片状の結晶形状であれば化学種との接触面が大きくなり、従って、薄片状の結晶形状を有するゼオライトは上記のような問題を解決する手段として期待される。
【0003】
モルデナイト型ゼオライトは天然にも産出されるゼオライトであって、その合成は特許文献1にその基本技術が記載されている。このゼオライトはその出願人によって「Zeolon」と称されている。以後、極めて多くの関連する報告、特許出願等がなされている。これらにおいては一般的に、テンプレート剤を使用せずに、オートクレーブを用いて温度150℃前後、圧力0.5MPa程度の高温高圧下で合成が行われている。しかしながら、シリカ/アルミナ比の高いモルデナイト型ゼオライトの合成には、特許文献2に記載のようにテトラエチルアンモニウムのようなテンプレート剤を使用する。また、フッ素イオンは合成反応の促進剤として機能する。
【0004】
一方、メソポーラスシリケートの合成では、基本となるメソポーラスシリカの合成技術は、本質的にシリカ源とカチオン界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウム(以下「ATMA」という)の反応複合体を焼成処理する工程からなるが、シリカ源の種類に応じた次のふたつの方法がある。第1の方法は層状珪酸塩をシリカ源とするもので、具体的には例えばT.Yanagisawaらの報文(非特許文献1)に記載されているように、層状の珪酸塩の一つであるカネマイト(NaHSi・3HO) とATMAの複合体形成させた後、焼成して有機物を除去する方法である。また、第2の方法はアモルファスシリカ粉末やアルカリシリケート水溶液をシリカ源とするもので、J.S.Beckらの報文(非特許文献2)に各種シリカ源からの合成例が記載されている。また、特許文献3にもその基本技術が記載されており、その出願人によって「MCM−41」と称されている。合成には、シリカ源もしくはシリカ源とアルミニウム源、およびカチオン界面活性剤が使用されている。第2の方法からの展開として、工業的に実施可能な新規な製造方法が次々と提案されている。例えば、第3の方法として特許文献4には、珪酸ソーダ水溶液をカチオン交換樹脂と接触させて活性シリカを調製する第1工程と、第1工程で得られた活性シリカとカチオン界面活性剤をアルカリ性領域で混合反応させる過程で水溶性アルミニウム塩を添加してシリカ・アルミナ・カチオン界面活性剤の複合体を生成させる第2工程と、前記複合体を焼成処理する第3工程を順次に施すことを特徴とするメソポーラスアルミノシリケートの製造方法が記載されている。あるいは、第4の方法として特許文献5には、珪酸ソーダとカチオン界面活性剤とをアルカリ性領域で溶解した後、酸でpH7〜12に調整して、シリカを析出させ、次いで加温下で反応させて、該シリカとカチオン界面活性剤の複合体を生成させる第一工程、該複合体を洗浄して脱Na処理する第二工程、次いで脱Na処理された複合体を焼成処理する第三工程を順次施すことを特徴とするメソポーラスシリカの製造方法が記載されている。この製造方法において、酸にアルミニウム塩を添加溶解しておくことで、メソポーラスアルミノシリケートを製造することもできる。
別途、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンコポリマーのような非イオン系界面活性剤を用いるメソポーラスシリカの製造方法も提案されている。
【0005】
板状ないし薄片状の結晶形状のゼオライトの合成は、いくつか提案されている。例えば、特許文献6には、板状ないし薄片状の結晶形状のCOD型ゼオライト(ゼオライトCDS−1)が記載されている。
特許文献7には、板状ないし薄片状の結晶形状のMFI型ゼオライトが記載されている。
特許文献8には、六角板状の結晶形状のK型ゼオライトが記載されている。
【0006】
しかしながら、薄片状の結晶形状のモルデナイトの合成は、事例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】英国特許983756号明細書
【特許文献2】特開2003−313026号公報
【特許文献3】特表平5−503499号公報
【特許文献4】特開平8−259220号公報
【特許文献5】特開平11−49511号公報
【特許文献6】特開2007−77006号公報
【特許文献7】特開2004−307296号公報
【特許文献8】特開平7−206425号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bulletin of the Chemical Society of Japan,Vol.63,988 〜992(1990)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society,Vol.114,10834〜10843(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトおよびその製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シリカもしくはアルミノシリケートと界面活性剤の複合体(以下、「メソポーラスシリケート前躯体」と記載する)のシリケート骨格に起因する薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトを得ることができた。すなわち、界面活性剤を含有するメソポーラスシリケート前躯体を、テンプレート剤とアルカリ剤とアルミニウム化合物の存在下において水熱合成反応させて薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトを製造することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
