説明

薄膜構造

【課題】塗膜が高級感を発揮するための材料特性や光学特性を明らかにし、もって漆同等の高級な質感を、例えば合成塗料を用いた塗膜などによって再現することができる薄膜構造を提供する。
【解決手段】薄膜構造は、複数の薄膜層を有し、基材上に形成された該薄膜層として、少なくとも1層の微粒子含有薄膜層と、少なくとも1層のクリヤ薄膜層を備え、上記微粒子含有薄膜層が、微粒子とバインダー樹脂を含み、上記微粒子と上記バインダー樹脂とは視覚的に同化し、且つ、屈折率の差が0.005以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属などの材料から成る物品の表面に適用され、その表面を保護すると共に、物品の美観を高めるための塗膜に代表される薄膜構造に係わり、特に漆(うるし)のような深み感を備えた高級感を得ることができる薄膜構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車や、家電製品等への塗装については、防錆性、防汚性、耐候性等の機能に加えて、意匠性が重要となっており、性能に加えて意匠性を高めることが重要なファクターの1つになっている。
また、昨今、自動車市場においても、高級化が要求されており、自動車内装の高級化指向として、その質感向上が求められている。
【0003】
自動車メーカーや材料メーカーは、質感の高い素材として漆材料に注目しているが、漆を構成しているウルシオールが紫外線に弱く、耐候性能が低いといった性能面での問題や、製品として仕上げる迄に約3ヶ月を要するなど生産性上の課題が大きく、これまで内装用部品を初めとした自動車部品に漆材料が適用された事例は報告されていない。
【0004】
このような高級感を得るための塗装方法や塗膜構造としては、漆を模した合成塗料(カラークリヤ)を使用して、ベースコートや透明クリヤとウエットオンウエットで塗装したり、ベースコートとウエットオンウエットで塗装し焼付けた透明クリヤの上に塗装したりすることや、特定明度のメタリックベースコートと光透過率を特定した着色クリヤトップコートから成る複層塗膜構造が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平03−012263号公報
【特許文献2】特開平04−016269号公報
【特許文献3】特開平04−326964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載の方法や塗膜構造では、通常の塗膜構造に比較すれば、かなりの高級感が得られなくはないものの、さらに優れた深み感を十分に表現できる塗膜構造や塗装方法が望まれている。
【0006】
すなわち、本発明は、従来の塗装方法や、これによって得られる塗膜構造における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、漆材料による塗膜が高級感をもたらす要因を解析し、高級感を発揮するための材料特性や光学特性を明らかにし、もって漆同等の高級な質感を合成塗料による塗膜などの薄膜構造によって再現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、塗膜材料や添加材料、積層方法などについて鋭意検討を重ねた結果、漆材料における高級感の主要因が視覚的に感じる「深み感」にあることをつきとめ、基材上に形成される上述の薄膜構造が、微粒子含有薄膜層とクリヤ薄膜層を備え、更にこの微粒子含有薄膜層が屈折率の異なる微粒子とバインダー樹脂を含むものとすることで「深み感」が得られ、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の薄膜構造は、複数の薄膜層を有し、基材上に形成され、この薄膜層として少なくとも1層の微粒子含有薄膜層と少なくとも1層のクリヤ薄膜層を備え、また上記微粒子含有薄膜層が微粒子とバインダー樹脂を含み、更に上記微粒子と上記バインダー樹脂とは視覚的に同化し、且つ、屈折率の差が0.005以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基材上の薄膜構造が、微粒子含有薄膜層とクリヤ薄膜層を備え、更にこの微粒子含有薄膜層が屈折率の異なる微粒子とバインダー樹脂を含むものとすることで深み感を得ることができ、漆同等の質感を合成材料によって再現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の薄膜構造について、その製造方法などと共に、さらに詳細、かつ具体的に説明する。なお、本明細書中において、「%」は特記しない限り質量百分率を表わすものとする。
