説明

薄膜形成用高純度Mn材料

【課題】ターゲット材としての歩留まりが高く、かつ反強磁性薄膜形成用として最適な高純度Mn材料を得る製造方法の提供。
【解決手段】粗Mnを1250〜1500°Cで予備溶解した後、1100〜1500°Cで真空蒸留することにより高純度Mn材料を得る。好ましくは真空蒸留の際の真空度を5×10-5〜10Torrとする。これにより得られる高純度Mnは不純物含有量が合計で100ppm以下、酸素:200ppm以下、窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度Mn材料の製造方法及び薄膜形成用高純度Mn材料に関するものである。特には、反強磁性薄膜用Mn合金材料の原料として使用し得る高純度Mn材料に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ用のハードディスクなどの磁気記録装置は、近年急速に小型大容量化が進み、数年後にはその記録密度は20Gb/in2 に達すると予想される。このため、再生ヘッドとしては従来の誘導型ヘッドが限界に近づき、磁気抵抗効果型(AMR)ヘッドが用いられ始めている。磁気抵抗 効果型ヘッドは、パソコン市場等の拡大に伴い世界的規模で今後急成長が見込まれている。そして、数年のうちには、さらに高密度が期待されている巨大磁気抵 抗効果型(GMR)ヘッドが実用化されることが現実的となってきた。GMRヘッドに使用されるスピンバルブ膜の反磁性膜としてMn合金が検討されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スピンブルブ膜用の反磁性膜としてはMn合金、特にMn−貴金属合金等が検討されている。これらは通常、焼結あるいは溶解 によって製造される。しかし、市販の電解Mnをターゲット材の原料として使用した場合には溶解時に溶融状態のMnの突沸や飛散が生じ、かつ多量のスラグが 発生し、鋳造したインゴット内には巣が多く、ターゲット材としての歩留まりが悪かった。一方、焼結法による場合にはガス放出が多く、焼結密度が上がらない という問題があった。しかも、これらの合金はスパッタリングの際のガス放出やパーティクルの発生及び耐食性にも問題があった。本発明は、ターゲット材とし ての歩留まりが高く、かつ反強磁性薄膜形成用として最適な高純度Mn材料を得るための手段を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を行った結果、Mn中の不純物元素が、溶融状態に大きな影響を与えていることを見いだした。そして、予備溶解と真空蒸留法とを組み合わせることによって、これらの不純物を大幅に低減できることを見いだした。さらに、これ によって得られる高純度Mn材料はスパッタリングの際のパーティクル発生が小さく、耐食性にも優れることを見いだした。
【0005】
本発明は、この知見に基づき、
1.粗Mnを1250〜1500°Cで予備溶解した後、1100〜1500°Cで真空蒸留することを特徴とする高純度Mn材料の製造方法
【0006】
2.真空蒸留の際の真空度を5×10-5〜10 Torrとしたことを特徴とする上記1記載の高純度Mn材料の製造方法
【0007】
3.真空蒸留の際のルツボを二重ルツボとし、内側ルツボと外側ルツボとの間にカーボンフェルトを充填したことを特徴とする上記1〜2に記載の高純度Mn材料の製造方法
【0008】
4.不純物金属元素の含有量が合計で100ppm以下であり、酸素:200ppm以下、窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用高純度Mn材料
【0009】
5.不純物金属元素の含有量が合計で50ppm以下であり、酸素:100ppm以下、窒素:10ppm以下、S:10ppm以下、C:50ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用高純度Mn材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粗Mnを1250〜1500°Cで予備溶解した後、1100〜1500°Cで真空蒸留することを特徴とする高純度Mn材料の製造方法によって、合金溶解時の突沸回数が少なく、合金鋳造時のインゴット中の巣も少ないような高純度Mn材料を得ることができる。