また、本発明は、シリカ源もしくはシリカ源とアルミニウム源、および界面活性剤より成る原料組成を用いて、メソポーラスシリケート前躯体を作成し、該前躯体とテンプレート剤とアルカリ剤とアルミニウム化合物を混合して水熱処理により薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトを製造する製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトは、薄片状の結晶の表面という広い反応場を有し、この部分が被吸着物の接触場となるため、従来のモルデナイト型ゼオライトよりも、被吸着物との接触面積が格段と大きく、触媒反応の進行が格段に加速されるという効果も有する。また、従来のNa−モルデナイトがNaイオンによる孔路内への窒素ガス拡散の阻害を示して吸着量が低いのに対して、薄片状モルデナイトはNaを含有していながら良好な窒素ガス吸着性能を示すことが確認された。
本発明の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトは、触媒用途だけではなく、薄片状の結晶形状有する特性を利用して、化粧品、樹脂フィラー、電子・情報分野においても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】は実施例1で得られた薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの粉末X線回折パターンである。
【図2】は比較例1で得られた比較用モルデナイト型ゼオライトの粉末X線回折パターンである。
【図3】(a)は実施例1で得られた薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトのアルゴンガス吸着等温線であり、(b)は比較例1で得られた比較用モルデナイト型ゼオライトのアルゴンガス吸着等温線である。
【図4】(a)(b)(c)は実施例1で得られた薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの3視野のTEM写真例である。
【図5】(a)は実施例1で得られた薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトのSEM写真例である。(b)は比較例1で得られた比較用モルデナイト型ゼオライトのSEM写真例である。(c)は参考例であって、触媒学会より配布されているモルデナイト型ゼオライトのSEM写真例である。
【図6】(a)は実施例1で得られた薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの窒素吸着等温線であり、(b)はNa−モルデナイトの窒素吸着等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0015】
本発明のモルデナイト型ゼオライトの第一の特徴は、結晶形状が薄片状であることである。より詳しくは、結晶形状が、SEM観察により測定される厚さが10〜200nmであって、平面の長軸方向の長さが0.2〜1.0μmで、短軸方向の長さが0.1〜0.3μmである薄片状の結晶形状である。
本発明における厚さおよび平面の一辺の長さは、得られたモルデナイト型ゼオライトのSEM写真にスケールをあてて、ランダムに選択したモルデナイト型ゼオライト粒子50個について測定した算術平均値である。
【0016】
本発明のモルデナイト型ゼオライトの第二の特徴は、−196℃、76torrにおける窒素ガス吸着能が50〜150cc/gであることである。
【0017】
本発明のモルデナイト型ゼオライトの第三の特徴は、アルゴンガス吸着法により求めたBET法による比表面積が450〜700m/gの範囲にあることである。
【0018】
本発明のモルデナイト型ゼオライトの第四の特徴は、アルゴンガス吸着法により求めたLangmuir法による比表面積が600〜800m/gの範囲にあることである。
【0019】
本発明のモルデナイト型ゼオライトの第五の特徴は、アルゴンガス吸着法により求めた細孔容積が0.4〜1.0cc/gの範囲にあることである。
【0020】
本発明のモルデナイト型ゼオライトの第六の特徴は、アルゴンガス吸着等温線からSF(Saito−Foley)法により求めた細孔径が0.45〜0.55nmの範囲にあることである。
【0021】
本発明のモルデナイト型ゼオライトの製法の特徴は、シリケート材料と界面活性剤によりメソポーラスシリケート前躯体を合成する第1工程と、第1工程で得られたメソポーラスシリケート前躯体を焼成することなく、テンプレート剤とアルカリ剤とアルミニウム化合物を加えて水熱合成反応を行いモルデナイト型ゼオライトを合成する第2工程と、前記モルデナイト型ゼオライトを焼成処理して界面活性剤とテンプレート剤を除去する第3工程を順次に施す製造方法である。第2工程では、更にフッ素化合物を加えることが好ましい。
