説明

薬剤投与装置

【課題】薬剤投与装置、特に、患者の皮膚を通して薬剤を注入するための注入装置を提供する。
【解決手段】薬剤投与装置は、交換式薬剤容器(5)を受け取り、かつ薬剤容器(5)に収容された薬剤の量が処方量Dの倍数でない場合に受け取られる各薬剤容器(5)に対する調節投薬量ADを判断するように設計される。調節投薬量は、薬剤容器(5)を受け取った薬剤投与装置の各使用において処方量に代わって投与される投与量である。調節投与量は、処方量よりも高用量である第1の投与量、及び処方量よりも低用量である第2の投与量の一方を値nAD.(AD−D)を累積する変数Bの関数として選択することによって判断され、ここで、nADは、INT(Cont/AD)に等しく、Contは、受け取られた薬剤容器における薬剤の量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤投与装置、特に、患者の皮膚を通して薬剤を注入するための注入装置に関する。
より具体的には、本発明は、カートリッジのような交換式薬剤容器を受けるための手段、制御ユニット、及び制御ユニットによって制御され、薬剤容器に収容された薬剤の少なくとも1回の投与量を患者に投与するための手段を含む装置に関する。このような装置は、例えば、米国特許出願第2002/0133113号に開示されている。
【背景技術】
【0002】
このような公知の装置に関する問題は、投与量が、一般的に患者毎に変化し、かつ薬剤容器が、標準的構成要素であるから、薬剤容器の内容量が患者への処方量の倍数にめったにならないことに存在する。すなわち、薬剤容器に収容された全投与量の全てが投与された後、この容器に一般的にいくらか薬剤が残る。この薬剤の残りは使用することができず、従って、薬剤容器と共に患者によって捨てられる。これは、薬剤が浪費されることを意味する。使用された多数の薬剤容器にわたって、このような浪費は、かなりのものになる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願第2002/0133113号
【発明の概要】
【0004】
本発明は、この薬剤浪費を低減することを目指し、このために、特許請求の範囲の請求項1に定めるような薬剤投与装置、特許請求の範囲の請求項8に定めるような投薬量を判断する方法、及び特許請求の範囲の請求項15に定めるようなコンピュータプログラムを提供する。
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面を参照した好ましい実施形態の以下の詳細説明を読むことから明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】本発明による電子薬剤注入装置の断面図である。
【図2】図1の装置を制御するための制御ユニットの作動を示すブロック図である。
【図3】図2の制御ユニットによって実行されるアルゴリズムを示す図である。
【図4】図1の装置に受け取られたカートリッジの数に対する図3のアルゴリズムによって計算される差Bの例示的な曲線を示す図である。
【図5】図1の装置に受け取られたカートリッジの数に対する図3のアルゴリズムによって計算される調節投与量ADの平均の例示的な曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1及び図2を参照すると、患者の皮膚を通して液体薬剤を注入するための本発明による手持ち式電子注入装置は、カートリッジホルダ2、電気機械作動ユニット3、及び電子制御ユニット4を収容する手持ち式ハウジング1を含む。カートリッジホルダ2は、液体薬剤を収容する交換式カートリッジ5を受けるように設計される。作動ユニット3は、電気モータ6、及びモータ6によって作動されるピストンロッド7を含む。ピストンロッド7は、湾曲したハウジング8を通過する軸線方向に非圧縮性であるが横方向に弾性変形可能なチューブの形態であり、押し板9によって終端する。カートリッジ5がカートリッジホルダ2内に挿入され、カートリッジ5の対応する端部を穿孔するように針10がカートリッジホルダ2の下端に取り付けられた後、押し板9がカートリッジ5のピストン11に接触するように、ピストンロッド7は、モータ6によって軸線方向に移動される。次に、患者の皮膚がハウジング1の底面12に接触するなどの所定の条件が満たされた場合に、ピストンロッド7は、ピストン11を押し、注入開始ボタン13が押される度に針10を通って1回分の投薬量を投与することになる。カートリッジ5が空になるか又は空であると考えられる状態で、ピストンロッド7は、カートリッジ5の交換が可能なように引っ込められる。