従って、ターゲット材と しての歩留まりを向上させることができる。そして本発明によって得られる不純物金属元素の含有量が合計で100ppm以下であり、酸素:200ppm以 下、窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下であることを特徴とするMn材料を用いて製造したMn合金及びMn合金スパッタリン グターゲットは耐食性に優れると同時に、スパッタリングの際のパーティクル発生も少ないという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の高純度Mn材の原料である粗Mnとしては、市販の電解Mnを用いれば良い。そして、粗Mnは1250〜1500°Cで予備溶解を行う。予備溶解は、MgO,Al2O3等 のルツボを用いて不活性ガス雰囲気で保持時間1時間以上で行う。1250°C未満ではMnが溶解せず、1500°Cを超えるとルツボからの汚染及びMnの蒸発 が激しくなるため好ましくない。また、保持時間1時間未満では未溶解Mnが残るため好ましくない。ここで、予備溶解を行うのは、揮発性の成分を除去するためである。
【0012】
予備溶解の後、1100〜1500°Cで真空蒸留を行う。1100°C未満では、蒸留時間が長くなり過ぎ、1500°Cを超えると蒸発速度が大きく不純物を巻き込みやすくなるため好ましくない。真空蒸留の際の真空度は5×10-5〜10 とする。5×10-5Torr未満では凝縮物が得られなくなり、10 Torrを超えるとMnの蒸留にかかる時間が長くなるため好ましくない。蒸留時間は、10〜200分とするのが好ましい。
【0013】
また、真空蒸留の際のルツボは、Al2O3 等の二重ルツボとするのが好ましい。この際、内側ルツボと外側ルツボとの間にカーボンフェルトを充填することが特に好ましい。カーボンフェルトがない場合には、内側のAl2O3 ルツボ内側壁部分に多量の付着物が付着し、蒸留物の歩留まりが低下する。内側ルツボと外側ルツボとの間にカーボンフェルトを充填することにより、内側のAl2O3 ルツボ内側壁部分への付着物は大幅に低減され、蒸留物の歩留まりを上げることができる。なお、真空蒸留は、残留物が約50%以下となるまで行うのが好ましい。
【0014】
上記の方法によって得られた高純度Mn材料は、不純物含有量が大幅に低減されたものであり、特に磁性薄膜形成用のMn合金材料として 最適なものである。すなわち、不純物金属元素の含有量が合計で100ppm以下であり、酸素含有量200ppm以下、窒素含有量50ppm以下、S含有量 50ppm以下、C含有量100ppm以下のものである。
不純物金属元素は、磁気的特性を悪化させ、また、耐食性低下の原因ともなるため、極力低減することが望まれており合計で100ppm以下、好ましくは50ppm以下に低減すべきである。不純物のうち特に酸素及びSは耐食性を低下させる大きな原因となるため、酸素含有量200ppm以下、好ましくは100ppm以下、S含有量50ppm以下、好ましくは10ppm以下にまで低減すべきである。
さらに、 窒素及びCは耐食性低下の原因となるだけではなくスパッタリングの際のパーティクル発生の原因の一つと考えられるため、窒素含有量50ppm以下、好ましくは10ppm以下、C含有量100ppm以下、好ましくは50ppm以下にまで低減すべきである。
【0015】
本発明によって得られる高純度Mn材料は、Fe,Ir,Pt,Pd,Rh,Ru,Ni,Cr,Co などの金属と合金化することによって例えばスパッタリングターゲットなどの磁性薄膜形成用材料とすることができる。その場合には、言うまでもないがMnと 合金化する元素についてもできるだけ高純度の原料を使用することが望ましく市販品を使用する場合には純度4N以上の高純度品を使用すべきである。また、必 要に応じて真空脱ガス処理等を行い、ガス成分や揮発成分を除去するべきである。
【0016】
上記のような方法で得られた高純度Mn材料とMn以外の合金成分元素とを溶解し、合金化した後鋳造を行う。本発明の高純度Mn材料 を用いた場合には突沸現象の発生は少なく、インゴットには巣が少ない。このようにして得られた合金インゴットを機械加工し、スパッタリングターゲット材と することができる。さらにスパッタリングターゲットをスパッタリングすることによって基板上に磁性薄膜を形成することが可能である。