前記シリケート材料はシリカまたはアルミノシリケートである。
【0022】
前記界面活性剤としては、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンコポリマーのような非イオン系界面活性剤やアルキルアミン塩、第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩のようなカチオン界面活性剤が使用できるが、第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩であることが好ましい。
【0023】
前記メソポーラスシリケート前躯体はメソポーラスシリカまたはメソポーラスアルミノシリケートである。
【0024】
<第一工程;メソポーラスシリケート前駆体の製造方法>
前記背景技術で述べたように、メソポーラスシリケートの合成方法には、ふたつの方法がある。本発明ではいずれの方法も用いることができるが、界面活性剤除去のための焼成工程を行わないことが肝要で、界面活性剤を含有するメソポーラスシリケート前躯体を得る。しかしながら、第1の方法はシリカ源としてカネマイトを調製する必要があるうえ、反応系に多量のNaが存在するため、複合体の焼成時にNa成分がシリカ構造を破壊して多孔体の表面積を低下させる欠点がある。本発明で用いる製造方法としては前記背景技術で述べた第3の方法または第4の方法が好ましい。また、上記の非イオン系界面活性剤を用いる方法も採用できる。非イオン系界面活性剤を用いると5.0nmより大きなd間隔のメソポーラスシリケート前躯体を得ることができる。
【0025】
カチオン界面活性剤としては、特に制限されないが、第4級アンモニウム塩又はアルキルアミン塩等が挙げられる。第4級アンモニウム塩としては、下記一般式(1)
〔R1 n (CH3 4-n N〕+ 〔X〕- (1)
(式中、R1 は長鎖アルキル基を示し、nは1〜3の整数、Xはハロゲン原子または水酸基を示す。)で表わされる第4級長鎖アルキルアンモニウム塩が挙げられ、特に、置換数nが1である一般式〔R1 (CH3 3 N〕+ 〔X〕- で表される第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウムのハライドまたは水酸化物がシリカの均一なメソポア構造を形成するため好ましい。一般式(1)中、長鎖アルキル基R1 の炭素数としては8〜24が好ましく、特に8〜17が好ましい。炭素数が25以上では不溶性で扱い難い。また、Xのハロゲン原子としては、塩素原子及び臭素原子が工業用製品として容易に入手できるので好ましい。一般式(1)中、Xが水酸基のものは、後の脱Naの洗浄処理が有利に行われることから、より好ましく用いられる。
【0026】
また、第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩の具体的な化合物としては、例えばオクチルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化オクチルトリメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化オクタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、これらの第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩の1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
工業用には天然油脂を原料にした製品が一般的であって、長鎖アルキル基は椰子油、牛脂、硬化牛脂あるいは植物性ステアリルなどであって、複数の第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩の混合物であることが多く、比較的安価に入手できるので、好ましく使用できる。さらに、これらの天然油脂を原料にした置換数nが2であるジアルキルジメチルアンモニウム塩も多用されており、比較的安価に入手できるので、好ましく使用できる。
【0027】
また、アルキルアミン塩としては、一般式(2);
〔R2 NH2 + 〔X〕- (2)
(式中、R2 は長鎖アルキル基を示し、Xはハロゲン原子または水酸基を示す。)で表されるアルキルアミン塩が挙げられる。一般式(2)中、長鎖アルキル基R1 の炭素数としては8〜24が好ましく、特に8〜17が好ましい。炭素数が25以上では不溶性で扱い難い。また、Xのハロゲン原子としては、塩素原子及び臭素原子が挙げられる。
上記と同様に、工業用には天然油脂を原料にした製品が一般的であって、長鎖アルキル基は椰子油、牛脂、硬化牛脂あるいは植物性ステアリルなどであって、複数の長鎖アルキルアミン塩の混合物であることが多い。比較的安価に入手できるので、好ましく使用できる。
【0028】
また、本発明においては、上記第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩の方がアルキルアミン塩より塩基度が高いため反応性に優れていることから好ましく用いられる。
【0029】