【0011】
本発明者らは、世の中に存在する質感が高く、高級感のある物品、すなわち漆製品を初めとした各種の工芸品や工業製品を集め、質感の要素分解を行った結果、質感を形成する要素の中に深み感があることを確認した。そして、この深み感が漆の質感においてどの程度の影響度を持っているかを、先の質感要素分解の際に行った官能評価結果から解析した所、深み感と質感がほぼ同義であって、深み感の向上が質感向上に大きく貢献することを確認した。そして、この深み感を解明するため、実験計画法を用いて材料特性や光学特性を変化させた塗膜の作製及び官能評価を繰り返し、深み感を再現するための材料特性、塗膜構成を明らかにした。
【0012】
本発明の薄膜構造においては、上記したように、複数の薄膜層を有し、この薄膜層として少なくとも1層の微粒子含有薄膜層と、少なくとも1層のクリヤ薄膜層を備え、また上記微粒子含有薄膜層が微粒子とバインダー樹脂を含み、更に上記微粒子と上記バインダー樹脂とは視覚的に同化し、且つ、屈折率の差が0.005以上となるようにしたことから、薄膜構造内で光の複雑な屈折が生じ、漆同等の深み感、質感を得ることができる。
本発明の薄膜構造は、典型的には塗料として基材上に塗布することによって形成される塗膜構造に代表されるが、必ずしも塗膜構造のみに限定されることはなく、例えば樹脂フィルムから構成することも可能である。
【0013】
図1(a)〜(f)に、本発明のいくつかの実施形態を示す。これらの図に示されるように、基材B上に形成された本発明の薄膜構造は2層以上の薄膜層を有し、該薄膜層として1層以上の微粒子含有薄膜層10と、1層以上のクリヤ薄膜層20を備える。また着色層30を有する場合もある。
【0014】
本発明の薄膜構造では、微粒子含有薄膜層10とクリヤ薄膜層20が積層される順番は特に限定されるものではなく、例えば、クリヤ薄膜層20が積層される位置は、図1(a)、(b)に示すように薄膜構造の最表面のみであっても、図1(d)、(f)に示すように最表面以外の層のみであっても、図1(c)、(e)に示すようにその両方であってもよいが、薄膜構造の最表面にクリヤ薄膜層を備えることが好ましい。深み感をより向上させることができるからである。また、図1(c)、(e)に示すように、最表面のクリヤ薄膜層に加え、薄膜構造内部に少なくとも1層のクリヤ薄膜層を備えることがさらに好ましい。光の屈折の複雑さが増し、またさらに深み感を向上させる効果が得られるからである。
【0015】
薄膜構造全体の厚さに対する上記微粒子含有薄膜層10の合計の厚さは1〜75%が好ましく、1〜50%がさらに好ましい。さらに薄膜構造内での光の屈折をより複雑なものとし、より高度な深み感を得るためには、微粒子含有薄膜層の厚さを厚くしたり、層数を多くしたりすることが好ましい。
【0016】
ここで「微粒子含有薄膜層」とは、微粒子Pとバインダー樹脂Rを含む薄膜層であり、必要に応じてさらに顔料、光輝材、添加剤等を含むことができる。通常、これらの微粒子及び顔料、光輝材、添加剤等は上記バインダー樹脂中に分散されている。また「微粒子含有薄膜層」を塗膜として形成した場合には、使用した溶剤が薄膜層中に若干残存することもあり得る。
【0017】
上記微粒子としては、水性でも溶剤系でも使用が可能であり、例えば、一般に塗膜形成樹脂として用いられる樹脂を使用することができる。具体的には、アクリル樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂などから形成される微粒子や樹脂ビーズなどを挙げることができる。なお、当該微粒子は、1層であっても、2層以上の構造であっても良い。また、中空(中に空気の層や空間がある)であっても良い。
これらの微粒子の最大粒径は、設計する薄膜構造にもよるが、一般的には50μm以下であることが好ましく、1nm〜20μmであることがより好ましい。50μmを超えると、塗膜を積層する際に塗膜平面に凹凸ができ、深み感に悪影響を及ぼす場合がある。
また、微粒子含有薄膜層中に占める微粒子の割合は、樹脂固形分比率濃度で0.1%〜5%の範囲であることが好ましい。0.1%未満では微粒子添加による深み感向上効果が十分に得られない場合があり、5%を超えると塗膜が白濁するという不都合が生じる傾向がある。
【0018】
上記バインダー樹脂としては、水性でも溶剤系でも使用することができ、代表的には、一般に塗膜形成樹脂として用いられている樹脂を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂などの樹脂を挙げることができる。