【実施例】
【0017】
以下実施例について説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
【0018】
(実施例1)
原料となる電解Mn 1000gをMgOルツボを用いて予備溶解を行った。雰囲気はAr雰囲気とした。 予備溶解温度:1300°C、保持時間5時間とした。予備溶解に引き続いて真空蒸留を行った。真空蒸留はMgOの二重ルツボを用いて行った。 真空度:0.1 torr 、蒸留温度:1400°C、保持時間:0.5時間とした。これによって、Mn蒸留物300gを得た。
蒸留したMnは、酸素:120ppm、窒素: 40ppm、S:40ppm、C:80ppm、金属不純物元素合計量:90ppmであった。得られた高純度Mn材料と純度4NのFe(酸素:40ppm、 窒素:<10ppm、S:<10ppm、C:10ppm)とを1:1でMgOルツボで1350°Cで溶解し10分間保持後鋳造した。各原料、高 純度Mn材料及びMn-Fe合金の組成を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
また、溶解時の突沸回数及び鋳造時のインゴット中の巣の状態を目視で判断した。得られたMn-Fe合金の一部を約10mm角で切り出し、耐食性試験用のブ ロック試片とした。耐食性試験用のブロック試片は、観察面を鏡面研磨した後、温度35°C、湿度98%の湿潤試験器内に入れた。72時間後、試料を取り出し 錆の発生状況を目視で観察した。残りのMn-Fe合金は、機械加工を行い、直径50mm、厚さ5mmの円板状のスパッタリングターゲットとした。このス パッタリングターゲットを用いてスパッタ試験を行った。スパッタリングの際に発生する3インチウエハ上の0.3μm以上のパーティクル数を測定した。
【0021】
(実施例2)
原料となる電解Mn1000gをAl2O3 ルツボを用いて予備溶解を行った。雰囲気はAr雰囲気とした。 予備溶解温度:1350°C、保持時間20時間とした。予備溶解に引き続いて真空蒸留を行った。真空蒸留はAl2O3 の二重ルツボを用いて行った。内側ルツボと外側ルツボとの間にはカーボンフェルトを充填した。
真空度:10-3torr 、蒸留温度:1300°C、保持時間:0.4時間とした。これによって、Mn蒸留物250gを得た。蒸留したMnは、酸素:30ppm、窒素:< 10ppm、S:<10ppm、C:10ppm、金属不純物元素合計量:19ppmであった。
得られた高純度Mn材料と純度4NのIr(酸素: 40ppm、窒素:<10ppm、S:<10ppm、C:10ppm)とを1:1でAl2O3 ルツボで1400°Cで溶解し10分間保持後鋳造した。各原料、高純度Mn材料及びMn-Ir合金の組成を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例1と同様に溶解時の突沸回数及び鋳造時のインゴット中の巣の状態を目視で判断した。また、耐食性試験を行うと同時にスパッタリングターゲットを作成し、スパッタ試験を行った。
【0024】
(比較例1)
純度3Nの原料Mn(酸素:1000ppm、窒素:200ppm、S:400ppm、C:300ppm、金属不純物元素の合計 量:710ppm)と4NのFe(酸素:40ppm、窒素:<10ppm、S:<10ppm、C:10ppm)とを1:1でAl2O3 ルツボで1350°Cで溶解し10分間保持後鋳造した。各原料、高純度Mn材料及びMn-Fe合金の組成を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
実施例と同様に溶解時の突沸回数及び鋳造時のインゴット中の巣の状態を目視で判断した。また、耐食性試験を行うと同時にスパッタリングターゲットを作成し、スパッタ試験を行った。
【0027】
(比較例2)
純度3Nの原料Mn(酸素:400ppm、窒素:30ppm、S:400ppm、C:30ppm、金属不純物元素の合計量: 155ppm)と4NのIr(酸素:40ppm、窒素:<10 ppm、S:<10ppm、C:10ppm)とを1:1でAl2O3 ルツボで1400°Cで溶解し10分間保持後鋳造した。各原料、高純度Mn材料及びMn-Ir合金の組成を表4に示す。
【0028】
【表4】