本発明方法の第一工程において、まず珪酸ソーダとカチオン界面活性剤とをアルカリ性領域で水に溶解し透明な均一溶液とする。この系内の水の量としては、SiO2 1モルに対して50〜300モル、好ましくは70〜150モルの範囲とすることが好ましい。また、カチオン界面活性剤の添加量としては、SiO2 /界面活性剤のモル比で、通常2〜10、好ましくは4〜5である。
【0030】
<第二工程;モルデナイト型ゼオライトの製造方法>
本発明のモルデナイト型ゼオライトとしては、アルミニウムの量すなわちSiO/Alのモル比が30以下が合成しやすいが、合成後に脱アルミニウムすることで30以上のものを得ることもできる。
【0031】
第二工程では、第一工程で得られたメソポーラスシリケート前駆体と、テンプレート剤、アルカリ剤及びアルミニウム化合物とを加えて水熱合成反応を行う。
水熱合成反応の合成条件は、モルデナイト型ゼオライトの合成ができる合成条件であれば、いかなる方法であってもよく、限定されるものではない。アルカリ剤の存在下で、通常、オートクレーブを用いて、150〜170℃の温度で24〜72時間ほどの水熱合成を行う。
【0032】
また、テンプレート剤としてはテトラエチルアンモニウム、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミンや水酸化トリメチルベンジルアンモニウムのような窒素含有化合物が知られており、なかでもテトラエチルアンモニウムが入手しやすく有害性が少ないので好ましい。
また、フッ素化合物を添加することにより合成反応を促進させることができる。
【0033】
<第三工程;薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造方法>
第3工程は、第2工程で得られたモルデナイト型ゼオライトを焼成処理して界面活性剤とテンプレート剤を除去して目的とする薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトを得る工程である。かかる焼成温度としては、特に制限されず、使用する界面活性剤及びテンプレート剤の種類にもよるが、界面活性剤とテンプレート剤の両方の成分が消失する温度以上、通常500℃以上である。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
<評価装置>
X線回折:Bruker社 D8 Advance
TEM:日立製作所 H−7500型
SEM:日立製作所 S−4800型
窒素ガス吸着とアルゴンガス吸着:Quantachrome社のAutosorb−1を用いて、それぞれ−196℃と-186℃で測定した。
【0036】
<使用材料>
3号珪酸ソーダ:日本化学工業社製(SiO2 :28.96重量%、Na2 O:9.37重量%、HO:61.67重量%)。
コロイダルシリカ:日本化学工業社製シリカドール−30(SiO2 :30重量%)。
界面活性剤:塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(三洋化成工業社製、固形分:68重量%、溶剤:32重量%)。
苛性ソーダ:工業用25%水酸化ナトリウム(NaOH:25重量%、HO:75重量%)。
テンプレート:水酸化テトラエチルアンモニウム(ライオン社製TEAH-40W、固形分:40重量%, HO:60重量%)。
塩化アルミニウム:試薬(AlCl・6HO、97重量%)。
アルミン酸ソーダ:昭和電工社製 SA−2019
希釈塩酸:試薬、35重量%塩酸を純水で希釈して7重量%塩酸を作成した。
フッ化ナトリウム:試薬
【0037】
[実施例1]
<メソポーラスシリカ前駆体の製造>
3号珪酸ソーダ86.1g、界面活性剤36.8g、苛性ソーダ28.4gおよび純水463.2gを混合し、攪拌下に70℃まで加熱して、混合液が透明になるまで攪拌を続けた。次いで、攪拌下70℃の液温を保ちつつ混合液に希釈塩酸を10分かけて添加し、pHを8.0とした。希釈塩酸添加によってシリカ・界面活性剤複合体が析出した。シリカ・界面活性剤複合体は濾過、水洗し、110℃で乾燥して39.1gのメソポーラスシリカ前駆体を得た。
<薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造>
純水84.5gにテンプレート26.0g、苛性ソーダ10.1g、塩化アルミニウム5.1gを添加して溶解した。この溶解液にメソポーラスシリカ前駆体30.0gを徐々に添加して分散し、充分に分散したところで、フッ化ナトリウム10.5gを添加して溶解した。フッ化ナトリウム添加後、1時間以上撹拌を行った。これを200mlオートクレーブに仕込み、170℃で48時間の結晶化反応を行い、放冷した。冷却後結晶化反応液は濾過、水洗し、110℃で乾燥した。この乾燥物を700℃で5時間焼成し、薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトを得た。以下でこれを「薄片状モルデナイト」と略記することがある。
<薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの特性>
上記で得られた薄片状モルデナイトの分析組成を表1に記載した。薄片状モルデナイトの原料組成はモル比SiO2/Al2O3=30であったが、得られた薄片状モルデナイトのモル比はSiO2/Al2O3=24.47であった。
