説明

薬剤収納容器及び薬剤揮散装置

【課題】薬剤収納容器が軟質包材を用いた倒立型の取り替え式であり、揮散体への薬剤の供給を容易且つ確実に適切量とすることができる揮散持続性に優れた薬剤揮散装置及びその薬剤収納容器を提供する。
【解決手段】軟質包材製の薬剤収納部15、及び導出孔184が設けられた薬剤供給部16を有し、該薬剤供給部を下方に向けて薬剤揮散装置の容器支持部20に支持される容器本体11と、薬剤供給部16内に収容され薬剤を揮散体30に供給する導液部材12と、導出孔を解除可能にシールする封止構造14とを備え、導液部材12は、該導液部材12を構成する繊維の主要部分が、導液部材12から導出孔184に向かう方向を横切る方向に向いていることを特徴とする薬剤収納容器、並びに、該薬剤収納容器を用いた薬剤揮散装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を下部の揮散体から揮散させる倒立型の薬剤揮散装置、及び、該薬剤揮散装置のための薬剤収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、芳香剤や消臭剤を部屋等に拡散させるための装置は、用途や使用場面に合わせて、必要時に噴射を行うエアゾールタイプと、連続的な揮散を行う据え置きタイプとが主に用いられている。
【0003】
据え置きタイプの揮散装置は、一般的に、芳香剤や消臭剤等の薬剤が薬剤収納容器に収納され、そこから揮散体に供給された薬剤が揮散される。そして、薬剤収納容器内の薬剤がなくなったときや芳香剤の香りを変えたい場合等には、新たな揮散装置を購入し直していた。しかし、コストを抑えたり廃棄物を少なくしたいといった需要者の要求から、近時では装置本体の再利用が求められている。
【0004】
例えば、薬剤収納容器には、装置本体の再利用を可能にする形態として、注ぎ足し用袋内に収納された薬剤を薬剤収納容器の口部から注入する注ぎ足し式のものと、新たな薬剤収納容器を空の容器と取り替える取り替え式のものとがある。
【0005】
注ぎ足し式の薬剤収納容器は、容器の口部から薬剤を注ぎ入れるので、容器外に薬剤がこぼれたり、注ぎ足しに手間がかかり作業が面倒という問題があった。一方、取り替え式の薬剤収納容器は、このような問題がない反面、保形性のある成形容器が一般的に用いられているので、廃棄物の嵩が増したり、製造コストもさほど低減されないという問題があった。そこで、廃棄物を少なくし、製造コストも低減し得る取り替え式の薬剤収納容器として、軟質樹脂製袋に薬剤を収納したいわゆるパウチを使用するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
薬剤揮散装置の形態はさらに、薬剤収納容器に対して揮散体を、上方に配置した正立型と、下方に配置した倒立型とに分けられる。正立型の薬剤揮散装置は、薬剤収納容器の口部または吸液芯から薬剤が漏出するという問題を生じ難い利点がある。一方、倒立型の薬剤揮散装置は、薬剤収納容器の下部に装着した吸液芯から下方の揮散体へ薬剤を供給すればよいので、吸液芯で薬剤を上方へ吸い上げるようにした正立型の装置に比し、揮散体に対する薬剤の供給が円滑であり、薬剤が減少しても吸液芯を経た供給量が減少しない点、並びに、薬剤収納容器内の薬剤を全て使い切るのが容易で確実であるという点において勝っている。特許文献1に記載のものは、据え置きタイプで倒立型の揮散装置であり、薬剤収納容器は取り替え式となっている。
【0007】
しかしながら、この種の揮散装置は、薬剤収納容器内から吸液芯を経て揮散体へ供給される薬剤の量が正立型のものより著しく多くなりがちであり、また、供給量を制御するのが困難であった。その結果、薬剤が揮散体から溢れ出たり、薬剤の減少が速く揮散の持続性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−276387公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記従来技術の難点を解消し、薬剤収納容器が軟質包材を用いた倒立型の取り替え式であり、揮散体への薬剤の供給を容易且つ確実に適切量とすることができる揮散持続性に優れた薬剤揮散装置及びその薬剤収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