また、その添加剤として、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのワックス類や、分散剤、湿潤剤、消泡剤、表面調整剤、増粘剤、レオロジーコントロール剤等を使用することができる。
【0019】
なお、上記溶剤としては、水や芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤等の炭化水素系溶剤等の有機溶剤が挙げられる。また顔料、微粒子、光輝材などが、例えばペースト状の市販品として添加される場合には、このペースト中に含有される溶剤が含まれることもある。
【0020】
また「微粒子含有薄膜層」においては、上記微粒子と上記バインダー樹脂とは視覚的に同化している。即ち、バインダー樹脂に分散された微粒子の境界面が視認されないため、視覚的な滑らかさが担保されている。さらに、該微粒子と該バインダー樹脂の屈折率の差は、0.005以上である。微粒子とバインダー樹脂の屈折率差は、大きければ大きい程好ましいが、少なくとも0.005以上の差があれば、深み感向上に効果が認められる。この時、バインダー樹脂よりも微粒子の屈折率が小さい方が、光路長がより長くなり、深み感がより向上することから、バインダー樹脂より微粒子の屈折率が小さい方が好ましい。
【0021】
一方、「クリヤ薄膜層」は、無色又は有色の透明な薄膜層であり、下方に積層された薄膜層などを隠蔽しない。クリヤ薄膜層を塗膜として形成する場合には、一般的なクリヤ塗料である水性塗料、溶剤型塗料、粉体塗料等を用いることによって、クリヤ塗膜や、半透明感を付与したいわゆる濁りクリヤ塗膜を得ることができる。水性や溶剤型の塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料のような二液型樹脂を用いてもよい。
【0022】
上述の「微粒子含有薄膜層」及び「クリヤ薄膜層」は着色材を含有することができる。薄膜構造に含まれるこれらの薄膜層のうち、着色材を含有する層は、一層であってもよいし、二層以上であってもよい。着色材含有薄膜層を二層以上備える薄膜構造においては、着色材を含む全ての層の着色材濃度が同じであってもよいし、いくつかの層の着色材濃度が同じであってもよいし、着色材を含む全ての層の着色材濃度が異なっていてもよいが、少なくとも2層の薄膜層の間で、着色材濃度が異なることが好ましい。深み感がより向上するからである。
さらに、積層された全ての薄膜層において、下層に向かうほど着色材濃度が濃くなる濃度勾配や、上層および下層のどちらかの薄膜に濃度のかたよりを持つ濃度勾配を有することがより好ましい。また深み感を向上させる目的だけではなく、求められる意匠に応じて、着色材の濃度勾配を適宜設定することが可能である。
なお、着色材としては、顔料、染料と共に、着色光輝材を初めとする各種の光輝材を用いることができる。なお、光輝材としては、アルミニウムやマイカ(雲母)、ガラスなどの粉末を使用することができる。また、粉砕した二酸化チタンや酸化鉄などの鉱物や、ガラス表面に酸化被膜や顔料膜を形成したものやモルフォ繊維なども用いることができる。
【0023】
また、薄膜構造に含まれる薄膜層のうち、少なくとも2層の間、例えば微粒子含有薄膜層とクリヤ薄膜層との間、微粒子含有薄膜層同士の間、クリヤ薄膜層同士の間で、屈折率が異なることが好ましい。深み感がより向上するからである。これらの屈折率の違いは、各層を構成する樹脂の種類を変えることによって実現できる。例えば、微粒子含有薄膜層間においては、これらの層に含まれるバインダー樹脂を屈折率の異なる樹脂とすることで、層全体の屈折率を相違させることもできる。
【0024】
さらに本発明の薄膜構造においては、最下層、すなわち上記基材との接触面に着色層を備えることが好ましい。該着色層は、着色材を基材にスプレー塗装すること等によって得ることができるが、特に木目のような凹凸を備える材料を基材とする場合には、スプレー塗装のみによるよりも、着色材を刷り込んだ後、スプレー塗装によって着色層を得ることがより好ましい。木目のような凹凸の上に着色材を刷り込むことによって、スプレー塗装以上に凹凸の立体感が際立ち、光の屈折がより複雑になり、深み感を向上させる効果を与えることができるからである。
この着色層に用いる着色材としては、顔料、染料と共に、着色光輝材を初めとする各種の光輝材を用いることができる。なお、光輝材としては、アルミニウムやマイカ(雲母)、ガラスなどの粉末を使用することができる。また、粉砕した二酸化チタンや酸化鉄などの鉱物や、ガラス表面に酸化被膜や顔料膜を形成したものやモルフォ繊維なども用いることができる。