【0007】
図2を参照すると、典型的に内部メモリを有するマイクロプロセッサである制御ユニット4は、注入装置の様々なセンサ及びボタンから信号を受信し、制御ユニット4に記憶されたプログラムによって作動ユニット3を制御する。センサは、特に、装置内のカートリッジ5の存在を検出し、バーコードのような情報を読取るためのカートリッジ5の外壁上に設けられたセンサ14、及び底面12と患者の皮膚との接近又は接触を検出するためのセンサ15を含むことができる。ボタンは、注入開始ボタン13及び設定ボタン16を含む。制御ユニット4はまた、注入装置上に設けられた表示スクリーン17上で患者又は医師のための情報の表示を制御することができる。
【0008】
この薬剤注入装置の構成自体は、本発明の一部ではなく、従って、これ以上の詳細は説明しない。
本発明により、制御ユニット4に記憶されるプログラムは、薬剤浪費を低減するように患者に投与される投薬量を調節するためのサブプログラムを含む。このサブプログラムによって実行されるアルゴリズムを図3に示す。
このアルゴリズムは、段階S0から始まり、ここで、変数Bがリセットされ(この変数の機能は後述される)、例えばmgで表される処方量D、及び0と1の間にあって投与量の精度を表す所定の定数kが、制御ユニット4に記憶される。処方量D及び投与量精度kは、典型的に医師によって設定ボタン16を通じて制御ユニット4にもたらされる。
【0009】
次の段階S1において、カートリッジ5が注入装置に挿入されているか否かが検査される。装置内にカートリッジがなければ、カートリッジが挿入されるまでアルゴリズムは待機し、次に段階S2に進む。
段階S2において、装置内に受け取られたカートリッジ5の内容量、すなわち、このカートリッジに収容された薬剤の初期量が、処方量の倍数であるか、すなわち、整数Nによって乗算された処方量に等しいか否かが判断される。カートリッジの内容量は、例えば、制御ユニット4に予め記憶されるか、患者又は医師によって設定ボタン16を通じて制御ユニット4にもたらされるか、又はカートリッジ5のセンサ14によって読取られる。代替的に、カートリッジ内容量は、以下の方法で注入装置自体によって判断することができ、すなわち、ピストンロッド7が公知の後退位置からカートリッジピストン11に接触し、モータ6のアンペア数を増加させる原因であるこのような接触がアンペア数モニタリング回路18によって検出され、カウンタ回路19がモータ6の回転数を計数し、ピストンロッド7が延びるその後退位置からカートリッジピストン11とのその接触までの距離、従って、カートリッジ5内のカートリッジピストン11の初期位置を判断し、この初期位置及びカートリッジ5の既知の寸法からカートリッジ内容量が次に判断される。
【0010】
段階S2の答えが「イエス」の場合には、薬剤注入を実行することができる(段階S3)。患者は、医師によって処方された注入タイミングにより、処方量の注入をN回行い、その後、制御ユニット4は、表示スクリーン17を通じて、患者にカートリッジ5が空であり交換すべきであることを知らせる。アルゴリズムは、次に、段階S1に戻る。段階S2の答えが「ノー」の場合には、アルゴリズムは段階S4に進む。
【0011】
段階S4において、以下の変数が計算される。
MaxDose=Conc.MaxInjVol
n=INT(Cont/D)
LD=Cont/(n+1)
HD=Cont/n
LD=max(LD,(D−k.D))
HD=min(HD,MaxDose,(D+k.D))
nL=INT(Cont/LD
nH=INT(Cont/HD
DiffL=nL.(LD−D)
DiffH=nH.(HD−D)
ここで、Concは、mg/mlで表されるカートリッジ内の薬剤の濃度、MaxInjVolは、mlで表される注入装置が1回の注射で注入することができる最大容積に対応する所定の定数、Contは、mgで表されるカートリッジの上述の内容量、INTは、整数部分、maxは、最大値であり、minは、最小値である。値Concは、例えば、制御ユニット4に予め記憶されるか、患者又は医師によって設定ボタン16を通じて制御ユニット4にもたらされるか、又はカートリッジ5のセンサ14によって読取られる。