、薬剤を下部の揮散体から揮散させる倒立型の薬剤揮散装置のための薬剤収納容器であって、軟質包材で形成された薬剤収納部、及び該薬剤収納部の一端部に連通し薬剤の導出孔が設けられた薬剤供給部を有し、該薬剤供給部を下方に向けて薬剤揮散装置の容器支持部に支持される容器本体と、前記薬剤供給部内に収容され、前記薬剤収納部から流入した薬剤を前記導出孔を経て揮散体に供給する導液部材と、前記薬剤供給部の導出孔からの薬剤の流失をシールすると共に使用時に該シールの解除が可能な封止構造とを備え、前記導液部材を構成する繊維の主要部分が前記導液部材から前記導出孔に向かう方向を横切る方向に向いていることを特徴とする薬剤収納容器を提供するものである。
【0011】
本発明はまた、上記目的を達成するため、上記薬剤収納容器と、該薬剤収納容器を倒立状態に収容する容器支持部とを備えたことを特徴とする薬剤揮散装置を提供するものである。
【0012】
この薬剤収納容器は、倒立型取り替え式の薬剤揮散装置のための薬剤収納容器であって、薬剤揮散装置の容器支持部に支持される容器本体は、軟質包材で形成された薬剤収納部、及び、該薬剤収納部の一端部に連通し薬剤の導出孔が設けられた薬剤供給部を有している。
【0013】
そして、薬剤供給部内には、薬剤収納部から流入した薬剤を揮散体に供給する導液部材が収容されており、薬剤供給部は、封止構造により使用時に解除可能にシールされている。導出孔は、薬剤収納容器からの薬剤の流出量を決める孔であり、薬剤供給部内において導液部材の下流側に配置され、導液部材を経た薬剤を定量的に薬剤収納容器から流出させる。
【0014】
したがって、封止構造のシールを解除した薬剤収納容器を、薬剤供給部を下方に向けて薬剤揮散装置の容器支持部に取り付ければ、薬剤収納部内の薬剤は、導液部材により揮散体に供給され、揮散する。
【0015】
特に、導液部材は、導液部材を構成する繊維の主要部分が、導液部材から導出孔に向かう方向を横切る方向に向いている。したがって、薬剤収納部から薬剤供給部に流入した薬剤は、導液部材の毛管作用によって主としてその繊維方向に導かれるので、導出孔に向かう薬剤の流量は少ないものとなる。その結果、導出孔からの過剰な薬剤の吐出が防止され、揮散体への薬剤の供給を容易且つ確実に適切量とすることができ、優れた揮散持続性が得られる。
【0016】
また、この薬剤収納容器を収容して揮散を行う薬剤揮散装置も同様にして、揮散体への薬剤の供給を容易且つ確実に適切量とすることができ、優れた揮散持続性を実現する。
【発明の効果】
【0017】
上記の通り、本発明によれば、取り替え式の倒立型薬剤揮散装置において、軟質包材を用いて、揮散体への薬剤の供給を容易且つ確実に適切量とすることができ、揮散持続性に優れた薬剤揮散装置及びその薬剤収納容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る薬剤揮散装置を示す図であり、(a) は縦断正面図、(b) は縦断側面図である。
【図2】図1に示した薬剤揮散装置を示しており、(a) は正面図、(b) は側面図である。
【図3】図1に示した薬剤揮散装置を分解して示す縦断正面図である。
【図4】図1に示した薬剤揮散装置に用いられている薬剤収納容器を示しており、(a) は正面図、(b) は側面図である。
【図5】図4に示した薬剤収納容器の薬剤供給部を拡大して示しており、(a) は縦断正面図、(b) は縦断側面図である。
【図6】本発明に係る薬剤収納容器に用い得る導液部材の他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る薬剤収納容器に用い得る薬剤供給部の他の例を示す縦断面図である。
【図8】本発明に係る薬剤収納容器に用い得る薬剤供給部のさらに他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を一部省略する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る薬剤揮散装置を示しており、(a) は縦断正面図、(b) は縦断側面図である。図2は、その薬剤揮散装置について、(a) は正面図、(b) は側面図を示している。図3は、その薬剤揮散装置を分解して示す縦断正面図である。
【0021】
