説明

薬剤容器

【課題】薬剤を温湯で崩壊・懸濁させて患者に投与する簡易懸濁法に適した薬剤容器を提供する。
【解決手段】上端と下端とが開口し、上端の開口2aは薬剤を挿通自在な径を有する筒状体2と、筒状体2の上端に着脱自在に設けられ、注出口32を有するキャップ3と、筒状体2の下端部を液密に閉塞し、且つ筒状体2の内周面を摺動自在な閉塞部材4と、閉塞部材4の下端から下方に向かって延設された棒状体5とを備え、筒状体2の周壁面には、下方から上方に向かって0から所定容量までの目盛21が付されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤やカプセル等の薬剤を飲み込むことができない患者の為に、薬剤を温湯で崩壊・懸濁させて患者に投与する簡易懸濁法に用いられる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、錠剤やカプセル等の薬剤を飲み込むことができない患者に対して、薬剤を粉砕して水に攪拌し、患者に投与する方法(粉砕法)が知られている。しかしながら、この粉砕法においては、薬剤を粉砕するのに手間がかかり、又、粉砕に伴い薬剤の有効成分を欠損させる虞がある等、様々な問題点があった。
【0003】
そこで、最近では、薬剤を粉砕せずにそのまま55℃〜60℃の温湯に入れて崩壊・懸濁させて患者に投与する方法(簡易懸濁法)が多くの病院で採用されつつある(例えば、非特許文献1参照)。この簡易懸濁法によれば、薬剤を粉砕する手間が省けると共に、粉砕に伴う薬剤の有効成分の欠損を防止することができ、又、医療従事者が粉砕時に粉末を吸引することを防止することができる等の多くのメリットがある。
【0004】
従来の簡易懸濁法には、水剤瓶やコップ等に薬剤を入れて懸濁させる方法と、注射器内に薬剤を入れて懸濁させる方法との2つの方法がある。
【0005】
水剤瓶等で懸濁させる方法では、まず、水剤瓶やコップ等に薬剤を入れて20mlの温湯を注いで10分間放置し崩壊・懸濁させる。そして、注射器により水剤瓶等から懸濁液を吸引し、注射器を経腸栄養ライン等に接続して患者に投与する。
【0006】
しかしながら、この方法では、水剤瓶等の内面に懸濁液が付着して残ってしまい懸濁液を全て注射器で吸引することができず、患者に適切な量の薬剤を投与できない虞がある。
【0007】
一方、注射器で懸濁させる方法では、まず、注射器の押子を外して、注射筒内に薬剤を入れる。そして、押子を注射筒内に挿入し、注射器の先端から20mlの温湯を吸引して崩壊・懸濁させ、患者に投与する。
【0008】
しかしながら、この方法では、注射器の押子は一般的に簡単に外れない様に構成されているため、注射筒内に薬剤を入れる作業が煩雑であるという問題がある。又、注射器で20mlの温湯を吸引する際には、注射器内に薬剤が入っているため押子を注射筒の先端まで押し進めることができず、押子を注射筒の外周面先端側に付された目盛「0」の位置にあわせることができない。このため、注射器で吸引する温湯を正確に計量することが困難であるという問題がある。
【0009】
このように、簡易懸濁法は粉砕法と比較して多くのメリットを有するものの、未だに克服すべき問題点が多く残されており、利用するに際し注意が必要であった。
【非特許文献1】森川 秋月、外13名、“経管栄養管理ガイドライン”、[online]、10頁、[IV.経管栄養における薬剤投与]、旭川赤十字病院 胃管留置・経管栄養管理マニュアル作成小委員会、[平成19年2月13日検索]、インターネット<URL :http://city.hokkai.or.jp/~makky97/risk/tubefeedinggaidline.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、簡易懸濁法に適した薬剤容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、薬剤を温湯で崩壊・懸濁させて患者に投与する簡易懸濁法に用いられる薬剤容器であって、上端と下端とが開口し、上端の開口は前記薬剤を挿通自在な径を有する筒状体と、該筒状体の上端に着脱自在に設けられ、注出口を有するキャップと、該筒状体の下端部を液密に閉塞し、且つ該筒状体の内周面を摺動自在な閉塞部材と、該閉塞部材の下端から下方に向かって延設された棒状体とを備え、前記筒状体の周壁面には、下方から上方に向かって0から所定容量までの目盛が付されていることを特徴とする。