【0012】
変数LD及びHDは、それぞれ、処方量よりも低用量及び高用量を表している。処方量とは異なり、これらの低用量及び高用量は、カートリッジ内容量Contを割れ切れる数である。LDは、LDが底値(D−k.D)よりも大きい場合にLDに等しく、他の場合は(D−k.D)に等しい低用量である。HDは、HDが2つの天井値(D+k.D)及びMaxDoseよりも小さい場合にHDに等しく、他の場合は、(D+k.D)又はMaxDoseに等しい高用量である。投与量精度kは、患者が患う病気及び患者自身に応じて医師によって選択される。天井値MaxDoseは、装置の技術的制限である。
【0013】
次の段階S5において、(B+DiffL)の絶対値が(B+DiffH)の絶対値よりも小さいか否かが判断される。答えが「イエス」場合には、注入装置に挿入されるカートリッジ5に対応する調節投与量ADは、低用量LDに等しく、変数Bには、新たな値(B+DiffL)が与えられる(段階S6)。答えが「ノー」場合には、調節投与量ADは、高用量HDに等しく、変数Bには、新たな値(B+DiffH)が与えられる(段階S7)。この調節投与量ADは、装置に挿入されるカートリッジ5を用いる各注入の毎に処方量Dに代わって患者に注入される投与量である。
【0014】
薬剤注入を次に実行することができる(段階S8)。患者は、医師によって処方される注入タイミングにより、調節投与量をnL回(LDが調節投与量として選択される場合)又はnH回(HDが調節投与量として選択される場合)注入する。これらのnL又はnH回の注入後に、患者は、カートリッジを交換すべきであることを表示スクリーン17によって知らされ、アルゴリズムは、段階S1に戻る。
【0015】
段階S1からS8までは、注入装置に挿入されるカートリッジ毎に実施される。処方量が変更されないままである限り、2回の注入の間に注入装置のスイッチが切られても、変数Bはリセットされない。装置に記憶された処方量が変更されるといつでも、アルゴリズムは、変数Bがリセットされる段階S0に進む。
変数Bは、異なるカートリッジが連続して装置に用いられるので、値nAD.(AD−D)を累積する差を表し、ここで、nADは、INT(Cont/AD)に等しい。すなわち、変数Bは、ある瞬間の患者に投与された薬剤量と、処方されたものに対して投与量が変更されなかったら投与されたであろう薬剤量との間の差異を表している。このような差異は、正数又は負数とすることができる。
【0016】
用いられるカートリッジ毎に調節投与量がLD又はHDに等しければ、薬剤浪費は解消されるということは、上記から容易に導出することができる。一方、調節投与量が、用いられるカートリッジの少なくとも1つの天井値(D+k.D)又はMaxDose又は底値(D−k.D)に等しく、kが0と異なり、MaxDoseがHDと異なる場合、薬剤浪費は解消されないが、少なくとも統計的には低減され、すなわち、後述のように用いられる多数のカートリッジにわたって低減される。
【0017】
変数Bを伴う段階S5で用いられる判断規則は、用いられるカートリッジの数の関数として調節投与量の平均が、処方量に収束すること、すなわち、ある一定の数のカートリッジが使用された後、患者に投与される調節投与量の平均が、処方量に実質的に等しいことを保証することに更が分かるであろう。発育不全の治療のような多くの医療治療法において、実際に各注入で投与される投与量は、通常1週間又は数週間の一定期間にわたる投与量の平均が処方量に実質的に等しいという条件で、医師によって処方されるものに正確に一致する必要はない。本発明は、薬剤浪費を低減するためにこの医療的許容誤差を用いる。
【0018】
段階S5で用いられる判断規則は、平均調節投与量の処方量への収束率が最適であると本発明者は考えるが、変数Bを伴う他の判断規則を選択することができることに注意すべきである。本発明の変形において、変数Bの値が正数であれば、調節投与量として低用量LDが選択され、変数Bの値が負数又はゼロであれば、調節投与量として高用量HDが選択される。
上記アルゴリズムの別の特性は、変数Bの絶対値が処方量の50%よりも決して大きくならないことである。従って、患者が受ける薬剤の量と、患者の処方箋によって受けたはずの薬剤の量との間の変動は、いつでも制限されたままである。