図1に薄片状モルデナイトの粉末X線回折のパターンを図示した。図2には後記比較例1で製造した比較用モルデナイトの粉末X線回折のパターンを図示した。図1のピーク位置は図2に一致しており、メソポーラスシリカ全躯体をシリカ源に用いてもモルデナイトが合成できることが確認できた。図3(a)に実施例1で得られた薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトのアルゴンガス吸着等温線を示した。図3(b)には比較例1で得られた比較用モルデナイト型ゼオライトのアルゴンガス吸着等温線を示した。
図4(a)(b)(c)は上記で得られた薄片状モルデナイトの3視野のTEM写真例である。TEM写真から、結晶形状が薄片状であることが確認された。
図5(a)は上記で得られた薄片状モルデナイトのSEM写真例である。SEM写真から、薄片の厚さは約100nmであって、長軸方向の長さは0.6μm、幅は0.2μmであり細長い薄片であることが確認された。
【0038】
[比較例1]
<比較用モルデナイト型ゼオライトの製造>
メソポーラスシリカ前駆体と塩化アルミニウムを使用せず、シリカ源としてコロイダルシリカ、アルミニウム源としてアルミン酸ソーダを使用して、170℃で48時間の結晶化反応を行いNa−モルデナイト型ゼオライトを得た。このNa−モルデナイト型ゼオライトはアルゴンガスでさえ吸着しにくいため、塩化アンモニウムでNaをアンモニアにイオン交換した後、400℃で仮焼してNaをプロトンに置換したH−モルデナイトを得た。以下でこれを「比較用モルデナイト」と略記することがある。比較用モルデナイトの分析組成を表1に記載した。図2に比較用モルデナイトの粉末X線回折のパターンを図示した。
図5(b)は上記で得られた比較用モルデナイトのSEM写真例である。このSEM写真からは、主として塊状の結晶になっていた。
図5(c)は参考例であって、触媒学会より配布されているモルデナイト型ゼオライトのSEM写真例であり、主として塊状の結晶になっていた。
【0039】
【表1】

【0040】
<薄片状モルデナイトと比較用モルデナイトの特性測定と比較>
図3(a)は上記で得られた薄片状モルデナイトのアルゴンガス吸着等温線であり、図3(b)は比較用モルデナイトのアルゴンガス吸着等温線である。吸着等温線の解析により、表2の(1)(2)の結果が得られた。表2の(1)は実施例1で得られた薄片状モルデナイトの特性値であり、(2)は比較例1で得られ比較用モルデナイトの特性値である。(3)は参考データであって、前記特許文献4に記載の製法で作成したメソポーラスシリカの特性値である。
薄片状モルデナイトは比較用モルデナイト(従来品)に比較して比表面積及び細孔容積が大きい。比較用モルデナイトがH−モルデナイトであるのに対して、薄片状モルデナイトはNa−モルデナイトであり、Naを含有していながら良好なガス吸着性能を示すのは、薄片状という結晶形状に起因するものと推測される。
【0041】
【表2】

【0042】
<薄片状モルデナイトとNa−モルデナイトの窒素吸着測定と比較>
図6(a)は上記で得られた薄片状モルデナイト(Na型)の窒素吸着等温線であり、図6(b)はNa−モルデナイトの窒素吸着等温線である。薄片状モルデナイト(Na型)の-196℃、76torrにおける窒素ガス吸着能は約100cc/gであった。Na−モルデナイトがNaイオンによる孔路内への窒素ガス拡散の阻害を示して吸着量が低いのに対して、薄片状モルデナイトはNaを含有していながら良好な窒素ガス吸着性能を示すのは、薄片状という結晶形状に起因するものと推測される。なお、ここで用いたNa−モルデナイトは、前記比較例1において、プロトン置換前の合成したままのNa−モルデナイト型ゼオライトである。
【0043】
[実施例2]
<メソポーラスアルミノシリケート前駆体の製造>
3号珪酸ソーダ86.1g、カチオン界面活性剤36.8g、苛性ソーダ28.4gおよび純水463.2gを混合し、攪拌下に70℃まで加熱して、混合液が透明になるまで攪拌を続けた。別途、希釈塩酸172.2gに塩化アルミニウム2.49gを添加し、攪拌して溶解した。これを中和用塩酸と呼ぶ。
次いで、攪拌下70℃の液温を保ちつつ混合液に中和用塩酸を10分かけて添加し、pHを8.0とした。中和用塩酸の添加によってアルミノシリケート・界面活性剤複合体が析出した。析出したアルミノシリケート・界面活性剤複合体におけるSiO2/Al23のモル比は80である。析出したアルミノシリケート・界面活性剤複合体は濾過、水洗し、110℃で乾燥してメソポーラスアルミノシリケート前駆体を得た。
<薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造>
純水84.5gにテンプレート26.0g、苛性ソーダ10.1g、塩化アルミニウム5.1gを添加して溶解した。この溶解液にメソポーラスアルミノシリケート前駆体30.0gを徐々に添加して分散し、充分に分散したところで、フッ化ナトリウム10.5gを添加して溶解した。フッ化ナトリウム添加後、1時間以上撹拌を行った。これを200mlオートクレーブに仕込み、170℃で48時間の結晶化反応を行い、放冷した。冷却後結晶化反応液は濾過、水洗し、110℃で乾燥した。この乾燥物を700℃で5時間焼成し、薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトを得た。以下でこれを「薄片状モルデナイト」と略記することがある。
<薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの特性>
上記で得られた薄片状モルデナイトの分析組成を表3に記載した。薄片状モルデナイトの原料組成はモル比SiO2/Al2O3=26であったが、得られた薄片状モルデナイトのモル比はSiO2/Al2O3=20.72であった。
得られた薄片状モルデナイトの粉末X線回折のパターンは比較用モルデナイトの粉末X線回折のパターンに一致しており、モルデナイトであることが確認できた。また、TEM写真から、結晶形状が薄片状であることが確認された。
また、SEM写真から、薄片の厚さは約100nmであって、長軸方向の長さは0.5μm、幅は0.2μmであり細長い薄片であることが確認された。
アルゴンガス吸着法により求めたBET法による比表面積は518m/gであり、アルゴンガス吸着法により求めたLangmuir法による比表面積は621m/gであり、アルゴンガス吸着法により求めた細孔容積が0.73cc/gであり、アルゴンガス吸着等温線からSF法により求めた細孔径が5.0Åであった。
【0044】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶形状が、薄片状であることを特徴とする薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライト。
【請求項2】
-196℃、76torrにおける窒素ガス吸着能が50〜150cc/gであることを特徴とする請求項1記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライト。
【請求項3】
結晶形状が、SEM観察により測定される厚さが10〜200nmであって、平面の長軸方向の長さが0.2〜1.0μmで、短軸方向の長さが0.1〜0.3μmである薄片状の結晶形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライト。
【請求項4】
アルゴンガス吸着法により求めたBET法による比表面積が450〜700m/gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライト。
【請求項5】
アルゴンガス吸着法により求めたLangmuir法による比表面積が600〜800m/gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライト。
【請求項6】
アルゴンガス吸着法により求めた細孔容積が0.4〜1.0cc/gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライト。
【請求項7】
アルゴンガス吸着等温線からSF(Saito−Foley)法により求めた細孔径が0.45〜0.55nmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライト。
【請求項8】
シリケート材料と界面活性剤とによりメソポーラスシリケート前躯体を合成する第1工程と、第1工程で得られたメソポーラスシリケート前躯体を焼成することなく、テンプレート剤とアルカリ剤とアルミニウム化合物を加えて水熱合成反応を行いモルデナイト型ゼオライトを合成する第2工程と、第2工程で得られたモルデナイト型ゼオライトを焼成処理して界面活性剤とテンプレート剤を除去する第3工程を順次に施すことを特徴とする薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
前記第2工程において、更にフッ素化合物を加えて水熱合成反応を行いモルデナイト型ゼオライトを合成することを特徴とする請求項8記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項10】
シリケート材料がシリカもしくはアルミノシリケートである請求項8または9の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項11】
界面活性剤が第4級長鎖アルキルトリメチルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項8〜10の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項12】
メソポーラスシリケート前躯体がメソポーラスシリカ前躯体もしくはメソポーラスアルミノシリケート前躯体である請求項8〜11の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造方法。
【請求項13】
テンプレート剤がテトラエチルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項8〜12の何れか一項に記載の薄片状の結晶形状を有するモルデナイト型ゼオライトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−218950(P2012−218950A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83167(P2011−83167)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】