【0025】
またさらに、本発明の薄膜構造が2層構造の場合には、下層又は上層の薄膜層の光透過率(全光線透過率)が他方の全光線透過率よりも高いことが好ましく、3層以上の積層構造の場合には、最上層又は最下層の全光線透過率が他方の全光線透過率よりも高いことが好ましい。また基材表面、例えば木製基材の本木目が薄膜構造を通して視認できることが望ましいが、そのために薄膜構造全体の全光線透過率が5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0026】
以上説明してきたように本発明の薄膜構造は、複数の薄膜層が積層されており、どの様な塗色(色相)にも対応が可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
図2に示すように、基材Bの上の微粒子含有薄膜層を第1の微粒子含有薄膜層10aとし、その上に必要に応じて、第2の微粒子含有薄膜層10b、第3の微粒子含有薄膜層10cをスプレー塗装した。またクリヤ薄膜層20aについては、積層された微粒子含有薄膜層の層間又は最上層に形成した。さらに必要に応じて基材Bとの接触面に着色層30aを形成し、薄膜構造を得た。以下に工程を詳述する。
【0029】
〔赤色顔料の調製〕
アクリル樹脂「アクリディック」(大日本インキ化学工業製)を100部、赤顔料「Permanent RED FGR」(クラリアント製)を10部、分散剤「フローレンG−700」(共栄社化学製)を5部、酢酸エチル230部を混合した後、350部のアルミナビーズ(粒径1mm)を入れて、TKオートホモミキサー(特殊機化工業製)により2時間分散を行い、平均粒径120nmまで微細化した赤顔料を得た。
【0030】
〔バインダー樹脂〕
微粒子含有薄膜層に用いるバインダー樹脂としては、屈折率が異なる次の2種類のものをそれぞれ使用した。
(1)日立化成製溶剤アクリル樹脂系FA−125M(屈折率1.45)
(2)日立化成製ジシクロペンタニルアクリレート樹脂系FA−513A(屈折率1.49)
【0031】
〔微粒子〕
微粒子含有薄膜層に用いる微粒子としては、屈折率が異なる次の2種類の樹脂ビーズをそれぞれ使用した。
(1)宇部日東化成製シリコンアルキド樹脂ハイプレシカUF(屈折率1.45)
(2)綜研化学製ケミスノーMR(屈折率1.49)
【0032】
〔クリヤ塗料〕
クリヤ薄膜層に用いるクリヤ塗料としては、屈折率が異なる次の2種類のものをそれぞれ使用した。
(1)日立化成製溶剤アクリル樹脂系FA−125M(屈折率1.45)
(2)BASFコーティングスジャパン製プライマックス8500(屈折率1.54)
【0033】
〔着色層用材料〕
着色層の樹脂材料として日本ビーケミカル製アクリルウレタン系カラーベースを使用した。
【0034】
〔基材〕
基材としては次の2種類の基材をそれぞれ使用した。
(1)リン酸亜鉛で処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、乾燥膜厚が20μmとなるように、カチオン電着塗料(日本ペイント社製「パワートップU600M」)を電着塗装して160℃で30分間焼き付けた後、中塗り塗料(日本油脂社製「ハイエピコーQX1」)を30μmの厚さとなるように塗装し、140℃で30分間焼き付けた基材
(2)本木目を有する基材
【0035】
〔積層塗膜試料(薄膜構造)の作製〕
上記基材の表面に、微粒子含有薄膜層とクリヤ薄膜層を含む積層塗膜(薄膜構造)を形成した。微粒子含有薄膜層は、必要に応じて上記により調整した赤顔料を添加した塗料をスプレー塗装した。クリヤ薄膜層は、上記クリヤ塗料のいずれかを使用して、乾燥膜厚が30μm又は40μmとなるようにスプレー塗装した。これらの塗装後、140℃で30分間焼き付けた。
なお、微粒子含有薄膜層の上記塗料としては以下の材料を使用し、実施例1〜5及び比較例1〜2の薄膜構造を得た。
【0036】
〔実施例1:図2(a)参照〕
微粒子含有薄膜層10aとして、屈折率1.49のバインダー樹脂(2)に対して、上記赤顔料は添加せず、屈折率1.45(屈折率差:0.04)、最大粒子径10μmの微粒子(1)を樹脂固形分比率濃度が5%となるよう添加した塗料を、乾燥膜厚が30μmとなるように基材(1)上にスプレー塗装したのち、クリヤ塗料(2)を用いて乾燥膜厚が40μmとなるようにクリヤ薄膜層20aを形成し、図2(a)に示す薄膜構造を得た。