この薬剤揮散装置は、容器支持部20が、薬剤収納容器10を収容状態で支持し、下部に揮散体30を保持している。容器支持部20は、薬剤収納容器10の薬剤収納部15に被せられる外被部21と、該外被部21の下端部を受ける収容台22と、該収容台の内側に保持される支持枠23とを備えている。
【0022】
外被部21は、全体が直方体状をなし、4面の側壁211と、上壁212とを備え、下端は開放されている。
【0023】
支持枠23は、上壁231と該上壁における一対の対辺から下方へ延びる側壁232とを備え、上壁231における他の一対の対辺は、外被部21との間に間隙をおいて位置し、該対辺の下方は開放されている。また、上壁231の中央部には、薬剤収納容器10の薬剤供給部16を通す内筒233が上壁231を上下に貫いて設けられている。支持枠23の側壁232は、下部が収容台22の内側に嵌合し、上端部が外被部21の下端部内側に嵌合しており、これにより、外被部21を支持枠23上に保持する。収容台22の底壁内面には、揮散体30を載せるための載置リブ222が平行に2本設けられている。
【0024】
図2に示すように、収容台22の側壁及び外被部21の側壁には、揮散体30から揮散した薬剤を通すための開口221及び213が各々形成されており、この実施形態では、多数のスリットの形態で設けられている。
【0025】
揮散体30は、平面視矩形の平板状であり、載置リブ222の上に載置されている。揮散体30は、芳香剤や消臭剤等の薬剤の揮散効果に優れた繊維層で主要部が構成されていることが望ましく、繊維層は、植物繊維やパルプ等の天然繊維、レーヨン、ポリエステル、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)等の合成繊維又はそれらの混合繊維などの繊維質材料で構成することができる。特に、繊維層としては、ニードルパンチ法、エアレイド法、スパンボンド法、スパンレース法などによって製造される不織布が好適であるが、この他、織物、編物等であってもよい。また、揮散体は、発泡ウレタン等の合成樹脂製のスポンジ材料、素焼きの陶器等であってもよい。揮散体の厚さは、必要に応じて決められるが、薬剤収納容器10や容器支持部20の大きさ、取り扱い性、揮散効果等の観点から、2〜20mm程度が好ましい。
【0026】
薬剤収納容器10は、図1に示す装着状態とされるまでは、後述する封止構造14で封止した状態で、容器支持部20に収容状態で支持されて市場に流通し、或いは、薬剤揮散装置と別個に取り替え容器として流通する。この薬剤収納容器10が流通過程におかれる形態の一例は、包装箱B内に揮散体30と共に梱包された状態で、図4に示されている。
【0027】
図4に示すように、薬剤収納容器10は、薬剤揮散装置の容器支持部に支持される容器本体11と、容器本体11に収容された薬剤を容器本体11から揮散体30に導く導液部材12と、導液部材12の上端部をシールする封止構造14とを備えている。容器本体11は、軟質包材で形成された薬剤収納部15、及び該薬剤収納部の一端部に連通し導出孔が設けられた薬剤供給部16を有している。
【0028】
容器本体11の薬剤収納部15は、軟質包材のフィルムで形成されている。軟質包材としては、一般的な軟質包材用材料が単体または積層体で用いられる。例えば、ナイロンフィルム(Ny)、ポリエチレンテフタレートフィルム(PET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、アルミニウム箔(Al箔)あるいは、NyやPET、OPPに、金属アルミニウム(Al)、アルミナ、または、シリカなどの無機物を蒸着した蒸着フィルム等からなる、単層、または、多層の基材フィルムに、熱可塑性樹脂で熱溶着が可能な低密度ポリエチレンフィルム(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPE)、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)等のシーラント材を設けたものが用いられる。その他、軟質包材のフィルムの具体的な構成例としては、PET/Ny/LLDPEからなる構成のフィルムや、PET/LLDPE、Ny/LLDPE、Ny/PET/LLDPからなる構成のフィルムなどが挙げられる。
【0029】