【0019】
上述のように、本発明によるアルゴリズムにより、薬剤浪費は、少なくとも統計的に低減される。本発明者によって実行された処方量を0.01からMaxDoseへ、及び投与量精度を0から0.5へ変更することによる模擬実験は、特に24カートリッジ使用時点で、以下の点を明らかにした。
−投与量が上述の天井値及び底値の1つに各々が等しい調節投与量である時に得られる薬剤浪費W(AD)は、90%を超える症例で、投与量が常に処方量に等しい時に得られる薬剤浪費W(D)よりも低い。
−薬剤浪費W(AD)は、常にW(D)+1%よりも低い。
−平均調節投与量と処方量の間の差異の絶対値は、処方量の2%よりも大きくない。
また、薬剤浪費が以下のように定められることが特定された。
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、riは、所定のカートリッジiに収容された完全投与量の全てが注入された後のそのカートリッジの残留薬剤、Contiは、カートリッジiの内容量である。上述の模擬実験の他の結果では、100カートリッジ使用時点で、薬剤浪費W(AD)は、常にW(D)+0.2%よりも低く、200カートリッジ使用時点で、薬剤浪費W(AD)は、常にW(D)+0.1%よりも低い。
【0022】
医師が注入投与量と処方量の間に大きな変動を許容し、1回の注入で装置によって注入することができる薬剤の内容量に関して技術的制限が存在しない症例に適応することができる本発明の変形においては、天井変数MaxDose及び投与量精度kは、アルゴリズムから抑制される。この変形においては、薬剤浪費は、常にゼロである。
本発明の例示より、図3に示すアルゴリズムを実施する数値的な例は、以下によって与えられる。
各カートリッジの内容量(Cont)=7.9mg
処方量(D)=4mg
投与量精度(k)=0.1(10%)
各カートリッジの完全投与量(D)の数(n)=INT(Cont/D)=1
MaxDose=5.8mg/ml×0.8ml=4.6mg
LD=Cont/(n+1)=3.95mg
D−k.D=4−0.4=3.6mg
LD=LD=3.95mg
HD=Cont/n=7.9mg
HD=D+k.D=4.4mg
【0023】
図4及び図5は、それぞれ、使用カートリッジの数の関数としての差B及び調節投与量の平均の曲線を示している。
本発明は、患者の皮膚を通して薬剤を注入するための注入装置との関連で上述した。しかし、本発明は、他の薬剤投与装置、例えば、経口投与される適切な投与量の薬剤を患者に供給するための装置に適用することができることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンロッド(7)と該ピストンロッド(7)を駆動するための電気モータ(6)とを含む薬剤投与装置に挿入された薬剤容器(5)に収容された薬剤の量を判断する方法であって、
ピストンロッド(7)を既知の後退位置から薬剤容器(5)のピストン(11)と接触するように移動する段階と、
電気モータ(6)のアンペア数をモニタすることによって前記接触を検出する段階と、 前記ピストンロッド(7)によってその後退位置から前記ピストン(11)とのその接触まで網羅される距離、及び従って前記薬剤容器(5)における該ピストン(11)の位置を判断するために、前記電気モータ(6)の回転数を計数する段階と、
前記ピストン(11)の前記位置から前記薬剤容器(5)に収容された薬剤の量を判断する段階と、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−240159(P2011−240159A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170187(P2011−170187)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【分割の表示】特願2007−554671(P2007−554671)の分割
【原出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(504238862)アレス トレイディング ソシエテ アノニム (24)
【Fターム(参考)】