【0037】
〔実施例2:図2(b)参照〕
微粒子含有薄膜層10aとして、屈折率1.49のバインダー樹脂(2)に対して、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が4%になるよう添加すると共に、屈折率1.45(屈折率差:0.04)、最大粒子径10μmの微粒子(1)を樹脂固形分比率濃度が5%となるよう添加した塗料を、乾燥膜厚が10μmとなるように基材(1)上にスプレー塗装した。次に、微粒子含有薄膜層10bとして、上記バインダー樹脂(2)に対して、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が0.8%になるよう添加すると共に、上記微粒子(1)を同様に添加した塗料を、乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装した。さらに、微粒子含有薄膜層10cとして、上記赤顔料の樹脂固形分比率濃度が0.2%になるよう調製し、微粒子(1)を樹脂固形分比率濃度が5%となるように添加した塗料を乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装したのち、クリヤ塗料(2)を用いて乾燥膜厚が40μmとなるようにクリヤ薄膜層20aを形成し、図2(b)に示す薄膜構造を得た。
【0038】
〔実施例3:図2(c)参照〕
上記着色層用材料に対して、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が0.5%となるように添加して調製した塗料を用いて本木目を有する基材(2)上に刷り込みを実施し、その後スプレー塗装を実施して着色層30aとした。この着色層上に、微粒子含有薄膜層10aとして、屈折率1.49のバインダー樹脂(2)に対して、最大粒子径10μm、屈折率1.45の微粒子(1)を樹脂固形分比率濃度が1%となるよう添加した塗料を乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装したのち、クリヤ塗料(2)を用いて乾燥膜厚が40μmとなるようにクリヤ薄膜層20aを形成し、図2(c)に示す薄膜構造を得た。
【0039】
〔実施例4:図2(d)参照〕
上記着色層用材料に対して、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が0.5%となるように添加して調製した塗料を用いて本木目を有する基材(2)上に刷り込みを実施し、その後スプレー塗装を実施して着色層30aとした。この着色層上に、微粒子含有薄膜層10aとして、屈折率1.45のバインダー樹脂(1)に対して、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が0.8%になるよう添加すると共に、屈折率1.49(屈折率差:0.04)、最大粒子径10μmの微粒子(2)を樹脂固形分比率濃度が1%となるよう添加した塗料を、乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装したのち、クリヤ塗料(1)を用いて乾燥膜厚が30μmとなるようにクリヤ薄膜層20aを形成した。さらに、微粒子含有薄膜層10bとして、上記赤顔料の樹脂固形分比率濃度が0.8%になるよう調製し、微粒子(2)を樹脂固形分比率濃度が1%となるように添加した塗料を乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装し、図2(d)に示す薄膜構造を得た。
【0040】
〔実施例5:図2(d)参照〕
上記着色層用材料に対して、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が0.5%となるように添加して調製した塗料を用いて本木目を有する基材(2)上にスプレー塗装を実施して着色層30aとした。この着色層上に、実施例4と同様の方法で微粒子含有薄膜層10a、クリヤ薄膜層20a、微粒子含有薄膜層10bを形成し、図2(d)に示す薄膜構造を得た。
【0041】
〔比較例1:図2(e)参照〕
本木目を有する基材(2)上に着色層の樹脂材料のみをスプレー塗装した層31を形成し、その上に薄膜層11aとして、屈折率1.45のバインダー樹脂(1)に対して、微粒子は添加せず、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が0.8%になるよう添加した塗料を乾燥膜厚が10μmとなるように塗装したのち、クリヤ塗料(1)を用いて乾燥膜厚が30μmとなるようにクリヤ薄膜層20aを形成した。さらに薄膜層11bとして薄膜層11aで使用した塗料を用いて同様の操作を繰り返し、図2(e)に示す薄膜構造を得た。