また、容器本体11の薬剤収納部15は、軟質包材等で形成するなど、柔軟な容器形状であればよく、後述するように、収容する薬剤の減少に伴って容器本体が収縮し得る程度の柔軟性を有するものであればよい。薬剤収納部15はまた、例えば、ポリエチレンなどをダイレクトブローで成形した柔軟な容器や、ポリエチレンテレフタレートをインジェクションブローで成形した薄肉容器であってもよい。
【0030】
図5は、供給筒160及び保持部170の詳細を示している。図示のように、薬剤供給部16は、シール部111から薬剤収納部15とは反対側へ延びた供給筒160と、該供給筒の先端部に設けられた保持部170とを備えている。
【0031】
供給筒160は、シール部111の2枚のフィルム(軟質包材)間に挟持される基部162と、該基部から薬剤収納部15の外方へ延びる筒部161とを備えている。供給筒160の基部162は、側面視において筒部161と同じ幅を有し、正面視においてこれより広い幅を有し、全体として舟形に形成されている。筒部161は、先端部に設けられる保持部170とほぼ同じ径を有した円筒状をなし、組み立て後に基部162から僅かに上方へ離反する位置まで延びている(図1参照)。
【0032】
保持部170は、筒部161の先端(薬剤収納部15から遠ざかる側の端部)を覆う内端壁172、及び該端壁からさらに先端側へ短い距離で延びる内環壁173を有した基端部171と、内環壁173の先端を覆うカバー181とを備えている。カバー181は、内環壁173の外周面を覆う外環壁182と、該外環壁の先端を覆う外端壁183とを備えている。内端壁172及び外端壁183は、間に導液部材12を収容するための空間を形成しており、内端壁172の中央部には薬剤を通す通孔174が設けられ、外端壁183の中央部には導出孔184が設けられている。
【0033】
導出孔184の縁部は、導液部材12と密着状態とされ、その外径が導液部材12との密着部分よりも小さくされている。その結果、図示のように、保持部170は、導液部材12と供給筒160の筒部161とに気密性をもって接触し、これにより導液部材12と容器本体11との気密性も形成する。したがって、倒立型の薬剤揮散装置に収容されても、容器本体11内の薬剤が保持部170から溢れ出るのを防止することができる。
【0034】
導液部材12は、この実施形態では、棒状をなし、主たる繊維方向(主繊維方向)
が揃った繊維束により構成されており、該繊維束は円柱状をなし、保持部170に保持された状態では、上下に挟持されて図5(b) に示すように断面がほぼ楕円形となる。この導液部材12は、導液部材12から導出孔184に向かう方向を横切る方向に主繊維方向pが向くように保持される。すなわち、この実施形態では、導液部材12の下方にある導出孔184に向かう方向(上下方向)に対して、ほぼ水平方向に主たる繊維方向が向くように保持されている。すなわち、導液部材12から導出孔184に向かう方向に対して、直交する方向に主たる繊維方向が向いている。また、導液部材12は、主たる繊維方向が揃った繊維束に限定されるものではなく、例えば、シート状のろ過フィルタのように、繊維方向が、導出孔184に向かう方向を横切る方向に、複数またはランダムに延びているものであってもよい。
【0035】
導液部材12は、断面円形とする他、四角形、三角形、筒状等、種々の形状とすることができ、その太さは用途や揮散量に応じて適宜決められ、この実施形態では2〜8mmとされている。また、導液部材12としては、主に液体を繊維方向に導く種々の材料を使用することができ、天然繊維(羊毛、パルプ、木綿、レーヨン、アセテート等)または合成繊維(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン+ポリプロピレン混合物、ポリエチレンテレフタレート、メラミン、ポリアセタール等)を引き揃えたものやこれらの繊維の不織布を、単一の導液部材の断面形状とし、或いは、複数の導液部材を切り出し得る素材として用いることができる。
【0036】
封止構造14は、この実施形態においては、薬剤供給部16先端側を覆うキャップの形態とされている。すなわち、封止構造14は、図5に示すように、端壁141及び側壁142を備え基端側が開いたキャップ140を用いて、保持部170を覆い筒部161に螺合することにより構成されている。側壁142及び筒部161には、気密性をもって螺合し得るように雌ねじ144及び雄ねじ164が各々設けられている。また、導液部材12を気密性をもって覆うように、端壁141には、導出孔184に接する凹陥部145が設けられている。