【0012】
かかる構成によれば、前記筒状体から前記キャップを取り外して錠剤等の薬剤を上端の開口から該筒状体内に入れることができる。そして、該筒状体内に上端の開口から例えば55℃の温湯を目盛で確認しながら所定量(例えば、20ml)入れ、例えば10分間放置し、薬剤を崩壊・懸濁させることができる。そして、前記注出口を有するキャップを前記筒状体に取り付け、前記棒状体で前記閉塞部材を上方に押圧することにより、該注出口から懸濁液を注出させることができる。
【0013】
本発明の簡易懸濁法用容器を用いることにより、従来の様に水剤瓶から懸濁液を注射器で吸引する必要がなく、全ての懸濁液を残らず患者に投与することができる。又、本発明の簡易懸濁法用容器によれば、前記キャップを取り外して前記筒状体内に上方から薬剤を入れることができるため、従来の様に取り外しが困難な注射器の押子を取り外して薬剤を注射筒に入れる必要がなく、作業が容易となる。
【0014】
又、本発明によれば、前記閉塞部材の上端を目盛0の位置に合せておき、前記筒状体内に上端の開口から温湯を注ぐことができる。このため、従来の様に注射器に入れられた薬剤により押子を先端まで押し込むことができず、押子の先端を目盛0の位置に合せることができずに温湯の計量を正確に行うことができないということはなく、温湯の計量を正確に行うことができる。これにより懸濁液を適切な濃度にすることができる。
【0015】
又、前記閉塞部材の下端に前記棒状体を着脱自在に連結し、前記筒状体の下端に径方向外方に張り出す張出部を形成し、前記閉塞部材から前記棒状体を取り外した状態で、前記張出部により前記筒状体が起立可能であることが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、前記閉塞部材から前記棒状体を取り外した状態で、前記張出部により机等の上に安定して起立させることができる。これにより、医療従事者は両手を使うことができ、作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図1から図3を参照して説明する。図1は本発明の簡易懸濁法用容器の実施形態を示す説明図、図2は本実施形態の簡易懸濁法用容器を一部断面で示した説明図、図3は本実施形態のキャップと棒状部材とを筒状体から取り外した状態を示す説明図である。
【0018】
図1に示す様に、本発明の実施形態の薬剤容器1は、上端と下端とが開口し内部を視認可能な光透過性を有する材料で形成された筒状体2と、筒状体2の上端に着脱自在に設けられたキャップ3と、筒状体2の下端部を液密に閉塞し且つ筒状体2の内周面を摺動自在な閉塞部材4とを備える。
【0019】
図2に示すように、閉塞部材4の下端面にはネジ穴4aが穿設されている。又、閉塞部材4の下端には、そのネジ穴4aに着脱自在に螺合する雄ネジ部5aを有する棒状体5が下方に向かって延設されている。
【0020】
筒状体2の外周面には、下方から上方に向かって0から所定容量(図では25ml)までの目盛21が付されている。又、筒状体2の下端には径方向外方に張り出すフランジ状の張出部22が設けられている。筒状体2の上端部外周面には、径方向外方に突出する環状凸部23が形成されている。
【0021】
筒状体2の上端の開口2aは、錠剤やカプセル等の薬剤を入れ易い様に大きく開口されている。又、筒状体2の内周面下端には、径方向内方に突出する環状突部2bが形成されている。これにより、閉塞部材4が意図せずに筒状体2から脱落することを防止できる。
【0022】
キャップ3は、筒状体2の上端部の環状凸部23に嵌合する環状凹部31aを備えるキャップ本体31と、キャップ本体31から上方に向かって延設された注出口32と、注出口32に着脱自在に設けられ注出口32を閉塞自在な小キャップ33とで構成される。環状凸部23と環状凹部3aとを嵌合させることにより、キャップ3が筒状体2の上端に着脱自在に取り付けられる。又、キャップ本体31と小キャップ33とはひも状の連結桿34により一体とされている。これにより、小キャップ33の紛失防止を図ることができる。
【0023】
次いで、本実施形態の薬剤容器1の使用方法について説明する。
【0024】