【0029】
実施例と同様に溶解時の突沸回数及び鋳造時のインゴット中の巣の状態を目視で判断した。また、耐食性試験を行うと同時にスパッタリングターゲットを作成し、スパッタ試験を行った。
【0030】
(結果)
実施例1〜2、比較例1〜2の合金溶解時の突沸回数及び鋳造時のインゴット中の巣の状態を表5に示す。
【0031】
【表5】

【0032】
実施例1〜2、比較例1〜2の合金の耐食性試験結果を表6に示す。
【0033】
【表6】

【0034】
実施例1〜2、比較例1〜2のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行った際に発生する0.3μm以上のパーティクル数を表7に示す。
【0035】
【表7】

【0036】
その結果、粗Mnを1250〜1500°Cで予備溶解した後、1100〜1500°Cで真空蒸留することを特徴とする本発明の高純度Mn材料の製 造方法を用いた場合には、合金溶解時の突沸回数が少なく、合金鋳造時のインゴット中の巣も少なかった。そして、本発明の製造方法によって不純物金属元素の 含有量が合計で100ppm以下であり、酸素:200ppm以下、窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用高純度Mn材料を得ることが可能であった。
さらに本発明の不純物金属元素の含有量が合計で100ppm以下であり、酸素:200ppm以下、 窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用高純度Mn材料を用いて製造したMn合金及びMn合金 スパッタリングターゲットは耐食性に優れると同時に、スパッタリングの際のパーティクル発生も少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の粗Mnを1250〜1500°Cで予備溶解した後、1100〜1500°Cで真空蒸留することを特徴とする高純度Mn材料の製 造方法によって、合金溶解時の突沸回数が少なく、合金鋳造時のインゴット中の巣も少ないような高純度Mn材料を得ることができる。従って、ターゲット材と しての歩留まりを向上させることができる。そして本発明によって得られる不純物金属元素の含有量が合計で100ppm以下であり、酸素:200ppm以 下、窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下であることを特徴とするMn材料を用いて製造したMn合金及びMn合金スパッタリン グターゲットは耐食性に優れると同時に、スパッタリングの際のパーティクル発生も少なく、反強磁性薄膜形成用の材料として最適である。本発明の粗Mnを1250〜1500°Cで予備溶解した後、1100〜1500°Cで真空蒸留することを特徴とする高純度Mn材料の製 造方法によって、合金溶解時の突沸回数が少なく、合金鋳造時のインゴット中の巣も少ないような高純度Mn材料を得ることができる。
従って、ターゲット材と しての歩留まりを向上させることができる。そして本発明によって得られる不純物金属元素の含有量が合計で100ppm以下であり、酸素:200ppm以 下、窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下であることを特徴とするMn材料を用いて製造したMn合金及びMn合金スパッタリン グターゲットは耐食性に優れると同時に、スパッタリングの際のパーティクル発生も少なく、反強磁性薄膜形成用の材料として最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解Mnを不活性ガス雰囲気中、1250〜1500°C、保持時間1時間以上で予備溶解した後、1100〜1500°Cで真空蒸留することを特徴とする高純度Mn材料の製造方法。
【請求項2】
真空蒸留の際の真空度を5×10-5〜10Toorとしたことを特徴とする請求項1記載の高純度Mn材料の製造方法。
【請求項3】
真空蒸留の際のルツボを二重ルツボとし、内側ルツボと外側ルツボとの間にカーボンフェルトを充填したことを特徴とする請求項1〜2に記載の高純度Mn材料の製造方法。
【請求項4】
不純物金属元素の含有量が合計で100ppm以下であり、酸素:200ppm以下、窒素:50ppm以下、S:50ppm以下、C:100ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用高純度Mn材料。
【請求項5】
不純物金属元素の含有量が合計で50ppm以下であり、酸素:100ppm以下、窒素:10ppm以下、S:10ppm以下、C:50ppm以下であることを特徴とする薄膜形成用高純度Mn材料。

【公開番号】特開2007−186793(P2007−186793A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10518(P2007−10518)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【分割の表示】特願平9−332287の分割
【原出願日】平成9年11月18日(1997.11.18)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】