【0037】
この封止構造14のキャップ140は、使用時までは導出孔184をシールし、使用時に筒部161から取り除かれることによりシールを解除する。これにより、導出孔184が開放され、導液部材12から揮散体30へ薬剤が滴下して供給される。また、封止構造14によって使用時にシールを解除するまでは薬剤が気密状態に維持されるので、製造後の流通過程や使用までの保存時において、芳香剤の香りの変化や消臭剤の劣化等が防止される。
【0038】
この薬剤揮散装置は、次のようにして組み立てられ、使用される。先ず、図3に示すように、容器支持部20の外被部21、収容台22及び支持枠23を分離する。薬剤収納容器10は、図4に示す梱包から取り出し、筒部161からキャップ140を取り外す。そして、この薬剤収納容器10を外被部21内に納め、収容台22に支持枠23を嵌合する。収容台22の載置リブ222上に揮散体30を載せ、収容台22に支持枠23を嵌合し、その上から外被部21を支持枠23に嵌合する。これにより、図1に示す状態となる。その結果、薬剤収納部15内の薬剤が薬剤供給部16を経て導液部材12に供給される。導液部材12は、主繊維方向pが導液部材12から導出孔184に向かう方向を横切る方向(横断方向)に向いているので、薬剤はその横断方向に移動し易く、導出孔184に向かう薬剤の移動量は少ないものとなる。したがって、過剰な薬剤が導出孔から吐出されるのが防止され、揮散体への薬剤の供給を確実に適切量とすることができ、通常は適切な時間間隔での滴下により薬剤が揮散体30に供給される。そして、薬剤は揮散体30から外被部21及び収容台22の開口213及び223を経て装置外へと揮散する。その結果、優れた揮散持続性が得られる。また、導出孔184の大きさの設定により、薬剤の吐出量を調整することができる。
【0039】
この揮散に伴って薬剤収納容器10内の薬剤が減少する。導液部材12と供給筒160の筒部161との間は、気密性の接触状態となっているので、薬剤の減少に伴って容器本体11内の圧力が低下すると、軟質包材で形成された薬剤収納部15は、内容積を減少するように収縮する。一般的に用いられる保形性のある成型容器であれば、導液部材12と成型容器とが気密性の接触状態となっている場合、使用とともに容器内が陰圧となり導液部材を経た薬剤の供給量が減少するため、このような使用形態は困難であるが、本実施形態のように軟質包材からなる薬剤収納部15では、上述のように薬剤収納部15が収縮するので、使用とともに薬剤の供給量が減少することはない。
【0040】
このように、薬剤は、使用期間を通じて気密性を保ったまま定量的に消費される結果、空気との過度の接触が回避乃至抑制される。したがって、芳香剤の香りの変化や消臭剤の劣化等が防止され、薬効が長期間に亘って持続する。また、薬剤の減少に伴って薬剤収納部15が収縮するので、薬剤収納部15の収縮具合によって薬剤の残量を判断することができる。よって、薬剤収納部15が不透明な材料で構成されるなど薬剤の残量を透視できないものであっても、薬剤収納部15の収縮度合いから使用者が取り替え時期を容易に判断することができる。
そして、薬剤収納容器10内の薬剤がなくなったときや芳香剤の香りを変えるために新しい薬剤収納容器10に取り替える際は、上述のように組み立てた薬剤揮散装置を分離して薬剤収納容器10を取り外し、同様にして新しい薬剤収納容器10に取り替える。このような取り替えを可能にすることで、注ぎ足し式のような薬剤のこぼれを防ぐことができるとともに、少ない手間で容易に薬剤収納容器を取り替えることができる。さらに、薬剤収納容器10は、薬剤収納部15が軟質包材で形成されたパウチの形態となっているので、嵩ばらずに廃棄物を少なくすることができ、かつ、保形性のある成型容器に比べ製造コストも低減することができる。
【0041】
図6は、導液部材の他の形態を例示している。この導液部材12aは、主繊維方向pが一方向に向くようにして平板状に形成された素材から円板状に切り出されたものである。この導液部材12aは、例えば図4に示した薬剤供給部16の保持部170における通孔174及び導出孔184に、平らな端面が向くようにして保持される。これにより、導液部材12aは、導液部材12aから導出孔184に向かう方向を横切る方向に主繊維方向pが向くように保持され、前述と同様の作用効果が得られる。