まず、キャップ3を筒状体2から取り外す。そして、閉塞部材4の上端を目盛21の0の位置に合せ、棒状体5を閉塞部材4から取り外す。そして、図3に示すように、筒状体2を机6の上に起立させた状態で置く。筒状体2は張出部22により安定して机6の上で起立することができる。これにより、医療従事者は筒状体2を把持したまま作業を行う必要がなく、両手を自由に使うことができる。
【0025】
そして、筒状体2内に錠剤やカプセル等の薬剤を入れる。そして、55℃〜60℃の温湯を20ml注ぐ。そして、キャップ3を筒状体2に取り付け、注出口32を小キャップ33でフタをする。この状態で10分間放置し、薬剤を崩壊・懸濁させる。この間、医療従事者は他の作業を行うことができる。10分経過した後、閉塞部材4に棒状体5を取り付け、注出口32から小キャップ33を取り外す。そして、注出口32を経腸栄養ライン等のチューブ(図示省略)に接続し、患者に投与する。
【0026】
本実施形態の薬剤容器1によれば、従来の様に水剤瓶から懸濁液を注射器で吸引する必要がなく、全ての懸濁液を残らず患者に投与することができる。又、キャップ3を取り外して筒状体2内に上方から薬剤を入れることができるため、従来の様に取り外しが困難な注射器の押子を取り外して薬剤を注射筒に入れる必要がなく、作業が容易となる。
【0027】
又、閉塞部材4の上端を目盛0の位置に合せておき、筒状体2内に上方から温湯を注ぐことができる。このため、従来の様に注射器に入れられた薬剤により押子を先端まで押し込むことができず、押子の先端を目盛0の位置に合せることができずに温湯の計量を正確に行うことができないということはなく、温湯の計量を正確に行うことができる。これにより懸濁液を適切な濃度にすることができる。
【0028】
尚、本実施形態においては、環状凸部23と環状凹部31aとを嵌合させることにより、キャップ3を筒状体2に着脱自在に取り付けたものを説明したが、キャップ3の筒状体2への取付構造はこれに限られず、例えば、ネジにより螺合させる様にしてもよい。
【0029】
又、本実施形態においては、筒状体2として内部を視認可能な光透過性を有する材料で形成したものを用いて説明したが、これに限られず、光を透過しない材料で筒状体を形成してもよい。この場合、目盛は筒状体の内周面に設け、筒状体の上端の開口から温湯の量を確認する様にすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の簡易懸濁法用容器の実施形態を示す説明図。
【図2】実施形態の簡易懸濁法用容器を一部断面で示した説明図。
【図3】実施形態のキャップと棒状部材とを筒状体から取り外した状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0031】
1…薬剤容器、 2…筒状体、 2a…上端の開口、 2b…環状突部、 21…目盛、 22…張出部、 23…環状凸部、 3…キャップ、 31…キャップ本体、 31a…環状凹部、 32…注出口、 33…小キャップ、 34…連結桿、 4…閉塞部材、 4a…ネジ穴、 5…棒状体、 5a…雄ネジ部、 6…机。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を温湯で崩壊・懸濁させて患者に投与する簡易懸濁法に用いられる薬剤容器であって、
上端と下端とが開口し、上端の開口は前記薬剤を挿通自在な径を有する筒状体と、
該筒状体の上端に着脱自在に設けられ、注出口を有するキャップと、
該筒状体の下端部を液密に閉塞し、且つ該筒状体の内周面を摺動自在な閉塞部材と、
該閉塞部材の下端から下方に向かって延設された棒状体とを備え、
前記筒状体の周壁面には、下方から上方に向かって0から所定容量までの目盛が付されていることを特徴とする容器。
【請求項2】
前記閉塞部材の下端に前記棒状体が着脱自在に連結され、
前記筒状体の下端には径方向外方に張り出す張出部が形成され、
前記閉塞部材から前記棒状体を取り外した状態で、前記張出部により前記筒状体が起立可能であることを特徴とする請求項1記載の容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−206531(P2008−206531A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43201(P2007−43201)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(390029676)株式会社トップ (106)
【Fターム(参考)】