【0042】
〔比較例2:図2(c)参照〕
上記着色層用材料に対して、上記赤顔料を樹脂固形分比率濃度が0.5%となるように添加して調製した塗料を用いて本木目を有する基材(2)上にスプレー塗装を実施して着色層30aとした。この着色層上に、微粒子含有薄膜層10aとして、屈折率1.45のバインダー樹脂(1)に対して、最大粒子径10μm、屈折率1.45の微粒子(1)を樹脂固形分比率濃度が1%となるよう添加した塗料を乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装したのち、クリヤ塗料(2)を用いて乾燥膜厚が40μmとなるようにクリヤ薄膜層20aを形成し、図2(c)に示す薄膜構造を得た。
【0043】
上記各実施例及び比較例によって得られた塗膜の質感について、下記の要領によって目視評価した。その結果を表1に示す。
◎:非常に深み感を感じる
○:深み感を感じる
△:ほとんど深み感を感じない
×:全く深み感を感じない
なお、表1において、塗膜全体の透過率(全光線透過率)は、JIS K 7105 5.5に基づいて測定した。
【0044】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の薄膜構造の様々な実施形態を示す断面図である。
【図2】実施例及び比較例の薄膜構造の断面図である。
【符号の説明】
【0046】
B 基材
P 微粒子
R バインダー樹脂
10 微粒子含有薄膜層
10a 第1の微粒子含有薄膜層
10b 第2の微粒子含有薄膜層
10c 第3の微粒子含有薄膜層
11a、11b 微粒子を含まない薄膜層
20、20a クリヤ薄膜層
30、30a 着色層
31a 着色層の樹脂材料のみをスプレー塗装した層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の薄膜層を有し、基材上に形成された薄膜構造であって、
上記薄膜層として、少なくとも1層の微粒子含有薄膜層と、少なくとも1層のクリヤ薄膜層を備え、
上記微粒子含有薄膜層が、微粒子とバインダー樹脂を含み
上記微粒子と上記バインダー樹脂とは視覚的に同化し、且つ、屈折率の差が0.005以上である
ことを特徴とする薄膜構造。
【請求項2】
少なくとも1層の上記微粒子含有薄膜層が、着色材を含有することを特徴とする請求項1に記載の薄膜構造。
【請求項3】
少なくとも1層の上記クリヤ薄膜層が、着色材を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜構造。
【請求項4】
上記着色材を含有する上記薄膜層を2層以上備えた上記薄膜構造であって、
これらの薄膜層のうち少なくとも2層の間で、上記着色材の濃度が異なることを特徴とする請求項2又は3に記載の薄膜構造。
【請求項5】
上記薄膜層のうち少なくとも2層の間で、屈折率が異なることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の薄膜構造。
【請求項6】
上記微粒子含有薄膜層を2層以上備えた上記薄膜構造であって、
これらの微粒子含有薄膜層のうち少なくとも2層の間で、屈折率及び含有される上記バインダー樹脂の屈折率が異なることを特徴とする請求項5に記載の薄膜構造。
【請求項7】
更に、上記基材との接触面に着色層を有する上記薄膜構造であって、該着色層は上記基材の表面への刷り込みにより形成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の薄膜構造。
【請求項8】
全光線透過率が5%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の薄膜構造。
【請求項9】
自動車用部品の表面に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の薄膜構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−36138(P2010−36138A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203845(P2008−203845)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】