【0042】
図7は、薬剤供給部16における保持部の他の例を示している。この保持部170aは、筒部161の先端(薬剤収納部15から遠ざかる側の端部)を覆う内端壁172aと、供給筒160aからその先端側へ延びる内環壁173aと、該内環壁の先端を覆うカバー181aとを備えている。内環壁173aは円筒状をなし、内端壁172aから延びている。カバー181aは、内環壁173a外周面の先端側を覆う外環壁182aと、該外環壁の先端を覆う外端壁183aとを備え、内環壁173aに嵌合されている。内端壁172aは中央部に通孔174aを有し、内環壁173aには導出孔175aが設けられている。導出孔175aの縁部は、導液部材12aと密着して設けられ、その外径が導液部材12aの接触部分よりも小さく形成されている。その結果、導液部材12aと容器本体11との気密性が形成され、上述と同様の気密性に基づく作用効果が得られる。なお、筒部161及び他の部材は、図1乃至図5のものと同じである。
【0043】
図7の例では、導液部材12は、カバー181aを内環壁173aから取り外して内環壁173a内に納められる。導液部材12aは、棒状をなし、主たる主繊維方向が揃った繊維束により構成されており、該繊維束は円柱状をなしている。この導液部材12aは、保持部170aに保持された状態では、導液部材12aから導出孔175aに向かう方向を横切る方向に主繊維方向pが向くように保持される。すなわち、この例では、導液部材12aの側方にある導出孔175aに向かう方向(水平方向)に対して、上下方向に主たる繊維方向が向くように保持されている。これにより、図1乃至図5に示した実施形態と同様の作用が得られ、過剰な薬剤が導出孔175aから吐出されるのが防止され、揮散体への薬剤の供給を確実に適切量とすることができる。また、導出孔175aの大きさの設定により、薬剤の吐出量を調整することができる。
【0044】
図8は、薬剤供給部の他の例を示している。この薬剤供給部16bは、筒部161bの先端部163(薬剤収納部15から遠ざかる側の端部)が凸曲面となっており、その中央部に通孔174bが形成されている。導液部材12bは、円板状をなし、主繊維方向pが円板面に沿う一方向に向いており、先端壁163の下面を覆うように装着される。保持部170bは、筒部161bの先端面を覆ってその側壁に密に嵌合されており、中央部に導出孔175bが形成されている。導出孔175bは、導液部材12bの中央部を先端側へ露出させるように、通孔174bより大きい径で形成されている。これにより、導液部材12bは、先端壁163の凸曲面に沿った形状となり、中央部が導出孔175bから露出し、その先端面は、薬剤供給部16bの軸線方向に保持部170b先端面より先端側または同じ位置となっている。なお、導出孔175bの縁部は、導液部材12bと密着して設けられ、その外径が導液部材12bの接触部分よりも小さく形成されている。その結果、液部材12bと容器本体11との気密性が形成され、上述と同様の気密性に基づく作用効果が得られる。
【0045】
この薬剤供給部16bを備えた薬剤収納容器は、図示のように、薬剤供給部16bの下端が揮散体30に接触するようにして用いられる。この状態で、薬剤は、通孔174bから導液部材12bに供給され、導液部材12bから揮散体30に浸透する。この例において導液部材12bは、揮散体30と接触している部分の主繊維方向が導液部材12bから導出孔175bに向かう方向を横切る方向(横断方向)に向いている。したがって、薬剤はその横断方向に移動し易い反面、揮散体30と接触している部分の導液部材12bから揮散体30に移動する薬剤の量は少ないものとなる。したがって、過剰な薬剤が吐出されるのが防止され、揮散体40への薬剤の供給を確実に適切量とすることができる。また、導出孔175bの大きさを調整して、揮散体30と接触している部分の導液部材の面積を適切なものとすることにより、薬剤の吐出量を調整することができる。
【0046】
次に、図1に示した実施形態により得られる効果と比較例による効果の確認試験について説明する。この試験では、実施例にポリエチレンテレフタレート製の導液部材を用いた。比較例には、図1に示した薬剤揮散装置を用い、導出孔の径を種々に設定し、導液部材としては、実施例と同じ材料で、主繊維方向が導出孔に向かう方向に平行に向いているものを用いた。
【0047】
上記実験により得られた結果を表1に示す。
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、薬剤収納容器に導液部材を用いないもの(No.1〜3:比較例)は、導出孔をかなり小さくしても薬剤が連続的に吐出されて大量に流出し、持続期間は極めて短かった。また、導液部材を用いた場合であっても、主繊維方向が導出孔に向かう方向に対して平行な場合(No.4〜6:比較例)は、高粘度芳香剤を用いた最長のもので持続期間が11日間と短かった。なお、高粘度芳香剤は、温度による粘性変化が大きいので、一般に定量揮散の用途への適合性が低い。これらに対し、本発明の実施例(No.7)では、水系芳香剤を用いて、1時間当たり0.15gという適切量の吐出、並びに、約55日という長期の持続期間が可能となった。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10:薬剤収納容器
11:容器本体
12、12a:導液部材
14:封止構造
15:薬剤収納部
16、16b:薬剤供給部
20:容器支持部
30:揮散体
160、160a:供給筒
170、170a:保持部
174、174a、174b:通孔
175a、175b、184:導出孔
181、181a:カバー
p:主繊維方向(主たる繊維方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を下部の揮散体から揮散させる倒立型の薬剤揮散装置のための薬剤収納容器であって、
軟質包材で形成された薬剤収納部、及び該薬剤収納部の一端部に連通し薬剤の導出孔が設けられた薬剤供給部を有し、該薬剤供給部を下方に向けて薬剤揮散装置の容器支持部に支持される容器本体と、
前記薬剤供給部内に収容され、前記薬剤収納部から流入した薬剤を揮散体に供給する導液部材と、
前記薬剤供給部からの薬剤の流出をシールすると共に使用時に該シールの解除が可能な封止構造とを備え、
前記導液部材を構成する繊維の主要部分が、前記導液部材から前記導出孔に向かう方向を横切る方向に向いていることを特徴とする薬剤収納容器。
【請求項2】
前記導液部材を構成する繊維の主要部分は、繊維方向が揃った繊維束により構成されており、該繊維束の主たる繊維方向は、前記導液部材から前記導出孔に向かう方向を横切る方向に向いていることを特徴とする請求項1に記載の薬剤収納容器。
【請求項3】
前記導液部材を構成する繊維の主要部分は、繊維方向が前記導液部材から前記導出孔に向かう方向を横切る方向に、複数またはランダムに延びていることを特徴とする請求項1に記載の薬剤収納容器。
【請求項4】
前記薬剤供給部は、薬剤収納容器が容器支持部に支持されたときに、揮散体から離反して位置することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薬剤収納容器。
【請求項5】
前記薬剤供給部は、薬剤収納容器が容器支持部に支持されたときに、揮散体に接触することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の薬剤収納容器。
【請求項6】
前記薬剤供給部は、前記導液部材に対して揮散体が位置する側に前記導出孔を備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の薬剤収納容器。
【請求項7】
前記導液部材と前記容器本体との間が気密性の構造とされていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の薬剤収納容器。
【請求項8】
前記導液部材と前記導出孔の縁部が気密性を持って密着することを特徴とする請求項7に記載の薬剤収納容器。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の薬剤収納容器と、該薬剤収納容器を倒立状態に収容する容器支持部とを備えたことを特徴とする薬剤揮散装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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